魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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罪罰黒闇のZwilling Blaze
平穏な時間


 八神家での魔法関係者同士の顔合わせを済ませて、早くも一週間が経過していた。転入初日から慌ただしい日々を過ごすことになった烈火もこの一週間は穏やかな時間を享受し、ようやく中学生ライフを満喫していた。

 

 2年2組が蒼月烈火という転入生を迎え入れて、早一週間、烈火がフェイトと共にいるところを見て男子達が呪詛を呟いていたり、女子達が好奇の視線を浴びせていたりと相変わらずであるが、そんな光景にも目新しさが薄れてきたころ、朝のHRで教壇に立っていた担任教師の一言でクラス全体の雰囲気が一気に暗くなった。

 

「あー、諸君!今日からいよいよテスト週間だ。学生の本文は勉強だぞ!短い春休みを補修で潰したくないならば赤点を取らないようにな」

 

 烈火が教師の言葉を聞き流していると視界の端に奇妙な光景が映る。表情を強張らせたまま、石像のように固まっていたフェイトの姿が・・・

 

 

 

 

 

 

 午前の授業が終わり、昼食の時間、屋上に集まった6人の少年少女。

 

「アンタ達なんて顔してんのよ?」

 

 アリサは呆れたような表情で一同を見渡していた。その視線の先には項垂れているなのはとフェイト。

 

「ううぅぅ・・・だってぇ」

 

「て、テスト期間だってこと完全に忘れてたよぉ」

 

 なのはとフェイトはこの世の終わりと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「あ、赤点なんて取ったら、お母さんに管理局の仕事量を制限しろって言われちゃうかも」

 

「私も追試や補修になったら、きっと今の案件が片付けた後、次の試験までなのはと似たようなことになっちゃうかも」

 

 その原因は成績不振があれば管理局員としての活動に制限がつくかもしれないという物だった。

 

「先生も言ってたけど学生の本文は勉強なのよ。管理局の仕事が忙しいのはわかるけど・・・で、どこが不安なの?」

 

「「・・・数学と英語以外大体です」」

 

「あ、アンタ達ねぇ!」

 

 アリサの怒りと呆れで吊り上がっていく眉に比例して、なのはとフェイトは肩をすぼめて、どんどん小さくなっていく。なのはとフェイトの2人は、管理局関連の用事で欠席する際に、学年主席のアリサや成績優秀者のすずかに授業のノート等を写させてもらっている。であるにも関わらず、この体たらく・・・

 

 

 なのはとフェイトは高い情報処理能力が要求される魔法行使においては若いながらトップエースと呼ばれているだけあって、計算能力に関しては学年主席のアリサすら軽々と凌いでいる。英語に関してもミッドの言語と近いこともあって心配はないようだが、日々の積み重ねが要求される他の教科においては芳しくないようだ。

 

「不安なのが1、2教科ならまだ分かるけど、ちょっと勉強をおろそかにしすぎじゃないかしら!?」

 

「「面目次第もございません」」

 

 なのはとフェイトは立ち上がったアリサに見下ろされている。申し訳なさか、情けなさか、いつの間にか正座で座っていた。

 

 なのはの文系科目が壊滅的なのは烈火以外は周知の事、別の次元世界から来たフェイトも、歴史や古典と言った地球独自の物に関しては未だに若干の苦手意識を抱いていた・・・

 

 しかし、局員としての仕事も年々忙しさを増しているし、つい数日前には地球で起きたロストロギアを巡る戦いもあり、バタバタとしていた所にテスト期間に突入してしまった。

 

 そんな事情があり、テスト期間が始まる前までに学習せねばならなかった事柄がごっそりと抜け落ちているようだ。

 

 

 

 

 

 

「休みが潰れるとか、補修に出たくないではなく、管理局で働けないのが嫌と・・・とても女子中学生の発想とは思えんな。2人と同じくらい欠席している割に八神は随分と余裕だな?」

 

 烈火はアリサに睨まれて小さくなっているなのはとフェイトを見ながら、自身の隣で暢気に昼食をとっているはやてに問いかけた。

 

