そして、目を覚ました曜は・・・。
タグ通り、重い話です。
そういうのが苦手な方はお気をつけください。
あと、一万八千字ほどあります。
「ふぅ、だいぶ衣装用の布買えたね」
「うん。でもいっぱいだね。九人分となるとこんなにたくさんだとは思わなかったよ」
「まぁ、一部はコスプレ用に……」
「あー、よーちゃん、職権乱用だよ!それに、部費で買ったんだからそんなことしちゃダメだよー」
「あはは。冗談だよ。半分は閉校祭で使う団体用のやつだよ」
「そっか。なら良かった……って、なんで、それもチカたちが買いに来てるの?」
「まぁ、ついでってことで」
冬の寒さがまだ厳しい晴れの日。私と千歌ちゃんはたくさんの衣装の材料を持って駅前を歩いていた。
「そっか。よーちゃん、ちゃんと前見えてる?」
「もちろん……ぎりぎりだけど」
「もぉ。ミシンが安かったからって、なんでこのタイミングで買うかな?」
「だって、次来た時に売り切れてたら嫌だったし……」
私はセールでやすくなっていたミシンの入った箱を両手で持ちその上に材料の袋を乗せていて、前が見えていない状態で歩いていた。千歌ちゃんは両手にたくさんの糸やら布やらが入った袋を持っている。
見えてない状態だけど、千歌ちゃんもこれ以上持てないから、ギリギリ見えていることにする。それに、周りの景色が見えてればなんとなく道はわかるし、前から人が来てたら……まぁ、避けてくれると思う。
そんな油断が私の反応を鈍らせていた。
「よーちゃんッ!」
「え?」
いきなり日々いた千歌ちゃんの叫び声。いきなりだったから、驚いてしまい、その場に立ち止る。その際に箱の上に乗っていた袋が一つ落下し、私の前方の視界がよくなる。
それと同時にどうして千歌ちゃんが叫んだのかもわかった。
私の目の前に一台の車が突っ込んできていたから。
私はどうにか助かる術を考える。その結果、回避は無理そうだから、怪我を覚悟で箱を私と車の前、できれば胸の前辺りに持つ。
せめて、これでクッションになればいいけど。
「よーちゃんッ!」
キキッー!ドンッ!
~☆~
「ん~」
「曜ちゃん!」
「曜!」
「わっ!」
私が目覚めたら私の顔を覗き込むように千歌ちゃんと果南ちゃんの顔があった。いきなり二人の顔があって、私は驚きの声を漏らすと、千歌ちゃんは安心したように私から離れ、果南ちゃんは私を抱きしめる。
周りを見回すと、白い壁に天井と病院で、私は生きていた。
どうやら、ミシンと布がクッションになって助かったみたい。あの時の私の判断はどうやら正しかったらしかった。
身体の状態は、地面にぶつかった際に打ち付けたのと切り傷があっただけだった
「良かった、曜が目を覚まして」
「もう、心配し過ぎだよー」
「ごめん。一週間も目を覚まさなかったから……てっきり」
「あっ、ほんとだ。そんなに寝てたんだ」
果南ちゃんに言われて時計を見れば、事故にあったあの日から一週間が経っていた。あー、衣装間に合うかな?それにそんなに寝てたら体力も落ちてそうかも。
「曜!」
「曜ちゃん!」
「うわっ!」
すると、病院のドアが開いて梨子ちゃんたちが現れ、私を見るや鞠莉ちゃんと梨子ちゃんが飛び込んできた。いきなり抱きつかれたことで、私は声を上げるも、二人とも私が無事だったことに喜んでいて聞こえていなさそうだった。普段なら注意しそうなダイヤさんも、今回に関しては注意することは無く、みんな安堵した表情だった。
「心配かけたね。もう大丈夫。退院したらすぐに練習に戻るね。でも、良かった。千歌ちゃんは巻き込まれなかったみたいで」
「え?」
「あはは。曜ちゃんに突っ込んじゃったからね」
「もしかしたら千歌ちゃんが声をかけてくれたから、そのおかげでこうして助かったかも。ありがとうね、千歌ちゃん!」
「うん!」
千歌ちゃんがあの時声をかけてくれてたから、私は対応ができた。そう考えると、千歌ちゃんのおかげで助かった訳だ。
「みんな、どうかしたの?」
「ん?ううん。なんでもない」
「ただ、曜が心配でここ一週間練習できてなかったから。それなのに、曜は起きるなり練習のことを言うから驚いちゃった」
すると、みんな驚いた顔をしていて気になり、私は聞いた。でも、気のせいだったみたいでそう言われた。
ありゃ、心配させちゃったせいでそんなことになってたんだ。
「話したいことはあるけど、この後検査らしいから私たちは帰るわね」
「うん。わざわざお見舞いありがとうね」
すると、みんなはそう言って病室を出ていく。
「じゃっ、私も行くね」
「じゃぁ、私も」
「うん。またね。果南ちゃん、千歌ちゃん」
そして、果南ちゃんと千歌ちゃんも少し遅れて病室を出て行ったのだった。
~☆~
「あっ、よーちゃん!おはよー」
「おはヨーソロー!千歌ちゃん、梨子ちゃん」
「おはよ、曜ちゃん」
一応の為に検査をしたけど、特に異常はなく私はその翌日のうちに退院することができた。
だから、退院した翌日から学校に復帰した。教室に行くとすでに千歌ちゃんと梨子ちゃんは来ていた。てっきり朝練があると思ってたけど、今日は元から鞠莉ちゃんたちは仕事があったらしくなかった。
クラスのみんなが私の心配をしていてくれて、一週間分のノートを見せてくれたりと色々助けられた。
そのおかげで、授業について行け無くなるようなことは無く、どうにかその日の授業を終えた。
「千歌ちゃん、梨子ちゃん、部室行こー」
「うん!チカ早く身体を動かしたかったよ」
「そうだね。早く部室行こっか」
HRが終わるなり、私は二人に声をかけて部室に行く。部室に着くと、まだみんなは来ていなかった。
だから、とりあえず着替えをして待つことにする。
「曜ちゃんは身体の調子本当に大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ」
着替えていると、梨子ちゃんは心配そうに私にそう聞く。だから、私は大丈夫なことを示すためにその場で跳ねてみせる。そのおかげか、梨子ちゃんは納得してくれた。
「決勝まで残り日数も少ないことですし、ビシバシ行きますわよ!」
「うん!了解であります!」
