魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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還ってきた日常

 烈火とフェイトは対戦フィールドから八神家に戻り、玄関に向けて歩いている。

 

「あんなに一方的に会話を打ち切って出てきてよかったの?」

 

 フェイトは烈火に対して不安げに問いかけた。魔力切れで自滅したクラークを置き去りにしてきてよかったのかという事であろう。

 

「あの場では、間違っていない選択肢の一つだったろうな」

 

 しかし、その問いかけに答えたのは烈火ではなく、いつの間にやら2人についてきていたシグナムであった。

 

「し、シグナム!?いつの間に・・・」

 

「テスタロッサはまだまだな。烈火は私の事に気が付いていたというのに」

 

 シグナムはニヒルな笑みを浮かべ、驚いているフェイトの事をなじっている。動じていない烈火の様子から接近していたシグナムに気が付いていないのはフェイトだけであったようだ。

 

「むぅぅ・・・それでさっきのはどういう意味なんです?」

 

「あの少年も男児である以上、意地を張りたいということだ」

 

「えっと、意味が分からないんだけど?」

 

 からかわれていることが分かっているのか、フェイトはむくれながらシグナムに改めて問いかけたが、その返事に首を傾げる。

 

「この話はお子様のテスタロッサにはまだ早かったかもしれんな」

 

「私はお子様じゃないよ!」

 

「わかった、わかった」

 

 フェイトは頬をぷくぅとに膨らませて不満をアピールしているが、残念ながら普段より幼い印象を周囲に与える結果となったようだ。シグナムはそんなフェイトの頭に手を置いて、子供をあやす様に撫で回している。

 

 シグナムの手が頭を撫でるたびに目を細めるフェイトだったが、その度に緩む表情を引き締めて私は怒っていますとアピールをしている様は何とも庇護欲をそそるものがあるようだ。

 

 フェイトがシグナムの手を跳ね退けず、抵抗しないで撫でられている辺りから2人の信頼関係が伺える。

 

 因みに、2人の意外な一面と関係性を目の当たりにした烈火は目を見開いて驚いていた。

 

 

 

 

「あれ以上、あの場所にいても無意味だと判断した。大した理由はない」

 

「ふっ、そういうことにしておこうか」

 

 烈火の口から語られた理由にシグナムは苦笑いで答える。シグナムには烈火が半ば逃げるような形で対戦フィールドを離れた理由の見当がついていた。

 

 おそらく最大の理由は無用なトラブルを避けるためといった物だ。クラークは烈火に何らかの理由で固執し、いきなり戦いを挑んできたが、結果はあまりに一方的なものであった。彼が目を覚ました時に自身が目の前にいた時の事を考えれば、心中を察する物がある。それに万が一、再戦要求などされてもたまったものではない。

 

 そもそも、時空管理局本局に烈火が行ったのはかなり特殊な理由からであり、今後は赴くことはないはずだ。烈火自身にクラークやエメリーと交流を持つ気がない以上、どのような別れ方をしようが問題ない。ならば、後腐れなく因縁は断ち切っておいた方がいい。今後、会うことのない相手にどう思われようが知ったことではないといったところであろう。

 

 

 

 

「むぅぅぅぅ・・・結局どういう理由なの?シグナムもわかったような顔して全然言ってくれないし、私だけ仲間外れみたい」

 

 フェイトは唇を尖らせて不満げな声を漏らした。シグナムは烈火の行動の意図を理解している様子であるが、理由自体を口に出すことはなく、烈火も語ることをしなかった為に疎外感を覚えているようだ。

 

 程なくして、烈火とフェイトはシグナムに見送られる形で八神家を後にする。最後までフェイトに対して烈火が対戦フィールドを離れた理由が説明されることはなかったようだ。

 

 

 

 

 2人は他愛ない会話を重ねながら自宅の前まで戻って来ていた。

 

「えっとね、ちょっとだけいいかな?」

 

「構わないが」

 

 それぞれが別れようとした時、フェイトの声で烈火の足が止まる。

 

「烈火に聞きたいことがあるんだけど・・・男の子ってどんなプレゼントを上げたら喜んでくれるのかな?」

 

「彼氏への贈り物なら自分で考えた方がいいんじゃないか?」

 

 烈火は自身の顔を覗き込むように問いかけて来るフェイトに対して冷静に返答した。

 

「か、か、か、彼氏!?もう!そんな人いないよ!そうじゃなくて!!」

 

 フェイトは頬を朱に染めて烈火に抗議をしながら理由の次第を説明し始めた。

 

 

 

 

