魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
桜色と明星の光が瞬くように夜空を照らしている。
時空管理局の魔導師---高町なのはは自身と瓜二つの少女---シュテルと空中を縦横無尽に駆け抜けながら互いに魔法をぶつけ合わせており、激しい砲撃戦の様相を呈していた。
「ディザスターヒート!」
シュテルは〈魔力変換資質・炎熱〉を付与した砲撃を撃ち放つがなのはの桜色の光と激突し、攻撃が届かずに余波の魔力光が夜空を照らすのみであった。
しかし、シュテルは正面からの砲撃を防がれることは先ほどまでの戦闘から想定済みだと言わんばかりに左手に装備した腕全体を覆う朱色の鉤爪〈ブラストクロウ〉を自身の顔前に
対する、なのはは砲撃の余波を防ぐべく、独立浮遊シールド〈ディフェンサー〉一基を身体の前方に持ってきており、自身の巨大な盾で視界が悪くなっていた。加えて彼女は利き腕の左手に主兵装〈ストライクカノン〉装備している為、正面がふさがった状態で体の右側に攻撃を加えられることを嫌うはずである。
シュテルは死角気味となっているなのはの体の右側に回り込むように移動し、先ほどの砲撃に比べれば威力も射程も格段に落ち込むが、発射速度に優れるショートレンジバスターを撃ち放とうとルシフェリオンの砲身を向けた。
従来のレイジングハートと比べて大きさも重量も増しているストライクカノンでは小回りが利かない上に手持ち武器ではないディフェンサーは体の前後に回されており、左右は完全にフリーとなっている。
実際、読みは的中しており、なのはの無防備な横腹に明星の砲撃が打ち放たれようとしたが、シュテルは寸での所で体を捩りながら大きく飛び退いた。
(攻撃を誘われたようですね…)
シュテルは先ほど自身がいた所を桜色の光が焼き払っていく光景を目の当たりにし、苦い表情を浮かべている。
ここまで完璧に立ち回っていたなのはが視界を大盾で遮って脚を止めるという、隙を見せた為に攻勢に出るのは対面している魔導師として当然の事であろうが、その隙自体が相手の攻撃を誘導するために作られたものであったということだ。
ディフェンサーで視界が遮られていたのはなのはだけではなく、大盾越しのシュテルも真正面からでは彼女の全貌を把握できない。
そのため、側面から攻めて来ると予測し、砲撃をチャージしながら待ち構えてカウンター攻撃を繰り出したという事であろう。
「あの短時間で何という収束速度と射程…ですが!」
シュテルは桜色の砲撃〈ディバインバスター〉を睨み付けながらも先ほどまでチャージしていたショートレンジバスターをなのはに向けて撃ち出すが体の後方にあったディフェンサーに阻まれる。
先ほどの砲撃の衝突からわずか数秒、なのはに強襲を仕掛けるべく、発射速度を優先したとはいえ小規模砲撃を収束しきったシュテルの技量も凄まじいが、対するなのはは長距離砲撃魔法を撃ち放ってきた。
シュテルはなのはの魔力収束技術に思わず舌を巻くが、これに動じずにルシフェリオンを構えて再び、火炎の砲撃を撃ち込んでいく。
「---ディザスターヒート!」
心は冷ややかに放つ砲撃は熱く燃え上がる。
「エクセリオンバスター!」
桜色の砲撃が夜空を焦がす。
シュテルは振るったルシフェリオンから明星の砲撃を3連射で撃ち放ち、横に動きながら火炎の砲撃を放つ。
さらに砲撃を途中で撃ち止め、威力を度外視してさらに連射で撃ちまくる。
「この数は!?」
なのはがエクセリオンバスターを照射しながら左腕のカノンを横薙ぎに振るえば大多数の火炎を撃ち落とすが残りが迫り、自身への直撃ルートの物は2基のディフェンサーで防ぐ。
しかし、砲撃に潜ませていた6基のパイロシューターが迫る。
「躱せ…ない!」
回避行動を取ろうとしたなのはは足を止めて、シューターの射線軸上に魔力障壁を展開し、防御行動を取った。
魔力壁の固さに定評があり、防御手段に用いることも多いなのはにしては障壁展開までの動きにどこかぎこちなさを感じさせ、僅かであるが隙ができる。
畳みかけるようになのはに向けてシュテルの火炎砲撃〈ブラストファイアー〉が迫るが、間一髪でディフェンサーが滑り込む。実体盾と砲撃がぶつかり合い、なのはの視界を爆炎が遮った。
(体勢を立て直して反撃を---)
どうにか防ぎ切ったと反撃に転じようとしたなのはは脇腹に感じる冷たい感触に目を見開いた。
「弾けなさい」
シュテルの意思に合わせて左腕のブラストクロウの内部で魔力が炎に変換され、噴き出した爆炎がなのはの脇腹を焼き焦がす。
なのはは新装した
この戦いで初めて…そして、あまりに大きすぎる直撃を受けたのはなのはであった。
焼き焦げた脇腹から煙を上げながら吹き飛ばされているなのはに再び火炎を帯びたショートレンジバスターが迫る。
(回避してこっちも…駄目だ。私が避けたら…!)
