魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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Begins Story

 私立聖祥大学附属中学校の昇降口で言葉を交わした後、それぞれの教室に分かれていく五人の少女。

 

 高町なのはと共に1組の教室に向けて歩いていくのは、紫がかった黒髪を伸ばし白いカチューシャを付けた少女、月村(つきむら)すずかとなのはよりも暗めな茶髪を肩口で揃えた小柄な少女、八神(やがみ)はやてだ。

 

 3人の隣の2組の教室に向かうのは2人の少女。金髪ボブカットの少女、アリサ・バニングスと長い金髪を腰下まで伸ばし先で一纏めにしている少女、フェイト・T・ハラオウン。

 

 

 始業時間となり、朝のHRが始まった2組の教室。どことなく落ち着きのない雰囲気が漂っている。生徒達は大学付属のエスカレーター式の私立校である聖祥中学校ではあまりないイベントが起きると既に知っているからだ。

 

 扉が開き、教室に2組の担任教師である黒髪ロングの女性、東谷琳湖(あずまやりんこ)が入ってくると同時に静かになる生徒達であったが、浮足立った雰囲気は全く隠せていない。

 

「では朝のホームルームを始めるぞ……っとその前に君たちに大事な知らせがある。何故かほとんどのものが知っているようだが、今日からこのクラスに転入生が来ることになった。入って来てくれ!」

 

 東谷に促され、教室のドアを開いて入ってきたのは1人の少年。

 

 男子にしては長めの黒髪と蒼い瞳が特徴的といったところか、興味津々と目を輝かせる多数の女子生徒と見るからにテンションの下がった男子生徒に軽く頭を抱えてしまう担任教師。

 

(手のかからない良い子ちゃんたちかと思っていたが、こういうところは年相応だな)

 

 とはいえ、男女共に目の前に立っている少年に一定の興味を抱いているようだ。

 

「ん、んっ!では蒼月、軽く自己紹介をしてくれ」

「わかりました。今日からこの学校に転入する蒼月烈火です。海鳴にはかなり前ですが住んでいたことがあります。これからよろしくお願いします」

 

 烈火は簡易的な自己紹介をして会釈をした。主に女子達によるぱちぱちと鳴り響く拍手と気を取り直したであろう男子も含めてクラス中の視線が転入生に熱く注がれている。

 

「お前らの気持ちはわからんでもないがホームルームの時間も迫っている。そういうことは後にしてくれ。では蒼月、君の席はハラオウン……長い金髪の女子の隣になる」

 

 烈火は東谷の発言に頷いて自らの席に歩いていく。

 

 

「えっと、私はフェイト・T・ハラオウンです。よろしくね」

「蒼月烈火だ。よろしく」

 

 座席に腰かけた烈火に対して隣の席の少女が声をかけてきた。

 

 他の女生徒とは比べ物にならない美貌と同年代とは思えないほど女性的なボディラインを誇る金髪美少女はフェイト・T・ハラオウンと名乗った。烈火は大人びた容姿とは裏腹に、にっこりとあどけない笑顔を浮かべて自己紹介をしてくるフェイトに返答をする。

 

 

 余談ではあるが、烈火の右隣の列にいた男子生徒はフェイトの微笑みを間近で見てしまい顔を真っ赤にして悶絶していたとかなんとか……

 

 

 ホームルームが終わり東谷が教室を出て行って数秒後、烈火の席の周りには女子を中心にクラスの大多数が押し寄せ、矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。

 

「あっ、その!お、落ち着いて」

 

 あまりの勢いに引き気味な烈火とアタフタとしながらも生徒達を抑えようと奮闘するフェイトだったが、残念ながら生徒の勢いはそれを遥かに上回っており、全く止まる気配がない。

 

「はい!そこまでよ……ったく、転入生が困ってんじゃないの。授業だってすぐ始まるのよ」

 

 パンパンと手を叩いただけで押し寄せるクラスメートの波を沈めたのは金髪をボブカットにした少女、アリサ・バニングスであった。半眼になって一睨み……不満そうな顔をしつつも散っていくクラスの面々、彼女の溢れんばかりのカリスマ性によるものか、恐怖から来るものか……

 

「はふゅぅぅ、私の時より凄かったよぉ」

「まあ、フェイトの時は初等部だったし、中等部に上がってからは転入生なんてほとんど来なかったからしょうがないわね」

 

 息を吐いて脱力するフェイトとその隣に立って苦笑いするアリサ。

 

「すまない、助かったよ」

 

 烈火もまたアリサに対して礼を述べる。

 

「別にアンタのためじゃないわよ!クラスメートが恥を晒す前に止めただけだから勘違いしないでよね!」

 

