魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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月夜白光のDark Bright

 廃ビルの中で瞬くように魔力光が煌めいている。激しい戦闘が繰り広げられているようだ。

 

 

 量産型トルヴの内1機が腕部ブレードに魔力を纏わせて烈火に斬りかかって来た。

 

 

 烈火は右手の刀剣状態のウラノスで迎撃する。僅かに蒼い光を発している刀身は迫ってくる魔力刃、それを纏っている実体刃をトルヴの右肘から先ごと両断した。そのまま、逆手に持っていたウラノスを上手に持ち替え、振り切れば、片腕を失って無防備になっていたトルヴの上半身と下半身を真っ二つに斬り裂く。

 

「単体戦力で見れは脅威ではないが、崩れかけの建物の中で徒党を組んで襲い掛かって来るのは少々厄介だな」

 

 撃破したトルヴを蹴り飛ばしながら、烈火は気怠そうに息を吐いた。伸縮可能な鞭、取り回しに優れた腕部ブレードという狭い空間での戦闘を想定した装備。

 

 数的有利をフルに活用して波状攻撃を仕掛けてこられては、防衛対象を複数抱えている烈火は普段通り戦うことが叶わないようだ。廃ビルの倒壊の可能性がある為、高威力の魔法を行使することができないのだから余計にであろう。

 

(胸部にある魔力コアからの供給を経て、身体を動かしているという事か。だが・・・)

 

 烈火は先ほど身体を斬り飛ばしたトルヴの上半身が動き出し、電磁鞭を振るって来たため、左腕に出現させた銃を放ち、胸を撃ち抜いた。

 

 上半身と下半身を両断しても動き出したトルヴであったが胸部を吹き飛ばされれば、その目から光を失い、機能を失ったかのように崩れ落ちる。

 

 トルヴは胸部に魔導師で言うリンカーコアのような器官があり、それを動力に動いているようだ。魔力は主に動力源となっているようであり、今の所は懸念している魔法攻撃を繰り出してくる様子が見受けられないが、烈火の表情は芳しくない。

 

(それにしても、驚くべきはあちらか・・・)

 

 烈火の視線の先には指揮官機と対峙している恭也の姿がある。

 

 トルヴは高火力の魔法を使って来る様子がないとはいえ、魔力攻撃を繰り出してくることには変わりない。それに動力源が魔力である以上、身体能力も強化魔法を使っている魔導師と比べても遜色がないであろう。

 

 であるにも関わらず、対峙している恭也はトルヴの動きを完全に見切っているのだ。主兵装である小太刀は鞘に納められており、苦無に似た投擲武器〈飛針〉、袖口に仕込んであるワイヤー〈鋼糸〉駆使して、互角に立ち回っている。

 

 

 

 

「このっ!?ちょこまかと!!」

 

 トルヴは自身が振るう電磁鞭が空を切り続け、時折、恭也から飛来する暗器を障壁で防いでいる為、攻め切ることができずに表情を歪めている。

 

「何やっとるんや!?相手は魔法を使えへんのやぞ!!」

 

 安次郎は1機の量産型トルヴを引き連れて戦闘域から離れ、安全な場所で声を荒げていた。

 

 このトルヴが持っている絶対的な力。単騎での空中浮遊、空間移動、身体強化と使用者に地球の文明ではありえないほどの力を(もたら)す魔法を持っているにも拘らず、現地人の青年1人に攻撃が掠りもしないことに苛立ちを覚えているようだ。

 

 

 

 

「身体強化無しであの動き、ホントに人間か?」

 

 烈火は恭也の動きを見て頬を引くつかせている。姿形は女性とはいえ、魔導人形である以上、身体能力、攻撃力、防御力とあらゆる面でトルヴに分があるはずだ。

 

 だが、恭也はあくまで冷静であった。軌道を変える変幻自在の電磁鞭も腕部ブレードでの近接格闘も先の先を読んでいるかの如く、華麗に回避して相手を手玉に取っているのだ。

 