「うーん、余裕はないし、高得点は狙えへんけど、とりあえず赤点回避くらいならなんとかなりそうやとは思ってるよ。私は元々、本の虫やってん。やから、なのはちゃん達が苦手な国語科目に関しては理数系より得意やねん。魔導騎士として活動するようになって必然的に数学、英語は鍛えられてるし、とりあえず試験週間はキャリア試験の勉強を止めてこっちに集中すればいけるやろってな」

 

 はやては過去、下半身が不自由だった時期があり、その頃は同年代の少年少女のように走り回ったりすることができず、図書館で本を借りて読むことを趣味としていたが、今はそれがプラスに作用しているようであった。

 

「そういう自分はどうなん?地球には最近来たばっかりやし」

 

 はやては逆に烈火に聞き返した。つい一週間前にソールヴルムから地球に移住してきた烈火は過去のフェイト同様、地球独自の科目においては現地人より不利なことは目に見えているからだ。

 

 そんな、はやての言葉に烈火よりも早く反応したのは・・・

 

「そ、そうだよ!私達だけじゃなくて、烈火君だってかなり危ないんじゃない!?」

 

「さっきの授業で寝てたの知ってるんだからね!」

 

 正座のまま身を乗り出したなのはとフェイトであった。

 

「お前らなぁ・・・一応、この学校の編入試験はパスしてきてるんだぞ。色々あって、ここに来る前に一通りの勉学は叩き込まれているし、この学校の出題傾向を把握できれば補習は回避できるだろう。どっかの誰かが隣で騒いだお陰で教師に注意されたのを除けば、とりあえず問題ないはずだ」

 

 なのは達も烈火の魔法行使を間近で見ており計算能力に関しては相当なものだろうと予想がついていたが、文系科目まで問題ないと言い切った烈火に恨めし気な視線を向ける。

 

「れ、烈火君の裏切り者ぉぉ」

 

「むうううううぅぅぅぅぅっっっ」

 

 なのはとフェイトは仲間だと思っていた烈火に対して裏切られたという表情を浮かべてたが、編入試験を合格したという確固たる事実があるため、ぐうの音も出ない。フェイトに関しては若干ニュアンスが違いそうであるが・・・

 

「ア・ン・タ達ぃぃ!!騒いでる余裕なんてあるのかしら?」

 

「い、いや、そのぉぉ」

 

 アリサは自身を無視して、騒いでいたなのはとフェイトに普段より低い声を発しながら、威圧するように視線を向けた。アリサの背後から燃え盛るような灼熱のオーラが吹き出しているような感覚を覚えたなのはとフェイトは蛇に睨まれた蛙の如く震えるしかない。

 

「自分達が何をすればいいのか・・・分かってるわよね?」

 

「は、はい!テスト勉強頑張るぞー!」

 

「おー!」

 

 フェイトはアリサに対して震えながら声を上げ、続くようになのはも拳を振り上げた。

 

 

 

 

 

「なぁ、月村、アレを止めてきてくれないか?」

 

「あはは、ちょっと無理かな」

 

 烈火はすずかに対して自身の目の前を指差しながら呟いたが、その返答は苦笑いで返って来た。

 

 烈火の視線の先には、なのは、フェイト、アリサの姿が・・・

 

 

 

 

 

「アンタ達!私が教える以上、平均点以下なんか取ったら承知しないわよ!」

 

「う、うん!」

 

「な、なんとしても乗り切るよ!」

 

 3人の少女の背から暑苦しい熱気が漂っていた。どうやら今日からテストに向けて猛勉強をする様子である。

 

「はやて!蒼月!すずか!アンタ達もやるのよ!」

 

 アリサはビシィ!と座ったままの3人に指を向けた。

 

「はやても何とか赤点回避なんて甘っちょろいこと言ってんじゃないわよ!蒼月も不安箇所があるんでしょ!すずかは先生役!いいわね!!?」

 

 アリサの有無を言わさぬ勢いと、当然来るよね?と視線で語っているなのはとフェイトを前に、はやて、すずか、烈火の3人には頷く以外の選択肢は存在しなかった。

 

 

 

 

 学校を終えた6人は放課後にすずかの自宅である、月村家に集まった。今日は月村家でテストに向けての勉強会を行うようだ。

 

「何してんのよ?さっさと行くわよ」

 

