「勝者! 虎白高校!!」
「「ありがとうございましたー!!」」
審判の虎白の勝利宣言とともに虎白の選手は頭を下げた。
虎白は帝王高校の試合の後も辛苦しながらも順調にウィンターカップを勝ち進んでいたのだ。
しかし、そのチームのメンバーの中に山下の姿ない。
「なんとか勝てましたね、沢田監督」
「ええ……。相手も中々の手練だった。プロの選手になってもおかしくない選手もいたわね。特に頭をドリルにして突進してきた選手。志木君の回転技で軌道をずらして対応できたからよかったものの危なかったわ」
沢田は深いため息をつく。一歩間違えば負けていた試合だ。だが、虎白チームはなんとしても負けるわけにはいかなかった。選手たちもそれを分かっていたのだろう、いつも以上に必死にボールに食らいつきギリギリで勝利を収めた。
そう、虎白は負けるわけにはいかないのだ。
「私達は勝ち続けなければならない。命をかけて戦った山下君が戻ってくるまで……」
沢田は決意を新たにする。前回、命を賭けて屁をこき重傷を負った山下のために負けるわけにはいかない。彼が戻って全員で全国制覇するのだと。
そんな沢田の思いに呼応するように選手たちも同意した。
「そうですね……。次も絶対勝ちましょう!」
「山下が、繋いでくれた俺達の夢。無駄にはしない!」
☆
虎白チームは、次の試合に向けていつものように体育館で練習を行っていた。
「あれ、監督は?」
「今日は学校の会議あるから少し遅れるって言ってただろ。忘れたのか? でも、もうそろそろ来る頃だと思うけどな」
そんな時、体育館の扉が少し開いた。
「ほら、噂をすれば……」
体育館の扉がガラガラとゆっくり開かれた。誰もが沢田だと思い挨拶しようとしたのだが……。
「え?」
そこに立っていたのは沢田ではなく、見知らぬ女だった。
「あら、沢田出嘉子はいないの?」
女はすらりとした体型で、二十代くらいだろうか。目つきは悪くお世辞にも美人とは言えない顔をしていた。そんな女が沢田と口にしたので選手はおそるおそる尋ねる。
「監督に何か御用ですか? 監督は用事でここにはいませんが……」
「ふーん。せっかく来たのにいないのは残念だけど……まあいいわ。教え子を潰すのもまた一興かしら」
目つきの悪い女は、口を三日月型にし不気味な笑みをこぼしはじめたのだ。選手たちは、その様子に困惑する他ない。
「え?」
動揺する間もなく目つきの悪い女は、選手に向かって走り出す。
「あんたたちの屍に対面したときの沢田の顔が楽しみね!!」
「……早いっ!!」
選手は逃げる間もなく距離を詰められる。選手の間合いへと入った女は数十cmにも及ぶ長い爪を立て大きく振りかぶった。
「死ねっ!!」
ザクッ
爪が刺さる音が体育館に響く。しかし、そこに血は流れない。
「……は?」
その場の全員が唖然とした。
爪に刺さったのは目つきの悪い女と選手の間に突如として現れたバスケットボール。
そう。ある人物によってバスケットボールは飛され間一髪、女の攻撃を無効化したのだ。
その場の全員がボールが飛んできた軌道を辿り、ボールを放った人物に目を向けるとそこには。
「私の選手に一体、何をしているのかしら?」
腕組みをして目つきの悪い女を、さらに目つきを悪くして睨む沢田出嘉子の姿があった。
「……監督っ!!」
得体のしれない女によって張り詰めていたのか、選手たちはほっと胸を撫で下ろす。沢田の登場には、選手の誰もを安心させる強さがあった。
「墜ちたわね……運田粉憤実。その技は人に直接向けるものじゃなかったはずよ」
「沢田……出嘉子ォ……」
冷静な沢田とは対称的に、目つきの悪い運田と呼ばれた女は、野獣のような眼光で沢田を睨みつけていた。
