魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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Lightning Heat

 オールストーン・シー園内に位置する海上ショー用のステージは夜中であるにもかかわらず照明が点灯しており、各所に焼き焦げたような跡がみられる。

 

 その中央の水面は真っ二つに割れており、何とも異様な光景を呈していた。

 

 この惨状を引き起こした少女―――レヴィは……両腕をエメラルドの糸て縛り上げられた上に同色の物で全身を簀巻きにされ、波に漂う浮島の上を陸に上がった魚の様にぴょんぴょんと跳ね回っていた…

 

 

 

 

 轟音と共に一瞬、意識が暗転したフェイトであったが、雷が全身を焼き焦がす事も、海面に叩きつけられる激痛も無く、微睡(まどろみ)に身を委ねていた。

 

 

 

 

「……よかった…間に合った」

 

 フェイトの耳に飛び込んで意識の覚醒を促したのは聞きなれた穏やかな声音。

 

「ぅ…ぁ、か、母さん…?」

 

 見開いた瞳に映し出されたのは今の母親の顔…

 

 指揮官である彼女が前線に何故出て来たのかを訪ねようとしたフェイトの肢体は心地よい温もりに包み込まれていた。

 

 状況の把握は儘ならないものの、自分がリンディに助けられたという事…彼女に抱き締められていることだけはどうにか理解したのだが…

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい!私のせいで迷惑をかけちゃって!も、もう大丈夫だから…」

 

 フェイトは心地よい温もりに身を委ねかけたが、それとなく状況を察し、自身の為に最前線へと赴いてきたと思われるリンディに対して、どこか怯えたような表情を浮かべてその身体を押し返そうと彼女の肩に手を置いた。

 

「か、母さん…どうして?」

 

 しかし、リンディの抱き締める腕に力が込められ、フェイトの身体を放そうとしない。フェイトはいつもとは違う義母の様子に瞳を揺らしながら問いかける。

 

「大切な人が危ない目にあっていて、帰ってこないかもしれないのに…見てるだけなんて…もう、嫌だもの…」

 

 リンディは確かに此処にあるフェイトの温もりを噛み締めるようにその身体を強く抱き締めている。

 

「今度は間に合って…フェイトが無事で、本当に良かった…っ!」

 

 夫―――クライド・ハラオウンの時は命を賭して戦う彼をモニター越しに見ていることしかできず、失ったものの大きさにただ、泣いていただけであった。

 

 しかし、今回は危急の事態に間に合った。

 

 家族を…かけがえのない大切な人をこの手で護ることができたのだ。

 

 

 

 

「やっと、本当の母親らしいことができたかしら?」

 

「え…?」

 

 フェイトの心はリンディの言葉にざわつきを覚える。

 

「5年前…貴女がうちの子になる時の事、ずっと気にしてるんでしょう?」

 

 リンディはハラオウン家の人間がこの5年間の間、話題に挙げる事を意識的に避けて来た封鎖域を自らの手で紐解いた。

 

 〈闇の書事件〉の事後処理が終わった折にリンディから持ち掛けたフェイトの養子縁組の話…そして、その際に起きた東堂、ハラオウン派の小競り合いについての事であろう。

 

 その一件で起きていたハラオウン排斥の事をフェイトも知ってしまった。

 

 養子縁組を持ち掛けたのはリンディ、意図は不明だが強引に親権を得ようとしたのは東堂家…当時、10歳のフェイトにはどうすることもできなかったであろうし、大人の事情に巻き込まれただけの彼女に非はない。

 

 しかし、幼いながらに聡明であったフェイトはリンディらが自分を引き取ろうとしたことによって多大な損失、悪評、不利益を被ったことを理解できてしまい、幼い心に大きな傷を残すこととなったのだ。

 

 

「わ、私っ、は…っ!」

 

「フェイトが私達の事を大切に思ってくれてるのは分かってる。でも…私達の前でそんなに気を張らなくてもいいのよ?」

 

 リンディはフェイトを落ち着かせるように背を摩り、諭すような口調で語りかける。

 

「貴女を引き取ったことに何の後悔もしていないし、迷惑だなんて思ったことは一度もないわ。フェイトもアルフも良い子だもの、家族が増えて嬉しかったくらいよ」

 

