はじめましての方ははじめまして!
……いや、この作品に関してははじめましてな読者様は居ないですよね。なぜならこの作品自体が、今まで私が書いてきたオリキャラを知っていること前提での物語なのですから(^皿^;)
というわけで、チラシの裏にでも書いてろレベルな短編集の開幕であります!
ぴんぽーん、と、この世に生を受けてから十七年間馴れ親しんだ呼び鈴の音が家中に響き渡る。
いつも特に気にもせず聞いてる日常の音のはずなのに、今日の私にはその音はなかなかに刺激的な音のようで、鳴った瞬間の自身のビクつきようは若干引くほどであった。
「き、来ちゃった……! だ、大丈夫だよね……? 変なもの出てないよね……?」
あわあわと一人呟きながら、部屋の中が散らかっていないか、部屋の中に人に見られてはマズいものが出ちゃってないか、あっち行ったりこっち行ったりあたふたと確認して回る。
起きてから何度もチェックしたはずなのに、いざ来客の襲来を目の当たりにした途端このザマである。
「……よし、大丈夫、なハズ」
これで何度目になるか分からない確認を済ませ、逸る気持ちを抑えて玄関へと向かう。
今日はお父さんとお母さんが外出中で良かったよ。どっちかでも家に居ようものならこの呼び鈴に先に出られて、その来客にしこたま驚かれたことだろう。で、その来客のご帰宅後はしこたま弄られるというね。ま、その弄りの中には娘への愛がしこたま込められているのだろうけれど。
それでも、恥ずかしいことこの上ない事に間違いはないのだ。
「……うわ」
様々な葛藤と悶着していると、再度来客をお知らせする呼び鈴の音が二・三回ほど連発された。どうやら来客は、なかなか顔を出さない家主にやきもきしたようだ。
まったく……。本日の来客は我慢するという概念が乏しいらしい。ホント、何事に関してもとりあえずは一旦堪えるという事をいい加減憶えてほしいものである。
辛抱の出来ない来客に再度呼び出された以上、なる早でお迎えにあがらないと、このあと何連発インターホンアタックが繰り出されるか分かったものではない。酷使されすぎて呼び鈴が息を引き取ってしてしまう前に、早く玄関に向かわなくては。
私はもう一度マイルームをちらりチェックしてから、ドタドタと玄関へ向けて疾走する。その表情には一抹の不安と、そしてほんの少しの期待感。べ、別にこの来客を迎えるのを楽しみにしているってわけではないんだから。ただ、こういうのが久しぶり過ぎて、ちょっとだけ舞い上がっているだけなのよ。
あれ? それって結構楽しみにしちゃってない?
辿り着いた玄関の向こうからは、来客が再度呼び鈴を連射してやろうというオーラを放っているのがひしひしと伝わってくる。マズい、早く玄関開けないと十六連射くらいされちゃいそうで恐い。
ヤツが呼び鈴に襲い掛かる前に、早くこのドアを開けないと!
