魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
燃え盛る炎の中から一体の龍が姿を現した。
屋外に飛び出したことによりその全貌が明らかになった。3つ首の魔導獣を遥かに上回る巨大な体躯、両翼を広げ、凄まじいまでの存在感を放っている。怒り狂った竜皇により、生き残った魔導獣が次々と蹂躙されていく・・・
「か、間一髪でしたね・・・ですが、間に合わなかった」
森林地帯に身を隠しているアイレは、一息つくようにしゃがみこんだ。
竜皇を厳しい表情で見つめているシグナムと烈火、息を切らして座り込んでいるリョカと、先ほど竜皇の
だが、フィロス・フェネストラの姿はどこにもない。
フィロスはバリアジャケットどころか魔力障壁を張っていたとしても、直撃を受ければ死は免れないであろう威力のブレスをあの至近距離で受け、火炎の中に包まれた。
魔導師達の救出は間に合わず・・・恐らく、生きてはいないであろうことが予測される。
「かつてこのルーフィスに君臨していた竜種をジュエルシードによって蘇らせた・・・素体が限りなく強力という以外はジュエルシードの暴走体と同じか・・・」
シグナムはフィロスの言葉を思い返しながら、大空を飛び回る青い竜を一瞥した。
「前に対峙したやつとは比べ物にならないが、ジュエルシードの暴走体というのなら・・・」
烈火も数日前に巻き込まれた事件で戦った、ジュエルシードの力を手にした魔導師の事を思い返していた。伝承の竜と一般の魔導師では素体としてのスペック差があり過ぎて比較にはならないようだが、ジュエルシードの暴走体である以上、対策がないわけではない。
「アレを倒して、ジュエルシードを封印すればいいだけの話だ」
烈火は右手に刀剣形態でウラノスを出現させた。シグナムも鞘からレヴァンティンを抜刀する。規模の違いはあるものの、PT事件や、先日の事件での暴走体と同じ対処の仕方でこの事態を打開できると考えたようだ。
「あんなのと戦うのか?それよりも早く結界を解除して、ここから離れるべきだ!!!」
先ほどまで口数の少なかったリョカが息を吹き返したかのように声を荒げた。
「いや、結界があるおかげで外への被害を気にせずに戦える。この状況はむしろ好都合だ」
烈火は相も変わらずルーフィスからの脱出を試みようと提案するリョカに視線を合わせることなく、歩き出した。
「2人は奴の動きに注意しながらできる限りこの空域から離れていろ。戦うのは我らだけで十分だ」
シグナムもアイレ達に背を向け、戦闘域へと歩を進めていく。
「・・・っ!?・・・分かりました。ご武運を・・・」
アイレはシグナムの発言に思わず拳を握りしめ、身体を震わせている。
「行きましょう。私達が残ってもやれることはないようです」
アイレは程なくしてリョカと共に残った2人とは逆方向へと移動し始めた。
魔導獣に苦戦していた自分達が、それを大きく上回るであろう、あの竜皇に対抗する術を持っていないことはアイレが一番分かっている。下手に手出しをする方がかえって足手纏いとなりかねない。管理局員としては不本意であるが、この場は引くのが最善と考えたのだ。
竜皇は既に口からの火炎で魔導獣の殆どを焼き払っていた。魔導獣の死骸が燃え、森林が炎に包まれる。正気を失ったかのように咆哮を上げる竜皇の頭部に蒼色の斬撃が直撃した。
「紫電・・・一閃ッ!!」
突然の衝撃に全身を捩じらせた竜皇の腹部に紅蓮を纏った一閃が叩き込まれる。竜皇は翼をはばたかせ上空へと逃れようとするが、蒼い魔力弾が雨のように降り注ぐ。
それを払いのけるかのように深紅のブレスが辺り一帯に撒き散らされた。竜皇は吐いた火炎で周囲を焼き尽くし、改めて上空を陣取った。
「動きはトロいが、防御力は異常だな」
先制攻撃を仕掛けた烈火は竜皇の挙動を分析していた。全身の水晶のような鱗は高い防御力を誇っているが、体躯が巨大な分、小回りは聞かず、動きは鈍重なようだ。
「生半可な攻撃では何発撃ちこんでも意味がない・・・戦いを長引かせるとこちらが不利か」
火炎を避けきったシグナムは自身が斬りつけたところの様子を観察している。焦げ跡のようなものはついているが、有効打とはなりえていないのは見て取れる。
