まちがった青春を送るオリヒロ達の夕べ   作:ぶーちゃん☆

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※今回のオリキャラを見て「……は?」と思ってしまった方は、先に後書きの最初をご覧になっていただいた方が賢明かも…?(白目)





やっぱ私のオフィスラブコメば間違ごうとるようよ 【前編】

 

 

 

「えっと……、は、はじめましてっ! 本日よりお世話になります、新入社員の金沢夏波(かなざわかなみ)です……! あはっ、そ、そのぉ、ごめんなさい、すっごく緊張しちゃってます……っ。……え、えへへ」

 

 

 私 金沢夏波は、この春福岡から上京したばかりの花の新社会人。

 あっちでは結構ハイレベルな高校と大学で青春を謳歌し、この春それなりの企業へと就職する事ができた為、ついに念願の東京デビューである。

 

 思えばなかなかにキツかった学生時代。どちらかといえば身の丈に合わないレベルの学校を選んできた私は、友人らに見せる優秀で余裕綽々な『わ た し』とは裏腹に、遊んでいるとき以外の時間は常に猛勉強。周りの子たちに置いていかれないようにする為、一体どれほどの時間を勉強に費やした事だろうか……

 それもこれも、こうして上京し、一流の企業で一流のイケメンを捕まえ、夢の東京ブルジョア暮らしを手に入れたかったが為の血の滲むような努力であった。

 

 そうしてその夢を掴む為の第一歩。新社会人として歩き始めたばかりの私の身に課せられた第一試練であるこの自己紹介。そんな自己アピールの為に設けられたこの機会は…………、まずまずのデキである。つまり掴みはオッケー。

 ふふ、見てよ。本年度入社の新人の中でも一際華やかなこの私の緊張感溢れるたどたどしい自己紹介で、すでに何人もの男達が私にメロメロ状態。

 先輩達はおろか、私と同じく本年度入社の新人男子達まで、可愛い私の可愛いオドオドっぷりににへらっと顔を緩ませている。あ、でも既婚オヤジ達にまでメロメロになられても困るんよね。

 

 この、第一印象から私を気に入った男達の中には、一体何人の前途洋洋なイケメンが紛れ込んでいるのだろうか。そんな優良物件の数々の中から特に優良な物件を選び抜き、いつの日か誰にも負けない幸せを掴んでやろうもん。あれだけの努力の末にようやく手に入れたこの東京デビュー。寝る間も惜しんで遊びと勉強に明け暮れたあのリア充ガリ勉時代の努力、こっちとしてはなんとしてでも報われてくれなきゃワリに合わんとよ!

 

 

 そんな肉食系な私にとって、これから訪れる優秀イケメンゲット第一のチャンス。それは、新入社員に付けてくれる新人教育係という名の、優秀なはずの先輩。

 

 新人の教育係というくらいだから、期待の新人を安心して任せられるくらい上司からの信任も厚い期待の若手が教育係に任命されるのは必定。若手ながらも近い将来出世が約束されたエリートのはずなのだ。

 

 これは、この私の新しい生活の幸運度合いを量るいい機会である。ふふふ、努力の賜物でいい高校いい大学いい企業へと順調に歩んできた現在のイケイケな私の強運を持ってすれば、この関門も難なく乗り切れるに違いない。期待の新人であり、ちょー可愛い私には、この部署ナンバーワン若手のイケメンがついてくれるに決まっとる!

 

 そんな根拠の無い自信にほくそ笑みながら、私担当の若手社員が呼ばれるのをギラギラした目付きで大人しく待っていると、ついにはその名が呼ばれる。

 

「えーと、それじゃ金沢さんにはー……、比企谷、お前が付いてやれ」

 

  比企谷、さんか。少し変わった名字だな。どんな人物かはまだ分からないけれど、私の担当になれたという事は、逆に考えたらその人からしてもかなりラッキーなはずよね。周りの男性社員達の羨ましそうな顔がそれを物語ってるもん。

 これは本人もさぞや喜んでいるに違いない。なんなら小さくガッツポーズまでしちゃってるかもね。

 おめでとう比企谷さん! これから二人三脚で頑張ってやっていこうね☆

 

 比企谷さんというまだ顔も知らない男性社員の強運さを讃えながら、さて、どんな爽やか笑顔で上司からの言い付けに元気にお返事するのかなと待っていると──

 

「……えぇぇ」

 

 ……なんとも……、なんとも嫌っそうな返事が、人垣の向こうの方から聞こえてきた。

 は? なんやの? 私の担当ば不服と……?

