喫茶店を出る。
正直、驚きが多すぎて話の大半が頭に入ってこなかったが、まぁ良いか。
この頃は外に出ることが少なかった為、土地勘の無い僕はスマホを取り出すとマップで帰り道を調べた。
「うわぁ、遠い……」
がくり、と肩を落とす。
見れば、家までの距離は1キロ以上あった。運動不足だというのに、よく走ってこれたなぁと今更ながらに思う。
そうして帰り道を1歩も踏み出さないまま凹んでいると、背後のドアが、取り付けられたベルの音を鳴らしながら開いた。
「良かった、まだ居た」
そうして安堵の声を漏らす少女は、
そんな彼女は、僕を見るなりスマホを取り出した。
「どうしたんですか……?」
「む、同い歳だから敬語はいいって言ったのに」
「あ……」
そう言えば、先程店内でそんな話をしたような気がする。
「まぁいっか。それで、連絡先を交換しておきたいんだけど、教えてくれる?」
「え? あぁはい」
そうして、なされるがままに連絡先を交換する。
家族以外で2人目の連絡先だと思うと、なんだか嬉しいような悲しいような、そんな気持ちになる。
ひとりでに謎の感傷に浸っていると、声をかけられた。
「そういえば、私が来る前はなんでここでボーッとしてたの?」
嫌なことを思い出させてくれる。別に彼女が悪いわけではないが。
「ちょっと家から遠くて……」
「あー、それなら!」
なにか案があるような彼女は、「ちょっと待ってて」と僕に言うと、ネーベル店内へと入っていった。
それから約20秒、朝霧 彩羅は店内から白髪の男性を連れ出してきた。
「ええと、なんでマスターが?」
この白髪の男性は、
僕は彼に言われた通りに「マスター」と呼んでいるが、彩羅さんは「おじさん」と呼んでいる。2人がどういう関係なのかは触れない方が良いと思ったので触れないことにした。
「それは私の個性に関係しているのだが……。彩羅、君は私をこき使いすぎだろう」
「仕方ないじゃん。便利なんだから」
マスターは「はぁ」と溜め息をつく。
「白石君、君にも説明しておこう。
私の個性は『ワープゲート』 簡単に言えば別々の場所を繋げることの出来る個性だ」
「別々の場所を繋げる……? つまりどこでもドアってことですか?」
「そう。だからここと君の家を繋げることだってできる。一時的にだがね」
「それって凄い個性なんじゃ……」
「まぁ便利ではあるが、それ以上ということは無いよ。
彩羅がここまで無理矢理連れてきてしまった責任もある。帰り道は私が用意しよう」
マスターはそう言うと、右手で宙に円を描いた。すると、その場所に白い霧が現れる。
「先程マップは見させてもらった。この中に入れば、君の家の前に着いているだろう」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、恐る恐る白い霧の中へと入る。
「お、おぉ……」
そうして霧を通り抜けると、いつの間にか家の前へと着いていた。
『ワープゲート』その便利さに、思わず感嘆の声が漏れる。戻ってそれを伝えようかとも思ったが、背後に振り返ると霧は散って消えてしまった。
——まぁ、とりあえず部屋に戻ろう。
そう思い立ったが矢先、重い足取りで家へと入る。
そこでようやく気づいた。
「あ」
当初の目的である、インスタントラーメンを持って帰ってくるのを忘れてしまった。
彩羅さんを助けようとした時に放り投げてしまって、そのままだ。けど、取りに戻るのも面倒だ。今日は諦めよう。
そう考えて、自室のベッドに倒れ込んだ。
——何故だろう、身体が重い。
吸いつけられるように身体は重くベッドにのしかかる。まるで身体が自分のモノじゃないみたいに動かない。慣れないことをしたせいで疲れが出たのだろうか……。
そのまま睡魔に誘われて、意識は途切れた。
◇
気がつけば懐かしい教室に居た。ここは10年前、僕が通っていた学校。ただ記憶にあるような活気はその学校には無く、蛍光灯の電気も付いてないその教室では夕焼けの明るさだけが僕と、もう1人の男を照らしていた。
「あ、あなたは?」
意を決して、教卓の上に座る男性へと声をかけた。
夕焼けの光を反射してキラキラと光り輝く青色の髪、鋭く尖った金色の眼、そして整った顔立ち。黒を基調として彩られた軍服を着崩していて、それがやけに似合っていた。
「オレはお前の個性、『英雄(ヒーロー)』に宿った、意思……みたいなモンだ。そしてこれからお前の教育者になる」
「個性に宿った意思……? 教育者?」
展開がぶっ飛び過ぎてよく理解できない。まず、自分に個性ができた(?)ことすらも信じられなかったというのに、その個性の中には人が居て、その人が自分の教育者……なるほどわからない。
「よく分かってねえって顔だな、無理もねえか。先代の時も、最初はそんな感じだったな」
先代……という単語から察するに、前にも僕のように無個性ながらにこの個性を得た人間が居たということだろう。そして、それは何代にも続いているということなんだろう。
ただ、この個性については疑問が多すぎる。だから、勇気を持って聞いた。
「この個性は、一体なんなんですか?」
その問いかけに対し、男はにやけながら言った。
「この個性は……いや、俺は自分の判断で英雄になれる素質を持つものを探して、個性を与える」
彼は言う。僕には英雄になれる素質を持っていると。
「その素質とは即ち、正しい正義を持ち、それを実行する勇気を持つこと。自らの力が敵に及ばなくとも、他人の為に命を賭けられる勇気を持つこと!」
彼は言う。僕には正しい正義と勇気があると。
「そして、お前は無個性だ。それ故に誰よりもヒーローに憧れた! 誰よりも正義を持っていた! だからこそお前を選んだ。誰よりも非力だ、それでもお前は悪に立ち向かった。だから選んだ!」
大袈裟だ、そう思う。僕はそんな大層な人間なはずがないから。
けれど、自然と涙が零れた。こんなに人に認められたのは初めてだったから。
そんな泣いている僕を見ながら、彼は僕の頭に手を置き言った。
「お前は、ヒーローになれる」
僕に、ヒーローになれると、そう言ったのだ。