魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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過去と現在と

 カーテン越しに広がる朝日を浴びながら、見つめ合う少年と少女・・・

 

 烈火は状況の釈明をしようとしたが言葉が出てこない。沈黙が続いていたが、フェイトの首がカクンと折れ、舟をこぎ始めた。

 

「んぅぅ・・・ん、ぁ」

 

 よく見ればフェイトの紅瞳は半開きであり、目元をくしくしと擦っていた。どうやらまだ寝ぼけているようだ。

 

 フェイトは自身の毛布をまくり上げ、ゆっくりとした動きでベッドから降りて烈火の布団の端の方に座り込み、ボケーっと2人の方を眺めている。

 

 烈火はこうなってしまえば、もう主であるフェイトにアルフを起こしてもらうのが最も、穏便に済むと思い、声をかけようとしたのだが・・・

 

「ん、みゅぅ・・・ぁ、ん・・・ぅぅ」

 

 ところが、フェイトは寝ぼけ眼のまま烈火の布団に侵入し、その右腕を枕替わりに頭を置き、目を閉じた。程なくして静かな吐息が聞こえて来る。いつの間にやらフェイトは両手で烈火の寝間着を握りしめて完全に眠りに入ってしまっていた。

 

 烈火が己の失策を悟った時にはすべてが遅かった。何故なら、既に両手が塞がってしまい、2人を起こすことができなくなってしまっているからだ。声を上げて起こすことも考えたが、フェイトの保護者たちにこんな光景を目撃されてしまえば何を言われるか分からない。

 

 どうにかして脱出しなければと両サイドから感じる軟らかい感触を頭の片隅へと追いやりながら思考していた烈火にか細い声が聞こえて来る。

 

「ア・・・リ・・・シアじゃない、よ」

 

「アリシア・・・誰だ?」

 

 烈火の耳に入って来たのは聞きなれない名前、女性の物だろうか・・・

 

「・・・・・・母さん」

 

 そして、フェイトの瞳から一筋の雫が零れ落ちた。フェイトは烈火の目の前で涙を流しながら震えている。

 

 フェイトの母親と言えばリンディ・ハラオウンがそれにあたるのだろうが、両者の関係は烈火から見ても良好に思えた。悪夢でも見ているのだろうか、それとも過去に何かあったのか・・・

 

 クロノとリンディにはなく、フェイトにだけあるテスタロッサというファミリーネーム、アリシアという知らぬ名前・・・フェイトもまた何かを抱えているのだと烈火は感じた。

 

 しかし、自らの選んだ選択と、剣を振るう理由(わけ)に答えを出せないままの、烈火には震えているフェイトにかけられる言葉はない。何かに震え、温もりを求めて身体を擦り寄せて来る少女を黙って見ている事しかできなかった。

 

 フェイト・T・ハラオウンという少女は何かを抱えているのだと感じ取っていた烈火だったがドアをノックする音で現実へと引き戻される。

 

 

 

 

 

「入るぞ、む!まだ寝ているのか?珍しい・・・な!?」

 

 クロノはノックに対しての返事がなかったためかドアを開いて入室した。既に時空管理局の制服に袖を通して、準備万端といった様子だ。普段は規則正しい生活をしているフェイトが中々、リビングへ姿を現さない為、どのような状況か見に来たのだろう。

 

 しかし、クロノは部屋を見渡し、動きをピタリと止めた。フェイトとアルフの姿はどこにも見当たらず、床に敷いてある烈火の物と見られる布団は不自然に盛り上がっている。細身の烈火1人ではこのようにはならないはずだ。

 

 クロノは床に敷いてある毛布を強引に引っぺがした。その中には烈火を中心に1つの布団で眠る妹達の姿、クロノの中で何かが切れた。

 

「ふ、ふふっ!どうやら母さんの勘は大外れだったようだな」

 

 クロノは不敵な笑みを浮かべながら腕を掲げる。

 

「ま、待ってくれ!ハラオウン兄!いくらなんでもそれは危険すぎる!!」

 

 烈火は穏便に済んでくれることを願いながら、狸寝入りを決め込んでいたが、クロノの発言を聞いて思わず目を開いた。残念ながら両腕をの自由が利かないため起き上がれないようだが、クロノの頭の上に出現した1発の水色の魔力弾に冷や汗を流している。