 確かに東堂派との因縁で窮地に立ったこともあった。しかし、これまでフェイトと過ごしてきた5年間はそんなことが霞んでしまう程に笑顔が溢れ、尊いものであったのだ。

 

 

「で、でも…私の所為で母さんやお兄ちゃんにたくさん迷惑が掛かって、大変な目に合わせたって…だから、だから私は……みんなに迷惑をかけないように!その気持ちに答えられるように一人前の魔導師に、立派な管理局員にならなきゃ…っ!?」

 

 だからこそ、東堂派との一件に責任を感じてか、自分達に迷惑をかけまいとしていた小さな少女が吐露した己の気持ち…あまりに悲しいフェイトの言葉を遮る様にその身体を強く抱く。

 

 そして伝えるべきことがある。

 

 大人として、親として…

 

 

 

 

「フェイトの気持ちは嬉しい。でも、私は恩義を感じて欲しくて貴方を引き取ったわけじゃないわ。ましてや、迷惑をかけない?一人前になる?…思い上がるのも大概にしなさい」

 

 リンディはフェイトの瞳を正面から見据え、彼女らしくない強張った声で言葉を紡ぐ。

 

「え…?あっ…あ、あぁ…」

 

 フェイトの身体はその視線を受けて、凍り付いたように動かなくなった。

 

 血の気が引き、全身の震えが止まらない。

 

 母親に怒られる…それはフェイトが何よりも恐れる事であり、これまでそうならないように立ち回って来たのだから…

 

 

―――どうして貴女はアリシアじゃないの?

 

 

 自分にとって全てであった母親であり、創造主…プレシア・テスタロッサの姿が脳裏にフラッシュバックする。

 

 優しく微笑みかけてくれた母は何時しか自分に無機質な瞳を向けてくるようになった。期待に応えようと必死になったが、最後はその母親に自らの存在を否定され、生きる理由すら失ったこともある。

 

 そんな空っぽの自分と向き合ってくれたなのは、寄り添ってくれたアルフ。そして、居場所となってくれたリンディ達……

 

 

(やっぱり…私なんかじゃ…)

 

 大切な人に拒絶されることを恐れていた…居場所を失うことが怖かった。

 

 だから、前を向いて進み続けるなのは達の隣に立てるような、自分を受け入れてくれたリンディ達と共に在ることがふさわしい人間になると、彼女達への恩返しができるようにと毎日必死だった。

 

 だが、その歩みは他ならぬリンディによって一掃された。

 

 

 また居場所がなくなってしまう。大切な人に見限られてしまう。

 

 手にしていたハルバードが地面に落ち、心象を表すかのようにその柄が砕け散った。

 

 

 恐らくはレヴィの最高出力の攻撃に当てられて耐久度数を超過してしまったのだろうが、当のフェイトは戦場の真っ只中でデバイスを取り落としたことすら気が付かないほどに心を乱しているのだろう。

 

 

 

 

「か、母さん…?」

 

 そんなフェイトを現実へと引き戻したのは自身の頬に伝わる暖かい感触。

 

「私は貴女の本当の母親じゃない…それは覆しようのない事実よ。フェイトが今もプレシアとの事を引きずっているのも貴女からすれば当然の事。貴女にとっての〈特別〉がプレシアでも構わない」

 

 リンディはフェイトに頬を寄せ、穏やかな声音で語りかけた。

 

「それでも私はフェイトの事を大切に思っているわ。子供が親に迷惑をかけるのは当然のことだし、それを背負うのが私の役目。私達は家族……そうでしょう?」

 

 フェイトを抱き締めている身体が僅かに震える。

 

「これが嘘偽りのない私の気持ち。でもこの気持ちを伝える事でフェイトを傷つけてしまうかもしれない、私自身も拒絶されてしまうかもしれない。そんなことを考えて、私もどこかで臆病になっていたのかも、本当はもっと早くこうして向かい合うべきだったのに…そうしていればフェイトが5年間も重荷を背負う必要なかったのにね」

 

 

(私は何にもわかってなかったんだ。母さんの事も他のみんなの事も…)

 

 リンディ・ハラオウンは強い女性だった。

 

 事件で夫を失い、女性の身でありながら時空管理局の高官に上り詰め、クロノや養子のフェイト達を育て上げた。

 