 しかし、このままでは時間を稼げても勝利することはできない。それは恭也も承知の事であろうが、回避に専念して攻勢に出ない理由は、トルヴと恭也には魔力の有無という絶対的な差があるからだ。

 

 

 恭也の主兵装は二本の小太刀。高速で振るわれるソレは無双の剣戟を奏でるが、今回は事情が少し変わっている。

 

 相手は武器に魔力を付与することよって常に非魔力保持者よりも強力な攻撃を繰り出すことができるのだ。そして、恭也の持つ刀は日本刀の一種であり、相手の武具と正面から撃ち合うには不向きである。

 

 恭也の戦闘技能がトルヴを上回っていようとも相手の魔力攻撃と正面から激突した場合、刀自体が破損してしまう可能性が高い。ましてや魔力障壁に叩きつけようものならそれは確実的なものとなるであろう。

 

 

 昨日、烈火が戦ったクラーク・ノーラン程度の相手なら、恭也の戦闘技術をもってすれば力技で捻じ伏せる事も可能だったろうが、指揮官機のトルヴはそんなに甘い相手ではない。

 

 だが、恭也の瞳からは確かな戦意が感じとれる。烈火が量産型を片付けるまでの時間稼ぎをかって出たわけではないのだろう。

 

 そんな確信が烈火の胸には渦巻いていた・・・・・・

 

 

 

 

「厳密には違えど、こんな形でまた向かい合うことになるとはな」

 

 恭也は感慨深そうに呟く。目の前のトルヴの容姿は因縁深いイレインと瓜二つであるからだ。かつての事件の際には敵の最大戦力であるイレインの相手はノエルに任せっぱなしであり、恭也自身はプロトタイプ数機と戦うのみであった。

 

「俺は大馬鹿野郎だ。家族を、大切な人達を〈護る〉と剣を修めておきながら肝心な時に全力を尽くすことができなかった」

 

 恭也の脳裏に蘇るのかつての記憶。士郎が瀕死の重傷を負い、倒れてしまった時の事・・・

 

 士郎の代わりにならねばと無茶をした結果、膝を壊してしまう。剣を振るう時間が減ったおかげか、剣士としての美由希が自身のようにならない為にと・・・オープンしたての翠屋を軌道に乗せるべく必死だった桃子の支えとなるべく打ち込めたのかもしれないが、御神の剣士としての高みにたどり着くことができなくなってしまった。

 

 

 そんな中で忍と惹かれ合い、想いを深め、家族以外の大切な人ができた。渦中に起きた先の事件・・・終始サポートに徹することしかできず、安次郎を退けたものの、ノエルは大破してしまうことになる。

 

 〈護るべき者〉を守れなかったのだ。

 

 結果としてノエルは修復されて今は無事ではあるものの、かつて無茶をせずに落ち着いて行動し、膝を壊さずに修練を積んでいたのなら、自らが矢面に立ってイレインと戦えたのかもしれない。

 

 そんな後悔の念がなかったと言えば嘘になるのであろう。

 

 

 

 

「ごちゃごちゃと!!これで終わりよッ!」

 

 トルヴは背後に大きく飛んだ恭也の着地を狙って電磁鞭をその首へと打ち放つ。完璧なタイミング、赤電を弾かせる鞭で頸動脈を焼き切れば恭也は死ぬだろう。勝利を確信したトルヴは口元を吊り上げる。

 

 

 

 

 だが・・・恭也の姿は着地地点から横に変化していた。いや、瞬間移動でもしたかのように真横にズレていたのだ。

 

「何!?リンカーコアも持っていないのに加速や転移魔法が使えるわけが!?」

 

 魔力を感じない相手が起こすはずのないありえない現象・・・トルヴはデータに無い現象を前に動きを硬直させてしまっている。

 

 

「この戦いで俺が剣を抜くのはこれが最後だ。皆のおかげで膝の故障は完治し、ようやく踏み込めた境地・・・」

 

