魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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25年の執念

 管理外世界ルーフィスに幽閉状態となった4人の魔導師。リョカと別行動をとることになった烈火とシグナムの下に管理局員の女性が共闘を求め近付いてきたが・・・

 

「リベラ執務官と違うとはどういうことだ?この作戦に参加しているということは・・・」

 

「ええ、私も闇の書とはそれなりに因縁はありますが、別に復讐心にかられて、ここに来たわけではありません。私がリベラ執務官・・・いえ、今はもうただの犯罪者ですね。彼の誘いを受けたのには2つの理由があります」

 

 女性の言い回しに烈火とシグナムは怪訝そうな表情を浮かべている。先ほどまで付き従っていたリョカに対して散々な言いようであったからだ。

 

「1つ目ですが、リョカ・リベラには様々な嫌疑がかかっています。魔導師ランクの偽装に始まり、虚偽の任務成功報告、気にいらない局員がいればそれらを局の重鎮である父親の権力を使って排除するなどということを始めとして・・・ですが彼らは狡猾です。自らの手は汚さず、危険を冒しません。仮にそれらを取り押さえたとしても、そのようなことは知らないと言い張られてしまえばそれまで、それどころか逆にこちらが消される可能性すらありました」

 

 初対面の烈火はともかく、リョカの事を若手NO1エリート魔導師だと聞いていたシグナムにとっては驚きの情報であるだろう。

 

「ですが、その彼は護衛すら連れず自らの手でこの件を引き起こしました。これを現行犯で押さえれば、彼らの悪事を止めることができると、ある方々の命を受け、私はここに来たのです。ですので彼らが貴女に触れた瞬間に捕縛するつもりだったのですが・・・残念ながらそれどころではなくなってしまいましたね」

 

 女性はシグナムの方を向いて呟く。女性はリョカを含めた魔導師達を捕縛しようと槍を上げた瞬間に魔法生物の襲撃を受けたため、本来の目的を達成できなかったことを悔いている様子だ。。

 

「そのような理由があったとは・・・で、もう一つの理由とは?」

 

「2つ目の理由は闇の書の守護騎士がどのような方か見ておきたかった、といったところです。私の父は以前の闇の書による事件で亡くなったと聞いています。そして生活が苦しくなり、当時幼かった私は母に保育施設に預けられ、そのまま迎えは来ず・・・捨てられました」

 

 女性の言葉を聞き、シグナムの表情が歪んだ。

 

「そんな顔をしないでください。恨んでいないと言えば嘘になりますけど、私は闇の書に対して敵対心のようなものは持ち合わせていません。その後、私が引き取られた施設に次元犯罪者が侵入し、子供を人質にしようとして、私が狙われました。犯人の手が伸びてくる瞬間に私は魔法の力に目覚め、噴き出した魔力に気づいた管理局員によって犯人は取り押さえられ、事なきを得ました。そして、魔法の才能を見出され、管理局に引き取られて今の私になるわけです」

 

 辛い過去を話し終えたにもかかわらず女性はそれほど気にしていないような様子であった。

 

「確かに闇の書によって家庭はめちゃくちゃになってしまったかもしれませんが、魔法を使えるようになって才能を見出されなければ今の私はありません。同年代の女性どころか男性と比べても給料は数倍以上ですし、かつての貧乏な家庭で育つよりも結果としていい人生になっているんじゃないかなと感じています。両親の顔だって覚えていませんし、気に病むことなど何もありませんよ」

 

 笑みを浮かべながら話す女性はすでに過去の出来事を乗り越え、前を向いているのだろうと感じるシグナムであった。

 

「ここからが本題なわけですが、戦闘中にジュエルシードを持ち逃げした竜種にサーチャーを取り付け、先ほどから逐一反応を追っていました。そして、その反応はここで止まったままです」

 

 女性が通信端末の画面を起こし、烈火とシグナムにその地点を表示した。

 

「これは地下か?」

 

 シグナムは反応が停滞している場所を見つめた。それは地上ではなく、地下・・・先ほどの生物達は地上の捕食者ではあっても、日の光の届かない地下で生きていけるようなタイプではなさそうだと首を傾げている。

 