 

「妹達を誑し込んだ軽薄野郎に制裁を降すだけだ。これでも最年少執務官と言われていた時代もあってだな、射撃魔法の精度にはかなりの自信がある。隣の2人には傷一つ付けないから問題ないだろう」

 

「これは不慮の事故だ!話し合えばわかるはずだ!!」

 

 烈火の両隣には目元を赤く腫らしたフェイトと、衣服がはだけたアルフ、誰がどう見ても有罪(ギルティ)であった。

 

「なんだい?うるさいねぇ」

 

 アルフは目元を擦りながら起き上がり、背筋を伸ばして意識を覚醒させた。騒々しいといった感情を示すように狼耳がピクピクと動いている。

 

「ん、んにゅ・・・ぅっ・・・あれ、烈火?」

 

 フェイトも起き上がったが、まだ眠気が冷めないのか、どこか間の抜けた表情だ。しかし、自分の隣にベッドにいるはずのない少年の姿を見て頭に疑問符を浮かべている。

 

 次に視界に入ったのは、毛布が捲り上げられて無人のベッド、そして自分は見覚えのあるシーツの上でなく布団の上に座っている。フェイトが座っている直ぐ下は何者かがいたであろう証拠である人肌のぬくもりを感じさせる。

 

「アハハ、ごめんね!アタシ寝相があんまりよくなくってさぁ」

 

「寝相どころか姿も変わってたけどな」

 

 聞こえて来るのはアルフと烈火の会話、寝相が悪い・・・

 

 フェイトは全てを悟る。そして・・・

 

 その異名の通り雷光の如き速さで自分のベットに潜り込み、毛布を被って丸くなった。

 

「う、うぅぅぅ!!ね、寝顔とか絶対見られたよね・・・ぁぅぅぅぅっ・・・」

 

 布団を被るときに抱え込んだ自分の枕に顔を押し付けて羞恥に悶えているようだ。

 

 金色のお姫様が布の城での籠城を止める頃にフェイトの部屋にいた4人は時空管理局へ赴くという本来の目的を思い出し、早く準備をするようにというクロノの言葉通りに血相を変えて支度に取り掛かる。

 

 フェイトはまだ動揺が抜けきっていないのか、烈火が制止の声を上げる前に寝間着の上を半分以上捲り上げてしまった。チラチラと見える黒い布や、白い腹部が露になる。

 

 クロノに急かされるまま、すぐに準備に取り掛かったのだが、異性の烈火が退出する前にそれを始めてしまうという普段の彼女なら決してしないようなミスをしてしまったのだ。

 

 涙目になって耳まで真っ赤にしたフェイトと頬を赤らめた烈火は背中合わせになって何とも言えない雰囲気を漂わせている。

 

「早く準備しないでいいのかい?お二人さん」

 

 アルフは自室に戻る際に固まっていた2人に声をかけた。慌てて退出する烈火と顔中に集まった熱が冷めやらないまま準備を始めるフェイト。

 

 ハラオウン家の朝はいつもの数段騒がしいものとなっていた。

 

 

 

 

 

 

「あ、やっと来た!おーい!!・・・どうかしたの?」

 

 時間ギリギリで本局入りしたハラオウン家+烈火の一行。本局のエントランスにはなのはと八神家が既に集合していた。

 

 真っ先に声をかけたなのはだったが、疲労困憊といった様子の烈火とクロノ、目を伏せているフェイト、リンディとアルフを除けば、既に疲れ切っているような印象を受けた。

 

「蒼月君、ちょっとだけええかな?」

 

「・・・ああ」

 

 そんな烈火の前に真剣な面持ちのはやてが近づいてきて、合流した一行から距離を取るように2人でエントランスから屋外へと出て行った。

 

 どうやら、時間ギリギリとは言ってもまだ多少の猶予があるようだ。

 

「蒼月君、いや!烈火君と呼ばせてな・・・今回は本当にありがとうございました!!!!」

 

「お、おい!何の話だ?」

 

 局内部から見えないように位置取ったと思いきや、はやては勢いよく頭を下げる。烈火は突然のはやての言葉に戸惑いを隠せないでいた。

 

