魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
ルーフィスの森林地帯を真っすぐと進む4人の魔導師。この状態になるまで一悶着あり、あまりいい雰囲気とは言えないが、それぞれが獲物を持ち、目標の地点に向けて突き進む。
「妙だな・・・」
シグナムは神妙な表情を浮かべて呟いた。
「ああ、静かすぎる。結界内に俺達がいることは向こうも承知のはず、何らかの接触があってもいいはずだが」
烈火もシグナムに賛同するように声を上げる。烈火達を結界内に閉じ込めたのはフィロスのはず、何のつもりでジュエルシードを持ち逃げしたのかは定かではないが、それを奪還するために自分の拠点に接近してくる魔導師に対して、何の罠もなく、魔導獣を差し向けることもなく、あまりに無防備すぎるためだ。
「ふん、怖気づいたのか?」
リョカは昨日よりも大分落ち着きを取り戻した様子であるが、高圧的な態度を崩してはいない。
「気になりますがともかく今は進むしかありませんね」
アイレは烈火とシグナムの様子を観察し、安心した様子で前進を促した。皆、思惑はあれど、この事態を打開したいという思いは同じである。
アイレは烈火らと別れた後、リョカにも魔導獣やフィロスの事を伝えた。ルーフィスからの脱出にはそれの打倒が必須であることを明らかにし、洞窟内で局の救助を待つつもりだったリョカの重たい腰を無理やり上げさせた。
自身らが結界に包まれたことによって反応消失が確認されれば、管理局が追加部隊を派遣してくる可能性もあるが、結界に特殊な機能があり、局が自身らの異常を感知していない可能性もある。本局の動きが分からない以上、それを頼りに行動するのはあまり好ましくない。
自分達が助かる為だけなら穴蔵に籠っている方がいいかもしれないが、今回はジュエルシードを6つも相手側が所有していると思われ、それの悪用を防ぐためにも今は進むしかない・・・のだが。
「はぁ・・・」
実際の所は、リョカ1人の状態で魔導獣に襲われでもしたら、まず助からないだろうということと、色んな意味での危険、重要人物であるため、目の届く範囲に置いておきたいということで連れてきたが、アイレの足取りは重い。
先ほどからリョカは烈火やシグナムを見下すような態度を取り続け、口を開けば、お前達のせいだなどど、相手の神経を逆なでするような言動を繰り返している。幸い2人は事情をすべて知っており、冷静に対応・・・というか最早、相手にすらしていない様子であるが、フォーマンセル内で不和を生み出さないように立ち回ってくれていることに安堵を感じていた。
そして、敵襲を受けることなくジュエルシードの反応が留まっている地点まで残り数kmという所まで進路を進めた4人。あと僅かで森林を抜け、平野に出るようだ。
「情報通りだな」
烈火が地下に存在する巨大な人工物の反応をキャッチした。昨日のアイレの情報通り、ジュエルシードを持ち去ったフィロスに関連すると思われる施設は確かに存在しているようだ。
「ここからは地上を歩いて進みましょう・・・っ!?」
アイレは低空飛行での移動を止め、できる限り、隠密行動を心がけようと注意を促そうとしたが、その表情が凍り付いた。
森林を抜け、平野に出た4人の先には夥しい数の魔導獣が今にも飛び掛からんばかりに唸り声を上げていたからだ。
前回の戦闘の際に群れのリーダー格と思われた、双頭の狼や四枚羽の巨鳥も最低で数十匹は視認できる。
しかも、狼や巨鳥ら、大型魔導獣と同等以上の大きさの奇怪な姿をした生物も数多く見受けられる。角が5本の巨大甲虫、本来樹液を吸うはずの口には肉食獣の様に牙が生えそろっている。
一角獣と二角獣の首を持つ、双頭の馬。その隣にいる土竜は頭の両サイドと鼻の上に巨大な角を持ち、闘牛のようながっちりとした体躯を持っている。
体の両端に頭を持ち、水晶に透き通った体の大蛇も蜷局を巻き、獲物を前に長い舌を何度も出し入れしていた。
鋼のような鱗に覆われた巨大な飛竜の群れ、背中に翼を生やした15m級の獅子などといった新たな顔ぶれがいくつも見受けられる。
「見るに堪えないな」
烈火は種類の違う生物同士を強引に掛け合わせたような、異形の魔導獣を見て毒を吐いた。フィロスが聞き及んでいた通りの人物であるなら、この生物達を生み出したのは彼ということになる。自然の摂理を犯した人間のエゴに思うところがあるようだ。
魔導獣の咆哮が周囲に響き渡る・・・
「我々の見通しが甘かったようですね。このようなガーディアンが待ち構えていたとは・・・」
アイレは魔導獣からの威圧を受け、震える身体を押さえつけるようにデバイスを強く握りしめている。
