魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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『』は念話、≪≫はデバイスの音声となります。



Alight of Sword

 結界内の2か所で魔法戦が行われている。

 

「このガキがぁぁ!!!」

 

 ライラは鬼のような形相でフェイトに斬りかかる。それと同時に魔力弾による弾幕を用いての波状攻撃を幾度となく仕掛けていく。

 

「はっ!!」

 

 しかし、そのすべてはフェイトによって華麗に躱され、逆に金色の刃を叩きこまれる。

 

「ぎぃぃっっ!!?」

 

 ライラは障壁を張って防ぐが、それがさらにイラ立ちを募らせる。これまで鍛え上げた近接格闘術も、ようやく手に入れた遠距離攻撃術をフル活用してもフェイトに掠りもしないからだ。出力は段違いに上がったはずなのにフェイトに圧倒されていることが腹立たしくてたまらないのだろう。

 

「・・・その程度ですか?」

 

 普段のフェイトなら言わないであろう相手への挑発。出会って数日の烈火にすら、温厚、お人よしというイメージを持たれていたフェイトだったが、現在は今までに感じたことのないほどの怒りで、その身を震わせていた。彼らがアリサ達にしたことはフェイトの中ではそれほどまでに許せないことであったのだ。

 

 無論、自分たちと同じ管理局員が犯罪に手を染めたということもあるが、それ以上に凶刃を振り下ろされようとしていたアリサ達が重なったのだ。かつてフェイトの目の前で虚数空間へと落ちていった、母と姉の姿に・・・

 

 フェイトはかつて母の事を妄信し、その母に裏切られて残酷な真実を突き付けられた。

 

 存在理由を失って抜け殻のようになった自分と向き合い、その手を取って立ち上がる力をくれたのはなのはだった。アリサとすずかとはなのはと親しい友人ということでビデオメールを通して知り合い、海鳴市に引っ越してきてからも世間知らずな自分を温かく迎えてくれ、地球のことを教えてくれた。大切な親友達・・・

 

「アタシの方が強いのに負けるわけないっっっ!!!!!」

 

 さらに巨大な魔力刃を発動したライラがフェイトに向かって斬りかかった。しかし、ライラが1度デバイスを振った時、身体に2度の衝撃が襲う。

 

 どんなに魔力弾をばら撒いても、刃に魔力を込めても、金色の閃光を追いきれないどころかむしろ攻撃を受ける回数が増えてさえいる。気づけば高速で叩きつけられる金色の刃を防御するだけで精一杯になっていた。

 

「貴方は強くなんてなってない・・・強くなった気でいるだけ」

 

 たしかにライラの攻撃の威力は管理局のトップエース達と比べても謙遜がない・・・だがそれだけだ。

 

「そんなはずない!射撃魔法が使えて、魔力量さえ増えれば私はエース級の魔導師より強いはずなんだ!!」

 

 ライラは鍛えてきたクロスレンジでの戦闘には絶対の自信を持っていた。魔法の適正と魔力量という努力ではどうにもならない部分さえ何らかで補えればエースと呼ばれている魔導師にも決して劣っていると思わないと信じていた。

 

 だが現実は違った。魔力量で自分の方が上回ったにも関わらず、目の前のフェイトに一撃も攻撃を入れることができないでいる。ライラは癇癪を起した子供のように薙刀状になったデバイスを振り回し始めた。

 

「なのはの誘導弾ならこんなに簡単に避けられない!シグナムの斬撃はもっと力強くて鋭い!ヴィータの一撃にはもっと威圧感がある!ザフィーラの防御ならこんなに簡単に抜けたりしない!お兄ちゃんならこんな状況でも取り乱したりせずに状況を分析する!!」

 

 ライラは繰り出そうとする攻撃をフェイトによって発動前に悉く潰されていく。とうとう防御が間に合わくなり振り下ろされたフェイトのザンバーにより大きく弾き飛ばされた。無茶な動きの反動が来始めたのか、息を乱している。

 

「はぁはぁ、私は、私はアンタみたいなガキに負けるわけないんだぁぁぁっっ!!!!!!」

 

 目を見開いて、雄叫びを上げながらデバイスの先端から魔力刃を再展開した。その大きさは今までの比ではない。漏れ出した魔力がバーナーのように広範囲に広がり、巨大な刃を形作る。

 

ライラが最も得意とする斬撃魔法だ。最も、ジュエルシードのバックアップを受けた影響で、威力も攻撃範囲も段違いではあるが・・・

 

フェイトは横薙ぎに振るわれ、迫って来る巨大な魔力刃を真正面から見据える

 

