魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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明らかになる事実、すれ違う想い

 大きく割れて陥没した地面を見下ろしている蒼き剣の天使・・・

 

「・・・ぁ・・・れ、っか」

 

 フェイトは目の前の烈火に何か言葉をかけようとしたが上手く出てこなかった。どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのか・・・どうしてそんなに寂しそうな瞳をしているのか・・・

 

 まるでかつての自分を見ているようで・・・

 

 

 

 

「・・・こ、こんなことって!?」

 

「これは・・・!?」

 

 そんなフェイトにクレーターの中に封印したロストロギアを回収に向かったなのはとクロノの驚愕の声が聞こえてきた。何事かと烈火と共に2人の下に向かったフェイトだったが、目の前の光景に思わず口元を覆ってしまった。

 

 

 地面に突き刺さったミュルグレス、光を失った4つのジュエルシード、そしてクレーターの中心に倒れているイーサン。しかし、その様相はジュエルシードと融合した先ほどの竜人と呼べる姿とも、その前の通常の姿とも大きく異なるものだったからだ。

 

 頭髪は色素が抜け落ちたような白色になり、全身は皺だらけに、そして骨が浮き上がるほどやせ細った手足・・・まるで年老いた老人のようだ。とても20代半ばの元武装隊員とは思えない姿となっていた。

 

 

 その場にいた誰もが言葉を失った。

 

 

 

 その時・・・

 

 

 

「でぇぇぇりゃゃゃゃゃ!!!!!!!」

 

 力強い雄叫びと共にクロノ達4人の上空を黒服の魔導師が通り過ぎていった。横回転でローリングしながら飛んでいた男は、戦闘跡から距離を取っていたはやて達の所の目の前で大地に全身を叩きつけられ、ピクピクと痙攣している。

 

「最後のジュエルシードを確保した。封印を頼む」

 

 一同が男が飛んできた方を向けば、そこには拳を振り切ったザフィーラの姿があった。アリサ達を襲撃した第二部隊が封絶結界の突入時に持っていた最後のジュエルシードを暴走前に確保したようで、クロノ達に封印を促している。

 

 最後のジュエルシードに水色の帯が纏わりつきその輝きを鈍らせていく。それと同時に結界内に何人もの魔導師が現れる。元々、イーサン達を追っていた管理局の武装隊であった。クロノから事情を説明を受け、バインドによって捕縛されている犯罪者グループを拘束していく。

 

「暴走していたロストロギアの封印と犯罪者グループの確保を完了、状況終了だ。この現場は今来た彼らに引き継いでもらう・・・」

 

 戦闘時より幾分か穏やかになった雰囲気のクロノが周囲の魔導師達を見渡して呟いた。眼前の脅威はすべて打破したため、残りの処理は武装隊に任せるようだ。

 

 その言葉を聞いた瞬間、白い影が空を駆けた。その先にいるのは、はやての背後で座り込んでいた2人の少女。

 

 なのはは、飛びつくようにアリサとすずかを抱き締めた。2人もまた、なのはを抱きとめ、その温もりを感じるように身体を寄せる。その様子を見て、フェイトとはやても思わず一息ついた。

 

 クロノやアルフ、ザフィーラもその光景を見て、穏やかな表情を浮かべている。一同は抱き合う3人の近くにその足を付けた。

 

「だが・・・」

 

 クロノはそんな3人から視線を逸らした。変わり果てた姿のイーサンを一瞥した後、アルフ達に遅れて、大空から舞い降りて来た烈火の方を視線で射貫く。烈火はいつの間にか先ほど戦闘の最終局面で見せた翼を纏った姿から元の姿へと戻っていた。

 

「蒼月烈火・・・君には聞きたいことが山ほどある。武装解除した後、本局で事情聴取を行いたいのだが」

 

 一同がいる地点に着地した烈火に対して、クロノは自身の意思を伝える。戦闘が終了して落ち着いて来たのか、一同の視線が烈火に集まった。

 

 

 

「お断りします」

 

「なっ!?・・・何故だ」

 

 クロノの問いに対しての烈火の解はNOであった。クロノは一呼吸置いて落ち着きを取り戻し、再度、烈火に尋ねた。

 