 恭也は静かに2本の小太刀の柄に手をかけた。

 

 そして・・・

 

「今度こそ護ってみせる。その証明のために、君を斬る!!」

 

 前線を退いた父、士郎から譲り受けた漆黒の小太刀〈八景(やかげ)〉を抜き放つ。

 

 

 

 

 その瞬刻・・・場にいた誰もが言葉を失った・・・・・・

 

 

 

 

「え?」

 

 間の抜けた表情を浮かべたトルヴの身体は標的を外した電磁鞭を引き戻そうと右手を伸ばしたまま、地面に崩れ落ちる。その上半身は左手と胸部を真一文字に斬り裂かれたものであった。

 

 

 故障していた膝を完治させた恭也が踏み込んだのは〈永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術〉の奥義の中の極み・・・力も速さすら超えた境地に達した者だけが使える究極の抜刀術。

 

 その名を〈閃〉。

 

 この絶技の前には間合いも距離も全てが無に帰す。高町恭也は年月を経て完成された御神の剣士へと進化を遂げていたということだ。

 

 

「確かに魔法は強大な力だ。だが、それがないからと戦わない理由にはならない。御神の剣士が歩むのを止める理由にはならないんだ。俺の大切な人達を奪われてたまるものか・・・」

 

「ひぃ!?」

 

 恭也の眼力に安次郎は腰を抜かして、床に座り込んだ。

 

 

 戦いの中で恭也はトルヴへの対策を立てていた。厄介なのは軌道を変える電磁鞭、そして近遠距離武器のどちらにも対応する魔力障壁。

 

 だからこそ、相手の大振りを誘うために敢えて距離を開け、それを接触寸前に奥義〈神速〉による超速回避・・・・・・

 

 トルヴが鞭を引き戻すより前に、魔力障壁を展開させる間もなく、奥義〈閃〉で斬り捨てるという物である。

 

 

 

 

「ま、まだ終わってへん!?量産型の数の暴力でどうにかできる・・・はず・・・や?」

 

 安次郎は体を震わせながら怒号を上げる。性能に優れる指揮官機を失ったことは計算外であるが、トルヴは烈火に撃破されたものを除けばあと11機もある・・・

 

 だが、余裕を取り戻そうとした安次郎の隣にいた量産型が吹き飛んだ。

 

 呆然とした表情で安次郎は量産型の行く末に目を向ける。吹き飛んだ量産機は胸に蒼い剣が突き刺さり、機能を停止させられて壁に磔状態となっていた。

 

「恭也さんが倒した物も含めてこれで13機だ」

 

 安次郎は信じられないものを見るような眼で烈火の声がする方を振り向く。

 

 そこには、首、腕、足・・・四肢を欠損した量産型トルヴ達が胸から蒼い剣を生やして倒れている。即ち、烈火の方に放った11機の戦力が全滅している光景が広がっていた。

 

 

 

 

「う、動くなぁ!!!動いたらそいつら全部を自爆させるで!!」

 

 敗北を悟った安次郎だったが、腰を抜かしたまま後退り大声を張り上げる。

 

「へ、へへっ!その小僧が魔法を使えたとしても、これだけのトルヴが自爆すれば耐え切れへんやろ?わしが無事に脱出できるまで一歩も動くなや!!」

 

 トルヴの自爆・・・それが安次郎に残された最後の策である。その発言にすずか達の身体が思わず強張った。

 

 

「な、何しとるんや!?動くなって言っとるやろ!!!!」

 

「自爆なんてさせないさ。言っただろう?これで13機だってな」

 

 烈火は安次郎に向けて歩を進めていく。

 

「13機全ての魔力核を潰してある。再起動はおろか、自爆すらできないはずだ」

 

 安次郎に告げられたのは絶望の真実。烈火は万が一の可能性に備えて、戦っている全ての機体の魔力核を剣状の魔力スフィアで潰していたという事であり、新たな魔力コアを与えなければトルヴが動き出すことはないということだ。

