「もうすぐ試合開始の時刻ね……」
私は体育館に掛けられている時計の針を見て呟く。試合開始時刻は10時であるのだが、今はもう9時50分。あと10分で試合が始まってしまう。
「真奈さん……」
真奈さんは、まだ試合会場に来ていない。
その場のチームのメンバーも沈んだ顔をしている。
そんな中、ついに審判の掛け声が体育館に響き渡った。
「試合時刻となりました。チームポリッツとチームデスボイスの両者はコートに整列してください」
審判の冷酷な宣言に私は息を呑み、チームの皆も絶望の表情を浮かべていた。
この雰囲気をまずいと感じ、私は元気な声を作り発破をかける。
「みんな! まだ真奈さんが来ないと決まったわけじゃない! それに真奈さんなしでも私たちはきっとやれるわ!」
その言葉に影響を受けたのか、自分達自身を励ますようにメンバーもお互いの顔を見合わせ頷きあった。
「うん、そうね。私たちだって練習してきたもの」
「そうよ、それに真奈さんだってすぐ来てくれる気がするわ」
チームの状態は良いとは言えないが、私たちは今までの自分たちと真奈さんを信じることで持ち直したのだ。
そして、ポリッツとデスボイスはコートへと入り、ついに試合開始の笛が鳴る。
ピィーー
しかし、チームデスボイスはその笛の音が鳴ると同時に異質な発狂を始めた――――――。
「「「「「「「「アィイイイイイイイイアアアアアアアアィイイイイイイィイイイイイアィイイイイイイイイアアアアアアアアィイイイイイイィイイイイイイアィイイイイイイイイアアアアアアアアィイイイイイイィイイイイイイ」」」」」」」
開始と同時に、超音波のような声が体育館に響き渡り、会場の窓ガラスが一斉にパリンっと割れだした。
そのチームデスボイスのデスボイスに私たちは思わず耳を塞ぐ。
「何この音!?」
「これがデスボイスの必殺技よ! 練習でも言ったでしょう!?」
口から極端に高音の声を出すことで相手の行動を鈍らせる、チームデスボイスの必殺技だ。
この必殺技の厄介なところはチームデスボイス全員が同じ技を使うという点である。
一人ならまだしも、全員となるとコート全範囲が攻撃範囲に等しいのだ。
「「「「「ウィイイイイウィイイイイイイイイイイイイイイイイイウイイウィウィイイイイウィイイイイイイイイイイイイイイイイウィイイイイウィイイイイイイイイイイイイイイイイイウウィイイイイウィイイイイイイイイイイイイイイイイイウイイウィイイイウィイイウイイウィイ!!!!!!」」」」
デスボイスは止まらない。不気味な声を出しながらコートをかけめぐる彼女たちは、最早人間ではなく、闇夜を飛び回るコウモリだった。
「くっ! 話には聞いていたけれど、これじゃあ満足に体を動かせないわ!」
私たちは対策として、あらかじめ耳栓を装着していたのだが全く機能しなかった。まるで全身を揺さぶるような超音波は平衡感覚を失わせ、まっすぐ歩くこともできなくなっていた。
その間にデスボイスはパスをつなぎ、あっという間にゴールへとシュートを決めてしまった。
「真奈さんがいないんじゃやっぱり勝てない……」
「私たちだけじゃ力不足なのよ……」
その圧倒的な力に再びチームメンバーの顔は暗くなってしまう。
(こんな時、真奈さんなら!)
「真奈さんはきっと来てくれるわ! それまで耐えるの!! デスボイスだってずっとあんな声を出せ続けるわけじゃないわ! 持久戦に持ち込むの!」
私は精一杯の声でチームを励ました。
しかし、状況が悪いことは明白。たとえ、持久戦に持ち込んだとしても点差は開き続けるだろう。
(一体……どうしたら!!)
「キェエエエエエエエエエイイイイイイキイイィエエエエエエエエエエエイキェエエエエエエエエエイイイイイイキイイィエエエエエエエエエエイイイイ」
デスボイスの超音波が響き渡る中、体育館の扉が開かれた。
そして、そこには一つの影が見えた。
その姿は――――――
「「「「真奈さん!!!!」」」」
チームポリッツのユニフォームに見を包んだ真奈さんの姿があった。私たちはタイムアウトをとり一斉に真奈さんへと駆け寄る。
「遅いですよ真奈さん! 私たちずっと待ってたんですから!」
「ここから挽回しましょう!!」
「………………………」
が、真奈さんは虚ろな目をしていてチームの皆には返答せず真っ直ぐコートへと歩き出す。
「あの……真奈さん?」
真奈さんは私を無視してトボトボ歩き続ける。
(いつもと様子が違う……?)
チームの皆は真奈さんが来たことに喜びすぎて真奈さんの様子は気にしていなかった。
「チームポリッツ、選手交代! 運田アウト、千豊イン!!」
スタメンの運田が外れ、勿論真奈さんが試合に登場した。
そして、試合開始の笛が鳴り、デスボイスも発狂を始めたその時だった――――――
「「「「アィイイイイイイイイイイイイ―――――
バッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルロロロロロロロロロバビブゥッボボボーバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルロロロロロロロロロバビッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルロロロロロロロロロバビブバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボーッバッボォオオオオオオオオオオバベエボボボボオオオオオオオオオボベエボバビブゥッボボボ
体育館に凄まじい嵐が吹き荒れた。千豊真奈を起点に起こされた竜巻によって、会場は阿鼻叫喚となる。
「キャアアアアアアア!!!」
「逃げろオオオオオ!!!!!」
奇声を上げコートを走っていたデスボイスは真奈さんから射出される屁に体を吹っ飛ばされ体育館の壁に叩きつけられた。デスボイスだけではない、ポリッツもあまりの屁の勢いに吹っ飛ばされ全員真奈さんの屁の風圧に壁へと圧迫され続けている。
「くっ!」
私はなんとか、自分のおっぱいを吸盤代わりにして吹き飛ばされないよう地面にへばりつき耐える。
(何よこれ……!! 一体何が起こってるの!?)
吹き荒れる風に目を開け続けることもままらない中、必死に真奈さんがいるであろう場所へと私は叫ぶ。
「やめて真奈さん! これじゃあみんな死んじゃうわ!!」
しかし、精一杯叫んでも屁は止まない。それどころか、威力が上がってきているとすら感じる。
……いくらなんでもこれはおかしい。確かに真奈さんの屁は強力だが、こんな災害級の屁をこけるなんて聞いたことがない。
それに、これだけの屁量を放出して平気なの?
疑問はつきないが、私には今この暴風を耐えるのに必死でそれ以上考える余裕はなかった。
(くぅっ!! このままじゃ……、私のおっぱいが保たない……!!)
私は、なんとかおっぱいを床にへばりつかせて飛ばされないようにしていたがそれももう限界に近かった。
私の右乳は床から離れてしまい、最早左乳だけで自分の体を支えている状態だ。
「もうっ……ダメっ……」
が、今にも左乳が離れるかといったタイミングで屁は止んだ。
「え?」
半分宙に浮いていた私の体は地面へと落下する。
その偶然のタイミングによって私は窮地を脱したのだ。しかし、喜びも束の間、上体を起こし体育館を見回した私は言葉を失った。
「そんなっ……! ひどい…………」
体育館はあまりにひどい惨状となっていた。デスボイスとポリッツのメンバーは壁に叩きつられたためか壁際で血を流し横たわっており、試合を見学に来ていた客もほとんどが血を流し意識を失っているようだ。
この体育館で無事なのは私一人だけだった。