魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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交差運命のprelude

 管理局と元局員達とのロストロギアを巡る戦いの翌日、烈火が学生服に着替え終わった時、自宅のインターホンから音が鳴った。

 

「おはよう、朝早くにゴメンね」

 

「いや、準備も終わっているし構わないが・・・」

 

 ドアを開いた先にいたのは隣の家の美少女、フェイト・T・ハラオウンであった。学生服とその上にコートを着用して鞄を持っていることから学校に向かおうとしていたと思われるが、それにしては若干時間が早い。

 

 

 

 

 

 

「え、っと、その・・・昨日はゴメンなさい!」

 

 フェイトは気まずそうな表情を浮かべた後、勢いよく頭を下げた。

 

「お、おい!何の話だ?」

 

 家の前で自分に頭を下げて来た金髪の少女・・・烈火は慌ててフェイトに頭を上げさせる。

 

「昨日はお兄ちゃんが酷いこと言っちゃったでしょ?だから謝りたくて」

 

 顔を上げたフェイトは申し訳なさそうな表情を浮かべている。フェイトもいくつもの凶悪事件を独自で追う立場であり、管理局で最難関とされる執務官として働いている以上、クロノの判断のすべてが間違っているとは思えない。

 

 しかし、一個人として、友人として、改めて烈火の立場になって考えた場合、自分達は彼に酷いことをしてしまったのではないか・・・と昨日からずっと考え耽っていたようだ。

 

 

 

 

 暴走し竜人と化したイーサンを沈めた烈火の功績はこの事件での戦闘において、かなりの功績と言えるだろう。フェイトがライラを無傷で降したように、イーサン相手でも単身で、ほぼ確実に勝利できたであろうなのはとクロノがタッグを組んでいた以上、敗北はなかっただろうが、この事件が数名の怪我人だけという、軽微な被害で終わったかどうかは微妙な所だろう。

 

それにアリサやすずかを烈火が救っていなければ・・・

 

 昨日、ハラオウン家に集まっていたのは烈火以外は皆、家族ぐるみで付き合いのある身内関係と言っても過言ではない間柄である。そのメンバーで結果的に親友の命の恩人である烈火を取り囲んで個人情報を聞き出そうとしたり、魔力を抑え込んで制御しようとしたり、デバイスを取り上げようとしてしまった自分達は、法という免罪符の下で、ただ保身と利益を考えていただけではないか?

 

 

 

 

 

 

「・・・それにお話もしたかったし」

 

 烈火はどこかで聞いたようなセリフだとフェイトの発言にデジャヴを覚えていた。

 

「昨日の事なら気にしてないぞ」

 

「え?」

 

「お前達、管理局の判断は組織として当然の物であり、正しいものだったと思ってる。それを肯定するつもりはないが、俺があの場で管理局側の人間として居合わせていたなら、ハラオウン兄と同じことを言っていたかもしれん・・・だが、俺にも譲れないものがある。その領域に管理局が入って来たから突っぱねただけの事だ。だからフェイトが昨日の事に関して気に病む必要は一切ない」

 

 フェイトは昨日の鋭い烈火の表情から、管理局員の自分はもう口も聞いてもらえないのではないかとすら思っていたが、烈火からの返答は予想外の物であった。それもフェイトを気遣う姿勢すら示している。

 

「それでも私達が酷いこと言っちゃったのは事実だから・・・ごめんなさい」

 

「律儀な奴だな、君は」

 

 烈火は自身の言葉を受けながらも改めて頭を下げてきたフェイトに対して苦笑いを浮かべている。

 

「ううん、そんなことないよ。当たり前のことをしてるだけ、それに烈火だってすっごく優しい人だと思うよ」

 

「俺が?お世辞はやめてくれ」

 

「そんなことない、お世辞なんかじゃないよ。私の事も助けてくれたしね」

 

 烈火を見つめるフェイトは優しく微笑んでいた。フェイトの脳裏によぎったのはついこの間の記憶、烈火に足を痛めた自分を強引にであったが保健室まで運んでもらったこと。

 

 「とにかく!そちらから撃ってこない限りこちらから敵対するつもりはない。鞄持ってくるからさっさと学校に行くぞ」

 

 烈火は強引に話を打ち切って家の中に鞄を取りに向かう。フェイトはその後姿を見て目を丸くしていた。戦闘中も終始冷静であった烈火の横顔が赤らんでいるのが見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

