「やめなさい!! そんなことしたらあなたは!!!!」
監督と仲間たちの叫ぶ声が聞こえた気がした。もう、決めたことだが止めてくれてうれしいと思ってしまう。あいつら、今どんな顔してるんだろう。俺のために泣いてくれているんだろうか?
わがままかもしれないけど泣いてくれてたらうれしいなあ。
あ。そういや、うちの親も今日来てるんだっけ。親は悲しむだろうか。それとも、怒るだろうか。もしかしたら、泣かせてしまうかもしれない。これから俺が犯す罪はきっと何よりも重いものだから。
……今、俺が鈴木と同じように屁を出せば、少なからず便も出てくるだろう。
「たとえ便を垂れ流すことになっても、俺は……」
尻に力を込めるとともに今から繰り出されるであろう屁に全ての思いを込めていく。
仲間たちを優しく包み込んでくれますように、敵の爆風から守ってくれますように。
そして、
『この試合に、虎白高校が勝てますように』
――――そのためなら、社会的に死んだって構わない。
山下は小さく微笑んで呟いた。
「だから俺は。…………放屁する」
山下は尻から自分の願いを吐き出した。それは、決意だ。強い意思の乗った、でもどこか安心するような優しい屁。
山下の屁は、爆風となり鈴木の屁に向かう。
そして、2つの爆風はぶつかり合った。
ボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボベエバブブブブウウボベエバボボボボブブブボボボオオオオオボブエ
もはや、嵐だ。向かい風も追い風もない。風の流れすら見えない。無秩序に吹き荒れる爆風は選手だけでなく、審判、ベンチの選手、監督、ギャラリーさえも巻き込んだ。
ベンチでは沢田も永田も必死にベンチにしがみついて飛ばされないようにしていた。コート上でも、両高校は吹き飛ばされないよう必死だ。
ボールの行方も分からない。沢田は必死に試合の状況の確認を試みるが不可能だった。
「一体、何が起きているの!?」
もう第4クウォーターだタイムアウトもお互い使えない。これはもはや、虎白高校と帝王高校の戦いではなく山下と鈴木の一騎打ちだった。もう、時間もない。点差もほぼ同じだ。つまり、勝負の行方はこの二人に懸かっている。
「くぅっ! 俺が力で押し負けているだと!? なんだこの強さは!! 虎白高校なんて雑魚のはずなのに!!」
山下の爆風は徐々に鈴木の爆風を押し始めていた。
「くそお! なんでだ!! こんな雑魚にいいい!!!」
鈴木の爆風に勢いがなくなっていく。吹き荒れていた風は一方向、虎白の追い風となっていく。
「鈴木の屁が止んだ!?」
「よし、みんな! 今だ! 攻めろおおお!!!」
今もなお頑張り続いている山下の屁(おいかぜ)に乗って、虎白は攻める。今までにないほどの速さ、力。山下の屁は彼の願い通り仲間を包み込み力を与えた。
「これが……、山下の力……」
「よしっ! 行ける!!」
そこで、虎白の選手は鮮やかにパスを決める。志木、その他の二人、宗田へとパスが繋がる。それは、虎白の絆だ。全ての思いを背負った宗田のフリースローシュート。
――――これが、みんなの思いか。
ボールを手にしてみて分かる、今までのチーム練習。血のにじむような努力、そして、勝ちたいという真っ直ぐな気持ち。
宗田はそのボールを放った。絶対にゴールに入るボールを。
「これが、虎白高校のバスケだ」
シュッ
今までにないほど綺麗な弧を描き、ボールはゴールに吸い込まれていった。
そこで、
ピピーっ!!!
試合終了の笛が鳴った。
「か、勝った……。帝王高校に……勝った」
「ま、マジで……? 俺らが……?」
「よっしゃああああああああああ!!!!!」
虎白高校の選手は信じられないながらも、喜んだ。が、すぐハッとして自陣にうずくまる山下に目を移し、急いで駆け寄った。勿論、沢田、永田もベンチから走って山下の元へ向かった。
「や、山下……」
「山下君……。そんなっ……!!」
そこには言葉にはしがたいほど見るも無残な山下の姿があった。そして、山下の半径3m以内には決して誰も入らない。
「……私のせいだわ。山下君に屁技以外も教えておくべきだった。うっ………ごめんなさい」
「俺だって……。山下に何もしてやれなかった……」
「俺がもっと山下をカバーできていれば……!!」
悲痛な虎白チームの元に誰かが近づいてきた。
「そんな顔しんといてください」
そこに立っていたのは二人の男女。両方、40代くらいだろうか。虎白の選手が困惑する中、監督の沢田だけ大きく見開いて、驚きの声を上げた。
「あ、あなたがたは! 山下君の親御さん!?」
すぐさま、監督の沢田は両親の前で土下座を行い必死に謝った。
「ごめんなさい! 私のせいで、山下君がこんな姿に!!」
「……いいんです。だってほら、こんなにいい顔してるんだから」
山下の両親は穏やかな顔を浮かべて山下の顔を指差した。
その山下の顔は……。
「……本当だ、これ以上ないくらいスッキリとした顔をしていますね」
「全てを出し切ったような、そんな顔」
山下の選択が正しかったか間違っていたかは分からない。でも、少なくとも今この瞬間は山下に後悔はなかったことに間違いはないのだろう。