「貴方達の指示に従う理由がありませんので」

 

「どういう意味だ?」

 

「言葉通り受け取ってもらって構いません・・・さっきから俺の周りを飛び回ってる物もさっさとしまってくれると嬉しいのですが」

 

 両者とも落ち着いた様子であるが、周囲の空気が重苦しい物へと変わっていく。虚空を睨み付けた烈火の視線の先にステルスモードで飛び回っていた魔力サーチャーが姿を現した。

 

「エイミィ、現場の戦闘は終了している、サーチャーを回収してくれ・・・失礼した、しかし、先ほどの回答の意味を訪ねたいのだが?」

 

 クロノは咳払いをした後、厳しい表情で烈火と対峙する。

 

「別にこの一件に関して話をしないとは言いませんが、貴方達を信用したわけではない。まあ、お互い様だと思いますがね」

 

 烈火はクロノを視線を合わしながらも、周囲に意識を割いている。

 

「烈火君・・・」

 

 烈火の信用できないという言葉に表情を曇らせるなのは・・・フェイトやはやても同様の表情を浮かべており、アリサとすずかも嫌悪になっていく雰囲気に困惑しているようだ。

 

 なのは、フェイト、はやての三人はジャケットこそ纏ったままだがその手に持っていたデバイスは既に格納されている、デバイス自体が破損した煉と咲良も同様で、アルフも既に拳を下ろしている。その中でまだ臨戦状態を解いていない者達がいた。

 

 デバイスの安全装置を外したままのクロノと腕を組んでいるザフィーラだ。烈火もその手にはまだ剣が握られている。ようやく暴走ロストロギアを封印して戦闘が終了したにもかかわらず、再び緊張が高まっていく。

 

 

 

 

『クロノ、ザフィーラさん、そこまでよ・・・』

 

 クロノの隣に突如として一つのモニターが浮かび上がり、その画面にリンディが映し出された。

 

『蒼月君、アリサさん、すずかさん、この度は我々の都合に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした』

 

「なっ!?母さん!!」

 

 深々と頭を下げたリンディに対してクロノが驚愕の声を漏らした。煉もまた信じられないような表情でそのモニターを見つめている。統括官という本局においても相当な高官に当たるリンディが管理外世界の一般人に頭を下げて謝罪しているのが信じられないのであろう。

 

『こちらとしても、さっきクロノが言った様にこの事件に関してお話を聞きたいの、そちらの要求は可能な限り飲もうと思うのだけれど・・・ダメかしら?』

 

 頭を上げたリンディが烈火に対して問いかけた・・・

 

 

 

 

 

 

 数時間後、ハラオウン家には先ほど共闘した魔導師の大多数が集結し、リビングに用意された椅子やソファーに腰かけていた。クロノ、烈火、ザフィーラ以外は私服に戻っている。煉と咲良は治療とデバイスの修理のために、既にこの一団から離脱しているようだ。

 

「2人とも大丈夫?」

 

 なのはは自身と同じく腰かけているアリサとすずかを気遣うように声をかけた。

 

「ちょっと疲れちゃってるけど・・・」

 

「このまま何にも知らないまま帰れないわよ!!」

 

 なのはやクロノらから事情に関しては後日説明するので今日は帰るように言われていた2人だったがその申し出は断っていたようだ。

 

「んんっ!!・・・皆、静かに・・・では今回の事件について説明しよう」

 

 大きなモニターの隣に立ったクロノが今回のイーサン達によって引き起こされた事件についての概要を説明していく。イーサン達のロストロギア強奪に始まり、別の犯罪者グループと手を結んでいたこと、地球に潜伏していたことやアリサ達を襲ったのはその中の別動隊だったということ・・・

 

「管理局内であまり評判の良くなかった者達だったから自身の待遇に何かしらの不満があったと思われるが、詳しい動機は依然として不明だ・・・首謀者があのようになってしまったしな」

 

 クロノは苦虫を潰したような表情を浮かべている。

 

「どうしてあんな風になっちゃったのかな?昔はジュエルシードに取り込まれた人達はなんともなかったはずなのに」

 