「ええ、そのようです。この反応を追えばジュエルシードを確保できる可能性が高いでしょう。先ほどのリベラの件と合わせて、これが私の持っている情報です。ですが、我々を閉じ込めた結界や先の生物達については何もわかっていません。魔法生物達との戦闘に備えての戦力増強、そしてこの少年は何か知っているような口ぶりでしたので、情報の交換を願いたくここに来ました・・・一応、隠し事せずこちらの情報はすべて話ました。誠意は見せたつもりなのですが、ダメでしょうか?」

 

「いや、状況が状況だ。共闘ということならば私も望むところだ。とにかく、ジュエルシードは何としても暴走前に止めなければならん・・・蒼月、お前はこの件に関して何か知っていることがあるのか?」

 

 シグナムは女性の頼みを了承し、烈火の方に視線を向ける。当の本人は用があるとリョカの提案を突っぱねていた、そして何か知っているようなそぶりを見せていたこともあったためか、2人の女性がじっと見つめている。

 

 

 

「ええ、この出来事の原因と首謀者についての情報は恐らく俺の持っているものと一致していると思います」

 

「なんですって!?」

 

 烈火の発言に女性は目を見開いた。

 

「俺も直接調べたりしたわけじゃなく、情報として聞いただけですがね。この出来事の首謀者はフィロス・フェネストラとかいう科学者だそうです。かつては管理世界でも名の知れた科学者だったそうですが、ある研究に手を染めた結果、表舞台から姿を消したそうです」

 

「ある研究とはなんだ?」

 

 動揺していた女性に変わって、シグナムは烈火に対して問いかける。

 

「魔導獣理論・・・人間や使い魔など以外にもリンカーコアを持っている生物が多くいるのはご存知ですね---」

 

 

 

 

 

 25年前・・・広がっていく管理世界、増える犯罪に対して、魔導師の数はそれに追いついておらず、この頃から既に時空管理局は、深刻な人手不足を抱えていた。

 

 そこにフィロス・フェネストラが提唱した魔導獣理論。

 

 それは、そもそも魔導師とは何かということから始まった。人間以外にもリンカーコアを持つ生物は数多くいる。リンカーコアを持ち、それを魔法として行使できるのが魔導師というのなら、人の形をしていない魔法生物も同様に自在に魔力を扱えるようになれば、それらを魔導師として認めるべきだという物だった。

 

 魔法生物1匹1匹に人間同様の人権を与え、人間と同様に生活し、管理局員として所属させる。管理局は魔導師の不足という問題を打破できる。理想の理論だとフィロスは声高らかに学会で発表した。記憶転写のF計画ですら凍結した学会が、余りにも常識から外れてた魔導獣理論に賛同の声をあげるわけがなかった。

 

 しかし、フィロスは諦めなかった。笑いものになろうと、何度却下されようとも理論を発表し続けたが、次第に学会から見放され、異端者として追放された。

 

 そして、フィロス・フェネストラは優秀な科学者から一転、表舞台から姿を消すことになった。

 

 

 

「そのようなことが・・・しかし、それだけならこの件とそこまで関係しているとは思えませんが?」

 

 女性は烈火の説明に首を傾げている。突飛な理論であるが、特別危険性のあるものとは思えなかったからだ。

 

「ここまでは前置きです。学会から追放され、事実上は科学者人生が終わったかに見えたフィロスでしたが---」

 

 皆に自分の理論を認めさせるため、フィロスは自身の研究論に手を加え続けた。学会を追放されたのもそれが原因である。

 

 魔導師よりも魔法生物の方が優れているということを証明し、自らの理論を押し通すつもりだったのだ。そのために魔法生物の遺伝子情報に手を加え、違う生物同士の遺伝子を掛け合わせ、より強力な魔法生物を生み出そうと躍起になった。強靭な肉体、高い知能、そして、リンカーコアからの魔力を自由に操れる生物・・・それらを総称して魔導獣と名付けた。

 

 人道外れた行為であるが、狂気に魅入られていたフィロスは周囲の制止も聞かず、その研究を続けた結果、異常者、異端者とみなされることなった。

 

 しかし、どのような手段で研究資金を調達しているのかは分からないが、フィロスは今もまだその研究を続けている。

 

 

 

