虎白高校バスケットボール部   作:shgk

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7. 第3試合開始!

 

 

 ウィンターカップ第1試合、第2試合と苦戦しながらも勝利を収めた虎白高校は第3試合に向けて練習していた。

 

 虎白高校の体育館では、それぞれがいつも通りのメニューをこなしている。そんな時、体育館の扉が開く。体育館にやって来た人物に部員たちは大きな声で挨拶した。

 

「おはようございます! 沢田監督!」

「…………」

 

 しかし、沢田は挨拶を返さない。無言で部員に向かって歩を進める沢田。なにやら神妙な面持ちをしていて部員たちは不審に感じた。そして、しばらく黙っていた沢田はようやく口を開いた。

 

「次の対戦相手、去年の優勝校、帝王高校だったわ」

「!!」

 

 部員たちは沢田の言葉に驚愕し言葉を失った。まさかこんなに早く去年の優勝校に当たるとは誰も予想だにしていなかったのだ。

 

「試合表をちゃんと見ていなかったからあなたたちに知らせるのが試合直前になってしまったわ、ごめんなさいね」

「え。なぜ監督なのに試合表をしっかり確認しなかったんですか!?」

「ところで帝王高校と言えば、バスケの名門中の名門よね。毎年多くのプロが排出する言わばプロを育成するための高校で有名だわ」

 

 ごくごく自然に生徒の疑問をスルーした沢田は、帝王高校について話し始めた。

 

「さっき、ネットでググッてみたんだけど去年はダブルスコアで圧勝したらしいわ」

「……そんなこと知ってますよ。でも、それならすぐに練習しないと。1分1秒も無駄にできません」

 

 永田は真剣な顔をして沢田に言い返した。当たり前だ、試合はもう間近に迫っている。少しでも帝王高校に対抗できるよう準備しなければならない。

 

「その通り。私も今から研究して対抗策を見つけてみせるわ。頑張りましょう」

 

 

 第3試合、帝王高校との試合当日になった。

 

「帝王高校……。去年の優勝校ですね。まさか、こんなに早く当たるなんて」

「どの道、勝ち進んで行けば戦うことになるんだから。いつ戦っても一緒だわ」

 

 ベンチでは補欠の永田と監督の沢田が試合の行方を見守っていた。

 試合開始早々、山下が動く。帝王高校の選手がボールを持っている。

 

「行くぞ! 屁弾!!」

 

 ブンッ

 

「何だ!?」

 

 山下の尻から勢いよく出た屁が相手がドリブル中のボールに炸裂する。その屁は鋭く、不可視の銃弾だ。屁弾により敵の手からボールが離れることに成功した。

 

 離れたボールを屁による加速で追い、ゲットしそのまま屁をこき続けながらドリブル、そして屁ダンクを決めた。この屁の応酬には味方も敵も慄いた。

 

「最初から飛ばしているわね、山下君……。確かにそうでもしないと勝てない相手かもしれないけど……」

 

 監督の沢田は、心配しながらも止めることができない。相手は帝王高校だ、手を抜いた瞬間一気に攻め込まれることは分かっている。

 試合が始まってからの帝王高校のスタメンの選手は動きに全く無駄がない。フィジカルが虎白高校とは全く異なっている。速さも力も桁違いだ。彼らに対抗するためには、別の個性で押し切るしかない。が、それでもハイペースだ。最後まで保つのかは分からないが……沢田には選手を信じることしかできない。

 

「屁弾!! 屁弾!! 屁弾!!」

 

ブンッ ブンッ ブンッ

 

「あっ……!」

 

 マシンガンのごとく撃ち込まれる屁は、何とか避けていた帝王高校の選手の手元に命中。またもや、ボールを奪うことに成功した。同じ流れでボールをゴールへ放った。

 

「しゃあ!!」

 

 山下は喜びの雄叫びを上げた。

 が、その時。

 

「はああああああ」

 

 帝王高校の選手が一際大きなため息をついた。呆れにも似た、怒りにも聞こえる大きなため息。

 

「そんな小手先の技に頼って、バスケするなんて恥ずかしくねえの?」

 

 そう言ったのは帝王高校のエース、笠田だ。去年、帝王高校を優勝に導いた張本人で存在感は圧倒的だ。

 勿論、この試合にも初めから出場していた。

 

「笠田君、今まで目立った動きはしていなかったけど、ついに動き出すってことかしら……」

 

 沢田も笠田の存在は危惧していた。他の選手と比べてレベルの差が違うからだ。もうプロになっていてもおかしくない、それほどまでにバスケに恵まれた才能も持っている。

 

「バスケに必要なのは対応力だ」

 

 そう言って笠田はボールを取り床に置いた。そして、大きな巨体でボールを椅子のようにして座り、ぴょんぴょんと跳ね始めた。

 

 沢田はその光景に驚愕の表情を浮かべる。

 

「ボールと一体化してる!?」

 

 味方も敵も異様な光景に目を見張った。

 

「どうしてもドリブル中、相手にボールを取られてしまうなら、俺自身がボールになればいい」

 

 笠田は不敵に笑い、ボールと共に跳ねながらゴールまで走った。

 