「撃ち抜け・・・雷神ッ!!!!」

 

 ライラの斬撃に対して、フェイトは結界内で可能な限り限界まで刀身を巨大させたバルディッシュを全身の力を使って、真上から振り下ろした。フェイトがザンバーモードで放つ斬撃魔法〈ジェットザンバー〉である。

 

 

 巨大な2つの魔力刃が結界内でぶつかり合う。

 

 

 魔力の量こそ凄まじいが、収束も制御も甘いライラの魔力刃とフェイトの想いが宿った雷撃刃が勝負になるはずもなく、フェイトのザンバーによりライラの刃は硝子のように打ち壊された。

 

 ライラは先端部が拉げたデバイスをその手から取りこぼし、雷鳴轟くフェイトの一撃に成すすべなく打ち飛ばされる。

 

 

「・・・ぁぁぁ」

 

 ライラは全身を地面に打ち付けられて、意識を闇の中へと落としたがジュエルシードによって強制的に意識を覚醒させられる。しかし、その手足に黄色のバインドが絡みついた。

 

「ジュエルシード!封印!!」

 

 フェイトはザンバーから封印形態へと機構を変えたバルディッシュをライラの方に向けて砲撃を打ち放つ。

 

「ぁぁぁぁっぁぁあぁっっっっ!!!!!??」

 

 絶叫するライラに黄色い帯のようなものが絡みついた。

 

 辺りが光に包まれるとそこには、魔力ダメージを負って気を失ったライラが倒れていた。付近には光を失ったジュエルシードが・・・

 

「私はもう失いたくはないから・・・貴方達の思うようにはさせることはできません」

 

 フェイトは複雑そうな表情でライラを見下ろしている。親友達に命の危険をもたらした彼らへの怒り、アリサ達を守り切れなかったかもしれない自身への憤り、そして自分にとってすべての始まりのきっかけとなったジュエルシードを再び、その手で封印することになったことへのある種の感慨深さ・・・様々なものが入り混じった、そんな表情だ。

 

 フェイトは無力化したライラを拘束してジュエルシードをバルディッシュに格納した後、新たな戦闘空域に向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトがライラと戦闘を行っている時、この事件を引き起こした一味を率いているイーサン・オルクレンと事件に巻き込まれた謎の少年、蒼月烈火も魔法戦を繰り広げていた。

 

「おらぁ!!堕ちろや!!!」

 

 竜人と化したイーサンが宝剣を振り下ろせば、その剣圧と溢れ出した魔力で周囲の木々を薙ぎ倒し、地面にいくつものクレーターを作り出していく。しかし、白いロングコートの少年はその攻撃を余裕をもって躱している。

 

 

 

 

「・・・烈火君」

 

 なのははその戦闘の様子を歯痒そうな表情で見つめている。烈火とイーサンの戦闘空域に留まっているなのはとクロノはデバイスを片手にその戦闘を見守っていた。傷を負った煉と咲良を既に戦闘域の外にいるはやての下に送り届けたにも関わらず、なぜ援護に向かわないかというと・・・

 

 

 

 

 烈火は戦闘不能へと追い込まれた煉と咲良に振り下ろされたミュルグレスを自身のデバイスで受け止めた。

 

「随分と言ってくれるじゃねぇか!!!この俺によ!!」

 

 イーサンは一度距離を取り、2人纏めて斬り裂くつもりだった一撃を顔色一つ変えずに受け止めた烈火に対して威圧するように全身から魔力を放っている。

 

「もう止めてください!!それは危険なロストロギアなんですよ!!!」

 

 そんなイーサンに対して、戦闘域にやって来たなのはが制止を呼び掛ける。

 

「ふん、てめぇだけには言われたくねぇなぁっっっ!!!!!!」

 

 イーサンはなのはに烈火に対してとは比較にならないほどの憎悪をぶつけ、感情の昂りを表すように全身に魔力の鎧を纏っていく。

 

「な、何を!?」

 

「なのはっ!狙われているぞ!!」

 

 突如として激高したイーサンに対して戸惑うなのは、共に戦闘空域にやって来ていたクロノは大声を張り上げながらなのはの前に躍り出た。全身に魔力を纏ったイーサンがミュルグレスを構えて突っ込んでくる、クロノもS2Uを構えて応戦しようとするが・・・

 

 

 

 

「ま、またてめぇか!!!?」

 

 イーサンは額に青筋を浮かべて怒号を上げる。

 ミサイルのような勢いで突貫しようとしたイーサンの射線軸上に割り込む様に烈火が剣を滑り込ませてその進撃を止めていたからだ。

 

「・・・お前の相手はこの俺だ」

 

