魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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剣の軌跡

 私立聖祥中学2年2組の教室にて、長い金髪の少女が席に腰かけて溜息をついた。

 

「烈火、急に用事だなんてどうしたんだろう?」

 

 フェイトは普段なら烈火がいるはずの隣の席を眺めている。

 

今日の朝、私用の為、学校に行かないということを念話で伝えられた時にはちょうど着替え中だったので、びっくりしたものだと思い返していた。

 

「昨日までは元気だったし、体調不良ってことはなさそうだよね。他の誰かに会いに行ったりしてるのかなぁ」

 

 烈火が地球に滞在するようになってまだ2週間程度しか経過していない。

 

念話の様子からも体調が悪いということはなさそうであったため、知り合いに会いに行ったのだろうかと予想したが、海鳴市を離れたのは幼少の頃のはず、加えて彼には両親がいないし、ソールヴルムと魔法文明のない地球との間で誰かと連絡を取り合えるとも思えない。

 

 かといって、わざわざ魔力を封印までして地球に滞在していた以上、魔法関係の用事というわけでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

「おい、何だあれは?」

 

「ハラオウンさんが溜息をついているであります!」

 

 教室の一角に集まった男子達がフェイトの方にチラチラと視線を向けている。その先にはフェイトが物思いに耽り、烈火の席を見ながら溜息をついている姿。

 

「いつもの明るい感じもいいでありますが、今の儚げでミステリアスな感じもたまらんであります!」

 

 男子達は鼻息を荒くしながら、小声で話し合っている。

 

「それには激しく同意だが、今重要なのはそこではない。なぜハラオウンさんがああいう風になっているかということだ」

 

「それは、奴が原因であります!」

 

 男子の視線がフェイトのすぐ隣の空席に移り変わる。フェイトの深紅の瞳も男子達と同じく、先ほどからある一点を見つめたままだ。

 

「・・・一体何なのだ奴は!転校してきて僅か数週、なのに我々よりも既にハラオウンさんとの距離を詰めているなどと!!」

 

「許すまじ!蒼月烈火!!」

 

「ぼ、僕なんか初等部から今まで何回もクラスが同じになったけど、全然しゃべれてないのに!!」

 

 最早、目新しさのなくなった男子達の定例会議、小声で怒鳴るという果てしなく無駄な技能を発揮して今日も今日とて盛り上がっているようだが、

 

 フェイトが、か細い声で烈火の名を呟いたのが男子達の耳に入ってくれば・・・

 

 (((あ、あの野郎ぅぅぅぅ!!!!!!!)))

 

 男子達の背から熱気が立ち昇る。

 

「ホントにバカばっかね・・・」

 

 アリサはそんな男子達を呆れた目で一瞥した。その後、アリサもまた、烈火の座席に視線を向ける。

 

 

アリサの脳裏によぎったのは1週間前、魔法関係の事件に巻き込まれた時の出来事、命の危機に瀕した自分を救ったのは転校生の少年。

 

 狂刃が自身と親友に振り下ろされようとしている、そしてそれを受け止める白いロングコートの少年・・・

 

「・・・ったく、ばかばかしい」

 

 アリサは感傷に浸るなど、自分らしくもないと、頭のスイッチを切り替える。話し合いが白熱したせいか、教師が来る前に解散しそこねて注意されている男子達を意識から外し、教卓の方に目を向けた。

 

 

 彼の後姿、空を舞う姿が、今も瞼の裏に鮮明に焼き付いていることを押し殺しながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーフィスで謎の生物と戦闘中の魔導師達、その最中、双頭の狼に天空から一閃を打ち放ち、舞い降りて来たのは意外過ぎる人物であった。

 

「蒼月・・・なぜおまえがこのような所にいるのだ?」

 

 シグナムは戸惑いの表情を浮かべ、特別管理外世界ソールヴルムの魔導師だという少年、蒼月烈火に問いかける。このルーフィスは無人の管理外世界であり、自分達のような特例がなければ用などないはずだということだろう。

 

「まあちょっと色々ありましてね。そちらこそこんな辺境の世界になんの用なんです?」

 

 烈火はシグナムの問いかけに苦笑いを浮かべて答える。その足元では群れのリーダーである双頭の狼が絶命したことによって、小型の狼達が逃げだしていた。それを見るや怪鳥、竜種も撤退していく。どうにかこの場は乗り切ったようだ。