なのはは姿勢制御も不十分なまま、ストライクカノンのトリガーを引いて、最大速度で収束したショートレンジバスターを撃ち放つ。それを目の前の砲撃にぶつけ合わせるが、流石に威力が不十分であったのかシュテルの砲撃の威力を削ぐに留まり、余波の熱風がなのはの
「はぁ、はぁ…」
しかし、この衝突に乗じて両者の距離が僅かに開き、なのはは荒い呼吸を整えながら頬についた煤を拭った。
同じ顔をした白と黒の少女が星々に照らされる夜空の下で向かい合う。
「貴女は何故、そんな不可解な戦い方をしているのですか?」
「ふぇ?」
「惚けても無駄ですよ。貴女の実力ならば私の誘導弾に対して足を止める事はなかったはずです。それに先ほどの近距離砲撃も無理な体勢で迎撃する必要はなかったはず…それに先ほどから動きに無駄が多すぎる」
ほぼ無傷のシュテルと肩で息をして全身煤だらけのなのは…どちらが優勢かなど非を見るより明らかだが、シュテルにとって今、この状況は不可解なものでしかない。
「それは…私が何とかしないと、お城やアトラクションに魔法が当たっちゃうから…」
「貴女の発言は理解不能です。戦術、戦略の観点から見てもそれらの建造物に守る価値があるとは思えません。ましてやその行為のために自らの窮地を招くなど」
「にゃはは…確かにオールストーン・シーを気にしながら戦うのは大変だし、シュテルにとってはただの建造物かもしれない。でもこのテーマパークに関わってる人達にとってはお客さんの事を考えて、沢山準備して一生懸命作った物なんだよ。それが目の前で壊れちゃうのを見過ごすことなんてできないよ」
なのははシュテルの言葉を否定するかのように首を振りながら答える。
「意味が分かりませんね。やはり理解不能です」
シュテルもなのはの言い分が理解できないと首を振った。
「時空管理局は法の番人であり、危険なロストロギアを管理して人々を守る組織であると聞いています。その貴女が戦闘中に身を挺してまで人命も魔法も関係ない物を守る意味など…」
「意味ならあるよ。これも誰かを守ることだって思うから私はこうやってる。この事件が解決した時にボロボロになったオールストーン・シーを見たら沢山の人が悲しむと思う。それは本当にその人たちを守って、助けてあげられたって言えるのかな?」
なのはは損傷した
助ける…守る…
それは人によって様々な意味合いを持つのだろう。
立ち上がることが出来なくなった者に手を差し伸べて引っ張り上げる。助けを求める声に耳を傾け、共に歩む。次元犯罪やロストロギア関係の事例に巻き込まれ、命の危険に瀕した者を救出する…という事もあるのかもしれない。
そして、その対象も千差万別…
「私はその人達の想いも心も助けたい。私の魔法でそれができる可能性があるなら、やれることは全力でやっていきたいって思ってる」
窮地に立たされている人間を助けたとして、その人物が大切にしている物が失われたのだとしたら、その者は深い悲しみに囚われるであろう。
命や身体を救えても心が救えなければ、結局の所、守れなかったのと大差ないのだ。
なのはにとっての守るべき対象は家族、友人、同僚、名の知らぬ人々…
「それはシュテルに対してもだよ。私が力になれるんだったら協力したいって思ってる。だから貴方達がどうして戦っているかを話して欲しいな」
なのはは自身と同じ容姿の少女を静かに見据え、淀みのない済んだ瞳でシュテルを射抜く。
「……我らが王の望みが私の宿願、この身はその為だけにある」
「その願いはこんな形でしか叶わないのかな?戦って傷つけ合うんじゃなくてもっと別の方法はないの?」
「私が王より受けた君命は障害となるものをこの炎で燃やし尽くす事…貴女がこちらの側について管理局と戦うというのなら我々が戦う理由はなくなりますね」