「がっ!?・・・ぁぁっっ!!!?」

 

 烈火は攻撃を止められ、身体を硬直させたイーサンが反応する間もなく横薙ぎに剣を一閃・・・全身に纏っていた魔力の鎧を斬り裂いて弾き飛ばした。

 烈火の背後からクロノとなのはが近づいて来る。

 

「蒼月烈火!!援護には感謝する。しかし、君が何者でどこの所属かは知らないが、これ以上は危険だ。君もはやて達の所まで下がるんだ!!」

 

「お断りします・・・もし後退してもアイツは俺を追ってくると思いますよ。それに貴方達はアレに対しての対処法を知っているんですよね?なら封印は貴方達で行うほうが効率的でしょう」

 

「しかし、管理局員でもない君を戦わせるわけにはいかない!!」

 

 クロノが戦闘域からの離脱を呼び掛けるが、烈火はそれを承知しなかった。クロノからすれば、烈火は管理外世界に突然現れた謎の魔導師であり、今のところ敵対していないというだけで味方として数えるわけにはいかず、民間人だとしてもロストロギアが犇めく戦場に留まらせるわけにはいかないということだろう。

 

「てめえぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」

 

 烈火の一撃から復帰したイーサンが竜の咆哮と共に再び、ミュルグレスを振るいながら襲い掛かる。

 

「ほら、言わんこっちゃない。アイツを動けなくするので封印の用意願いますね。後、援護は不要ですので」

 

「なっ!おい!」

 

 クロノの制止を無視して、烈火とイーサンは再び切り結ぶ。

 

『待ってよ!烈火君!!せめて3人で一緒に戦おう!?』

 

 なのはは戦闘を開始した烈火に対して念話を送る。

 

『奴を戦闘不能に追い込んだ上で大量のロストロギアを一気に封印しなければならないこの状況なら、抑える役割と封印を行う役割を分ける必要がある。なら、対処法を知っているお前たちが封印を担当すべきだ』

 

『じゃ、じゃあ、封印はクロノ君にしてもらうから私も戦う!!』

 

『さっきも言ったが援護の必要はない。今日初めて共に飛ぶ俺達が連携しようとしても足の引っ張り合いになるだけだ・・・そういうことですので、ハラオウン兄は封印とそこのサイドポニーが突撃してこないように頼みますね』

 

烈火は用件だけ伝えると強引に念話を終わらせてしまった。そして現在・・・

 

 

 

 

 

「いい加減当たりやがれぇぇぇ!!!」

 

 イーサンが力任せにミュルグレスを上段から振り下ろす、その刀身は空を切り、剣圧により地面に大きな傷跡を付けるが烈火には当たらない。

 

「隙だらけだ」

 

 その場に留まりながらイーサンの斬撃を最小限の動きで躱した烈火が右手に持った剣で切り上げる。ミュルグレスで防ぐイーサンだったが、剣戟による衝撃で大きく距離を取らされることになった。

 

 その後も果敢に攻め込むイーサンであったが、舞うように空を駆ける烈火に攻撃を一撃も掠らせることすらできず、ひたすら怒りを募らせていく。

 

 

 クロノとなのははその様子を固唾を飲んで見守っていた。目の前で激しい空中戦が繰り広げられている。互いの戦闘スタイルも得意魔法も知らない間柄でいきなり実戦で連携をというのも確かに厳しいものがあるが、それでも、強引に割って入るつもりだったクロノとなのははだったのだが・・・

 

「こうなってしまったら下手に割り込む方が悪手か・・・しかし、彼は一体何者なんだ?」

 

今は提督という立場についてこそいるが、かつては執務官としてロストロギア関連を始めとしていくつもの凶悪事件を解決してきたクロノや、教導官の資格を持つなのはの目から見ても烈火の戦いぶりは予想外のものだったからだ。

 

 烈火はイーサンの暴風のような連撃を未だに防御障壁を一度も発動させずに最小限の動きのみで躱し、着実にダメージを与えている。管理局員ですら中々お目にかからない、暴走しているロストロギア相手に物怖じせず、冷静に立ち回るどころか未だに一度の被弾すらしていない。管理局でも所謂、エースと呼ばれる魔導師達といえど烈火と全く同じことができるかと言われれば首を傾げざるを得ないというのが2人が感じた事であった。

 

 ならば、エース級の魔導師達と互角以上の実力を持っていると予測される烈火は何者なのか、どこかの組織に所属しているのか、そんな予測が脳裏をよぎったが、そうしている間に戦況が一気に動き出した。

 

「・・・止まって見えるぜ」

 