「・・・・・・ふむ、管理局の施設で保護している少年に贈り物がしたいということか、始めからそう言えばいいものを」

 

「始めからそう言ってたよ!」

 

「いや、男へのプレゼントは何がいいか?なんて聞かれたら彼氏か何かに対してだと思うだろう?」

 

 言葉の意図を理解した烈火が返事をし、フェイトはそれに抗議の声を上げた。

 

「彼氏なんてできたことないし、時々、その、こ、告白されたりすることもあるけど、恋愛なんて全然分かんないし・・・」

 

 しかし、フェイトは勢いを失うかのように恥ずかしげな様子で俯いた。

 

「実際、フェイトなら引く手数多だと思うよ。学校で周りの男連中がやたら睨んで来るのはその影響だろうしな」

 

 烈火はフェイトの恋愛経験が皆無だということに少なからず驚いた様子を見せている。転入して約1ヵ月が経とうとしているが、フェイトと共にいると男子の視線を感じることが多い。始めは転入生である自分への物珍しさかとも思えたが、数日してその視線がフェイトと共にいる自分に対しての嫉妬であることを理解していたようだ。

 

 

「そ、そんなこと・・・それに!わ、私だって他の女の子から色々言われてるんだからね!!」

 

 フェイトは朱に染まった顔を上げて烈火の発言に反論の声を上げた。烈火と出会って約1ヵ月が経過しようとしているが、自宅も席も隣同士ということがあってか、共に過ごした時間は他の面々と比べてもかなり長いと言える。フェイトもまた、校内で烈火と共に過ごしていると他の女子達に妬むような視線を向けられていることに気が付いていた。

 

 

 聖祥大付属中等部に知らぬ者はいないと言われている女子グループの1つに〈聖祥5大女神〉と言われる物がある。構成は初等部からの仲良し5人組であり、皆タイプは違えど美少女と言われて遜色がない容姿の持ち主だ。

 

 特に男子からの支持は圧倒的で、各々に非公式ファンクラブができるほどの人気を博しており、その中には高等部の生徒すら所属していると言われている。

 

 本人的には不本意な敬称ながら、フェイトも5大女神と呼ばれている1人だ。才色兼備かつ、器量良しと非の打ちどころのないフェイトであるが、それが大多数の女子にとっては嫉妬の対象となりえている事も事実である。

 

 妬みという感情を抱かれているのは他の4名にも言える事だが、フェイトに対してのそれは他の面々よりも大きな物となっていた。最たる原因は東堂煉の存在である。

 

 言い寄られているフェイトからすれば、本人にその気がない以上、迷惑でしかないのだが周囲の見方は違った。

 

 東堂煉は学業では学年トップ3に食い込むほどの成績を修め、部活動には所属していないものの運動能力にも優れている。加えて使用人を常に付けるほど家庭も裕福であり、容姿も優れているため、多少素行に問題があるが女子生徒からの人気は高いといえる。煉に迫られているのを間近にした彼のファンから言い顔をされないのも無理はないだろう。

 

 とはいえ、今までのフェイトは人気の高い煉から熱烈なアプローチを受けていたものの、袖にし続けて来たために最小限のヘイトを集めるに留まっていたが、最近は事情が変わってきているのだ。

 

 

 フェイトの周りに起きた大きな変化点というのは、年度末に転入してきた蒼月烈火の存在だ。烈火本人には自覚はないだろうが、彼自身も周囲からすればかなり目立っていると言える。

 

 何人もの者達がその和に加わろうとして撃沈した聖祥5大女神にあっさりと迎え入れられたばかりか、なのはとフェイトとは校内で急接近したことを周囲に目撃されている。

 

 整った容姿に他の男子生徒よりも大人びた雰囲気や以前の体育の授業でフェイトへの対応などが噂となり、烈火の女子人気は水面下で高まりつつあるのだ。

 

 

 フェイト本人にはそんな意図はないのだろうが、女神と崇められて男子生徒の視線を一手に集めており、人気の高い煉からもアプローチを受けているにも関わらず、話題の烈火と親しくしているとあって結果的に同性からの妬み、やっかみを集めてしまっているのだ。

 

 

 

 

「なあ、フェイト。話を続けるなら場所を移さないか?」

 

「ふぇ、どうして?」

 

「・・・周りを見て見ろ」

 

 烈火に促されるように周囲を見渡したフェイトは思わず眉を引くつかせてしまう。周囲を通る人達が話し込んでいる自分達を微笑ましいものを見るかのような様子であったり、奇異の視線を向けていているためだ。

 

「そ、そうだね。とにかく、ここから離れよう」

 

