虎白高校バスケットボール部   作:shgk

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15.動き出したおっぱいと悪意

 

「私はきっと、二人を救ってみせる」

 

 私の決意は固まった。そして、そんな私についてきてくれる頼もしい仲間も集まっている。

 今ならどんな敵にも負ける気がしない。

 虎白の選手たちは、私へと微笑みかけ頷いていて今まさにここにいる全員の意思が一つになったのを実感する。

 

 ――――そんな時だった。

 

ブボボボボッ――ブボボボボッ――ブボボボボッ

 

 突然、体育館に鳴り響いた場違いな音。

 

「オナラの音……?」

「誰だよこんな時に……」

 

 私達の決意に水を刺すかのような音に、虎白の選手達も少し苛立ってしまったようだ。

 なので私はすっと手を挙げ、正直に名乗りを上げた。

 

「ごめんなさい。私よ。私のスマホの着信音だわ」

 

 私はスマホの画面に目を向け、写された名前に眉を顰める。

 

「…………万田?」

 

 万田は私がチームポリッツに所属していたときの同期だ。彼女は今でもポリッツに所属し女子バスケの最前線に立っている。

 

 数年来、お互い連絡も取っていなかったのにどうしていきなり……。

 悪い予感を感じつつも私はスマホの着信をとった。

 

「私、沢田出嘉子だけど。突然、電話してくるなんて何かあったのかしら?」

 

 私は耳にスマホを当てながら冷静に尋ねる。

すると、受話器越しの声は切羽詰まった様子で、

 

『大変なの!! 病院から真奈さんが消えたらしいのよ!!!!』

 

 その言葉に私の目はひんむかれる。言っている意味が分からず聞き返してしまう。

 

「ッ!! なんですって!?」

「警察にも連絡して探してもらってるんだけどなにも手がかりがないみたいで…………」

 

 真奈さんが消えた……!?

 

 私の頭は混乱し、真っ白で言葉を失ってしまった。

 

「あと、ついでに運田もポリッツのしばらく練習に来てなくて連絡もつかなくなったの!! もしかしたら、何か関係があるのかも――。出嘉子なら何か心当たりがあるんじゃないかって思って連絡したけど……その様子じゃ何も知らないみたいね。また、進展があったら連絡するわ」

「え、ええ……」

 

 プツッ

 

 通話を切った私は、全身の力が抜けスマホを床に落としてしまった。

 

「監督……。一体何があったんですか?」

 

 私の動揺ぶりに何かを感じ取った虎白の選手たちが心配げに私に問いかけてきた。

 私は小さく口を開け、簡潔に答える。

 

「真奈さんが……病院から消えたそうよ。植物状態だったはずで……誰かに連れ去られたんだわ」

 

「ッ!! 監督! どうするんですか!?」

 

 選手たちも、驚いたようでざわつき始めた。

 

(こんな時こそ私が、冷静にならなきゃ)

 

 自分にそう言い聞かせ、頭を回転させる。真奈さんが消えたことは十中八九、野獣の運田、屁こきの山下君が絡んでいるだろう。

 ならば、私達に今できることは――――。

 

「とにかく、今からポリッツの練習場に行って話を聞きましょう。運田のことも気になるし、何かわかるかもしれない」

「わ、わかりました」

 

 選手たちは私の言葉に頷いた。

 

 しかし、そんな時、選手の一人が出し抜けな声を発した。

 

「あ、あれ? 川口は? さっきまでいたはずなのに」

 

 そう言われてハッとする。虎白の選手の一人、川口ドリオがいなくなっていた。ついさっきまで、そこで一緒にいたはずの生徒だ。

 

「トイレかしら? とりあえず川口君には、私達は今からポリッツに向かうと連絡を入れておくわ」

 

 

 どうにも胸騒ぎがする。私の固まってしまったおっぱいでさえも動き出してしまうような不安が心を支配していた。だが、今の私は祈ることしかできない。

 

 

(どうか無事でいて……! 真奈さん!!)

 

 

 

 

 

 川口ドリオは、沢田や他の虎白が話し込んでいる間に誰にもバレないようこっそりと体育館を抜け出していた。

 

「こんな危ない事件に首突っ込もうとするなんてバカかよ! やってられるか!!」

 

 川口は、なんとなく虎白のバスケ部に入部したただの一般人だ。バスケを始めた理由もただ女にモテそうだったから、という不純なものだった。

 そのため、途中から他のオナラで暴風を起こす山下や、回転して空を飛ぶ志木など他の部員についていく力もやる気も持ち合わせていなかった。

 

 彼にとっては、山下が虎白を裏切ろうが、千豊真奈が病院から連れ去られようがどうでもいいことだったのだ。

 

「こんな部活、辞めてやるよ」

 

 先程はプロバスケプレイヤー運田に殺されかけた。これ以上ここにいれば自分の身が危ない、今すぐに辞めなければならないと、本能がそう言っていたのだ。

 川口は退部を決めて、学校の職員室へと向かう。途中で退部届に記入した後、ついに職員室の扉までたどり着き、ガラガラと開けた。

 