「うん」
その後、みんなも集まり、私たちはいつも通り屋上で練習を始めた。でも、みんなの動きは硬く、Aqoursの練習は本当にやってなかったらしかった。
「もぉー。心配だったのはわかるけど、時間が無いんだからー」
「ごめん、曜ちゃん」
「と言っても、ずっと寝てた私が言うのも変だよね?」
「ありゃ?曜がそれ言っちゃうんだ」
私は笑みを浮かべてそう言うと、みんなも笑みを浮かべる。
「よし!みんな、遅れを取り戻すよ!」
「そうね。まぁ、私は問題ないけど」
私たちはそう言って練習を続けた。
練習していなかったとはいえ、曲はもう出来上がっていたから、滞りなく進み、衣装に関してもルビィちゃん、ダイヤさん、善子ちゃんと一緒に作ったことで、どうにか間に合わせることができ、閉校祭の日を迎えた。
~☆~
閉校祭を終えて、浦の星AQUARIUMで使った教室を元の形に戻すために大急ぎで作業をし、なんだかんだで終わった。果南ちゃんたちと別れて、私は千歌ちゃんたちの喫茶店の片づけの手伝いに向かった。
でも、すでに片づけが終わった後のようで、教室には千歌ちゃんと梨子ちゃんの姿は見えなかった。
「あれ?千歌ちゃんと梨子ちゃんは?」
「ん?り……二人なら部室に行ったはずだよ」
「そっか、ありがと」
むっちゃんに聞くと、そういうことらしく、私は部室に歩を進める。
「あっ、よーちゃん!」
そして、部室の前に千歌ちゃんがいて、私に気付くと明るい表情をした。
部室の中には七人の姿があった。
「千歌ちゃん、どうしたの?入らないの?」
「あはは。ちょっとね」
千歌ちゃんは苦笑いを浮かべてそう言い、よくわからないけど、とりあえず中に入るために、ドアを開けようと手を伸ばす。
「流石に、もう隠しておくのも……」
「このまま、千歌の場所を空けて踊ったら見栄えも悪いし……」
「でも、今知れば曜は……」
中では私の名前も聞こえて来て、私はなんの話をしているんだろう?くらいの気持ちでドアを開けた。
「じゃぁ、千歌が死んだって隠し続けるの!?」
「え?」
「「「「「「「……ッ!」」」」」」」
それと同時に、善子ちゃんが気持ちを抑えられなくなったのか声を荒げて言い、私はその言葉に対して声を漏らしていた。その瞬間、みんなが私の存在に気付き息を呑む。
どういうこと?千歌ちゃんが死んだ?
振り返ると何故か千歌ちゃんがいなくなっていた。
「みんな……もう話してもいいよね?」
「ええ」
「そうね」
すると、果南ちゃんはみんなに何かを問い、みんなは頷く。話すってなんだろ?
「……千歌はあの日、曜をかばって死んだんだよ」
「え?何言ってるの?今までだってずっと私たちと一緒に、みんなだって千歌ちゃんと喋ってたじゃん……それに、さっきまでそこに」
「ううん。あの日以来、ずっと千歌はいない。曜が見てたのは千歌の幻だよ……私たちにはずっと見えてない」
「嘘!なんでそんなこと言うの!?」
「それは……」
「冗談にしては質が悪いよ」
「曜、これを見て」
「これって、練習風景?千歌ちゃんなら……」
みんなが言っていることが嘘だと思いそう言う。
そんな私に対して、鞠莉ちゃんはノートパソコンの画面を私に向ける。
それは、いつもの練習風景で。後で確認するために撮ったものだった。それはつい最近撮ったもので、そこに千歌ちゃんの姿は――
「あれ?」
――なかった。
「どうして?確かにこのとき千歌ちゃんは……」
「千歌はいない……死んだの」
「嘘!」
「嘘じゃない!現実を見て!」
「信じない!そんなの嘘!千歌ちゃんが死んだなんて嘘に決まってる!」
「曜!」
千歌ちゃんが死んだなんて信じたくなくて、私は逃げるように部室から飛び出す。そして、上履きのまま浦女の敷地の外に出る。
「千歌ちゃんが死んだなんて嘘だ!」
私はやみくもにただ走る。
気が付けば、千歌ちゃんの家の前にいた。
「おっ、曜。どうしたの、急に?」
「あら、曜ちゃん」
十千万の前には軽トラからちょうど降りてきた二人がいた。
そうだ、二人ならきっと……。
「千歌ちゃんは……?」
「ああ、千歌なら……曜」
「曜ちゃん……」
美渡姉は最初何か言いかけるも、浮かない顔をして私の名前を口にする。志満姉も同じく私の名前を口にして俯く。
「知っちゃったんだね?」
「千歌ちゃんが死んだなんて嘘だよね?みんなで私を驚かせようとしてるんだよね?」
「……ううん。千歌は死んだよ。曜を護って……」
「嘘……」
きっと、みんなのドッキリだと思っていた。ううん、そう思いたかったけど、二人までそう言ったことで、もう信じるしかなかった。
美渡姉はよく冗談を言うけど、こんな誰かが傷付くような冗談は言わない。それは志満姉も一緒で。Aqoursの皆だってそんなこと言う訳がない。信じたくなかった。でも、もう信じるしかない。
だから、私は崩れ落ちる。
「そんな……私のせいで……」
目から涙が零れる。
あの時、私が無理を言わずにちゃんと前を見えるようにしていれば。
ううん、千歌ちゃんに言われた直後、荷物を投げ出して回避をしようとしていれば。
そうすれば、こんなことにはならなかった。
「千歌ちゃん……うわぁぁん」
「曜ちゃん……」
涙を流す私に志満姉は優しく抱きしめて背中をさすってくれた。
~☆~
「曜ちゃん、完全に千歌ちゃんの幻が見えてるんだよね?」
「そうとしか考えられないでしょ。虚空に向かって、まるでそこに千歌がいるかのように話してたんだから……」
「でも、千歌ちゃんは……」
「曜をかばって轢かれた」
千歌はあの事故の日に、曜と車の間に飛び込んだ。そして、曜をかばったことで千歌も轢かれた。
私たちはすぐにその連絡を受けてすぐに病院に向かった
病院に着くと、二人とも手術室に運ばれていて、すぐに二人とも出てきた。
千歌は死んだ。打ち所が悪く即死だったらしかった。
曜は千歌が間に入ったことで、車の衝撃はほとんどなく、でも地面に頭を打ち付けたことで昏睡状態だった。
それから、一週間。私たちは千歌を失った心の傷と曜の心配で練習もできなかった。
卒業間近で三年はもう休みに入っていたから、私は学校に登校する必要もなく出席数の問題はなかった。
