蒼炎の英雄   作:たまの助

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目覚めの鼓動

『君はヒーローと人を助ける者、どちらになりたいんだい?』

 

 それだけ言い残して、オールマイトは飛び去っていった。流石に2度も引き止めるわけにはいかないので、僕は黙って見過ごした。

 

「ヒーローか、人を助ける者……」

 

 何度も、頭の中にオールマイトの問いかけが反復する。

 なんで、オールマイトがこんな質問をしたのか。その意図はもう分かっている。

 この質問は、ヒーロー以外にも人を助けられる仕事があるっていうことの暗喩だ。

 

 分かっていたさ、無個性(ぼく)なんかにヒーローが出来ないってことくらい。

 それでも、夢くらいは見たかったんだ。

 

 スーパーへの道を、独りでトボトボと歩く。なんだかそれがやけに虚しかった。

 

 (ヒーロー)か、理性(人助け)

 

 そんなの……。

 

 

 そんなの、どっちもなりたいに決まってる……!

 

 気が付いたら涙が流れていた。

 それ程までに、僕の(ヒーロー)への執着は強かったんだと、実感する。

 

 泣くな、泣くなよ、白石(しらいし) 雄斗(ゆうと)! 分かってた筈だろ! 無個性(ぼく)じゃヒーローになれっこないことくらい!

 そう自分に言い聞かせても涙は止まらない。

 

 あぁ、クソ、やっぱり駄目だ。やっぱり僕は、泣き虫だ。子供の頃もこんな風に泣いてたっけ。こんなんじゃ何も変わってない、何一つ成長してない。

 

「帰ろう……」

 

 頭の中はぐちゃぐちゃだ。もう何をする気力もない。何もしたくない。帰って布団にくるまって眠っていよう。

 何も出来ない僕は、それが一番いい。

 

 踵を翻し、進んでいた方向と真逆の方向に歩き始める。

 もう、面倒くさいのだ。全部、ぜんぶ。

 

 そうした矢先、突如異変は起こった。

 

「キャアアアアァァァァ!!!」

 

 背後から悲鳴が聞こえ、咄嗟に振り返る。

 するとそこには先ほど僕を襲った泥のような(ヴィラン)と、それに襲われている少女が居た。

 

 なんで!? あの(ヴィラン)はオールマイトが倒して警察に届けに行った筈!?

 

 いや、違う。確かにあの(ヴィラン)はオールマイトが持っていった、けれどアイツの個性を考えれば分かるはずだ。

 もしあの(ヴィラン)が、核である部分を泥で覆っているような状態だとしたら……、もしオールマイトが持っていったペットボトルには、核となる本体が入っていなかったら……!?

 

「ヒーロー、誰か来てくれ……!」

 

 目の前で人が襲われているのに、僕にはどうすることも出来ない。ただ、ヒーローが来るのを待つことしか出来ない。人が苦しんでいるのを見ていることしか出来ない……!

 

 拳を強く握りしめる。

 僕には襲われている少女を助けることなんて、出来っこない。さっきなんかあの泥に殺されかけたんだ。何か出来るはずがない。

 

 

 ごめん、名前もわからない人……! 僕には、何も……、

 

 

 

「たす、けて……!」

 

 

 

 それは明確に僕へと向けられた、救いを求める言葉。

 その言葉と、少女の涙ぐんだ表情を見た途端、僕は走り出していた。

 何が出来る訳でもない。少女を助けられるわけでも、あの(ヴィラン)を倒せるわけでもない。だけど、

 

 考えるより先に身体が動いていたんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 なんで!? なんで飛び出した!? 僕なんかに、何もできるはずないのに……!

 そうは思うが、地を駆ける足は止まらない。当たり前だ。考えるより先に身体が動いていた、あの少女の顔を、言葉を聞いた瞬間、救わなければならないと、身体がそう判断した。

 

「クソっ、クソっ……!」

 

 そうだ、やっと思い出した。今まで忘れていた、子供の頃に誓ったあの夜のことを!

 僕の原点(オリジン)を!

 

 

『雄斗はさ、どんな人になりたいの?』

 

 月下の砂浜のもとで、僕は『誰か』と一緒にいた。一緒に居た『誰か』は真っ白なワンピースを着ていて、背丈は昔——10歳の頃の僕より少し低いくらいだった。恐らくは女の子なのだろうが、顔はクレヨンで塗りつぶしたみたいに真っ黒で分からない。けど、きっとこの娘は僕の親友だ。

 

『僕は無個性だから、ヒーロー……、にはなれないかもしれないけど……

 それでも僕は、助けを求めている人には笑顔で手を差し伸べられるような人間になりたい』

 

 はにかんで僕が言ったその言葉を、彼女は真摯に聴いてくれた。今思えば、とっても小恥ずかしくて、自分が自分で嫌になりそうだ。

 

『うん。なれるよ、雄斗なら。私のことだって助けてくれたんだから』

 

 それでも、そう言って微笑みかけてくれたあの少女は……誰だっけ?

 もう六年も前の事だ、あんまり覚えていない。

 

 

 ——けど、あの誓いは、たった今思い出した……!

 ヒーローになれなくたって! 夢を否定されたって! 僕の誓いはもう揺らがない!

 僕はもう、諦めない……!

 

 他人が見たら「無謀だ」と一蹴するだろうこの状況。

 それはまさに昔の自分——あのイジメられていた少女を助けようとした非力な僕と同じだった。

 個性も無いのに、強力な個性を持つ者に反抗するなんて、それはまさに愚の骨頂で、どうしようもないくらいの馬鹿だ。

 

 だけど助けを求める少女を見て、そのまま見過ごすなんて出来るはずがなかった。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」

 

 泥の(ヴィラン)に拳を強く握りしめて、振りかぶる。効果はないかもしれない。奴は流動的で、物理攻撃は効かない。それでも、怯むかもしれないなら、あの少女が逃げれる隙が出来るかもしれないなら……!

 

 

 

 

 

『相応しい』

 

 ふと、そんな声が聞こえた気がした。不思議な声だった。耳ではなく心に直接語りかけてくるような、そんな声だった。

 不思議に思いながらも目の前を見ると、僕が殴った泥の(ヴィラン)は跡形もなく吹き飛んでいた。

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