魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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放課後のschool days

 先ほど起きた教室での一件……突然、なのはが烈火に抱き着いたことで注目を浴びてしまった6人の少年少女。泣き出したなのはが落ち着いてきたところを見計らって校舎の屋上へと逃げてきたようだ。

 

「みんなゴメンね」

 

 なのはは皆に謝罪しながら、制服の袖で涙を拭う。

 

「それはいいけど何があったの?」

 

 フェイトがなのはの背を摩りながら心配そうにその顔を覗き込んだ。はやて、アリサ、すずかも同じくなのはのことを心から心配している様子だ。

 

「そ、そのぉ……烈火君の名前を聞いたら身体か勝手に動いちゃって」

 

 なのはは今になって公衆の面前で異性に抱き着くというとんでもないことをしでかしたことに気が付き、羞恥心からか顔を赤くして俯く。

 

「烈火君?随分と親しそうな呼び方やけど彼、今日からこの学校に通うんやで?」

 

 名前を呼んだら友達というなのはの心情はここにいる烈火以外の幼馴染メンバーにとっては周知のことだが、いくら何でも初対面の異性に対してあれほど接近することなど今までなかったし、ましてやいきなり泣き出すなどただことではないとはやてがなのはに問いただす。

 

「そ、それはそうだけど……多分、初対面じゃないと思うし……」

「初対面じゃない?蒼月君は昔、海鳴に住んでたらしいけど……」

 

 なのはは控えめな声ではやての問いに答える。そして、反応するフェイト。教室で行われた自己紹介の際に烈火が言っていた、かつてこの海鳴市に住んでいたということ……フェイトのその言葉を聞いた一同の視線が烈火に集まる。

 

「ああ、確かに俺は小学校に上がる前くらいまではこの街にいたが……」

 

 烈火はかつてこの海鳴市にいた時のことを思い出そうとしているようだが、もう何年の前の幼い頃のことであるため、記憶が曖昧になっている部分が多い。

 

 初対面ではない、その頃に知り合っていた女の子。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば、私だけ自己紹介してなかったね。私の名前は—――」

 

 思考の海に落ちていく烈火を尻目に教室での他の面々同様、自身のことを名乗ろうとしたなのはだったが……

 

 

 

 

 

「……高町……なのはか?」

「ふぇ!?」

 

 絞りだしたかような烈火の声音に、なのはは自己紹介を中断して驚愕を滲ませながら間の抜けた声を上げる。

 

「そ、そうだよ!私、なのは!高町なのはだよ!!やっぱり烈火君なんだよね!?」

「お前の記憶の中に蒼月烈火が1人しかいないのなら俺がそうなるだろうな。少なくとも俺は高町なのはという人間には1人しかあったことがない」

「そっか、やっぱり烈火君なんだ……」

 

 なのはは身を乗り出して烈火に詰め寄る。その顔は烈火の返答を聞いてから緩みっぱなしであった。

 

 

 

 

「な、何?アンタ達知り合いなの!?」

「まあ、そういうことになるようだ」

 

 なのはと烈火だけでどんどん進んで行く話題に置いていかれないようにとアリサが2人の間に割り込む形で話の流れをぶった切った。

 

 アリサに話を止められたなのはと烈火の視線の先には興味津々と言わんばかりに目を輝かせるはやてと控えめながらも視線を向けるフェイトとすずかの姿がある。なのはと烈火は4人に自分たちの関係を伝えた。

 

 

 

 

「ふーん、なのはとは前に住んでた時に会ってたってわけね」

「でもなのはちゃんに私やアリサちゃんと会うまでに幼馴染がいたなんて話聞いたことなかったけどなぁ……」

 

 真っ先に反応したのはアリサとすずかだった。なのはとの出会いは小学校に入りたての頃でありここにいるメンバーの中でも特に付き合いが長い。

 

「……なのはちゃんに異性の幼馴染か……これはユーノ君に強力なライバル出現かもしれへんなぁ」

 

 はやては烈火の方を見ながら苦笑いを浮かべている。なのはに想いを寄せるここにはいない金髪の少年のことを思い浮かべてため息をつく、同意するように頷くのはアリサとすずか。

 

 その様子に首を傾げているのは、なのは、フェイト、烈火の3名。そうこうしているうちに午後の授業前の予鈴が屋上に響き渡った。各々の教室に分かれる6人……アリサ、フェイト、烈火は2年2組に戻ってきたのだが……

 

 3人を待ち受けていたのは他のクラスメートからの視線の嵐であった。

 

 

