魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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古の騎士と機械魔神

 星空の海を光が翔ける。

 

「少々、厄介な相手ですね」

 

「どうしてこんなことをするの!?」

 

 ショートヘアの髪型を除けば高町なのはと瓜二つの少女---殲滅のシュテルは自身の杖型デバイス〈ルシフェリオン〉から炎熱を纏った砲撃を打ち出す。

 

 それに対してなのはは新たに装備した〈ストライクカノン〉から撃ち出した桜色の砲撃で迎撃を図る。

 

「大いなる力を得るために・・・」

 

 シュテルは自身の砲撃が相殺されるや否や明星の誘導弾〈パイロシューター〉を出現させるがなのはの桜色の誘導弾〈アクセルシューター〉で全て撃ち落とされる。

 

 続けて追撃と言わんばかりにシュテルは再び砲撃を打ち放つがなのはも桜色の光で相殺した。

 

「これ以上、規模の大きい魔法は使えないね」

 

 なのはは2基携行している独立浮遊シールド〈ディフェンサー〉の内の1基で砲撃の余波を防ぎながら、自身の足元に広がるオールストーン・シーを一瞥した。

 

 

 

 

「子鴉風情が!我の道を阻むな!!」

 

「そういうわけにもいかへん!取られたもん取り返して貴方達の目的を教えてもらわなあかんからな!」

 

 はやてと熾烈な魔法の打ち合いを繰り広げているのは彼女と瓜二つの少女---ディアーチェである。

 

《はやてちゃん。攻撃来るですよ!》

 

「了解!クラウソラス!」

 

 リインフォース・ツヴァイからの攻撃報告を受け、はやては斜め上方向にチャージしてあった魔法を打ち放つ。

 

 そして、肩口までの白髪を揺らし、透き通るような青瞳でディアーチェを射抜く。

 

 

「塵芥が!ドゥームブリンガー!!」

 

 ディアーチェは杖状のデバイス〈エルシニアクロイツ〉を振りかざし、魔力刃を扇状に打ち放つが鏡合わせのようにはやての魔力刃と激突し攻撃が届かない。

 

「失態は取り返さなあかん。負けへんよ!」

 

 はやては融合騎であるリインフォース・ツヴァイとのユニゾンを果たした上にカレドヴルフ社製の電磁装備〈ロッド〉となのは機とは違う黒いカラーリングの〈ストライク・カノン〉を装備したことにより戦闘能力が格段に上昇しており、先のキリエ戦とは別人のような戦いぶりを見せていた。

 

 

 

 

 なのは達が上空で自らと瓜二つの少女と激闘を繰り広げている裏では巨大な機械魔神と魔導師達の戦いも熾烈さを増している。

 

「ちぃ!流石にこのデカさじゃ攻撃が通らねぇか!!」

 

 ヴィータは彼女用の深紅にカラーリングされた手持ち電磁砲〈カノン〉から砲弾を電磁射出して命中させるが目標が巨大すぎて効力を発揮できていない。

 

 陸上侵攻型大型機動外殻〈城塞のグラナート〉は堅固な装甲により魔導師部隊の砲撃を物ともせず、蜘蛛を思わせる巨大な脚部で目の前の物体をすべて破砕しながらオールストーン・シーへと侵攻している。

 

 先ほどまでは空中からヴィータが撹乱、なのはらが拠点設置電磁砲〈パイルスマッシャー〉による砲撃を行うことにより足止めをしていた。

 

 しかし、地上の主戦力であるなのはがシュテルの迎撃に向かってしまった為に一手足りなくなっており、突破口を見つけられないまま、グラナートの進撃を止めることができないでいるようだ。

 

 

 

 

「はやてちゃんから引きはがしたのはいい物の中々厄介ね」

 

 シャマルはディアーチェが操る大型機動外殻〈黒影のアメティスタ〉の爆撃攻撃を防ぎながら小さく息を漏らした。

 

「うむ。こちらの攻撃はあまり有効ではないようだな」

 

