魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
絶対断崖のTalent
ルーフィスでの事件が終結して既に1週間と少しの時が流れていた。
「はふぅ~期末テストも終わってやっと落ち着けるね!」
「うん、そうだね。3人とも追試験無しでよかったよ」
なのはとフェイトは八神家へ向けての道のりを歩んでいる。
「勉強を見てくれたアリサちゃんとすずかちゃんには今度お礼をしないとだね」
2人の足取りは軽い。なのは、フェイト、はやての3名は成績優秀者であるアリサとすずかによる指導により赤点を回避し、追試験からは免れることができたようだ。
「烈火も無事にテストが終わって何よりだね」
「ああ、過去問題を見せてくれた月村に感謝だな」
転入早々のテストであったが、烈火も追試験無しで無事に終えることができた様である。
程なくして3人は八神家に到着した。シャマルによって迎え入れられ、ある一室の前に案内される。開かれた扉の向こうには広い平原、青い海、高層ビル群などといった、通常ではありえない光景が広がっていた。
「おーい!なのはちゃん!フェイトちゃん!蒼月君!」
「3人とも遅いじゃない!」
烈火が慣れた様子のなのはらより少し遅れて歩いていると2人の少女の声が耳に入って来る。アリサとすずかが観客席と思わしき場所から声をかけて来たのだ。
「アリサとすずかも来てたんだ」
「すずかがどうしても見たいっていうからね」
「あ、アリサちゃん!?それは言わないでって言ったのに」
フェイトは見知った2人に、はにかみながら声をかけた。アリサは肩を竦めながら答え、羞恥からかすずかは顔を真っ赤にしている。どうやら今日の模擬戦の事は事前に聞いており、観戦に来た様子であった。
「来たか。烈火よ」
「まあ、サボろうとしたらうるさい奴がいるからな」
フェイト達から離れたところでは、ポニーテールを揺らしながら歩いて来たシグナムが烈火と顔を合わせていた。烈火は気だるそうな表情を浮かべ、なのはの方を半眼で一瞥する。
当の本人は既に
「お!みんな揃ったようやな。じゃあ、戦う2人を残して後のメンバーは観客席に行こか!!」
家主であるはやての宣言により、地上戦に使われるフィールドであろう平原に烈火とクラークを残して、残りの面々は観客席へ腰を落ち着けた。
「じゃあ、ヴィータからルールの説明をしてもらうで!」
「おう!いいか、おめぇら!今回のルールを発表するぜ。飛行魔法の使用は禁止、勝敗はどちらかが戦闘不能とみなされるまでだ。後は好きにしやがれ!」
ヴィータによって今回の模擬戦の概要が語られていく。スタンダードな地上戦といった様子である。
「もうすぐ始まるけど、実際の所、あのノーラン陸士ってどうなん?」
はやては共に観客席に座っているなのはに対してクラークの事を尋ねた。
「うーん、お世辞にも強いとは言えなかったよ」
「随分な評価やねぇ」
「うん。会った時はめちゃくちゃな戦い方をしてたんだ」
「模擬戦じゃ全然勝てないって言ってましたけど、そ、そんなに酷かったんですか?」
なのはは自らがクラークと出会った頃の記憶を思い返しており、エメリーは手厳しい評価に引き攣ったような表情を浮かべている。
「魔力量が多くないのに牽制もなしで真正面から相手にぶつかっていく戦闘スタイルだったしね。習得しようとしてたのもエースって呼ばれてる人が使うような、よく言えば華がある切り札的な、悪く言えば大味な魔法ばっかりで色んな部分でチグハグしてたんだ」
記憶の中にある出会った頃のクラークは戦闘開始直後に相手に向かって突っ込んで行って、反撃のカウンターを浴び、即敗北といった内容の戦闘を繰り返していた。