 変わり果てたイーサンの様子を間近で見たなのはも同様であった。しかし、以前の〈PT事件〉の折に発動したジュエルシードだったが、暴走に取り込まれた人間や動物達は、ジュエルシードの封印後に、特に外傷のようなものはなかったにも関わらず、同じ状態に陥ったイーサンだけがあのように姿を変えたのはなぜなのだろうかと疑問をぶつけた。

 

「それに関しては今から検証をするとのことだ。おそらくは体とリンカーコアに限界を遥かに超えた負荷をかけ続けたことによる後遺症だろうという見解が出ているが」

 

 ミュルグレスは身体能力を限界以上に引き上げ、4つのジュエルシードは強くなるというイーサンの願いに応え、膨大な魔力を与えたが、強大な戦闘能力と引き換えに身体機能を破壊する諸刃の剣だったということであろう。

 

「全身の骨は折れ、筋組織はズタズタに、破裂したようになり魔力生成に異常をきたしているリンカーコア・・・おそらくはもう一人で立ち上がることすら難しいそうだ。あの場で倒していなければ、膨れ上がる魔力を抑えきれず暴発し、その余波はこの世界ごと破壊しかねない状態であったそうだ」

 

 アリサとすずかはクロノの言葉に思わず青ざめていく。

 

「彼らがどうやって管理が厳重なロストロギアを盗み出したのかなどの不明点も多い、結局、逮捕した元局員以外の連中は犯罪者グループの中でも末端であり、有用な情報を引き出すことを期待することはできないだろう。だがイーサン・オルクレン達だけで今回のような一件を引き起こせるとは到底思えない。それを手引きした何者かがいると思った方がいいだろうな・・・今回の一件、思ったよりも闇が深いのかもしれない」

 

 クロノは事件の概要について説明し終えた。事件こそ解決したものの、クロノ含め、周囲の雰囲気は芳しくないようだ。

 

(それに、なぜ彼女達をピンポイントで人質としたのか・・・わざわざ走っている車を襲撃せずとも、人質を確保するだけならもっと楽な方法があったはず・・・)

 

 クロノはアリサやすずかを不安がらせないように内心で呟いた。勿論たまたま、人質とされたのが自分達と親しい人物だった可能性もゼロではない。

 

 しかし。アリサ達からの説明を受けた限りで判断するならば、周囲に見られる危険度が跳ね上がるにも関わらず、走行中の車をわざわざ襲い、3人を人質にするのはあまりにリスキーだ。

 

 クロノはあまりに手際のいいイーサンたちの行動を不審に思うが、ここで悩んでいても答えは出ないともう一つの最優先事項に思考を切り替えた。先ほどまでジュエルシードと融合していたイーサンが映っていたモニターに白いロングコートを纏った烈火の姿を映し出す。

 

「そしてもう1つの不明事項は・・・改めて蒼月烈火、君は何者なんだ?」

 

 クロノの視線と共に周囲の視線が烈火に突き刺さった。これに関しては誰もが疑問に思っていたことだったからである。

 

「そうですね・・・管理局に所属していない通りすがりの魔導師といったところでしょうか」

 

「ふざけているのか?嘱託魔導師、フリーで活動している魔導師含めて君の名前はデータベースには存在していないんだぞ!!」

 

 烈火は周囲からの視線に動じることなく問いに答えたが、クロノの表情は硬い。

 

「少し落ち着きなさい。蒼月君、さっき貴方が使っていたのはソールヴルム式の魔法だと思うのだけれど違うかしら?」

 

 クロノを制したリンディが烈火に問いかける。最後の斬撃を放つ際に烈火の足元に浮かび上がった四芒星の魔法陣の事を思い出したのか、リンディの問いに魔導師組もハッとした表情を浮かべていた。緊迫していた戦闘を行っていた魔導師達ではなく、現場の様子をモニタリングして全体を見渡していたリンディだからこそ、的確に情報を分析できていたのであろう。

 

 そしてソールヴルム式という聞きなれない単語にアルフやアリサ達は首を傾げていた。

 

「ええ、そうですよ」

 

「そう・・・実物を見たのは私も何年ぶりかしらね・・・」

 

 リンディは烈火の解に昔を懐かしむ様な表情を浮かべたが・・・

 

「ソールヴルムというとあの特別管理外世界の事か!!?」

 

 クロノもまた、烈火の答えに目を見開いた。

 