「外からぶん殴っても効かないってのは面倒な話だねぇ」

 

 ザフィーラとアルフもそれぞれ魔力障壁を展開して防衛に当たるが打撃を加えても動きが止まらない大型機動外殻を前に突破口を見いだせないでいる。

 

「何か弱点の様なものがあるといいんだけど」

 

 本来デバイスを所持していないアルフとザフィーラもフォーミュラ、機動外殻に対抗すべくカレドヴルフ社製の電磁手甲を装備している為に決め手としては申し分ない。打撃攻撃が通じないのはアメティスタの迎撃に阻まれて威力をフルに発揮できていないからと予測される。

 

 シャマルはアメティスタに付け入る隙か、決定的な弱点があれば一気に切り崩せると思考を巡らせていた。

 

 

 そんな彼女達に天空の機械魔神の砲火が迫る。

 

 

「チェーンバインド!」

 

 アルフは橙色の鎖をアメティスタの翼部に絡ませ、機体の角度を変えることにより砲塔の向きを逸らして攻撃の回避を試みる。

 

「させんッ!!でぇりゃっっっ!!!!」

 

 さらに下からかち上げるようにザフィーラの左拳が叩き込まれ、アメティスタの攻撃は見当違いの方向へ向かって行き、更に振るわれた右の拳によって下部の装甲を一部欠損しながら吹き飛んでいく。

 

 

 

 

「へぇ・・・試してみる価値はありそうね」

 

 シャマルはアメティスタの解析を進めながら戦況を見守っていたが、アルフとザフィーラに指示を飛ばしていた甲斐があったと小さく笑みを浮かべた。

 

《2人共、そういうわけだからお願いね》

 

《了解した》

 

《縛ってぶっ叩けばいいんだね。分かったよ》

 

 シャマルの指示を受け、ザフィーラとアルフはアメティスタの注意を引くべく2方向に分かれて飛び立った。

 

「行くよぉ!!チェーンバインドッ!!!!」

 

 アルフは橙色の鎖を幾重にも生み出してアメティスタの左の翼部を中心に巻き付かせ、動きを止めるつもりのようだ。

 

「縛れ!鋼の軛!!!」

 

 ザフィーラは地上から伸ばした無数の軛をチェーンバインドに対して回避行動を取ろうとしていたアメティスタの右舷を中心に突き立てる。

 

 対象が大型機動外殻とあってボディ部への物は何本か折れてしまっているようだが、無数の軛で右の翼を滅多刺して動きを止め、アルフの鎖が左の翼へと絡みついて動きを止めるまでの時間を稼ぐ。

 

 

 それに対して、爆雷を投下して退避しようとしたアメティスタであったが突然噴煙を上げて動きを止めた。

 

 アメティスタの砲門を塞ぐように新緑、白、橙の魔力障壁が展開されており、自身で発射した弾幕を跳ね返されダメージを受けているようだ。

 

「計算通りね」

 

 シャマルが小さく微笑んだ。

 

 先ほどまでの戦闘から黒影のアメティスタはディアーチェの指示を受けて戦闘を行う機体であることが予測される。ディアーチェがはやてとの戦闘に集中している現在では戦闘開始直後と比べ、明らかに動きが散漫になっているため攻撃が当てやすいと踏んだのであろう。

 

 

「じゃあ、最後の仕上げに!つっかまえたぁ!!」

 

 シャマルは自身のアームドデバイス〈クラールヴィント〉を〈ペンダルフォルム〉へと変化させ、輪上の鏡を作り上げてその中に右腕を突っ込めば、突如としてアメティスタの装甲が軋みを上げる。

 

 アメティスタの中央部にある動力核部を巨大化したシャマルの腕が掴み取り、握り潰さんばかりに締め上げているためだ。

 

 シャマルの転送魔法を転用した攻撃は機動外殻の分厚い装甲で覆われている動力核部に直接打撃を与える事に成功したということだ。

 

「やりな!ザッフィー!!」

 