 アリサは月村家の眼前でその家を見上げて足を止めていた烈火に声をかけた。

 

「あ、ああ」

 

 烈火は目の前に聳え立つ、普通の一軒家とは比べ物にならないほど大きい西洋風の屋敷に眉を引くつかせていた。烈火はアリサに促され、慣れたように家の中に入っていくなのは達と共に月村家の入り口を潜れば・・・

 

「お帰りなさいませ!お嬢様、皆さま!」

 

 紫髪の女性が満面の笑みを浮かべて、なのは達を迎え入れた。烈火やなのは達よりは年上であることが予測されるが、かなり童顔である。そして何より目を引くのは、白いカチューシャ、フリフリのスカート、所謂、メイド服という物であろう。

 

「ただいま、ファリン」

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

すずかとなのは達はメイド服の女性に挨拶を返した。

 

「め、メイド服・・・コスプレでなく正装か」

 

 だが、烈火はなのは達と会話している女性を目の当たりにして言葉を失っていた。以前にはやてからすずかとアリサがお嬢様ということは聞いていたとはいえ、巨大な屋敷にメイド服の女性と一般家庭から余りに乖離した光景には流石に思うところがあるようだ。

 

「初めましての方もいらっしゃいますね!ファリン・K・エーアリヒカイトと申します。よろしくお願いします」

 

「蒼月です。よろしくお願いします」

 

 烈火はメイド服の女性、ファリン・K・エーアリヒカイトに名乗り返した。なのは達一行は、ファリンの案内で月村家の一室に案内された。ファリンが扉を開けば、そこには3人の人影が・・・

 

「すずか!おかえり~」

 

「皆様、おかえりなさいませ」

 

 紫がかった黒髪の女性とメイド服に身を包んだ紫髪の女性が声をかけて来た。黒髪の女性の隣には、端正な容姿の青年の姿もある。

 

「お姉ちゃん!ノエル!?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

 烈火以外の面々はあんぐりと口を開いて驚いているようだが、特にすずかとなのはの驚き様は凄まじいものがあった。

 

「ん、あれ?1人多い・・・」

 

 黒髪の女性は部屋に入って来たすずか達にしてやったりという笑みを浮かべた。しかし、共にいた烈火を見て真顔になったかと思えば・・・

 

「この子は誰のボーイフレンドなの!?すずか!それとも他の誰かなのかしら!?」

 

 目にもとまらぬ速さですずかに詰め寄った。

 

「ぼ、ぼ、ぼ、ボーイフレンド!?」

 

 すずかは女性の質問に顔を真っ赤にし、他の面々も思わず動揺してしまっている。

 

「・・・少し落ち着け、皆、状況についていてけなくて、目が点になってるぞ」

 

 青年が黒髪の女性の首根っこを掴んで元の位置まで引き戻した。黒髪の女性は不満そうな表情を浮かべている。

 

「それでお兄ちゃん達はいつ帰って来たの?」

 

「つい先ほどだ。事前に連絡しようとしたのだが、どうせならお前達を驚かせようと忍に言われてな・・・で、その彼は見ない顔だが?」

 

 何とも言えなくなった場の空気を察してか、なのはが青年に声をかけた。なのはに兄と呼ばれた青年もそれに返し、自身も気になっていたのか烈火の方に視線を向けた。その隣では黒髪の女性が同意するように何度も頷いている。

 

「えーっとねぇ、実はお兄ちゃんは初対面じゃないんだよ」

 

「なんだと?」

 

「彼は一週間前に私たちのクラスに転校してきた蒼月烈火君。昔、転んだ私を家まで運んでくれた、あの烈火君だよ!」

 

 なのはが青年達に対して、満面の笑みを浮かべながら烈火の紹介をした。

 

「・・・そうか、あの時の」

 

 青年は昔を懐かしむような表情を浮かべ、烈火に視線を向けた。青年のおぼろげな記憶の中の幼い少年、忘れるはずもない。

 

 烈火が自宅に来てからのなのはは人が変わったように明るくなったのを覚えている。口を開けば彼の名前が出てきたのを覚えている。そして、烈火が引っ越すのだと、きっといつか会いに来ると約束したと、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていたなのはの姿は青年の記憶に刻み込まれていた。

 