「ぐぁぁぁっ!!!がぁっっっっっ!!!!!!??」

 

 烈火が振り上げた剣がイーサンを上空へと弾き飛ばした。咲良の魔力弾を無力化した全身に纏う鱗と体全体を覆うような魔力の鎧もろともイーサンのバリアジャケットは斬り裂かれている。

 

「ぎぃ!?・・・だが!これでてめぇを捕まえたぜ!!!」

 

 手痛い一撃をもらったはずのイーサンはその口元を歪める。イーサンの周りに浮かぶ数百の魔力スフィア、フェイトのファランクスシフトを思わせる様相だ。なのはよりも、クロノよりも、烈火よりも上空を取ったイーサンは通常攻撃が当たらない相手に対して面で焼き払うつもりのようだ。

 

 イーサンの上を取らなければ、躱しようのない範囲攻撃に晒されることになる。流石にこれにはとなのはとクロノも動きを見せようとしたが・・・

 

『・・・来るな』

 

 烈火からの念話に足を止めた。次の瞬間・・・

 

「おらぁ!!!当たりやがれぇぇぇ!!!!!」

 

 イーサンを中心に大量の魔力弾が雨の様に戦闘域に降り注いだ。一撃一撃は必殺の威力とは言えないが、魔力弾の数が多すぎる。なのはとクロノは迫り来るスフィアを躱し、必要な物は自身で迎撃し、それでも落としきれないものは防御障壁を使って耐える。

 

「全くめちゃくちゃやってくれるな!」

 

 波状攻撃を防ぎながらクロノが毒を吐いた。イーサンの魔力量がどこまで膨れ上がっているのかは定かでないが少なくとも自分達を上回っていることは確かだろう。今は余裕をもって耐えているが、この魔力の雨を抜け出してイーサンに一撃を与えなければ先に力尽きる可能性もゼロではない・・・と戦況を分析していたクロノの瞳に飛び込んできたのは、魔力の雨の中をバレルロールを繰り返し、縫う様に高速で飛び回る烈火の姿だ。

 

 イーサンは烈火を蜂の巣にしてやると息巻いていたが、未だに攻撃が掠りもしない。そして、烈火が急反転して自身の方に向けて向かってきたと認識した瞬間には、再び胸を斬り裂かれ、宙を舞っていた。

 

 上空へと弾き飛ばされたイーサンを待っていたのは、自身より下にいたはずの烈火からの追撃であった。吹き飛ばされた先に回り込んでいた烈火の踵落としがイーサンの顔面に炸裂し、そのまま全身を地面に叩きつけられる。

 

「はぁ!・・・くそっ!?何故だぁ!!」

 

 イーサンは最高の武器と魔力を得たはずの自分が地に伏せていることが信じられないといった表情だ。自分を見下ろす、白いロングコートの少年・・・

 

 

 無様に這いつくばる自分、そしてそれを見下ろす白い防護服の魔導師、イーサンの脳裏に浮かびあがる屈辱の記憶・・・

 

 

---ドクンッ!!

 

 イーサンを中心に膨大な魔力が吹き上がる。

 

 

 

 

「烈火、これは?」

 

 ライラとの戦闘を終わらせたフェイトが烈火の隣に降り立つ。その視線の先には高密度の球体状の魔力に包まれたイーサンの姿があった。その魔力球は生き物のように鼓動を刻んでいる。

 

「さぁな、っ!?避けろ!!」

 

 烈火とフェイトがいた地点を高出力の光線が襲った。それぞれ左右に避けた2人に対して攻撃を繰り出したのは穴の開いた魔力球だった。それだけでなく結界内一帯に魔力球から幾度となく魔力を纏った光線が撒き散らされる。

 

 

 

 

「力任せにぶっ放されるとこまるわぁ~」

 

 その余波は戦闘域から離れた者達にも襲い掛かっていた。寝かされている煉と咲良、心配そうに魔導師達を見つめていたアリサとすずかを庇う様にシュベルトクロイツを構えたはやてが障壁を展開し、その光線を防ぐ。

 

 

 

 

 そして、穴だらけになった魔力球から、大気を震わせる竜の咆哮が木霊する。内部からぶち破られた魔力球から出現したイーサンの姿は先ほどからさらに変貌を遂げていた。角、牙、爪、全身の筋肉が肥大化し、全身に生えた鱗もさらに鋭角な印象を与えるものへと変化している。さらに上半身のバリアジャケットが弾け飛び、その背には一対の羽が生えていた。

 

 

