第二クウォーター
清宝 21-15 虎白
山下を筆頭に清宝の動きになんとかついていく虎白だったが、点差を縮めるのに今一歩足りない。沢田はその様子を見て、作戦を変える必要があると考えた。
「タイムアウトー!!」
審判の大きな声によって試合は中断され、選手はベンチにいる監督のもとへ集まった。
「はあはあ、あいつらいくらなんでも速すぎるだろ……」
「うん、あんな走り方があるなんてね。僕も真似したら速く走れるかな?」
虎白の選手が漏らした一言に沢田は鋭く言い放った。
「止めておきなさい。あんな走り方、パスも取りにくいし、バスケでするようなもんじゃないわよ」
沢田はそれに続けて、
「みんな、聞いて。このまま山下君を主軸においてゲームを進めるのはよくない」
「どうしてですか!」
「このペースで屁をこき続ければ最後まで保たないわ」
「くっ……」
沢田の指摘は、山下に痛い程突き刺さった。山下はまだ第二クウォーターにも関わらずハイペースで屁をこき続けている。山下自身も、第四クウォーターまで続かないことは薄々気づいていた。
「監督、じゃあどうするんですか? あの素早さに付いていけないんじゃどうしようもないですよ」
それに対し沢田はふふっと得意げに笑った。
「試してみたい作戦があるの、聞いてくれる?」
沢田はチームに作戦内容を詳しく説明し、細かい動きまで選手に指示を出した。沢田の作戦に選手はピンときていない様が見受けられたが、他に策もないので呑み込むしかない。
「よく分かりませんけど、それをすれば相手の動きを封じれるんですね?」
「確実とは言い切れないけど……。でも、やってみる価値はあると思うわ」
ピピーッ
審判の笛がコートに響く。試合再開の合図だ。開始早々、清宝の選手がNAR○TO走りでドリブルしコートを駆け抜けていった。そんな時、ボールを持った清宝の選手の後ろから声が届く。
「俺にパスしろ!……だってばよ!」
「分かったってばよ!」
その声に呼応して、清宝の選手は後ろにパスを出したのだが……。そこにいたのは虎白の選手であった。
「おい! 敵にパスしてどうするんだってばよ!」
「間違えたってばよ……」
虎白にボールが渡り、一気に攻め上がっていく。沢田は思った通りというようにニヤリと笑った。
「やはり! とある忍者になりきることで素早い走りができる。それは脅威だけど……、忠実に再現することを意識するあまり、敵味方の区別がついていない!」
清宝は、パスを出すにもシュートするにも必ず仲間内で声を掛け合っていた。沢田は初め、味方の士気を上げるためのものと考えていたが、不審に思ったことがあった。それは、全員が単調すぎる動きだったことだ。沢田にはただボールを追っているだけ、投げられたフリスビーを追う犬のようにしか見えなかったのだ。そうして、もしかして走ることに意識がいきすぎているのでは?……という考えに行きついた。
「くそっ!! 俺達の口調を真似するって反則だってばよ!」
相手のペースを乱すことで、虎白は徐々に清宝との差を縮めていった。
清宝 34-32 虎白
「こうなったら必殺技だってばよ! 行くってばよ皆!!!」
選手の一人の掛け声によって5人が一箇所に集まった。
「影分身の術!!」
清宝の選手は横一列に並び、同じポーズをとった。そして、その列のまま突進していく。
「そんなの横にパスすればいいだけ……って速い!!」
「宗田君!」
今ボールを持っているのは宗田飛郎。虎白高校の1年生で背番号10番だ。宗田に向かい清宝の人間ウェーブが襲いかかった。
が、急に清宝の走りが止まる。清宝だけではなく、虎白チームも驚きで動くことができなかった。
「10番が二人いる!?」
清宝の前にいる宗田が二人になっていたのだ。全く同じ容姿、同じユニフォーム。双子ではない、宗田そのものが二人いた。
「どうしてただの人間が影分身の術を使えるんだってばよ!?」
「どうした、清宝。これが本物の影分身だぜ?」
ベンチの永田も驚き、沢田に説明を求めた。
「宗田が二人!? 一体どういうことです!?」
「あれが宗田君の新しい必殺技。清宝の必殺技にインスパイアされて完成させたみたいね」
「清宝はただ選手が5人並んで走ってるだけですよ!? でも、宗田のあれはどう見ても二人います!」
沢田は焦る永田に、ある質問をした。
「宗田君の反復横飛びの結果知ってる?」
「いえ、聞いたことないですけど……」
沢田は答えを、一言呟く。
「6541回」
「え……?」
沢田はふふっと笑って改めて言い直した。
「彼は20秒間に6541回横に移動できるの」
「ええ! 嘘でしょう!? 高校生の平均は60回程度のはずです!! 6000回なんて……」
「事実よ。本人は隠しておきたかったみたいだから知らないのも無理ないかもね。結果が結果だし、周りにバケモノ扱いされるのを恐れていたんでしょう」
「……確かに体力測定に宗田が来たところは見たことがなかったです」
宗田には苦悩があったのだ。宗田は反復横飛びにおいてすさまじい結果を出せてしまう。これを知られれば周りから浮いた存在になるのは明白。宗田は中学の時に一度反復横飛びを披露することがあった。そのときにクラスメートに言われてしまったのだ、『気持ち悪い』と。その一言は宗田に心にひどい傷を負わせてしまった。それ以来、彼は反復横飛びを封印したのだ。この秘密を知られることを恐れるあまり高校での体力測定は欠席。今後誰にも知られないように生きていこうと誓っていたのだろう。しかし。
「皆の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せなかった。彼の走りを見てすぐに気づいたわ、横に移動する方が得意なんじゃないかって。でも彼はみんなには内緒にしてほしいと懇願してきたの、変な目で見られるかもしれないからって。その代わり、必殺技はちゃんと覚えるからと」
「僕、そんなの全然知りませんでした……。でも今思えば何かに悩んでた様子はあったかもしれません」
ベンチの永田にもいくらか思う節があった。バスケの練習中、永田はビクビク脅えている様子を度々見ていた。プロの沢田の練習が厳しいため、嫌がっていたのかと思ったが。
などと思い出している内に、永田はふと「あれ?」と疑問に思ってしまう。
「……あの。それ僕に言ってよかったんでしょうか?」
「問題ないわ。すでに宗田君の反復横飛びの結果はギネス記録に申請してるの。直に広まることよ」
「…………」
無言になった永田をよそに沢田は宗田の影分身を見つめ、感心していた。
「昨日までは綺麗に二人に分身することが上手くできなかったけど……。試合中に完成させるなんてね、流石だわ」
清宝の選手は投げやりになって二人の内一人の宗田に襲いかかった。
「本物はこっちだってばよ!!」
しかし、襲いかかったはずの宗田はシュッと消え、もう一人の宗田がドリブルをスタートする。
「残念だったな、それは残像だ」