魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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光の世界で

 ある日曜の正午前、烈火とフェイトは海鳴市駅前へとやって来ていた。

 

 わざわざ市街地へと赴いた理由はミッドチルダにいるフェイトが保護責任者となった少年への贈り物を購入するといったものだ。

 

 

 時刻は正午前となり様々な店舗が開店し始める頃合いだろう。

 

2人も例に違わず、開店したばかりの玩具店で会話を交わしていた。

 

 

「これはモンスター召喚!ってやつだよね・・・これなら喜んでくれるかな?」

 

 フェイトは人差し指と中指を組んだ右手を突き出して可愛らしくポーズを決めた。そのすぐ近くのショーケースにはカードゲームのパックが所狭しと並んでいる。

 

 烈火に向けてのポージングだったのだが、その背後にいる小学生くらいの少年2人が顔を赤くして俯いた。

 

「これは俺が地球にいた頃にもあったやつだな。チョイスとしては悪くないが、今回に限ってはやめておいた方がいいのかもしれん」

 

「どうして?」

 

「まずルールを覚えるのが難しい。遊べるようになるには数十枚の山札であるデッキが必要だ。それの構築をするなら大量のカードがいるため資金もかかるしな。対戦相手がいるから少年1人では好きな時に遊べないのもマイナスだろう」

 

 フェイトが初めに手に取ったカードゲームだったが烈火的にはあまり好ましくない選択であったようだ。ちなみに烈火が地球に在住している頃から続く人気のカードゲームだった模様である。

 

 

「じゃあ、これなんかどうかな?」

 

 次にフェイトが向かったのは大人気ロボットアニメのプラモデルコーナー。

 

「この黒くて大きな鎌持ってるの気に入ったかも。こっちの白くて蒼い羽根の奴は烈火に似てるね」

 

 フェイトは少年向けのプラモデルコーナーで目を輝かせている。多数の種類がある中から手に取った箱には、漆黒の死神を思わせる機体と、白い天使を思わせる機体の物がそれぞれ描かれていた。

 

 パッケージに描かれている機体は、確かに黒衣を身に纏い大鎌を振り回すフェイトと白い衣を靡かせて蒼い翼を翻す烈火に似ていると言えなくもない。

 

「・・・それも止めておいた方がいいだろうな」

 

 烈火はフェイトの意外な一面を前にして暫く固まっていたが、プラモデルについても首を横に振った。

 

「プラモデルは作るのが難しい。それにこれは作る工程を楽しんで、出来た物を飾っておくものだからな、小さな少年が遊ぶには合わないだろう。その年代では作成中に挫折するか、パーツを無くす。完成させて渡しても壊してお終いだろうな」

 

「へぇ~そうなんだ。おもちゃって言っても色々あるんだね。やっぱり烈火がついてきてくれてよかったよ」

 

 フェイトは烈火の回答に感心するような声を漏らす。フェイト自身も幼い頃にこのような娯楽物で遊んだ経験はほとんどないため、送る相手と同姓であり的確にアドバイスをしてくれる者が隣にいる事に感謝しているようだ。

 

 自分1人で選びに来ていたら、初等部に入るか入らないかくらいの少年にパッケージのイラストだけで選んだ大人向けのプラモデルを渡すという行為をしてしまったかもしれない。

 

 渡された少年は喜ぶであろうが、烈火が言うように完成までの難易度の前に挫折したり、パーツの紛失、破損等で組み立てが上手くいかなければ酷く悲しませてしまうであろうし、せっかくのプレゼントも台無しであっただろうことが予測されるからだ。

 

 

 その後も玩具コーナーを回り、先ほどフェイトが手に取ったプラモデルのパッケージに映っていた2機のフィギュアと黒塗りのスポーツカーのラジコンを贈り物として購入し、店を出た。

 

 

「私の荷物なんだから烈火が持たなくてもいいのに」

 

 フェイトは隣を歩く烈火に申し訳なさげな視線を向けている。

 

「流石に女に荷物持ちはさせられないな」

 

 烈火は肩を竦めており、その手には2つほどの紙袋が握られている。流石に会計はフェイトがしたようだが、プレゼントは烈火の手に渡り、そのまま運ばれることになった。フェイトは自らが荷物を持つと何度か進言しているが華麗にスルーされているようだ。

 

 

 

 

 店舗の開店時間に合わせて駅前に赴いた2人だったが、贈り物選びが予想よりもスムーズに進んだ結果、1時間もかからずに用事が済んでしまった。

 

 昼食もまだであるし、烈火が地球の街中に興味を示したこともあり、もうしばらく駅前に滞在することにしたようだ。

 