「ご、ごめん、お待たせしますた」
「あ、やっと出た。おいーっす美耶。つかマジ出てくんの遅くなーい? ……にしても、お、お待たせしますたって……! しますたって……! ぶーっ! くくく……ウ、ウケる……!」
「ちょっ! だからあんたミヤミヤに失礼だから! ……くくっ」
「ミ、ミヤミヤ言うな! それに仲町さんも十分笑ってるから! ……し、仕方ないじゃん! ちょっと慌ててたし、そもそも友達を家に招くのなんてウン年ぶりだから緊張してたんだってば!」
「ヤバい遂に美耶があたし達を友達って認めちゃった! ウケる!」
「わーい、ミヤミヤがデレたー。かーわーいーいー」
「……うー、もうお前ら帰れよぅ……!」
本日は、そう。私 二宮美耶が中学二年生以来実に三年ぶりに、友達を自宅に招いた日なのです。実際は一切招いておりませんけどね。こいつらに勝手に約束取り付けられただけだから。うぅ……、お招き第一号は比企谷君がよかったよぅ……
あと、やっぱこいつらが友達というのは無しの方向でお願いします。
× × ×
「おー、ここが美耶の部屋かー。意外と片付いてんじゃん」
「ねー。ミヤミヤの部屋だから、なんかこう……、もっと漫画とかゲームとかアニメとか、変な小説とか変な人形とかで溢れてるかと思ってたー。意外とちょっとしか無いんだねー」
「……」
いやホントマジでこの仲町さんとかいうお嬢さん、常識人のフリして実は折本さんよりデリカシーとかなくない? そういえば比企谷君と葉山君とのダブルデートでは、この仲町さんもかなり失礼な発言して葉山君に怒られたとか言ってたっけ。居ますよねー、最初はキチッとしてるのに、馴れてくると途端に本音をずけずけ言っちゃう子。
おのれチカマチ! やはり折本さんと仲が良いだけあるわ! このエセいい人めぇ! ……あ、そういやこの子って、最初っから結構失礼だったわ。
それにしてもなによ変な小説とか変な人形って。そんなもん朝起きてからとっくに隠してあるわ! あるのかよ。
そもそも余りあるぼっちのソロ活動の暇を潰す為にサブカルに手を出しただけで、私そこまでガチ勢じゃないからね? …………ふぅ、こいつらに見られるとめんどくさいんだろうなぁって警戒して、事前にちょっとえっちな美少女フィギュアとか半裸の美少女表紙のマンガとかラノベとか色々隠しといて良かったわぁ……
「う、うるさいな。余計なお世話だから。てか部屋入ったことだし、そろそろ帰れば?」
「女子会開こうよってお呼ばれしたのに、入室直後の帰宅提案とかウケる」
「私一切女子会の開催とか計画してないよね!? 気が付いたら勝手に会が決まってただけだよね!?」
「もー、ミヤミヤってばツンデレなんだからー」
「どこにもデレの要素無かったよね!? ニブい誰かさん達の為に、分かりやすくツン要素しか出してないからね!? あとミヤミヤやめい!」
「なんか今日はいつにも増して美耶のツッコミが冴えわたってるんだけど! 休日テンションウケる!」
……休日テンションじゃなくてVSフリーダムテンションだよ。もうホント休む日と書いて休日にこいつらの相手すんのやだ。マジでなんで私、こんな自由人達と友達になっちゃったのかしら。
「あ、そだ。ミヤミヤ〜、今日はお呼ばれいただきましてありがとうございますっ。これ、つまらない物ですけど」
「ほぇ……?」
強制フレンズの自由っぷりに疲労困憊で頭を抱えていると、不意に仲町さんが手土産を渡してきた。
Oh、いくらデリカシーに欠けるフリーダムの片割れとはいえども、そこは高カースト女子。友人宅にお呼ばれ(呼んでない)した際に、すかさず手土産を持ってくるとかさすがの女子力。
「ど、どうも」
手渡されたのは、小さな箱が入った手提げの紙袋。袋にはパティスリーなんちゃらとか書かれている事から、どうやら中身はケーキらしいということが窺える。
「ひひー、それ、千佳んちの近所にあるオススメのケーキ屋さんのケーキなんだよねー。美耶と遊べる日があったら、いつか絶対食べさせてあげたいとか前々から言っててさ」
「そ、そなんだ」
……そっか。う、うん。なんかちょっと……嬉しい、かも。
仲町さんて意外とデリカシーのない無礼なクソ小娘だから、折本さんとの相乗効果で比企谷君と葉山君に誤解されちゃったみたいだけど、ホントは友達思いで、こうやって友達を大切にしてくれるいい子なんだよね。
ホント惜しい。あとはちょっとデリカシーを覚えるだけだよ仲町さん! あ、そこら辺の事は折本さんには期待してないんで。
「ちょ、ちょっとかおり! 余計なこと言わなくていいから……!」
「あ、ちなみに買ってきたのは千佳だけど、あたしも半分お金出してるからよろしくー」
「……あんたってホント余計……」
友達に対するあったかい気遣いを暴露されて、頬を染めつつ照れかけた仲町さんにほっこりしかかっていたのだが、直後にお金を払っている自身の功績を誇る自由星人の暴挙に真顔で抗議する仲町さんの姿を見て、先程までのほっこりはどこへやら、なんとも可笑しくなってしまった。
「……〜っ」
や、やべーやべー! なんか口元がすごいゆるゆるになっちゃってるよ!