「それじゃ、何の解決にもならないよ!」
「そうでしょうね。貴女は私の要求を飲む事はできない。私は貴女方の下に降る心算はありません。つまり、我々には戦う以外に道はない。どちらかの理想が潰えるまで…」
シュテルは淡々と事実のみを述べていく。
「私はこんな悲しい戦いは嫌だし、分かり合うことを諦めたくないよ。私が…ううん、私達がシュテルの力になれる事はきっとあるはずだって信じてる」
「貴女の考えは根本的に矛盾しています。何度聞いても理解に苦しみますね。そのような夢物語…いえ、傲慢な暴論が通用するとでも?」
「私は神様でも何でもない。全部が全部、上手くいくなんて思ってないよ。でも!それを通用させるために魔法の上手な使い方を教わって来た」
なのはは非難するようなシュテルに対して小さく笑みを浮かべる。
「もう目の前で誰か悲しい
「どうやら…本気の様ですね」
理想を否定されても、非難されても揺れない…折れない不屈の意思を前にシュテルは僅かにポーカーフェイスを崩して眉を歪める。
(このまま勢いづかせると危険かもしれません。ですが…)
シュテルはルシフェリオンを握る腕に力を込める。
「貴方のお覚悟見せていただきましょう」
なのはは両腕両足に絡みつく炎のバインドに対し、驚愕と共に目を見開いた。そして、その背を嫌な汗がつたう。
「集え、
シュテルの下へ戦闘域に存在する魔力素が集い、巨大な火球へと形を変えていく。
収束魔法…大気中に漂う魔力素を収束して撃ち放つ高難易度術式の一つであり、この技能を習得している魔導師にとっては切り札の部類に入るであろう高威力攻撃だ。
(収束砲撃!?このままじゃ!)
なのははバインド解除を行いながら自身の足元を一瞥し、焦ったような表情を浮かべている。
シュテルの行おうとしている事が理解できてしまい、何らかの対抗策を打ち出さねば不味いと判断したからであろう。
攻撃を回避すればシュテルの収束砲撃がオールストーン・シーを焦土と変える。加えて、なのはの機動力では砲撃発射までに攻撃を阻止することは叶わないだろう。
対抗手段は1つしかない。しかし、それを行っても余波だけでこの辺り一帯に甚大な被害が出ることが予測される。
(直撃よりは…!?)
なのははバインドを解除し、カノンをシュテルに向けて表情を歪める。そんな時、眼下にあるオールストーン・シーが淡い翡翠色の光を帯びる。
《なのは!》
《ユーノ君、なんで!?》
洋風な街並みの上に浮かび上がる円環状の魔法陣…その上に立つのは長い金髪を背で一つに纏めている線の細い少年‐‐‐ユーノ・スクライアであった。
《事情はリンディ統括官から聞いてるよ。せっかくの夏休みなのに大変なことに巻き込まれちゃったみたいだね》
ユーノは〈無限書庫〉にいる筈の自分の存在に驚くなのはに対して念話越しに回答をすると同時に眼下の町並みに光を灯していく。
《下は僕ができるだけの事をやってみる。なのはは余計なことは気にしないで、いつも通りに前を向いて、全力全開で突っ走って!!》
《…ユーノ君!》
《いつまでウダウダやってんだ!?さっさと他の連中の援護に行くぞッ!》
《ヴィータちゃん》
自身が全力で戦えるようにサポートを引き受けてくれたユーノ、今しがた大型機動外殻を撃破したばかりであろうヴィータがぶっきらぼうに発破をかけて来る。
今まで信じて貫いてきた想い、絆は無駄なんかではなく確かに此処に在る。なのはは仲間達の激励に思わず目頭を熱くさせていた。
そして、その口角を吊り上げながら、戦場に相応しくないであろう満面の笑みを浮かべてカノンを振り上げる。
「集え---
大気が震え、空間中に漂う魔力素が星の光となりてなのはの下に集う。
桜色の光が先に収束を始めたシュテルに追いつかんばかりに搔き集められ、夜天の空を照らしていく。
(収束が早すぎる!?)