 アルフがアメティスタの動きが鈍ったところを好機と見計らい、右の拳にチェーンバインドを巻き付けて中心へと叩き込めば、装甲が剥がれ落ちてさらに動作を鈍らせる。

 

「ておぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 ザフィーラは右拳に白色の魔力を搔き集め、アルフが撃ち込んだ部位へと向けて突貫攻撃を繰り出していく。砲弾の如き一撃はアメティスタの核を貫いた。

 

《シグナム!ヴィータちゃん!》

 

 シャマルはアメティスタが噴煙を上げながら静かに高度を下げていくのを尻目に今も戦っているであろう仲間達へ念話を飛ばす。

 

 

 

 

「外からの攻撃は再生されちまうからあんまし意味はねぇ。動力核を潰せってことか・・・ちぃ!?」

 

 ヴィータはシャマルからの念話を受け取り、グラナートの動力核に攻撃を加えようとカノンを構えてトリガーを引いたが、出てこない弾丸に対して毒づいた。

 

「しゃらくせぇ!やっぱ、アタシはこっちじゃねぇとな!!」

 

 弾切れになったカノンを放り捨てて手に取ったのは〈レヴァンティン改〉と同様に電磁カートリッジを緊急装備して強化改修された〈グラーフアイゼン改〉であった。

 

「チマチマやんのは好きじゃねぇ。お前ら、一瞬だけ気を引いてくれればいい。一斉に打ちまくれ!」

 

 ヴィータは地上の砲撃部隊に一斉射の指示を出し、自身はグラーフアイゼンを握りしめ、パイルスマッシャーと砲撃が飛び交う中を多少の被弾を覚悟の上でグラナートの懐に潜り込むべく一気に急加速をかける。

 

 直撃を避けながら弾幕の中を赤い光が翔け抜ける。捌き切れないものが小さな騎士を掠めるが、堅固な魔力障壁により着弾を防いでいく。

 

「こないだは思いっきりやれなかったかんな。悪いがブチ抜かせてもらうぜ!デガブツ!」

 

 弾幕を越えグラナートの懐に潜り込んだヴィータ。前回のバイア・キュクノスとの戦闘の際に人質がいたために全力を出せなかったことを思い出してか苦い表情を浮かべながら、グラーフアイゼンをフルドライブモードの〈ギガントフォルム〉へと変化させた。

 

 ヴィータが振り翳したグラーフアイゼンはカートリッジの炸裂音を響かせながら柄が伸び、ハンマーヘッドが巨大化していく。

 

 

「轟・天・爆・砕!・・・ギガントシュラァァァァクッ!!!!!」

 

 ヴィータの咆哮と共に巨大化したグラーフアイゼンがグラナートの外部装甲を撃ち抜いて動力核ごと力づくで捻り潰す。

 

「ブチ抜けぇぇぇッ!!!!!」

 

 唸りを上げるグラーフアイゼン。ヴィータの最強魔法〈ギガントシュラーク〉をまともに受けて機能停止したグラナートは全身を軋ませながらオールストーン・シーから押し出され、海面上を転がって噴煙を吐き出した。

 

「鉄槌の騎士をなめんじゃねぇぜ!」

 

 ヴィータはグラーフアイゼンを肩に担ぎながら撃破したグラナートの上で鼻を鳴らしている。周囲の面々はグラナートの巨体が吹き飛ぶ様を見て、暫くの間、開いた口が塞がらなかったようだ。

 

 

 

 

「ふむ。機体中央の動力部が弱点か」

 

 シグナムはレヴァンティンの切っ先から生み出す斬撃をトゥルケーゼの腕部に横から打ち込むことにより鉤爪の軌道を逸らしながら、シャマルからの情報を受け取っていた。

 

 フェイトはレヴィを追ってオールストーン・シーへと戻ったため戦域から離脱、他の隊員達は機動外殻の強固な装甲の上から核部に攻撃を撃ち込むには火力不足である為、距離を取らせて支援に回しており、実質的にトゥルケーゼと戦闘を行っているのはシグナムのみであるようだ。