『聞こえているな烈火。もう少し様子を見てみよう。仕掛けるタイミングを見極める』
『ああ、了解した』
シグナムと烈火は念話で会話をしつつ、竜皇の攻撃を躱し続ける。下手に突っ込むのはリスクが高いと判断し、まずは相手の出方を伺うようだ。
動きが鈍重な竜皇に対して、烈火とシグナムは機動力に優れている。前足の鉤爪や尾が風を切りながら、振り回されるが、2人の剣士は一撃も攻撃をもらうことなく、時にカウンター気味に反撃をしながら、大空を飛び回る。
竜皇は自らの攻撃がヒットしないことに腹を立ててか、鳴き声を上げながら、口元から大規模なブレスを放ち、灼熱の火炎で辺り一帯を包み込んだ。
「ヴァリアブル・レイ!」
烈火はブレスを躱しつつ、旋回しながら銃形態のウラノスから砲撃を放つ。
「陣風!」
シグナムも迫り来る火炎を避けて、レヴァンティンの刀身から斬撃を打ち放った。
2つの攻撃が、火炎を放っている竜皇の頭部に直撃する。竜皇は攻撃を喰らったのにも関わらず、首を回して、ブレスを吐き続けていた。直撃を受けても微動だにせず、高火力の攻撃を叩き込んでくる様は正に要塞だ。烈火とシグナムの攻撃は決定打になり切れず、竜皇は攻撃が当たらない・・・膠着状態である。
そんな状況を打ち破るかのように竜王の咆哮が轟いた。再び力を込めるように首を反り、今回は魔力を纏った火炎ではなく、巨大な六角柱の結晶体を口元から放出した。
竜皇は吐いた火炎を結晶体へとぶつけた。結晶体にはじかれるように火炎が乱反射して、四方に散っていく。
鈍重で大ぶりな攻撃しか繰り出してこなかった竜皇から突然の全方位攻撃・・・シグナムと烈火を囲い込むように迫り、直撃した。
「・・・このような技まで持ち合わせていたとはな」
シグナムはシュランゲフォルムの伸びた刀身を体の周りに蜷局を巻く蛇の様に這わせ、迫り来る火炎を防御している。
「フルドライブ・・・」
烈火は火炎が乱反射して迫ってくると同時に魔力を全面開放し、フルドライブモードへと移行した。背に蒼翼を出現させ、両手の剣で攻撃を叩き落す。
烈火と刀身を引き戻したシグナムはその場から即座に離脱、追撃で放たれた、竜皇の最大出力と思われるブレスを回避した。
最高火力の火炎が凄まじい熱量を放ちながら、全てを焼き尽くす。
「戦況はあまり芳しくないようですね」
アイレとリョカは戦闘空域から離れ、巻き込まれぬようにと結界の最端へと向かっている。残してきたサーチャーから戦場の様子を探っていた。
「う、うわああああっっ!!!?」
リョカの悲鳴とアイレのぐもった声が周囲に響く。
「これだけ距離をとっても魔力の減衰が見られないとは・・・伝承の竜種・・・恐ろしいですね」
2人の真横を高熱の火球が通過した。戦闘からの流れ弾であろう、その威力にアイレは思わず冷や汗を流していた。
今の所、攻撃を凌ぎ切れているが、
『シグナム、そろそろ仕掛けよう』
『ああ、私も同じことを思っていた所だ』
烈火がシグナムへと念話飛ばした。様子見は終わりということだろうか。
『俺に考えがある。さっきの最大出力攻撃をもう一度撃たせるんだ』
『奴は口から火炎を放っている時に動きが硬直するから・・・だな』
烈火は自身の狙いをシグナムへと伝えた。先ほどから竜皇は攻撃を受けようが、外そうが、ブレスを吐く火炎攻撃の際は攻撃を中断することが一度もなかった。その後の行動も撃ち終わってから場所を移動したり、狙いをつけ直したりとブレスを吐いている際は攻撃を加えやすい。つまり隙が大きいということだ。
シグナムも同様の想いを抱いていたのか、同意するように返事を返した。
だが、烈火とシグナムも最高出力でないとはいえ、先ほどから何度か攻撃をヒットさせている。隙を見つけて攻撃を加えるだけではアレを倒せないということは戦っている2人も承知の上であろう。ブレス攻撃中は体の正面を火炎の魔力流が覆っているため、急所に攻撃が仕掛けにくいのだから余計にだ・・・・・・
『俺が奴の火炎を迎撃して隙を作る。シグナムはそこに最大火力の魔法を撃ち込んでくれ・・・後は高火力魔法の連撃で反撃行動をとらせず・・・奴を墜とす』
烈火の作戦は相手の最大打点を正面から打ち負かし、隙を作っての高威力魔法による連続攻撃という物であった。