「えっと、さっきから微妙に話について行けないんだけど」

 

 なのはは控えめに手を上げていた。いつの間にか烈火、クロノ、リンディだけで話が進んでしまっていたようだ。

 

「最近の子には馴染みのない話かもしれないわね。では説明しましょうか・・・」

 

 

 クロノに変わって皆の眼前に立ったリンディがモニターを操作していく。

 

 

 

 

特別管理外世界ソールヴルム

 

 ミッド、ベルカとは違った魔導形態を受け継いでいる世界。

 世界の周囲を〈ディストラクト・フィールド〉と呼ばれる特殊な空間が包んでおり、限られた場所からしか出入りすることができず、空間転移などを用いる場合も同様である。

 

 またディストラクト・フィールドがあるため、外界から遮断されており、外の世界との取引もほぼ行っておらず、ソールヴルムの人々が他の世界に出てくること自体がほとんどないため、謎の多い世界と言われている。

 

 

 

 基本的に魔法文明がある世界は管理局の下へ降り、管理世界として登録されているのだがこの世界は、再三に渡るその申し出を断固拒否しているため、確固とした魔法文明がありながら、管理外世界に名を連ねている。

 

 管理局は今なお、管理世界への登録と情報開示を求めているが、残念ながら芳しくないといった状況だ。

 

 管理局がソールヴルムにここまで入れ込むのには大きく2つの理由がある。

 

 1つはソールヴルムにあるロストロギア〈イアリス〉を回収するため、2つ目はミッド、ベルカとも違う独自の魔導形態であるソールヴルム式の情報を得るためということである。

 

 

 

イアリス

 

・ソールヴルムで発見された謎の結晶。イアリスは周囲の魔力素を吸収し、それを高める性質があるとされ、これをソールヴルムの人々は様々なものに利用し、独自の文明を築いている。

 

・イアリスは危険性こそないといわれているものの現在の技術では再現することが不可能な物質のため管理局ではロストロギア認定されている。

 

 

ソールヴルム式

 

・ソールヴルムの人々が使う独自の魔導形態。

 

・ミッドチルダ式より汎用性に劣り、ベルカ式より白兵戦に劣るが逆に言えば、ミッド式より白兵戦に優れ、ベルカ式より汎用性に優れるのがソールヴルム式である。

 

・そしてこの魔導形態を使用する多くの魔導師がイアリスをデバイスに搭載している。

 

 

 

イアリス搭載型デバイス

 

・デバイスのコア部にをイアリスを搭載したデバイスのこと。

 

・イアリスの性質である魔力を吸収し、高めるということを利用することによって少ない魔力でも強力な魔法を行使することが可能になった。

 

・しかし、イアリスを搭載することによって逆に通常のデバイスよりも魔力運用に難が出てしまっている部分も多々見受けられるようだ。

 

・通常のデバイスは自分の使う分の魔力を込めればそのように魔法を行使できるが、イアリスは自身の性質で、ある一定以上の魔力を吸収するとそこから出力が跳ね上がるため、加減を誤れば魔法の暴発を引き起こしかねないものとなっている。

 

・それを恐れて魔力を込めなければ当然、魔法自体も貧弱なものとなり、本来の威力を十全に発揮できないという事態も引き起こしかねない。

 

・この微妙な魔力コントロールを実戦で戦いながら行うことは非常に難度が高いため、イアリス搭載型のデバイスの性能をフルに発揮できる魔導師はごく僅かと言われている。

 

・とはいえコア部にイアリスを搭載することによる恩恵は少なからずあるため、ソールヴルム式の魔導師は自身の魔力運用に合わせた適量のイアリスをデバイスに使用し、魔力運用の効率を飛躍的に高めていると言われている。

 

・現在の技術では、繊細な魔力運用を求められるイアリスデバイスに爆発的な火力を齎す〈ベルカ式カードリッジシステム〉を組み込むことは不可能とされている。そのため、瞬間火力や汎用性では管理世界のデバイスの方が優れている点も多い。

 

 

 これらの独自技術や高い文明レベルを誇っているため、他の管理世界と違い時空管理局の支援を必要としていないと言われている。

 

 

 

 

 

 

「こんなところかしらね・・・」

 