「少し待っていろ」

 

 烈火は大きな手荷物を抱えて街中を歩き回ることになると、これからの行動に何かと不便が生じることが予測されるため、ロッカーへと紙袋を預けに行ってしまい、フェイトはそれを待っているのだが・・・・・・

 

 

 

 

「ねぇ、君一人?」

 

「お!可愛いねぇ。外国の子かな?」

 

 フェイトは4人の男性に囲まれていた。金髪を逆立てたリーダー格と思わしき男と鼻にピアスを付けた茶髪の男が馴れ馴れしく話かけて来る。

 

 背後を回り込むように取り囲んでいる2人はフェイトの事を舐め回すように視線を向けていた。

 

「一人じゃありませんし、人を待っている最中です」

 

 フェイトは毅然とした態度で答える。男性達の垢抜けていない顔つきと雰囲気から年齢的には高校生ほどで、所謂不良と呼ばれる物たちであると冷静に判断を下した。

 

「っ!・・・へ、へぇ、その子も女の子?」

 

 ピアスの男性はそれなりに体格のいい4人組で取り囲んでいるにも関わらず表情一つ変えないフェイトに一瞬たじろいだが、自分達の優位性に変わりはないと強気な笑みを浮かべている。

 

「買い物なんかよりもっと楽しくて気持ちいい事を教えてやるぜ」

 

 背後に控えていた男が路地裏の方を指差しながら口元を卑しく歪めた。それが何を意味するかは口に出すまでもない。

 

 年場もいかぬ少女がガラの悪い男性に囲まれているというのに、道行く男性も同性である女性も事の顛末は気になるようだが、関わる気はないといった様子を見せている。結果として、周囲にいる者達はフェイトと男性達のやり取りを目を伏せながら遠目で視線を送るのみだ。

 

「連れの子はいいからとりあえず、一緒に俺達とあっち行こうよ。さぁ!」

 

 1人の男の手がフェイトに向かって伸びる。

 

 

 

 

「悪いが、コイツを連れて行かせるわけにはいかないな」

 

 フェイトの深紅の瞳が大きく開かれた。向かってくる男の手を叩き落したのは黒髪の少年。

 

「なんだ!このガキは!!!?」

 

 

「なんだも何もコイツの連れだよ。それにガキはお互い様だろう?」

 

 男達はフェイトと自分達との間に割って入った烈火に食って掛かる。

 

「こんな人込みで騒ぎを起こすのはどうかと思うがな?」

 

「何だと!?・・・ちぃ!行くぞ!」

 

 烈火に促されるように周囲を見渡した男たちは表情を歪めた。いつの間にか周囲の人々が増えており、中には携帯電話を手にしている者も少なからずいるからだ。通報などされた日にはどちらの過失かは言うまでもない。しぶしぶといった様子であるが男達は急ぎ足で退散していった。

 

「フェイト、俺達も行くぞ」

 

「あ・・・ちょっと!?」

 

 烈火はフェイトの手を掴んで集団から離れるように歩いていく。

 

 そのまま、男達か絡んで来た辺りから多少距離を取った辺りにあるファストフード店へと入った。

 

 

 

 

「此処ならとりあえず大丈夫だろう」

 

「急に引っ張るんだからびっくりしたよ」

 

「それは悪かったな。だが、あそこに留まっていたら、身動きが取れなくなっていたかもしれないからな」

 

 注文を済ませた2人は座席に腰かける。

 

「さっきは助けてくれてありがとね」

 

「いや、お前ならあんな奴の10人や20人どうってことなかったろう?」

 

「ううん。あんな風に囲まれちゃったら魔法を使わなきゃ乗り切れなかっただろうし、烈火に助けてもらったんだよ。ちょっぴり怖かったしね」

 

 執務官として危険な現場での戦闘をすることもあるフェイトであるため、地球でイキっている不良数名など取るに足らない存在であるが、地球での彼女はただの女子中学生にしか過ぎない。

 

 情報漏洩の面から公の場で魔法が使えない以上、彼らを振り切るにはそれなりの労力を使うであろうし、力づくとなれば事後処理が面倒になったかもしれない。

 

 それに次元犯罪者と比べれば雲泥の差であるが、体格のいい男達に囲まれるというのは女性にとっては烈火が思っているより負担を強いる事であった様だ。

 

 

 

 

 食事を済ませた2人はゲームセンターへと入店した。店内には大きなBGMがかかり、所狭しと並んでいるゲーム台からは光が漏れている。

 

「こういうとこ来るの久々かも」

 

「此処が地球のゲーセンか」

 