 転入初日から聖祥5大女神という学園でも有名なグループに男子が加わるという異例の事態に加えて、極めつけはその中の1人と教室内で抱擁を交わすというトンデモびっくりな事件が目の前で起きたのだから無理もないだろう。

 

 午後の授業が始まるからか追及こそされなかったものの、烈火、フェイト、アリサに突き刺さる視線は帰りのホームルームが終わるまでやむことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後……

 

 部活動にいそしむ者、そのまま帰宅する者、友人と集まってどこかに行こうと話し合う者、クラスメート達も散り散りになっていく中でフェイトは隣の席の烈火に声をかけた。

 

「あれ?鞄を忘れてるよ」

「ん?ああ、ちょっと校舎内を見て歩こうと思ってな。まだ帰らないから鞄は置いたままでいい」

 

 烈火は今日からこの学校に通うようになったばかり、当然ながら校舎内の間取りなどがわかるはずもなく、明日以降の学校生活のためにある程度、学園の地理を把握しておこうと思っているようだ。

 

「そっか……そうだ!今日は予定もないし私も付き合うよ。他のみんなにも聞いてみるね」

 

 フェイトは一瞬、考えたそぶりを見せ何か思いついたように自分も同行すると言い出した。

 

「申し出は嬉しいが、せっかくの放課後だしわざわざ俺なんかに付き合わなくても……っておい!?」

 

 フェイトにとっては1年半以上通っている校舎だ。今更散策したところで面白くもないだろうと断ろうとした烈火だったが、当の本人は長い金髪を揺らしてアリサの下に歩いて行ってしまった。

 

「せっかくだけど、アタシ今日はお稽古があるのよね……」

 

 アリサはフェイトから説明を受けたが、残念ながら同行できない様子だ。

 

 

 

「お?3人揃ってどうしたんや?」

 

 話しているアリサとフェイトに近づいていこうとした烈火だったが、それと同時に教室に入ってきたなのは、はやて、すずか。

 

 フェイトが事情を説明すると……

 

「ゴメンね。私もアリサちゃんと同じで今日はお稽古なんだ」

 

 申し訳なさそうなすずか、アリサと同じ予定であったため帰りがけにこの教室まで迎えに来ていたようだ。

 

「くぅ~!面白そうやけど私も今日はどうしても外せんのや。はやてさん一生の不覚やでぇ!!」

 

 下校がてらすずかについてくる形で来ていたはやても今日は用事があるようだ。酷く残念がっているがアリサやすずかとはニュアンスが若干違う気がしないでもない。

 

 

 

 そして最後の1人はというと。

 

 

「う、うぅぅぅぅ・・・今日はアルバイトの人が急に休んじゃったからお店の手伝いがあるよぉ!」

 

 これでもかと言わんばかりに項垂れていた。

 

 なのはの母、高町桃子(たかまちももこ)から実家が経営している洋菓子店、翠屋のアルバイトが急に数名休んでしまったため、下校してから店の手伝いに入るように言われていたようだ。よほどついてきたかったのか涙目である。

 

「うーん、みんな予定があるんじゃしょうがないね」

 

 親友4人の返答を聞いて残念そうな様子のフェイト、4人とも予定が入っていたため同行できないようだが、そうでなければフェイトや烈火と一緒に回る気満々の様子であった。

 

「……」

 

 始めはわざわざ付き合わせるのも悪いとフェイトの誘いを断るつもりだった烈火だが自分が声をかけるよりも早く、あれよあれよと話が進んで行く様を見て呆気にとられているようだ。その後、流されるまま昇降口でフェイト以外の4人を見送った。

 

「ハラオウンも俺に無理に付き合う必要はないぞ。他の連中も帰ってしまったしな」

 

 友人たちも帰ってしまい、今日初めて会ったばかりの異性と2人きりになってしまっては辛いだろうと烈火は先ほど教室で言いかけていた同行を断る旨をフェイトに伝えた。

 

「そもそも私から言い出したことだし……その……迷惑だったかな?」

 

 フェイトは烈火の言葉を聞いて悲しそうな表情を浮かべる。

 

「迷惑だなんて思ってない。むしろ、俺からすれば願ってもない申し出だ……こ、こっちこそよろしく頼む」

 

 烈火は目の前のフェイトの様子から本当に自分のことを思って善意で申し出てくれた……にもかかわらず申し訳ないことをしてしまったとバツの悪い表情を浮かべている。若干、目を逸らしながら烈火の方から改めて同行を申し出た。

 

「あ……うん!じゃあ、行こう」

 

 フェイトもまた、烈火の言葉を聞いて笑みを浮かべる。肩を並べて歩き出した2人。

 