 話を終えたリンディは考え込むような様子の魔導師組、ところどころは理解できていないであろうが納得がいったという様子のアリサとすずか、そして頭から湯気を出してフリーズしているアルフを見据えて苦笑いを浮かべている。

 

「まあ、管理世界に加盟していない魔法文明のある世界がミッドともベルカとも違う魔導形態を持っているということよ、分かったかしらアルフ?」

 

「・・・あ!ぁああ!!!なんだ・・・難しい言葉を並べないで始めからそう言っておくれよ!ん?でもアンタはなのはの昔馴染みじゃなかったのかい?」

 

 リンディの説明により、処理落ちから復帰したアルフが頷いている。しかし、すぐさまアルフは烈火に対して問いかける、以前になのはの幼少の知り合いだと聞いていた烈火がなぜ、他の世界と交流が薄いはずのソールヴルムの魔法を使用しているのかということについてだ。

 

「出身は地球で幼少の頃はここで過ごしていたんだ。この街から出ていくのはソールヴルムに移住するためで、先日まではそちらに住んでいた。ソールヴルム式を使うのもそのためだ」

 

「ふぇ・・・そうだったんだ」

 

 烈火はアルフの問いに答える、なのはにとってはかつて自分と別れた本当の理由が分かった瞬間でもあった。

 

「では、質問を変えよう。先日会った際には君から魔力反応は全く感じ取れなかったが、今は管理局のエース達と比べても遜色ないほどの高魔力を放っているのはなぜだ?」

 

「ああ・・・それはこれの影響ですね」

 

 クロノの質問に対して烈火はデバイスに格納されていた罅の入ったネックレスのようなものを取り出した。

 

「これは身に着けている者の魔力を周囲に感じ取れなくする魔法具(マジックアイテム)です」

 

「そ、そんなものが・・・」

 

 クロノは自身達、管理局が行う、リンカーコアへのリミッターとは違うやり方で魔力を打ち消していた烈火の方法に驚いているようだ。

 

「ある種の封印のようなものなのでステルス性を求めての使用には向いていませんよ。それに、使用している間は念話なども含めて周囲の魔力を感じ取れなくなりますし、つけている本人も魔力を扱うことができなくなり、デメリットの方が多い。貴方達が魔導師だということを知ったのもついさっきですしね。それに一度限りの使い捨てですので封印を解除した今は、もうただのガラクタですよ」

 

「なるほど、では君はなぜこの世界に来たんだ?」

 

「特に理由はないですよ。強いて言うなら休養といったところですかね」

 

 魔法具の説明を受けたクロノは再び烈火に問う。しかし、その答えに対して不機嫌そうに眉を吊り上げた。

 

「はぁ、とりあえずはその理由で納得しておこう。今後について話し合う方が先決だからな。君の事はそれなりに分かったわけだが・・・この地球で暮らしていく上で、君には3つの選択肢がある・・・」

 

・1つ目、自身で再び魔力を封印して、デバイスを管理局側に預ける事

・2つ目、管理局側からの魔力リミッターを受け、デバイスを管理局に預ける事

・3つ目は、嘱託魔導師として管理局に登録する事、この場合はリミッター等の制限はかなり軽くなる。

 

「僕個人としては嘱託魔導師として登録する事をお勧めするが・・・」

 

「全てお断りします」

 

「な、なんだと!?自分が何を言っているの分かっているのか!!」

 

 烈火はクロノに提示された選択肢をすべて拒否した。それを聞いてクロノの眉間に皺が寄っていく。この場にいる管理局員達も思わず目を見開いている、動じていないのはリンディとザフィーラくらいの物だ。

 

「ええ、分かっているつもりです・・・そちらこそ、はっきりと言ったらどうですか?俺のソールヴルム式とイアリス搭載型デバイスのデータが欲しいと」

 

 烈火は多くの管理局員の視線に射抜かれながらも堂々と言い放った。3つの条件のいずれを選んでも、自身の魔導師としてのデータやデバイスのスペックを管理局に完全に把握されることになる。先ほどのサーチャーでの監視と含めて、ソールヴルム式の使い手である烈火の詳細データを管理局側が欲していることは火を見るより明らかだ・・・

 

