魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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罪劫不消のディジェネレーション

 ルーフィスでの戦闘が終わり、魔導師達を幽閉していた結界が解除された。各々が再会を喜ぶ中、本来いるはずのない烈火と顔を合わせたなのは達の驚愕の声が周囲に響き渡った。

 

「ふ、ふぇ、な、な、な、なんで烈火君がここにいるの!!??」

 

 なのはは目を見開いてこれでもかというほど驚いている。フェイトはその隣で何度も頷いており、はやては烈火の方を向いて頬を抓っていた。

 

 最も、事情を知らないなのは達からすれば魔法関係者とはいえ、民間人の烈火がこのような管理外世界…しかも、戦闘跡にいるとあれば困惑するのも致し方ないと言える。

 

「野暮用だ。気にするな」

 

 なのはは弾丸のような速さで烈火に迫り、ツインテールを振り回しながら猛然と食って掛かる。対する烈火は明後日の方向を向きながら棒読みで返事を返していた。

 

「その適当な説明は何なの!?ちゃんと私の目を見て話してよ!!!」

 

 なのはは烈火の態度に不満げに頬を膨らませて、身体全体で詰め寄るが、全く効果がない。普段と違い、落ち着きのないなのはの様子に一同は呆気に取られているようだ。

 

 

 

 

 

 

「全く最低の日々だったよ。では諸君!帰還しようか!!」

 

「お待ちいただけますか?」

 

 リョカは精も根も尽き果てた風貌で迎えの捜索隊と共に時空管理局本局へと帰還しようとしていたが、アイレが待ったをかけた。

 

「なんだ?僕は疲れているんだ。話なら後に・・・」

 

「ええ、話なら後でたっぷりと聞かせていただきますよ。塀の向こうでですが」

 

「何を言って・・・」

 

 リョカはアイレの厳しい視線に対して、煩わしいといった表情を浮かべていたが、会話の最中で出てきた物騒なワードに眉を顰める。

 

「まさか、帰ったらすべて今まで通りとは思っていませんよね。貴方がこの世界に来た理由を思い返したらどうですか?」

 

「僕がこの世界に来た理由!・・・あっ!」

 

「少なくとも今回の件で任務内容の偽造、殺人未遂、そして、ジュエルシードを所持していた事についてお聞きしたいのでご同行願いますね?」

 

 魔導獣の襲撃という事態があったためにうやむやとなっていたが、今回の件は闇の書事件の被害者遺族による復讐から始まった。管理局の正式な任務としてシグナムを招集しておいての集団襲撃という卑劣な行為は同じ局員として許されざるものである。

 

 しかも、先日の事件において地球で封印されたものと同じシリアルナンバーのジュエルシードを所持していた事も明らかな違法行為だ。

 

 八神はやての様に個人でのロストロギア保有が認められている場合も稀にあるが、ジュエルシードに関してはその限りではない。挙句、フィロスに6つ全てを奪われ、利用されてしまった・・・一歩間違えばとんでもない事態になっていたのだから余計にだ。

 

「君風情が僕に意見するというのか?そんな話は最初から存在していない。それが事実になるんだからそんな話は聞く耳を持たないね」

 

 リョカは淡々と事実を述べるアイレに対して見下した様に呆気からんと言い放った。

 

「お父上の権力で都合の悪いことは握り潰してしまおうという魂胆でしょうが・・・これを見てもそのようなことが言えますか?」

 

「全く!人聞きの悪いことをいう、なっ!??」

 

 アイレはリョカに見せつけるように通信端末の画面を空中に写す。そして、驚愕に染まるリョカ・・・

 

 そこには、オフィスのような執務室に武装隊員が押し寄せ、豪華な装飾の制服を着た中年男性と、その近縁の者達が捕縛されている光景が映し出されている。

 

「な・・・ぁぁぁ・・・父さん!?一体、何をやっているんだ!!!?」

 

 リョカの口ぶりからして、中年男性は彼の父ということだろう。

 

「貴方が不用意に行動を起こしてくれたおかげで、決定的な証拠を押さえることができました。この世界に来たばかりの時に言いましたよね?我々をモニタリングしている者達がいるのだと、それが貴方だけではなかったということです」

 

「お、お前はただの平局員ではないのか!?」

 

「任務に誘う相手のことくらい調べておいた方がいいですよ。まあ、貴方のお父上が本気になって調べなければ私の情報を集めることはできなかったと思いますので意味のないことかもしれませんがね。私はある方々の命を受けこの任務へ参加しました」