 そんな彼女が見せた初めての弱音。そして、このような状況でも自分の事を気にかけてくれている。

 

 なのは達だってそうだ。大多数の人間ならばフェイトの生まれを知った時点で気味悪がって近づこうともしないはずなのに彼女らの態度はそれを知る前と何ら変わらない。

 

 

 ようやく知ったリンディの想い…今後こそ、答えねばならない。本当の意味で…

 

 

「わ、私は母さんの娘になれて、ハラオウンの子供になれて…すごく幸せです!だから、私の所為でみんなが大変な目に合ったって聞いて申し訳なくて、私を受け入れてくれた暖かい場所にいられなくなるかもしれないって怖くて…」

 

 恐る恐るといった様子でリンディにもフェイトの手が回され、紅瞳が揺れて大粒の雫が頬を伝う。

 

「プレシア母さんの事は今でも忘れられないけど、リンディ母さんの事も同じくらい大好きで…大切で…」

 

 嗚咽が漏れ、言葉を上手く紡げない。しかし、思いの丈を一生懸命にぶつけようとするフェイト…

 

「そんな風に思っていてくれたのね。ありがとう、フェイト。でも、大丈夫。貴女の帰ってくる所が無くなってしまう事は絶対ありません。だって…血の繋がりはなくても、貴女は確かに私の大切な娘…フェイト・T・ハラオウンなんだから…」

 

 リンディの言葉を聞いてフェイトの心を堰き止めていた防波堤が決壊した。彼女の体にしがみつくように、大声を上げながら涙を零す。

 

 

 本当の母に存在を否定され、捨てられてようやく立ち直りかけて新たな人生を歩んで行こうとした直後に刻み付けられた過去の傷(トラウマ)、小さな少女の心に巣食っていた黒い影が流す涙と大切な母親の温もりを受けて晴れていく…

 

 

 

 

「ふ、ふんぬっ!とおぉっ!!!」

 

 どこか気の抜けた声と共にステージの上空に青い雷が煌めいた。

 

「ようやく脱出ぅ!!」

 

 レヴィはリンディのバインドに雁字搦(がんじがら)めにされていたようだがようやくの脱出に成功した。

 

 固まった体を解す様に手足をプラプラと揺らしながら首を鳴らしている。レヴィ細かい魔法行使が得意ではない上にリンディのバインドが強力であったためか脱出に手間取ってしまったようだ。

 

 最も、バインド中も追撃への警戒は行っていたが、相手方の攻撃が来なかった為、徒労に終わったようだが…

 

 

 

 

「あ、あの母さん…そろそろ離してくれると」

 

「ふふっ、どうしようかしら?せっかくフェイトが甘えてくれてるんだし」

 

 フェイトは真っ赤に泣き腫らした目元と同じくらいに頬を赤らめながらリンディの身体を押すが、彼女のささやかな抵抗は母親の抱擁によって掻き消される。

 

 背後には自由の身になったレヴィがいるというのに何とも締まらない光景であった。

 

「まあ、続きは家でしましょうか。一緒にショッピングに行ったり、久しぶりにお風呂に入ったり、フェイトに好きな男の子ができたのか聞いたりしてね」

 

「もうっ、またからかって…」

 

 寄せていた身体を離したリンディの表情には憂いも迷いもない。フェイトも同様であった。

 

 

 とはいえ、彼女達も状況の把握を怠っていたわけではなく、これからの戦いの為に親娘の語らいは終わりを告げ、フェイトはリンディから離れ、自分の脚で地面を踏みしめる。

 

 先ほど、レヴィに対して自らの意思を即座に言葉にできなかったのはフェイト自身も迷っていたからだ。

 

 自分の生まれも、プレシアやアリシアの事も、養子縁組の件も受け入れた心算になって、心の奥底に拒絶への不安や孤独への恐怖を押し込めていただけなのだ。

 

 だから、それを連想する状況に陥った時に平静を保てなくなり、自らの行動理念を揺るがすようなことがあった時に意志を示すことができなかった。

 

(もう迷わないなんて言えるほど私は強くないのかもしれない。でもっ!!)