 

「速く終わらせねばな」

 

 シグナムにとっても大切なものであり、同時に危険性を秘めている夜天の書が奪われた事、かつての自分達の様に自らの護るべき物の為に過ちを犯してでも行動している者がいる事、一個人として管理局員として様々な観点から見ても事件の早期解決は急務であるといえる。

 

 

 そして、映像越しに目に焼き付いたのは何かを考えこむように俯いていた少年の姿。

 

(私としたことが戦場(いくさば)の真っ只中で小僧1人に気を取られるとは・・・)

 

 トゥルケーゼの全身の砲門から撃ち出されるエネルギーの波状攻撃に晒されながらもシグナムの脳裏に浮かんでいるのは、この状況を如何にして脱するかではなく、かつて共に死地を潜り抜けた1人の少年の事という戦場には似付かわしくないものであった。

 

 常在戦場・・・シグナムにとって戦いとは己の全てであった。今代の主が戦いを望まなかった事や管理局員として仲間や民衆を護る為に剣を取るようになった今でも基本的には変わらない。

 

 そんな彼女が戦闘中、それも一歩間違えば命すら落としかねない機動外殻との戦いの最中にありながら全く別の事に気を取られている。

 

 蒼月烈火---彼の事が気にかかり、同時にシグナムの中で徐々に大きな存在になりつつあると認めざるを得ない瞬間であった。

 

 

 加えて、気の遠くなるほどの時間を生きてきたシグナムからすれば娘の様に慈しんでいるはやてと同年代の烈火など子供に等しいはずであったが、不意なアクシデントで上半身を晒してしまった際には彼女からすればあり得ないほどの痴態を見せてしまった。

 

 烈火と過ごした時間に起きた事は様々な意味合いで前代未聞でありえないことの応酬であったが・・・

 

 

「だが、存外悪くはない」

 

 シグナムは小さく呟いた。その表情は波状攻撃に晒されている為の苦悶や焦りではなく、口角を吊り上げた楽し気な笑みである。

 

 だが、程なくして自らが抱えた十字架に苦しんでいる烈火への感傷へとその表情を変えた。

 

「だからこそ・・・速く終わらせねばな」

 

 先ほどと同じ言葉を呟いたシグナムは一旦、トゥルケーゼから距離を取り、急旋回したと思いきや迅雷の如き速さで正面から突っ込んだ。

 

 トゥルケーゼは全身の砲門をシグナムに向けての一斉射で反撃行動に出る。死角の見つからない反撃を前に戦闘域から離れていた隊員たちは息を飲む。

 

 トゥルケーゼの反撃もそうだが、奇襲に対してカウンターを決められてしまっている以上、セオリー通りなら離脱して体勢を立て直すべきであるにもかかわらずシグナムにその行動が見られないからであろう。

 

 

 仮に突っ込むとしても普段のシグナムであれば、自身が使用する防御魔法である、装身型バリア〈パンツァーガイスト〉で全身を覆い、突貫した後に攻撃手段を整えるのであろうが、彼女はそれをしない。

 

 トゥルケーゼが放つエネルギー波の嵐の中に防御魔法すら発動させずに身一つで飛び込んだのだ。

 

 

 シグナムは蒼翼を抱きし少年の様にバレルロールを繰り返しながらエネルギー波の嵐を舞うように駆け抜けていく。

 

 その手に携えるレヴァンティンは防衛行動に使われることもなく、カートリッジを連続で炸裂させており、溢れんばかりの魔力を蓄積させながら静かにその時を待つ。

 

 そして、熱線を躱しながらトゥルケーゼの懐へと到達し、シグナムが上空へと舞い上がると同時にレヴァンティンから噴き出した暴力的なまでの魔力が紅蓮の轟炎となり顕現する。

 

 

「紫電・・・一閃ッ!!!」

 

 シグナムは刀身に轟炎を纏いて巨大化したレヴァンティンを神速の如き勢いで振り下ろした。

 

