「オナラ・バーストストリーム!!」
そう叫びながら千豊真奈はコートを駆けた。彼女はコートの誰よりも速くドリブルし、何者も追いつかせることはなくあっという間にゴールへボールを放った。
――――オナラ・バーストストリーム。それは、屁を激しくこくことで自らのスピードを上げ、また後ろにいる選手へ向かい風の嵐として襲う必殺技。
自強化、遠距離攻撃と同時に行う屁技の最上級テクニックだ。
オナラを撒き散らしながら戦う彼女は、蝶のように高く跳び、チーターのように駆ける。私はその光景が新鮮に思えて、しばらく頭に焼きついて離れなかった。
「これが……、トッププロなのね!!」
あの日、観客席で見守っていた私は人生で初めてバスケを観て感動を覚えた。
私が部活でやっていたバスケとはレベルが違う。あんなのはお遊びだと思えるくらい別物だ。
プロが戦うバスケは全く別のスポーツにさえ見えた。
「すごい! バスケって……すごい!!」
バスケをやっていてこんな気持ちになったことはない。観るだけでこんなにも気分が高揚し胸が高鳴り続けている。
「私も、あの場所に立ちたい!」
そう思うのは必然。あの試合を見れば誰もが惹き付けられてしまう。現に、観客席のギャラリーは試合に魅入って声一つ出していない。そして、人を強烈に惹き付ける核となっているのは『千豊真奈』だ。
「あのオナラはただのオナラじゃない。言葉にし難いけど、それはきっと――――」
千豊真奈、あのオナラの臭い、爆発音を、私はこれから先決して忘れることはないだろう。
☆
「3番、沢田出嘉子!」
「え!? はっ、はい!!」
呼ばれた、私の名前が。ここはドラフト会場、名前を呼ばれたものがプロバスケットボールプレイヤーになれるのだ。
高校でなんとか全国大会で良い成績を納めた私は、念願のプロになることができたらしい。
「おめでとう! 出嘉子!」
「すごいじゃん! よかったね!」
高校のバスケのチームメイトが私に次々と賞賛の言葉を送ってくれた。思わず涙が溢れてしまい、声を震わせながらみんなに感謝した。
「あ、ありがと……みんな……!!」
やっと、やっとスタート地点に立てた。夢にまで見たあのプロの世界に入れたんだ!!
私が入るチームは、チームポリッツ。そして、なんと言ってもこのチームには……あの千豊真奈がいる。
私の、原点であり目標だ。
(まさか、その千豊真奈選手と同じチームに入れるなんて)
これから先の未来に、ワクワクを止めることができない。私は、千豊真奈選手のプレーを間近で見ることができるだけでなく、一緒にバスケをすることもできるのだ。
ドキドキしながら他のドラフトに呼ばれたメンバーとチームポリッツの席に向かうと、そこには現役メンバーが勢揃いしていた。
あのテレビに出た選手がズラリといるのだ。勿論、そこには千豊真奈選手も……。
「お、来たんやな。今年の新人。これから宜しゅうな?」
千豊真奈選手は関西弁でそう言って、私たち一人一人に握手をして回る。千豊選手はポリッツの代表者みたいなものでその場の指揮は彼女が取っていた。
そして、私の隣の新人プロに千豊選手が握手して、ついに私の番が回ってきた。千豊選手から差し出された手を両手で迎えると、
「あんた、沢田出嘉子やな?」
「え、は、はい!」
「……へえ、なるほどねえ。楽しみにしとるわ」
千豊選手は笑顔で目をギラリと光らせて私にそう言ったのだった。