「今日は月村とバニングスは休みなのか」

 

「うん、昨日あんなことがあったばかりだから、今日は大事を取ってお休みするみたい」

 

 少年と少女は会話を交わしながら学校への道のりを歩いていた。事件の翌日ということもあって偶然にも巻き込まれてしまったアリサとすずかは本日は欠席するようだ。

 

「まあ、無理もないか」

 

「というか、烈火こそ平気なの?昨日、ロストロギアを使う人相手に戦った後なのに」

 

「一応、男の子だからな。あの程度なら問題ない」

 

「ふふっ、何それ」

 

 肩を並べて歩いている2人からは事件を経てのぎこちなさは感じられない。突如として起こった闘争を乗り越えた魔導師達は、今日も今日とてそれぞれの日常を謳歌するのだろう。

 

 

 

 

 

 

 烈火はフェイトに連れられてごく自然な流れで、通称、聖祥5代女神達とのランチタイムに招かれていた。

 

「なあなあ、蒼月君。今日の放課後空いてる?」

 

「ああ、特に予定は入れていないが」

 

「じゃあ、今日うちにきいひん?」

 

 学校の屋上で食事中の4人、はやてが烈火に対して自宅に来るかという誘いをかけた。

 

「ふぇ、烈火君とはやてちゃんは今日一緒に遊ぶの?」

 

「遊ぶというか、この街で魔導師として過ごすならうちの子たちと顔合わせしたほうがいいと思ってん。今日はちょうどみんな非番やったしな」

 

 はやての誘いに烈火が返事を返す前に反応したのはなのはであった。

 

「いいね!私は賛成だよ」

 

 はやてに対して、フェイトも賛同の声を上げる。女三人寄れば姦しいというがこの美少女3人であってもそれは例外ではないのだなと、盛り上がっているなのは達を見て感じた烈火であった。

 

 

 

 

 

 

 学校を終えた4人はそのまま八神家へと向かい、今到着したようだ。ごく普通の一軒家であるが、ところどころにスロープなどといった普通の家には見られないバリアフリーの設備があるのが烈火にとっては印象的なようであった。

 

「「おじゃましまーす!」」

 

「お邪魔します」

 

 はやてが玄関の戸を開けば、なのはとフェイトは声を揃えてその敷居をまたいだ。烈火も2人に遅れて八神家へと入っていく。

 

『あー、テステス、マイクテス。八神家の諸君、お客さんを連れてきたからリビングへ集合や!』

 

 はやては自宅にいる他の家族に向けて、念話送った。

 

 

 

「というわけで全員集合やな!」

 

 数分後、八神家のリビングにはやて達を含めて9名の人物が集結していた。

 

「では、新顔さんから紹介していこか!私らが通う聖祥中学の転入生兼、なのはちゃんの幼馴染兼、謎の美少年魔導師の蒼月烈火君や!」

 

 はやては無駄にオーバーアクションで烈火の方を指差した。

 

「先ほど紹介に預かった蒼月烈火だ。八神の言っていた訳の分からんことは忘れてくれると嬉しい」

 

 烈火がはやてからのバトンを受け取り、集まった一同の前で自身の名を名乗った。ちなみにはやては烈火の自己紹介が不満だったのか唇を尖らせてぶー垂れている。

 

「じゃあ、私から〈湖の騎士〉シャマルです。治療とサポートが本分なのでケガをしたり調子が悪くなったら言ってくれると力になれると思うわ」

 

 烈火の自己紹介が終わり、それに返す形で金髪をボブカットにした女性、シャマルが立ち上がって自己紹介をした。

 

「ちなみに趣味はお料理・・・あの、ちょっと!?」

 

 シャマルが自身の趣味を発表しようとしたが、その途中で隣に座っていたポニーテールの女性に肩を掴まれ、強引に着席させられていた。

 

「〈鉄槌の騎士〉ヴィータだ。しょうがねぇからよろしくしてやるが、はやてやなのはに変なことしたらブチ潰すからそのつもりでな」

 

 次に名乗ったのは赤い髪を三つ編みにしている小学校低学年くらいの少女、ヴィータだ。

 

「こら、ヴィータ!お客さんに対してなんて口の利き方をするんや!!」

 