 

「ある方々だと!?誰なんだそいつらは!!?」

 

 アイレとリョカの討論が核心に迫りつつある。統括官であり、リベラ派のトップであるリョカの父親を拘束できるだけの権限を持つ人物がアイレの背後に控えているということを意味していた。

 

 

 

 

〈私たちの事さ〉

 

 アイレの背後に3つのモニターが浮かび上がり、それぞれの画面に1人ずつの姿を映し出す。

 

 映し出されたのは3人の老人。その姿を目の当たりにし、烈火以外の誰もが言葉を失っていた。

 

 

 

 

〈皆、魔法生物が収束砲撃を喰らったような顔をして、どうしたのだ?〉

 

 レオーネ・フィルス・・・法務顧問相談役。

 

〈いきなり我らのようなものが出張れば、誰だってそうなるだろう〉

 

 ラルゴ・キ-ル・・・武装隊栄誉元帥。

 

〈2人共、無駄話をしている場合じゃないさね。〉

 

 ミゼット・クローベル・・・本局統幕議長。

 

 時空管理局の黎明期を支えた英雄、〈伝説の三提督〉と呼ばれている管理局でも最上位に位置する人物達であった。

 

 

 

 

 

「な、なぜ貴方達が!?」

 

 リョカはひどく取り乱し、身体を震わせている。

 

〈何故かって?そこのアイレは私たちの部下だからさ〉

 

 ミゼットはアイレの方に視線を向け、リョカの問いに答えた。他の面々もアイレの方をまじまじと見つめている。

 

「私は三提督の直属部隊〈PHANTOM〉に所属しています。PHANTOMは文字通り影・・・お立場故動けないお三方に変わり様々な調査や監査を行っている公にはなっていない特殊部隊です」

 

 アイレはリョカの疑問に答えるように自身の正体を明かした。時空管理局の英雄に極秘の直属部隊が存在していたという事は局員達にとっては衝撃の事実だろう。

 

〈リョカ・リベラ執務官・・・今回の事、今までの事、そしてリベラ統括官の事、全てを話してくれますね?〉

 

 ミゼットの諭すような言い回し、だがそれには有無を言わせない迫力のようなものが感じられた。本物の英雄を前にリョカは大地に崩れ落ちるように力なく蹲る。

 

 リョカを捜索に来た部隊も伝説の英雄を目の当たりにし、自身らのトップの逮捕という事態に完全に意気消沈している。アイレが手錠を手にリョカに近づいていくが、上空から響いてきた金属音に思わず足を止めた。

 

 

 

 

 一同の上に背に翼を生やした巨大な獅子が前足の鉤爪を振り上げて飛来していたのだ。飛び上がった烈火がウラノスでその一撃を弾き、着地した両者が対峙している。先ほどの音はウラノスの刀身と獅子の爪が激突した音だろう。

 

「何・・・この生物は?」

 

 シャマルが後からルーフィスに来た者達の気持ちを代弁するかのように呟いた。

 

 体躯の大きさもそうだが、全体は獅子のフォルムをしているにもかかわらず、背に生えた2対の鳥類を思わせる白い翼、剣歯虎(サーベルタイガー)のように突き出た巨大な2本の牙、前足の鉤爪も相手を引き裂かんばかりに巨大化している。加えて3つに枝分かれした尾はそれぞれが蛇を思わせる頭を持ち、そちらも牙を覗かせ動き回っている。

 

 なのはらは理性を失ったかのように獰猛な様を見せつける異形の生物に言葉を失っていた。

 

 そして、双翼の獅子は戦いの緊張が解けて油断しきっていた一同を嘲笑うかのように雄叫びを上げながら地を蹴る。

 

「皆さん、デバイスを構えてください!!!!」

 

 全身に弾ける魔力を纏い突っ込んでくる獅子を前にアイレの悲鳴のような大声が響き渡った。

 

 アイレは目の前の獅子から、3つ首の異形竜(トライデントドラゴン)には及ばないものの、これまで見て来た他の大型魔導獣以上の圧迫感を感じている。

 

「アレは魔導獣と言って危険・・・な、生物で・・・」

 

 アイレは事情を知っているからこそ、一刻も早く魔導獣の危険を周囲に知らせようとしたが、獅子の方を向いて槍を構えた体勢で目を見開き、動きを止めてしまった。

 

 

 

 

