まちがった青春を送るオリヒロ達の夕べ   作:ぶーちゃん☆

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南足柄市に熱い風評被害('・ω・`)





やっぱ私のオフィスラブコメば間違ごうとるようよ 【中編】

 

 

 

 比企谷先輩がオフィスを退出してからおよそ四十分ほど。

 一時間もあれば終わるかな〜、なんて思ってはいたが、残念ながらその考えは些か楽観的すぎたようだ。

 

 もう余裕だろうと思っていた仕事内容も、いつもそばで世話を焼いてくれる比企谷先輩が近くに居るか居ないかでは気の持ちようが全然違うようで、思っていたより全然仕事が進まない。このままだと、ここからさらに一時間くらいは掛かってしまいそう。

 

「……はぁぁ。だからまだ帰んなっちゅうたんにぃ……。比企谷先輩のばーか。もうちょいくらい優しくしてくれたってよかろうが〜……」

 

 いや、まぁなんだかんだ言って優しいんだけどさ。

 

 ふぇぇ、もう帰りたいよー……、とぶちぶち不満を垂れ流しつつも、薄暗いオフィスにぼんやり浮かんだモニターの灯りに向かって、カタカタカタ、ッターン! と、意識高い系の真似事をしながらキーボードを叩く。冴えない新社会人でもエンターをッターン! と押しただけでバリバリのキャリアウーマンに見えてくるから不思議。

 

 

 ──と、そんな人には見せられない恥ずかしい歴史をこさえていた時だった。私以外に誰も居ないはずのオフィスに突然人の気配がしたのは。

 そして、経費削減で消していたオフィスの照明が、不意に煌々と辺りを照らしだした。

 

「あれ?」

 

 これってもしかして? 何だかんだいって可愛い後輩を心配した比企谷先輩が助けにきてくれたん!?

 やー、比企谷先輩! さっきは好かんなんて言ってしもうてごめんなさいです! もうめっちゃ好きーッ!

 

 ……が、しかし──

 

「お、まだ誰か居たのかー。お疲れさーん」

 

 そんな言葉をかけてきたのは比企谷先輩ではなく、正直、かなり苦手な他部署の部長だった……

 

 

× × ×

 

 

 彼の姿を見咎めた私の笑顔はヒクッと引きつる。もちろん相手にバレないよう最小限にとどめて。

 

「お、なんだぁ? こんな時間まで一人で残ってるなんてエライ仕事熱心だなぁ! いや感心感心!」

 

「お、お疲れさまでーす、南足柄部長……!」

 

 南足柄人事部長。他部署の部長ゆえ関わりは今んトコ皆無ではあるが、社内……とりわけ女子社員にはとても有名な部長なので、私もよく知っている上司である。

 ナニが有名なのかと言うと──

 

「キミは確か新入社員のー……金沢くん、だっけか? いやー、こんな時間まで頑張り屋さんだねぇ。ウチの若い連中の間でも結構噂になってるよ。こっちの部署にはいつも一生懸命働いてる可愛い新人が居て羨ましいってさぁ。いやー、噂通り一生懸命だし、ホントかわいいねぇ」

 

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

 ご覧の通り、よくこの時代に生き残れてるよな〜ってくらいの、旧時代的セクハラオヤジで有名なのだ。

 言動から視線から醸し出す空気に至るまで、とにかくなんかエロい。だって気付いたらいつの間にかすぐ隣にまで近寄ってきてて、油ギッシュな手を私の肩にポンと添えてるし。う、サブイボがぁ……!

 

 

 

 イマドキの企業では、コーポレートガバナンスやらコンプライアンスやらと、なんかよう解らん横文字をギャーギャー叫んでこういったセクハラオヤジから女性社員の尊厳が守られとるんじゃなかって?

 いやいや、いくらme too me too言ってみたところで、それはまず誰かが最初に声を上げなければ始まらないんよ。誰だって自分が一番の矢面には立ちたくないのだから。

 その勇気ある……もしくは数多くの女性社員達に生け贄にされて矢面に立たされた一人が、男性社員達からの「めんどくせぇ女だな」「自意識過剰かよ」という侮蔑の視線を一手に引き受けつつ、涙を堪えてme tooな仲間を募って集まって、そこで初めてme too運動が発生するわけ。

 

 

 まぁ私から言わせれば、肩をポンと叩かれて「可愛いね!」「モテそうだよね!」とかっていう同じ行動同じ言動でも、油ギッシュなハゲオヤジ上司に言われたらセクハラと騒ぐくせに、狙ってるイケメン上司に言われたらセクハラどころか雌の顔しちゃうとか、それこそ性差別のセクハラハラスメントでしょ、って思わなくもないけどね。

 都合のいいトコでは女をウリにして女を武器に使って、いざとなると男女平等差別だ差別だme too me too騒いでる女は、上手く女を利用してほくそ笑んでる私みたいなモテ女からしたら、ぶっちゃけ女の品位を落とす害悪でしかない。