 

 だが、今は違う。

 

 憂いは晴れ、為すべきことが明確になった。

 

 存在も生きる理由も否定された自分を肯定してくれた優しくて強い人達がいる世界を守る。

 

 レヴィを説得し、夜天の書を取り戻してこの事件を収束させる。

 

 理解できぬ意見を持つ相手なら互いに理解し合えるように例えぶつかってでも、何度でも言葉をかければいい。

 

 身勝手に思われても疎ましく思われても、己の信じる道を進み続けるしかないのだから…

 

 

 揺らいでいた心に火が灯る。

 

 

 そして、フェイトに呼応するように金色の光が闇夜を照らした。

 

 

 

 

「お待たせ…バルディッシュ。また、一緒に飛んでくれる?」

 

≪Yes sir!≫

 

 待ちわびたと言わんばかりに〈閃光の戦斧(バルディッシュ)〉が眩い光の中から姿を現す。しかし、それは今までとは大きく姿を変えており、従来の戦斧や魔法の杖といった様相は微塵も見られず、在るのは持ち手と左右対称に突起が突き出た部分のみだ。

 

「うん、ありがとう」

 

 変わらぬ愛機の信頼に微笑みを零したフェイトの手に収まったバルディッシュは鍔の装甲が開き、雷音を奏でながら閃光の刃を形成する。

 

 

「あの子を説得して戻って来るよ。だから、行ってきます。母さん…」

 

 フェイトは背後のリンディから送られてくる暖かい眼差しに答えるように振り返った。その顔つきは先ほどまでとは別人のように晴れ晴れとしたものであり、それを見たリンディも優しい笑みを零す。

 

 

 自分の大切なものを守る為、自らの運命を切り拓く為、フェイトは再び空へと舞い上がった。

 

 

 元々、リンディが最前線に赴いたのは実戦投入が可能となった彼女の愛機を届けるためであったのだ。

 

 為すべきことは果たした。後はフェイトを信じるのみ…

 

 

 

 

「待たせちゃってごめんね。レヴィ!」

 

「別に待ってないし!仲間に助けてもらうなんてズルっこだ!!」

 

 フェイトはレヴィと向き合えるところまで高度を上げ、戦闘を中断させてしまったことを詫びている。対するレヴィはあっさりとバインドに捕まってしまったからか、脱出に時間をかけてしまった為かは定かではないが、不貞腐れたような表情を浮かべていた。

 

「あの人はもうこの戦いに手を出さないから、それで許してくれないかな?それに、レヴィだって機動外殻(ロボット)を使ってたしね」

 

「む、むぅ…」

 

 先ほどまでの沈んだ様子とは一転、どこか吹っ切れた様子のフェイトに今度はレヴィが言葉を詰まらせる。

 

「ねぇ、あのヒトがフェイトのお母さん?」

 

「うん。私の…母さんだよ」

 

 フェイトは半眼気味にリンディの方に視線を向けながら問いかけて来るレヴィに対して母親という単語を噛み締めるかのように穏やかに紡ぎ、至極当然の回答をした。

 

「んんっ!…ふんだっ!子供の喧嘩に親を呼ぶとは、ますます卑怯な!ボクが成敗してやる!!」

 

 レヴィは自身にはない母親という存在をどこか眩しいものと感じかけていた己の心の迷いを振り払うかのようにバルフィニカスを握る腕に力を込める。

 

「私はレヴィと喧嘩をするつもりなんてないよ。ただお話をしたいだけ。えっと、王様としゅてるん?でいいのかな?」

 

「あっー!それは僕だけが呼んでいい名だぞ!シュテんはシュテル!!」

 

「そうなんだ。じゃあ、王様やシュテルとも沢山お話したいな」

 

「む、むぅぅぅ!!!!」

 

 会話の主導権を握ったフェイトと口ごもるレヴィ…まるで先ほどまでとは逆の光景だ。直情型のレヴィが理詰めで調子を取り戻したフェイトに勝てる筈もない。

 

 

「無理だね!何故ならキミはここでボクにブチ転がされるからさっ!!」

 

「そうならないように…頑張るよ」

 

 互いの想いに、言葉に心を搔き乱された同士であるが、やはり戦闘は避けられない。それぞれが胸に秘めた思いを貫くために戦うのだ。

 

 

 

 

 フェイトとレヴィの雷が周囲に波を起こし、逆巻いた海が2人を遮るかのようにヴェールを形作る。

 