 2人は周囲の視線から逃れるようにそそくさと自宅周辺から離れる。

 

 烈火とフェイトの様子を目撃していた中にはハラオウン家とご近所付き合いをしている者もいたようで、そこからリンディに情報が発信されてしまった結果、後々に根掘り葉掘り事情を聞かれて辟易することをこの時のフェイトはまだ何も知らなかった。

 

 

 

 

 烈火とフェイトは自宅周辺から場所を変え、最寄りのファミリーレストランで昼食を取っている。

 

 本来ならば夕刻時まで八神家に滞在するつもりであったが、大幅に予定を切り上げた為、自宅に戻った時点では時刻はまだ正午前であった。リンディにもその旨を連絡をしていなかったため、あのまま帰宅していても昼食の用意はされていないだろう。一人暮らしの烈火は言わずもがなだ。

 

 あれだけの視線を浴びながら帰宅するのも気が引けたため、周囲の注目から逃れつつ、昼食を取るためにこの場所をチョイスしたようだ。

 

 

「えっと、どこまで話したかな?」

 

 フェイトは烈火に問いかけながら小首を傾げる。先ほどまでは自宅の前で会話を繰り広げていたが途中から話題が逸れ始めていた為、この場で軌道修正を図ろうとしているようだ。

 

「フェイトが誰かに贈り物をしようとしているという所までだな」

 

 烈火が答えを返す。

 

「うん。その事なんだけど・・・私って男の子への贈り物なんて、お兄ちゃんや友達へバレンタインの時に義理チョコ上げたくらいしかないから何をあげたらいいか分からないんだ。初等部に入るか入らないかくらいの子なんだけど何を送ってあげたら喜んでくれるかな?」

 

「その年代の子供ならフェイトが娯楽物を送れば何でも喜ぶんじゃないのか?」

 

「あの子なら何でも喜んでくれそうなんだけど、多分私に気を使ってそうしてくれると思う。実はちょっと訳ありな子で家族もいなくて、元々預けられてた施設から私が保護責任者になる形で引き取ったんだ」

 

 フェイトは男性への贈り物の経験が少ないため烈火に参考意見を求めたということだ。そして、語られるのは相手の少年の過去の一端。

 

「最初は周囲の全部に敵意をむき出しにしてて、私にも飛び掛かってくるくらいだった。今は心を開いてくれるようになったけどね。私的には家族みたいに思ってるんだけど、あの子は私の事を恩人だとか、助けてくれた人みたいに思ってくれてるのか、どうも壁を感じちゃって・・・・・・」

 

 フェイトはこれまでの少年の様子を思い返しながら寂しげに俯いた。

 

「あ・・・一人でペラペラと喋ってゴメンね。烈火の他に相談できる人がいなくて・・・」

 

 場の雰囲気が重くなったことに際してか、フェイトは申し訳そうな表情を浮かべている。

 

 フェイトが相談しようとしたのは烈火だけではないのだが、なのはらに幼い少年の好みがわかるとは思えなかったし、エイミィや補佐官のシャーリーに異性への贈り物というワードを出した瞬間に恋人宛へと勘違いされて大騒ぎになるであろう。

 

 知り合いの男性に相談しようにも、物心ついた時から魔法三昧のクロノ。三度の飯より読書、遺跡、探索のユーノと普通の少年とは一風変わった幼少期を過ごしてきた2人は娯楽品を共に選ぶとなると頼りないと言わざるを得ない。ユーノのなのはへの想いを考えれば、自らが誘うのは憚られるという意味合いも含まれる。

 

 そもそも、学生の自分達と違いクロノもユーノも多忙であり、予定を合わせるのも一苦労であろう。

 

 誘えばどこからでもついてきそうな男性に1人だけ心当たりがあるが、プレゼントなどそっちのけで絡まれることが予想されるため、そもそも選択肢に入れることはしなかったようだ。

 

「いきなりこんなこと言われても烈火も困っちゃうよね?1人で先走って、勝手に不安になって馬鹿みたい。あの子との距離が上手く掴めなくて弱気になっちゃってるのかな」

 

 普段のフェイトらしからぬ力ない笑みを浮かべ、烈火に頭を下げる。

 

 

「・・・・・・その少年の好みを教えろ」

 

「え?」

 

「贈り物を選ぶんだろ?相手の好みくらい把握しておかないと不味いだろう」

 

「え・・・でも迷惑じゃ・・・」

 

 フェイトは自分の話を黙って聞いている烈火の様子から、余計な話をしてしまったのではないか?自分の都合で気を使わせてしまったのではないか?と後悔の念を抱いていたが、返ってきた言葉は意外なものであった。

