蒼炎の英雄   作:たまの助

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気がついたら、目が覚めていた。

これまでの事、夢の中で青髪の男が言っていた事も、未だに理解ができない。

けれど、僕の瞳からは涙が零れていた。

 

「本当……なのかな」

 

そう呟いて、右手を眼前にかざす。その右手には不思議な紋章が刻まれていた。

これは英雄である証。僕がヒーローになるための可能性。そう思うと心が熱くなる。気持ちが昂ぶる。

 

「僕は、ヒーローになれるんだ」

 

今まで行先もわからず彷徨っていた僕の人生に、道標ができた気がした。

 

 

少年、白石雄斗が眠りについた少し後のこと。とある喫茶店で、青年と少女が話していた。

 

「彩羅、今日のターゲットはそんなにも危険な存在だったのか?」

 

「ええ、情報よりも個性が格段に進化していた。確かに私達が動き始めるのは早くはなかったけれど、それでも短期間であの変化はおかしいわ」

 

個性の進化、それは誰しもに有り得る出来事だ。しかし、簡単ではない。

進化に必要な要因は多様に渡る。心境の変化や、感情の昂り、特訓等である。しかし、単純な出力をあげる方法は特訓の1つに限られる。けれど、それは短期間で効果を得られるものでは無い。だからこそ、今回のターゲットはおかしかったと彩羅は言う。

 

「情報では、流動的にできる部位は一部だけだった。それを全身にするなんて、短期間でできる事じゃないわ。だとしたら、考えられる理由は2つしかない」

 

「情報を秘匿していたか、個性増強薬物の使用……後者だろうな。今回のターゲットのヴィランは、いわゆるチンピラだ。情報の秘匿などするはずもないだろう」

 

個性増強薬物とは最近出回り始めた違法ドラッグだ。個性の能力を爆発的に向上させる代わりに、理性を破壊していく、悪のクスリ。近頃はこの薬物による事件が多数発生していて、今回のターゲットもその線だったのだろう。

 

「なんとしても、根元を絶たねばいけないのだろうな……私たちにそんな力は無いが」

 

彩羅と青年——白の戦力は、そんなに大きくない。正義のためにヴィランを狩ってはいるが、そこまでの大物と戦うことはリスクを考えてしていない。

2人とも確固たる意志をもってヴィラン狩りはしているが、その内でも自分たちが非力なことをよく知っている。だからこそ、正規のヒーローとして働いていないのだ。

 

「ここは、ヒーロー達に任せるしか……」

 

そこまで言った白の言葉を、彩羅は遮る。

 

「いや、諦めるのはまだ早いよ。それに個性増強薬物の件は、私達が追ってるアイツにきっと関係がある」

 

アイツ、とは彩羅と白が昔から追っている事件の犯人、いわば宿敵である。彼女らはその宿敵を倒すためにちまちまとヴィランを狩っているに過ぎない。

 

「それはなぜ?」

 

「オールフォーワンなら、そんな回りくどいことはしない。彼ならば、自分の目的のためならもっと違う方法を選ぶはずだわ。そして最近動き始めたオーバーホールも薬物という点では似ているけど、作っている物の性質は真逆よ」

 

「ほう」

 

「だとすれば、こんな事を考えるのはアイツしかいない。規模の大きい組織で、面白いからと言うだけで人を傷つけ、壊すのなんて、あのクズしかいないわ」

 

その言葉には、確かな怒りと僅かな後悔が篭っていた。

 

「なるほど、しかし現状では私たちにアイツを、倒す術は……いや、だからこその彼か」

 

「ええ、彼ならば……彼の個性ならば、力を貸してくれるでしょう。そして、彼の性格からすれば、そんな悪を見逃せる訳ない」

 

「私は彼はヒーローには向かないと思うが」

 

その言葉に対して、彩羅は自信を持って

 

「彼は、本物のヒーローになれる。その才能をもってる」

 

そう言いきった。


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