「すいませーん、月谷先生いますか?」

 

 川口ドリオの目当てはバスケ部の顧問、月谷だ。

 

 退部届を手に持ち、職員室を見渡す。しかし、職員室は誰もいなかった。

 ただ、一刻も早くバスケ部を辞めたい川口はまた折り返して来ようとは思えず、月谷の机へと向かう。

 そして、一番窓際にあった月谷の机の上にポンっと退部届を置いた。

 そのまま踵を返そうとした川口だったが、ふと月谷について疑問が浮かぶ。

 

(月谷のやつ、練習にも試合にもほとんど顔を出してないけど、いっつも何やってんだろ。沢田監督の高校時代の名監督って聞いてたのに)

 

 川口は、視線を月谷の机の引き出しへと向ける。職員室をぐるりと見渡すが人は誰もいない。今の川口を突き動かすのはただの興味本位だ。

 

 

 川口はすっと引き出しへと手を伸ばす、鍵はかけ忘れたのかかかっていないようだ。

 

 導かれるように中を開けるとそこには――――。

 

「……これは、ノートか?」

 

 引き出しに入っていたのは、一つのノートだ。なんの気なしにペラっとページを捲る。

 

 しかし、そこに載っていたものは川口の思いもよらないものだった。

 

「ッ!! な、なんだよこれッ!?」

 

 まず川口の目に入ってきたのは、一枚の写真だ。

 

「沢田監督と、千豊真奈……か?」

 

 写真に写っていたのは沢田出嘉子と千豊真奈の二人。正確には、沢田が自分のおっぱいを千豊の尻に押し付けていた。沢田は号泣しながらおっぱいに手を当てていて、千豊は放心しているような様子だ。沢田のおっぱいは振動していたのかブレて写っている。

 

「ま、まさかこれ、沢田監督が千豊真奈の尻を殺した瞬間の写真かッ……!?」

 

 しかし、どうしてこんな写真が月谷の机の引き出しから出てきたのか。

 この試合のことを知っているのは極一部だと沢田は話していた。まして、この試合の目撃者は誰もいなかったと沢田は話していたはず。

 

 にも関わらずここにはバッチリと尻殺しの場面が写されている。

 

 息を呑み、川口は次のページを捲る――――。

 

 

 

 

 

 

 

「おや、川口君じゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 後ろからかかった声にビクリと肩を震わす。咄嗟に川口はさっとノートを閉じ、引き出しに戻した。

 幸か不幸か、月谷の机は職員室の扉からかなり遠くの場所にありその引き出しは今の月谷の位置からは死角の部分。バレていない……はずだと言い聞かせる。

 

「どうしたんだい? 珍しいじゃないか、君がここに来るなんて」

 

 一歩一歩、月谷が近づいてくる。心臓の鼓動は早くなり冷汗で背中にシャツがべっとりと張り付いていた。

 

「い、いえ! ちょっと相談があって来たんですけど、用事を思い出したのでやっぱりまた改めて伺います」

「ああ、そうかい。……その手に持っているのは退部届かな?」

 

 月谷の視線は川口の手元の退部届だ。

 

「は、はい……。でもまだ自分でも考えなおしてみますので……」

「うん、それがいいだろう。バスケはチーム戦だからね。退部は君だけの問題じゃあない、しっかり自分で考えた方がいいだろう」

 

 なんとか、話をそらすことができたようでひとまずホッとする。最早、川口にとって退部などどうでもよくなっていて、この場からすぐに逃げることだけで頭の中がいっぱいだった。

 

 

「では、僕はこれで帰ります。すいません、突然……」

「いや、いいんだよ。――それより、何かあったのかい?」

 

 ふいに、抽象的に投げかけられた言葉にゾッとする。しかし、平静を装い、なんでもないように返す。

 

「い、いえ、何もないです」

「あはは、なんだか様子がおかしかったように見えたからね。それじゃ、また明日ね」

「は、はい。では」

 

 そう言って、月谷は自分の席についた。なんとか場を収められたようで、胸を撫で下ろす。そして、職員室から逃げるように跡にした。

 

(まさか、あの月谷が全ての元凶だったとはな……)

 

 川口にとっては思わぬ事を知ってしまったが、ひとまずは逃げ切れた。

 あとは、どうするかが問題だ。警察に突き出すか、それとも何も知らないふりで押し通すか。

 

 そんなことを考えながら、廊下を歩いていた。

 

 

――――突然、後ろから肩を叩かれた。廊下を進んでいても人は誰も歩いておらず、音もない。この広い廊下に存在するのは、川口ただ一人のはずだった。

 

 肩に置かれた手を見つめる。それはひどくしゃがれた老いた手。川口は、その手の主を見るため振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――見たね?

 

 

 

 

 

 

 

 そこにあったのは月谷の真っ黒な瞳だった。

 

 

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