魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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Blood Truth

 海鳴市郊外の廃ビルに数名の人影がある。

 

「ここか・・・」

 

「ええ、この場所にすずかがいるのね」

 

「指定場所に間違いありません。用心して進みましょう」

 

 姿を現したのは高町恭也、月村忍、ノエル・K・エーアリヒカイトの3名だ。

 

 

 

 

 

 

 すずかが息抜きの為、自宅を後にして半日以上が経過した時、月村宅に一通の電話がかかって来た。

 

 その内容は月村すずかの身柄を預かったという物である。そして、解放のためには忍とノエルが指定された場所に赴く必要があるというものだ。

 

 機械によって音声を変えられており、相手の素性は定かではないが、電話中に聞こえて来たすずかの声から判断するに連中の手で身柄を確保されているのはほぼ確定と言ってもいいだろう。

 

 忍とノエルはすずか救出のため、危険を押して指定された場所であるこの廃ビルにやって来たというわけだ。相手方が人数制限を設けなかったとして、武装した恭也も連れ添っている。

 

 古いビルであり、内部の見取り図を入手して対策を立てていては指定時間に間に合わないということもあって正面から突入することとなった。

 

 万が一に備えて慎重に進む3人は取引場所である4Fまで辿り着き、その扉を開ければ・・・・・・

 

 

 

 

「っ!すずか!?」

 

 部屋の中の光景を前にして忍の悲痛な声が大広間に響く。

 

 その視線の先には猿轡を口に噛まされ、腕を身体の後ろに回した状態で縛り上げられているすずかが横たわっていたのだ。

 

 着ている私服の前は大きく破かれており、下着は身に着けているものの、膨らんだ胸元や白い腹部が露出してしまっている。スカートには手がかけられていないことや、殴打跡などが見られないことから今の所、身体的にダメージを負っている様子ではないのが唯一の救いというところか・・・

 

 

 

 

 

「久しぶりじゃのぉ。月村家当主殿とその伴侶、そして自動人形はん」

 

「あ、貴方はッ!?」

 

 忍たちの眼前に1人の男が姿を現した。3人の目が大きく見開かれる。

 

 何故ならその男の姿に見覚えがあり、本来ならばこの場所にいる筈のない者であったからだ。

 

 

「月村・・・安次郎」

 

 忍の口からその男の名が紡がれる。白く染まった髪、痩せこけた身体と皺だらけの顔・・・彼女らの記憶にある姿よりも随分と老けているが、かつて敵対し、今は警察に捕まっているはずの親戚に間違いなかった。

 

 

 月村安次郎(つきむらやすじろう)・・・彼は月村の一族に名を連ねる者であるが、夜の一族としての血は薄く、普通の人間と言っても差し支えない人物だ。

 

 数年前、月村家の遺産と遺失工学(ロストテクノロジー)の塊であるノエルとファリンを目当てに自動人形〈イレイン〉とそのプロトタイプを引きつれて忍と恭也を追い込んだ。

 

 しかし、彼らの奮戦でイレインは破壊され、その修理代によって破産、もろもろの罪状で警察に収監されたのだ。

 

 今は牢屋の中にいる筈の人物が突如として目の前に現れたのだから驚愕するのも無理はないであろう。

 

 

 

 

「親戚に対して酷い言い草じゃのう」

 

「そんなことはどうでもいいわ。なぜ貴方がここにいるの?すずかを捕らえてどうする気なの!?」

 

 芝居かかった安次郎を前に忍の目尻が吊り上がっていく。

 

「お前達への復讐と更なる金を求めてに決まってるやろ。この鈍くさい妹はんは人質っちゅうことや」

 

 安次郎は忍たちを嘲笑うかのように笑みを浮かべ、地に伏せているすずかに近寄っていく。

 

「おっと、そこの兄さん。動いたらあかんで。この娘がどうなるか分からんわけやないやろ?」

 

 すずかの近くの床が黒く焼き焦げた。すずかが飛来した何かを前に恐怖で身を固くしているのを目の当たりにすれば恭也とノエルも身動きが取れない。

 

 程なくして攻撃を放った人物が姿を現す。

 

「あ、貴方は!?」

 

 ノエルは目の前の人物に対して驚愕の声を上げた。

 

「あら、貴方はこの姿を知っているのね?」

 

 頭の片側に大きく寄せた長い金髪に赤いヘアバンド、そして紅い戦闘服を纏った女性が無機質な声で語りかけて来る。

 

 その姿を前に恭也と忍も思わずといった様子で目を見開いて驚きを表している。

 

「そうイレインだ。懐かしい姿だと思わんか?」

 