だから、私は毎日のように曜の病室に行き、面会時間始まりから面会時間終わりまでずっといた。千歌が死に、曜も目を覚ます気配が無い。幼馴染を二人も失うなんて嫌だった。だから、曜が目を覚ますと信じて。
千歌の葬儀には行った。でも、涙はもう枯れ、零れなくなっていた。
そんな状態の中、事故から一週間が経って、お医者さんの話だと今日目覚めなければ、今後起きる可能性が無いと言われていた。そんな中、曜は目を覚ました。
でも、曜は千歌の幻が見えているように、虚空に話し、私たちは病室を後にした。そして、私たちは沼津の練習場所に集まった。
「千歌っちのこと言うべきよね」
「うん」
「……待って。今言ったら曜は壊れちゃう。千歌の幻を見てるのはたぶん防衛本能だと思う。曜が壊れない為の」
千歌の死を曜に伝えるか否か。伝えるべきだという意見もあるけど、私は伝えない方がいい気がした。曜をかばって死んだと知れば、曜は絶対に自分を責める。そうなれば、曜は壊れてしまう。
「ですが、先延ばしにしても……」
「せめて、曜が落ち着くまでは……お願い!」
ダイヤはその点を心配するけど、曜が壊れて、私の前からいなくなってしまう気がした。
結果から言えば、私の意見に賛同してもらえた。曜に伝えられるタイミングが来るまで、そこに千歌がいるように話を合わせることになった。翌日。浦女の生徒みんなにも、美渡姉、志満姉にも協力してもらい、曜の話に合わせてもらうことになった。
「結局、私のわがままだったんだよね?」
それから時間は流れた。曜はあいかわらず千歌の幻を見ていた。千歌の幻に向かって話しかける曜は痛々しかった。
そのせいで、私は言うタイミングを逃し続けた。ううん、言うのが怖かった。だから、言えなかった。
そして、今日。曜にばれた。しかも、最悪な形で。
走り去った曜を追いかけようと思ったけど、足は動かなかった。曜に会っても、どう言葉をかけてあげらればいいのかわからない。きっと、隠し続けていたことを責められるだけ。私はそれが怖かった。
「果南!」
「鞠莉?」
「早く追いかけないと!」
「でも……行ってもなんにもできないよ」
鞠莉に言われても、私は動けない。
怖くて動けない。
「果南!」
バチーンッ!
「鞠莉ちゃん!?」
鞠莉は私の頬を叩く。いきなりの事で、みんなは驚きの声を上げていた。私もいきなりすぎて目をぱちぱちさせていた。
「果南が言い出したことでしょ!だったら、逃げるな!」
「逃げてなんて……」
「じゃぁ、なんで追いかけないの!?」
「それは……」
鞠莉は私に強く当たる。先延ばしを提案したのは私。
こうなる可能性もあると分かっていたのに。
「そう。みんな、曜を探すわよ」
「でも」
「いいから!」
鞠莉は私の反応から、私を置いて曜を探すように提案し、皆一度は食い下がるも、鞠莉の迫力に負けて部室を出ていく。
部室には私だけが残された。
「どうすればよかったんだろ?」
私は一人呟く。
どうすることが正解だったんだろ?
もし、あの時すぐに伝えていれば良かったのかな?そうすれば、こんなことにはならなかったのかな?
でも、それは無理だった。私は怖かった。千歌を失い、その上で曜まで失うことが。千歌の死を知らない限りは、曜は千歌の幻を見ながら生き続けられる。でも、知ればどうなるか。最悪、自分を責めて千歌のもとに行くかもしれない。そんな気がした。
早く追いかけないといけないけど、私に曜を止められる訳がない。ダイヤか鞠莉ならきっと。
私はその場で動けずに立ち尽くす。
「果南ちゃん」
「え?」
そして、いきなり私の名前が呼ばれた。
その声は昔からずっと聞いていた声で。もう聞くことは無いはずの声。
信じられずに顔を上げれば、そこに千歌が立っていた。
「果南ちゃん、よーちゃんのことお願い」
「千歌?」
「いつもの場所でよーちゃんと待ってるね」
「千歌……」
そして、手を伸ばすも千歌はそう言って消えてしまった。
遂に私も曜みたいに幻を見てしまったのかと思った。でも、今のがただの幻だとは思えなかった。
いつまでも怖れてなんていたら、それこそ千歌に怒られちゃう。それに、千歌にお願いされちゃったらね。
私は二人のお姉ちゃんみたいなもの。二人がそう思ってくれてるのかはわからないけど。
でも、そんな自分でありたいとずっと思ってた。どうなるのかはわからない。でも、何もしないで、また間違えるのはもう嫌。鞠莉の時みたいに間違わない為に。
だから、私は一歩を踏み出す。
~☆~
「ぐすっ。ありがとう、志満姉」
「ううん、気にしないで。曜ちゃん」
あれから泣き続け、その間志満姉はずっと私の背中をさすってくれていた。
そして、みんなが私の為にしてくれていたことを教えてくれた。千歌ちゃんの死を伝えようとみんなが言う中、果南ちゃんは私が壊れるのを避けるために、皆に頼み込んだことを。二人も最初は告げるべきだと思ったけど、果南ちゃんの気持ちを汲んでくれたことを。
「ごめんね、曜ちゃん。私たちの口から伝えるべきだったよね?」
「私からもごめん」
「ううん。二人の方が辛かったはずなのに……それに、私のためを想ってくれた事でし?」
二人は隠し続けていたことを謝る。
でも、私以上にきっと二人の方が辛かったに決まっている。
二人とも千歌ちゃんの事を大切に想っていたのはずっと見ていたから知っている。それなのに、私の事を想ってくれる。
「もう、大丈夫。でも、少し気持ちの整理をしたいから、一人になって来るね」
「そう。気をつけてね」
「気をつけろよ」
そんな二人のやさしさに触れて、だいぶ気持ちは落ち着いた。でも、まだ整理が付かないからそう言って、二人から離れると砂浜に降りる。心に一つの棘を残して。
「千歌ちゃん……」
砂浜は誰もいないから波の音だけが響き、静か時間が流れる。
私は小さく呟くと、千歌ちゃんと過ごした日々が脳裏に巡る。
物心ついた頃から果南ちゃんと千歌ちゃんの三人一緒だった。
それから、千歌ちゃんとは学校ではずっと一緒のクラスで、いつも一緒だった。