「・・・っ!こちらとしてもそれだけの力を野放しにはできないぞ」

 

 一瞬、言い淀むクロノだったが、最高潮の怒気を烈火に向かって放つ。

 

「では、逆に問います。なぜ俺が貴方達の管理下に入らなければならない?」

 

「それはこの世界で魔法を使っていく以上、管理局に何らかの形で所属するのは決められた法であるからだ」

 

「お話になりませんね。それは時空管理局で言う管理世界で定められた法律のはずだ。この地球は管理外世界、つまり管理局の法は適応されないはず・・・違いますか?」

 

「制御されていない力はただの暴力でしかない!!君の大きすぎる力はあまりに危険だ!」

 

 2人の主張は真っ向から対立している。まさに平行線だ。

 

「・・・その主張が間違っているとは思いません。俺もここが管理世界だったら従っていたでしょう」

 

「ならばっ!!」

 

「さっきも言いましたが、ここは管理法が適応されない管理外世界だ。俺の過ごしてきたソールヴルムもね。こんな事態になるのが面倒で新たな移住先に管理外世界を選んで、わざわざ魔力まで封印してきたというのに・・・管理局があんな連中にロストロギアを盗み出されたのがそもそもの原因ですよね?」

 

「それは・・・」

 

「今回の一件に関しては、俺と月村、バニングスは巻き込まれただけの被害者のはずだ。話を聞けば、管理局内のくだらない内輪揉めで俺達は命の危険にまで陥ったんですよ。それに一歩間違えばこの世界が滅んでいた可能性すらあったと・・・」

 

「しかし!」

 

「俺があの場で魔法を使わなければ少なくとも月村はこの場にいなかったはず・・・そちらの勝手な都合で俺が魔力を抑え込まれたり、デバイスをそちらに渡したりするような制限に従うつもりは一切ありません」

 

「・・・っ!!」

 

 烈火とクロノはまさに一触即発、いつ互いのデバイスが抜かれてもおかしくない状況へと陥っている。

 

 

 

 

 

「・・・もう止めてよっ!!!!!」

 

 言い合っている烈火とクロノの間に堪らずといった様子でなのはが割り込んだ。会話の流れがここで途切れる。

 

 

 

「そうね・・・今回に関しては全面的にこちらの不手際だわ。蒼月君に関して特に行動制限を設けるつもりはありません。でも、一つだけお願い・・・その魔法を正しいことに使ってね」

 

 飛び出していったなのはの肩に手を置いたリンディが烈火の方を向いて言い放った。

 

「何が正しくて何が正しくないかなんて俺には分かりません。でも力を振るうにはそれだけの責任が問われる・・・それくらいは承知しているつもりです」

 

 烈火もまたリンディの方を向いて、視線を合わせながら返答する。

 

「俺から話せることはもうありません・・・今日は失礼します」

 

「ええ、送っていくわ。みんなはここにいて」

 

 烈火はリンディに見送られハラオウン家を後にした。すぐ隣の自身の家に向けて歩き出そうとしたが、すぐその足を止めることになった。

 

「・・・っ!・・・烈火君っ!!」

 

「・・・なのは?」

 

 追いかけて来たなのはの存在があったからだ・・・

 




最後まで読んでいただいてありがとうございます。

大分、情報量の多い回だったかなと思います。

ソールヴルム式ですが、ソールヴルム独自の魔法形態というだけであって、その世界ではありふれたものです。

希少性では、はやてやヴォルケンズの古代ベルカ式の方が圧倒的に高かったりします。
最新の劇場版を始め、A's,STS,VIVIDと基本的になのはのストーリーは古代ベルカが大きくかかわって来て、原作の登場人物達に使い手が多いので、そう思えないかもしれませんが、古代ベルカ式は滅多にお目にかかれないはずですからね。


元々、局員だったわけでも、なのはの幼馴染でPT事件をきっかけに魔法に目覚めて、局入り・・・という設定の主人公ではありませんので、こういう話も必要かなと思って書きました。

なのはと烈火、そしてハラオウン家に残ったメンバーについてはまた次回ということで、中途半端な所ですが、さらに長くなりそうなのでいったんここで切りました。

感想、評価等していただけると嬉しいです。
ではでは・・・

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