 

 

「答えろ。お前にこの人形を渡したのは何者だ?」

 

 烈火は蹲って体を丸める安次郎にウラノスの刀身を突き付けて問いかける。

 

「わ、分かるかいな!?突然、知らん男が面会に来て・・・」

 

 安次郎の口から当時の状況が語られた。

 

 服役中の安次郎に接近してきたのは白衣の男だという。地球に伝わる遺失工学(ロストテクノロジー)である自動人形についてのデータが欲しいということでその在処を探っているとのことだ。

 

 破産して服役中の安次郎は全てがどうでもいいといった様子で、自身をこの場所から出して自由にさせることを条件にその在処を教えるということを吐き捨てるように提示した。

 

 服役中の自分を外に出すなど不可能だと思っていたが、鬼気迫る表情の男はその条件を了承し、なんと安次郎は塀の外に出ることができたのだ。

 

 見知らぬ男が遺失工学(ロストテクノロジー)について知っていたことは驚きである。

 

 自身を外に出すことができた事から、それなりに権力を持つ裏の人間であろうと思っていたが、男から知らされたのは魔法という超常の力。

 

 それを利用した魔導人形という物を作っているとのことだ。だが、安次郎はそこで自動人形の在処を告げることをせず、さらなる要求を突き付けた。

 

 自動人形とその主には個人的な恨みがある為、自分が捕らえて来るということであった。

 

 男は交渉慣れしていないのか、完成していない魔導人形はそれほど重要度が高くないのかは定かではないが、安次郎に言われるがままにトルヴの姿をイレインと同じに作り変え、彼に13機を渡した結果が今回の事件を引き起こす切欠になったということだ。

 

 

「知っていることはそれだけか。お前に接触してきた男についての素性・・・何らかの組織に所属していたりは?」

 

「わ、分からん!!・・・だが、なんかの名前を言ってた気がするで。う、ウロボ・・・ウロボロスやったかな?ワシの知ってることはそれだけや!!!!」

 

無限円環(ウロボロス)・・・だと!?」

 

 烈火に問い詰められた安次郎の答えは衝撃的なものであった。無限円環(ウロボロス)・・・その名に聞き覚えがあるためだ。管理外世界ルーフィスで起きた魔導獣襲撃事件の主犯格であるフィロス・フェネストラの背後にいたとされる勢力と名称が一致している。

 

 新たな疑問が湧いて出たが、目の前の安次郎が知っているのはそこまでのようだ。

 

「そうか、どうやらここまでのようだな」

 

 烈火は突き付けていたウラノスを格納し、安次郎に背を向けた。

 

「後はお任せします」

 

 安次郎は剣を差し向けられている状態から解放されたからか安堵の域を漏らしたが、次の瞬間には再び体の震えが止まらなくなる。

 

 

「ええ、残りは私に任せておいて」

 

 入れ替わりで安次郎の前に立ったのは忍だ。

 

「あ、ああ・・・」

 

 安次郎から絶望の声が漏れる。

 

「貴方が再び行動に出た理由は把握しました。もう話すことは何もない。夜の一族の事、魔法の事、全て忘れてもらうわ」

 

 忍の瞳が深紅へと光彩を変えた。夜の一族が持つ記憶操作能力が発動しようとしているのだ。トルヴの魔力による妨害が出来なくなった以上、安次郎には身を守る手段すらない。

 

 普通の中年男性程度の力しか持たぬ自身では戦闘能力を持つ烈火、恭也、ノエルは勿論の事、忍やすずかにすら敵わないであろうことは安次郎自身が最も理解しているからか逃げ出す気力さえないようだ。

 

「や、やめっ!?・・・ああぁぁぁ!!!?ぁぁぁぁぁっっっっっ!!!???」

 

 忍の深紅の眼が光を放ち、安次郎は悲鳴ともに意識を失う。

 