 年齢的には遊び盛りのフェイトと烈火であったが、前者は日々の忙しさからゲームセンターの様な娯楽施設に来るのが久しぶりの事であり、後者は地球へと数年ぶりにやって来たため、現地のゲームセンターを興味深そうに見回しているのだ。

 

「フェイトはこういう施設にはあまり来ないのか?」

 

「うん。ここ最近は管理局の仕事が忙しいってこともあるけど、私ってゲームの才能がないみたいで得意じゃないんだ。なのは達は普段やってないのに廃人さん?って人達に勝つくらい上手だからゲームで勝負しても勝ったことないし・・・」

 

「今回は対戦するわけじゃない。せっかくの日曜だ。色々やって見よう」

 

 2人は会話を重ねながら、ゲーム台の中に消えて行った。

 

 

「凄い!凄い!最高難易度パーフェクトだって!」

 

 フェイトは隣の烈火に称賛の声を送る。烈火の目の前にはリズムゲーム、所謂音ゲーと言われるものがあり、その中の最高難易度を完璧にこなしたという結果が表示されていからだ。

 

「画面を叩くだけなら誰にでもできる。大したことじゃないな」

 

 烈火自身は地球の楽曲に詳しくないし、今プレイした曲も聞いたことすらないものであったが、パーフェクトを取れたのには理由があった。蒼月烈火の高い空間認識能力、超人的な反応速度、近接戦闘をこなす身体能力が相まって、リズムに合わせて液晶を押すのではく、反射神経ですべてこなしてしまったということだ。スペックの無駄遣いと言わざるを得ない。

 

 

 

 

「レコード更新だそうだ。やるじゃないか」

 

「おかしいな。前にアリサの家でやった時には最下位だったのに」

 

 次はフェイトがレースゲームをプレイしていた。人気のレースゲームのアーケード版であり、フェイト自身は以前プレイした時には結果が振るわなかったようだが、全国各地のプレイヤーと対戦するオンライン対戦で1位を取っていることに自分で驚いている。

 

「コントローラーじゃなくてハンドルとアクセルならいけるってことじゃないのか?」

 

「そうなのかな?じゃあ運転は向いてるのかも。ゲームをピコピコやるより体動かす方が好きだしね」

 

 フェイトははにかみながら烈火に答えた。今から5年ほど後にフェイトが高級スポーツカーを乗り回すことになるとはこの時の2人は知る由もない。

 

 

 

 

 続いて2人はエアホッケーで対戦している。白い円盤が盤上で目まぐるしく飛び交っており、高度な打ち合いが繰り広げられていた。周囲の面々が思わず目を向けてしまうほどだ。

 

 

「じゃあ、次はあれをやってみよう!早く早く!!」

 

「お、おい!?」

 

 フェイトは無邪気な笑顔を浮かべ、烈火の腕を引きながら早足で駆け出した。烈火は二の腕辺りに感じるフェイトによって押し当てられるフニフニとした2つの軟らかい感触に頬を朱に染めている。

 

 

「可愛いね。あのぬいぐるみ!よし!!」

 

 2人の視線の先にはクレーンとアームを使って景品を取るゲームが佇んでいる。その中にはデフォルメされた白い体躯で蒼い翼が生えた龍のぬいぐるみが景品として置かれており、フェイトはそれに興味を示したようだ。フェイトは硬貨を投入して獲得を試みるが・・・

 

 

「あぅぅぅぅ・・・こんなの本当に取れるの?」

 

 大型アームを操作して何度も景品に狙いを定めるフェイトだったが、それなりの大きさのぬいぐるみはわずかに浮き上がる程度で排出口まで持っていけそうな様子が見受けられない。

 

 7回目の挑戦を失敗したところで硬貨が尽きたのか、フェイトは大きく肩を落としながら両替を済ませてゲーム台に戻って来た。

 

「わぶっ!?な、何!?」

 

 戻ってきたフェイトの顔を何かが覆い尽くした。強く押し当てられているわけではなかったため、ずり落ちてくる塊を手に取ったフェイトは驚愕の声を漏らす。それは先ほどまでガラスの向こうにあったぬいぐるみであった。

 

「それ、欲しかったんだろ?」

 

「え、でも捕ったの烈火だよ?」

 

「俺がぬいぐるみなんて持っていてもしょうがないだろ。フェイトはぬいぐるみが欲しい、俺はクレーンゲームを楽しんだ。それでいいだろ?」

 

 烈火は戻ってきたフェイトの顔面にクレーンゲームで獲得した竜のぬいぐるみを押し付けていたのだ。そしてそれをフェイトに譲るという。

 