 引っ込み思案だった自分の妹が初めて家に連れて来た友人なのだから・・・

 

 

 

「あの、なのはのお兄さんということは・・・」

 

「俺は高町恭也だ。君とは何度か顔を合わせたことがあるな」

 

「・・・お久しぶりです。お変わりないようですね」

 

「ああ、久しいな。そういう君は随分と大きくなったものだ」

 

 烈火もまた、かつての記憶を遡り、なのはが兄と呼んでいた人物、高町恭也の事を思い返していた。

 

「勝手に盛り上がられても私がついて行けないんだけどぉ」

 

「ああ、すまない。感傷に浸ってしまったな。彼は俺やなのはと以前会ったことのある人物だということだ」

 

 黒髪の女性は恭也に対して不満を表すように頬を膨らませている。

 

「じゃあ、すずかのボーイフレンドじゃないのね。ちょっと残念・・・そういえば、お姉さんの紹介がまだだったわね。私は月村忍、すずかのお姉ちゃんです。よろしくね!」

 

「紹介が遅れて申し訳ありません。ノエル・K・エーアリヒカイトです。そちらのファリンの姉に当たります」

 

 黒髪の女性、月村忍とメイド服の女性、ノエル・K・エーアリヒカイトが自身の事を烈火に名乗った。

 

 

 

 

 

 忍がノエルに目配せをしたと思えば、あれよあれよという間に運ばれてくる高級そうな菓子類と紅茶、気が付けば、お茶会の用意が整っていた。放課後の勉強会はすっかりティータイムへと移り変わってしまったようだ。

 

 忍を中心に話題は尽きないようだ。恭也と忍の関係についてや、共に海外を回っていたことなど。なのはとすずかにとっては久々の兄姉との再会とあって心なしかいつもよりもテンションも高い。

 

 

 

「・・・どうしたの、烈火?」

 

「ああ、ちょっとな。月村のお姉さんという割に見た目以外はあまり似ていないと思って」

 

 フェイトは楽しそうに会話を交わす面々をティーカップを片手に一歩引いて眺めていた烈火に首を傾げながら問いかけた。烈火は忍とすずかを交互に見ながら呟く。

 

「あら、お姉さんに何か用かしら?」

 

「いえ、大した用ではありませんので気にしないでください」

 

「そう言われると気になっちゃうわね。でも私は君に用があるんだけど・・・」

 

 烈火の視線に気が付いたのか忍が恭也と共に近づいて来た。

 

「・・・用ですか?」

 

「さっきなのはちゃんから聞いたんだけど蒼月君も魔法使いなんだってね?どんな魔法を使うのか知りたいなぁ」

 

 烈火がフェイトと話している間に、忍やなのは達は先のジュエルシードとミュルグレスを巡る事件の話をしていたようだ。アリサやすずかを烈火が魔法で救ったことを聞き、興味を持ったようだ。

 

「えっと、あの!」

 

 忍の質問に烈火よりも先に隣にいたフェイトがアタフタと焦って、何かを言おうとしているが言葉が出てこない。

 

「フェイト・・・大丈夫だ。剣のデバイスを使って戦います。基本的に近、中、遠と距離は問わずに戦えますので大体のことはできるかと思います。すみません、詳しい説明まではできませんのでここまでということで」

 

 烈火はフェイトを安心させるように肩に手を置く。フェイトの様子から、一週間前のハラオウン家での事情聴取の事を気にかけて、状況は違えど、似たシチュエーションから、烈火の事を庇おうとしての行動だろうと、当たりを付け、最低限の説明だけして、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ほう、剣を使うのか」

 

 恭也は顎に手を当てて烈火の方を興味ありげに見つめている。忍とは別ベクトルで魔導師としての烈火に興味を持った様子だ。

 

「う~ん、そっかぁ。じゃあ、デバイスを見せてもらうことはできないかな?こう見えて機械系にはかなり興味があるから気になっちゃったんだけど」

 

 忍は片眼を閉じ、可愛らしく小首を傾けながら烈火に頼み込んだ。

 

「そ、それは私も興味あるな・・・その、綺麗だったし」

 

 いつの間にか近づいて来たすずかも烈火に願い出る。後半は下を向きながらボソボソと呟いたため、烈火には聞き取れなかったようだ。

 