「色んな意味で特徴的な子だなって思ってたんだけど、魔法にはすごい一生懸命だった・・・でも、それはやり方を間違えた努力だったんだ」
「頑張ることはいいことじゃないんですか?」
「悪いことじゃないんだけど、クラーク君は自分に合った戦闘スタイルと全然違う戦い方を必死になって身に着けようとしてたんだ。分厚い障壁で攻撃を防いで、強烈な魔法攻撃を叩き込むっていう魔力が多い人の戦い方は彼には合ってないんだよ」
なのははエメリーの疑問に答える。大規模砲魔法を行使するには、大きな魔力が必要となるため、魔力量が少ないクラークが高魔力保持者の戦闘スタイルを模倣するのは現実的ではないということだ。
「だけどクラーク君は何回負けても、馬鹿にされても立ち上がってた。結果が出なくても直向きに人の何倍も努力してたんだ。だから、私は力になりたいと思って教導の時には彼に上手な魔法の使い方を精一杯教えたつもりだよ」
「なのはに教わってからは模擬戦にもぼちぼち勝てるようになっていって、最近じゃ陸戦限定の1VS1なら部隊の面子の中でもかなり上の方らしいぜ」
過去を思い返すように話すなのはとどこか誇らしげなヴィータ。お世辞にもエリートとは言えなかったクラークを教導で叩き上げ、その実力を飛躍的に高めたという。
「だったら、アイツはこの戦いに勝てるでしょうか?」
エメリーはなのはとヴィータにクラークが褒められたことが嬉しかったのか笑みを浮かべていたが、数秒後には緊張した面持ちで質問を呈した。
「うーん、正直わかんないかなぁ。烈火君がどれくらい強いかってイマイチわかってないんだよ」
「戦闘を見たのは2回、どちらも空中戦だし、陸戦限定ってなると勝手も変わってくるだろうし、烈火がどういう風に戦うのか見ものだね」
実力を伸ばしつつあるクラークと実力不詳の烈火。なのはとフェイトの言葉を皮切りに一同の視線は否応なく平原で向かい合う2人に集まる。
「じゃあ、2人とも準備はいいわね!」
シャマルは準備が整ったのを見計らって魔力拡声器を使い、烈火とクラークに声を届けた。
烈火は白を基調としたロングコートを身に纏い純白の剣を右手で逆手に持っている。
クラークの上半身は黒を基調としたノースリーブのインナー、下も前掛けの付いた黒色のズボン・・・地球で言う中華の拳法家の衣装をミッドチルダ風にアレンジしたといった様相だ。武器らしい武器はその手には見受けられない。その代わり左右の腕に灰色の手甲が取り付けられている。
「はいッ!」
「ああ、構わない」
クラークと烈火はシャマルに返事を返した。
「じゃあ、模擬戦始め!!」
シャマルの宣言により戦闘が始まる。
「行くぞッ!!!」
試合開始直後、クラークは足元にベルカ式の魔法陣を発生させ、灰色の魔力スフィア1基を烈火に向けて打ち出した。弾速も威力も大したことのなさそうな直射型の魔力弾であったが、魔力スフィアを中心に周囲が閃光に包まれる。
「・・・っていきなり目くらましかいな!?」
「アレって、私の!?」
観客席ではやてとシャマルが驚きの声を上げた。先ほどクラークが使用した魔法はシャマルが使う魔法の1つである〈クラールゲホイル〉に酷似していたためであろう。
「アタシが教えた。まあ、一瞬の撹乱にしか使えないからシャマルのやつとは比べ物にならねぇ贋作だけどな」
ヴィータは口元を吊り上げながらシャマルの疑問に答える。シャマルの使用するクラールゲホイルは広大な封絶結界の中を照らしづけることができ、広範囲かつ、数十人を超える相手に対してでも高い撹乱効果が期待できる魔法だ。
対してクラークが放った魔法はシャマルのモノと比べてしまえば効果範囲も持続時間も雲泥の差であるようだ。
