私がチームポリッツに加入して一年。チームポリッツは徐々に力をつけていき、今リーグでは順調な勝ち上がりを見せていた。
そして、今大事な一戦の最中だ。これに勝てば優勝がぐっと近づく。
「出嘉子ー! お願い!!」
「はい!!」
私はチームポリッツの仲間からパスをもらい、コートを駆け出す。
点数は拮抗していて、今は第四クウォーターの終わりかけだった。
(ここで私が決めれば……!!)
ゴール前までくるが、相手もプロ選手。ボールを持つ私は一気に囲まれていた。
「くっ……!」
私は、おっぱいでボールをドリブルしつつ、相手を寄せ付けないよう両手でガードする。
しかし、このままではシュートができない。流石にこのままおっぱいでゴールまでシュートできる自信は私にはなかった。
このままボールごと胸を上へと突き出しても、周りの相手選手に取られてしまうだろう。
私の胸の位置は相手選手の手の位置より低く不利なためだ。
せいぜい、私にできることなんて正確な角度で地面へとボールを突き、跳ね返る位置を予想できることくらいだが……。
(跳ね返る位置を予想する……?)
その時、私の脳裏に閃光がかけ巡った。勝負の一瞬で思いついたこの場を打開する技。
(試したことはないけど……、これに賭けるしかない!)
私は、相手選手のいない地面へとドリブルしていたボールを思いっきり胸で叩きつけた。
「出嘉子……? 一体何を……」
「パスミス!?」
私の行動の意味を理解できていないのか、仲間たちは困惑した声を上げている。が、敵の一人が私の狙いにいち早く気づいた。
「違うわ……! おっぱいで叩きつけたボールが上昇してッ……!?」
そう、私の狙いはパスではなくシュートだ。ボールは、力強くバウンドし空中へと上昇を始める。
そして上昇する先にあるのは、ゴール!!
「行っけええ!!!」
ボールはゴールへと吸い込まれるように浮上する。
しかし、ゴールの手前でボールは減速し始めていた。
それを見て仲間たちは、
「駄目だわ、バウンドしたボールじゃゴール高さまでは届かない!!」
が、それは私も百も承知の事だ。これはバトンだ、私からあの人への――――
「真奈さん!!」
私は、その名前を力一杯呼ぶ。私の後方にいた真奈さんは私の行動に呆然としていたのか、私の声に反応しハッとした様子で、
「っ!! そういうことかいな!!」
すかさずパっと尻をボールの方向へ向けた。真奈さんの位置からボールまでは距離があるけど、真奈さんなら……!!
「屁弾!!」
ブゥゥン!
真奈さんの尻から屁が勢いよく射出される。その屁は鋭く素早い。本物の銃弾と錯覚させるようなそれは、正確にボールへと着弾し――――。
ガコン。
一同が、固唾を呑んでボールの行方を見守る中、ボールは強引にゴールへ押し込まれたのだった。
「入ったっ!?」
ピーーーーーッ!!!!!
それと同時に試合終了の笛が体育館に響き渡る。
この瞬間、チームポリッツの勝ちが決定した。
「すごいわ、出嘉子!」
「あんな強引に胸を使ってシュートするなんて、やるじゃない!」
「真奈さんと出嘉子がいれば、このリーグきっと優勝できるわ!!」
仲間たちは私を取り囲み、賞賛の言葉を送った。相手はトップ争いをしていたチームの一つ、この勝利は私達にとっては大きいものだ。
「やりましたね! 真奈さん!!」
そんな中、私は真奈さんの元へ駆け寄り、喜びを分かち合おうとした。最後のシュートは真奈さん無しでは成立しなかったものだ。
しかし、話しかけた真奈さんは神妙な表情をしていた。
私の声が届いていないのだろうか……?