 まず、フェイトと烈火が所属する2年生の教室を回り、下級生と上級生の教室は流す程度に、図書室や調理室、音楽室といった特別教室、屋上、職員室等の学園の施設を順に回っていった。一通り見終わったのか自身の教室に戻り、鞄を手に2人は屋外に出た。校庭では多くの生徒が部活動で汗を流している。

 

「そういえば、蒼月君は部活とか入らないの?」

 

 フェイトはそんな生徒たちの様子を眺めながら烈火に尋ねた。

 

「まあ、やりたいこともないし入る気はないぞ。そういうハラオウンは何かやってないのか?」

「わ、私!?私はちょっと家の用事とかが忙しいから部活に入ってないんだ……」

「ん?ハラオウンの家は何か特別なことでもやってるのか?」

「ふ、ふぇぇ!?……まあ特別といわれたら特別かもだけど……アハハ……」

 

 教室での邂逅と共に過ごした昼食、そして今の校舎の案内と会話を重ねるうちに打ち解けてきたのだろうか、2人のやり取りからぎこちなさが抜けてきている。しかし、烈火の質問に突然言いよどむフェイト。目線を泳がせながら乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

……そんなフェイトに話題を逸らすという意味においては助け舟ともいえる出来事が起きる。

 

 

 

 

「やあ、フェイトさん。君がこの時間まで残っているなんて珍しいじゃないか」

「あ、東堂君……」

 

 フェイトと烈火の目の前に短い金髪で整った容姿の男子生徒が現れたのだ。その生徒の数歩後ろには黒髪の女子生徒が控えている。男子生徒に話しかけられた瞬間、フェイトの顔が引き攣った。

 

「君さえよければこれから食事でも……む!見ない顔だが君は?」

 

 現れた男子生徒はフェイトに近づいて親しげに話しかけ始めたが、隣にいた烈火に気づいて形のいい眉を歪める。

 

「今日からこの学校に転入してきた蒼月烈火だ」

 

「転入生か……僕は東堂煉(とうどうれん)という。その転入生である君がなぜこんな時間にフェイトさんと2人きりでいるんだい?」

 

 お互い自己紹介をする烈火と金髪の男子―――東堂煉であったが煉の方は烈火を思い切り睨みつけて威圧するように質問を投げかける。

 

「蒼月君に校舎の案内をしていたの」

 

 先ほどまで表情を強張らせていたフェイトが烈火と煉の間に割り込むように体を滑り込ませた。烈火を背に目を細めて煉の方を見つめ返す。

 

「はぁ……フェイトさんは誰彼構わず優しすぎるね。彼が勘違いでも起こしたらどうするつもりなんだい?」

 

 煉は大げさな動作でため息をつきながら首を横に振る。

 

「言っている意味がよくわからないんだけど……校舎の案内はもう終わったし、私たちはもう帰るね……行こう、蒼月君」

 

 フェイトは強引に話を打ち切って、鞄を持っていないほうの手で烈火の手を引きながら歩き出した。

 

 温厚そうなフェイトが見せた意外な一面を目の当たりにした烈火は自分が口を挟むべきでないと感じたのだろうか、無言でフェイトに合わせて歩き出す。遠ざかっていく烈火とフェイトの背を目の当たりにした煉は……

 

 

 

 

「黒枝……あの蒼月とかいう転入生について調べろ」

「はい、わかりました」

 

 煉の言葉に答えたのは先ほどから無言だった少女―――黒枝咲良(くろえださら)。腰まで届く長い黒髪、前髪は眉あたりで切りそろえられてあり、真面目そうな雰囲気を感じさせる少女であった。

 

「僕には彼にない絶対的なアドバンテージがあるとはいえ、万が一ということもある。念には念を入れておかないとな」

 

 煉は首元のネックレスを指先で弄び、括り付けられている黄金の剣を愛おしそうに撫で上げた。その口元には怪しい笑みを浮かんでいる。

 




最後まで読んでいただいてありがとうございます。
第3話はいかがでしたでしょうか?
とりあえず5人娘は出揃いましたね。
原作主要キャラが出そろうまでもうちょっとかかりそうです。

詳しい紹介はもっと話が進んでからにしようかと持っていますが今のところ出ているオリキャラは
・蒼月烈火
・東谷琳湖
・東堂煉
・黒枝咲良
の4名です。
原作、他作品キャラではございませんのでご注意を。まあ、担任教師に関しては名前の付いたモブと思っていただいて構いません。

なのは達がリリカルマジカルするシーンもちゃんと今後の展開に入ってますのでもう少しお待ちください。

感想等ありましたら是非お願いします。
次回も読んでくれると嬉しいです。

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