 上段から振り下ろされた必殺の一閃はトゥルケーゼを頭頂部から真っ二つに断ち穿ち、動力核を消し飛ばす。

 

 

 シグナムは動かぬ鉄の塊となり果てた機械魔神が噴煙を上げながら海中へと沈んで行く様を静かに見下ろしていた。

 

 

 

 

「〈八神隊〉、〈シグナム隊〉、〈ヴィータ隊〉が大型機動外殻を撃破したと報告が入りました」

 

 身の丈ほどの盾を装備した黒いボディースーツの少女---黒枝咲良は今回の任務で自身が配属された〈東堂隊〉の隊長である東堂煉に味方勢力の戦果を伝える。

 

「もう、この化け物を倒したというのか?」

 

「ヴォルケンリッターの面々が撃破したとのことです。どうやら機体中央部にある動力核が弱点の様ですが・・・」

 

 煉は苦い表情を浮かべながら迫り来る大型機動外殻〈憤激のサルドーニカ〉が振るう戦斧を旋回軌道を取りながら回避した。

 

 同様に攻撃を回避した咲良から現場の部隊に大型機動外殻についての情報がもたらされるが、皆が一様に余裕のない表情で付かず離れずといった距離を保つことに必死であり、とてもではないが反撃できる状態ではない。

 

 憤激のサルドーニカはメインフレームがトゥルケーゼに近い人型、背中にはアメティスタの物を小型化したウイング、脚部はグラナートを思わせる逞しい物となっており、右手には戦斧を携えている。

 

 それぞれ陸海空の戦闘に特化している3機とは違い、サルドーニカは汎用性を意識した機体と思われ、特筆した強みはないが攻め入る隙もないという状況であるようだ。

 

「隊の者と距離が離れすぎないように気を配りながら散開しろ!相手は一機だけなんだ!数の有利を活かして立ち回れ!!」

 

 煉は苛立ちながら隊の面々に指揮を飛ばしていく。苛立ちの原因は機動外殻に対して有効打が与えられていないことであろう。

 

 機動外殻の装甲は魔法に対して耐性があり生半可な攻撃は通用しない為に魔導師部隊の魔力攻撃は弱点の核に届かないでいる。

 

〈プルトガング改〉、〈アイギス改〉には電磁カートリッジを魔導師部隊のデバイスにも魔力の物理変換機構を搭載することによって対フォーミュラ、機動外殻への対抗手段とはしたが、あくまで大多数の魔法を無効化される状態から戦闘が可能になったというだけで基本的に不利であることには変わりない。

 

 加えて、戦闘対象であるサルドーニカは先のキリエとの戦いでなのはらと戦闘を行った機動外殻よりスペックが数段上昇している個体に見受けられ、さらにその影響が顕著なものとなっているようだ。

 

「他の小隊は既に撃破しているというのに!」

 

「このままではジリ貧です!こちらの方が先に力尽きてしまいます!」

 

「喚くな、役立たずが!今考えをまとめている最中だ!」

 

 サルドーニカに有効打が与えられないまま時間だけが経過していき、煉と咲良の表情が苦悶に歪み、部隊の面々にも不安が広がっていく。

 

 東堂隊は他の小隊と比べ総勢9名という多くの人員を有してこそいるが、シグナムの様に単騎で動力核を破壊できるだけの突破力と機動力を兼ね備えている魔導師はこの場におらず、シャマルの様に防御を無視できる反則じみた攻撃を繰り出せるわけもなかった。

 

 正にジリ貧であったが・・・

 

「なっ?この声は!?」

 

 煉を含めた小隊の面々が突如として頭の中に響いて来た念話に対して驚愕の声を漏らし、足を止める。

 

 続いて、その隙を突くように戦斧を振り下ろそうとしたサルドーニカの右腕にバインドが絡みついて動きを封じていた。

 

 

「え・・・はい。僕は中央で待機」

 

「私は右側で主兵装を封じるのですね」

 