『作戦には概ね同意だが、迎撃役は私がやる。お前が本体を攻撃してくれ』
シグナムも作戦には賛成のようだが、危険が大きい隙を作る役目は自分がやると念話越しに訴える。
『アレは俺がやる』
だが、烈火は首を横に振った。シグナムと視線が重なる。
『・・・信じていいんだな・・・お前があの火炎を打ち破る術を持っていると』
シグナムは烈火に確認するように問いただした。フィロスと最後まで話していたのは烈火だ。フィロスの手によって眠りから呼び起こされ、暴走している竜皇を目の当たりにして、思うところがあるのだろう・・・シグナムは烈火の瞳から何かを感じ取っていた。
『ああ、あの火炎は俺が斬る!』
『・・・任せたぞ』
烈火の返答に頷いたシグナム。再び、2人は竜皇の攻撃を躱しながら反撃を加えていく。
来るべき・・・その時が来るまで・・・
竜皇が首を反り、膨大な魔力が口元に収束する。
「烈火ッ!」
シグナムは
烈火は両手の剣を重ね合わせ、ウラノスを先ほどまでより刀身の長い長剣形態へと変化させた。その刀身に膨大な魔力が纏わりつく。
「なっ!?・・・あれは?」
シグナムが烈火の方を向いて目を見開いた。刀身から吹き出しているのは、今までの蒼色の魔力ではなく、漆黒の炎・・・
「舞え、黒炎・・・!!!」
《Crescent Rebellion》
烈火がウラノスを上段から振り下ろせば、漆黒の炎が斬撃となり飛翔する・・・
斬撃と
ぶつかり合う2つの炎・・・黒炎が灼熱の炎を燃やし尽くす。黒炎の斬撃が先ほどまで刃の通らなかった竜皇の右腕と右翼を斬り飛ばした。
竜皇は片翼を失い、右半身を黒炎に焼かれる苦しみを味わいながら高度を下げていく。だが、相手も並みの生命力ではないようだ。怒りに狂った竜皇は残り火を烈火に向けて放とうとしている。
「隙だらけだ・・・翔けよ、隼!!!」
《Sturmfalken》
シグナムはレヴァンティンの剣を鞘を連結し、遠距離戦闘形態である、ボーゲンフォルムに変形させ、自身の最高火力の一撃を撃ち放つ。
発射された矢が紅蓮を纏い不死鳥と化す。烈火のみに意識を割いて無防備になっていた竜皇の喉元に不死鳥が喰らい付き、肉を抉り取りながら、爆炎を上げた。
竜皇は意識の外から自身の防御力を超える攻撃を受け、頭部から煙を吹きながら、燃え盛る地面に向け落ちてゆく。角や牙が折れボロボロの頭部、千切れかけている首、斬り飛ばされた右半身・・・
まさしく満身創痍・・・だが・・・
堕ち行く竜皇は結界全体を震わせるほどの咆哮を上げ、残った片翼に力を込め、敵に向かって行く。他に屈しない気高い
その直後、竜皇は黒炎、爆炎を纏った2つの巨大な刃によって胴体部を斬り裂かれ、今度こそ、地に堕ちて絶命した。2つの炎が混じり合う様に竜皇を燃やし尽くしている。炎の勢いは強まり、灰すら残らないだろう。
シグナムと烈火は活動停止したジュエルシード6つに封印処理を施し、アイレ、リョカと合流した。
「や、やったのですね!?」
アイレは戦闘を行っていた2人が無事であったことと、最大の懸念事項であったジュエルシード全ての封印が完了した事に安堵の声を漏らした。ただ、口元を
「お、おええええぇぇぇぇっっっ!!!」
リョカは焦げ付くような肉が焼ける匂いと、死臭に思わず戻してしまっているようだが、周囲の3人はノーコメントだ。
「後は結界の解除を残すのみか・・・」
シグナムは戦闘跡である炎の中心部に目を向けた。未だに結界が解除されないことから、フィロスの地下研究所は戦闘の余波で殆ど破壊し尽くされているにも関わらず、まだ結界発生装置は機能しているいうことを意味している。
「何を考えている?」
シグナムは大空に上がり、燃え盛る炎を見つめている烈火へ声をかけた。
「あ・・・いや、何でもない」
「何でもないようには見えないぞ」
烈火の返事にシグナムは肩を竦める。
「後味が悪いのは私も同じだ」
シグナムは烈火へと目を向けた。結界外がどうなっているかは定かではないが、燃えて消えゆく森林、在来種ではない魔導獣が生態系を破壊していただろうことと相まってこの辺りは何も住めない土地となるだろう。
人間のエゴで生み出された魔導獣、眠りを妨げられた伝承の竜皇、闇を抱きながら散っていった局員達、炎に包まれたフィロス・フェネストラ・・・思うところは多々ある。