「あら、一体いつからあなたは私を呼び捨てにできる立場だったのかしら。これでも私はあなたの先輩のはずよ?」
「……沢田ァァァ……出嘉子ォォォ……」
沢田の呼びかけに応える様子もなくひたすら睨みつける運田。
それを見た沢田は運田から守るようにして虎白の選手たちの前に立つ。
「あなた達、先に帰ってなさい。ここは私がなんとかするわ」
「監督、これは一体……どういうことですか……?」
「私の問題よ。あなた達は知らなくていい」
「あの目つきの悪い女は、プロバスケットボールプレイヤーの運田粉憤実ですよね? どうしてプロがあんな姿に?」
「…………いいから、早く逃げなさい」
「ボールに長い爪をぶっ刺して相手にとられないようにする技を使う超一流プレイヤー。通称『野獣の女』。バスケットボールに爪をいとも簡単に刺すような奴にたった一人で戦う気ですか?」
女の正体を知り不安げになる選手たちに沢田は振り返り微笑みかけた。
「大丈夫、問題ないわ。選手を守るのは監督の役目よ」
沢田は女を見据えて構えの姿勢をとった。
「それに、私の方が強い。実力も、実績も、人気も。そして、スタイルも、顔もね」
「沢田出嘉子ォォォオオオオオオオ!!!!」
運田は怒りに任せて走り出す。そして、長く伸ばされた爪を沢田めがけて何度も振り抜く。しかし、沢田も相手の動きを見切り華麗に避けていた。
「あんたさえ、……あんたさえいなければ!! ……あの人は……!! 許さないィィイ……許さないわわわわわァアアアアアアアア!!」
「…………」
選手たちは二人の激しい技の応酬の間に体育館から抜け出す。二人にどんな事情があるのかは分からないがその場にいてはいけないことだけは分かり、心配ながらも逃げるしかなかったのだ。
無事逃げだせた選手たちに安心する沢田。しかし、運田の攻撃は止まらない。運田は現役プロバスケットボールプレイヤーだ、全盛期の沢田ならともかく引退した今の沢田が太刀打ちできるかは怪しかった。選手たちを逃がすため、強がりを言ってみせた沢田だが余裕は全くないのだ。
「死ねぇ!! 何が『サウザンドスキルクイーン』よ!! 胸を揺らす必殺技を使えないお前なんか相手じゃないわ!!」
沢田は無数の必殺技を使いサウザンドスキルクイーンと呼ばれていたが、どの技も誰にも負けないというくらい究めていたわけではない。適材適所で必殺技を使い分けていた。そのため、一対一の相手の究極までに鍛えられた爪技に対抗するには究極まで鍛えられた技を使うしかない。
―――――しかし、今の沢田にはもうおっぱいを揺らすことはできなかった。
おっぱいの故障がなければ今も運田を圧倒できたかもしれない。
その代わり、故障したからこそ見えたものは多くあった。サウザンドスキルはその一つにすぎない。
「確かに私はもうおっぱいを揺らせないかもしれない。――でも」
当時は受け入れられなかった事実。だが、ただ揺らすだけがおっぱいなのか? 沢田がずっと思案していたことだ。沢田にはその疑問が、今形となりそうな予感がしていた。
運田は沢田から距離をとり、切った後の爪をどこからともなく取り出し投げつけた。
ただの爪なら、沢田に当たりただ地面に落ちるだけだが、これは野獣の爪だ。一度当たってしまえばそれはナイフのように鋭く、深々と刺さるだろう。
「死ね沢田ァ!!」
沢田は冷静に自分の両胸に手をかけた。
「私のおっぱいは―――」
そして、迫り来る爪を見据えて、
「固まる!!!!」
カキィン カキィン カキィン
金属音が辺りに響いた。
見れば沢田は驚異的なほどに固まった胸を手でコントロールしながら、粉憤実の爪による攻撃を撃ち落としていたのだった。