シュテルはなのはの恐ろしいまでの魔力収束速度に再び、驚愕を露わにした。
現状、なのはが主兵装としているストライクカノンと比較して、魔法行使という意味合いでは従来のレイジングハートやシュテルのルシフェリオンに分がある。
だが、ストライクカノンは砲撃、射撃魔法の行使においてはそれらを遥かに上回るスペックを持っており、魔力の収束においても同様であった。
無論、なのはの天性の才と日々の努力という地力があってこその結果であるが…
そして、刻が満ちた。
「ルシフェリオン---」
灼熱を纏う火球が胎動する。
「スターライト---」
桜華の星が光を瞬かせる。
『---ブレイカーッ!!』
暴力的なまでの魔力がぶつかり合い、世界から音が消え去った。
「うっ!?なんて威力だ!」
ユーノ・スクライアはなのはやフェイトのような一騎当千の戦闘能力こそ持っていないが、前線におけるサポート要員としては破格の能力を持った人材と言える。
そのユーノの出力を最大まで高めた防御魔法が砲撃激突の余波だけで吹き飛ばされつつあることが2人の収束砲撃の凄まじさを物語っているだろう。
(でも、これくらいで諦めちゃダメだね。被害を少しでも食い止めるんだ!)
ユーノは表情を歪めながら砲撃の余波を防ぐべく、魔力を込め続ける。だがその表情に絶望も諦めもない。
〈PT事件〉、〈闇の書事件〉を最前線で戦い抜いて来た経験と今も敵に向かって行くなのはの存在が彼を奮い立たせているのだろう。
その上空では明星と星光が互いを喰らい合うように双方から押し込まれて巨大な光球となり夜空を照らしていた。
「ぐっ!?これは…」
シュテルは明星の光の隙間から流れ込んでくる桜色の光に対して、ブラストクロウを眼前に
とはいえ、威力自体はほぼ同等であったのか互いに相殺し合った結果、相手に直接的なダメージを与えることは叶わなかったようだ。しかし、砲撃の余波を受けてシュテルの脚が止まっている。
「行くよ。シュテル!ストライクフレーム展開!」
カノンの先端に血で染まったかのような深紅の魔力刃が形成された。
「A.C.S…ドライブッ!!」
なのはは爆発的な加速を受け、収束が解かれ大気中を舞い散る魔力残滓を斬り裂きながら桜華の流星となり夜空を駆ける。
狙いはただ1つ…一気に肉薄して零距離でエクセリオンバスターを撃ち込むことだ。
「なるほど…先ほどまで語っていた決意や発言は口先だけの物ではなさそうですが、私とて負けられないのですッ!」
シュテルはなのはが何かを仕掛けて来る素振りを見せた瞬間、自身の右側にブラストクロウを向けて虚空に火炎を炸裂させ、その反動を使い強引に体を左へと押し出してS.L.Bの余波から逃れる。その結果、偶然であるがA.C.Sの軌道から逃れる事となったようだ。
そして、なのはが繰り出しているのは正面からの突貫攻撃…砲撃型の魔導師としてはありえない速度での機動を可能とする代わりに急な方向転換はできない。
加えて、偶然にも射線軸から逃れることができたため、直進しかできないなのはに対して、優位に立つことができた。高速で駆け抜けていくであろうなのはに対して、身体を捩り、後ろから回り込むように左腕の鉤爪でその頭部を掴み取ろうと最後の攻撃を繰り出す。
「なっ!?何をッ!」
その刹那…シュテルの勝利への方程式は完全に崩壊した。
槍を突き出す様に正面に構えられていたはずのカノンの砲身がなのはの体の右側を向いているためだ。
「エクセリオン…バスター!!届いてッ!」
深紅の刃を包み込むように撃ち出されたのは桜色の極光…
しかし、正面にしか撃ち放てない砲撃はシュテルとは見当違いの方へと向かって行く。
「てええええええぇぃ!!!!」
なのはは急加速中の無理な軌道により、全身が軋み上がるのを感じながらも砲撃を照射しながら左腕のカノンを居合いさながらに振り抜いた。
渦を巻きながら撃ち放たれた極光はシュテルの全身を飲み込んでも有り余るほどの出力を誇り、彼女を突き抜けて周囲一帯の雲を消し飛ばした。
「よっと、どうにか乗り切れてよかったよ」
なのはは黒い
「い、いくら何でも無茶しすぎだよ」
「そうかな?あのまま正面から行ってたら多分、やられちゃってたと思うんだけどな」
ユーノはなのはの無茶っぷりに先ほどまでとは違う意味で冷や汗を流している。