 安次郎は誇らしげに目の目の女性に目を向けた。

 

 彼女は地球の遺失工学(ロストテクノロジー)の塊である自動人形の一種〈イレイン〉・・・ノエルより後期に開発された戦闘能力に非常に優れた機体である。

 

 しかし、自動人形でありながら人間よりも自らを優先する狂暴な性格であったため危険性を考慮して封印されていたが、忍とノエル、ファリンを付け狙う安二郎の手によって解き放たれ、戦力として利用されたこともある為、彼女たちにとってみれば因縁深い相手と言っていい。

 

「貴方・・・前に痛い目を見たのを忘れたのかしら?それに前の私って・・・」

 

 忍は安二郎を牽制しながらも先ほどの女性の発言に疑問符を浮かべている。

 

 

 安二郎は戦力として利用しようとしたイレインやその量産型プロトタイプの修復(レストア)に全財産を投げ売ってかつての事件を引き起こした。

 

 結果としては性能で優るイレインはノエルの捨て身の攻撃で撃破され、プロトタイプは恭也によって処理されてしまう。

 

 さらに安二郎自身はイレインを制御しきれず、彼女の手によって大怪我を負わされて撤退、期待していた月村の遺産や遺失工学(ロストテクノロジー)のデータを手に入れることができずに破産。

 

 その後は事件の過失を問われて警察に捕まり、地位も名誉も何もかもを失う悲惨な末路を辿ったはずだ。

 

 

 そして、目の前のイレインらしき女性の発言も意味深なものであった。

 

 

「確かにそうや。ワシはなんもかんもを失ってしもうた。だが、ひょんなことからチャンスが巡って来てな」

 

「チャンスだと?」

 

 恭也は全てを失って牢屋の中にいたはずの安二郎に巡ってくるはずのない好機という単語に眉をひそめた。

 

「まあ、ちょっとした取引をしてな。こんな素晴らしいもんを手に入れることができたというわけや」

 

 安二郎の視線の先にいるのはイレインらしき女性。

 

「もうコイツが暴走する可能性はない。ワシの代わりに戦い、手となり足となる忠実な僕というわけや」

 

「暴走することがない・・・まさか!?」

 

「そう、そのまさかや。ワシの命令に服従させるために不要な感情を徹底的に排除し、より戦闘のみに特化した人形ということやな」

 

 イレインらしき女性の無機質な声と固まったような表情・・・忍の中である仮説が立てられ、それは安二郎の言葉によって肯定されることとなった。

 

「何て事・・・彼女を何だと思っているの!?」

 

 忍の声に怒気が籠る。忍にとってノエルとファリンはたとえ自動人形であろうとも大切な家族の一員である。

 

 そして彼女の記憶の中にあるイレインも少々、性格面に問題を抱えてこそいたが、表情豊かな人物であった。安二郎は目の前にいる彼女が持つ感情を奪い、自らに逆らわないように処置を施したのだという。

 

 自動人形を家族同然に扱っている忍からすれば安二郎の行いに憤りを感じるのも無理はない。

 

「道具に決まっとるやないか。お前達に復讐を果たし、ワシが巨万の富を手に入れる為だけに存在する・・・ただの道具や」

 

 安二郎は目の前の女性を道具だと吐き捨てた。

 

「それに敵の心配をしとる場合か?妹を人質に取られて、この〈トルヴ〉を目の前にして追い込まれているのはそっちなんやで」

 

 安二郎の口元が大きく歪む。イレインに似た女性の名はトルヴというようだ。

 

「残念だが、前回のように打ち破れると思ったら大間違いやで。その自動人形ではトルヴには絶対に勝てん。なぜなら・・・」

 

 ノエルの事を指差しながら、安十郎の口元が歪む。

 

 

 

「な、何だと!?」

 

 恭也は思わず息を飲む。忍とノエルは声を発することもできなかった。

 

 

 

 何故なら・・・・・・

 

 

 

 

 トルヴの足元には円環状の魔法陣が渦を巻いている。それは赤色の光を放つミッドチルダの魔法陣・・・地球で作られた自動人形が起こすはずのない現象を目の当たりにしてしまったからだ。

 

「このトルヴは自動人形ではなく魔導人形というんやて。これの完成度を上げるために地球の遺失工学(ロストテクノロジー)のデータを欲しいそうや。ワシは牢から出て巨万の富を得る。取引を持ち掛けて来た奴はそこの自動人形の技術を得る。正に利害の一致ってことやな」

 