「私も興味あるなぁ、結局お名前も聞いてないし。レイジングハートやバルディッシュとお友達になれるかもしれないしね!」

 

 すずかの隣からなのはが顔を覗かせる。いつの間にやら全員の視線が烈火に集まっていた。

 

「手に取って見せたり、スペックを教えるわけにはいきませんが、簡単な紹介程度なら構いませんよ」

 

 烈火はしぶしぶといった様子で制服の首元から、ネックレスを覗かせた。そこに着けられているのはデフォルメされた蒼い剣だ。

 

「これが俺のデバイス、ウラノス・フリューゲルだ」

 

 一同は烈火の取り出したデバイスをマジマジと見つめた。

 

「へぇ、天空神(ウラノス)か。中々、物騒な名前ね」

 

 忍が感心したように呟き、まだ見ぬ技術がふんだんに使われているであろう烈火のデバイスを前に、目を輝かせていた。

 

「月村のお姉さん・・・目が怖いです。で、なのはの言うことだがこのデバイスを含め、ソールヴルムのデバイスは基本的にストレージタイプだからお前達のデバイスと会話することはできん」

 

「そっか、残念だなぁ。でもなんで?」

 

 烈火は忍から若干距離を取りつつ、なのはの疑問に答えた。なのはは待機状態のレイジングハートを握りしめながら、残念そうな表情を浮かべ、その後、ソールヴルムのデバイスについて尋ねた。

 

 なのはのレイジングハートやフェイトのバルディッシュはインテリジェントデバイスという高性能AIを搭載し、魔導師と心を通わせることで爆発的な力を発揮するデバイスだ。

 

 

 対して烈火のウラノスはストレージタイプ、製作コストがかかるインテリジェントより低予算であり、次元世界の魔導師が一般的によく用いるタイプである。

 

 しかし、いくらインテリジェントの製作コストが高いとはいえ、ミッドと同等以上の科学力を持っているソールヴルムで全く使われていないということを話されれば、なのはを含め、フェイトやはやても気になるのか、烈火の方に視線を向けた。

 

「そう、だな。愛着も沸くし、大切なものであるが、デバイスはあくまで魔導師にとっては武器だ。戦いに使う道具に感情は必要ないということだろう。状況によっては自爆させることだってあるしな」

 

「自爆って・・・デバイスは一緒に飛んでくれる相棒だよ!そんな風に!?」

 

 なのはは手に取っていたレイジングハートを握りしめながら、烈火の語る考え方に反論するように声を荒げるが・・・

 

「単純に考え方というかデバイスの使い方の違いだろう。最悪、魔法戦に敗れても、デバイス一機を犠牲にすれば引き分けまで持っていける可能性がある。一撃だけとはいえ、自身の技量以上の攻撃を放てるという利点もあるしな。とはいえ、基本的にはデメリットの方が多いから、決死の戦いとかでない限りはそうそう使われることはないが」

 

 烈火は悲しそうな瞳を向けてくるなのはに対して、ソールヴルムでのデバイスの使われ方を伝えた。

 

「・・・せやかて、そんなん納得できへんよ」

 

 はやても納得できなそうな表情を浮かべ、胸元の剣十字を握りしめた。フェイトも手に取った三角形のバッジを複雑な表情で見つめている。

 

 なのは達にとって自身のデバイスは幾多の修羅場を共に乗り越えて来た相棒。

 

 はやてに至っては融合騎・・・文字通り家族である、リインを道具扱いなどしたことがないのだから。

 

「別にお前達にそういう使い方をしろと言っているわけじゃない。他の世界では、そういう考え方もあるってことだ」

 

 烈火の説明にまだ納得できていなそうな魔導師3人娘、周囲に何とも言えない雰囲気が漂うが・・・

 

「ふーん、魔導師って言ってもいろんなのがあるのねぇ。なのはちゃん達のデバイスも結局見せてもらえなかったし、残念ね」

 

「ふっ、そう気を落とすな」

 

 忍と恭也の言葉を皮切りに元の団欒へと戻っていく。

 