中学の時に水泳部に入部して、千歌ちゃんを誘ったこと。でも、断られた。
高校二年になる春休み千歌ちゃんと一緒に東京に行って、そこでスクールアイドルを知った。
千歌ちゃんと一緒に始め、梨子ちゃんを誘い、嵐の日の中体育館でライブをした。
ルビィちゃんと花丸ちゃん、善子ちゃんが加わり、スカイランタンが上がる中歌った。
東京のイベントに出て、投票が0で悔しい思いをした。でも、そのおかげで私たちは新たな目標が生まれた。
果南ちゃんと鞠莉ちゃんの仲違いが終わり、ダイヤさんも加えて九人になり、夏祭りのステージで歌った。
合宿をして、千歌ちゃんは梨子ちゃんの事を特別視している気がして、少しぎくしゃくしてしまった。でも、その後、千歌ちゃんの本当の気持ちを知ることができた。
予備予選を突破したけど、地区予選は突破できなかった。
またラブライブの開催が決定したけど、浦女の廃校の話も本格化し始めた。
予備予選と説明会の日程が重なったけど、みんなのおかげで両方成功した。
地区予選を突破したけど、廃校は阻止できなかった。でも、私たちはラブライブの歴史に浦女の名前を残す目標を決めた。
函館でSaint Snowの二人とライブをした。
冬のある日、私は事故に遭った。
今日閉校祭をした。
そして、千歌ちゃんが私をかばったせいで死んだと知った。
この一年はめまぐるしいほど色々なことがあった。
千歌ちゃんと一緒に居る時間がいつも楽しくて、キラキラしていた。
飛び込みだって、千歌ちゃんが客席から見てくれてて、上手くいくと自分の事のように喜んでくれた。私は千歌ちゃんに誇れるように色々なことを頑張った。
私の行動の全ては千歌ちゃんの笑顔の為だった。千歌ちゃんがいたから頑張れた。
だから、ラブライブの決勝でも、千歌ちゃんと、みんなと一緒に輝けると思ってた。
でも、もう千歌ちゃんと一緒に輝くことはできない。
千歌ちゃんと一緒に笑い合うことはできない。
千歌ちゃんは私をかばって死なせてしまった。
私が千歌ちゃんを死なせた。
美渡姉も志満姉もみんな誰一人として私を責めない。みんなの優しさが今となっては苦しい。
責めてくれればどれだけ楽だったのかな?
そしたら、こんなに苦しい想いをしなくて済んだのかな?
もう、こんな苦しみを持ち続けたくない。千歌ちゃんがいないのだから、もうこの世界に生きてたって……。
「千歌ちゃん……今行くね」
だから、私は海に向かって一歩踏み出す。
「よーちゃん!」
でも、海に足が付いた瞬間その声が響いた。一番聞きたかったその声。もう聞く事はないと思っていたその声。
「千歌ちゃん?やっぱり、生きてた……わけじゃないみたいだね」
顔を上げると、そこには千歌ちゃんが立っていた。生きていたのかと一瞬思うけど、すぐにこれはただ私が見ている幻なのだと分かった。
海の上を千歌ちゃんが立っていたから。千歌ちゃんはもういないのだから。
「よーちゃんも気付いたんだね」
「うん」
「あはは。よーちゃんの事が心配だったから、チカ幽霊になっちゃったみたい」
「そうだったんだ」
千歌ちゃんは笑顔でそう言う。はたして、これが幻なのか、千歌ちゃんの言う通り千歌ちゃんの幽霊なのかは私にはわからない。でも、最後に千歌ちゃんにまた会えた。
だから、理由なんてどうでもいい。
「できたら、よーちゃんを助けて、チカも無事!が理想だったんだけど、ダメだったや」
「ごめんね、千歌ちゃん」
「謝らないで。チカは後悔……してないとは言えないけど、よーちゃんが無事だったから、それだけは救いだよ」
「でも、そのせいで千歌ちゃんがいなくなっちゃったら。もう、私はどうすればいいのかわからないよ」
「……よーちゃん」
「だから、私も今からそっちに行くね」
「ダメだよ、よーちゃん」
私は千歌ちゃんと一緒に居たくてそう言う。でも、千歌ちゃんは首を横に振る。
「なんで?私は千歌ちゃんがいないと……」
「それでも、だよ。チカはよーちゃんに生きていて欲しい」
「そんな……」
「ごめんね。チカのわがままだよね。でも、よーちゃんにはチカの分まで生きていて欲しいの。だから、よーちゃんはまだこっちに来ちゃダメだよ」
「そんなのひどいよ」
「あはは。そうだよね。それでも、よーちゃんには前を見ていて欲しい。大好きなよーちゃんにはそうあって欲しい。だから、いなくなったチカじゃなくて、今を生きている皆を見て。一緒に生きて」
「そんなの……みんな心の中では私を恨んでるよ。私は怖いの!だから、そう言われる前に……」
「そんなこと無いよ。絶対に大丈夫だよ!」
「でも……」
「だったら聞いてみよ?」
「え?」
聞く?誰に?
私は千歌ちゃんの言葉の意味がわからなかった。
でも、すぐにその答えは示された。
「曜!」
呼ばれて振り返れば、肩で息をしている果南ちゃんがそこにいた。浦女から全力で走ってきたようだった。
「ほら!」
「曜……こんなところで、海に足を入れて何してるの?」
「それは……」
「まさか、曜までいなくなったりしないよね?嫌だよ。千歌がいなくなって、曜までいなくなるなんて」
果南ちゃんの目に涙がつたう。普段からお姉ちゃんのようで、めったに涙を見せない果南ちゃんが涙を流している。それだけで胸が痛む。
「どうして私を責めないの?私が千歌ちゃんを死なせたのに……どうしてみんな、私に優しくするの?どうして……」
「そっか」
果南ちゃんはそう呟くと私のそばにやって来てハグをする。
「果南ちゃんは私を恨まないの?」
「うん、恨まない」
「どうして……?」
「ごめん、曜。私のわがままで辛い想いをさせちゃって。きっとすぐに話すべきだったんだよね?でも、それが怖くて私は逃げた」
「そんなことないよ。それだって私の事を想ってでしょ?志満姉たちに聞いたよ。みんな言うべきって言う中、果南ちゃんは私が壊れない為にって」
「でも、それだって、私の勝手な想像でしかない」
「ううん。きっと、すぐに教えられてたら、私は壊れてた。ううん。もう壊れてたんだよね?私が千歌ちゃんを死なせたあの瞬間から」
果南ちゃんは私が壊れることを察して、真実を話さないでくれた。でも、すでに私は壊れてたんだよね?