この二人が襲来してきてからこっち、ずっと呆れてうんざりしていたはずなのに、この自由人達のお馬鹿なやりとり見てたら、ああ……なんかこういうのいいなぁって、ああ……なんか幸せだなぁって、そんな感情が胸の奥から込み上げてきてしまったのだ。
──ちちち違うの! べ、別にこいつらとのフレンドリーなやりとりなんて楽しくなんてないんだからね! あまりの自由っぷりに後ろから撃たれまくってるし、なんならフレンドリーファイアまである。
ただ、なんかこう、ね。こういうの、久し振りだから。私の部屋で友達と騒ぐのなんて本当に久し振りだから。……もうこの部屋に誰かを招くことなんてないって思ってたから。……だから、ついつい顔が緩んでしまったってだけなのだ。
「ん? なんで美耶ちょっとニヤついてんの?」
「は!? べ、別にニヤついてなんかないし!? ん! んん! ……じゃ、じゃあ紅茶とか淹れてくるから、せっかくだからみんなで食べよっか……」
あれだけうんざりな空気を演出していたのに、実は『二人が来たのを結構嬉しいと思ってる美耶ちゃん』なんていう恥ずかしすぎて自決モノの構図、こいつらには絶対に悟られるわけにはいかないのだ。そう、絶対に!
バレたらどんだけからかわれるか解ったもんじゃないよぅ……!
だから私は表情筋の弛みと頬の熱を誤魔化す為に、一時撤退を試みる事にしたのである。
「あ、いいねー。あたしロイヤルミルクティーでー」
「わたしもむっちゃ濃いいロイヤルで」
「あんたらちょっとは遠慮しなさいよ! ウチには普通のミルクティーしかないから! 牛乳で茶葉煮出したりなんてしてあげないからね!」
こいつらってホント図々しすぎ。一瞬でも幸せを感じちゃった私のピュアハートを返して!
心底呆れながらも私はドアノブに手をかける。早くこいつらから己のだらしない顔を隠したいから。早く火照った顔も身体も冷ましたいから。
だからなのだろう。早急に逃げ出したかったが為に、冷静な判断が出来ずにいたのだろう。
私は完全に失念していたのだ。部屋の主の消えた場に、この自由の権化共を残していくという危険性を。
そして私は部屋をあとにする。
こんな、誰がどう見ても「フラグ建設乙〜」としか思えないような馬鹿なセリフを残して──
「……じゃあちょっと席はずすから、そこら辺に適当に座って少し待っててよね……。あ、絶対に変なトコ開けたりしないでよ!」
× × ×
「ふーんふふーん♪」
煮立ってしまわないように、コトコト弱火で茶葉を煮出す。牛乳が沸騰しちゃうと、せっかくの倍量の茶葉なのに十分に抽出できなくなっちゃうのよね。
……って、ロイヤルミルクティー淹れちゃうのかよ。いやよいやよと言いながら鼻歌まじりに手間暇かけちゃうとか、なんたるお持て成し精神か。さすが私。日本人の鑑なんじゃないかしら。
「ん、でけた」
我ながら上出来なロイヤルっぷりを醸し出す紅茶をカップに注いで、トレイの上に乗せていく。さぞや美味しいであろう友人オススメケーキとミルクティーを楽しみながらの女子会とか、ほんの少し前まで一流のぼっちだった私からは想像できない姿だ。
馴れない状況にあたふた戸惑いながらも、なんだかんだと会話に花を咲かせているであろう数分後の自分の姿を想像すると、思わず口角が上がってしまう。
……頑張ってリア充女子二人のイマドキの会話に交ざってゆかねばね! でも、あんまり張り切ったり楽しそうにしちゃうとからかわれちゃいそうだから、「別にこんなのなんてことありませんけど?」って空気を醸し出していこう。
そんな決意と覚悟を胸に秘め、ティーカップ三脚とケーキの取り皿三枚をカチャカチャいわせ、やっと帰ってきました我が居城。
はてさて、主不在の我が城に取り残された客人達は、私の帰りを大人しく待っていたかしら?
