私がチームポリッツに加入して一ヶ月。私は一日中練習に明け暮れ、次の試合に向けて研鑽を積んでいた。しかし、私はチームのみんなにどこかついていけていない。それどころか、足を引っ張っている自覚すらある。せっかく期待されて、チームに選抜されたというのに……。
他の皆は流石プロになることだけはあって、各々自分だけの武器を持っていた。
それに比べて私は…………、身体能力は多少高かったかもしれないが、何か秀でたものがあったわけでない。真奈さんのように屁をこけるわけでも、空を飛べるわけでもない。
「……はあ」
「出嘉子、どないしたんや? なんや最近思い詰めとるみたいな顔しとるけど……」
自信を失くしかけ落ち込んでいた私に声をかけてきてくれたのは、千豊真奈さんだった。彼女はバスケが強いだけでなく、性格も明るく、優しい。そんな真奈さんと打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
そして、今も私の様子を気にかけてくれている。
思わず私は、目に涙を貯めてしまう。彼女になら、弱音を吐いてもいいかもしれない。
「ま、真奈さん……。実は――――」
私は、心の内を打ち明けた。私はチームに貢献できていないのではないだろうか。他の皆が活躍するこのチームに私は必要なのだろうか。どうして私をチームポリッツは選んだのだろうか。
そんな私の弱音を真奈さんはうんうんと頷いて親身になって聞いてくれる。
真奈さんの優しさに甘えてしまって、ついつい深くまで相談してしまった。
「出嘉子は、自分の可能性について考えたことあらへん?」
私の愚痴が一段落したところで真奈さんが、私に尋ねる。
「私の可能性……ですか?」
「そ。潜在能力っていうんかな? 自分の持つ力の上限みたいなもんや」
「いえ、そんなの考えたことも……」
「出嘉子がこのチームに選ばれたのはちゃんと理由はあるんやで?」
「私が……選ばれた理由……?」
プロのレベルの高さにもついていけない私が、選ばれた理由……。分からない、分かっていたらこんなにも悩んだりはしない。
私に、一体何の価値があるんだろう?
「出嘉子は、スピードもパワーも申し分ないしフィジカルもしっかりしとるよ。何でも器用にこなすし万能型っちゅうんかな」
「でも、そんなの他の子も私と同程度にはこなしてます。それに加えて、みんな各々武器を持ってる。私なんて、ボールも取られやすいし……」
「なるほどな……。確かに出嘉子には弱点があるからそこを突かれて自信を失くしやすいってこともあるんかもしれへん」
「え!? 私に……弱点が!?」
真奈さんが聞き捨てならないことを私に言った。私の弱点……、今までやってきて気づかなかったなんて。
「試しに今から1on1、やってみよか」
真奈さんはそう言って、ボールを私に投げてきた。
「……分かりました。お願いします!」
真奈さんが構えたのを見て、私はドリブルを開始する。真奈さんが屁技を、使ってこなければそう差は生まれないはずだ。
私は、勢いにのってゴールへ駆けだした。が、そのまま真奈さんを無視して突っ切れるわけもなく、行く手を阻まれる。
冷静にドリブルしながら、私の目の前に張り付いている真奈さんを振り切るため素早く右へ踏み込み……。
が、そんな私の次の動きを読んでいたのか真奈さんは平然と私からボールを奪った。
「な!? も、もう一回お願いします!!」
私はもう一度、もう一度と真奈さんへ挑むが
、何度やっても真奈さんにボールを取られてしまった。
直感ではない、真奈さんは完全に私の動きを把握していたのだ。
「どう……して……?」
信じられない。同じプロなのにこうも差があるなんて。それとも私が、弱すぎたのだろうか?
そして、真奈さんは落ち込む私にこう言った。
「おっぱいや」
「?」
私は、真奈さんの突然の発言に頭に?マークを浮かべ首を傾げた。何の脈絡もなく、言われた言葉に理解ができない。
押し黙る私に真奈さんは、ボールをパスしてきて、
「ボールを持って、右に踏み込んでみ?」
「は、はあ」
私は真奈さんに言われた通りに、ダンッと右へ踏み込む。
「分からへん?」
「え?」
「出嘉子が踏み込もうとしたときの、出嘉子のおっぱい……」
「…………あっ!!」
私は何かに気づきかけ、もう一度右へ踏み込んだ。
私が、右へ踏み込もうとするその時。私のおっぱいは――――
「右上に、突っ張ってる!?」
「そ。んで左に踏み込む時はその逆に突っ張ってるっちゅうわけ」
「そんな……。一体どうして……」
そんなの私の次の動きはバレバレだ。弱点どころか、欠点とも言えるだろう。
「私たちは人間である以上、癖っちゅうもんはどうしても出てくるんや。視線であったり、手の動き、足の動き。出嘉子の場合はそれがおっぱいやった」
「でも、そんなの無意識なのに……。一体私はどうしたら!!」
「それは自分で考えることや。ウチからできるアドバイスはこれくらい。まあ強いていうならおっぱいを自由自在にコントロールすることやないかな」
真奈さんはそう言って私の元から立ち去っていった。
スポーツ選手なら誰しも、自分に不利になる癖があるのなら全力で矯正しにかかるだろう。
(でも、おっぱいなんて……)
おっぱいは手や足のように自分の意志で動かせるものじゃない。ただ自分の意志と無関係に動いてしまうのだ、おっぱいにはもう一つの意志があると言えるだろう。
それはこの世の道理であり常識。
私は自分のおっぱいを呪った。私の意志に反するような、私のバスケに対する気持ちを冒涜するかのようなこのおっぱいを。
でも、もしも。もしも、おっぱいを自由自在に操れるとしたら―――――。
「やるしか、ないわね」
私は、一人残された体育館で固い決意を結んだのだった。