 周囲の魔導師達はイーサンの変貌した姿に呆気に取られていたが、結界全体を震わせる竜の咆哮と共にその口から先ほど打ち放たれた光線によって現実に引き戻された。高魔力砲撃と比べても謙遜ない高出力の攻撃、竜の吐息(ドラゴンブレス)だ。

 

「・・・ァァァ・・・ってやる・・・全部ぶっ壊してやる!!!!!」

 

 正に怒髪天・・・怒り狂ったイーサンに先ほどまでの比ではないほどの高密度の魔力が収束されていく。血走った瞳孔が割れた瞳が射抜いたのは自身を見下ろしている烈火だ。

 

 

 

 

「・・・っ!!!・・・烈火?」

 

 イーサンの殺気を感じ取ったフェイトが前に出ようとしたが、それを烈火が剣で制した。その光景を見てフェイトと同タイミングで動き出そうとしていたなのはとクロノも足を止める。早くイーサンを覆う、先ほどまでよりも遥かに出力を増した魔力の鎧を突破して攻撃を中断させなければならないのに・・・

 

 

 

「・・・フルドライブ」

 

≪Ignition≫

 

デバイスの起動音と共に烈火の周囲にも蒼い魔力が迸る。烈火のバリアジャケットと剣の装飾がより洗練された物へと変化していく。

 

 

 

「綺麗・・・」

 

 すずかはその光景を目の当たりにし、周囲の人物達の心情を代弁するかのような声を漏らした。

 

 

 

 その視線の先に佇んでいるのは剣を携えた1人の少年、その背からは三対十枚の蒼い翼、鳥類を思わせるそれではなく、機械的な翼。それぞれの翼の間から噴き出した魔力が、蒼白い光の翼を形成している。

 

 蒼き天使がこの戦場に降り立った。しかし、蒼き翼に見惚れている間もなく、怒りに狂った竜人が狂気の咆哮を上げる。

 

 

 

 

「この俺をさんざんコケにしてくれた礼だ。まずはてめぇから吹き飛ばしてやるぜぇぇぇっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 イーサンが構えたミュルグレスから濁った青の光、竜種のように変貌したその口からは灼熱の光線が同時に放出された。混じり合う2つの砲撃が極光となり烈火に襲い掛かる。

 

 迫り来るのは災害級の収束砲撃(ブレイカー)・・・

 

 烈火が剣を振り上げた、その足元にはミットチルダ式の円環状、ベルカ式の正三角形の剣十字とも違う彼の魔力光と同じ蒼い四芒星の魔法陣が浮かび上がる。

 

 

 

「・・・エタニティゲイザー」

 

 烈火は魔法名と共に剣を振り下ろす、撃ち放たれた蒼い斬撃が迫り来る砲撃と激突し・・・文字通り砲撃を割った。

 

 

 

 イーサンは無限に等しいとさえ思える自身の最大出力で撃ち放った荒れ狂う魔力の波が真っ二つに割られる様を茫然と見つめていた。迫り来る蒼い斬撃とは別の方向に手を伸ばしながら、イーサン・オルクレンは斬撃に飲み込まれた。

 

 イーサンを飲み込んだ烈火の斬撃が大地が割り、結界全体を揺るがす。

 

 

「っ!!行くぞっ!」

 

「・・・うん。ジュエルシード封印!!」

 

 クロノとなのはは割れた大地の中の中にいる弱り切ったイーサンの魔力反応を探り、封印魔法を打ち放つ。水色の砲撃がミュルグレスを桜色の砲撃がジュエルシードを4つ纏めての封印に成功した。先ほどまで嵐のように吹き荒れていた魔力がピタリと止み、クロノとなのはは封印したロストロギアを回収に向かう。

 

 イーサンとライラは無力化され沈黙し、犯罪者グループもアルフの〈チェーンバインド〉により捕縛された。終結に向かいつつある状況にはやてによって守られているアリサとすずかも幾分か肩の力が抜けたようだ。

 

 

 

 

 そんな中でフェイトはその場から一歩も動くことができなかった。

 

 魔導師だった自身の隣の席の男子生徒、暴走するロストロギアを操る魔導師に打ち勝ったにも関わらず、浮かべているのは安堵でも誇らしげな表情でもない。

 

 フェイトの瞳に映り込んだ烈火の横顔は今にも消えてしまいそうなほど悲しげで儚そうなものだったから・・・

 




最後まで読んでいただいてありがとうございました。

そしてお久しぶりでございます。
ちょっと忙しくて間が空いてしまいました。

初挑戦のバトルパートは今回で一区切りとなります。

次回も読んでくれると嬉しいです。
感想等ありましたらいただけると嬉しいです。
大幅に執筆速度が上昇すると思いますので・・・

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