「あ」
「あ」
「あ」
恭しくご主人様を迎え入れた扉を全力で押し開いた先で待っていたのは、私が席を立った際とは全く別の光景。
危険な友人の襲来に備え、確かに綺麗に片付けていたはずなのに、確かに隠していたはずなのに、なぜか片付けたはずのブツ達が部屋中に散乱していたのだ。
「や、ち、違うのよ美耶。なかなか帰ってこないから暇だなーって、なんか面白いもんでも隠してないかなーって、もっと言えば比企谷の写真とかあったらウケるのになーって思ってちょっと押し入れ開けてみたら雪崩が起きたのよ」
「ねぇ、今のセリフの中に「違う」部分あった? どこをどう聞いても部屋漁りの犯行声明だよね?」
「ごめんねミヤミヤ! わたしはやめときなよーって止めたんだよ?」
「なんで「止めたんだよ?」とか常識人アピールしながらずっとフィギュア見てんの? ねぇ死ぬの?」
ち、ちくしょう油断した! 舞い上がり過ぎて油断した! こいつら残して部屋を空にしていいわけなかったよ! こいつらが部屋を漁らないわけないじゃん! だいたい比企谷君の写真なんかあるわけないでしょうが! あの男がそう簡単に撮らせてくれるわけないでしょ! ……わ、私のスマホの中に大事に保管してあるツーショット写真一枚だけだから!
つか、押し入れ開けただけで雪崩が起きるような雑な片付け方をしていた数時間前の自分の油断っぷりに殺意が湧くまである。
……おい折本、エロゲのパッケージ裏をまじまじと眺めるんじゃありません。それエロいけど純愛さがウリの名作ってレビュー見て買ってみただけなんだから勘違いしないでよね!
おいチカマチ、「おぉ……」とか感心してないで美少女フィギュアの股間から目を離しなさい。最近のフィギュアは縞々パンツの皺の精巧さがスゴいんだよ。こだわりの職人気質かよこんちくしょう!
「やー、崩れ落ちてきてびっくりしちゃったよ。美耶が帰ってきちゃう前に押し入れに押し込もうと思ったんだけどさー、つい面白くて片付けらんなくなっちゃった♪」
「ねー」
「こっちがびっくりだよ! このデリカシー0女め! あと私のフィギュアをひっくり返してるそこのあんた! 「ねー」じゃない!」
人んちで勝手に人のあっち系コレクション見ながら『片付けしてたら昔の漫画とか出てきちゃって、ついつい読み始めて片付けが止まっちゃった法則☆』を楽しんでんじゃないよ!
「大丈夫だよ美耶。別に今更これくらいじゃ驚きもしないって。むしろこれくらいの方が美耶らしくていんじゃないっ?」
ばちこーんとウインクして素敵スマイルでサムズアップするのは、果たしてこのシチュエーションに合ってるのかしらん?
そして私らしさってなんでしょうかね。エロゲとパンツ丸出しフィギュアを持ってるのが私らしいのん?
はぁぁ、と深く溜め息を吐く私。うぅ、もうお仕舞いだよ。結局こうやってドン引きされて、お前らも私から離れていくんだよ……。リア充なんて爆散しちゃえよぉ!
いや、まぁ私とこいつらに関しては、この程度じゃどうということもないだろうけど。だって私、そもそもオープンオタクだし。
「……ねーねーミヤミヤ」
するとそんな私を見た仲町さんが不意に優しく微笑むと、そっと私の耳に口を寄せてきた。なになに? オタクきめぇって?
「ホントごめんね。かおりってさ、いっつもこうなのよ。大事に思ってる友達には自分を飾られたくないって、すぐ部屋漁ったりして相手のホントを引き出して仲良くなろうとすんの」
「……な、なんて傍迷惑な……」
比企谷君、あなた絶対折本さんを部屋に上げちゃダメ!
「ねー。マジデリカシーとか皆無だよねぇ」
……いや、あんたも大概だけどね?
