虎白高校バスケットボール部   作:shgk

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5. 第2試合開始、回転する想い

 

「第1試合、終了!! 58-74で虎白高校の勝利!!」

 

 審判が勝者の名前をコートに響かせた。

 

「ありがとうございました!!!!」

 

 虎白の選手は勝利を喜びを爆発させるように叫び、礼をする。

 序盤こそ清宝高校のNAR○TO走りによる素早さに苦戦したものの、山下の屁技による加速、宗田の影分身の術が完成し、中盤からは清宝を圧倒した。

 清宝の素早い動きも後半は全くキレがなくなっていて虎白が完全に試合を掌握していた。おそらく、自分が忍者であると暗示していたのだが敵である宗田が影分身の術を使用したことによる困惑、動揺により、自分たちが忍者であるということに自信を失ってしまったからだろう。宗田は知らず知らずの内に清宝の暗示を破っていたのだ。

 

「みんな、お疲れ様」

 

 監督の沢田が選手へ労りの言葉をかけた。練習で厳しい顔を見せていた沢田だが今回ばかりは喜びを隠しきれなかったようで笑顔が溢れていた。

 

「宗田君、あなたの影分身決まってたわよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 今回の試合で宗田が覚醒したことはかなり大きかった。山下が主にチームを引っ張っていたが限度はあるのだ。負担を分け合うことによってより効率よい試合運びを行うことができる。

 

「午後の試合も絶対勝ちます!!」

「ええ、当たり前よ」

 

 そう、息つく暇もなくすぐ試合が行われる。次の試合、勝者は午後から同じコートで試合をすることになるのだ。体力的に厳しいものもあるが、条件は相手も同じ。だが、沢田は全く負ける心配はしていなかった。

 

「宗田君も覚醒したし、山下君は屁を温存できている……。今ならどんな相手にも負けないはず!」

 

 沢田の言葉は虎白の選手を更に発奮させた。選手は今までにない程、テンションが上がっている。

 

 その勢いのまま、虎白高校は第2試合を迎えることになった。

 

 

「第2試合、相手は滝凄高校ね。一体どんなプレーをするのかしら」

「前の試合、第四クウォーターに連続得点を決めて逆転勝利したそうですが……。少し気になりますね」

 

 ベンチでは、沢田と永田が試合の行方を見守っていた。試合はまだ始まったばかりで1分も経っていない程である。

 

 虎白の選手の動きは悪くなく、一試合終えた後とは感じさせない程、好調であった。虎白の動きは激しく、だが繊細に。清宝との試合に勝利したことにより勢いがついたようだ。

 

 それとは全く対象的なのは滝凄高校の選手たちである。試合後、1分も経っていないというのに彼らは肩で呼吸していた。

 

「滝凄の選手、すっかり疲れきってますね。前の試合の消耗が激しかったんでしょうか……」

 

 ベンチでは、永田が試合を見守りながらそんなことを言った。

 

「それだけじゃないわ。滝凄の選手をよく見て」

「え?」

 

 永田が目を凝らして選手を見ると、

 

「汗だく……!!」

 

 滝凄の選手は全身汗だくでユニフォームが湿っているのが遠目でも分かった。髪はシャワーを浴びた後のようにびしょびしょである。

 

「相手は虫の息だわ。まだ体力が充分残っているこちらとしてはかなり有利になるわね、一気に点を広げましょう」

 

 試合は誰が見ても虎白高校が優勢に見えただろう。鮮やかにパスを繋いでいった虎白チーム。パスは山下に渡るがドリブルでコートを駆けようとした瞬間。

 

ピシャッ

 

「え……?」

 

 山下の動きが止まる。正確には、正常にドリブルが出来なかった。床についたボールが彼の予想より跳ね上がってこなかったのだ。そして、彼の思った通りに走れなかった。彼は恐る恐る床を見て違和感の正体に気づく。

 

「水たまり……!?」

「そこだ!!」

 

 虎白の動揺にすかさず滝凄の選手がボールを奪った。

 

バシャバシャバシャバシャ

 

 虎白は騒然とする。それもそのはずコート一面が水たまりに覆われていたのだ。水たまりを滝凄の選手が駆け抜けていく。

 

「いつの間にあんな水たまりが!?」

「まさか……」

 

 ベンチでも、ようやく状況を把握したのか永田、沢田が目を見開いた。そして、沢田がいち早く水溜まりを分析する。

 

「汗を滝のように大量に流すことでコートに水たまりを作ったんだわ!」

「なっ……。そんなことありえるんですか!?」

 