 

 その瞬刻…

 

 水のヴェールを吹き飛ばし、閃光のような速さを以て2つの雷が激突する。

 

 

 

 

 先ほどまでの剣戟とは打って変わり、互いに互角…いや、動けない青雷を金色が翻弄するかのように攻め立てていた。

 

(何だろう?体が軽い)

 

 フェイトは〈電磁カートリッジ〉を搭載して生まれ変わった愛機〈バルディッシュ・ホーネット〉の主形態〈ストレートセイバー〉でレヴィを斬りつけながら、今までにない感覚に違和感の様なものを感じていた。

 

 5年間もの間、彼女を苦しめて続けていた重荷を降ろすことができた事…自身の中で迷いを絶ち、進むべき道への答えに近づいたことがフェイトの本来の力を引き出しているのだろう。

 

 そして、より高機動戦闘に特化したバルディッシュもまたその一因となっている。

 

 新たなバルディッシュの主形態―――ストレートセイバーは意匠はこれまでのフルドライブ〈ザンバーモード〉に近いが、刀身の長さが身の丈ほどもあった従来のザンバーと比べるとかなり小さく、通常の刀剣サイズと言っていい。

 

 間合いこそ短くなったが、その分、取り回しに優れており、フェイトの高速機動での戦いに適しているだろう。しかし、手数を増やしただけで翻弄できるほどレヴィは甘い相手ではない。

 

「う、うぐっ!ふんっぬ!!!?」

 

 だが、レヴィはバルフィニカスを満足に振るうこともできずに防戦に回らざるを得ないでいる。

 

 従来のフルドライブと比較して間合い(リーチ)は短くなったが、これまで以上に高密度に圧縮された魔力刃とデバイス本体へのカートリッジ部からの常時給電により、通常稼働であるにもかかわらず、その剣戟の一太刀は以前までのザンバーモードのそれをも凌駕している為だろう。

 

「ぬ、ぬぐぅぅ…こんのぉ!!!…ん、にゃっ!?」

 

 レヴィはどうにかフェイトを押し返そうとバルフィニカスを振るうが、闇雲な軌道を描く太刀筋で今の彼女が捕らえられるはずもない。こうなったら周囲一帯を消し飛ばそうと、フルドライブを発動させようとしたレヴィであったが眼前に突き出された刀身に思わずよろめく。

 

 そして、フェイトはバルディッシュの剣先にバルフィニカスの斧部を引っ掛けるようにして横に剣を薙いだ。

 

 咄嗟に握力を強化したレヴィは愛機を手放すことは何とか避けたものの、大きく体勢を崩して身体が開く。そんなレヴィの両腕両足に〈ライトニングバインド〉が発動し、拘束する。

 

 

「う、うぇ…ウソぉ!?ぐっ!ぐぬぬぬっ!!!!この縛るヤツ、キライぃぃぃ~!!」

 

 全身を使ってジタバタと暴れるが両腕両足を拘束しているライトニングバインドが外れる事はない。身体を横に引っ張られた際にバルフィニカスの柄から左手を離してしまい、デバイスを右手のみで掴んだ体勢で拘束されているレヴィは両腕で柄を握れない。そのため、大剣の形状を取るフルドライブはおろか、戦斧状態ですら満足に扱えないでいた。

 

 

「行くよ、レヴィ!!」

 

 対峙するフェイトはバインド解除の隙など与える間もなくレヴィにバルディッシュを向ける。

 

「え…あ、ちょっ!?行くって!?」

 

 レヴィは焦ったように声を漏らすが、自身を見据える紅瞳が狙いを澄ますかのように細められた。

 

 

 

 

 フェイトの周囲に雷光が迸り、足元には金色の魔法陣が浮かび上がる。手にしていたバルディッシュが閃光の刃から漆黒の槍…砲撃形態〈ジャベリン〉へと形態移行し、これから行使される攻撃の衝撃に備えるかのように魔法陣へ楔を打ち込んだ。

 

 

「受けてみて…私とバルディッシュの全力全開ッ!!」

 

 漆黒の槍の矛先に金の雷が集い、周囲を取り巻く紫と空色の雷が金色の光に寄り添うかの様にスパークしながら超高密度に収束されてゆく。

 

