魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
拳を前に突き出すようにしての宣戦布告に通路内が静まり返る。
「悪いが、君と戦うつもりはない」
「な、何故だ!?やっぱり俺なんかじゃ戦う価値もないってことか!」
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
クラークは自身の誘いを何の迷いもなく拒否した烈火に対して食って掛かる。エメリーは突如、声を荒げたクラークに対して戸惑いながらも制止を呼び掛けた。
「こちらにも事情がある。不要な戦いをするつもりはないよ」
「不要・・・不要ってなんだよ!?」
「そのままの意味だ。俺には君と戦う理由がない」
烈火は勢いを増すクラークに対して、淡々と自らの意見を述べていく。クラークと戦うということは管理局の施設の中で自らの力を振るうということだ。そうなれば管理局にとってはイアリス搭載型デバイスのデータを解析するまたとないチャンスとなるであろう。
元々、烈火は魔力を封印してソールヴルムから魔法文明のない地球へとやって来た。前回、今回と事件に巻き込まれたために戦ったが、自らは魔法を使うつもりはなかったのだ。データを取られる危険を犯しながら、出会ったばかりの相手と戦う必要性はないということである。
「魔法を使って戦うことに理由なんているのかよ!強い奴がいたら戦いたい。自分の力がどこまで通用するのか試してみたい!色んな相手と仲間になって、何度も何度も戦って、お互いに切磋琢磨して強くなっていく。それが魔法を使って戦うってことだろ!!・・・それに、負けたくない理由もできた」
クラークも熱くなりながら自らの意見を述べる。それは、血気盛んな武装隊員の一般的な考えと言えるだろう。最後になのはの方を一瞥し、烈火に力強い視線を向けた。
「見解の相違だな。俺は仲間作りや自分が強くなるために魔法を使っているわけじゃない。これ以上は時間の無駄だ。失礼する」
互いの意見は完全に平行線、混じり合うことはないようだ。烈火はクラークから視線を外し、歩き出そうとしたが、左腕を抱いているなのはは動く様子を見せない。
「烈火君は此処じゃ戦えないってことだよね?だったら・・・」
なのはは悪くなっていく雰囲気に戸惑いながらも、はやての方に視線を向けた。
「うーん。まあ、うちの訓練スペースは予定が合えば使ってもらってもかまわへんけど」
はやても意図を汲み取ったのか、顎に手を当てながら何かを考え始めている。
「今すぐにここでとは言わない。場所も時間もそっちにできるだけ合わせるつもりだ」
クラークは相も変わらない様子であったが、若干冷静さを取り戻しつつあるのか、口調も幾分か落ち着いたものとなっている。
「おい、お前ら・・・」
烈火は会話が意図しない方向に流れていく事を肌で感じていた。
「場所ははやてちゃんの家で決まりだとして、計測機器やカメラを全部止めればデータが外に出てくってことはないと思うし、何とかなるかなぁ?」
「クラークは飛行魔法を使えねぇから陸戦限定になるな」
「です!ですぅ!」
なのはとはやて、いつの間にか加わって来たヴィータとツヴァイ、そしてアルフが自分の左隣で場所のセッティングをどうするか?ルールはどうするか?などといった内容の会話を繰り広げ始めていたのだ。
「なのはさんを取り合って2人の男がぶつかり合う!」
「私のために争わないで!ってやつですね」
烈火が話題を逸らそうと思考したと当時に、年長のリンディとシャマルの楽しげな声が耳に入って来る。視線を向ければ、目を輝かせて自分達の方を見ている姿が映し出された。残念ながら止める気はゼロの様だ。
年長組は役に立たないと残りのメンバーに目を向けたが、狼形態のザフィーラは我関せずといった様子、クロノとシグナムは気の毒そうな表情を浮かべており、どうやら止めることは叶わぬようである。
「そ、その、烈火の事が外に出ないようにするし、彼もこんなに一生懸命なんだし、ダメかな?」
フェイトは申し訳なさそうに烈火の顔を下から覗き込む。なのはらと同様にフェイトも模擬戦自体を止めるというよりも、烈火の情報を流出を防ぐことを最優先にクラークの思いも尊重したいといった様子だ。
クラーク、エメリー、烈火を除いた、ここにいるメンバーは始めから今の様に親しい関係ではなかった。それどころか大半が敵同士ですらあった間柄だ。互いの想いを魔導に乗せてぶつかり合い、相手の事を理解し、共に困難を乗り越えたことによって紡がれた絆と言ってもいい。