「だが、一瞬でも気を逸らせればそれでいい」
得意げなヴィータの視線の先ではクラークが烈火の背後に回り込み、腕を捻りながらコークスクリューブローを打ち放つ。振りかざした右の拳には魔力が纏われている。
しかし、その一撃は空を切った。クラークは烈火を素通りするように大きく前に飛び出してしまうが勢いをそのままに体を反転させ、両腕を突き出した。
クラークが両の拳で殴りつけた先には小さな鉛色の鉄球が2つ。
「今度はヴィータの・・・」
ザフィーラが声を漏らした。
「ああ、シュワルベフリーゲンだ。といっても小球を直射で2発しか打てねぇがな」
再びヴィータが答える。次にクラークが使ったのはヴィータ自身が使用する、生み出した鉄球をデバイスであるグラーフアイゼンで叩き、魔力スフィアとして打ち放つ誘導制御型の射撃魔法だ。
ヴィータならば1度に12発、それも大球、小球により誘導型と直射型を使い分けることができるが、クラークはまだその域には達していないようだ。
しかし、クラークの撃ち放った鉄球は空を切る。
「ターン!!!」
試合フィールドからクラークの大声が観客席に響き渡る。
狙いを外した2発の鉄球のうち、1発は地面に着弾。もう1発が空中で方向を変え、烈火の背後から迫って行く。
「今度は私の弾道軌道を!?」
「うん、私がアドバイスしたんだ。でもフェイトちゃんと違って呼び戻せるのは1発だけで手動と声掛けがないと使えないけどね。ヴィータちゃんの魔法と組み合わさってるから〈シュワルベランサー〉ってとこかな」
今度はフェイトが目を見開いた。クラークの鉄球が自身の使う直射型の射撃魔法〈フォトンランサー〉、〈プラズマランサー〉での誘導軌道の一つである
「確かにクラーク君は魔力も少ないし、魔法の適正だって万全とは言えないかもしれない。今まで使って来たみんなの魔法を元にした物も、本家とは比べ物にならないくらい短小な魔法かもしれない。でも1つ1つが完璧じゃなくてもいいんだよ」
「ああ、アイツにはなのはみたいな一撃必殺の砲撃もフェイトみたいな機動力もなければ、白兵戦向けの近代ベルカ式とはいえ、シグナムみたいに前に出てインファイトをするパワーもザフィーラみたいに相手の攻撃を正面から受け止める力もねぇ」
「だから私達が教えたのは上手に魔法を使える人達の動きを真似る事、とにかく動いて相手にペースを握らせないで責め続ける事。使う魔法が完璧じゃなくても、正面から撃ち合えなくても勝つための戦い方・・・何も考えずに突っ込むだけだった彼とは別人のように強くなってるよ」
なのははクラークの繰り出す魔法に一挙一遊する一同に対して語りながら、戦いの最中、必死に思考をし、自らの教えの通りに間髪入れず攻め続けるクラークの様子を優しい表情で見つめている。
「頑張れッ!クラーク!!」
エメリーは魔力の少なさというハンディキャップを抱え、なかなか結果が出せなかったクラークが管理局の若きエースに少なからず認められているという事に対して感激し、目尻に涙を浮かべながら、大きな声援を投げかけた。
「何よ!!アイツ!さっきからやられっぱなしじゃないの!」
エメリーやなのはらとは僅かに離れた席から試合を見ているアリサは目の前の光景に思わず声を荒げていた。クラークの連撃に対して、防戦一方の烈火に対しての憤りであろう。
「蒼月君・・・」
すずかの瞳も目の前の光景に揺れている。しかし、激情を素直に表すアリサとは違い、その胸の内は窺い知ることはできない。
そして、戦いは佳境を迎えようとしていた。
「はあああああっっっ!!!!!」