 次に目が覚める時、安次郎がどうなっているかは定かではない。しかし、彼が今後、日の目を浴びる事がないという事だけは確かである。

 

 

 

 

「ともかくここを離れましょう」

 

 烈火は忍らにこの廃ビルからの退去を申し出た。

 

「ええ、それには賛成だけど、随分焦っているわね」

 

「この辺り一帯のジャミングが継続しているうちにこの場所を離れないと管理局に気づかれてしまいますので」

 

「む、なのは達にバレてしまうと不味いことでもあるのか?」

 

 忍と恭也は首を傾げながら烈火に問いかける。

 

「ハラオウン統括官やなのは達に知られる分には何の問題もないでしょう。ですが、他の管理局員に知られる可能性があるととなれば話は変わってきます。情報漏洩の怖さは俺よりも貴方達の方が分かっていると思いますが・・・」

 

 烈火が言わんとしていることに察しがついた2人は静かに頷いた。

 

「使い魔や守護獣、召喚魔法などがある分、地球人よりは寛容かと思いますが、夜の一族、自動人形、遺失工学(ロストテクノロジー)と、この世界独自の物ばかりでしょうし、やはり何らかの興味を持つ連中が出てくるはず・・・実際、今回の目的はそれでしたしね。危険は少ない方がいい」

 

 すずかとノエルも烈火の説明に静かに頷く、

 

 

 

 

 5人は意識のない安次郎を引きずりながらフロアを後にしようとしている。

 

「そういえば、あの人形達も後で回収しないと・・・分解もしたいし・・・ね!??」

 

 忍は機能を停止している魔導人形に目を向けるが・・・

 

 トルヴの胸に生えていた烈火の蒼い剣が漆黒の炎を纏った事に驚愕の声を漏らす。

 

 

「消し飛べ・・・」

 

 烈火が先ほどいたフロアを睨み付ければ、辺りを衝撃が包み込む。後ろの4名は蒼い魔力障壁によって爆風から守られた為、無事の様であるが、戦闘を繰り広げた4Fの床が消滅し、文字通りの床抜け状態となっていることに驚きを隠せないでいる。

 

「あんな物を持っていると、余計な争いに巻き込まれるかもしれません。大した情報も得られなそうですし、全機消滅させました。ではやることをやってどこかで話でも?」

 

 魔導人形は未知の存在であるが、魔法世界に似たような現象を引き起こす機械や魔法は存在する。それの応用であろうことが予測される上に、あの魔導獣に関わっているような強大な財力を持つ組織が、安次郎程度の人間のいいなりとなって魔導人形をチューンアップして提供するとは考えにくい。

 

 それに烈火がシグナムから聞いている情報では捕らえた魔導獣の解析は済んだようだが、その背後にいる者達への情報源へとなり得ていない。次元世界でもそう珍しくない技術の応用と思われる魔導人形が魔導獣より優れているとも思えない為、こちらも大した情報が得られそうにない。

 

 本来ならば持ち帰って解析したいが、魔導人形は無限円環(ウロボロス)に関わっている可能性がある。情報源になり得る希望が薄く、持っているだけで組織に狙われかねない危険性のある物を所持するならば、デメリットの方が多い。

 

管理局に渡すとなると今回の事件が公になり、先ほど懸念していた事態になる可能性もある。

 

 そして、周到に見えて杜撰な事件のシナリオから、安次郎に戦力を提供した存在は無限円環(ウロボロス)末端の人間であり、その人物による独断行動ではないかと予想を付けたからこそ、魔導人形の破壊を試みたのだ。

 

 

 

 

「分解・・・解析・・・」

 

 忍は目の前に転がっていたオーバーテクノロジーの塊が消滅してしまったせいか、瞳を潤ませてプルプルと体を震わせている。

 

 