「烈火君がおらへんかったら私はまた、家族を失っていたかもしれない。このお礼はきちんと返します!やから、ホンマにありがとうございました!!」

 

 はやては烈火に声をかけられてもひたすらに頭を下げ続けた。その声は涙混じりの鼻声であり、肩は小さく震えている。

 

 烈火ははやての様子に驚きながらも、言葉の節々から感じられるニュアンスでルーフィスでの一件の事かと合点がいったようだ。

 

 

 

 八神はやては既に家族を3度失っている。

 

 1度目は顔も朧げな実の両親、2度目はようやく得た家族である守護騎士を目の前で闇の書に蒐集され、3度目はその直後に旅立っていった管制人格。

 

 夜天の書の主として、被害者遺族に頭を下げて回り、非難を浴びながらも贖罪に駆け回る日々が数年間続いた。

 

 再び家族と過ごしたいという意思がはやてを突き動かしている。ここ最近はこれまでの功績から、はやてと守護騎士も管理局、聖王教会に認められつつあり、その中で新たな家族も増えた。

 

 はやて自身の進路も固まって、ようやく穏やかな日々を過ごし始めた矢先に起きた今回の事件・・・4度目の消失への恐怖がはやての小さな肩を震わせる原因となっていたのだ。

 

「顔を上げてくれ・・・俺は俺のやることをやっただけだ。シグナムと共闘したのもその為で八神が礼なんて言う必要はない」

 

「でもッ!家族を助けてもらって・・・その恩人に何もせえへんなんて」

 

 烈火の言葉に顔を上げたはやては目尻に涙を浮かべながら、納得ができないといった声を上げた。

 

 

 

「あー!!何やってるの!!?」

 

 はやての瞳から涙が零れ落ちようとした瞬間、大きな声が周囲に響き渡った。なのはがサイドテールを揺らしながら、大股で歩いて来るのが目に入った。

 

「烈火君!はやてちゃんを泣かせるなんて!!」

 

「俺がやった前提なんだな」

 

「烈火君はいじめっ子だからはやてちゃんに意地悪したんでしょ?」

 

 なのはは腰に手を当てて烈火を非難するようにむくれている。

 

「私が勝手にこうなっただけで、烈火君は悪くないんや。だからそないなこと言わんといてな」

 

 はやては目元を拭いながら、なのはに烈火の無実を主張した。

 

「それで、お前は何で1人でここに来た?というかなんで八神達と一緒にいたんだ?」

 

「それはこの間の捜査官さんがみんなを迎えに来たから2人を呼びに・・・ってそれどういう意味かな?」

 

 なのははアイレが一同を呼びに来たため、集団から離れていた烈火とはやてを呼びに来たのだと伝えている最中に心外とばかりに眉を吊り上げた。

 

「当事者のシグナムと八神達が来るのは当然だし、一時的に俺の身柄を預かっているハラオウン家が来るのもわかるが、お前まで来る必要はないだろう?」

 

「私だってあそこにいたもん!当事者なの!!」

 

 烈火の発言に対して、なのはは頬を餌を詰め込んだハムスターの様に膨らませて詰め寄った。はやては四散していくシリアスな空気を肌で感じながらも、その様子を見て思わず笑みを零した。

 

「せや!烈火君、今度、我が家に来てくれへん!?お礼ってわけやないけど、料理くらいはご馳走させてな。これでも料理の腕にはかなりの自信があるんや!」

 

 はやてはなのはと話していた烈火に声をかける。その表情は先ほどまでの沈んでいたものと違い、幾分か軟らかい物であった。

 

「・・・そうだな。楽しみにしておくよ」

 

 烈火はそんなはやてを見ながら穏やかな声音で了承の意を伝える。

 

 

「そうか、フェイトの次ははやてか、呼びに行かせたなのはも纏めてと随分、手が早いんだな?」

 

 3人の背後から重苦しいクロノの声が聞こえて来た。

 

「ひ、人聞きの悪いことを言わないでくれると嬉しいんですが」

 

 烈火に非がなかったとはいえ、今朝のフェイトとの光景を見られた上に、クロノは知らないがあの後も一波乱あったため、どこかばつが悪い表情を浮かべている。

 