 

「本当に迷惑だと思っていたら黙って話なんて聞いていないさ。いつかの校舎案内の礼だ。プレゼント選びくらい付き合うが?」

 

 烈火の口から出てきたのは承諾の言葉、それも相談どころか実際に送るものを選ぶのを手伝うという物であった。

 

 聖祥中に転入した初日にフェイトに世話になったことに対するお礼でもあるという。

 

「言わないのならこのまま帰るが?」

 

「あ・・・えっと、ね・・・」

 

 烈火に急かされるようにして、フェイトの口から幾分か控えめの音量で少年について話されていく。流石に詳しい身の上話は伏せられていたが、普段の施設での様子や好みなどが語られた。

 

 最初は遠慮がちだったフェイトもいい意味で気を使ってこない烈火との会話を重ねていくうちにいつもの調子を取り戻し、会話が弾む。

 

 事件や試験の連続で慌ただしい日々を送っていた2人の間には束の間の穏やかな時間が流れていく。

 

 

「そういえば、仕事の日程はどうなってる?」

 

「明日はお休みなんだけど、来週は土曜も日曜も出ないといけないかな」

 

「なら、明日出かけるのがよさそうだな」

 

「私としては烈火がついてきてくれるのは心強いし、嬉しいんだけど・・・その、最近忙しかったから、疲れてない?」

 

 しばしの団欒を終え、会計を済ませて店を出た2人は来た道を引き返して再びの帰路についている。

 

 横並びで歩いている2人の話題は再び少年への送り物についてだ。出かける日取りを決めているようだが、直近で予定が合うのは明日だという。

 

 フェイトとしては烈火の申し出はありがたい上に自身も明日の予定はないため、願ったり叶ったりであるが、目の前の烈火を気遣うように問いかけた。

 

 その理由というのも蒼月烈火は地球へやって来て日は浅いものの、既にいくつかの事件に巻き込まれているからだ。それも危険度の高い事件ばかりであった。民間人と聞いている彼にとっては心身ともに相当な負担がかかっていることだろうことが予想されるため、休養を取った方がいいのではないかということだ。

 

「この程度なら問題ない。それに予定が合わなくて間延びする方よりいいだろう」

 

 烈火は自身を心配そうに見つめてくるフェイトを安心させるように了承の意を伝えた。これによって出かける日程も決まり、気づけば両者の自宅まではあと僅かだ。

 

「そっか、ありがとね」

 

「ん?俺は借りを返すだけだ。そもそも今日の時点で礼を言われることをした覚えがないぞ」

 

 フェイトは感謝を述べたが、烈火は不思議そうに首を傾げている。烈火としては以前、世話になった時の礼をしようとしただけであり、今日に関しては共に昼食を取っただけだ。礼を言われることをしたつもりはないのだろう。

 

「それに、借りを返せるのかも定かではないぞ。俺が手伝ったところで今時の少年の好みに沿ったものを選べる保証もないしな」

 

 烈火は自身が力になれる保証はないと肩を竦めている。そうこうしているうちにとうとう自宅の前まで戻って来ていた。

 

「そんなことないよ。今日だって半分相談に乗ってもらったようなものだし、私一人で悩むよりきっといいものが選べるよ。それに烈火のおかげで気が楽になったから・・・だからね・・・ありがとう」

 

 フェイトは烈火を真っすぐ見つめて改めて感謝を述べる。今日の語らいは烈火自身が思っているよりも遥かに彼女にとって良いものとなったようだ。フェイトはそのまま小走りでハラオウン家へと向かって行く。

 

「じゃあ・・・明日はよろしくね!」

 

 そして、自宅の前で烈火に振り返る。振り向き様に揺れる長い金色の髪は太陽に照らされ光り輝いており、満面の笑みを浮かべている。

 

 その後、金色の女神は足取り軽い様子で自宅の門を潜って行った。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

そして!

魔法少女リリカルなのは Detonation

公開おめでとうございます!!!!!

私も観に行って参りました!!

面白いなんて言葉じゃ表せるものではないですね。

明日のライブビューイングも観に行きますよ!!


前話から少々間が空いてしまいましたが、劇場版の影響で小説モチベは天元突破してます!

皆様からの感想などが私の原動力となっていますので頂けましたら嬉しいです。


そして今回は告知というか聞きたいことがあります。
詳しくは活動報告を参照ください。
こちらの方は感想欄ではなく活動報告にコメントしてください。

では次回お会いいたしましょう!
ドライブイグニッション!
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