「砲撃魔法の発動中に砲身の向きを反らすなんて聞いたこともないし、ましてや加速中にそれをやるなんて滅茶苦茶もいい所だよ!」
「にゃはは…でも、やられちゃうと思ったら体が勝手に動いてたんだ」
ユーノはなのはの規格外っぷりに改めて戦慄を覚えていた。
本来の砲撃魔法は脚を止めて照準を定めて一方向に撃ち放つものであるし、なのはの行った急加速もある程度の方向転換はできるとはいえ、その実は突撃システムであり基本的には前方に向けての攻撃しか繰り出すことはできない。
しかし、なのはは身体のほぼ真横に向けて砲撃を撃っただけに飽き足らず、それを放った状態を維持したままに斬撃魔法の様に腕を振り抜くという前代未聞な砲撃魔法の使い方をした上に、それを高機動で突貫している最中にシュテルのカウンターに対して咄嗟に繰り出したというのだから開いた口が塞がらないのも無理はないだろう。
なのはにも受け継がれている御神の血が危機に瀕した彼女を意識せずとも切り抜けさせたのかもしれない。
「あ、そうだ!ユーノ君、ありがとう」
「い、いや!結局、砲撃を抑えきれなくて被害は出ちゃったし…」
「でもユーノ君がいなかったらこの辺り一帯がボロボロになっちゃってただろうし、それにユーノ君がいたから私は思いっきり戦えたんだしね」
「う、うん…」
なのはは笑みを浮かべて礼を述べ、ユーノは頬を染めながら俯いた。
〈スターライトブレイカー〉と〈ルシフェリオンブレイカー〉という収束砲撃による激突の余波はすさまじく、ユーノ1人では抑え切ることができなかったのだ。
そのため、オールストーン・シーにも影響が出てしまったようだが、テーマパーク全体が吹き飛んでも何らおかしくないほどの収束砲撃の激突の被害と考えると余りに軽微と言えるものであり、修復はそれほど難しくないだろう。
暫くしてユーノも顔を上げ、なのはと健闘を称え合う。
最初の物語を紡いだ2人は小さく笑みを浮かべ、シュテルを管理局員に預けた後、再び戦場へと飛び立っていった。
オールストーン・シー内に設置された作戦本部の一室で、烈火は小さくため息をついた。魔導の力こそ持っているが特別管理外世界の民間人ということで戦闘に参加せず、時空管理局によって事件に巻き込まれないように保護されるという形でこの場にいるようだ。
「私は…こんなところで何をやっているのですか」
烈火は正面の座席に腰かけ、俯いているアミティエへ視線と向ける。彼女は先ほどの事情聴取の後からずっとこの調子であるようだ。
事情聴取の最後に現場に向かうと言っていたフェイトに対して自らも出撃志願したアミティエであったが、彼女自身が先のキリエとの戦いで腹部を銃撃されるという深手を負っており、万全の状態ではないだろうとやんわりと却下されてしまった。
そうだとしても彼女が今より数歳若く、精神的にもう少し幼かったのなら、キリエ達を止めるべく迷わず飛び出していったのかもしれない。
しかし、今のアミティエは一時の感情に身を任せて行動に移すほど子供ではなかった。
死にゆく故郷と弱っていく両親…それに伴い、実質的にフローリアン家の大黒柱として家族を支えていくようになったアミティエは自らの行動に伴う責任というものを自覚している為であろう。
「エルトリアの事情に皆を巻き込んでしまっているにもかかわらず、自分だけ動けない事を歯痒く感じている。フォーミュラの力を持つ自分が戦線に加われば管理局側の戦力増強となるが、待機を指示されている手前、この部屋から出ようとすれば局員達が迷惑を被る可能性もあり、無断出撃によって自分達の身の振り方も変わってくるかもしれない…そんなところか?」
「…っ!?」
「今のお前を見ていれば誰でも見当がつくさ」
アミティエは驚きで顔を上げ、自分の心境を言い当てた烈火へと視線を向ける。
「このまま、皆さんが戻ってくることを信じて待つのが正しいのだと分かってはいるのですが…皆さんを危険に晒して、本来ならキリエを止めなければならない私だけ安全な所にいてもいいのでしょうか?」
「フローリアンが管理局の装備改修に協力したことによって連中のデバイスは大幅に強化された。フェイト達にした事件の情報提供によって捜査も進展した。それで十分だと思うがな」
「それは…」