「違う!曜が千歌を死なせたんじゃない!千歌は曜を護ったの!」
「違わないよ!私をかばわなければ、千歌ちゃんは死ななかった!だから、私が千歌ちゃんを……」
「よーちゃん!」
千歌ちゃんの声が響く。
私はビクッと肩を揺らし、果南ちゃんも驚く。私にしか見えてないと思ったけど、果南ちゃんにも千歌ちゃんの姿が見えてるみたいで、私と果南ちゃんは千歌ちゃんの方を見る。
「それはチカが勝手にやったこと!気づいたら、動いてたの。私はよーちゃんのせいで死んだなんて思ってない!だから……よーちゃんも自分を責めないで?」
千歌ちゃんは途中からその頬に涙がつたい、滴が海に落ちる。でも、千歌ちゃんは言葉を続ける。
「私はよーちゃんに笑顔でいて欲しいの。こんなの勝手すぎるってわかってるけど」
「千歌ちゃん……」
「千歌……」
「あっ、それは果南ちゃんにも言えるからね!」
「私!?」
いきなり果南ちゃんに話が振られて果南ちゃんは驚く。私も、まさか果南ちゃんにいきなり話を振るとは思わなかった。
「うん。果南ちゃんだって自分を責めてたこと知ってるんだから。あの時、一緒に行ってれば、曜ちゃんに何かしてあげれればって。果南ちゃんからは見えてなくても、チカからは見えてたんだからね」
「……なんだ。ずっと、千歌はそばに居てくれてたんだ」
「そうだよ。ずっと、みんなのそばにいた。私のせいで悲しい思いをさせたって心残りだったから……だから、こんな形になっちゃった」
「千歌ちゃん?」
「千歌?」
すると、次第に千歌ちゃんの姿が薄れていく。
千歌ちゃんは私たちの声で自分の身体を見ると、何かを理解したように暗い表情をし、苦笑いを浮かべる。
「あはは。チカが死んだことをよーちゃんが自覚したから、私が見えなくなっちゃうみたいだね」
「待って……おいてかないで。ずっと一緒に居て……」
「そうだよ。せっかくまた会えたのに」
「ううん。それはダメだよ。よーちゃんと果南ちゃんは生きてて、私は死んだ。これは変えられない事。だから、もうお別れ」
「そんな……」
「……だからね。最後にお願い。みんなはラブライブの決勝に出て、優勝して!それが私のお願いかな?」
「……うん」
「……わかった」
最後のお願いなんて言われたら断れないよ。それに、きっと、千歌ちゃんならそう言う気がしていたから。
「ふふっ、ありがと。じゃぁ、もう行くね」
「待って……まだ」
「じゃぁね」
手を伸ばすも千歌ちゃんはそう言って、フッと消える。
結局最後まで、私の気持ちは千歌ちゃんに伝えられなかった。
「……夢、幻だったのかな?」
「ううん、私にも見えてた。だから、夢でも幻でもないよ」
「そっか。果南ちゃん。私、絶対にラブライブに優勝したい。それが千歌ちゃんの願いだから。それが私を救ってくれた千歌ちゃんへの最大のお礼だと思うから」
「うん」
「そしたら、千歌ちゃんも笑ってくれるよね?」
「うん……でも、千歌へのお礼って気持ちだけじゃダメ。曜自身もちゃんとラブライブを楽しまないと。千歌はいつも楽しそうだった。だから……」
「そうだね。私も楽しむ。できるかわからないけど、千歌ちゃんの分まで」
「私も千歌の分まで……風邪ひくからいこっか」
「うん、見ててね。千歌ちゃん」
私たちは優勝を目指して歩き出す。千歌ちゃんがそばで見ていてくれると信じて。
~☆~
「見ててね。千歌ちゃん」
「うん、見てるよ」
よーちゃんの言葉にそう返す。と言っても、もう二人には聞こえていないだろうけど。
よーちゃんと果南ちゃんは私と会ったことをAqoursの皆に話した。皆最初は信じられないような表情をしていたけど、それでもすぐに受け入れてくれていた。そして、ラブライブの決勝に出て優勝しようと誓い合っていた。
その後、決勝前日によーちゃんたちは東京に行き、神社で優勝を願った。その後、少し観光をすると、泊まる旅館に行き、みんな浮かない顔をしていたからか何故かよーちゃんが枕を投げ枕投げ大会が始まった。
「ふぅ、えらい目に遭った」
「曜ちゃんのせいでしょ?」
枕投げが一段落すると、少し涼むために外の公園に出て、よーちゃんと果南ちゃん梨子ちゃんはベンチに座って話していた。
「色々なことがあったね」
「そうだね。でも、明日の決勝の為に頑張ってきたんだからまだまだ」
「ふふっ、そうだね。そろそろ戻らないと、体が冷えちゃうよ?」
「それもそうだね。戻ろっか」
「うん」
「みんな、明日頑張ってね?」
「ん?梨子ちゃん何か言った?」
「え?何も言ってないけど?」
「そっか。今、誰かに頑張ってって言われた気がしたから」
「……うん。そうだね。きっと千歌ちゃんだよ」
私の呟きが聞こえるとは思わず驚いたけど、私の姿は見えていないみたいだった。よーちゃんたちはそんなことを言って旅館に戻っていく。
翌朝。私はいつもの砂浜にいた。
この身体だと、一瞬で移動できるから、私はもう少し内浦の空気を吸いたくなった。きっと、決勝が終われば私は本当に消える。
私はその場にぺたんと崩れ落ちる。
「あはは。二人に心配かけまいと頑張ったけど、もう限界……あーあ。みんなと一緒に踊りたかったなぁ」
わかってる。あの時私がかばわなければ、よーちゃんが死んでいた。だから、これで良かったって。後悔はないって。
でも、そうは思ってもやっぱり後悔は残る。二人にはああ言ったけど、やっぱり悔しい。
よーちゃんと何かをやり遂げたいって夢も、結局叶わなかった。
みんなと一緒に輝きたかった。
私の輝きを見つけたかった。
もっとみんなと一緒に居たかった。
考えれば考えるだけ、やりたかったことが浮かぶ。
「せめて、最後はみんなと一緒が良かった」
だけど、せめて消えるとしても、最後にみんなと一緒にステージに立ちたかった。
でも、それは叶わない。
「バーカ千歌」
「え?」
砂浜に響いた声に、私は振り返るとそこには美渡姉と志満姉が立っていた。もうすぐ、東京行きのバスに乗るはず。だからか、荷物は一切その手に無く、たぶんバスに置いて来たみたいだった。
でも、それ以上に私が見えているのかと思った。
「美渡、どうしたの?」
「ん?なんだか、千歌がそばにいる気がして」
でも、二人には私の姿は見えていないようだった。
「ふふっ、そうね。きっとみんなと踊れないことを寂しがってるのかしら?」
「寂しいよ。みんなと一緒に踊りたかったよ」
「だったら、やっぱりバカ千歌だね」
「え?」
「そうね。諦めなければ……奇跡は起きる」
「うん。奇跡、奇跡って千歌がいつも言ってたことだしね」
「志満、美渡。行くわよー」
「はーい」
「はーい。会場で待ってるから」
お母さんに呼ばれて二人はバスの方に行き、美渡姉は去り際にそう言った。
諦めなければ叶うのかな?奇跡は起きるのかな?