「に、逃げなければ!」
リョカは恐怖に顔を歪めながら数歩後退するが、自身達の状態を思い出してか、意気消沈した様子だ。この場で魔導獣から逃げられたとしても脱出不可能な結界の中に閉じ込められているため、最終的には追いつかれてしまう。
「し、死にたくない!!僕がこんなところで終わっていいはずがない!!」
リョカは自身を鼓舞するように声を張り上げたが、魔導獣の威圧の前に震えながら膝を折った。
魔導師4名VS無数の魔導獣というこの状況。しかも、敵対勢力には1匹でリョカの部隊をほぼ壊滅に追い込んだ大型魔導獣が無数にいる。絶望的なまでの戦力差は誰の目から見ても明らかである。
籠の中の鳥・・・最早、詰みに等しい状況であった。
「・・・ぃだ・・・お前のせいだからな!!こんなことになったのは!!」
「なっ!?」
顔を上げたリョカがシグナムを指差して罵声を浴びせる。それに反応したのはシグナムではなくアイレであった。ルーフィスに来る切っ掛けとなったのは闇の書事件と言えなくもないが、蓋を開ければ、被害者遺族の逆恨みであり、そもそも襲ってきているのはフィロスの魔導獣・・・この指摘は的外れもいい所である。
「よーっし!作戦が決まったぞ!まずお前!!ここに残ってあの生物の足止めをしろ」
リョカはシグナムを指差したまま、ふらつきながら立ち上がって言い放った。
「次にお前とヴィエチール!2人は僕と共に戦闘域から離脱、結界の一点を狙って3人で全力で魔法を撃ち込んで脱出、そのまま本局へ帰還するぞ!!」
「彼女を捨て石にするということですか!?」
息を荒げて捲し立てるリョカにアイレが反論した。リョカの作戦が成功すれば、3人は無事に脱出できるが、戦闘域に残されるシグナムの生存は絶望的だろう。そもそも、離脱メンバーの生存も、この場を切り抜けて、結界を破ることができれば・・・という低い確率を掴み取ってのものであるが・・・
「捨て石だなんて心外だな。殿を務めてもらうと言っているんだ。犯罪者風情が僕の役に立てるのだから、むしろ感謝してほしいくらいなのだが。それに僕が無事に戻ったら、部隊を率いて救出に来るつもりだ。僕と同じSランクの実力を信用してこの役目を与えるんだ、騎士冥利に尽きるという物ではないかな?」
不意を突かれたとはいえ、デバイスを携帯している魔導師の命をいとも簡単に奪うほどの力を持っている魔導獣の軍勢相手に1人で立ち向かうなど土台無理な話だ。これまでのリョカの立ち振る舞いからして、救助に来る確率は限りなく低い。自分が生き残るためにシグナムの生存など知ったことではなく、助けに来るつもりなどないであろうことは誰が見ても明らかだ。
「あ、貴方という人は!?」
今までできる限り静観を貫いて来たアイレもリョカの態度に憤りを隠しきれない様子だ。しかし、当のシグナムは目の前を見つめたまま微動だにしていない。
「おい!?お前!聞いているのっ!・・・へぶっぅぅ!!??」
リョカは自身の方を向かそうとシグナムの肩に手を伸ばしたが、情けない声を漏らしながら宙を舞った。
「お、おえぇぇぇえええぇぇ!!!??き、貴様!この僕に何をするんだ!!??」
リョカが吹き飛んだのは、烈火がその腹を蹴り飛ばしたからであった。リョカは口元から込み上げて来た液体を零しながら、烈火を睨み付けようとしたが、先ほどまで自身が立っていた場所を見つめ、声を失った。
「さっさと剣を取って立ち上がれ、的になりたいのか?」
烈火はリョカの方など見向きもせず、正面を見据えたまま言い放つ。先ほどとは違う意味でふらつきながら立ち上がったリョカの眼前には、先ほどの火球を合図にしてか、魔導獣が一気に押し寄せてくる光景が映し出された。
「ひっ!?作戦実行だ!逃げるぞ!!・・・・・・な、なぜ誰もついてこない!?馬鹿者共!!僕の言うことが聞けないのか!!!!」
怯えた声を上げながら魔導獣から背を向けたリョカであるが、その後を追うものは誰もいない。
「馬鹿はお前だ、ボンクラ執務官。脱出できるかもわからないこの状況で後退しても全滅するのがオチだ。それにこの結界を作り出しているのは恐らくフィロスの装置だろう。ならば、結界を発生させている装置の有りそうな地下施設に向かうべきだ。それに6つものジュエルシードが相手に渡っている。悪用される前に確保すべきだと思うが?」
「し、正気か!?あの化け物共と戦うなどと!あいつらにやられたら本当に死ぬんだぞ!!!」
烈火はフィロスの拠点と思われる地下施設を目指すつもりのようだ。顔面蒼白で体全体を震わせているリョカはそんな烈火に罵声を浴びせる。