先ほどのクラークの発言に何かしらの感じる物があったのだろう。
烈火が再度止めに入ろうとした時には日時、ルール、開催場所まで決まってしまい、翠屋に向かう一行とクラーク、エメリーは別れを告げていた。
戦いの時は来週の週末だ。
「はぁ・・・」
烈火は転送ポートの前で諦めたように溜息をつく。
「烈火君には悪いと思ってるけど、何もそこまで嫌な顔しなくても。クラーク君だって真剣に頼み込んできてたんだし、模擬戦の1回や2回くらい受けてあげようよ。場所ははやてちゃんの家だし、クラーク君のデバイスを含めて一切記録に残さないんだから、ね」
なのはは日夜、戦闘訓練をしている教導隊であり、訓練が仕事の一環と言ってもよく、模擬戦も日々行っている為か、烈火がたった1回程度の模擬戦に露骨に嫌そうな表情を浮かべていることに疑問符を浮かべていた。戦闘自体も管理外世界のプライベート空間で行うため、烈火が危惧する事態にはならないはずであるからか余計にだ。
「単純にめんどくさいだけだ。何が楽しくてテスト明けの週末に魔法戦なんぞせにゃならんのだ」
「いひゃい!?ひょっぺ、ひゃっらないでよ・・・てひゅと?」
烈火は左腕を抱いているなのはの軟らかそうな白い頬を右手で摘まみ上げた。頬を引っ張られて伸ばされているなのはは抵抗しようとしたが、烈火の発言によって、しだいに顔が青ざめていく。
「なんだ、忘れてたのか?来週だろ期末テスト」
「・・・あわわわ!!ど、どうしよう!?」
「知らん。悪いが俺は自分の事で手一杯だ」
なのはは涙目になって烈火の左手をブンブンと振り回すが、先ほどの模擬戦の件のお返しか、帰って来たのは淡泊な返事だ。絶望したような表情を浮かべるなのはだったが、転入して日が浅い烈火も余裕がないのは事実であった。
「ふっ、お前はどうなのだ?テスタロッサ・・・っておい!?」
シグナムは動揺しているなのはの様子に苦笑いを浮かべながら、隣にいたフェイトの肩に手を置いた。対するフェイトは問いに答えることなく、直立不動のまま正面に倒れ込んでいくため、シグナムは慌ててその身体を支える。
「わ、忘れてたよぉ」
フェイトの力ない呟きは顔中が埋まっているシグナムの豊かな双丘によって掻き消された。どうやら一連の事件で頭が一杯であったため、テストの事など飛んでしまっていたようだ。
「は、はやてちゃん!?口からなんか白いものが!!!」
その背後では虚ろな瞳をしているはやての口から出て来た白い魂をシャマルが必死に押し戻している。
事件としては無人の管理外世界で起きたものであるが、局員の同時
「何をしているんだ君達は?」
転送ポートの行く先をハラオウン家に設定したクロノは阿鼻叫喚な一同の様子を見て引き攣った表情を浮かべていた。
一同は本局からハラオウン家、そこから転移魔法で翠屋の敷地内へと向かう。一度それぞれの自宅へと戻らず、直接翠屋に向かったのは烈火、アルフ、ザフィーラ以外の面々の格好にある。管理局の制服を身に纏っているなのはらは地球人から見ればコスプレ集団と思われてもおかしくないからというものであろう。
閉店後の翠屋に向かった一同を高町家が温かく迎え入れた。なのはの姉、美由紀が以前、会った時から大きく成長した烈火を揉みくちゃにしたり、なのはの父、士郎と烈火は此処で初めての邂逅を迎えることとなる。
盛り上がる親世代に、料理に夢中の若者達・・・
翠屋での夕食は盛況を呈し、各々が転移魔法で自宅に帰ろうとした頃には時刻は日をまたぐ寸前であった。
時刻は深夜2時、シグナムは寒空の下、靡く髪を手で押さえながら蒼月家の眼前へとやって来ていた。シグナムがインターホンを鳴らす前に扉が開き、烈火が顔を出す。
「夜分に悪いが失礼する」
シグナムは烈火に迎え入れられ、リビングのソファーに腰を掛けた。
「数日、家を空けていたから、何も出せる物がないな」
「構わん。茶を飲みに来たわけではない」
烈火も対面に腰かけて向かい合う。
「まどろっこしいのは苦手でな。単刀直入に聞くが、あのジュエルシードの暴走体を倒した後、単独行動をとっていたが研究所の中で何を見たのだ?」
「・・・・・・っ!?」
「私が気づいていないと思ったのか?」
シグナムは目を細めながら烈火に問いかけた。烈火は
「どうして、そのことに気が付いていて本局の取り調べの時に皆の前で言及しなかったんだ?俺を本局で拘束する口実になっただろうに」