「もし叶うのなら……私は――」
~☆~
「もうすぐだね」
「うん」
決勝大会の控室で、私たちはそれぞれの衣装を着た。青と黒を基本とした衣装。今までで一番の出来だと思う。歌詞も曲調も私としては好きなモノだった。
だから、今日は、今までで一番のステージになるとモノと思う。
ううん。一番のステージにしてみせる。千歌ちゃんに笑われないように。
「これで良かったんだよね?」
「みんなで決めたことでしょ?」
今日のステージは九人のフォーメーションで踊る。千歌ちゃんの場所が空いてて不格好に思われるかもしれないけど、Aqoursは千歌ちゃんが言い出して始まった。この九人だからこそ、Aqours。
エントリー用紙にも千歌ちゃんの名前も含めて九人の名前を書いた。
九人で話し合って決めたこと。ううん。そもそも、私のせいでずっとこのフォーメーションだった。だから、八人フォーメーションに変えられなかった。
そして、私たちはステージ袖に上がる。入れ替えの為に暗転していて、会場からはまだ私たちの姿は見えない。
改めてステージのそばに来て思う。
ここまで来れたんだって。
そして、千歌ちゃんと一緒に踊りたかったなと。
「曜。千歌っちに届くように踊ろう!」
「千歌さんに笑われないように」
「そうよ。リトルデーモン千歌に私たちは大丈夫って見せつけるのよ!」
「そうずら。マルたちは頑張ってきた!だから、大丈夫ずら!」
「うゅ!千歌ちゃんならきっと近くで見ていてくれてる!」
「大丈夫。私たちならやれる。千歌ちゃんに届く!」
「曜。一人なんかじゃない。みんなも一緒!だから、最高のパフォーマンスを、今までで一番楽しむよ!」
みんなが私に声をかけてくれる。励ましてくれる。
そうだよね。私一人じゃない。みんながいる。
やり切れなきゃ後悔する。
だから、最高のパフォーマンスだったって思えるようにやってみせる。
千歌ちゃんが一緒に踊りたかったって思うように最高に楽しんでみせる!
「うん!皆ありがとう……じゃぁ、始めよっか!」
私はそう言って、入れ替えの為に私たちはステージに上がろうと一歩踏み出す。
「みんな!今日は最高のライブにするよ!」
「え?」
「嘘……」
「千歌ちゃん、なの?」
私たちの前に千歌ちゃんが立っていた。
また幻だと思ったけど、みんなにも見えているみたいだった。
「みんな、話は後!のんびりしてないで行くよ!」
千歌ちゃんはそう言って、人差し指と親指を伸ばして手を前に出す。
どうして、いなくなったはずの千歌ちゃんがそこにいるのか。
どうして、みんなにも見えているのか。
わからないことはたくさんある。
でも、わかることもある。
私は千歌ちゃんのその手に合わせるように手を出し、みんなも手を出し、0を作る。
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
「0から1へ!1からその先へ!」
「「「「「「「「「Aqours、サーンシャイン!」」」」」」」」」
千歌ちゃんと一緒に踊れるんだ!
~☆~
「優勝はAqours!」
全グループのパフォーマンスが終わると、すぐに優勝グループが発表された。
結果は私たちAqoursの優勝だった。
私たちは九人そろってステージの上で踊りやりきった。
すぐに他のグループのパフォーマンスに移るためにステージを降りると、千歌ちゃんは幻だったかのようにいなくなっていた。
わからないながらも優勝旗を受け取り、私たちは内浦に戻った。
美渡姉、志満姉、ううん、あの場にいた人全てに千歌ちゃんの姿は見えていたらしかった
結局、あれはあの場にいた人全員が見た幻だったのか、あの千歌ちゃんのことはわからないまま、私たちは内浦にたどり着いた。
「幻だったのかな?」
「ううん、千歌ちゃんはいたんだよ」
優勝旗はいつもの浜に刺した。ここならきっと千歌ちゃんにも見えると信じて。
ここには私と果南ちゃんだけ。みんなはそれぞれ家に帰った。
幻かと果南ちゃんが言ったけど、私はそれを否定する。
確かに千歌ちゃんはそこにいたんだと思う。果南ちゃんもたぶんそう思ってるはず。
「そうだね。千歌と踊れたんだよね?」
「うん、そうだよ!よーちゃん!果南ちゃん!」
「「……ッ!」」
そう思って言うと、いきなり私の言葉に返答して、私たちの名前が呼ばれた。
「優勝おめでとう!」
驚いて振り返ると、満面の笑みを浮かべた制服姿の千歌ちゃんがそこにいた。
「千歌ちゃん……なの?」
「千歌?」
私たちは目の前の光景を信じられず、問うように言葉を口にする。
「うん、チカだよ。会いたいって思ったら会えちゃった!」
「千歌ちゃーん……わっ!」
「千歌!……わっ!」
私と果南ちゃんは言い終わるなり千歌ちゃんに飛び込んだ。でも、千歌ちゃんの身体をすり抜けてしまい、地面に倒れ込む。
冷静に考えればそうだよね?