「でもね、それは相手に対してだけすることじゃないの」
「え?」
「ふふ、今に分かるよー」
……どゆこと? と眉をひそめて首を傾げていると──
「ねー、なーに二人してナイショ話してんのー? あたしも入れてくれればいいじゃん」
一人蚊帳の外になっていた折本さんが、我慢出来なかったのか不機嫌そうに私たちにガバァッと抱きついてきた。ゆるゆりゆるゆり。
ちょっと? 健康そうで張りのあるなかなか育ったおっぱいをむぎゅっと押しつけてこないでよ。小振りに対する当て付けかな? あ、仲町さんはやっぱりナカーマ。
「なんでもないよー。ミヤミヤがちょっと凹んでたから慰めてただけ」
「そなの?」
きょとんと首をかしげる折本さん。どうやら自慢のコレクションが一般人に見付かってしまったオタクがいかにショックを受けるのか気付いてないようだ。
いやまぁ私は隠れオタクではないし、堂々と教室でラノベ読んだりゲームやったりしてるから、普通のオタクに比べたら全然動じないんだけどね。
「だからさー、べっつに今さら美耶の恥ずかしいコレクション見たくらいじゃなんとも思わないってばー」
恥ずかしいは余計だわ。
「そりゃさ? 人には見られたくない物のひとつやふたつ誰にだってあるだろうけど、そこら辺曝け出してこその親友じゃん? なんなら心友?」
あれ? おかしいな。まだ面と向かって「私たち友達だよ☆」とか認めてもいないのに、いつのまにやら親友にランクアップされちゃってるぞ? 親友どころか心の友だし。ジャイアンか。
「だからさ、美耶今度ウチにも来なよー。あたしも美耶にならなーんも隠さず曝け出してあげっからさ♪」
「ふぇ?」
な、なにも隠さず曝け出す(意味深)? ハァハァ。
いや、そんな馬鹿なこと(一糸纏わぬ折本さんのM字開脚姿)を考えている場合ではない。なんか気が付いたらいつの間にか折本さんちにお呼ばれされる事になっていました。
そんな突然の事態に些か困惑し、ちらと横を見るとぱちりと片目を瞑った仲町さん。
『でもね、それは相手に対してだけすることじゃないの』
……あ、そっか。ホントに仲良くなりたい友達とは恥部を曝け出し合いたいって事なんだ。ちゃんと自分も恥をかく覚悟があるからこそ私の部屋も漁ったんだね。たぶん折本さんは、私が席を立とうと立つまいと、どちらにせよ部屋を引っ繰り返していたんだろうな。うん。マジ……傍迷惑。あと折本さん、人に見られて困る物とか絶対ないでしょ。
「あ、じゃあわたしんちに遊びに来るのも決定ねー。過去の失恋メモリアルの数々とか、わたしもマジで人には見られたくないもの結構あるけど、ミヤミヤには全部見せてあげるからね。だからそろそろ許してー」
「……」
──なんか、上手いこと口車に乗せられて、二人の家にも遊びに行く約束を取り付けられてしまった。なんかこう、これが狙いで私の部屋漁ったんじゃないの? ってくらいに上手いこと転がされた感じ。
……ったく。
「……も、もういいよ。今回のことに関しては目を瞑ってあげる」
「ん? なんで美耶ニヤニヤしてんの?」
「し、してないもん!」
うぅ、なんでこんなデリカシー皆無の連中に、親友になりたいって認められちゃった♪なんて嬉しくなっちゃってんのよ私ぃ……! いくら何年も友達居なかったからって、もっと友達は選んだ方がいいんじゃない?
「も、もういいから! 私これ片付けとくから、あんたらロイヤルミルクティー飲んでケーキ食べてればいいじゃん!」
「結局ロイヤルミルクティーにしてくれたんだ、ウケる」
「う、うっしゃい」
「あはは、やっぱミヤミヤかーわーいーいー。わたし達も片付け手伝うよー」
「……もう触ってほしくないからケーキ食べてろって言ってるのくらい察してよ……」
「へへー」「ふふ」
──こうして、私 二宮美耶の久方ぶりの友達とのおうち遊びは、酷く騒がしく酷くお間抜けで、そして酷く胸がぽかぽかした柔らかい空気の中、笑い声が絶えることもなくゆっくりのんびり過ぎてゆくのでした♪
……最後に、コメディの神様からのこんな特大級の罠が仕掛けられていなければ……
「あ、これはそっちに押し込んじゃえばいっか」
「ちょっとかおり雑すぎ」
「いや、だからさ、もう私のもんに触んないでってば。人の話聞いてた?」
それは、半裸の美少女達をとっとと片付けてしまおうと作業している時のことだった。
手を出すなと言っても一向に聞きゃあしない親友達(推定)をガルルと牽制しつつ、せっせとコレクションを押し入れにしまい続ける事およそ五分。そんな時に折本さんの口から発せられたこんな一言により、事態は紛糾する事となる。
「ん? なんだこりゃ? なにこの薄い本」
……ん? 薄い本?