 …………や、待っちゅうよ。私の担当ば不服なわけなかろうもん。落ち着け私。

 

 そ、そうそう。多分アレだろう。その比企谷さんとかいう人は、金沢夏波という新入社員がどんな人物なのか、まだ解っていないのだろう。なんなら新人なんかには一切の興味がない、バリバリのビジネスマンなのではなかろうか。

 その証拠に、新人の自己紹介を見る為に集まっている社員の群れの中ではなく、その人垣の向こうから返事が聞こえてきたでしょ?

 エリート街道をまっしぐらに突き進む人にとっては、新人だの新人教育だのは他人事なのだろう。だから新人の自己紹介なんかには興味がなく、自己紹介中も自身のデスクで黙々と仕事を続けていた。そんな中、突如与えられた新人教育というエリート街道とは無関係の仕事に、思わず嫌な声が出てしまっただけに違いない。

 

 なるほどなるほど。ちょっと出鼻を挫かれちゃったけど、そういう事なら致し方ないよね。若干期待とは違っていたけれど、そういうお堅いエリートビジネスマンを落とすというのも、それはそれで楽しいのではなかろうか。

 

 私は、人垣を割ってこちらへと向かってくる人物に期待を込めた眼差しを向ける。多少無愛想だろうとお堅めだろうと、将来有望なイケメンであればなんら問題はないのだ。だから私は、まだ瞳に写らぬ人垣の向こうの若手男性社員に向かってこう祈るのだ。

 

 

 ──来い来い来い! イケメン来い! 有望株来い!

 

「……うわぁ」

 

 ……結論から言うと、私の祈りは神には届かなかった。

 なぜなら人垣を割って姿を見せたその人物は、髪はぼさぼさスーツはヨレヨレ。猫背でだらしない、とても有望株とは思えない出で立ちの目が腐った冴えない男だったのだから……

 

 

 ──はぁぁぁ〜……。ま、まぁまだまだチャンスはいくらでもあるばい……。べ、別に教育係が期待外れもいいトコやったからって、これから新入社員歓迎会だって社内合コンだってチャンスはいくらだってあろうもん……! まだまだ私の夢はこれからっちゃね!

 

 

× × ×

 

 

「比企谷せんぱーい! ここってこんな感じでいいですかー?」

 

「……おう、まぁ大丈夫だろ」

 

「やった!」

 

 

 あの入社初日から約ひと月ほど。結果的に言うと、私の第一のチャンスはあながち失敗でもなかったようだ。

 第一印象は最悪だった比企谷先輩。ぶっちゃけ担当が決まってから数日はホントどうでもいい相手だった。

 

 根暗そうだしだらしないし仕事も出来なさそうだし。その上、この私の新人教育担当になった事を本気でめんどくさがってたし私にちやほやしてこないしで、もう最悪って感じだった。

 

 コイツが居ると他の先輩に仕事を教えてもらう体で唾つけるのも色々とカドが立ちそうだし、早く担当期間終わってくれないかなぁ……、なんて思ってはいたんだけれど、いざ教育期間が始まってみたら、意外や意外、この人結構優秀だった。

 

 めんどくさがるワリには面倒見が良く、めんどくさがるワリには仕事もちゃんとやるし、めんどくさがるワリにはなかなかに優しい。

 変り者だがそんな優秀な堅物ゆえか、当初の予想通り直属の上司からの信頼も厚いようで、噂によると現在同期の中では出世街道に一番近いんだとか。

 

 見た目に関しても、だらしない格好にだらしない猫背、そしてさらにすべてを台無しにする腐った目によって最初は全然気付かなかったけど、実はよくよく見るとわりとイケメンっぽい。わりとだけどね、わりと。

 

 目はどうしようもないが、格好なんてのはいくらでもなんとでもなる要素でしかなく、たぶん洋服の青ナントカ辺りで買っているのだろう数年モノのヨレヨレスーツを剥ぎ取って、社から程近くの新宿ルミネとかに行って、まぁベタではあるけどアローズとかナノユニバース辺りでシュッとしたスーツ一式でも揃えて着せ替えれば、結構それなりに見えるんじゃなかろうか?

 

 この非っ常にめんどくさい性格とか、この非っ常に分かりづらい優しさとか、あとは実はまぁまぁイケメンだったりする非っ常に分かりづらい魅力とか、この人ってもしかしたら、ハマる人はハマっちゃう隠れ優良物件なのかも。女って、分かりやすい明らかなイケメンとか大好きだけど、意外と『自分にしか分からない冴えない男の良さを引き出して、自分の手で育てあげたイケメン』を、魅力に気付かなかった連中に見せびらかすのとかも大好きな生き物だし。

 

 とはいえ別に私は比企谷先輩にハマッているわけではない。けど、まぁ一応キープしておく分には損は無いかなってくらいには気持ちが変化してきている。入社以来、社内でも社外でも何度か合コンとかしてるけど、今んトコ比企谷先輩よりビビっとくる人も居ないし。