「なるほど、先ほどの双頭の狼や4枚羽の巨鳥、他の魔法生物も魔導獣というわけか・・・奴らの羽毛や牙が魔力が纏っていたのはそのためだな。しかし、ソールヴルムにいたお前がなぜそのような情報を持っているのだ?」

 

 シグナムは魔導獣の説明に納得したように頷いたが、その情報をなぜ烈火が持っているかという事に対して疑問を思ったようだ。ソールヴルムは他世界との交流を絶っているし、話に出て来た、フィロスは管理世界の人間である為だろう。

 

 

 

「あー、まあ、俺がここに来たわけに関係がありまして・・・フィロスとかいう爺さんは何を思ったのかイアリスの情報を求めて、つい数ヵ月前、ソールヴルムに違法渡航をしたそうなんですよ」

 

 烈火は苦笑いを浮かべ、話しづらそうな様子であった。

 

「魔法戦に使えるレベルでのイアリスの加工や制御の技術が欲しかったようで、調べ回っていた。しかし、そんなものが民間に出回っているわけもなく、奴はイアリスに関係した研究所からデータを盗み出した・・・はずだったんですけどね」

 

「と言いますと?」

 

 女性は口をつぐんだ烈火をじっと見つめる。

 

「元は優秀な科学者とはいえ、システムクラックの専門家とかではなかったようですので、ファイアウォールを突破できず、閲覧可能なファイルの中で関係していそうなものをいくつか盗んでいったそうです。それ自体は重要なものではないのですが・・・」

 

 烈火は一呼吸置いた後、言いづらそうに再び口を開いた。

 

「盗まれたデータの中にイアリス関係のファイルに偽装したプライベート用の物があったそうで、それを奪還、もしくは破壊することが今回の俺の目的です。正直どうでもいい理由なんですけど、盗み出された本人はこのためだけに部隊を派遣しようとしていたので、手の空いていた俺がその代わりに出撃したわけです」

 

「そ、そうだったのですか」

 

 烈火の説明は終わり、局員でない彼がここにいる理由は判明したが、それを聞いた一同には何とも言えない雰囲気が立ち込めていた。

 

「で!フィロスが生み出したと思われる魔導獣がジュエルシードを持ち出した理由は不明ですが、それを止める必要はあるでしょう。貴方の情報は有益だと判断しました。共に行く方が状況は早く収束しそうですし、俺もできる限りのことをします。フィロスを何とかすれば、この世界からの脱出もできるはずですしね」

 

 烈火は四散してしまったシリアスな雰囲気を取り戻すかのように咳払いをし、シグナム同様、女性からの申し出を了承した。

 

「あ、ありがとうございます!心強いです。しかし、今日はもう日が沈みます。夜の森は危険ですので明朝、ジュエルシードの反応がある地点に向けて出発しましょう」

 

 女性の言葉にシグナムと烈火は頷いて答えた。局でも有名な騎士であるシグナムは言わずもがな、烈火も先ほどの動きを見ればただ物ではないことは分かる。戦力としては申し分ないだろう。

 

「では私は一旦戻ります、あんなのでも重要参考人ですから何かあると困りますし・・・私としたことが名乗るのを忘れていましたね。私はアイレ・ヴィエチール、捜査官をやっています。この子はインテリジェントデバイスの、エアリアル・ノルン。基本形態は長槍です。明日はよろしくお願いしますね!」

 

 管理局員の女性、アイレ・ヴィエチールは胸ポケットからデバイスの待機状態であろう緑色のカードを取り出した。そして、自身の名を名乗り、烈火の名前を聞いた後、この場を去って行った。

 

 

 

 

 

「一応、この事態の解決に大きく前進したわけですが・・・」

 

 烈火は事態の全容が見え、その解決のためにどうすればいいのかということが明確になりつつあるこの状況を前進と捉えたが、懸念事項も幾つかあるようだ。

 

 管理局高官のリョカの勧誘を拒否した自身と闇の書関係で恨まれているシグナムという組み合わせ・・・故にアイレの情報が偽りで、リョカに連なる者達がフィロスと手を組んでこの状況を作り出した可能性もゼロではない。

 

 そしてもう一つは・・・行動を共にしているシグナムの事だろう。歴戦の騎士だけあって、この非常時でも冷静さを失っていないが、先ほどあれだけの事があったのだ、流石に本調子ではないはず。

 