──薄い本。それは、我々の業界では誰もが知るワード。
同類の口から発せられたのならば、それは同好の士と歓びを分かち合える素敵なワード。
一転、同類とは真逆の存在の口から発せられた場合は、途端に全身から血の気が引くこと請け合いの恐怖のワードだったりする。
ん? でも待てよ? 私、薄い本なんて持ってなくない? てかそんなもん持ってたら真っ先に隠すし。
あれかな。コレクション掻き集めて押し入れにしまった時に紛れこんだ説明書かなにかかな。
「えーと、なになに? おそ松、さん……? なにこれこんなに薄いのに漫画なの? しかもおそ松“さん”てなに? “くん”じゃないの? ウケる!」
「……ん? ………………〜〜っ!?!?!?」
──ひ、ひぃぃぃぃ!? そ、それはぁぁぁ……!!
私 二宮美耶は、オタクではあっても決して腐ってはいない側の人間である。どちらかと言えば美少女モノの方が可愛くて好きだし。
でもね、ちょっと興味があったコミケってやつにたまたま行ってみた時、ちょっと前に話題になってたあのアニメの同人誌の島が目に付いたから、一体あの変なアニメのどこら辺がブームになる要素があんのよ? って、なんの気の迷いなのか、立ち読みもせずに興味本位で一冊買ってみた事があったのだ。
とはいえ腐っているわけではない私では、イケメンなわけでもない男同士(同じ顔)のカラミに興味が湧くはずもなく、二〜三回読んだっきり押し入れにしまい込み(二〜三回は読んだのかよ)、それっきり存在事態をすっかり忘れてしまっていた。
……ま、まさかそれが、このタイミングで発掘されてしまった……だと?
「んーと、なになにー?」
突然襲い掛かった危機に愕然としていると、なんの躊躇もなくぺらっとページを捲ろうとする折本さん。いや、少しは躊躇ってよ。
……ま、待ってぇェぇッ! それを見ちゃダメェェェっ!
いくら隠れていないとはいえ、いくら恥ずかしいコレクションはすでに見られたとはいえ、ソレはもうひと段階ふた段階上の特上の危険物なの! さ、さすがにソレだけは……ッ!
「待って折本さぁぁん!」
「うわ!? え、なに!?」
あの折本さんですらびっくりするくらいのジャンピングボディアタックで突撃をかます。見ようによっては完全に強制猥褻現場。現行犯逮捕である。……でも、これだけは! どうかこれだけは何卒お許しを!
驚いている彼女ではあるけれど、今はそれどころではない。言い訳などあとでどうとでもなる。今は一刻も早くコレを処分しなくては。早く、早く奪いとらなきゃ!