 安二郎は勝ち誇ったように笑い声を上げる。例えノエルに戦闘能力があると言っても、魔導の力を扱えるトルヴに勝ち目はないだろう。恭也とて魔法を使う相手に対して優位に立ち回るのは難しい。忍の戦闘能力は前者2人にはかなり劣るため、トルヴに対抗する手段は現状ないと言っていい。

 

「抵抗しようもんならどうなるかわかってるやろな?」

 

 すずかは周囲からの視線を一手に集めてしまい、思わず体を震わせた。人質がいなければ、もっと案を練り、装備を整えて安二郎と対峙することができたであろうが、それをさせないためにすずかを狙ったということだ。

 

 

 加えて敵か魔法を使えるという異常事態・・・

 

 さらには・・・

 

 忍たちを取り囲むようにトルヴと同じ顔、姿をした女性型の魔導人形12体が姿を現した。瞳に光は宿っておらず、機械じみた無表情がなんとも不気味だ。図ったかのように全員が腕部からブレードを出現させ、その刃に赤い魔力を纏う。

 

 

 

 

 両手足を縛られているすずかはその様を黙って見ていることしかできない。

 

 なのはやフェイトの模擬戦を何度も間近で見て来たすずかだからこそ分かる。戦闘中の余波ですら、なのはの砲撃でビル群は薙ぎ倒され、フェイトの斬撃で海面が割れる。

 

 相手が行使するのは空を駆け、次元を超え、傷を癒すこともできる文字通りの魔法の力なのだ。恭也やノエルが強いとは言っても強さの次元が違うという事であり、勝ち目は薄いはずだ。

 

 

 

 

 すずかの瞳から大粒の涙が零れる。

 

 自分の家族がこのような窮地に追いやられているのは、捕らえられてしまった自分の責任であると自らを責め続けているのだろう。

 

 忍たちがこのことを知れば原因は安次郎なのだから悪くはないというのだろうが、口を塞がれているすずかに自らの想いを伝える手段はない。

 

 

 

 

「男は殺せ。後の2人は立てなくなるまで痛めつけろ。大事な取引材料やからな」

 

「了解しました」

 

 安次郎はトルヴへと戦闘指示を出した。

 

 

 

「何もかも持っているお前達がワシのような凡夫にしてやられた気分はどうや?ん?」

 

 忍の事を侮蔑するかのように安次郎の口元が卑しく歪む。安次郎は夜の一族の血を色濃く受け継いだ忍とは違い、一族の血が流れているだけの普通の人間である。それゆえの嫉妬、それゆえのコンプレックスは以前にもまして大きくなっているようだ。

 

「ちなみにビル周辺は特別な装置によって魔力のジャミングをしとるから、近くに駐屯しとる、時空管理局っちゅう奴らは此処で起きてる事に気づかへんらしいで!」

 

 このビルで発せられている魔力反応に気が付いたなのは達がここに来るという最後の希望すら潰えた。

 

「・・・やれ」

 

 安次郎の合図とともにトルヴの手に赤電を纏った鞭が姿を現した。そしてそれを振りかぶる・・・

 

 

 

 

 すずかの眼前で自らの大切な家族に凶刃が迫る。希望は潰え、全てが終わってしまったと感じたその瞬間・・・フロアの天井が落ちて来た。

 

 

 

 その場にいた全員の動きが硬直する。

 

 

 

 

 そして、床に積み上がった瓦礫の上には1人の少年の姿が・・・

 

「何もんじゃ!?・・・ちぃ!まずはアイツからやってしまえ!!」

 

 安次郎は怒号を上げるが少年---蒼月烈火は言葉を返さない。業を煮やした安次郎により指示を受けたトルヴの電磁鞭が烈火に向けて飛び立ち、立っていた部分を消し飛ばした。

 

「ふん、やったか!?」

 

 

 

 

「それはどうかな?」

 

 取るに足らない存在であったと鼻息を荒くしていた安次郎の耳に少年の声音が響く。弾かれたように背後を振り向けば、烈火が床に転がっていたすずかの拘束を解き、その身体を横薙ぎに抱きかかえているではないか。

 

 

 驚愕もつかの間、間髪入れずにトルヴの鞭が襲い掛かり2人のいる部分を焼き焦がすが・・・

 

 

「恭也さん。月村をお願いします」

 

 鞭の先に2人の姿はない。そして聞こえるはずのない声が背後からしたため振りむけば、いつの間にか移動していた烈火が恭也にすずかを手渡している。

 

 またもやトルヴの鞭は空を切ったのだ。

 

「いったい何なんや!?何者なんや!?何故ここが!!」

 

「ただの通りすがりだ。気にするな。なぜここかが分かったかというとだな」

 