 かつて管理局のデバイスや烈火のウラノスを解析しようとして断られたことがあった。元々、魔法技術に興味があった上に、ノエルらを修復(レストア)したのは忍自身である為、似たような性質を持つ魔導人形を興味深い物だと思っていた所だったのだが、目の前でそれが吹き飛んでしまったため、少なくないショックを受けているようだ。

 

 

「これは?」

 

「この辺りの魔力反応を感じ取れなくするための処置だ。周囲の魔導師に戦闘があったことを悟られないようにする。今からジャミング装置を斬りに行くからな」

 

 ノエルに抱かれているすずかが烈火の行動に首を傾げる。このビル内にあると思われるジャミング装置を破壊した時に周囲に先ほどまでの戦闘を悟られないようにするとこのことだ。

 

 数分後、烈火の手によって魔力探知を妨害していたジャミング装置が破壊され、一同は月村家へと向かった。

 

 

 

 

 いつか試験勉強をした部屋に用意されている椅子に烈火、忍、恭也が腰かけており、ノエルは壁に沿うように立っている。

 

「お、お待たせしました」

 

 トルヴに服を引き裂かれてあられもない姿になっていたすずかは新たに洋服を着替えて、皆の前に姿を現した。どうやらファリンも同行していたようである。

 

 この部屋に今回の事件の関係者が集った。

 

「まず今回の事件だけれど、蒼月君。貴方のおかげで全員無事に戻ってくることができました。ありがとう」

 

 忍は烈火に対して頭を下げ、謝礼を述べる。当初は相手の狙いが夜の一族なのか、単純に令嬢のすずかだったか明らかではなかったが、まさか、月村安次郎が魔法の力を携えて襲ってくるとは夢にも思っていない。烈火が人質のすずかを救っていなければ犠牲者を出さずに戻ってくることはできなかったであろう。

 

「わ、私からもありがとうございました」

 

 忍に倣うようにすずか、ノエル、ファリンも頭を下げた。

 

「大したことはしていませんので、皆さん頭を上げて下さい」

 

 烈火はその様子に若干焦った様子を見せている。すずか以外、年上である面々が自身に頭を下げて感謝を述べている光景が落ち着かないのだろう。

 

 

「で、アイツが言っていた夜の一族だとか、さっきの紅い眼は一体何なんですか?」

 

 烈火は頭を上げてもらった忍たちに改めて夜の一族について尋ねる。

 

「ここまで来たら隠してはおけないものね・・・夜の一族っていうのは---」

 

 忍の口から夜の一族について、かつて月村安次郎が起こした事件についての詳細が語られた。

 

 

「なるほど・・・本当に吸血鬼ってことなんですね」

 

 烈火は驚きを表すかのように静かに息を吐く。戦闘中より幾許か感情が表情に出ているようだ。

 

「え、っと、騙しててごめんなさい」

 

 すずかは瞳を揺らしながら烈火の事を見つめている。周囲に隠してきたことがとうとう明るみになってしまった。自らが周囲の人間とは違う化け物であることを認識されてしまったため、拒絶されてしまうのではないかという恐怖に駆られているのだろう。

 

「いや、出会って時間も経っていないような相手に打ち明けるような内容ではないだろう。騙されたなんて思っていないよ。それに出自だがどうであれ、君は月村すずかだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 烈火の返答により、気味が悪いと思われるのではないかと俯き気味だったすずかの顔が弾かれたように上がる。

 

「普通の人間でも夜の一族でも、俺は月村への接し方を変えるつもりはない。夜の一族かどうかなんてどうでもいいさ。まあ、血を吸われるのは勘弁だがな」

 

 紡がれたのは拒絶でも排斥でもなく存在の肯定。夜の一族であろうとなかろうと今まで通りの関係を続けるという物であった。

 

「う、うん!うん!!・・・ぅぅ、ひっく・・・」

 

 すずかは烈火の言葉を聞いて、嗚咽と共に涙を流す。

 