クラークは試合開始直後同様に弾速の速くない魔力スフィアを1基だけ射出する。誰が見ても先ほどの閃光弾であることは明らかだ。初見では効力を発揮する魔法であるが、手の内が割れてしまえば攻撃能力を持たない魔力弾に過ぎず、身体を射線軸からずらしてスフィアから視線を外してしまえば何の脅威にもならない。
だが、視線をわずかに反らした烈火とは裏腹に魔力弾は低速のまま何の変化もなく向かってくるだけであった。
烈火の右側から円を描き、回り込むように走っているクラークはシュワルベランサーを1発射出する。魔力を纏った鉄球が標的に当たらず地面に着弾したのを確認する間もなく、クラークは身体強化を全力でかけて地を駆けながら、空中に出現させた鉄球2つを左手で殴りつけるように打ち出していく。
所詮は直射型の弾道であり、回避は容易い・・・だが、そのうちの一基が閃光を放った。クラークはシュワルベランサーと縦の射線軸で重なるように先ほどの閃光弾を発射していたのだ。先行して進む鉄球に纏わりつく魔力残滓に後発で追いすがる閃光弾を紛れ込ませ、相手に悟られないように打ち放つというバリエーション攻撃だ。
断続的に射出された4つの魔力弾に気を取られ撹乱魔法をモロに受けた烈火は動きを止めてしまっている。そして、クラーク自身は円を描くように走り込んでいたため、烈火の背後を取っていた。
「ここだぁぁぁ!!!!」
クラークは雄叫びと共に地を踏みしめ、弾丸のような勢いで烈火に飛び掛かる。その最中、カートリッジを炸裂させたクラークの手甲が形を変え、手首までの長さから肘までを覆うように巨大化した。さらにカートリッジをもう1発炸裂させたことにより、肘の辺りのパーツが開き、切れ目から魔力が噴出した。
その魔力はスラスターというには頼りないものの、推進力としてクラークの一撃の破壊力を高める。突き出された拳を覆うように円錐のような魔力刃が形成され、その先端が回転し始めていく。
「一撃絶倒!!シュラーゲン!!!!インパクトォォォォォ!!!!!!」
クラークが放つ最大の右拳が烈火へと炸裂した。
「うーん、これじゃなんも見えへんね。一番肝心な所やっちゅうのに」
はやては巻き上げられた砂埃によって視界を塞がれ試合フィールドが見えなくなったことに不満を漏らす。
「今のがクラークが打てる中での最強の攻撃だ。当たった場所によってはアタシらでも相当のダメージを負う。それを背後から受けたんだ。流石にもう立ち上がれねぇだろうな。射撃魔法がヘタクソの割に中々考えるじゃねぇかアイツ!」
「クラーク!!」
ヴィータはクラークの試合中での立ち回りに満足したように鼻を鳴らし、エメリーは歓喜の表情を浮かべている。
「烈火・・・」
「・・・蒼月君」
風に靡く髪を手で抑えながら、フェイトとすずかは不安げに烈火の名を呼んだ。
「決着がついたようだ」
ここまで試合を静観していたシグナムが呟いた。
「どうやらそのようね。試合はそこまで!勝者はクラーク・・・」
「馬鹿者め・・・お前の目は節穴か?」
「ちょっとぉ!それどういう意味ぃ?」
シグナムは重たそうな胸の下で腕を組みながら呆れたような様子でシャマルの終了宣言を中断させた。それに対して眉を吊り上げたシャマルだけでなく、観客席にいる者達の視線がシグナムへと集まる。
「正面を見ろ、間もなく砂塵も消えるだろう」
シグナムに促されるように試合フィールドに目を向けた一同には衝撃の光景が飛びこんで来た。
右拳を叩きつけた体勢のまま驚愕の表情を浮かべているクラーク・・・
そして、眼前に迫っていた魔力刃を左手で掴み取っている烈火・・・
烈火の顔面に炸裂するはずであったクラークの一撃は進撃を止め、魔力刃の回転は添えるように掴んでいる掌によって止められていたのだ。
「な、何ッ!?・・・く、くぅうう!!!」