「みんな待ちくたびれている。行くぞ」

 

 3人仲良くクロノからの嫌味を頂戴し、再び、一同と合流を果たす。アイレは烈火を目が合うと軽く会釈をし、会議室へと案内した。

 

 

 

 烈火とシグナムは中心に、他の面々はそれぞれの座席に腰を掛けた。ここにいるのはなのはと烈火、ハラオウン家、八神家、アイレ、三提督という面々になっている。

 

「では予定時刻より多少遅れましたが、無人世界ルーフィスで起きた事件についての事情聴取を始めます。進行を務めるアイレ・ヴィエチールです。本日はよろしくお願いします」

 

 アイレは司会台の前に立ち、一同を見渡しながら改めて会議の開始を告げる。

 

「今回、ルーフィスでは2つの事件が同時に起きました。順を追って映像と共に振り返りましょう」

 

 司会台の隣には大きなスクリーンが用意されており、そこに広大な自然を誇るルーフィスの姿が映し出された。程なくして、行方不明となったロストロギアと局員を捜索に出たリョカ・リベラ率いる部隊の映像へとズームした。

 

「1つ目の事件はリョカ・リベラ元執務官が起こした、任務内容の偽造と闇の書事件の被害者遺族による報復行為。そしてジュエルシードと宝剣ミュルグレスの持ち出しという物ですね」

 

 アイレの説明が終わるととも、行方不明と思われていた部隊を捜索中にリョカが剣状のデバイスで背後からシグナムに斬りかかるシーンに映像が切り替わった。

 

 そして明かされるリョカの目的と被害者遺族たちのシグナムへの糾弾、それを見ている誰もがやりきれない表情を浮かべていた。ここにいる者のほとんどが最後の闇の書事件に関係する当事者達なのだから余計にだろう。

 

 今にも被害者遺族たちがシグナムに手を上げようとしたところで映像が止まった。

 

「本局に残されている映像はここまでですね。ここからは私のデバイスの記録映像となります。その前にリベラについていくつか分かったことがありますのでお伝えします」

 

 フィロスによる結界が発動したのがこの時だったのだろう。本局でのモニタリングが終了し、エアリアル・ノルンとスクリーンが同調して映像が切り替わるようだが、アイレの補足が入った。

 

「まず、彼の母親についてですが、亡くなっているのは事実です。しかし、闇の書事件とは全く関係がないことが判明しました。犯行動機に関しては今の所、不明です」

 

 アイレは言いづらそうに口を開いた。

 

「ですが彼は闇の書事件の遺族の憎しみを煽り、焚きつけた。今代の主を狙うのではなく、標的には彼らにとって一番憎しみをぶつけやすい守護騎士のリーダーを据えて万が一の時のためにロストロギアまで持ち出している。とても用意周到な犯行です」

 

 その言葉を聞いたはやては先ほどまでよりも力強く拳を握りしめた。様々な感情が渦巻いているのだろう。しかし、白くなるまで握りしめられた手の甲になのはとフェイトが優しく手を置いた。強張っていた身体から幾分か力が抜けていく。

 

 アイレはその様子を痛ましげに一瞥し、再び画面へ視線を戻すが・・・

 

「第2の事件、フィロス・フェネストラによって引き起こされた魔導獣と呼称された生物達による襲撃・・・ですが、ここから先を見るに当たって子供達の退席を提案します」

 

 突然の提案に皆が顔を合わせて驚きを示した。

 

「なぜだい?」

 

「見るに堪えない映像が多数映し出されると思います。子供達は見るべきでないと思うのです」

 

 ミゼットがアイレに問いかけた。

 

 無垢ななのは、様々なことが重なり精神的に不安定になっているであろうはやて、執務官という凶悪事件を取り扱う立場にいる以上は他の2名より耐性はあるだろうが、まだ子供のフェイトにはあまり見せたくない内容だということだ。

 

 ここから先は長年、管理局に携わって来たアイレですら目を背けたくなるような事態が待っているということを示している。

 

「私は此処に残ります。どんな形であれこの事件を最後まで見届けないといけないと思うんです」

 