 久々の年長組との再会に盛り上がった結果、放課後をティータイムで過ごしていまい、わざわざ月村家まで出向いて来た本来の目的である、テスト前の勉強会が行えなかった。帰宅後、テキストを片手に自室で項垂れるなのフェイの姿があったことはそれぞれの愛機以外、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 烈火やなのはらが月村家で過ごしている頃、第一管理世界ミッドチルダ、首都航空隊の隊長室の扉が開く。

 

「失礼します・・・それで何の御用で?」

 

 シグナムは桃色のポニーテールを揺らしながら入室した。その視線の先には中年男性がデスクに腰かけている。

 

「・・・うむ、大変心苦しいのだが、君に特別任務への参加要請が届いた」

 

 男性は重苦しい雰囲気を漂わせながら口を開く。シグナムに任務への参加依頼が届いたようだが・・・

 

「任務の前に伝えなければないことがある。実は数日前、君の住んでいる管理外世界、地球で先日封印されたロストロギア、宝剣ミュルグレスとジュエルシードを運搬中だった局の輸送船が突如姿を消した」

 

「なっ!それは本当なのですか!?」

 

「ああ、しかも、突如としてシグナルロストしたその輸送船を探しに向かった部隊も同じ座標で行方不明となった。その付近には小さな無人の管理外世界があるだけなのにも関わらずな」

 

 航空隊の責任者からシグナムにもたらされた情報は衝撃的なものであった。万が一暴走すれば世界すら吹き飛ばしかねない代物が行方知らずになったとだけあってシグナムの表情も緊迫したものとなっている。

 

「して、それが今回の件と関係があるのですか?」

 

 一呼吸のうちに冷静さを取り戻したシグナムが男性に尋ねる。

 

「実は、捜索部隊の船は何らかの要因によって撃墜された後、その無人世界〈ルーフィス〉に流れ着いたようなのだ。その直後、不時着した部隊からの音声通信が届いたのだが、その通信は悲鳴と共に途絶えたそうだ。魔導師なのか、魔法生物によるものなのか、天災に巻き込まれたのかは定かではないがね」

 

 男性は一通り語り終えると再び口を閉ざし、悲痛な表情を浮かべ、目を閉じた。

 

「そして、ここからが本題だ。君に参加要請が届いた任務の概要だが・・・行方不明となったロストロギア、管理局員の捜索、救助ということになる。参加するならば2隻の船が姿を消した空域に君を送り出してしまうことになってしまう。私はもっと状況を分析してからだと、思っているのだが上の方々はそこまで待ってはくれないようだ。何が起こるか分からない危険な任務となるだろう」

 

「任務概要と危険度に関しては承知いたしました。しかし、なぜ航空隊の私にそのような任務への参加要請が届いたのですか?」

 

 シグナムの疑問ももっともだ。いくら第一捜索隊が姿を消したとはいえ、その対処には専門的な部隊があるはずにも関わらず、ミッドチルダの空を守護する担い手である首都航空隊の自分に声がかかるのかということだろう。

 

「うむ、それについては普通の事態ではないと上が判断したのか、通常の部隊ではなく、選抜された魔導師チームで捜索に当たることにしたそうだ。その指揮を任されたのが彼、君も知っているだろう。リョカ・リベラ執務官、ここ最近頭角を現してきた若手NO.1の魔導師だ」

 

 シグナムの目の前で男性が出現させた画面に短い緑がかった黒髪と赤渕の眼鏡が特徴的といった印象を受ける1人の青年の姿が映し出された。

 

「ええ、名前はだけは。確かA級の次元犯罪者を単身で捕縛したとか、世界を滅ぼしかねないロストロギアを部隊を率いて封印しただとか、噂もチラホラと耳にしたことがありますね」

 

「ああ、その男で間違いないな。リベラ執務官がこの任務に望むべく選出した参加メンバーに君の名前があったというわけだ。君以外にも名の知れた魔導師達に声がかかっているし、無理に参加する必要はないんだぞ・・・と言いたいところだが君の場合はそうもいかんだろう?しかも指揮官がリベラ執務官とあってはな・・・」

 

 シグナムには男性の言わんとしていることが理解できていた。

 

「共に仕事をした私達や、かの闇の書について詳しくない若い者達から見れば君は素晴らしい騎士であるが・・・」

 