クラークの最強の一撃の中核である魔力刃は烈火によって硝子を砕くかのように儚く握り潰される。しばらく茫然としていたクラークであったが、思い出したかのように背後に飛び、烈火から距離を取った。
「な、何で!?クラークの攻撃は決まったはずじゃないの!!?」
観客席のエメリーも信じられないといった表情を浮かべている。
「シグナム、どないなってん?」
観客席の面々も大なり小なり、程度の差はあるが驚きといった感じであったにも関わらず、唯一、冷静な様子のシグナムに対して、はやてが問いかける。
試合内容としてはクラークの研鑽を重ね、練り込まれた攻めの数々に翻弄されるままだった烈火が防戦一方であり、最大出力の攻撃をまともに受けてノックダウンしたと思っていた矢先にこの光景であるため尚更であろう。
「迫ってくる攻撃を素手で掴み取った。ただそれだけですよ」
「それだけって?さっきまで、あの人はクラークに手も足も出なかったじゃないですか!?それでなんでッ!!!」
シグナムが答えたはやてへの問いに噛みつくように反応したのはエメリーだった。
「
周囲にいた面々はクラークの魔法に注目と考察を繰り広げてばかりであったが、シグナムの指摘にハッとした表情を浮かべた。
「ノーラン陸士の自らにできることを精一杯やろうとする姿勢には好感が持てる。高町やヴィータが目をかけるのもわかる。だが、それだけでは烈火には勝てんということだろう」
「まだ勝負はついてないのにどうしてそんなことを言うんですか!?」
「シグナムさん・・・」
声を荒げるエメリーと不安そうななのは。そして、自身に目を向ける面々に対してもシグナムはあくまで冷静であった。
(そう、それだけではどうにもならないものがある)
シグナムは内心で呟く。
地球に姿を現した蒼月烈火が戦闘を行った回数は地球で1度、ルーフィスで2度・・・つまり、この模擬戦を除けば3回だ。シグナムは戦闘という状況であるならばこの中でも最も烈火と過ごした時間が長く、その戦闘を間近で目撃している。
(魔力量云々もそうだが、あの空間認識能力と超反応。そして、とてつもない破壊力を誇る・・・黒炎)
思い返すのはルーフィスでの戦闘。数えきれない魔導獣の中を正面から突っ切るという魔法が縦横無尽に飛び交う乱戦状態の中でさえ、蒼月烈火はただの一度も被弾をしていない。それどころか魔力障壁を使って攻撃を防いでいる様子もほとんど見受けられず、ほぼ全てを回避していた。
空戦魔導師には必須と言われる空間認識能力であるが、多くの魔導師、騎士を見てきたシグナムであっても烈火のそれは常人のそれとは一線を駕しているように思えたのだ。そして、認識するだけではなく、それに対する反応もであった。
極めつけは、無尽蔵の魔力を持ち、災厄クラスと言ってもいい
竜皇の火炎とぶつかり合い、それを打ち破ったにも関わらず、黒炎からは魔力の減衰が見られなかった。そして、凄まじい強度を誇っていた
(今後、この2人の少年がどうなっていくかは分からん。しかし、現状ではクラーク・ノーランが蒼月烈火に勝つことは天地がひっくり返ってもあり得ないだろう)
先ほど他の面々に指摘したように烈火はデバイスを一度も振るってはいない。そして、魔力にしてもクラークの最大の一撃を受け止める際に左手に軽く纏わせた程度しか使っていない。
ウラノスの
持っている手札の数が、切れる
「クラークッ!!」
エメリーはシグナムの答えを待つ前に対戦フィールドへと悲痛な声を投げかける。
クラークは息を荒くし、地面へと膝をついていたためだ。
「体内の魔力循環が弱くなってるわね。これじゃ、もうさっきみたいな魔法は使えないでしょう」
シャマルはクラークの状態を分析する。魔力量が豊潤でないクラークであるが故の相手を撹乱して隙を作り、そこを全力の一撃で倒すという戦闘スタイルであった。