「あぅぅ、は、はやてぇ」

 

 はやては初対面の烈火に対して、やたらと態度がデカいヴィータを咎めるようにその頭をぐりぐりと両手で挟み込んだ。ヴィータの口から先ほどまでとは一転、情けない声が漏れている。

 

「我は〈盾の守護獣〉ザフィーラ。お前とは、昨日の事件で顔を合わせたな」

 

 じゃれ合っているはやてとヴィータの隣で蒼い鬣の狼が名乗りを上げる。

 

「そして、私がヴォルケンリッター〈剣の騎士〉シグナムだ。主や皆、共々よろしく頼む」

 

 最後に立ち上がったのは桃色の髪をポニーテールに束ねた長身の女性、シグナムだ。

 

「ふむ、蒼月といったな。昨日の戦闘の様子は拝見させてもらった」

 

「はぁ、そうですか・・・」

 

 烈火はシグナムに掛けられた言葉に対して反応した後、はやてに半眼で視線を合わせた。

 

「べ、別にやましいことはしてないで!うちの子らなら閲覧できる情報しか見せてないし・・・そもそも、蒼月君は自分の事をほとんど話さへんかったから、私かてあんま知らへんしな!」

 

「まあ、あの場で魔法を使った以上はしょうがないか・・・っ!?」

 

 最初こそ若干しどろもどろになったはやてだったが、今回に関しては間違ったことをしていないのは両者ともに理解したからか、何も言うことはないと言いかけた烈火は両手に感じた柔らかい感触に驚愕の声を漏らした。

 

「流麗な剣捌き、鋭い太刀筋・・・見事だった」

 

 烈火の感じた感触の正体は両手を取って自身の顔を覗き込んで来たシグナムの白魚のような長く、白い指であった。一つ一つが整ったパーツ、長い睫毛、強い意志を感じさせる切れ長の瞳・・・絶世の美女の顔が目の前に広がっていた。

 

「ぇ、いや、あの・・・」

 

 先ほどのはやてに変わって今度は烈火が完全にテンパってしまっていた。烈火が今まで出会って来た女性の中でもトップクラスの美貌の持ち主だと言えるシグナムに迫られて完全にフリーズしてしまっている。しかし、シグナムの勢いはまだまだ収まることを知らない。

 

「冷静な状況判断も素晴らしい、あれほどのロストロギア相手を絡め手や共闘ではなく、真っ向から捻じ伏せるその姿勢も私好みだ」

 

 シグナムはクールで凛々しいといった風貌からは考えられない、まるで年頃の少女の様に瞳をキラキラとさせてさらに烈火に詰め寄っていた。しどろもどろになって返答を返せない烈火を尻目にシグナムの勢いはさらに増していく。

 

 

 

 

 

 

「あー、やっぱりこうなちっまったか」

 

 そんな2人の様子を見ていたヴィータが吐き捨てるように呟いた。

 

「あんなシグナム初めて見たよ」

 

「そうだねー」

 

 ヴィータに対して反応したのはなのはとフェイトの2人。

 

「シグナムの奴、昨日の事件の戦闘映像を見てからずっとテンション上がりっぱなしだったからな」

 

「ふむ、将がああなるのも今回ばかりは無理ないのかもしれんな」

 

 ヴィータが昨日のシグナムの様子を語り始めたところでザフィーラも会話に入って来た。

 

「どういうこと?」

 

 フェイトが首を傾げて問いかけた。

 

「推測でしかないが、恐らくはシグナムは自身と打ち合えそうな剣使いに巡り合えて嬉しいのだろう。我らの周りにはメインウエポンを剣に定めている者はシグナム以外いないからな。そこで奴の事件での戦いぶりを見せつけられれば・・・」

 

「新しい強敵の出現に舞い上がってしまうというわけやな」

 

「ええ、恐らくですが」

 

 はやてはザフィーラの推測に納得したように頷いている。

 

「私もザンバーやライオットの時は剣を使うけど、シグナムとクロスレンジで斬り合っていられるかって言われると、ちょっと自信ないかな」

 

フェイトは高速機動で相手を撹乱し、高火力の魔法を叩き込んで離脱するという戦闘スタイルをとる高速魔導師であり、シグナムの剛剣とインファイトを繰り広げるような展開になってしまえば分が悪いと言わざるを得ない。

