「おっぱいを……硬化させた!? いや、ありえない!!」
キィン キィン カキィーン
間隙なく、繰り出される運田の攻撃を沢田は鋼のごとく硬い胸を使い弾き続ける。
「そんな技、現役の時に使ってなかったはず……!!」
「今、思いついたのよ。あなたの攻撃はもう見切った、諦めなさい」
運田が劣勢になったことは、明白。そんなことは運田自身も分かっているだろう。しかし、運田は引き下がる様子は見られない。変わらず、ナイフのような爪を投げつづけている。
「クソッ! クソッ! ……あんたのせいで真奈さんは……!!」
呪いのように呟きながら猛攻する運田。何が彼女をそこまで動かしているのか沢田は理解していたようで、運田に言葉を放つ。
「あなたが何をどこまで知ってしまったのかは分からない。……でもね、あれは真奈さんが望んだことなの」
「真奈さんがあんなこと望んだはずない!! 死ねえ!!」
投げる爪が無くなってしまったのか、運田は自らの爪で沢田へと襲いかかる。
「無駄よ」
沢田は冷静に、大きく胸をはって運田の爪に当てるように体を動かす。
キンッ!!
「チィッ!!」
沢田の鋼のようなおっぱいに当たった爪は粉々に砕け、ボロボロになっていた。
だが、運田の野獣のような眼光は消えないまま沢田をまっすぐ見据えたままだ。
そんな、運田の様子も仕方のないことだとは理解しているようだが沢田は一つおかしい点があると思っていた。
「真奈さんのこと、誰に聞いたの? 関係者以外知られていないはずだけど」
「あんたには関係ない。でも、ここであんたを殺さなきゃ私の気がすまない」
「……仕方ないわね」
沢田は一つため息をつき、最終手段を取ることにした。運田は説得には応じない、しかしこのまま一方的に殺されるわけにもいかない。
正当防衛という理由を盾に、必殺技を使うことを決意した。だが、運田のように殺すつもりはなく、気絶程度に収めるつもりだ。
沢田は、近くにあったバスケットボールを掴み、構えをとった。彼女はおっぱいを硬化させたことで新たな着想を得て新必殺技を思いついたのだ。
「おっぱいイリュージョン!!」
バスケットボールを持ちながら運田へと特攻する。だが、それはただの突進ではない。
「なっ……!! バスケットボールが……3つ……!?」
沢田が持っていた一つのバスケットボールが3つへと増加していたのだ。戸惑ってしまった運田だがすぐにその正体に気づく。
「いや、……違う!! あれはバスケットボールに擬態したおっぱい……!!」
バスケットボール以上に硬化させることで相手を幻惑させる技だ。おっぱい本来の柔らかさを失ったことでどれが本物か惑わせることを可能にする。
そして、それを野獣の眼光ですぐに見抜いたのは、流石、現役プロバスケットボールプレイヤーというべきか。しかし、それでも気づくのが遅かった。
すでに、沢田の胸の一つからバスケットボールが運田の顔面へと解き放たれていたのだ。
――――今にも沢田の技が運田に炸裂しようとしていた、まさにその時だった。
ブブブブブブボボボーボボーボボボオオオオオオオオオブボオオオオオブブブブブブボボボーボボーボボボオオオオオオオオオブボオオオオオブブブブブブボボボーボボーボボボオオオオオオオオオブボオオオオオブブブブブブボボボーボボーボボボオオオオオオオオオブボオオオオオブブブブブブボボボーボボーボボボオオオオオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオブボオオオオオ
爆風が突然やってきたのだ。沢田と運田の横から吹かれたその風は運田に当たろうとしていたバスケットボールを強引に押しのけた。
「な、なんなのこれっ!?」
現状を把握するため沢田は爆風の元へ目を向けた。しかし、そこにはあってはならないはずのものがあった。
「……え? そんな……ありえ、ない……」
沢田の視線の先にはよく見慣れた、今までの試合で頼もしい活躍をしてきた尻があったのだ。
顔はこちらを向いておらず、土下座するようなポーズで尻だけが視界に捉えることができる。が、監督の沢田がその尻を見間違うはずはなかった。
「山下……君…………なの?」
有象無象の尻ではない、そこにあるのは山下の尻だ。
沢田には、何が何だかわかるはずもなかった。尻を故障したはずなのになぜ屁技を使っているのか、入院中のはずなのになぜここにいるのか。
疑問は次々に浮かんでくる。しかし、沢田の最も分からないのはなぜ運田粉憤実を助けたのかということだった。
「山下……君。なぜ――――」
「運田さん、勝手に行動しないでください。ボスに殺されますよ」
山下は、沢田をまるで存在しないかのように見向きもせず運田の元へ向かった。
「うるさい! ボスがチンタラしすぎてるのよ!! ボスのやり方じゃあ私は――――」
「はあ、もういいよ」
運田が抗議している中、素早く山下は運田の鼻元へと尻を近づけ、
ブブブッッ!
「うっ!!」
爆音とともに運田は床に倒れ伏してしまった。山下は運田の鼻へ直接屁をこいたのだ。沢田でも物理的に気絶させようとするしかなかったあの運田を、あろうことか山下は一瞬で無力化させてみせた。
――――それはまるで、荒れ狂う野獣を眠らせるための子守唄のように。
目の前の出来事が信じられない沢田はただ叫ぶしかなかった。
「どういうことなの!? 山下君!!」
そんな沢田へと返された言葉は無常なものだった。
「俺は虎白チームを抜けます」
その一言に沢田の脳は一時停止した。今まで血の滲むような練習をして、勝ち抜いてきた山下が、なぜ。
「どうして!? あんなに虎白のために努力して、リハビリだって頑張ってたじゃない!!」
「次に会う時は、敵同士です。……沢田出嘉子」
「待ちなさい!!」
山下を捕らえようと沢田は駆け出したが、それに反応し山下は尻を突き出した。
そして、山下の煙幕のようにしてふられた屁により、不意をつかれた沢田は思わず目を瞑ってしまった。沢田の動揺が生んでしまった、一瞬の隙。慌てて目を開けたときには、体育館には運田も山下の姿も残っていなかった。残っているのは沢田一人のみ。
「あ……ああ…………」
沢田はどうすることもできず膝から崩れ落ちた。
「やましたくううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
体育館で沢田はひたすら絶叫し続けたが、何も返ってくることはなかったのだった。