 真っ先に反応したのは、精神的に不安定になっていると思われたはやてであった。なのはとフェイトはその隣で静かに頷いた。

 

「・・・分かりました。では画面を切り替えます」

 

 シグナムに襲い掛かろうとしていた魔導師達が突如として出現した魔法生物によってその命を無残に奪われていく光景が映し出された。

 

 魔導獣が爪に、牙に、翼に魔力を纏い、硬質の刃の様に研ぎ澄まされたそれを用いて魔導師達の障壁を打ち壊し、腕を足を身体すらズタズタに引き裂いて肉片へと変えていく様はその場にいた多くのものが目を背けたほど残酷なものであった。

 

 シグナムは突然の襲撃者に対して、レヴァンティンの非殺傷設定(スタンモード)を解除し、抜身の刃で1人奮戦していたが、パニックに陥っている魔導師達は1人、また1人と命を散らしていく。

 

 そして、リョカの命を双頭の狼が奪い取ろうとした瞬間、天空から舞い降りた流星がその首を斬り落とした。

 

 

 シグナムと烈火の手によって統率者がいなくなった魔導獣達はリョカから6つのジュエルシードを奪取し、逃走する。

 

「あれらが襲撃してくる寸前に一帯に強固な結界が張られ、本局への映像は途絶えたとのことです。蒼月さんの情報から、かつてミッドの学会に所属していたフィロス・フェネストラという科学者、そして彼が作り出したあの生物は魔導獣と呼称されることが分かりました」

 

 会議室を沈黙が包み込む。

 

「数頭の小型魔導獣を捕獲し、現在解析しているとのことですが。分かったことがいくつか・・・あの生物達は知能が高く狡猾です。用途に応じて魔力を使いこなしています。強化魔法のような使い方もしている為、その身体能力も高水準です。まさに狩猟捕食者(ハンター)と呼ぶにふさわしいでしょう」

 

 魔法生物が意図的に攻撃を仕掛けてきて連携しながら魔導師を狩る・・・そして、実際に局員が命を落としている。楽観視できない事実であることは誰の目から見ても明らかだ。

 

「・・・あれらが魔導獣ということについては分かったさね。それで坊やはなんであの世界に来たんだい?魔導獣関係の事も知っていたみたいだし」

 

「ええ、実は・・・」

 

 ミゼットは重苦しい雰囲気の中で烈火があの場にいた理由、フィロスや魔導獣の事をなぜ知っていたのかを訪ねる。烈火はシグナムやアイレにした物と同じ説明をし、それを聞いた室内の空気が幾分か和らいだのを感じた。

 

 アイレによって再び、映像が動き出す。

 

「そして、私達の目的は同じであり、生き残った4名でジュエルシードの奪還に乗り出しましたが・・・」

 

 アイレ、シグナム、リョカ、烈火というフォーマンセルでジュエルシードの反応を追い、ある地点に謎の建造物を発見したがそれを守るかの如く魔導獣の波が4人に向けて押し寄せて来る。

 

 先ほど管理局員の命を奪った大型魔導獣ですら数えるのが馬鹿らしくなるほどの数が見受けられ、圧倒的戦力差で圧殺しに来る様は誰もが恐怖感を覚える物であった。

 

 しかし、あろうことか4人の魔導師はその中心を強引に突っ切っていく。

 

 特に烈火とシグナムの戦果は目覚ましいものがあり、剣の一閃で何頭もの魔導獣を屠り、その命を散らせて戦闘能力を奪っていく。交差するように時には背中合わせで、狂気渦巻く魔導獣の中を舞い踊るかのように斬り抜ける。

 

 正に一騎当千・・・だが、2人が恐ろしい実力を見せつけるほど誰の頭にもある疑問が生じる。

 

 それは、蒼月烈火が何者か、ということだ。

 

 実際、魔導獣との戦闘は経験豊富なリンディやクロノですら目を背けたくなるものであった。

 

 魔導獣の襲撃に的確な対処を行えたのはリョカの部隊ではシグナムだけであり、アイレはどうにか自分の身を守ることで精一杯。そして、悪運強く生き残ったリョカを除けば他の管理局員はパニックに陥り、その命を落とした。

 