 シグナムは夜天の魔導書の守護騎士・・・そして、首都航空隊の最強戦力であり、局きっての近接格闘戦闘(クロスレンジ)のスペシャリスト、皆から憧れの眼差しを向けられることも少なくない。

 

 しかし、シグナム達、ヴォルケンリッターは5年前に起きた、〈闇の書事件〉の主犯である。

 

 管理局視点からすれば、どんな事情があったにしてもシグナム達は犯罪者に変わりない。それ以前にも長年、災厄を齎してきた闇の書と共に、闇の旅路を過ごしてきた守護騎士を古くから管理局に所属している者達は快く思っていないようだ。局に闇の書事件の被害者や遺族も少なからず所属しており、それは事件から年数が経った今でも変わることはない。

 

「我々の行いの結果です。こればかりはどうにもなりません」

 

 しかし、そんなことはシグナムも承知で、時空管理局に協力する道を選んだのだから・・・

 

 自分達、闇の書がはやてに憑りついたため、彼女の人生を台無しにし、犯罪者という汚名を着せることになってしまった。地球で普通の女の子としての人生があったにもかかわらず、魔法という世界に関わらせてしまった責任、謝って済む物ではないそれを彼女は笑って許してくれた。

 

 それどころか、得体のしれない自分に優しく接し、小さな勇者と共に自分達を底知れない闇の中から引っ張り上げてくれた。

 

 

 

 

 確かにこの任務への参加を蹴ることはできる。しかし、そうした場合、シグナムが危険に巻き込まれない代わりに失うものはあまりに多いだろうということが予測される。

 

 

 リョカ・リベラ執務菅、名前が売れてきたのは最近だが、彼の父については局の誰もがその名を知っているほどの重鎮だ。その子息であるリョカから直接指名された任務・・・それも行方不明の局員とロストロギアの捜索という人命救助に関わる大きな案件を断れば、臆病者の烙印を押され、これまで局員として積み上げて来た信頼は大きく失われることだろう。

 

 それにシグナム達だけではない、その評価ははやてにまで及ぶ。そうなれば、今後のはやての昇進に大きく影響するであろうことは間違いない。

 

 それでもはやてがこの話を耳にすれば、シグナムに行かないでくれというだろう。

だが、キャリア試験を控え、捜査官としてこれから邁進するであろう彼女の未来を潰すわけにはいかない。

 

 

 はやてはクロノ・ハラオウンを旗印とする派閥であるハラオウン派と親しく、最近では聖王協会の高官ともパイプができつつある。だが、まだこの小さな主に覇権争い、権力闘争といった人間の醜く、ドス黒い部分を受け止めるだけの力は備わっていない。

 

「分かりました。その任務受けさせていただきます」

 

 シグナムは申し訳なさそうな男性に対して笑みを浮かべながら了承の意を伝えた。

 

「・・・そうか、分かった」

 

 男性はシグナムの表情に目を見開いて驚きの表情を浮かべた後、静かに頷き、任務の開始日や他の参加予定の魔導師のデータ、ルーフィスの詳細などを可能な限り伝えていく。

 

 

 

 失われたジュエルシード、その行方とは・・・

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!

どうもお久しぶりです。

休みがなく、全然投稿できませんでしたが、その分、そこそこのボリュームがあると思うので許していただきたいです。

第2章スタートというべき話になったかと思います。

何気にとらハ主人公、リリカル主人公、オリジナル主人公が成長した姿で顔を合わせた回でもありますね。

一昔前のテンプレ要素がふんだんにあるこの作品かと思いますが、恭也さんがいきなり武器を片手に主人公に襲い掛かったりといった風にはなりませんのでご安心ください。

冷静に考えて、古武術を修めた恭也がいくらシスコンとはいえ、なのはと同年代の少年に武器を構えて襲い掛かるとか普通にあり得ませんしね。

昔、流行ったクロノのKY、ユーノの淫獣とかも同様ですが。

自分はとらハはなのはと関連する事くらいしか知らないので、今作で設定が出てくることはないと思います。



リアルが落ちいて来たので、また、以前のペースに戻していくつもりです。

評価、感想等あればぜひお願いいたします。
自分のモチベが爆上がりしますので。
ではでは!
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