 

「……ここまでやれてりゃあとは一人で出来んだろ。じゃあお先」

 

 そんな風に思い始めたここ最近のある日のこと。

 今日も今日とてなかなか進まない仕事を頑張って片付けていると、教育係な比企谷先輩から無慈悲な提案が上がってしまった。

 

「え!? ちょ、ちょっとマジですか!? まだ一人じゃ無理ですよー。こんな可愛い後輩置いて一人で先帰っちゃうんですかー!?」

 

 マジ前言撤回モノですよ。優しさの欠片もないじゃないですかこの先輩。

 

「いやいやもう余裕だろうが。あとこれくらいなら一人でやってけ」

 

 そう言って、手の甲で書類の束をぱしっと叩く教育係。束と言ってもほんの数枚を残すのみではあるけれど。

 

「ひどいです冷たいです横暴です! 鬼ー! 鬼先輩ー!」

 

「冷徹でも鬼でも結構。つか毎日毎日どんだけ残業付き合ってやってると思ってんだ……」

 

「う"っ……」

 

「しかももうそろそろ教育係期間とかいう優しさ溢れる時間も終了だぞ。むしろここまで残っててやった優しい先輩に感謝して欲しいまである」

 

「う"っ……」

 

 ──ぐぅっ、悔しいけど申し開きも出来ん……。確かに毎日毎日遅くまで付き合わせてしもうてるし…

 

 私は、残念なことに同期の中でも特に仕事が遅い。他の同期達が仕事に慣れて教育係の手を煩わせなくなる中、私は毎日どんくさい仕事っぷりで毎日のように仕事を残している。

 中学高校大学の時は、華やかなこの見た目と頭の優秀さ(必死だったけど)で周りから一目置かれる特別な存在だったのに、いざ上京してそこそこの企業に入ってみたら、どこにでも居るような冴えない社会人になってしまった。いや、この比企谷先輩以外の男子社員からはモテモテだから、冴えない、というのは違うか。ただ、キャリアウーマンとしてはパッとしないってだけ。

 

 たぶん部長はそんな私を見越して、若手で一番優秀な比企谷先輩を担当にしたのだろう。このひと月で付いてくれていたのが比企谷先輩じゃなかったら、一人でもあと一時間もすれば片付けられそうと思える今日この日の残業は、さらに二時間は上積みされるくらいの量だったんだろうなって思う。

 

「んじゃまお疲れ……」

 

 そう。私は実は結構感謝してるのよね、この今にもオフィスから出ていこうとしている冴えない先輩に。

 だから私は、実は結構お世話になっているこの捻くれた先輩の背中に向けて、感謝を込めて小さくこう呟くのだった。

 

「チッ……やっぱバリ好かんわこん人……」

 

「おい、舌打ちと本音と方言漏れちゃってんぞ」

 

「えー? やだなー比企谷せんぱーい。今や立派な東京人の私ですよ? 方言なんて出るわけ無いじゃないですかー? お疲れさまでしたー」

 

「舌打ちと本音の方は否定しないのかよ……」

 

 

 当ったり前やろが。そこは譲れんボーダーラインでしょ。素敵なシティーガールは、方言なんぞよう喋らんけぇねっ♪

 

 

 

 

続く

 

 

 






【オリキャラ説明】

金沢夏波(かなざわかなみ)
『八幡と、恋する乙女の恋物語集』の中の1話『私の青春ラブコメはまだまだ打ち切りENDではなぁい!』にチョイ役で出て来た金沢さんです(・ω・)




というわけで、ここにきてまさかまさかの新キャラ(ではない)投入回!
上記でご説明の通り、過去作のチョイ役オリキャラSSというとんでもない作品です☆
ホラ、ここはチラ裏ですから。オリジナルでやってろよ、とか言われても仕方のないどうでもいいモノであろうとも、思い立った時に書きたいモノを書ける素晴らしい場所なんです。読者さんの希望とか需要とかどうでもいいんです(>ω・)
むしろこういうのを気楽に書きたかったからチラ裏にしたまである。


あの作品では『いろはすを連想させて、平塚先生がいろはすの話を八幡に振る』という目的のためだけに存在したキャラクターなのですが、このどうでもいいチラ裏短編集の為にまさかの再登場。いろはすを連想させる為にいろはすモドキにしか見えず、そのまま書いてもやっぱりいろはすモドキにしか見えなくなりそうだったんで、差別化をはかるためにちょっぴり方言女子にしてみました♪



残念ながら次回の更新もこの福岡女子金沢さんとなりますので、どうぞヨロシクですノシ


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