 自身が今まで憧れて来た吸血鬼の姫と王子の話の様にロマンチックなものではないのかもしれない。

 

 だが、吸血鬼の血を引く少女は白い騎士によって救済された。それだけは確かということだ。

 

 

 

 

「蒼月君は夜の一族の秘密を知った人間ということになるわけなんだけど、そういう人相手には一族の慣わしがあるの---」

 

 忍は烈火に向けて夜の一族の秘密を知った者への掟を語りだす。

 

 選択肢は2つ。夜の一族に関しての記憶を消すか、記憶を残したまま共に歩むかという物であった。

 

「記憶を消されるわけにはいきませんし、当然残します。別に言いふらすつもりもありませんしね」

 

 烈火は迷うことなく答える。

 

 

「そう・・・じゃあ、改めてよろしくね。義弟クン!」

 

「はい?」

 

 忍の発言を前に烈火は珍しく間の抜けた表情を浮かべた。聞き逃せない衝撃的な単語が耳に入ってきたためであろう。

 

「だって、記憶を残すってことはすずかと生涯を共に歩むってことじゃない。つまりは婚約者ってことね」

 

 忍の婚約者発言で周囲はいろんな意味で騒がしさを増していく。顔を真っ赤にして俯くすずか、額に手を添えて頭の痛そうな恭也、穏やかな笑みを浮かべているノエルとファリン。

 

「い、いやいや。いくら何でも話が飛躍しすぎでしょう。そもそも地球に永住するわけではないですし、色々無理がありますので!!」

 

 珍しくテンパりまくっている烈火と月村家の一室には騒がしい光景が広がっていた。

 

 

 

 

「今日はお世話になっちゃったわね」

 

月村家の大きな門の前で忍を始めとした面々が、烈火と恭也の見送りをしている。

 

 

 

 因みに夜の一族との契約は烈火の必死の説得と恭也のフォローによりお友達からという物になったようだ。

 

 

 

「気を付けてね。それからありがとう・・・烈火君」

 

「いや、礼ならさっき言われたし、気にすることはない。じゃあな、すずか」

 

 烈火とすずかは名前を呼び合い、別れの挨拶を告げた。

 

 どうやら忍からの希望により月村家の面々とは名前で呼び合うことになったようである。そのまま忍らにも別れを告げて、恭也と烈火は月村家を出発する。

 

 

 

 

「時に烈火君。」

 

「はい」

 

 恭也は共に帰路についている烈火に疑問を投げかけるようだ。

 

「君は今日、フェイトちゃんと2人きりで買い物していたそうだね?」

 

「ええ、まあそうですが」

 

「そして先ほどはすずかを巡って婚約者だのなんだのと会話を繰り広げていたが・・・君に限ってそんなことはないと思うが、まさかうちのなのはにいかがわしい事をしてはいないだろうね?」

 

 烈火は威圧感たっぷりの恭也に押されるかのようにコクコクと首を縦に振った。

 

「ほう、それはなのはにはフェイトちゃんほどの魅力がないという事かい?」

 

 今度は別の意味で恭也の威圧感が増していくのが感じ取れる。

 

「い、いや、何もそんなことは・・・」

 

「まあいい。時間はたっぷりとある。この時間だ、君も夕食の用意をしていないのだろう?今夜はうちで食べていくといい」

 

 結局、恭也によって高町家に招かれた烈火はアットホームすぎる面々に絡まれながら夕食を取ったようである。

 

 

 こうして、地球で起きた小さな事件は幕を下ろした。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

今日というか昨日、再びDetonationして参りました。

何度見ても感動しますね。

お陰でモチベが再び最高潮に達した結果、まさかの連投!


とりあえず第3章の佳境は越えました。

次回がこの章の最後の話となります。

次はなのはやフェイトも戻って参りますよ!


当然ながら、皆様からの感想等も私のリンカーコアとなります。
高いモチベがさらに上がると思います。

ではまた次回お会いいたしましょう。

ドライブイグニッション!

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