 

「言われてみると剣を使ってる魔導師や騎士の人ってあんまり見ないかも」

 

 なのはも教導隊として他の魔導師と接する機会は多いが、シグナムの様に長剣をメインウエポンに添えた魔導師にはあまりお目にかかる機会はないようだ。

 

 ミッドの魔導師はフェイトのような例外を除けば基本的に、杖状のデバイスを使用して中遠距離戦を得意とする場合が多い。近接戦闘を得意とする、近代ベルカ式の騎士達もスタンダードな長剣を使うよりも、リーチに優れた槍や、使用者が考案した独創的な装備を好んで使う傾向にあるようだ。

 

 トンファー状のデバイスを剣と言い張るシスターもいるとかいないとか・・・

 

 古代ベルカに伝わる聖王や覇王の戦闘スタイルと同じ徒手空拳も人気だと言われている。間合いこそ短いが小回りが利き、武器を使わない分、普段の自身の身体と感覚と近いため、早く馴染むという利点もある。

 

 フェイトとなのはが魔導師について考察しているのを尻目に目の前の出来事はさらに進んでいく。

 

 

 

 

 

 シグナムが詰め寄って体を揺らすたびに、立っている時ですら服越しにでもくっきりと形が分かるほどのウルトラヘビー級の双丘が、その腕と体に挟まれて形を変えている光景が烈火の眼前に広がっていた。

 

「流石に今すぐとは言わん。しかし予定が合うのなら私と一戦交えてもらいたいのだがどうだろうか?」

 

「え、と、予定が合うのなら・・・構いません」

 

 烈火はシグナムという超絶美人からのべた褒めにあえなく撃墜され、斬り合い(デート)のお誘いを受けることになった。

 

「うむ!そうかそうか!」

 

 顔を真っ赤にした烈火と、表情を綻ばせているシグナム・・・2人の普段とのギャップに驚きのなのは達はどうしていいか分からないという空気を漂わせていた。しかし、空気を読んでか読まずか、2人に接近する小さな人影が・・・

 

「いい加減にして下さい!!リインの紹介がまだなんですよー!」

 

 手を取り合っている状態の烈火とシグナムに近づいてきたのは、青みかかった銀髪にはやてとお揃いのバツ印のヘアピンを付けている少女。

 

「む、そうであったな。私としたことが舞い上がってしまったようだ」

 

 プンスコと怒りを表している少女にシグナムは冷静さを取り戻したのか、烈火の手を放し、再び席へと戻った。シグナムに合わせるように他の面々も先ほどまでの座席に座りなおす。

 

「では気を取り直して、リインフォースⅡというですぅ!」

 

 少女、リインフォースⅡが自己紹介を始めたが烈火は先ほどのシグナムとは違う意味で目を丸くしていた。

 

「どうしたですか?」

 

「・・・小さいな」

 

 烈火は目の前で首を傾げているリインをマジマジと見つめている。この中でも最も小柄であるヴィータですら比較にならないほど小さい体躯をしているからであろう。人間のそれではなく、物語に登場する肩に乗れる妖精のようなサイズをしている。

 

「お、なんやなんや、我儘ボディのシグナムの次はリインがお好みなんか?蒼月君はストライクゾーンが広いんやなぁ」

 

 いつの間にやらはやてはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら烈火達のそばに近づいて来ていた。

 

「・・・何の話だ?」

 

「惚けても無駄やでぇ~、美女揃いの八神家でハーレムを築こうとしてた、く・せ・に♪」

 

 質問の意図を聞き返した烈火に対し、ウインクで返すはやて。

 

「誤解を招く発言は慎んでくれると嬉しいのだが」

 

「次は私がロックオンされてまうんか?美少女も大変やなぁ」

 

 烈火は無駄にオーバーリアクションでぶりっ娘のような対応のはやてに頬を引くつかせていた。はやては思ったよりも淡泊な反応であった烈火に対してさらに畳みかけていく。

 

「八神は微少女の間違いじゃないのか?」

 

「あん?なんか今、ニュアンスが違ったような気がするで」

 

「気のせいだろう」

 

 はやては烈火からの思わぬカウンターに硬直してしまったが、すぐさま、矢継ぎ早に話し始めた。

 

「シグナムの第一印象は?」

 

「・・・麗人といったところだな」

 