烈火はごまかすことは不可能だと悟ったのか、シグナムの発言を肯定するかのような口ぶりだ。
「何故、か・・・少なくともお前が信頼に足る人物だと判断したからといったところだ。それにお前が黙って拘束されるとは思えん。局内で暴れられでもしたらかなわんしな」
シグナムは烈火の疑問の声に茶化すように答える。
「間近で見たお前の剣に邪念は籠っていなかった。そして、お前は今回の事件解決の功労者であり、前回の地球で起きた事件でも主の学友を守るべく戦った。そんな相手をあのような場所で吊るし上げるほど性根は腐っていないつもりだがな」
烈火の目を見ながらシグナムは先ほどまでと違い、真剣な声音で言葉を紡ぐ。だが、その表情は普段の凛々しい彼女と思えないほど穏やかなものであった。
「『我々の計画の礎となるべく魔導獣の研究は順調だ。愚鈍な魔導師共を震え上がらせるには十分だが、まだ問題も多い。暫しの改良が必要だろう。新たに生み出した種の詳細データはファイルに添付しておく。だが、ここに宣言する!ジュエルシードという新たなファクターを加え、魔導獣は更なる力を身に着けることができるであろう。全ては我ら
烈火は真っすぐなシグナムの視線から顔を背けながら、謎の文章を呟く。
「俺が研究所へと戻った理由は2つ。依頼主のデータを確保、もしくは破壊する事、そして奴らの背後に繋がる情報を得る為。正直な話、炎に包まれている研究所からちっぽけなメモリを探すのは土台無理な話だ。そもそも、あの炎の勢いなら放っておいても破壊されるだろうから問題なかったろうが、〈あの方〉というフレーズがどうにも気になって何か手掛かりはないかと思って戻ってみたんだ」
「なるほどな。1人で舞い戻ったのは軽率な判断だと思うが、何を仕出かすか分からないリベラを残す危険性を考えて私に声をかけなかった、というところか。それで、その文章は一体何なのだ?」
本来、研究所に戻るならシグナムかアイレを伴って行くべきだったのだろうが、烈火がそれをしなかったのはリョカが不審な行動を取らないように監視させるべく2人を残してという理由ではないかという推測が立った。
「俺が研究所に戻った時には、まだメインサーバーが生き残っていた。セキュリティは突破したものの、データの吸出しを行う前にサーバーが落ちてしまったから大した情報は得られなかったが、閲覧したデータの中で最も重要だと思った部分がさっきの文章だ。とはいえ、
「
「ああ、『計画』とやらの詳細は不明だが、ロクでもないことを考えているのだけは確かだ。魔導獣という狂った戦闘マシーンはあくまでその一端にしか過ぎないってことでもあるな」
烈火とシグナムの表情は重い。
「俺から言えることはこれだけだ」
「いや、真実を話してくれた事に感謝する。この事は私の胸の中に留めておくことにしよう」
「ハラオウン母とかに報告しなくていいのか?」
「ひとまずはいいだろう。今も進んでいる管理局による捜査によって、すぐに明らかになる情報だろうしな。それに情報源がお前だとわかればいらぬ疑いをかけられるやもしれん。お前としては望ましくない展開だろう?」
「どうして、俺なんかの為に?・・・ぃ、っっぅぅ!!!?」
シグナムは烈火に対して謝礼を述べながらも体を前に乗り出して、その額を中指で弾いた。烈火は強烈なデコピンを受け、額を抑えながら涙目で痛みに悶えている。
「次に同じことを言ったら本気でやるから、覚悟しておけ」
「今ので本気じゃないのかよ」
烈火はシグナムに対して頬を引くつかせて冷や汗を流している。まだ上の強さがあることに素直に恐怖しているようだ。
「俺なんか・・・ではない。お前だから、蒼月烈火だから私はこの選択をした。我々は互いの過去を共有し、死地を潜り抜けた。だから、私はお前が背負っている物の一端を知っている。その上、事件に巻き込まれ、時空管理局という巨大な組織に毅然とした態度で相対しなければならない重責は14歳の若者にはあまりに重い」
シグナムの言葉を黙って聞いている烈火。
「自らの過去を投げ出さず、その全てを背負おうとしている姿勢はとても美しく映る。だが、それを他者と共有する事、それもまた強さなのだと主はやて達との出会いから私は知った。お前の過去は、再開した昔馴染みにすら、おいそれと打ち明けられるような内容ではない。ましてやソールヴルムという特異な状況も絡んできている。誰彼と打ち明けろとは言わん。だが、お前1人で何もかもを背負う必要などない」