 

 

 

「ホーネットジャベリンッ!!」

 

 フェイトの撃ち放つ閃光―――電磁加速された雷撃槍が一瞬の内にレヴィを呑み込んで魔力の奔流を巻き起こす。

 

 新たに習得した砲撃魔法〈ホーネットジャベリン〉が炸裂した。電磁カートリッジの恩恵を受け、弾速においては他の砲撃魔法と比較しても類を見ないほどの速さを誇るこの攻撃をバインドを施された状態で回避できるはずもない。

 

 

 そして、魔力の奔流が収まると同時に真っ逆さまに海面に堕ちていくレヴィをフェイトが受け止め、その様子を確認する。

 

 目を回してこそいるが、魔力ダメージと多少の外傷のみでバイタルへの異常は見られない。

 

 レヴィを気遣いながらゆっくりと高度を下げていくフェイトはリンディの方を向いて小さく笑みを浮かべ、リンディも穏やかにそれに倣って笑みを返す。

 

 そこに在ったのは紛れもなく1つの親子の姿であった。

 

 

 

 

(シュテルとレヴィが敗れおったか!)

 

 王様と言われていた少女―――ディアーチェは飛来する白銀の剣を相殺しながら、心中で毒づいた。

 

(だが、死んではおらん!兎にも角にも今は!この小鴉が鬱陶しい!!)

 

 ディアーチェは倒れた臣下達に念話を送りながら迫り来るはやてに忌々しそうに視線を向ける。

 

 自身の大願の前に、敵の手に堕ちた2人の臣下をどうにかせねばとはやてを突き放そうと速度を上げるが魔力の散弾を撒き散らしてくる彼女から逃れることができない。

 

 

 はやてもディアーチェも機動力に優れているタイプではなく、大規模魔法での物量戦に特化した広域魔導師であるため、相手を撃墜するためには大技を決めることが手っ取り早い決着手段となるであろうことは明らかだ。

 

「リイン!コントロールは任せたよ!!」

 

《はいですぅ!》

 

 逃げ切るよりも撃破へと思考を切り替えようとしていたディアーチェは迫り来る砲撃を魔力障壁で防ぐが、思った以上の出力に僅かによろめいた。

 

 何事かと視線を向けたはやての右腕にはなのは機とはカラーリングの違う黒い〈ストライクカノン〉が握られており、先ほどの強力な砲撃を繰り出したのはこれだと当たりを付ける。

 

 

 はやて自身も自覚しているが、彼女の射撃や魔法制御は洗練されているとは言い難いものがある。高町なのはの様な正確無比な制御も、フェイト・T・ハラオウンの様な制動性もない。

 

 そして、シグナム達が得意とする近接戦闘においては論ずるレベルにも値しないと言っていい。

 

 

 

 

 だが、はやてに求められているのは個の戦闘能力ではない。彼女は〈王〉であり、前線に出て露払いをするのは騎士たちの役目であるからだ。

 

 しかし、3ヵ月前に起きた無限円環(ウロボロス)構成員による襲撃事件の際に自らの力不足を実感し、個人戦闘の訓練も以前に比べれば積極的に取り組むようになった。

 

 であるにもかかわらず、今回の事件でも自らの命に等しい大切な〈夜天の魔導書〉をみすみす敵対勢力の手に渡してしまった。

 

「ツインカノン!撃つでぇ!!」

 

《了解ですぅ!》

 

 はやては左腕に握っていた杖から、もう一艇のストライクカノンへと換装し、両腕のカノンに自身が保有する膨大な魔力を注ぎ込んで砲撃として撃ち放つ。

 

「ぐぅぅっ!!!」

 

 ディアーチェは一射目は障壁でどうにか受け止めたものの、射撃制御を預かったツヴァイによって狙い澄まされた二射目に被弾してしまう。普段のはやてらしからぬ気迫を感じされる苛烈な攻めを前に、撃墜こそされなかったが彼女の怒りと屈辱は怒髪天を突いた。

 

 

 

 

 〈城塞のグラナート〉、〈海塵のトゥルケーゼ〉、〈黒影のアメティスタ〉、〈憤激のサルドーニカ〉…4機の大型機動外殻を失ったばかりかシュテルとレヴィは敵に捕らわれている。

