「よく来てくれたね、雄斗」
僕は、再度あの喫茶店を訪れている。あの娘——彩羅に連れられた道を覚えていたので来てみたのだ。そうして今はオーナーと二人きりで淹れてもらったコーヒーを飲みつつも向かい合っている。
「オーナーなら、僕の個性に詳しいと思って」
先日見たあの夢、あれで確信した。僕には紛れもなく個性が宿っているのだと。そして、それについてまだほとんど知らないということも。
「あぁ、私は君の前にその個性を持っていた人を知っているからね」
「先代、ですか」
夢で会った男性も言っていた気がする。
「今その人はどこに?」
その言葉を聞くとオーナーの表情が少し曇る。
あぁ、無神経だった。代わり——僕が必要だったということは、そういう事だと言うのに。
「彼は……亡くなった。1年前にね」
苦しげに告げるオーナーの顔を見て、心が痛む。聞かなければよかったなどと考えてしまう。
「大事な伝え忘れていた。雄斗、君に1つ問いたい」
オーナーは苦しげな表情を飲み込み、一転変わって真剣な面持ちになる。
「その個性を宿した戦いは熾烈を極めるだろう。命を落とすことだってある。それでも、君はヒーローになりたいかい?」
先代は、死んだ。何のためにこんな個性があるのか僕にはまだ分からない。けれど何人も死んだ、先代も先々代も先々々代もきっとその先も。僕も、死ぬかもしれない。
——けど
「僕は、戦います。これまでのように何もせずに生き続けるのは、死んでるのと同じだから。死ぬかもしれない戦いがあるとしても、僕は
もう絶望する必要も、引きこもってる余地もない。今の僕には
「そう言ってくれると信じていたよ」
オーナーはそう言ってカップに入ったコーヒーを啜ると、微笑んだ。
「あれ」
ガチャリ、と音を立てて扉が開く。扉に付いた鈴がカランカランと音を鳴らした。
「おかえり彩羅、首尾は?」
入ってきたのは客ではなくこの前の少女——彩羅だった。
「うん、上々。今回はヘマしなかった」
自信満々の表情で彼女はピースサインを作る。それを見てオーナーは「そうか」と言って口元を弛めた。
「それで、なんで雄斗がいるの?」
彼女はこちらの顔を覗き込むように近づき、問いかけてくる。
端正で整った顔立ち、艶やかな髪、ほのかに匂う香水の香り、それらのせいで胸の鼓動が収まらない。
「彼から個性の話を聞きたいと」
「へぇ、てことは協力してくれるってこと!?」
へぇ、と顎に手を当てる仕草も可愛らしい。ではなく、『協力』とはなんだろう?
「それは今話そうと思っていたところだ」
「そうなの、じゃあ丁度いいわね」
彼女はそう言うと、身につけていた肩掛けのバッグから1枚の紙を取り出した。
B5程度の大きさの紙がカウンターのテーブルに広げられる。見ると男性の写真とそのプロフィール等が載っていた。
「これが雄斗が倒した
意外と悪いやつだったんだな、と思う。あの時は彩羅が襲われてて必死だったから何も考えてなかったけど、相手がこんな極悪人だと知っていたら立ち向かうことが出来ただろうか。
——いや、立ち向かうのだ。ヒーローになるのだから。
そんな心中の決意の横で話は進んでいく。
「それで関係性は?」
オーナーが聞くと、彩羅はニヤリと笑う。
「黒よ。こいつ、あっさりと情報を漏らしたわ」
「良好な結果だ。やはり奴らは素人を利用する分、足がつく」
「ええ、当たりかは分からないけど拠点も分かったわ」
驚くほど部外者のまま話が進んでいく。まさか忘れられているのだろうか。忘れられているんだろうなぁ。
そんな悲しみに浸っていると、話を終えた彩羅はおもむろにこちらを向いた。
「それで雄斗。あなたに手伝って欲しいの」
今までにない真剣な顔。綺麗な瞳が、貫くくらいにこちらを見つめる。
「手伝うって何を?」
「とある
彼女はそう言い放った。