 

「我らは・・・いや、ともかくこの場から離れよう。情報の交換はその後だ」

 

 シグナムはこの場から一旦離れることを提案した。周囲には多数の死体が転がっており、とても話し合いをするような場所ではないということであろう。その中には管理局員達の遺体もあるが、残念ながらもう原形をとどめていない。

 

 

 

「ここから離れる?何を言ってるんだ君は!本局に戻る方が先だろう!!!」

 

 烈火とシグナムは飛行魔法を解き、地上で会話していたが、リョカがそこに割り込むように声を張り上げた。

 

「戻れるなら、そうしていますよ。ご自身のデバイスで周囲の様子を探ってみればわかるかと思いますが・・・」

 

 シグナムはリョカにデバイスを確認するように進言した。

 

「ふん、全くどうしたという・・・な、なんだこれは!?どうなっているんだ!!!」

 

 リョカがアルスで周囲を探ると、この周辺を覆う巨大な結界のようなものが出現しているという報告を受ける。よって、転移魔法を使うことができず、リョカの目的であった管理局への帰還は不可能だ。しかも、結界外への連絡も封じられている。文字通りこの世界に閉じ込められてしまったようだ。

 

 

 

 正攻法での脱出は不可能と判断し、生き残った4人は洞窟のような場所にその身を移し、とりあえずここを拠点としていくようだ。誰一人、口を開くものはおらず、重苦しい雰囲気が漂っている。

 

「さて、ところで君は何者なんだい?」

 

 落ち着きを取り戻したリョカが、見知らぬ顔である烈火に問いかけた。

 

「通りすがりの魔導師ですよ。管理局員ではありません」

 

「局員でないということは嘱託か、フリーか・・・まあどうでもいい。君には僕の指揮下に入ってもらうが・・・」

 

「いえ、お断りします」

 

「な、何だと!?」

 

 リョカは烈火をフリーか、嘱託魔導師だと断定するとともに、自らの一団への参加を呼び掛けたが、了承は得られなかったようだ。その瞬間、リョカの表情が一変する。

 

「一応、やることがあってこの世界に来たのでそちらを優先します」

 

「こんな辺境世界でやることだと!?まさかお前、この事態について何か知っているのか!・・・それとも、お前が引き起こしたのか!!それなら僕の指揮に従わないのも、頷ける!どうなんだ、言え!!」

 

 淡々と答える烈火、何か目的がある風な口ぶりだ。しかし、リョカはそんな烈火の様子に激怒し、あろうことが自身のデバイスを突き付けた。

 

「な、何をやっているのですか!?」

 

 シグナムは烈火とリョカの間に体を滑り込ませるが・・・

 

「黙れ、犯罪者!ふふ、そうかそうか、犯罪者同士庇い合っているのか!!ここから出ていけ、早く消え失せろ!!お前らなんか野垂れ死んでしまえばいいんだ!!」

 

「・・・分かりました」

 

 リョカは癇癪を起した子供のように喚き散らす。この様子を見れば、初対面の烈火ですら不機嫌そうに眉を吊り上げるが、シグナムは俯きながら踵を返し、洞窟の出口へと歩いていく。烈火はリョカの方を一瞥した後、黙って出ていくシグナムに倣って、洞窟を後にした。

 

 

 

 無言で歩いていく2人。先ほどと似たような洞穴に腰を落ち着けた。

 

「さっきのアレは何だったんですか?同じ管理局員同士ですよね」

 

「ああ・・・」

 

「味方を犯罪者呼ばわりした上に、あの言い草・・・ただ事ではないように見受けられたましたが・・・すみません、話しづらいことなら無理に答えなくていいですよ」

 

 烈火も目の前であれだけのことが起きれば気にならないわけがない。しかし、シグナムの沈んだ表情を見て、焦ったように口を開く。

 

「いや、そのような気遣いは不要だ。あまり聞いていても面白くないかもしれんが、よければ聞いてくれるか?」

 

 シグナムは烈火の方を向いて呟いた。

 

「ええ、俺でよければ・・・」

 

 烈火もシグナムの目を見て了承の意を伝える。以前に会った時とはあまりに違うシグナムの雰囲気にただならぬものを感じているようだ。

 

 

 