 烈火には自身1人だけで行動するという選択肢もあったが、外敵の魔導獣、身内には刃を向けられ、ジュエルシードという要因まで加わったこの危険地帯の中で、幼馴染の親友の家族を放ってはおけなかったのだろう。

 

 

「彼女を信用しきるわけにはいかないかもしれんが、暴走の可能性を孕んだジュエルシードを放置するわけにもいかん。罠の可能性があろうとも動きべきだろう」

 

 烈火の言葉にシグナムが自身の想いを語った。今はまだ精神的にも肉体的にも余裕があるが、ルーフィスから脱出する手段がない以上、ここからは疲弊していく一方であることは明らかだ。ならば、心身ともに余裕がある今、行動を起こすのは、多少リスキーであるが、事態解決のために必要なことと考えているようだ。

 

「それもそうですね」

 

 烈火もシグナムと同様の考えであった。辺境世界に幽閉され、ロストロギアと魔導獣の脅威を受け続けるこの状況から脱するためには致し方ないリスクだと考えていたのだろう。仮に直接刃を向けられたとしても、リョカとアイレならば戦闘能力に関しては大した脅威ではないという意味でもこの選択をしたようだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・敬語は不要だ」

 

「え?」

 

「私達はこの状態を解決するまでは運命共同体と言っても差し支えない。必要以上に気遣い合うのは互いに肩がこるだろう。敬称も不要だ、テスタロッサともそのように接しているしな」

 

 シグナムは同情か、心配からかは分からないが、烈火に何らかの形で気を使われていると思ったのか、不満げな表情を浮かべて顔を近づけ、言葉を紡いだ。

 

「えっと・・・わかりま・・・分かった、シグナム」

 

 烈火は目の前に広がるシグナムの端正な顔にどもってしまったが、彼女の要望に応えることにしたようだ。

 

「それでいい。私はお前に気を使われるほど弱くはない」

 

 シグナムはそれを見て満足げな表情を浮かべた。

 

 確かに過去を話すように願い出たのは烈火の方であるし、この状況下であっても、シグナムは冷静に判断し、行動をしていたことは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「だが、気遣い感謝する・・・ありがとう」

 

 不要な心配であったと考えていた烈火の眼前でシグナムが微笑んだ。烈火は、初めて見た、その表情を前に返事すら返せず、何も言えなくなってしまった。

 

 

 何故なら、凛々しさと美しさを漂わせる、その表情に目を奪われてしまったから---

 

 

 シグナムは、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた烈火の様子を見て不思議そうな表情で首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 烈火、シグナム、アイレ、リョカの4人は明日の明朝、事態の収束に向けて、動き出す・・・

 

 

 

 

 

 

 対して地球、ハラオウン家には5人の少女が集まって、テキストと睨み合っていた。昨日から行われている勉強会にいそしんでいるようだ。

 

「はやてさん!!」

 

 フェイトの自室にリンディが慌てた様子で駆け込んで来た。

 

「ど、どないしたんですか?」

 

 はやては普段から落ち着きのある人物であるリンディが取り乱し用に目を見開いた。共にいるなのは達も同様だ。

 

「シグナムさんが特別な任務に就いていることは知っているわね?」

 

「は、はい」

 

 リンディは呼吸を整え、いきなり家族の名前が出てきたことに驚いているはやてに対して現状を説明をし始める。はやては昨日の午後、シグナムからそのような話を聞いたと思い返していた。

 

「任務開始からすでに半日が経過しています。そんな中でシグナムさんを含め、部隊全員の反応が突如として消滅したと情報が入りました。」

 

「え・・・?」

 

 リンディの言葉を聞いた瞬間、はやての顔から血の気が引いていく。

 

「そんな・・・」

 

フェイトも呆然とした様子である。

 

「現在、局の方で通信を試みているけど、一切応答がないわ。彼女の事だからよほどのことがなければ大丈夫だとは思うけれど、シグナルロストからかなりの時間が経過して・・・はやてさんっ!?」

 

 はやてはリンディとの会話の途中でいてもたってもいられないという様子で部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 様々な思惑が絡み合い、事態がさらに加速することをこの時は誰も知る由がない。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

拠点パートはここまで、次回は敵地突入となります。

感想等頂けると嬉しいです。
では!

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