「シャマルは?」

 

「おっとりとしたバニングス」

 

「ヴィータは?」

 

「外国の小学生」

 

「リインは?」

 

「小さい」

 

 

 

「・・・じゃあ、私は?」

 

 はやてからの質問に一つ一つ答えていた烈火だが、張本人の質問に関しては口を閉ざしていた。烈火から見たはやての第一印象・・・

 

「そうだな、お笑い担当?」

 

「ふっ、ふふふふっ!!!戦争の時間やな!!」

 

 はやては烈火の返答に怪しい笑みを浮かべた後、勢いよく飛び掛かる。その手にはどこから出したのは分からないが、巨大なハリセンが握られていた。

 

「・・・危ないな」

 

 しかし、烈火の手によってはやての持っていたハリセンは弾き飛ばされ、宙を舞った。その後もめげずに突進していくはやてだったが・・・

 

「ふんぅぅぅぅ!!!ぬあああぁあぁぁ!!!!!」

 

 身長差からか、上から烈火によって額に手を当てられて抑え込まれているはやてが両腕をぶんぶんと振り回している。

 

 広域型魔導師であり、前線に出向くことの少ないはやての突進は剣のデバイスを使っている烈火に見切られてしまい効力を発揮できていない。

 

 

 

 それを見つめるなのは達には二頭身くらいにデフォルメされたはやてが烈火に抑え込まれるといったギャグ漫画のような光景が広がっていたが・・・

 

 

 

 

「はやてに・・・なにしてんだぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そんな2人・・・烈火の下にソックスに包まれた小さな両足が襲い掛かる。

 

「ちぃ!?外したか!!」

 

 ヴィータが体躯に似合わない強烈なドロップキックを繰り出したが狙いは外れ空を切ったようだ。体勢を崩すことなく着地したヴィータが烈火を睨み付けている。

 

「ハリセンの次は蹴りか・・・」

 

 ヴィータの蹴りを躱した烈火が呟いた。

 

「次は外っ!!?・・・っっ!!!」

 

「お前は主の客人に何をやっているんだ?」

 

 いつの間にやらヴィータの背後に回っていたシグナムがその頭に手を置いていた。その瞬間、ヴィータが悶えだした。どう見ても頭を撫でているようにしか見えないがヴィータの頭にシグナムの強靭な握力が襲い掛かっている、所謂、アイアンクローという物だろう。

 

「最初から止めてくれると嬉しかったんですが」

 

「はて、何のことかな?」

 

 烈火はシグナムを咎めるように呟くが、当の本人はどこ吹く風だ。シグナムならばヴィータが動き出した段階で止めに入れただろうが、敢えてそれをしなかった。

 

「君なら避けると思っていたさ。やはり期待以上だな」

 

 シグナムの瞳にはヴィータが席を立った段階で烈火がそちらに気を割いていたのが映っていたからだ。ヴィータのドロップキックに対して、烈火は自身に向かって突っ込んでいたはやてをせき止めていた腕から力を抜いた。つんのめって倒れ込んできたはやてを抱き留めながら、自身と共にヴィータの蹴りの射線軸上から体を逸らしながら、背後のソファーに座り込んで躱したのだ。

 

 ヴィータの年齢そぐわぬ洗練された攻撃を見ないで躱すなど、相当な反射神経が必要とされる。それもはやてを抱えながらだ。

 

「はやてから離れやがれぇぇぇ!!!!」

 

 ヴィータはシグナムの掌の下で獣のように吠えている。その頭にはまだシグナムの手が乗せられているが、力は込められていない。しかし、ヴィータが動こうとすれば、再びアイアンクローが炸裂することは目に見えているためか、吠えるだけで動けないでいる。

 

 そしてヴィータの行動の原因であったはやてといえば・・・

 

 

「お、おい八神?」

 

 烈火が目の前のはやてに声をかけた。はやてはヴィータの蹴りに合わせて烈火が立っていた状態からソファーに座ったため、その膝の上で抱きかかえられるように、倒れ込んだ先の烈火の肩口に顔をうずめている。

 

「・・・ぁぁ・・・ぁうう」

 

 烈火の声に反応して顔を上げたはやての顔はトマトのように耳まで真っ赤に赤らんでいた。はやては声にならない声を漏らし、潤んだ瞳で烈火の事を見つめている。

 