「・・・ありがとう。大切にするね!」

 

 フェイトは胸元のぬいぐるみを優しく抱き締めながら満面の笑みを浮かべた。

 

 

「ここでやることはもうないだろう。次に行くぞ」

 

「ちょっと待ってよ!?」

 

 烈火は踵を返すように出口に向けて歩いて行き、フェイトは慌てて追いすがる。フェイトからは早足で歩く烈火の頬が朱に染まっていることには気が付かなかったようだ。

 

 ゲームセンターの店員から貰った大きめの袋にぬいぐるみを詰め込んだ2人は屋外でアイスクリーム食べ、乾いた喉を潤していた。

 

 偶然にもフェイトはレモン、烈火はソーダとそれぞれのパーソナルカラーと同色のモノをチョイスしていた。

 

「烈火?どうしたの」

 

 フェイトは目の前の烈火が明後日の方向に視線をやっていたため疑問を投げかける。

 

「いや、何でもない。口元についてるぞ」

 

「はわっ!?」

 

 烈火は視線をフェイトへと戻し、口元にアイスクリームがついていることを指摘した。恥ずかしそうな表情を浮かべたフェイトは思わず奇声を上げてしまっている。

 

 

 

 

 続いてやってきたのは男性物の洋服店。先ほど女性物の洋服売り場のショーケースを見ていた際に烈火が漏らした一言によってこの場に来ることになったようだ。

 

「俺は着せ替え人形じゃないんだぞ」

 

 不満げな表情を浮かべた烈火は洋服一式と共に試着室へ入って行った。

 

 学生服を除けば烈火が持っているのは冬物の私服を3種類程度、いくら地球に来たばかりとは言え、流石に問題だろうとフェイトに引っ張られる形での入店となった。既に試着室に入るのは4度目だった。

 

 

 

 

「かっこいい彼氏さんですね。今日は休日の駅前デートですか?」

 

 先ほどからフェイトと共に烈火をコーディネートしている女性スタッフが羨ましげな表情で声をかけて来た。

 

「か、か、か、彼氏!?で、デートなんてそんな・・・」

 

 フェイトはかけられた言葉に一瞬で耳まで真っ赤にして俯いた。

 

 フェイト・T・ハラオウンという少女は恋愛関係に関しては小学生低学年並みと言われている高町なのはと比べても遜色がないほど無頓着である。故に休日で男女2人きりで出かけているこの状況、先ほどまで自分達がどういう風に見られていたのかという事についての認識は友達と遊んでいるという程度の物でしかなかったのだ。

 

 実際その通りであるし、そもそもフェイトのプレゼント選びに烈火が付き合っただけなのだが、この状況は当人たち以外から見れば10人中10人がデートと答える物であろうということだ。

 

 試着室から出てきた烈火は、頬を染めて口を何度も開閉して言葉にならない言葉を絞り出しているフェイトとそれを楽しげに見つめている店員の様子を見て首を傾げていた。

 

 

 

 

 いくつかの洋服を購入した烈火とフェイトは店を出る。他にもいくつかの店舗を回っているうちにすっかり夕刻時・・・

 

 烈火とフェイトは帰路についている。

 

「うーん。こんな風に遊び尽くしたのはいつ以来かな」

 

 フェイトはぬいぐるみの入った袋を抱えながら楽し気な笑みを浮かべていた。

 

「そうだな。俺もだ」

 

 烈火はフェイトの贈り物と洋服が入った紙袋を持ちながら返事をする。

 

 その表情は普段の彼よりも数段和やかなものであった。

 

 

 

 

「力になれたのかは分からないが、しっかりな」

 

 烈火は自宅前でフェイトに贈り物を手渡す。

 

「すっごい頼りになったよ。きっと喜んでくれると思う」

 

 フェイトは感謝の意を伝えながらそれを受け取った。

 

「さっきも言ったけど今日はすごく楽しかった。また一緒に出掛けてくれるかな?」

 

「ああ、予定さえ合えばいつでもな」

 

 2人の表情は柔らかい。そして、互いに笑みを浮かべながら別れを告げ、それぞれの家へと入っていく。

 

 

「烈火!また明日、学校でね!」

 

 フェイトによって伝えられる別れの言葉、それは再会の言葉でもある。

 

---また明日

 

 それは確定された未来ではなく、理不尽に失われてしまうかもしれないものであると烈火は知っている。

 

 それはかつて烈火自信が失い、他の誰かから奪って来たものだから・・・

 

 両親の死、友人の死、仲間の死、そして自らが奪ってきた命・・・

 

 