 

 状況は最悪だ。そして、目の前のはやてと融合騎とのコンビネーションは十二分に脅威に値する。

 

「このような所で使いたくはなかったがっ!」

 

 ディアーチェは未だに噴煙を噴く甲冑の肩部を抑えながら、瞳を見開いた。

 

「高まれ、我が魔力!震えるほどに暗黒ッ!!」

 

 周囲に闇の深淵を思わせる孔が開く。

 

 尋常ではない魔力反応を受けて身構えたはやての眼前にディアーチェ自身が斬り込んでくる。自分同様、近接戦闘に不向きであろう彼女の接近に思わず虚を突かれた。

 

 鍔是り合う〈エルシニアクロイツ〉と〈ストライクカノン〉であったが、はやてがディアーチェを後追いしてきた無数の魔力弾に気を取られた一瞬を突いて、カノンの一機を魔力刃で斬り裂く。そのまま杖の石突ではやてを下方へと追いやって制空権を奪い取った。

 

「―――アロンダイトッ!!」

 

 ディアーチェは両腕に生成した膨大な魔力を一気に開放し、はやてに向けて叩きつける。大出力砲撃魔法〈アロンダイト〉が闇色の魔力の波となってはやてに迫り、さらに追撃と虚空に開いた孔から無数の魔力の雨を降らせた。

 

 

 

 

 眼下から吹き上がる噴煙を尻目に荒れた呼吸を整えるディアーチェであったがその左肩と腹部に白色の剣が炸裂する。

 

「ぐ、っ!?…ふん、融合騎に救われたか」

 

 ディアーチェは衝撃に表情を歪めながらも薄くなった噴煙から覗く白い光に向けて毒づいた。

 

「だが、その様子ではここまでのようだな」

 

 巨大なクレーターを背に未だに健在なはやてではあったが、髪色や騎士甲冑が彼女本来の物へと戻っているところから察するに、リインフォース・ツヴァイとの融合(ユニゾン)が解けているようだ。

 

「王様も相当にお疲れの様やけどね!」

 

 疲弊の色が濃いのははやてだけではない。端から見ても大技を使ったディアーチェが疲労しているのは明らかである。でなければ、噴煙越しとはいえ、ディアーチェが正面から射出された魔力刃〈バルムンク〉を回避も防御もせずにその身に受けることなどありえないだろうからだ。

 

 決死の覚悟を以て防御と回避に専念して力尽きたツヴァイ…奪われた夜天の書…

 

 戦況はディアーチェに分がある。しかし、はやてはここで引く理由など持ち合わせてはいない。

 

 

 

 

「減らず口を…っ!?」

 

「なんや、アレは?」

 

 両者の視界の端で空へ伸びる光の柱が輝いた。

 

 

 

 

 ディアーチェはその光景を目の当たりにした瞬間、はやての事などお構いなしに〈オールストーン・シー〉を目指して飛び出す。

 

 あの光がどのような現象であるのか、どのような意味を持つのかを理解はできていないが、とにかくあの場所へと向かわねばという想いを抱いて空を駆けていた。

 

 

 

 

「ちょぉ待って!王様!アレは一体、何なん!?」

 

「我とて分から…貴様に話す道理などあるか戯けが!ついて来るな!!」

 

 はやては状況を理解せんと、何か知っていそうなディアーチェに追いすがるが、前方から撒き散らされた魔力の散弾に足を止めてしまい、彼女との距離が開いてしまう。

 

ツヴァイの補助を失った今のはやてでは魔力に物を言わせた大規模攻撃の撃ち合いならいざ知らず、小技での応戦においてはディアーチェに後れを取ってしまっているようだ。

 

(何だこの感覚は…)

 

 ディアーチェは追って来るはやてに気をやりつつも、臣下達に指示を伝えながら空を駆ける。

 

 言いようのない焦燥感に苛まれながら……

 

 

 

 

 彼女達はまだ知らない。

 

 現在繰り広げられている戦いはこれから始まる戦乱へのほんの序章でしかないということを…

 

 たった1人の奏演者を除いては……

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんやかんやでreflectionは大詰めとなってきましたね。

感想等頂けましたら嬉しいです。

では次回お会いいたしましょう。

ドライブ・イグニッション!
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