「緊急事態とはいえ、すまなかった」

 

「エ、エエヨ、ダイジョウブヤカラ」

 

 烈火はヴィータも本気ではなく、自身にだけに狙いを合わせていたとはいえ、あの状態で蹴りを避けてしまえば、はやてに被害が及ぶ恐れがあったため、抱き込むように座ってしまったことへの謝罪をした。はやては気にしていないと烈火の膝の上から降りたがどうにも様子がおかしい。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

 烈火はやてに対して再度問いただす。未だに真っ赤の顔、先ほどまでの流暢な関西弁から一転、片言で話すようになったはやては烈火の目から見ても異常だ。

 

「モンダイアラヘンヨ」

 

「み、右手と右足が同時に出ているが・・・っておい!?」

 

 はやては一昔前のロボットの様に角ばった動きで歩き出すが、足を縺れさせて倒れ込む。

 

「・・・ぁっ・・・ぁ」

 

 しかし、はやては近くにいた烈火に抱き留められた。次の瞬間・・・ボンッ!という音と共にさらに赤みを増したはやての顔から湯気のようなものが噴出した。

 

「は、はやてちゃんどうしたですかぁ!!?」

 

 焦ったように2人の周囲を飛び回るリイン。

 

「ど、どうしようフェイトちゃん!?」

 

「あわわわわ・・・」

 

 手を取り合ってテンパっているなのはとフェイト。

 

「シャマル!この場合はどうすればいい!?」

 

「これは私じゃ治せないと思うけどぉ!?」

 

 シャマルの肩口を掴んで詰め寄っているシグナム。頭を揺らされ、目を回しているシャマル。

 

「や、八神!?」

 

 目の前で突如として気絶したはやてに対して烈火も動揺している。

 

「はやて!?はやてぇぇぇぇっっ!!!??」

 

 最後にヴィータの大声が八神家に響き渡った。

 

 

 

「わふっ!」

 

 いつもより5割増しで騒がしいリビングに広がる混沌空間を尻目にザフィーラはこの部屋から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 客演者達はここに集った。

 

 

 

 

「どういうことだ!!蒼月烈火が魔導師などということはお前の調査での報告にはなかったぞ!!」

 

「す、すみません!こちらの測定器では他の現地人同様、完全に魔力がないものという結果でした」

 

 海鳴市にそびえる屋敷で煉が咲良を殴り飛ばしていた。

 

「言い訳など聞きたくない!!次、失敗すればどうなるかわかっているな!?」

 

「は、はい・・・申し訳ありません」

 

 咲良は赤く腫れた頬を抑えながら煉に頭を下げている。

 

 

 

 

「な、何!?事件の直前に奴らに接触していた人物がいるだと!」

 

「う、うん。サングラスをしてる、多分、男の人って話だけど・・・」

 

ハラオウン家ではクロノとエイミィが情報を交換していた。昨日起きた管理局員によるロストロギア強奪事件についての事であろう。

 

「しかし、特徴がそれだけではな。変身魔法で容姿など自由に変えられる・・・とはいえ、やはり何らかの存在が裏で糸を引いているのか・・・」

 

 無論、その男がイーサンの友人という可能性もなくはないが、今回の事件はただの局員の暴走にしてはあまりにできすぎていた・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目的のものは手に入ったか・・・しかし、あれだけの力を得ながら相手の戦力を削ぐには至らぬか。所詮は出来損ないのエース、使い捨ての駒にしかならんとは」

 

 薄暗い部屋でサングラスの男が呟いた。男がいる地点を中心に伸びている長細い机には他にも数名の人影がある。

 

「今はまだ行動を起こすステージではない。しかし---」

 

 

 

 

 

 

正史には存在しない異邦人達を組み込んで、不屈の心を持つ魔導師の物語は動き始めた。

 

進み始めた物語はもう誰の手にも止めることはできない。

 

少女達の物語の行く先に待っているのは希望なのか、それとも絶望か・・・

 




お久しぶりです。
リアルが忙しすぎて、体力、気力共に限界寸前の私です。

さて、今回でヴォルケンズも参戦し、いよいよメインキャラクター達が出揃いました。

そしてこの話がゲームで言うchapter1とか一面クリアみたいな区切りにの話に当たります。

他の方々に比べて話が進まなすぎますねww

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