 シグナムの口から語られるのは、一冊の本が悠久の時空(とき)を旅してきたこと。

 

 夜天の魔導書という古代ベルカに伝わる魔導書があったこと、主と共に歩む管制人格、主を守護する、ヴォルケンリッターが存在する事。シグナムはそんな守護騎士のリーダーであることが明かされた。

 

 ある時の主が夜天の書に改編を加えたことによって、自動防衛運用システム〈ナハトヴァール〉が暴走し、災厄を齎す・・・闇の書と呼ばれるようになってしまったこと。

 

 例え破壊しようとしても、無限転生機能により、新たなる主を探して転生してしまうため、破壊は容易ではなく、長きに渡って次元世界を恐怖の渦に飲み込んできた。

 

 夜天の書の破損により、自身達の記憶プログラムも壊れ、本来の使命すら忘れてしまっていた。様々な主に呼ばれ、ただ機械の様に戦い続ける日々、永遠に終わらぬ地獄のような日々だったが、最後の主、八神はやてとの出会いをきっかけにそれは終わりを告げた。

 

 強き心を持つ魔導師、騎士達の全力連携攻撃により犠牲者が出ない奇跡のような幕切れを迎えた最後の闇の書事件以降、自身が管理局に所属するようになったこと。

 

 そして、今回、特別任務という名目でこのルーフィスに来たが、それは闇の書事件の被害者遺族の報復であった。

 

「概要を話すとなると、こんなところだろうか」

 

 烈火は魔法という超常の力をもってしても、現実離れしたスケールの大きな話に聞きいっていたが、その話も一区切りついたようだ。

 

「俺は、大切なものを失った彼らが貴方に復讐しようとしたことに関して、その行動を否定はできません。人間として当然の感情だと思います」

 

「そう、か・・・そうだろうな」

 

 シグナムは烈火の返答に対して、まるで、その答えが来ることを分かっていたかのように言葉を紡いだ。

 

「でも、彼らの行動が正しいかとは別問題。自分達は正しいことをしていると正義を語り、自らの保身を図りながら、復讐を正当化しようとした連中の手口は外道以下です。そうなるに至った経緯には同情すべき点もありますが、管理局の法で裁かれて罪を償った・・・貴方に対して刃を向ける理由はあっても、権利は彼らにはないはずです」

 

「それは・・・」

 

 シグナムも、烈火の発言が正しいことは分かっているし、襲ってきた連中に対して全く憤りがないと言えば嘘になるかもしれない。しかし、それだけの事をしてきたのだという罪責感が彼女の心を蝕んでいる。

 

「シグナムさん達が今までやってきたことは消えることはありません。八神も夜天の主であり続ける以上、闇の書という十字架を一生背負っていかなければならないでしょう。でも、罪を償った貴方の刃は何を為してきましたか?」

 

「主と出会い、管理局に入った私・・・」

 

「多くの犯罪者を倒し、主を、仲間を、市民を護って来たんじゃないですか?シグナムさんだから助けられた人々がいたんじゃないですか?」

 

 烈火の言葉を受けてシグナムの脳裏には管理局に入ってからの事が浮かび上がる。シグナムはこれまで主や騎士達の事ばかり考えて行動してきた。しかし、烈火の言葉で初めて、自身のこれまでの軌跡を振り返ることとなった。

 

「今日初めて闇の書の事を聞いたばかりの俺が言える事ではないのかもしれません。でも、どんな形であれ、自ら犯した罪を背負い、誰かを護る・・・貴方の振るった剣で救われた人もいる、貴方の剣は誰かを護れる物になっている。それも変わることのない事実だと思います・・・壊すだけしかできない俺なんかの物よりずっと素晴らしいものです」

 

 そういって烈火は話を締めくくった。

 

「蒼月、お前は一体・・・」

 

 シグナムの瞳に映り込んだ烈火は悲痛の面持ちであった。その瞳から、表情から感じ取れるのは虚無、後悔、悲壮、喪失・・・とても13,14歳の少年の物とは思えない。シグナムは仮説を立てた、そうであって欲しくない仮説を・・・

 

「シグナムさんにだけ話しづらいことを話してもらっちゃいましたし、俺も答えなければいけませんね・・・俺がこの間までいたソールヴルムは数か月前まで戦争状態に陥っていました」

 

「なっ!?戦争だと」

 