 何故なら、烈火がウラノスを逆手に持ち替え、魔力を纏わせて巨大化した刀身で獅子の首を斬りつけていたからだ。斬り抜けた烈火が着地すると同時に獅子の首が真横にズレて、地面に転がる。魔導獣の生き残りは断末魔の叫びすら上げられずに絶命したのだ。

 

 

 

 

「れ、烈火・・・?」

 

 フェイトはその光景を目の当たりにし、心中に様々な思いが渦巻いている。正直、まだ目の前の事態に理解が追い付いていないだろう・・・だが、相手が魔法生物とはいえ烈火がいとも簡単にその命を奪った事、戦わなければならないとしても殺す必要があったのかという事、そもそもあの生物はどういう物なのか、気になるところは多くある。

 

 だが、血飛沫を撒き散らせて倒れ伏せる魔法生物・・・その亡骸が自分達と斬り抜けて向こう側にいる烈火を分かつ境界線のように感じられたことが何よりもフェイトの心を覆う影となっていた。

 

 

 

 

「なっ!待ちなさい!!」

 

「うるさい!!!来るなぁぁ!!!!!」

 

「ぐ、ぐぅぅ!!!・・・っぁぁ!!!????」

 

 リョカは全員の注意が襲撃してきた魔導獣の方に向いた隙をつき、倒れ込んでいた姿勢から一気に駆けだした。いち早く、気が付いたアイレが後を追おうとするが、リョカの剣の一振りによって吹き飛ばされる。

 

「アレは、宝剣ミュルグレス!?なんであんな物を持っているんや!!?」

 

 はやてはリョカの手にある銀色の剣を目にして驚愕の声を漏らした。先日の地球で起きた戦闘で主犯格の魔導師が悪用した宝剣ミュルグレス(ロストロギア)をリョカがその手にしていたためである。

 

 本来ならリョカの力でアイレを正面から一撃で吹き飛ばすことなど、そうそうできるとは思えないが、ミュルグレスの身体能力を限界以上に引き上げるという性質がそれを可能にしていたのだ。

 

 移動速度も先ほどの比ではなく、一気に加速をしていく。しかしその足はすぐさま止まることとなった。

 

「お、お前達!!?」

 

 一気に平野を抜けようとしたリョカだったが、その進行を阻む者達がいたためだ。

 

「そこまでだ」

 

 正面でレヴァンティンを構えて立ちふさがるシグナム。

 

「逃げても罪が重くなるだけです。どうかお話を聞かせてください」

 

 背後からはバルディッシュを大鎌へと変形させたフェイト。

 

「動くんじゃねぇよ」

 

 2人に遅ればせながらも、リョカの横腹にグラーフアイゼンを押し付けたヴィータ。

 

 リョカは足の速い魔導師達に囲まれ、進行を止められてしまっていた。

 

「この犯罪者共が!!!我が物顔で僕を捉えようというのか!?」

 

「何を!?」

 

「僕は知っているんだからな!お前が出来損ないの人形女だということも!!!」

 

「えっ・・・ぁぁ・・・?」

 

 リョカは大声で喚き散らし、フェイトに向けて罵声を浴びせた。その言葉にフェイトの瞳が揺らぐ。

 

「黙って連行されてろ!!!!」

 

 ヴィータの鉄槌が隙を見つけたと言わんばかりに逃げ出そうとしていたリョカの横っ腹に炸裂した。

 

「へぶぅううぅぅぅ!!!!おえええええぇぇええぇぇぇ!!!!!!」

 

 リョカはヴィータの一撃をまともに受けてしまい、本日2度目のリバースを起こし、口から胃の中の物を全てぶちまけて吹っ飛んだ。白目を剥き、口から泡を吹きながら、陸に打ち上げられた魚の様にピクピクと痙攣している。

 

「はぁ、はぁ、情状酌量の余地はありませんね。貴方を逮捕します」

 

 アイレはミュルグレスを回収し、気絶しているリョカに手錠をかける。これにより多くの思惑が混じり合ったこの事件は終結を見たようだ。

 

 そして、時空管理局の武装隊と思われる一個小隊がこのルーフィスへと降り立ち、アイレの指示を受け、現場検証、リョカらの連行と事後処理を始めていく。

 

 

 

 

「烈火君!」

 

 なのはは事態が収束していくのを感じながら、謎の生物を斬り捨てた烈火へ駆け寄った。

 