 煉と咲良は突如として送られて来た念話の主の指示に従うように隊の陣形を変え始めた。その最中、サルドーニカがバインドを引きちぎり再び攻撃態勢に入ったが〈東堂隊〉の面々も己が役割を果たすべく空を駆ける。

 

「現れなさいッ!」

 

 咲良の大盾型デバイス〈アイギス改〉の内側から2基の小型ビットが発射され、藍色の光を帯びながら飛び出していく。

 

 さらにアイギスも魔力を帯びて魔力盾を形成するが、その大きさは通常の魔力障壁の比ではなくサルドーニカの戦斧を受け止めるに十分すぎるほどに巨大なものであった。

 

 

「振り下ろさせませんよ。ブレイブテュキオス!!」

 

 咲良は魔力盾の左右にビットを配置し、それを発生源に盾をさらに巨大かつ強固な物へと変化させて防御魔法〈ブレイブテュキオス〉を発動させる。

 

 自身が使えるであろう魔法の中でも上位に位置するであろう巨大魔力壁を構え、サルドーニカが振り下ろしかけた戦斧にぶつけ合わせ、鈍い金属音を奏でさせた。

 

「私がこの作戦の要・・・役割はこの機動外殻の主兵装を封じ込める事!」

 

 咲良は物静かな彼女からは想像もつかないほど声を張り上げながら、アイギスのカートリッジを3連続で炸裂させることによりブレイブテュキオスの出力を跳ね上げ、サルドーニカの戦斧を完璧に受け止めてみせた。

 

 

 念話の主は咲良の奮戦に笑みを浮かべながら次の指示を下す。

 

 サルドーニカが別の攻撃手段に出る前に左腕に3人、右足に2人がかりでバインドを施して動きを封じていく。

 

 さらに後方に下がった2人は自身のデバイスでは火力不足であると判断され、パイルスマッシャーでの攻撃に切り替えて最後の攻撃を着実なものとするべく援護射撃を行っている。

 

 

 

 

「最後はこの僕の役目だ・・・っ!?」

 

 煉はプルトガングを正眼で構え、部隊の連携で作った隙に対して間髪入れずに攻め込もうとしたがその足を止めた。

 

 サルドーニカのモノアイが煌めいたかと思えば、グラナートを思わせる逞しい脚部の隙間からトゥルケーゼを思わせる刃のような突起物が姿を現し、明らかに反撃手段を整えているように思えたからであろう。

 

 しかし、この静止によってここまで噛み合っていた部隊の歯車が綻びを見せ始めた。サルドーニカが左腕を縛っているバインドを力づくで引きちぎり、主兵装を封じ込めている咲良を握り潰そうと手を伸ばしていく・・・

 

 

《そのまま進みなさい!》

 

 念話の主が煉に対して追撃指示を下すと同時に突如として発生したバインドがサルドーニカの左腕を再び縛り上げ、さらに両足にも紐のように絡みついてその機体を地面に縫い付けた。

 

 復帰した3名の魔導師もそれぞれ杖型(ロッドタイプ)のデバイスから糸状のバインドを発生させ、サルドーニカの機体を少しでも抑えつけようと奮戦しており、パイルスマッシャー隊も射撃の手を緩めない。

 

 

「道は開けたッ!」

 

 煉は決定的な好機を前に一気に前進し、その手の中にある煌びやかな剣は新たに搭載した電磁カートリッジを2回連続で炸裂させて黄金の光を纏う。

 

「これで終わりにしてやる。ベルデガルドエレガンテ!!」

 

 煉はプルトガングの切っ先を中心に黄金の魔力を一点集中させた刺突---斬撃魔法〈ベルデガルドエレガンテ〉を繰り出した。

 

 東堂隊の面々と念話の主によって雁字搦めにされて反撃行動の取れないサルドーニカの胸部装甲を貫いてカートリッジの連続炸裂により威力が何倍にも増した斬撃が突き刺さり、トドメを刺した。

 

 

 

 

「なっ!?こいつ弱点を貫いたというのに!?」

 

 煉の斬撃で動力核を貫かれたにもかかわらずサルドーニカはモノアイを輝かせながらその肢体を躍動させている。

 