烈火はシグナムの発言に思わず目を見開いていた。その脳裏に浮かぶのは、ソールヴルムでの戦争により、自らが戦い、奪って来た命・・・
目の前のシグナムは管理局に情報を全て話さなかったことを糾弾するわけでも、迷いを断ち切れと叱咤するわけでもない。ただ、烈火の事を気遣い、理解しようとしているのだ。
「お前は確かに戦士なのかもしれん。それでも、私や主達にとっては既に大切な友人なのだからな」
シグナムはそう言って優しく微笑んでいた。
烈火が胸の内で何を思っているかは定かではない。しかし、目の前で微笑む女性から目を逸らすことはできなかった・・・・・・
「2人とも戻ったか」
サングラスの男が薄暗い部屋で呟いた。
「はぁい、お姉さんが戻ってきましたよぉ」
「ちょっと、
男の声に答えたのはスーツ姿の男女。女性の方は周囲に見せつけんばかりに胸元を大きく開けて、女性らしい体をこれでもかと晒している。男性の方はこれといった特徴のない十代後半と思われる少年であった。
「あら、あのジジイどうかしたの?」
「ああ、ルーフィスに訪れた管理局との戦闘中に死亡したようだな。功を焦ってジュエルシードなどという分不相応なものに手を出そうとしたからこうなるのだ」
少年の言葉をスルーした女性は部屋のスクリーンに映し出された映像に興味を示す。そこに映っていたのはいくつかの画面。1つはジュエルシードをその身に取り込んで暴走したイーサン・オルクレン。1つは
「いい様ですね。大した力もないくせに大口ばかり叩くから」
「まあ、そういってやるな。内面はともかく、頭脳は役に立ったのだ。とはいえ、あの程度の男の代わりなどいくらでもいる。フィロスを処分する手間が省けて、かえって好都合かもしれんな」
少年はフィロスを吐き捨てるように貶し、男性も嘲笑うかの様子であった。フィロスが焼かれるところでルーフィスでの映像はノイズに包まれたことから、これ以降の記録はないようだ。
「ご自慢の魔導獣もたった2人にボコボコじゃない・・・ん!?んっ!んううううう!!!?ねぇ!ねぇ!あの子は!?」
女性は映像を巻き戻し、魔導獣と2人の剣士の戦闘を見つめていた。無数のいる魔導獣は中心を突っ切ろうとする2人の暴風のような進撃に次々と蹴散らされ、その命を散らせていく。数で優る魔導獣が一方的に敗北する様に呆れた様子であったが、画面の一部分を凝視し、感情の高まりを隠しきれないようであった。
「この白い少年か?管理局の武装隊員といったところだろう。年齢にしては大した戦闘力だが、さして驚くようなものではあるまい。この程度ならば取るに足らない存在だ」
男性は女性に急かされるように映像を止め、白いロングコートの少年をアップで映す。
「私好みの可愛い顔してるわねぇ。久々にビリっと来ちゃったかも」
女性は手入れの行き届いた若干ウェーブしている金髪を揺らしながら画面を食い入るように見つめている。
「ね、姐さん!こんな奴どうってことないっすよ!」
「お子ちゃまは黙ってなさいな。私は今忙しいの!」
少年は女性の視線を遮るように画面の前に立つが、眉を吊り上げた女性によって突き飛ばされた。
「今、我々の方から管理局に接触することは許さん。それは分かっているな?」
サングラスの男性は呆れたように2人を窘める。
「えーっ!私のモノにしたいのにぃ!!」
「駄目だ。そうやって何人壊したと思っている。必要以上に目立つことは許さん」
女性は男性の机に手を付いて前のめりになりながら不安の声を上げた。大きな胸が波打つように揺れるが、男性は顔色一つ変えずに一掃する。
「・・・こんな奴」
突き飛ばされた少年は血走った目で画面に映る白いロングコートの少年を睨み付けた。
「そろそろ、次の局面に進むべきか。さて・・・」
世界の裏で悪意の牙が胎動している。サングラスの男性は騒ぐ女性を尻目に小さく笑みを浮かべていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
第2章は今回で終了となります。
少しずつですが、話が進んできましたかね。
次回は蒼月烈火VSクラーク・ノーランとなります。
リリカルなのはの小説でありながら、次回が初の模擬戦描写となりますw
どちらが勝つのか楽しみにしていただけると嬉しいです。
感想、お気に入り等が私のエネルギー源となりますので頂けると嬉しいです。
では次回お会いしましょう!
ドライブイグニッション!