 烈火に礼を言われると先ほどまでの堂々とした態度から一転、頬を染めて顔を背けた。

アリサの様子に目を丸くする烈火、そんな彼の耳元に近づいたフェイトがボソッと一言。

 

「アリサはツンデレさんだから、口ではああ言ってるけどホントは嬉しいって思ってるから気にしないでね」

 

 ニコニコと烈火の横で笑っているフェイトだったが・・・

 

「フェ~イ~トぉ!なんか言ったかしらぁ?」

「な、何にも言ってないよぉ!!」

 

 アリサは額に青筋を浮かべてフェイトに詰め寄る。じゃれ合う2人とそれを見ている烈火。

 

 程なくして始業の鐘が鳴り授業が始まろうとしたため、アリサは席に戻って行った。次の休み時間、再び生徒が烈火の元に質問に行くと思いきや、意外にも烈火にチラチラと視線を向けるのみであった。

 

 

 正しくは烈火とフェイトの2人にであるが。

 

「蒼月君はここに来る前はどこにいたの?」

「つい先日までは海外を転々としていた。ハラオウンもさっきの口ぶりからして転入でもして来たのか?」

「うん、私は初等部3年生の時にイタリアからここに越してきたんだ」

 

 先ほど出会ったばかりであるにもかかわらず、仲睦まじい様子で話している二人にクラスの視線が集まるのも無理のない話であるのかもしれない。

 

(((転入生の野郎……ハラオウンさんとあんなに近くで話せるなんてぇぇ!!)))

 

 フェイト・T・ハラオウン……学園の男女問わず誰もが焦がれる美少女であり、いつか烈火も知ることであろう〈聖祥5大女神〉と呼ばれているうちの1人である。容姿端麗、文武両道と非の打ちどころのないフェイトにアタックした男子は数知れず……

 

 

 

 

 つい数日前にも……

 屋上に呼び出したフェイトと意を決して相対している男子。

 

「ハ、ハラオウンさん!ぼ、ぼ、僕と付き合って下さいっ!!」

「ん?付き合う?買い物かな、ごめんね。次の週末は予定があってちょっと無理かな」

 

 男子生徒にとっては勇気を振り絞った告白であったが、かわいらしく小首を傾けたフェイトにナチュラルにスルーされてしまい、あえなく撃沈した。

 

 小学校時代から今に至るまで未だにその心を射止めた者はおらず、フェイトの幼馴染の1人でもある茶髪サイドポニーの少女とは度々、甘い雰囲気を醸しだすことがあり、その少女も男子から人気であるにもかかわらず浮ついた話を聞かないため、その少女と付き合っているのではないかとすら言われているようだ。

 

 

 

 

 転校生という異物を抱えながらも2限、3限、4限と授業は進んで行き、今の時間は昼休み。昼食を取ろうと各々が仲のいいグループに分かれていく。烈火の隣の席、フェイトの下にも教室の扉を開いて入ってきた3人の少女が向かってきていた。

 

 フェイトの下に集まったのは先ほど扉から入ってきた高町なのは、月村すずか、八神はやての3人とアリサ・バニングスだ。幼馴染の仲良し5人組が集結したというわけだ。

 

 普段から彼女たちが昼食をとっている学校の屋上に行くためにアリサとフェイトを誘いに来たようでそれぞれが女子らしい小さな弁当箱を手に和気藹々と会話をしていると、フェイトの隣の席に昨日まではいなかった少年がいることに気づいたはやてが声をかけた。

 

 

 

「あれ?見たことがない顔やね~」

 

 はやては独特なイントネーションで烈火に声をかける。

 

「今日からこの学園に転入することになった蒼月烈火だ」

 

 烈火は本日何度目になるかわからない自己紹介をした。

 

「なるほどなぁ~。朝からここ教室が騒がしかったのはそういうわけってことやね。私は八神はやてっていいます。よろしく」

「私は月村すずか。よろしくね」

「そういえば名前を言ってなかったわね。アリサ・バニングスよ」

 

 返事を返す少女たちであったが……

 

「……なのは?」

 

 フェイトは1人だけ転入生の方を見つめたまま微動だにしない親友の姿を見て、不思議そうに首を傾げながら声をかける。

 

 

「そうげつ……れっかくん?」

 

 なのははフェイトの言葉に反応せずに、茫然と烈火の名前を呟いた。

 

 そして……

 

 なのはの瞳から突如として大粒の涙が零れ始める。

 

「お、おいどうしたんだ?」

 

 突如として泣き出したなのはに対して、何事かと立ち上がった烈火と駆け寄ろうとする4人の親友達。

 

 

 次の瞬間、周囲にいた者どころか教室中が騒然とする光景が広がることになる。

 

 

 高町なのはが蒼月烈火の胸に飛び込んでいたのだから……

 




最後まで読んでいただいてありがとうございました。
第2話はいかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。

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