……しかし、私はあまりにも狼狽していたのだろう。奪い取らなきゃという意識が先行しすぎていた為、この勢いで突然飛び付いてしまったら、か弱い女の子がどういう行動を取ってしまうかまでは完全に頭の中から抜け落ちてしまっていた。
気が付いた時にはもう遅い。例の薄い本は、この時すでに折本さんの手元には無かった。本は無情にも、ひゅるると頭上へ舞い上がっていたのだから。
そう。折本さんはレイプ犯からの突然の抱き付き攻撃にいたく驚き、びっくりして薄い本を頭上へ放り投げていたのだった。
ばさっと、乾いた音が鳴り響いた。くんずほぐれつ絡みあった私と折本かおり、そしてその様子に唖然としている仲町千佳とのちょうど中間地点辺りで。
そして、そこで運悪く見開かれてしまったページの中では、とてもシンプルな顔をした男のシンプルな顔とは裏腹なリアルなアレを、同じ顔をしたシンプルな顔の男が「いっただっきまーす!」しているという地獄絵図だったのである。
力なく、膝からゆっくりと崩れ落ちる私。控え目に言ってオワタ。
「うわぁ……」
「え、と……」
「」
瞬間、世界中の時が止まった。なんという気まずい沈黙か。なんなら世界がこのまま崩壊してくれたら良かったのに。
「ち、違うの、これは誤解なの……! これは私のモノというよりは、奇跡的にほんの偶然に、たまたま私の手元に届いてしまっただけの神様の悪戯、みたいな……っ?」
みっともなくも、必死に言い訳を試みてみる。よしんば私がリアルに腐っていたのなら、こうも無様に言い訳などしなかっただろう。
でも、私ホントに腐ってないの! 本気で誤解なの! だから必死。超必死。腐ってないのに腐ってると思われるのは、オタク女としてのプライドが決して許さないのだから!
すると、優しく……とても優しく肩に添えられる手。見上げると、まるで聖母のような微笑みをたたえた折本さんが、ぱちりとウインクして親指を立てていました。
──嗚呼、良かった……。私の想い、通じたんだ……!
「だ、大丈夫だよ美耶……! た、たとえ美耶にどんな特殊な趣向があったって、あ、あたし達ズッ友だよ……っ!?」
「違っがーう! 全然分かってくれてないよ折本さん! あとそれ全然大丈夫そうじゃないよ! 絶対動揺してんじゃん!」
なんだよ! まぁそんなオチなんだろうなとは思ってたけど、やっぱ思いっきり誤解しっぱなしじゃんか!
「う、うわぁ……、なにこれー……」
そしてこっちは完全にドン引きである。ダ、ダメだ、ノリと勢いだけで生きてる折本さんならまだしも、イマドキの可愛い系JK仲町さんにこれは無理だった。
仲町さんの目には、この薄い本もこの薄い本を持っていた私も、さぞや汚らしい汚物に見えていることだろう。
「ミ、ミヤミヤ……」
「は、はい」
信じていたはずの……、親友になりたいと思ってくれていたはずの私の酷い裏切り。キモチワルイとかもうわたしに話し掛けないでとか、これは一体どんな罵声を浴びせられるのだろうか……
「……な、なにこれ? ミヤミヤの好きな世界ってこういうのが存在するの……!? よく分かんないんだけど、な、なんかドキドキしてきちゃったよ……! こういうのについてもっとkwsk」
「」
ねぇ、いま詳しくが完全にアルファベットになってたよね? あと血走ったその目とハァハァと荒れた鼻息を整えてください。
……これダメなヤツや。こっちはこっちで取り返しのつかない禁断の扉開けちゃったみたいだよ……。ごめんね、仲町さん……
引き気味ながらも苦笑いでサムズアップする折本さんと、昂揚してにへらっと頬を染める仲町さんに囲まれて、私 二宮美耶は思うのです。
──やはり、私のまちがってしまった青春には友達なんか要らないやい! と……
ふぇぇ……、これからのことを思うと死ぬほどめんどくさそうだよぉ……!
終わり
ね?どうでもいい話だったでしょ?(白目)
記念すべき第1話目ヒロインは、ごく一部の読者様にはとても愛されている二宮美耶ちゃんでした!
てことでこの作品は、一応あらすじにも書きましたが、こんな感じでオリキャラの本当にどうでもいい日常話だったり、本編では絶対に有り得ない八幡への恋心が芽生えちゃう本当にどうでもいいモブオリキャラのお話だったりデートしちゃったり、はたまた本編では全然ラブコメを始められそうもないヒドインが、一足飛びに突然デレたとこからラブコメが始まっちゃったりと、まさに「こんな自己満足なもんチラシの裏にでも書いてろやボケ」レベルのどうでもいいお話を、気分が乗った時につらつらと適当に書いていく短編集となります!
チラ裏だしほとんどオリキャラしか出てこないしで、いったい何人の読者様が読んで下さるか分かりませんが、さてと、次は誰書こうかなー?(*> U <*)