リョカを襲っているのは死への恐怖だろう。見るも無残に命を奪われた魔導師達の事が脳裏によぎった。リョカもこれまでの任務で殺傷設定を使う魔導師や、質量兵器を持った犯罪者と対峙したことがないわけではない・・しかし、魔導獣の軍勢から感じられる殺気量はそれの比ではない。
死がすぐそこに迫っている・・・にもかかわらず、顔色一つ変えていない烈火の事が信じられないのであろう。
「人が死なない戦いなどないぜ。それに、立ちはだかる者は全て斬り捨てる・・・造作もない」
烈火はリョカの問いを一掃し、ウラノスの切っ先を迫ってくる軍勢へと向けた。その瞳には絶望した様子など微塵も見受けられない。
「次元断層すら引き起こしかねない代物を目の前にして引くわけにはいかんな」
静観を貫いていたシグナムが烈火の隣に並び立った。シグナムもレヴァンティンを抜刀し、魔導獣に向けて構えている。
「リョカ・リベラ・・・逃げたいのなら好きにすればいい。ただし、1人で生き残る自信があるのならな」
シグナムの言葉を受けたリョカは先ほど自身の指示に従わなかったアイレの方を向いて、改めて絶望した。アイレは呼吸を荒くしながらも自身のデバイスを振り上げ、戦闘態勢に入っていたからだ。リョカは最後の味方に裏切られたと言わんばかりの表情で地に崩れ落ちた。
「く、くそっ!?・・・あ、はっ、ひぃぃぃぃぃ!!!!?」
リョカはアイレに対して悪態をつこうとしたが、突如として悲鳴を上げて後退る。
「死にたくないのなら、我らの後を追いかけてこい。振り返らず、前だけ向いて全力でな・・・」
シグナムの視線に射抜かれて、腰を抜かしたためだ。リョカの偽りで塗り固められたSランクという形だけの称号とは違う、幾多の修羅場を潜り抜けて来た、戦乱の
「ふっ、剣を交える約束だったが、その前に共に死地に赴くことになるとは・・・世の中、何があるか分からないものだ」
「そうだな」
シグナムは隣にいた烈火に声をかけた。数日前に約束を取り付けた模擬戦どころか、このような絶体絶命の状況で肩を並べて戦うことになってしまい、何とも言えない表情を浮かべている。
「人が死なぬ戦いなどない・・・その通りだな」
シグナムはかつての事を思い返すかのように目を伏せた。そして・・・
「私の背中はお前に預ける。行くぞ・・・烈火!」
「ああ!行こう。シグナム!!」
顔を上げたシグナムの言葉に一瞬、目を見開いた烈火・・・しかし、視線を交わし、2人は大空を駆ける。
「・・・っ!!行きますッ!!!」
「くそっおおお!!!!もうどうにでもなれぇぇ!!!!!!」
アイレとリョカも後を追うように飛び立った。
戦力差は歴然・・・しかし、4人の魔導師はただ、真っすぐ突き進む。
「くくっ・・・自棄になったのか、まさか正面から向かってくるとはな。逃げ惑う餌を狩るところだけ見ても面白くない・・・管理局の諸君がどこまでもつか見ものだな」
1人の老人がディスプレイに映し出された、魔導師と魔導獣の様子を眺めて不敵な笑みを浮かべている。長い白髪と無精髭を生やした老人、彼こそが魔導獣の生みの親、フィロス・フェネストラだ。
「せいぜい、我が子らに蹂躙され、儚く散っていく様を私に見せてくれ!!魔導師などという出来損ないよりも魔導獣の方が生命として優れているという証明をな!!!」
フィロスは4名の魔導師を血走った目で睨み付けた後、それに向かっていく魔導獣を見つめて恍惚の表情を浮かべている。
「そうすれば、あのお方も喜びになる。そして、私を否定した愚かな人間達に思い知らせてやるのだ。そのために、管理局は墜とす。これはその第一歩となるのだ!・・・そうだ!愚かな魔導師達の死体を民衆の前にばら撒いてやろうか!男は首を刎ね、女は尊厳を奪い去った姿でな!!!」
フィロスは口元が裂けんばかりに笑みを浮かべた。
「自らを神と思い上がった人間共に思い知らせてやる!私の魔導獣がこの次元世界で最も優れている生物であることを!!魔導師がどれだけ無力かということをなぁぁ!!!!ふ、ふははははははははははっっ!!!!!!!」
フィロスの瞳に宿るのは確かな狂気・・・
否定され続けた1人の男の復讐劇は今ここに幕を開ける。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
戦闘まで行くといったな、あれは嘘や!
いや、本当はドンパチやるつもりだったんですけどね・・・
第2章は基本的に暗い話が多めになってしまいますが仕様ですので、お付き合いいただけると幸いです。
感想等頂けると嬉しいです。
では次回また会いましょう!
ドライブイグニッション!