 烈火は安二郎の言葉に肩を竦めながら答え、ポケットから踏み壊された携帯電話を取り出した。それはトルヴ達によって破壊されたすずかの携帯電話である。

 

「出かけている俺達に途中から月村が付いてきていたのは何となくわかっていたが、フェイト(アイツ)と別れたところで気配が突然消えた。何事かと向かってみれば明らかに人為的に破壊された携帯電話が転がっている」

 

 今日一日、フェイトと共に過ごしていた烈火だが、すずかの尾行に気が付いていたという。

 

「何らかの手段で魔力妨害をしながらここに転移してきたんだろうが、甘かったな。現場に残されていた携帯電話に僅かに魔力残滓がこびり付いていたため異常事態だと判断した。最も、この場所も魔力察知を妨害する何かが施されていたから、探すのには相応に時間を取られてしまったがな」

 

 現地の管理局員に一切気づかれることなく行われた一連の誘拐であったが、現場付近にたまたま居合わせていた烈火にその痕跡が消える間に捕捉されていたのだ。先ほどの安次郎の言葉通り、このビルに施されている魔力察知を妨害するジャミングのような処置によって到着が大分遅れてしまったようではあるが。

 

「お前も魔導師っちゅうん奴なんか!?アカンで、管理局にだけは見つかるわけにはいかへんかったっちゅうのに」

 

 安次郎は自身も魔法を行使したと言わんばかりの烈火の口ぶりに焦りの表情を浮かべている。

 

「俺が魔導師かについてはYESだが、管理局には所属していない」

 

「ほう・・・ならおまんの口を塞げばいいわけやな」

 

 烈火の回答に安次郎は小声で呟きながらほくそ笑んだ。ジャミング機能が働いているこの中で烈火を処理できれば情報が漏洩することはないとトルヴに一瞬、目配せをする。

 

 

「というかあんさんにその化け物を助ける理由がどこにあるんや?」

 

「化け物だと・・・どういう意味だ?」

 

「そかそか、何も知らへんのやな。つまりは後ろの化け物達に騙されてるっちゅうわけや。月村っちゅうんは特殊な家系でな・・・」

 

 烈火は訝しげな表情を浮かべながら、安次郎の意味深な発言に耳を傾けている。

 

 

「ま、って、言わないで・・・」

 

 すずかの制止を呼び掛ける掠れるような声は彼女を抱いている忍に以外には届かない。

 

 

「月村の血を引くものは夜の一族と言われとる。夜の一族っちゅうんはな、人間の血を吸い、長い寿命と強靭な体を持っている。世間一般ではこういう風に言われるんや・・・・・・吸血鬼ってなぁ!!!普通の人間であるあんさんが正体隠して近付いて来たその化け物を庇い盾する理由なんてないやろ?」

 

 親友達にすらひた隠しにし続けて来た夜の一族であるということ。安次郎によって告げられた残酷な真実。

 

「夜の一族は定期的に異性の血液を摂取しないと生きてはいけへんのや。後ろの黒髪2人はその血をより濃く受け継いでいる。つまり、あんさんの事をただの血袋だと思っているかもしれへんなぁ」

 

 安次郎は口元を吊り上げながら芝居かがった動作で烈火に言葉を紡いでいる。

 

 

 すずかは自分の日常が音を立てて崩れていくのを感じた。烈火に知られたということはなのはやアリサ達に知られるのも時間の問題であろう。最早、安次郎の言葉を否定する気力すら湧いてこない。

 

 

 次の瞬間・・・烈火の立っていた所が煙を上げて、消し飛んだ。

 

 

 トルヴと量産型2機の3つの電磁鞭が赤電を纏って烈火に襲い掛かったのだ。完全に不意を突いた襲撃、非殺傷設定(スタンモード)は外している。これで死んだだろうと安次郎は内心でほくそ笑んだ。

 

 

 

 

「・・・そうか、それは驚きだな」

 

 煙の中から聞こえて来るのは感電死したであろう少年の声。

 

 

「なっ!?」

 

 驚きを表す安次郎の視線の先には傷一つ負っていない烈火の姿があった。

 

 その右手には純白の剣が逆手で収まっており、向かって行った電磁鞭は全て切断されている。全てを見透かすような蒼瞳が安次郎を射抜いた。

 

 

「そうか・・・やと!?何でそないに冷静でいられるんや!!」

 

 安次郎の額から汗が流れる。目の前の烈火がすずかたちの真実を知っても動じていないからか、不意打ちに完璧に対処されたなのか、はたまたその両方の理由からか、余裕のない表情で声を張り上げた。

 