 局でも有名な執務官の奇行、突如現れた謎の生物、分からないことだらけであるが、この世界で何か良くないことが起こっていたのは明白で、それに烈火が巻き込まれていた。それがたまらなく嫌だったのだ。

 

 なのはの後を追い、地球在住の局員達も烈火の周りへと集った。

 

〈ソールヴルムの坊や、今回はうちの者が迷惑をかけてしまったねぇ〉

 

「・・・俺の事を知っているんですか?」

 

 ミゼットが烈火へと声をかけた。烈火は管理局の追加部隊が来てからは魔法陣を出現させていないはずにもかかわらず、自身の出自や管理局員でない事を言い当てたミゼットや全く動揺していない他の2人に思わず目を見開いた。

 

〈ごめんなさいね。私の方からあらましだけ話させてもらったわ〉

 

 三提督とは別にもう1つの画面が浮かび上がった。そこに映っていたのはリンディ・ハラオウンだ。

 

〈坊やがちょっと特殊な事情を抱えているのは知っているさね。なんたってソールヴルムだしねぇ・・・前回の事件ではハラオウン統括官の裁量に任せた結果になったけれども、今回ばっかりは本局の方でちゃんと話を聞かないといけなくなってしまったんだ。リベラ親子やその派閥をしっかりと逮捕するためと、さっきの魔法生物についても坊やの証言が欲しいんだよ〉

 

〈それに小僧が何でこんなとこにいたってのも聞かないといけないしな〉

 

〈ただ、君の方の事情も考慮して、デバイスや魔力方面でこちらが干渉する事がなく、今回の事件以外の情報の開示も強要しないことを約束しよう。これなら了承してくれるかね?〉

 

「ええ、ここまでになってしまった以上は何らかの証言をしないといけないだろうとは思ってましたし、その条件であるならこちらとしてもありがたいですが・・・」

 

 三提督からの提案は、烈火にとって決して悪い条件ではなかった。烈火は前回のような管理局との問答を繰り返すか、もっと重い要求をされると思っていたため、逆に戸惑いを見せているようだ。

 

〈今回といい前回といい管理局の事件に巻き込まれた坊やは局にあまりいい印象はないかもしれないけど、そんな顔をしないで頂戴な。結果的にかもしれないけど、私達の部下や局の魔導師のために戦ってくれた事へのお礼と思ってくれて構わないわ。ただ、一点だけお願いしたいことがあるのよ〉

 

〈明日に行われる本局での事情聴取が終わるまでは管理局の目の届くところにいてもらわないといけないんだ・・・それについてはハラオウン統括官の希望もあり、彼女に一任することにした。詳しいことは彼女から聞いてくれ〉

 

 ミゼットとラルゴは烈火に必要事項を伝え、リンディに場を任せるようだ。

 

〈蒼月君、貴方の身柄を明日まで預かることになりました。今からみんなと一緒に地球に帰る事になるのだけれど・・・とりあえず、今日はうちにお泊りしてくれるかしら?〉

 

「はい?」

 

 リンディの思わぬ爆弾発言に周囲の雰囲気が凍り付く。烈火は疑問の声を上げながら、右隣を向いた。リンディの自宅に泊まるということは隣の少女と同じ家に泊まるというわけで・・・

 

「えぅ、え!?・・・な、な、なななな!!!??」

 

 フェイトは烈火とリンディを交互に見比べながら、深紅の瞳を何度も瞬き(まばたき)させ、落ち着きのない様子でアタフタとし始める。

 

 ルーフィスでの戦いが終わり、残すは情報提供という名の事情聴取と思われた矢先、思わぬ事態に少年少女は驚きを隠せないでいた。

 




最後まで見ていただきありがとうございます!

やはり休みが終わってしまったとだけあって、なかなか時間に余裕が持てないですね。

いい加減サバフェスを完走しないといけませんしw

ネビュラ・ネオスが楽しみで久々にカード弄ってみたりと少ない自由時間を遊んでいるのも原因ですが、やはり平日が地獄ですな。


さて、関係ない話はさておいて、前回に第2章はこの話を含めて後2話くらいかなと言いましたが、まだ終わりそうにありません。

もう少しお付き合いいただけると幸いです。

ブラッドでスプラッタな戦闘は終わり、次回は久々の日常成分マシマシとなる予定です。

次回も読んでいただけると嬉しいです。
感想等頂けましたら私のモチベ爆上がりで次回、もっと早くお届けできるかもしれません。

ではまた次回会いましょう!

ドライブイグニッション!

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