 ああいう連中、マジでレディースデーの利用とかやめてくれんかねぇ。だってあれって典型的な女性差別じゃなかと? したっけレディースデーに店が混まんくなって楽なんやけどねぇ。

 

 

 と、若干話が逸れてしまったが、それはあくまでセクハラとも言えないコミュニケーションで騒いでセクハラハラスメントする一部のバカ女に対して言っているだけの話で、実際にリアルでセクハラ行為をするオヤジば死ねち思うし、セクハラされる女の子はバリきもくてバリ恐いんよ。

 

 そして今から行われようとしているのは勿論──

 

「こんな遅くまで頑張ってる新人ちゃん見ちゃったら、上司としてはなんかしてあげたくなっちゃうよねー。……んー、よし! じゃあ夏波ちゃん、今から夕ご飯でも奢ってあげようか。美味しいワイン出す店に連れてってあげるよ」

 

 ──勿論、リアルな方のセクハラである。

 いや、今から行われようとしているもなにも、二人きりのオフィスでいやらしい手つきで肩に手を置かれて可愛いを連呼されてる現時点で、すでに立派なセクハラ認定やけども。

 つかなして私のファーストネーム知ってる上にちゃん付けで呼んでるん、こんオヤジ……。き、きもっ……!

 ま、まさか「あれ? まだ誰か居たのかー」とか適当なこと言っといて、実は食事誘う女子社員を物色してたんじゃ……?

 

「わ、わぁー、ありがとうございますぅ……! あ、で、でもまだ仕事残ってますし、また今度の機会にでもぉ……」

 

「あー、気にすることないよぉ。見たところそんなに残ってないみたいだし、終わるの待っててあげるから」

 

 ……いやいや、誰も待っててくれなんて一言も言ってないのに、待ってて“あげる”とか恩着せがましく言われましても……

 

「や、やー、部長をお待たせするだなんて、さすがに申し訳ないと言いますか何と言いますか、やむにやまれぬ私事で恐縮と言いますか……。それにここのところ残業続きで疲れ溜まってるんで、たぶんお酒とか飲んだら酔いつぶれちゃいそうですしぃ……」

 

「こらこら、新人は上司の誘いは遠慮せず受けるもんだよ? それに人事部の部長とコネクション持っとくのは新人にとってプラスでしょ?」

 

「……で、ですよねー」

 

 それもう、新人は人事部部長の機嫌害ねたらお前の居場所ねーから、っていうパワハラじゃないですか……。コイツこんだけ断ってんのにメンタル強すぎじゃろ……。さすが有名なセクハラ部長やわ……

 

 

 ……嗚呼、これが世に言う社会人の理不尽ってやつかぁ……! これもうガチで行かなきゃならんやつなのぉ……? やだよぉ! キモかよぉ……!

 

「大丈夫大丈夫。もし酔いつぶれちゃってもタクシーで家まで送ってあげるから。安心してたくさん飲みなさい?」

 

「……」

 

 これもうセクハラ通り越して襲う気かこいつ。酔いつぶれさせてホテル連れ込む気まんまんやろが。

 

 ……こんオヤジ、博多女を舐めとったらいかんよ。呑み競べでそこらの東京モンごときに負けるワケなかろうが!

 

「じゃ、じゃあ部長のお言葉に甘えさせていただきまーす……」

 

「おう、若者はそうこなくっちゃ! ふひひ」

 

「」

 

 ──ふぇぇ、やっぱやだよぉ! 確かに呑み競べで負ける可能性は皆無。先に酔いつぶれて店に放置されてゲロまみれになるのは南足柄部長で確定している。

 でも潰すまでの間、私は飲みの席でどれほどのセクハラ行為を受けることだろうか。現時点でさえ肩に手を置かれるというセクハラを受けてしまっている以上、店に行ったらコイツ絶対に腰に手を回してきたりお尻触ってきたりしようとするでしょ……。サ、サブイボがぁ……

 

 カチンときて、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ「こんオヤジ、飲みん席で潰してやっちゃろう」と意気込んでしまったのだが、このいやらしか笑顔を見た途端にあっさりと戦意喪失。

 すぐ近くだし部長の見栄も張れるしで、パークハイアットのラウンジ辺りで都会の夜景を見下ろしながらお洒落に飲み明かして、そのまま客室に連れてってやろうとか考えてそうな嫌〜なキモ面に、ついつい食事の誘いにのってしまった己の短絡さに後悔の念が渦巻きまくる。アホか夏波! 嫌がってる事に気付くまでやんわり断り続けぇよ!