もしくは、目の前の少年は別の想いも抱いているのかもしれない。
「何も考えるなとは言わん。考える事を止め、本能のまま力を振るう様になればそれはもう人間ではない・・・だが、お前一人で背負う必要はないのだ」
シグナムの言葉に烈火が顔を上げた。
「今回の事で思うところのあるのは私とて同じ、この件は管理局が向き合っていかねばならない問題だ。お前は被害を最小に止め、あの竜を倒した。フィロス・フェネストラの企みを未然に阻止したんだ。そんなお前が俯く必要などないだろう」
「ああ、分かってる・・・」
しかし、烈火の表情は晴れない。
「烈火よ、お前は言ったな。自らの剣では何も護れない、壊すばかりだと・・・だが、お前がいたから私は此処にいる。再び、主達の下へ戻れるのはお前のおかげだ・・・それでは、不満か?」
シグナムは烈火に諭すように言葉を紡いでいく。
「・・・シグナム」
烈火は目を見開いた。慰めではない、発破をかけるでもない、ただ、隣に佇んでいる存在を感じ、烈火の心は自然と落ち着きを取り戻していた。
蒼月烈火は年齢にそぐわぬ力を持っている。だが、それと同時に危うさを抱えているとシグナムは感じた。
シグナムが知るのは烈火の過去の一端だけなのかもしれない。だが、この少年が抱え込んだ闇に、背負った十字架に押し潰されてしまわぬようにと、彼の刃で護れたものはここにいるのだと、その隣に在り続けた・・・
程なくして、空を覆っていた結界が消えていく。戦闘の影響を受け、地下研究所で結界発生装置を起動し続けるだけの余力がなくなったのだろう。
結界解除と同時に、この辺りに多数の魔力反応が接近しているのを感じ取った。
「お、お前達!!」
リョカの下へ管理局員と思われる魔導師7名が降り立った。
そして・・・
「シグナム!!」
シグナムの胸元へ騎士甲冑を着たはやてが飛びこんだ。
「主はやて、どうかされたのですか?」
「どうかしたじゃあらへんよ・・・心配させて、もう!」
シグナムは赤子をあやすかの如く、はやての背を摩りながら、穏やかな表情を浮かべている。
「シグナム、無事でよかったです」
フェイトも安堵の表情を浮かべていた。
「けっ!だから心配ないって言っただろ」
「あら、ヴィータちゃんったら一番オロオロしてたのにぃ?」
「んだとぉぉ!!!」
ヴィータとシャマルがじゃれ合っている。その隣には狼姿でザフィーラがいつも通りの鎮座していた。その様子を見て微笑むなのは。
シグナムは己の守るべき者達の下へ、ようやく戻って来たのだという実感を肌で感じていた。
「辺り一帯、すごいことになってるけど、シグナムは怪我とかしてへん?大丈夫なんか?」
落ち着きを取り戻したはやては燃え盛る森や割れた大地を引き攣った顔で見つめながらシグナムに尋ねた。
「ええ、頼りになる味方がいましたから、問題ありませんよ」
シグナムの言葉を受けて一同の視線が周囲を彷徨う。まず目に入ったのはボロボロの防護服の青年と自分達と同じ管理局員の捜索隊。どちらのグループにも入れずなのか気まずそうに苦笑いを浮かべている女性。
「野暮用は終わったのか?」
「ああ、これでここでのやり残しはもうないよ」
そして、シグナムに声に反応した1人の人影が上空から舞い降りてくるのが目に入った。見覚えのある顔立ち、見覚えのある白い剣と
「「「え、え、・・・えええええええぇぇぇぇえぇぇええええ!!!!!!?????」」」
管理外世界ルーフィスに、魔法少女達の驚愕の声が木霊した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
とうとう休みが終わり、地獄の日々が始まりました(涙)
今回で山場を越え、第2章は後1~2話となります。
そしてなんと、今回で20話目です!
最初はぶっちゃけここまで続くと思っていませんでしたww
読んで下さる方がいるお陰でこうやってモチベが維持できております。
これまで感想等下さった方々、ありがとうございます!
なのはも新作劇場版まであと2か月を切りましたね。
そういう意味でもモチベが上がりつつあります。
ではまた次回お会いしましょう。
感想等下さると嬉しいです。
では!
ドライブイグニッション!