「吸血鬼が実在したことには十分に驚いているさ。とはいえ、今はどうでもいい話だ。月村たちと敵対するにせよ、事情を聞くにせよ、今は目の前の脅威を斬り捨てるだけだ」

 

 烈火は忍が、すずかがひた隠しにし続けて来た真実を一掃し、彼女らを背にしてトルヴに向き合っている。

 

 トルヴが動きを見せる前にと背後で固まっているすずか達4人を蒼い水晶の様な魔力障壁で囲んで防御体勢を整えた。

 

 

「っ!ちぃ!!?・・・あのガキを殺ってまえ!!」

 

 烈火に対して精神的な揺さぶりをかけていた安次郎だったが気が付けば自分の方が動揺させられている事に少なからずの焦りを覚えているようだ。トルヴ達に烈火を標的にして攻撃するように指示を出す。

 

 

「烈火君。奴の近くにいる指揮官機は俺に任せてくれないか?」

 

「恭也さん?」

 

 トルヴが電磁鞭に、腕部ブレードに、魔力を纏わせて突っ込んでくるため対処に当たろうとした烈火の隣に2本の小太刀を抜刀した恭也が並び立つ。烈火の障壁が展開するよりも早く月村の一団から離れていたようだ。

 

「少々、思うところがあってね。それに御神の剣士はあんな人形には負けないさ」

 

 烈火は恭也の申し出に驚くように目を開いた。

 

 エース、ストライカー級には程遠いもののトルヴも一般の魔導師と比較しても魔力量に関してはそれほど大きな差はない。魔力を行使できない恭也では不利だろうと制止をかけようとしたが、彼から感じる剣気、威圧感に思わず口を噤む。

 

 

「分かりました。雑魚は全て俺が引き受けます」

 

「・・・感謝する」

 

 烈火は恭也から何かを感じ取ったのか、指揮官機の相手を任せる事にしたようだ。

 

 

「お礼は翠屋のおすすめメニューでいいですよ」

 

「ああ、母さんには俺から話を通しておこう。好きなだけ食べていくといい」

 

 

「お前らは何を言っとるんや!!?」

 

 魔法文明のない地球においてトルヴを保有していうということは戦力面で絶対的なアドバンテージを得る事になる。それも13機だ。安次郎は魔導師という物に詳しくはないが、すずかと同年代と思われる烈火1人で戦況を変えることができるとは思えない。恭也やノエルに戦闘能力があるとはいえ、魔力を扱えるトルヴとは圧倒的な差がある。

 

 であるにもかかわらず、追い詰めているはずの彼らが軽口を叩き合っている様子を理解できないのだろう。

 

 その瞬間、安次郎は吹き荒れた突風に吹き飛ばされるように地面に倒れ込む。

 

 吹き抜けた烈風の正体は烈火が逆手で振るったウラノスの刀身から発せられた蒼い光であった。ただし、攻撃目的で放たれた斬撃ではなく、魔力を纏った剣圧である。

 

 

 

 

「トルヴッ!?」

 

「・・・ええ、分かったわ。障害を排除します」

 

 安次郎と指揮官機の前に吹き荒れた烈風に乗って量産型の間を突っ切って来た恭也が姿を現し、その手の剣の切っ先を向けた。

 

 

 

 

「天井をぶった斬って来た俺が言うことではないが、この建物が長時間の戦闘に耐えきれるとは思えない・・・後ろの3人を守り、建物を傷つけずにこいつらを無力化する」

 

 烈火は戦闘装束であるロングコートを展開しながら呟いた。

 

 この場所は古い廃ビルであるため耐震性は高くない。大がかりな魔法を行使した場合に倒壊の恐れがあるということだ。

 

 つまり、烈火が強力な魔法を使えないことは勿論だが、相手側にも建物を崩れさせるほど火力の出る攻撃をさせてはならないという事でもある。

 

 そして背後には非戦闘員のすずか達・・・

 

 

 

 

 夜の一族、自動人形、御神の剣士、ソールヴルム式を操る魔導師、そして何者かによって生み出された魔導人形達・・・

 

 時空の壁を越えて集った本来ならば、混じり合うことのない者達による戦いの火蓋が斬り落とされた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

オリジナル要素満載となっていますが一応リリカルなのはの小説でございますよw

次回はバトルパートとなります。

第3章は後2話くらいで終わる予定です。


しかし、劇場公開終了までDetonation熱が収まる気がしない今日この頃ですな。


感想等が私の動力源となっています。
今はモチベも爆発していますが、頂けましたら更にモチベが爆上がり致します。

では次回お会いしましょう!

ドライブイグニッション!

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