 本当ならば最初の事件に巻き込まれた時点で地球を去り、自身の世界に帰るべきであったが、今もまだ地球に留まっているのは周囲の人々との関係が良いものであるからだ。

 

 再会した幼馴染、過去の一端を共有した者、そして目の前の隣人を始めとした暖かく、優しい心を持つ人々。時空管理局という大きな組織に属しながらも、異なる魔導形態を持つ烈火に対して理解を示してくれるものも多く、勧誘やデータ取りを強要されることもない。

 

 

 穢れのない強い心、決して折れない不屈の心・・・

 

 彼ら彼女らが紡ぎ出す、暖かな日常。

 

 

 その手を血に染めた烈火にはあまりに眩しすぎる光の世界。

 

 だが、彼らと過ごした短くも濃密な日々は烈火に多少なりとも影響を与えたことも事実だ。

 

 だからこそ・・・

 

 

「ああ。またな」

 

 烈火もフェイトに別れと再会の言葉を紡ぐ。

 

 

 なのは達と共に過ごすことで剣を振るう理由、背負ってきた十字架に対して何らかの答えを出せるようになるのかもしれない。

 

 もう少しだけこの陽だまりのような光の世界に身を置いてみるのも悪くないのではないか・・・烈火はそう感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・2人ともすごく楽しそうだったな」

 

 烈火とフェイトから10mほど離れた辺りで塀に隠れるようにしている少女が1人。その少女、月村すずかは俯きながら体を震わせている。

 

 

 烈火が視線を向けるたびに思う。

 

 どうして隣にいるのが自分ではないのか・・・

 

 フェイトが楽しげに微笑むたびに思う。

 

 どうしてそこで笑っているのが自分ではないのか・・・

 

 

 彼女の本能が告げていた。これ以上2人きりでいるところなど見たくないと、見て見ぬ振りをすればこのような気持ちを味わうことはなかったのだ。だが、駅前で2人の姿を見つけてしまってからは自分の用事など頭になく、楽しげに過ごす烈火とフェイトを見るたびに心を軋ませながらも最後まで視線を逸らすことはできなかった。

 

「私も魔法を使えたら、あそこに立ててたのかな?私が化け物じゃなかったら隣を歩けていたのかな?」

 

 その理由は、皮肉にも烈火の隣に他の女性がいる事によって、すずかは自分の中で曖昧だった感情を認識してしまったから、憧憬のような感情を確かなものにしてしまったから・・・

 

「う、ひっく、わ、私なんかじゃ・・・お姉ちゃんみたいにはッ!・・・っっ!・・・なれ、ないって・・・ことなんだよね?」

 

 頬を伝って雫が地面へと落ちていく。決壊したダムのように流れ出るそれを止める術をすずかは知らない。

 

 

 共に事件を乗り越えた戦友(フェイト)幼馴染(なのは)親友(すずか)では過ごした時間の密度があまりにも違い過ぎるのだ。

 

 姉の様に自らが愛する人と共に生涯を過ごせたらと漠然と思っていた。心を惹かれる相手をようやく見つけた。だが、その相手(烈火)には自分よりも隣に立つにふさわしい相手(フェイト)がいる。

 

 

 体を震わせ、嗚咽と共に涙が止めどなく零れていく。

 

 深い悲しみに包まれたすずかの意識は口元に何かが押し当てられた感触と共に闇の中に沈んだ。

 

 

標的(ターゲット)を確保しました。撤収します」

 

 意識を失ったすずかを抱えた何者かは、その胸ポケットに入っていた携帯電話を地に放り、踏み壊すとその場から姿を消した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

そして、昨日もリリカルなのはDetonationを見て参りました。

最高だとか神だとかそんな言葉が陳腐に聞こえてしまうほど感動して興奮しますね。


前回書いた通りなのは熱というかモチベーションがハンパなくて、久々の連投となりました。

まだまだ劇場に足を運ぶことになるかと思いますが、それ以外の空いた時間は執筆に使うんじゃないかってくらいにモチベが高まり、未だに興奮が冷めやらないのが現状です。

リリカルなのはという作品に出合えて改めてよかったと心から思う今日この頃でございます。


本作も次回から第3章の佳境を迎える事になります。

しかし、本作にreflection & detonationの話をどう組み込むかなという妄想が止まらずにそちらばかりが気になってしまっていますw

今のブーストがかかった状態で出来るだけ執筆を進めた方がいいと判断したので、加筆修正に関してはこれが落ち着いてからといたします。


皆様の感想が私の原動力となっていますので、ぜひぜひ頂けましたら嬉しいです。

では次回お会いいたしましょう。

ドライブイグニッション!

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