魔力の殆どを使い切ったクラークには先ほどのシュラーゲンインパクトを放つだけのスタミナどころか身体強化に回せる魔力すらもう残ってはいない。
「・・・たんだ。ずっと憧れて来たんだ」
クラークは烈火にすら聞こえないほどの小声で何かを呟きながら、震える膝を抑えて立ち上がる。腰を落とし、身体の後ろで両手を引いた。
「これって!?」
なのははその光景に驚きの声を上げ、かつての記憶を思い返す。
今、目の前のクラークは教導隊の訓練に参加した直後に練習していた魔法を放とうとしている。それは使用するだけでクラークの魔力を全開から半分以上消費する物であり、魔法と使用者の適性の合わなさから、とても使い物にはならないとなのはが特訓を止めさせたものであった。
「俺は絶対ッ!エースになるんだぁぁぁぁぁ!!!!!!ディバイィィィィンッ!!!バスタァァァァ!!!!」
クラークの前に突き出すように構えた両手から灰色の魔力が烈火に向けて吹き出した。
管理局のエースオブエース、高町なのはの代名詞とも呼べる砲撃魔法であった。
放たれたそれは、砲撃魔法と呼ぶにはあまりに貧弱で、射撃魔法との中間のような物である。しかし、クラークの左の手甲から炸裂音と共に薬莢が飛び出し、砲撃が一回り肥大化した。
(初めて見た時からずっとなのはさんのように魔導師になりたかった。いや!並び立てるようになるんだ!近代ベルカにエミュレートした贋作を勝手に俺が名付けただけの攻撃。でも、コイツと共に強くなって本物と比べても遜色がないくらいにして見せるんだ!)
数年前に彗星の如く現れた管理外世界の少女。優れた魔法資質と折れない心で度重なる凶悪事件を解決し、重たい怪我すらをも乗り越えて邁進するシンデレラガール。
クラークはそんな高町なのはに憧れ、今もその背を追い続けているのだ。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」
残った魔力と最後のカードリッジを使っての全力攻撃・・・
想いが詰まった砲撃は目の前の黒髪の少年が軽く振った左腕によって、埃を振り払うかのように跳ね除けられ、無情にも四散する。
「ち、くしょうっ・・・」
その光景を目の当たりにし、クラークの意識は闇へと落ちていく。最後に目に入ったのは氷の刃のように無機質な蒼い瞳であった。
模擬戦終了の合図を待たずに飛び出していったヴィータに若干遅れてシャマルも飛んで行く。エメリーはクラークの名を呼びながら、なのはに抱えられて対戦フィールドに向かう。
「すずか?」
アリサは模擬戦が終わり、数名が対戦フィールドに飛び出していくのを尻目に隣に座っていたすずかの方を向いて思わず言葉を失っていた。
潤んだ瞳、熱に浮かされたように朱に染まった頬。すずかは聖祥初等部からの付き合いであるアリサですら見た事のない妖艶な表情を浮かべ、ある一点に視線を注いでいる。
人間は平等ではない。
容姿の優れた者、醜い者。足の速い者、遅い者。頭の回転が速い者、遅い者。
それは魔法においても同じことであった。リンカーコアの性能ともいうべき魔力量の個人差、
人はこの埋めようのない隔絶した溝を『才能』と呼ぶのだろう・・・
最後まで読んでいただきありがとうございます。
実は今回が初めての1VS1の対人戦となりますかね。
今までは暴走したロストロギア相手だったり、複数VS複数だったりしたのでw
皆様が期待していたような模擬戦といった風な戦いにはならなかったかもしれませんが・・・
感想とお気に入り等が私の原動力となりますので頂けましたら嬉しいです。
では次回お会いしましょう!
ドライブイグニッション!