 目の前の光景が信じられないのか永田は沢田に反論する。当然だ、5人いたとしてもあの水の量は誰が見ても異常である。永田は汗だけではない、他の液体も垂れ流しにしているのでは?、とも考えたようだがそれでも尋常な量ではないのだ。

 

「いいえ、汗だけよ。彼らは新陳代謝が並の人間じゃない。ほら、今も全身から汗が滴り落ちてるのが証拠だわ」

 

 唇を噛み厄介だ、と沢田は思ってしまう。同時に余裕で勝てるだろうと考えていた先程までの自分を殴りたい気持ちになった。簡単に勝てる試合はないのだと改めて認識する。

 

「まさか、そんな技があるなんてね。滝凄の選手はコートを水溜まりにすることによって走りづらくさせている。しかも、うちのチームが全力で走れば滝凄選手の汗の水溜りが水しぶきになって足に浴びることになってしまう。虎白の選手にとっては生理的に受け付けがたいでしょうね。……相手に物理的にも精神的にもダメージを与えてくる、想像以上に厄介だわ」

「で、でも精神面はともかく滝凄の選手も走りにくいのは同じはずです!」

「いや違うわ。よく見て、永田君。滝凄の選手の足元……」

 

 そう言って沢田はコートの滝凄の選手の足元を指差した。

 

「長靴を履いてるわ」

「……!!」

 

 滝凄の選手は、全員長靴を履いて試合をしていたのだ。

 

「まさか汗をかくことを計算して……?」

「ええ、汗でコートを水浸しにすることは彼らの計算の内に入っていたんでしょう。しかも、彼らは汗をかけばかくほどコートを湿らせることができる、つまり試合が進めば進むほど不利になってしまうの」

「あ! じゃあ午前の試合、滝凄が逆転勝利したのは……」

「後半になって汗をよくかきはじめたからだわ」

 

 滝凄の選手はいわばスロースターターである。2試合連続は普通の高校にとっては不利になるのだが滝凄の選手には俄然有利になってしまう。

 

 虎白はいつものような動きができず、滝凄の選手のペースに呑まれてしまっていた。

 沢田は選手に細かい指示を出すがいまいち効果はない。単純に水たまりの中を動くことでさえ困難なのだ。簡単な指示でさえ応えることができず第一クウォーターは終えてしまった。

 

第一クウォーター

虎白 10-21 滝凄

 

 点差は開いたまま、何の活路を見い出せないまま試合は第二クウォーターを迎えてしまう。

 

「くそっ! コートが水浸しでさえなければ!!」

「そんなことを言っても仕方ねえだろ、反則じゃねえんだから。生理現象なんだから抗議もできない」

 

 ないものねだりを言ってもしょうがないが虎白の選手はどうしてもそう思わざるを得なかった。

 半ば諦めムードに入ってしまった中、一人、声を上げる。

 

「まだ試合は終わってねえだろ!?」

 

 怒りの声を上げたのはキャプテンの山下だった。

 

「俺らは誰にも負けないくらい努力してきた! それをコートが濡れてるくらいで諦めてんじゃねえよ!」

 

 その言葉に虎白の選手はハッとした。そう、今まで彼らは必死に特訓してきた。沢田が来てからは休むまもなく特に頑張ってきたのだ。山下に発破をかけられ選手はお互いに顔を見合わせた。

 

 山下にボールが渡りドリブルを開始する。動きにくい足を屁をこく加速によりカバーしなんとか走った。ぎこちないがスピードは充分だろう。

 

「オラァァ!!!」

 

 山下は、滝凄選手の汗を全身で浴びながらもコートを進む。滝凄のディフェンスも力技で押し切りなんとかダンクを決めた。

 

「山下……。俺らもあいつに負けてられないな!」

「ああ! そうだよ! 俺らは絶対に勝つんだ!!」

 

 虎白の選手達は心が折れかけていたが、山下の言葉、プレーに胸を打たれ再び闘志を燃やし始めた。

 その内の一人に山下からボールのパスが渡った。

 

(俺だって……)

 

 それは虎白高校の6番、志木回輝だった。彼も虎白高校の一員、他の選手と同じく血のにじむような努力で練習してきた。試合では、山下、宗田が活躍しどこか歯痒く思う部分もあったが同時に自分に何ができるか、何をするべきかを常に考えてきたのだ。だから志木回輝はこのままでは終われない、試合を終わらせるわけにはいかない。

 

 

 

「俺だって……絶対負けたくない!!!! ドゥルルルルルルルルウウウウウウ」

 

 

 そう心から叫び、志木は右手にボールを掴み両手をT字に広げ体を高速回転させ始めたのだった。

 

 

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