「きゃっ!?がっ!!?」

 

 戦闘が終了したと僅かに気を抜いてしまっていた咲良は戦斧に吹き飛ばされるように地表に叩きつけられた。

 

 そして、唯一バインドがなされていなかった主兵装を持った腕が拘束から抜け出し、煉に目掛けて振り下ろされる。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

 煉は額に汗を滲ませながら息を荒げている。そのすぐ隣には主の手を離れた戦斧が地面に突き刺さっていた。

 

 そして、その主人である機械魔神は全身を魔力の糸で幾重にも縛られた状態で動かぬ鉄塊となっている。

 

 間一髪であった。攻撃の直前にサルドーニカの機能が停止し、最後の一撃が僅かに逸れたために煉は巨大な戦斧から逃れることができたようだ。

 

 

 真っ二つに穿たれたトゥルケーゼ、全身が拉げたグラナート、本体部に大穴が空いたアメティスタと動力核を潰す段階で機体自体に行動不能なまでのダメージを与えた3機と違い、サルドーニカの負った大きな損傷は胸部への刺突のみ。それも動力核(コア)付近を僅かに抉っただけであった。

 

 そのため、サルドーニカは動力を潰されてから機体が停止するまでにタイムラグが発生し、その間に最後に力を振り絞って攻撃を加えようとしたのだろうと予測される。

 

 

「現場指揮官殿に連絡しろ。木偶を1機討ち取ったとな」

 

「はい!」

 

 気を取り直した煉は隊の男性局員にクロノへの戦果報告を命じた。何はともあれ、大型機動外殻を撃破したことには変わりない。

 

「我々も違法渡航者の捜索に入ると伝えておけ」

 

「しかし、私達の役割は後方での拠点防衛のはずでは?」

 

「僕の命令が聞けないというのか?三度は言わないぞ。伝えておけ」

 

「りょ、了解しました!」

 

 しかし、男性局員は自身らに与えられた役割を半ば放棄して事件の元凶を追っている〈クロノ隊〉と同様にキリエ・フローリアンの捜索に向かうと言い放った煉に疑問を呈するが、返って来たのは鋭い眼差しと彼にとっては死刑宣告一歩手前の脅しに近い物であった。

 

 

 

 

「ん?なんだと!?勝手な行動は慎め!おい!」

 

 クロノはキリエ・フローリアンの反応を追跡しながら小隊を率いて飛行している最中に〈東堂隊〉から入って来た独断専行をするという連絡に対して苦々しい表情を浮かべている。

 

「やはり、言わんこっちゃない!とはいえ、敵の主戦力は撃破し、残るは大きな魔力反応3つ。そして、キリエ・フローリアンを捕らえるのみか。僅かではあるがこちらに風が吹き始めた。このままの勢いで早急に夜天の書を奪還する・・・皆、スピードを上げるぞ!」

 

『はいッ!』

 

 クロノは現在の戦果と状況を分析しながらキリエ捕縛の為に動き出した。統率の取れた部隊員たちと共に夜空を駆ける。

 

 

 

 

「最後の一機はともかくほぼ単騎でこれほど早く大型機動外殻が退けられるとはまた計算が狂うな。まあ、いいわ。お楽しみはこれからだもの」

 

 此方でも戦場一帯の状況を分析している何者かが、ディアーチェらに譲渡した大型機動外殻全てのシグナルが消えた事に少なからず驚きを覚えているようだ。

 

 しかし、その口元は吊り上がっており、表情から余裕は消えない。

 

 

 

 

 ここから先の戦いがさらに激化の一途を辿ることになることを理解しているのは彼女だけということなのだろう。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

劇場版とあって登場人数も情報量も半端ないですね(白目)
どんどん話が膨らんで行ってしまいます。

そしてリアル生活が辛すぎます(涙)

皆様の感想等が私の動力源となっていますので頂けましたら嬉しいです。

では次回お会いいたしましょう。

ドライブ・イグニッション!
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