 シグナムはソールヴルムの事をミッドチルダと同等以上に文明が発展している世界と聞いていたが、そこで戦争などという言葉が出てきたことに驚愕の声を漏らした。戦乱の古代ベルカ時代ならともかく、以降は次元世界での大規模戦闘が起きたという記録はほとんどない、ということからもそれが異質な出来事だということを感じ取ったようだ。

 

「ええ、世界が2つに分かれての大きな戦争、俺はただの学生でした。戦争の事だってどこか遠い世界での出来事だと思っていた。でも俺の生活していた所も戦禍に巻きこまれ、当たり前だと思っていた日常は唐突に終わりを迎えました」

 

 

今までの事を振り返るように話す烈火の表情は重い。

 

「戦争に巻き込まれ、俺は力に目覚めました。魔法という戦うための力に・・・戦いの中で友人や両親を始め、大切な物を失い、そして多くの命をこの手で奪いました。何のために戦うのか、なぜ戦わなければならないのか・・・答えは出ぬまま、終戦まで戦場を駆け続けました」

 

 謎の少年の過去が垣間見えた瞬間であった・・・

 

「主の傍にいる存在が人殺しと知ったのに、余り驚いていませんね」

 

 明かされた衝撃の真実、しかし、シグナムは烈火の事に対してそれほど驚いていない様子であった。

 

「前回の戦闘映像、そして今回のお前の一太刀を見て、何となくそんな予感はしていたんだ」

 

 シグナムはむしろ納得がいったという表情であった。

 

 シグナムは、イーサンと烈火の戦いを見て感嘆を覚えた。魔導師としての実力というよりも、迷いのない鋭い剣戟、管理局員のそれとは違う重みをシグナムに感じさせた。

 

 先の魔法生物との戦闘でも、シグナム以外は最後まで非殺傷設定で魔法を行使していたが、烈火は最初の一発を着弾させた後、即座に殺傷設定での攻撃を繰り出していた。

 

 魔法とはクリーンで万能の力。

 

 それが今の管理世界の常識で魔法行使においても非殺傷設定が当然のように浸透しており、訓練を受けた管理局員ですら設定解除の発想に至らない。それを目の前の少年は、何の迷いもなくやってのけた・・・これが意味することは烈火もシグナムと同じく、自らの刃で他者の命を奪ったことがあるということを意味しているのではないか、ということであろう。

 

 

「戦争の中で俺にできたことは戦うことだけでした。結局、俺の力は何かを殺し、斬り裂くことしかできない」

 

 シグナムは、はやてと同じ年齢の少年が浮かべる悲痛な表情に胸が締め付けられるような感覚を覚えていた。なのは、フェイト、はやて・・・過去に起きた辛い出来事を乗り越え、今を、そして未来を見据えて、前を向いて歩いている彼女達と目の前にいる烈火はあまりに対照的である。

 

 なのは達の瞳に輝くのが希望なら、烈火の奥底にあるのは深い闇・・・

 

 

 そんな烈火に対してシグナムが声をかけようとしたが・・・

 

「・・・ッ!?」

 

 シグナムの切れ長の瞳が吊り上がる。その手にはレヴァンティンが握られており、烈火の左手にも刀剣状態のウラノスが出現した。鋭い目つきで洞窟の出入り口を睨み付ける2人。

 

 

 

 

「・・・こんなところにいましたか。あ、あの、その物騒な殺気をしまってくれると嬉しいのですが」

 

 姿を現したのは先ほどの戦闘で長槍を携え戦っていた女性だ。心なしか膝が笑い、冷や汗をかいているように見受けられる。

 

「何の用です?」

 

 烈火は目の前の女性に対して警戒態勢を解かない。先ほどの話を聞けば無理もないだろう。

 

「共闘を申し込みに来たのです。私は先ほどの彼と違い、貴方達に敵対する意思を持っていませんから・・・」

 

 先ほどまでシグナムに対して敵意を向けていたはずの女性は両手を上に上げ、武装をしていないことを2人に見せ、共闘を願いかけて来たのだった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は情報共有&拠点パート1といったところですね。

前話の時になんとこの作品がランキングに乗っていたそうで、自分が一番びっくりしています。

読んで下さる方も増え始め、ますますモチベが上がっております。

感想等ありましたら頂けると嬉しいです。
ではまた次回に!
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