「真奈さん……?」
「……………」
私がもう一度呼びかけると、ハッとした顔でこちらを向き直った。
「……すごい活躍やったで、出嘉子。えらい強なったやん」
「は、はい! ありがとうございます……」
(一体どうしたんだろう? 真奈さんの様子……)
真奈さんの口調はいつも通り明るいものだったが、無理して笑っているような……。
せっかく勝てたんだ、嬉しくないはずはないだろうし、気のせいだろうか。もしかすると、屁技の弊害である便意を我慢しているだけの可能性もある。
なので私は、努めて明るい調子で真奈さんに励ましをすることにした。
「次のチーム"デスボイス"に勝てば、今リーグ優勝です! 頑張りましょうね、真奈さん!」
「……せやな」
この時の私は、真奈さんの様子について深く考えていなかった。
☆
次のリーグ最終戦、チーム"デスボイス"との対戦に向け、私達は練習に励んでいた。
デスボイスとポリッツは今リーグでは負けなしで、次の試合で勝ったチームが優勝する、というチームの命運が掛かった試合なのだ。
ポリッツは今まで真奈さんの活躍もあり、リーグ第三位までは経験したことがあるが優勝はしたことはなかった。
そのため誰もが負けられない、と俄然をやる気を出していたのだが……。
「真奈さん! パス!」
「……え?」
パス練習の中、私は真奈さんにパスを出したが、真奈さんはどこかうわの空でボールをキャッチし損ねてしまう。
このミスが一度くらいならば、誰も気にはしない。
しかし、真奈さんはここ最近の練習でのミスが多い。どこか様子がおかしいのだ、何かに悩んでいるような素振りも見せている。
私やチームの仲間も真奈さんの調子の悪さには気付いていて声をかけているのだが、『ウチなら大丈夫やで』と、かわされるだけだった。
「真奈さん、まだ調子悪いんじゃないですか? 無理してるなら休んだ方がいいですよ」
「ごめんごめん。ちょっとボーッとしてただけや」
「…………」
そう言って何でもなかったかのように真奈さんはパス練習を再開させた。
なんとかパス練習を終え、次は試合形式の練習だ。5on5で、私と真奈さんは同じチーム。いつものように、私は真奈さんへとボールを投げる。
「真奈さん! 一屁、お願いします!」
「おう、了解や!」
そして、真奈さんは出されたボールへと尻を突き出し、ボールに尻を直接当てた。
今にも屁が出されだろうと皆が思っていたが――――。
スゥー……
辺りに響いたのは、爆発音ではなく小さいすかしたような音。
真奈さんは思い通りにいかなかったのか短く「あっ」と声を出す。
すかした屁は炸裂することなく、ボールは真奈さんの尻からぼとりと地面へと転がり落ちる。
練習していた私達はそんな真奈さんに思わず言葉を失い、体育館は静寂に包まれた。
(真奈さんが、こんなに自信のないオナラを出すなんて……)
最近、真奈さんはいくら調子が悪くても屁技だけは完璧に使っていたため、この有様には他のみんなも困惑するしかなかった。
いつもの活力ある屁は、どこへ行ってしまったのだろうか。
チームの気まずい雰囲気を察してか、真奈さんは、
「ごめんな、みんな。やっぱ今日はちょっと休ませてもらうわ」
と言って、コートから去っていく。
私にはどうすることもできず、体育館を後にする寂しそうな真奈さんの背中をただ見つめていた。
その後の練習は、真奈さんの後ろ姿が頭から離れず全く集中できず終わってしまった。
「ちょっと、沢田出嘉子先輩!」
「運田?」
練習後、同じチームの後輩から呼び止められた。
この子は運田粉憤実。去年ポリッツに加入した恐ろしく鋭い爪をボールへと突き刺して戦う、有望な若手選手だ。その攻撃的な戦闘スタイルから、メディアからは"野獣の女"と呼ばれている。
「真奈さんは、一体どうしちゃったんですか!?」
運田は私にものすごい剣幕で迫る。この子は、真奈さんに強く憧れ、執着していた。
あんな真奈さんを見ていられないのはわかるが、私だって同じだしどうにかしてあげたい。
……でも。
「……分からない。分からないのよ。私にも真奈さんに何が起きているのか。聞いても教えてくれないし」
「仲のいい沢田先輩にもそんな様子だなんて……。ああ、真奈さん……」
運田はブツブツと何か唱えながら、どこか離れていった。
だが、このままではよくない。
真奈さんは私が一人で悩んでいる時、優しく声をかけて手を差し伸べてくれた。
真奈さんがいたから、私の胸も洗練された技を使え強くなることができた。
だからこそ、今度は私が真奈さんを助けたい。
考えに考えた末に、私は真奈さんの事を相談するためとある人物に電話をかけることにした。