「二人とも、大丈夫?」
「うん、大丈夫。幽霊だもんね」
「あ、千歌ちゃんのスカートの中見えそう」
「もう!」
「はー、やっぱり千歌なんだね」
仰向けに寝転ぶ私たちを上から見る千歌ちゃん。
冗談交じりにそう言うと、千歌ちゃんは顔を真っ赤にしてスカートを押さえる。
でも、そんな反応からやっぱり千歌ちゃんなんだと感じる。
私たちは身体を起こすと、千歌ちゃんもスカートを押さえるのをやめる。
「本当は優勝できて、みんなと踊れて心残りはないって思ってたんだけどね」
千歌ちゃんは苦笑いを浮かべてそう言う。
私もてっきり、もう千歌ちゃんと会えないと思ってた。ステージで一緒に踊れたこと自体が奇跡だと思っていたから。
「でもね。やっぱり、ちゃんとお別れは言っておきたかったなって」
「そっか」
「うん。私も」
千歌ちゃんが現れた理由はそういうことだった。私も果南ちゃんもちゃんと千歌ちゃんとお別れがしたかったからうれしかった。
「「「千歌ちゃん!」」」
「千歌!」
「千歌さん!」
「千歌っち!」
「みんな!?」
でも、千歌ちゃんとちゃんとお別れしたかったのは私だけじゃない。
いつの間にかみんなが階段のところに居て、千歌ちゃんの顔を見るや名前を呼ぶ。
千歌ちゃんはちょうど背を向ける形だったから気付いていなかったみたいで驚いていた。
「どうしてみんなまで?」
「どうしてだろ?でも、千歌ちゃんがここに居る気がしたの」
「あはは。そっか。梨子ちゃん。千歌の無茶な誘いに最初は困らせちゃったけど、一緒にスクールアイドルをやってくれてありがとう!怒ると怖いけど、私のためを思ってくれてたからね。それと、ピアノとちゃんと向き合えるようになってうれしかったよ。梨子ちゃんのピアノは好きだから、これからも弾き続けてね?」
「それは私の方こそ。千歌ちゃんが誘ってくれなかったら、きっとピアノと向き合えなかった。ピアノも千歌ちゃんに聴こえる様に弾き続ける。だから、千歌ちゃん聴いてね?スクールアイドルに誘ってくれて、友達になってくれてありがとう!大好きだよ!」
「私も!ダイヤちゃんは最初スクールアイドルを認めてくれなくて、どうしてだろうって思ってた。でも、それも私たちのことを想ってのことだってわかってうれしかった。練習の時はいつも厳しいけど、時々見せるそのやさしさに救われてた。あと、スクールアイドルを好きなのに隠しきれてなくて少し可愛かったかも。東京の大学に行っても頑張ってね。それと今までありがとうね」
「いえ、私の方こそ千歌さんの諦めない気持ちに心動かされましたわ。でも、だからこそ、スクールアイドルを嫌いになったら怖くて……まぁ、杞憂でしたけど。ひたむきに突き進む千歌さんは輝いていましたわ」
「そっか、輝けてたんだ。鞠莉ちゃんは理事長としていつも学校の為に頑張ってくれてたよね。それに、ダイヤちゃんと一緒に陰でサポートしてくれてありがとう!一緒にスクールアイドルをしてからは、その明るさに空気が明るくなって、とにかく頑張れた!」
「それは私もよ。千歌っちがひたむきにスクールアイドルをやりたいって気持ちがあったから、助けてあげたいって思った。果南とのすれ違いも終わって、一緒にスクールアイドルができて楽しかったわ。だから、Thank youね」
梨子ちゃんは涙を浮かべて千歌ちゃんに返す。ダイヤちゃんも鞠莉ちゃんもその瞳に涙を浮かべていた。
「ルビィちゃんも最初は驚かせちゃったよね?でも、一目見た時からルビィちゃんならって思ったのは本当だよ?ルビィちゃんのスクールアイドルを大好きな気持ちで私もいっぱいスクールアイドルの事が知れた。だから、これからもスクールアイドルの事を好きでいてね」
「うゅ。当たり前だよ!ルビィを誘ってくれてありがとう。スクールアイドルになるのが怖かったけど、千歌ちゃんのおかげで大好きなスクールアイドルになれた!だから、千歌ちゃん、ありがとう!」
「うん!花丸ちゃんを一目見た時、ルビィちゃんと一緒で可愛いって思って、一緒にスクールアイドルをしたいって思った。花丸ちゃんは一生懸命で、だから私も負けていられないって思った。それと、友達のことを想えるそのやさしさがある。作詞の時も花丸ちゃんのたくさんの知識に助けられたよ。だから、これからもそんな花丸ちゃんでいてね」
「うん。マルを本の世界から連れ出してくれて、こんなにも楽しくてキラキラした世界に連れてきてくれてありがとう!一緒にスクールアイドルができて楽しかったよ!」
「私も楽しかったよ。善子ちゃんは自分が好きな堕天使であろうとする姿が輝いて見えた。私はそんな姿に憧れて、善子ちゃんみたいに好きなものを好きって言えるようになりたかった。東京の時も廃校の時も、みんなが辛い気持ちになっててもそれを表に出さないで明るくしようとしてくれて、助けられたよ。ヨハネちゃん、ありがとうね」
「だから、善子!ってあれ?私も、千歌が私の堕天使の部分も受け入れてくれて、他のみんなと同じように接してくれてうれしかった。だから、こちらこそありがとう。それと、一緒にスクールアイドルをして楽しかったわ。リトルデーモン千歌に加護があらんことを!」
ルビィちゃんも花丸ちゃんも善子ちゃんも笑顔で送り出そうとするけど、その瞳からは涙が零れる。善子ちゃんは涙を見せまいと顔を逸らした。
「果南ちゃんとは物心付いた時から一緒で、チカにとっては三人目のお姉ちゃんだと思ってた。いつも私たちのことを想ってくれてて、果南ちゃんたちの頃の様にならないか心配してくれてた。果南ちゃんたちが加わってやったライブで、今まで以上に輝けたって感じた。いつも私の事を想っててくれてありがと!昔からずっと一緒だったからこれからも一緒だと思ってた。……もっと一緒に居たかった!」