「ディフェンス! 奴を止めろ!」

 

 しかし、虎白チームも甘くはない。笠田の前に立ち、進路を塞ぐ。が、ぴょんぴょん跳ねる笠田は余裕の表情だ。

 

「ここを行かせてたまるかよ!」

「ふんっ」

 

 笠田の踏ん張り声と共に一段ドリブルの音が大きく響く。力を貯めるように下にしゃがみ、大きくジャンプした。そのジャンプはディフェンスの頭を越え、着地する。

 

「なん……だと!?」 

「笠田のあれはどうなってるんだ!」

 

 ベンチでは、永田も理解できず沢田に思わず尋ねた。

 

「監督! あれは……!?」

「……おそらく、ボールと一体化することで笠田ボールの質量が増えているのよ。その分、弾性力も上がるからあの高さまで跳ねられるんだわ。加えて今、ボールと一つになったことであのボールはただのボールじゃなくなってしまった。言わば意思を持った、生きたバスケットボール。かなり厄介ね……」

 

 沢田は唇を噛む。これでは相手に手出しもできない、下手に押してしまえばファールになる。しかし、攻略法はあると確信していた。

 

「でも、全く太刀打ちできないわけじゃない。ゴール下まで行けばシュートを打つために笠田君はボールと分離せざるを得ないわ。そこに、隙は生まれるはず。分離したタイミングでボールをスティールすれば……」

 

 が、そこまで言いかけたところで沢田は自分の間違いに気づく。

 

「ふんっ!」

 

 笠田は再び高く跳ねる。ディフェンスの頭を越えるより高く。高く。

 

 シュッ

 

 笠田は綺麗な放物線を描いてボールと共にゴールにすっぽりと嵌った。笠田自身は体の大きさによりゴールには入らず尻から嵌っているが、ボールはしっかりと入っている。

 

「そんな!! ボールと一緒にゴールに入るなんて!!」

「しかもあいつ、ゴール高さまで跳ねたぞ!!」

 

 その光景には沢田も呆然とするしかなかった。

 

「分離するという考え自体間違っていたわ……。彼自身、今は身も心もボールになっている。なら簡単に離れたりはしない、いやできないんだわ……!」

 

 沢田は悟る、彼は選手ではなく今はボールそのものなのだと。笠田はゴールの上に嵌ったまま、周りを一瞥して鼻を鳴らした。

 

「俺はボールだ。シュートするときは分離するとでも思ったか? 残念だったな、ボールと一体化した俺はどんな時でもボールと共にある。跳ねる時も、パスされる時も。勿論、シュートの時もな」

 

 ダンッ

 

 言い終えるとボールは床に落ち、体育館に響く。

 

「そんな……。あれじゃ手が出せないわ……。一体、どうしたら……」

 

 沢田はゴールに尻を嵌めている笠田を、真剣に見つめていた。あの技にどう対応すればいいのか。何か、何か打開策はないかと考える。そして、ふと気がつく。弱点なんて沢田の見つめる先に転がっていると。

 

「今よ!! 速攻よ!!」

 

 沢田はベンチから力一杯叫ぶ。呆然としていたチームはハッとして走りだす。山下が笠田の尻から落ちたボールを取りラインから素早くパスを出した。

 

「おい! 待て! まだ俺が降りていない! 監督、梯子を持ってきてくれ!!」

 

 ゴールに嵌ったまま笠田は叫ぶ。

 

「ボールと一体化している故の弱点。それは、シュートする時に必ず彼自身ゴールの上に嵌まらなければならないのよ。嵌っている間、笠田君は動けない。しかも、それと同時に相手のゴールは機能しない。今なら思う存分攻められる!」

「笠田の技も万能じゃないんですね!」

「そう、つまり彼は本物のボールにはなれない、結局は人間にすぎないのよ!」

 

 虎白チームはスムーズにパスを通し、ボールはゴール下の志木の元まで回った。

 

「行け! 志木!」

「言われなくても! ドゥルルルルルルルルウウウウウウ」

 

 志木は右手にボールを掴み両手をT字に広げて、体を高速回転させる。やがて、志木の体は宙を浮きゴールの高さまで着いたところでダンクを決めた。

 

「しゃあああああ!!!!」

「出た! 志木の人間プロペラダンク!!」

 

 人間プロペラダンク、背が低い志木がダンクを決めるために編み出された必殺技だ。

 

「すごい……! 普通のコートでも飛べるようになったのね!」

 

「まだ笠田君が嵌ってるわ!! 今の内にガンガン攻めなさい!! 点を追いつかせるチャンスよ!!」  

「何してるんだ監督ー!!!梯子はまだかーー!!!!」

 

 ボールは雀南からだが笠田が嵌ってる以上、攻撃はできない。梯子が来るまで時間稼ぎにくるだろう。ボールは相手が持ち続ける可能性は高いが、沢田はニヤリと口角を上げた。

 

「それでも、私たちが圧倒的に有利!!」

 

 しかし、一瞬でコートの雰囲気が変わる。

 いや、コートではない。変わったのは体育館全体の雰囲気だった。

 

 

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