「時空管理局員が有事の際に魔法を使って戦うのは当然のことだ。連中とて危険を承知の上で武装隊に入っているはず、フローリアンが気にすることじゃないだろう?」
アミティエの胸に烈火の言葉が突き刺さる。彼女自身もエルトリアサイドの自分がどうすることが正しいかということを理解しているのだろう。
事件に対しての情報提供と魔導師がフォーミュラに対抗するためのエルトリアの技術開示という現状できる協力は惜しまなかった。後は本職に任せて事件解決を願うばかり…それが一番賢い選択であるはずなのだ。
「それでもッ!私は…」
だが…抑えきれない思いが込み上げてくるのも事実だ。
「戦場に赴いて後悔するか、此処に残って後悔するか、どちらを選択するかはフローリアン次第だ」
「選ぶのは、私自身……でしたら、もう答えは決まっているのかもしれません」
烈火とアミティエの視線が交差する。
そして、アミティエは小さく笑みを浮かべて席を立ちあがった。
「色々考えてみましたが、やはり考え込むのは私らしくありません。私達がどうなるかということよりなのはさん達がお怪我をされる方が嫌ですし、間違った道を歩んでいる妹を引き戻すのは姉である私の役目です。ですから、私も皆さんと共に戦います!」
アミティエの表情から陰りは消え去り、翡翠の瞳には強い意志と覚悟の炎が灯る。
「それがお前の選択か……現在、この周辺に武装隊員の反応はほとんどない。他の局員も持ち場についていることだろう。上手くすれば誰にも見つからずに戦闘域に向かえるかもな」
烈火は戦うことを自ら選択し、強い意志と共に立ち上がったアミティエから目を逸らし、周囲の魔力反応から現状の本部内の局員の配置をそれとなく伝えた。
因みに2人の与り知らぬことだが、拠点防衛に下がってくるはずだった〈東堂隊〉が命令を無視して独断で動いている為に作戦本部の防御が手薄になっており、その結果として脱走が容易なものとなっているようだ。
「烈火さん。色々とお話を聞いていただきありがとうございました。おかげで私がやるべきことを見据えることができました!」
「俺は何もしていない。フローリアン自身が進むべき道を選択しただけだ」
「そんなことはありませんよ。烈火さんとお話しなかったらもっと悩んでいたでしょうし、答えを出せなかったかもしれません」
アミティエは烈火に頭を下げて礼を述べ、出入口へと向かって行く。
「あ…そういえば、先ほども申し上げましたがフローリアンなんて他人行儀な呼び方ではなく私の事はアミタで構いませんからね!妹を連れて戻ってきたらどちらの事か分からなくなってしまいますし!」
「…煩い女だ。戦場に行くならさっさと行け…アミティエ」
「はい!行って参りますッ!!」
アミティエは烈火の発言に対して満面の笑みを浮かべながら作戦本部から飛び出していった。
為すべきことが明確になった。キリエの家族として、エルトリアに住んでいる者として今回の戦いに赴くのは当然の事だ。責任、使命、義務…様々な思いがアミティエを突き動かす。
そして、妹の間違いを正し、連れ戻してなのはやフェイト達や烈火と話をさせてやりたい。
かつて自分達が絵本の世界で夢見た魔法使いがこんなにもいるのだと---
烈火はアミティエが出て行ってから暫くして、再び小さくため息をつく。
因みに彼女に対しての態度はとても、自分よりも5,6歳も年上に対しての物とは思えないが、容姿も口調も似ても似つかないものの、アミティエの雰囲気が幼馴染を連想させるものであったためか途中で敬うことを止めたようだ。
そして、立ち上がった烈火は、戦闘域へ視線を向ける。遠目からでは各所で魔力光が煌めく様子しか見て取れず、詳しい戦況は把握できない。
「皆、自分の意志で戦っている。だが---俺の戦いはもう終わっている」
小さく呟いた烈火は瞳を閉じて踵を返した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そして、お久しぶりです。
相変わらずリアルが忙しい上に色々上手くいっておらず、中々以前の速度に戻せないのが現状です。
また、皆様からの感想が私のエネルギーとなっていますので頂けましたら嬉しいです。
では次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!