「……千歌。うん、私も千歌の事を妹だと思ってたよ。千歌が頑張ってたから、私もそれに引っ張られた。千歌のおかげで鞠莉と仲直りできた。だからここまで来られた。みんなと踊れた。楽しい時間を過ごせた。だから、私の方こそありがとう。……私も、千歌ともっと一緒に居たかったよ!」
果南ちゃんは涙を零す。
でも、すぐに涙を拭って無理にでも笑顔を作る。
「最後はよーちゃん。果南ちゃんと一緒で、物心付いた時から一緒だったよね?クラスも一緒で、学校の中だと常に一緒だった。よーちゃんが水泳部に入った時は、周りからよーちゃんと比べられるのが怖くて、一緒にできなくてごめんね。でも、スクールアイドルを一緒にやれて良かったよ。よーちゃんを誘っても断られるかもって最初は思ってたけど、よーちゃんが一緒にやってくれるって言って、入部届に名前を書いてくれてうれしかった!……最後まで一緒にやり遂げられなくてごめんね。よーちゃん、大好きだよ!」
「……千歌ちゃん。私の方こそ、一緒にできて良かった。千歌ちゃんがいてくれたから、私は飛び込みを頑張れた。うまくいくと、自分の事のように喜んでくれる千歌ちゃんの笑顔があったから、とにかくひたむきに頑張れた。ラブライブの決勝のステージで一緒に踊れて、優勝できた。だから、最後まで千歌ちゃんと一緒にやり遂げられたんだよ!私も、千歌ちゃんの事大好きだよ!」
私は今まで伝えられなかった気持ちを伝えた。涙が零れててちゃんと伝わったのかはわからない。でも、きっと伝わったと信じてる。
「うん。みんなありがと。みんなと一緒に居られて……一緒に輝けて良かった。だから、これからも皆輝いてね。チカの分までみんなは生きてね!それがチカのお願い!チカはみんなのそばで見守ってるから」
千歌ちゃんの瞳からも涙が零れ、みんなまた涙が零れる。
「千歌ちゃん……やっぱり行かないで!ずっと一緒に居て!」
「……よーちゃん。ごめん。それは無理かな?みんなに気持ちを伝えたらね。なんだか心が軽くなっちゃった。満足しちゃった。だから、もうこれでおしまい」
「そんな……」
「だからね。これが本当に最後のお願い。最後はみんなに笑顔で送られたいかな?」
「……うん」
千歌ちゃんを笑顔で送る。できるかどうかわからない。でも、これが本当に最後の別れなら、最後は笑顔の記憶にしたい。
私は頷いて、目元を拭うと涙でぐしゃぐしゃで不格好だけど笑顔を作る。みんなも無理に笑顔を作る。
「みんな、ありがとう。大好きだよ!じゃぁね」
千歌ちゃんは最後に満面の笑みを浮かべると、光になって消えていく。
「千歌ちゃん!」
私は手を伸ばすと、千歌ちゃんも手を伸ばし、触れると同時に完全に消えていった。
「曜……」
「大丈夫。まだ完全に整理はついてないけど、千歌ちゃんの分まで生きる。千歌ちゃんがうらやむくらい生きてみせる。輝いてみせる!」
「うん。そうだね」
~☆~
あれから、数年が経ち、私は千歌ちゃんのお墓の前に来た。
あの日以来、私の目の前に千歌ちゃんは現れなくなった。
この数年で色々なことがあった。
高校最後の年には、沼津の高校で梨子ちゃんたちと一緒に五人でスクールアイドルを組んで、ラブライブにエントリーして、決勝大会まで進んだ。惜しくも優勝は逃したけど、悔いはない。やれるだけの事はできたと思う。
その後は梨子ちゃんと一緒に受験勉強をして、私は昔からの夢の航海士になる為に東京の大学に進学した。梨子ちゃんもピアニストになる為に東京の大学に進学した。
大学の勉強は大変だけど、好きなことだから楽しいし頑張れる。時々みんなとも会えてるし。
「千歌ちゃん、久しぶり。私はもうすぐ大学を卒業だよ」
私は千歌ちゃんのお墓の前で色々なことを話す。
「今は海技士の取得を取るために頑張ってるよ。みんなから聞いてるかもだけど、果南ちゃんはダイビングショップで働いて、ダイヤちゃんは跡を継いで、鞠莉ちゃんはなんと小原グループのオーナーになっちゃったよ。それとね、ルビィちゃんはアイドルに、花丸ちゃんは作家に、善子ちゃんはまさかの善子ちゃんのお母さんと同じで教員になろうとしてるよ。みんな、それぞれの夢に向かって進んでるよ」
みんなも時々来てるだろうから、言う必要も無いかもしれないけど、一応話しておく。
それから、最近会った不幸なことや面白かったことなどたわいもない話をする。
それから時間は流れ、陽が傾き始める。
「あっ、だいぶ話し込んじゃったね。まぁ、とにかく、私もみんなも元気にやってるよ。だから、心配しないでね」
最後にそう言うと、私は立ち上がる。次にいつ来れるかわからないから、言いたい事は全部言えたと思う。
「じゃぁね。千歌ちゃん」
そう言って私は千歌ちゃんのお墓の前を去るために一歩踏み出す。
「またね、よーちゃん!」
「え?」
千歌ちゃんの声が聞こえた気がして足を止めて振り返る。でも、当たり前だけど、そこに千歌ちゃんはいない。
でも、きっと、あの時言ってた通り千歌ちゃんは私の、私たちのそばで見守ってくれている。
ああ、別れの言葉間違えてたや。
「うん。またね、千歌ちゃん」
私はそう言って、私の夢に向かって一歩を踏み出した。
千歌ちゃん、大好きだよ!
千歌ちゃんの死という絶望とそれを乗り越えて目指す夢という希望から、このタイトル。
千歌ちゃんが死んじゃうので、アンチヘイト、残酷な描写を付けてます。
ようちかなんの三人の視点があるから、ようちかなんタグが付いてます。
では、ノシ