 正規の管理局員ですらまともに対処できなかった相手、いくら魔法生物相手とはいえ、それを殺すことを14歳の少年が躊躇なく行っている。

 

 そして、管理局のエースと比較しても遜色のない戦闘能力・・・

 

 

 

 烈火から直接、過去の一端を聞いたシグナム以外が疑問に思うのも仕方ないのかもしれない。だが、シグナムはそんな雰囲気を肌で感じながらもその口を開くことはなかった。

 

 

 

 なのははスカートの上で拳を握りしめながらその映像に見入っていた。彼女にとってはようやく再開できた最初の幼馴染(烈火)、そして頼れる姉貴分(シグナム)が、今の自分を形作った大切な仲間達との出会いのきっかけとなった思いを貫く力・・・魔法を使って殺し合いを演じている。

 

 その光景に言いようのない悲しみを覚えているのだ。

 

 

 

 しかし、そんな思いとは裏腹に映像は魔導獣の中でもとりわけ異形と言えた三つ首の魔導獣を退けたアイレらとフィロスが相対しているところへシーンが切り替わる。

 

 語られるのはフィロスの理想。魔導獣が魔導師よりも優れていることを証明するというためだけに管理局に戦争を仕掛けると言ったのだ。

 

「管理局の転覆、そしてそのための戦力配備・・・奴はテロリストという事か!」

 

 クロノは苦々しい表情で映像越しにフィロスの事を睨み付けた。

 

 その主張の陰に隠れがちだがフィロスのバックには何者かの存在があることも示唆されている。狂気を振りまく魔導獣、そしてそれを開発する為に何らかのサポートしている者がいるということは由々しき事態と言っても過言ではないだろう。

 

 思考の海に溺れようとしていた一同を現実に引き戻すかのように竜皇の咆哮が響き渡る。

 

 6つのジュエルシードが強靭な素体を得ての最強の暴走体、剣水晶の竜皇(クリスタル・ドラゴニア)。そして、炎の中に消えていくフィロス・・・事態は急変した。

 

 竜皇が放つ威圧感は画面越しにでも伝わってくる。

 

 そして、烈火とシグナムは最後の戦闘に突入した。巨大な体躯、常識を逸脱した攻撃力と防御力・・・伝承の竜はそのあまりある強さをいかんなく発揮し2人の剣士に襲い掛かる。

 

 戦闘の最中、竜皇は最大火力で火炎の吐息(ブレス)を繰り出した。2人の剣士の視線が交差し、シグナムは一気に高度を下げたが、烈火は迫り来る火炎を前にウラノスを構えたまま回避行動をとろうとしない。

 

 いくらフルドライブモードでも耐えられるわけがない、早く回避すべきだ・・・誰もがそう思っていた。

 

 しかし、烈火は双剣形態のウラノスを新たな長剣形態へと変化させ、漆黒の斬撃を打ち放った。

 

「・・・黒い炎?」

 

 なのはが周囲の気持ちを代弁するかのように呟く。

 

 烈火の黒炎は火炎を燃やし尽くし、竜皇の右半身を斬り飛ばした。阿吽の呼吸で放たれたシグナムの弓撃が致命傷を与える。そして、炎を纏った2つの剣戟によって竜皇は地に堕ちた。

 

 ここで映像が終了する。

 

 

 

「そして、程なく結界は解除され、皆さんがルーフィスに駆け付けました。その後、生き残った大型魔導獣による襲撃とリョカ・リベラが宝剣ミュルグレスを片手に逃走。それを捕縛。ここまでが大まかな事件の流れとなります」

 

 アイレは一通りの説明を終え、周囲を見渡しながら頭を下げた。一連の映像を視聴し終わった後の会議室の雰囲気は非常に重苦しいものであった。衝撃を受ける出来事が一気に起きたのだ無理もないであろう。

 

「皆さん、一度休息をとりましょう。続きはその後にね」

 

 ミゼットの一言によって、張り詰めていた緊張感が和らぎ、皆の肩に入っていた力が抜けていく。

 

 フィロスの野望、その背後にいる者、リベラ親子、蒼月烈火・・・まだ問題は山積みである。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!

モチベの向上につながりますので感想等頂けると嬉しいです。

では次回会いましょう。

ドライブイグニッション!

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