 

「よし! そうと決まればこんなのちゃっちゃと片付けちゃおうね夏波ちゃん。南足柄部長が手取り足取り教えてあげるからね〜」

 

「……あ、あははっ」

 

 ひくひくっと頬を引きつらせ、私はモニターへと視線を移す。エロオヤジのニヤケ面はもうこれ以上直視できん。もちろん仕事の手伝いは「自分で終わらせなきゃ意味ないですからぁ」と丁重にお断わりして。

 

 

 さっきまであれほど早く終わらせたいと思っていた憎っくき残務が、今は狂おしいほど愛おしい。だってこの残務が終わってしまったら、このセクハラエロ部長と食事に行かなきゃならないのだから。くっそ……! せめてバリ高いワイン飲みまくって、そん顔青ざめさせてやるけん……!

 

 ……ちゅーても、いくら高か酒飲んだって、酒っちゅうのは飲む相手次第で味変わんのよねぇ……。一緒に居て楽しか人じゃなきゃ、サシ飲みなんて不味くてかなわんよ。はぁ……旨か酒ば飲みたか〜……

 

 

 そして、出来る限りゆっくりと仕事を進めつつ、へらへらとエロ面浮かべて仕事が終わるのを今か今かと待っている部長の目を盗み、今日に限って先に帰って、こんな可愛い後輩をこんな目に合わせた元凶のあの男へと恨み言のLINE……、いや、あの人LINEしてなかった。メールを送り付けてやる事にした私は、デスクの下でぽちぽちスマホをいじる。

 ちっきしょー! 教育係なら最後まで責任取らんね〜!!

 

 

[比企谷せんぱーい! なんで先帰っちゃったんですかぁ!

 

先輩が帰っちゃったせいで南セク柄に確保されちゃたじゃないですかぁ゚。(p>∧<q)。゚゚

 

やーだーよぉ! 残務処理終わっちゃったら南セク柄とディナーですよぅ! 行きたくないよぅ(ノд<。)゜。

 

これもう後日絶対責任とってもらいますからねッ!! ばかっ!]

 

 

 ──フッ。少しだけスッキリした。完全にただの八つ当たりだけど。

 でもざまぁみぃ、これ見て可愛い後輩残して先帰った自責の念に駆られりゃいいんよ!

 ……でもあん男、メールなんて見なかったフリして、後日追及したら「ざまぁw これも社会勉強の一環だろ。やばい俺教育係の鑑じゃね?」とか言ってニヤニヤしそうやけど……! あ"〜、そん時ん顔めっちゃ想像出来っちゃ! そん腹立つ顔ちかっぱくらしたかー!

 

「ん? どしたの? 机の下で携帯なんて弄っちゃって」

 

「あ、や、な、なんでもないですぅ! ちょっとLINEチェックを……!」

 

「へぇ、最近の若い子は大変だねぇ。でも楽しそうだし俺もらいん? やってみようかなぁ。夏波ちゃんと」

 

「あはは〜……」

 

 ウ、ウザ……っ!

 

 

 

 

 比企谷先輩のムカつく笑み(想像)に肩を震わせ、セクハラ部長からの期待のオーラに足を震わせ、モニターを見つめながらキーボードをカチャカチャいわす事およそ十分ほど。

 はぁぁ……、もし部長がトイレでも行ってくれたらその隙に逃げ出せるのにな〜……なんて、一切仕事に身が入らないでいた時だった。そんな魂の抜けかけた私に、まさかの救いの神が舞い降りたのは。

 

 

 ……その神は、オフィスへと足を踏み入れた瞬間、開口一番こう言うのだ。そしてそいつの登場自体にも面食らったというのに、その口から放たれた言葉にも、さらに面食らわせられることとなる。

 

「金沢、仕事済んだか? そろそろ帰るぞー」

 

「ふぇ……? ひ、比企谷先輩……?」

 

 

 ──え? なんでここに居んの? なんで家に帰ってないの? なんで?

 しかもそろそろ帰るぞってなに? 一緒に帰る約束とか、多分してないですよね?

 

 

 まさかの不意打ち登場と不意打ち同伴帰宅提案にしこたま面食らわせられて、ぽけ〜っと阿呆のようにあんぐりと口を開けて固まる私。

 

 ……ひ、比企谷先輩、あんたどんだけ私に面食らわせたら気が済むんよ。そんなに面ばっかりよう食えんよ。そこは面やなくて麺にしときましょう。

 ほら、やっぱ夜空の下、屋台で食べる〆の博多ラーメンは何度も替え玉しないと気が済まんからね☆ って五月蝿いわ。

 

 

 

 

 

続く

 





というわけで金沢さんの中編でした!
ちなみに南足柄市さまに恨みはありません(・ω・)


なんか更新が早いように感じられるかも知れませんが、ちょうど切りやすい部分があったから前中後の3話に分けただけであって、字数的にはこの前編中編合わせても、美耶と愛ちゃんの1話分も無いんですよ(汗)

だから、べ、別にノリノリで書いてるってわけじゃないんだからね!
(連載開始からたったひと月で5話目の時点で十分ノリノリな可能性)


というわけで次で金沢編ラストとなります!
それではまたノシ

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