魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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超越する極光

 2人の女性が星空の下で銃口を突きつけ合う。青を基調としたフォーミュラスーツに身を包んだアミティエ・フローリアンとユーリ・エーベルヴァインの結晶樹によって多くの管理局員から生命エネルギーを奪い取ったことによって得た〈武装侵攻形態アスタリア〉へと装備を換装したイリスである。

 

「そこまでです」

 

「しつこい良い子ちゃんね。そんなボロボロの身体で何ができるの?」

 

 瞳を鋭くするアミティエとおどけるような口ぶりで彼女を嘲笑うイリス。

 

 アミティエの体には先のキリエとの戦いでの負傷以外にも真新しい傷が刻まれており、まるで何かと一戦交えて来たかの様な風貌で合った為だろう。

 

「貴女が放った機動外殻に足止めされてしまいましたが、この程度はどうという事はありません。私は頑丈ですから!」

 

 力強く言い放つアミティエ。その言葉にイリスの眉が僅かに吊り上がるが、両者の意識は後を追いかけてきたキリエへと向いたため、当人を含めてその変化に気づいたものはいなかった。

 

 

 

 

 桜色の光が空を薙ぐ。

 

 アミティエ・フローリアンが所持していた予備の〈ヴァリアント・コア〉を搭載し、更に彼女の手によって改良が加えられたフォートレスモード…〈エルトリア式フォーミュラ〉と従来の魔導を合わせる事によって爆発的な出力を誇る新形態〈フォーミュラモード〉を駆る魔導師―――高町なのはは永遠結晶の中で眠っていた少女―――ユーリ・エーベルヴァインとの望まざる闘いに興じる事となった。

 

 カノンのトリガーを引く前に制止を呼び掛けたなのはだったが、イリスが撃ち込んだ専用のウイルスコードに意識を蝕まれ、どこか悲痛そうな表情を浮かべながらも巨大な腕部を持つ攻撃兵装〈鎧装〉を振りかざしてくるユーリにそれは届かない。

 

 そして、高町なのはには時間がない。

 

 フォーミュラモードによる出力上昇は桁違いだが、その裏返しとして術者とデバイスへの負担も跳ね上がる為、戦闘可能時間が僅か3分間である為だ。加えて、なのはが使用している武装自体の完成度も6割程度であり、その戦闘可能時間もあくまでも目安でしかなく、今の彼女は非常に不安定な状態と言っていい。

 

 その証拠にユーリからの直接的なダメージを一撃も受けていないはずであるにもかかわらず、なのはの純白の防護服(バリアジャケット)は時間の経過と共に腐食が進むかのように灰色に染まっていっている。

 

 

 

 

 暴力的なまでの戦闘能力を持つユーリ相手に1人奮戦していたなのはであったが、徐々にその均衡が崩れ始めていた。

 

 鎧装とフォーミュラカノンが鍔迫り合う…

 

 しかし、ここまでの代償を払っているにもかかわらずユーリがなのはを押し始めたのだ。

 

 苦手な近距離(クロスレンジ)での戦闘は分が悪いと遠距離(アウトレンジ)へと退避すべく、大出力の砲撃を零距離から撃ち放ち、迫るユーリを薙ぎ払ったかに見えたなのはに巨大な拳が迫る…

 

 

 

 

「ファランクスシフト!!」

 

「バルムンク!!」

 

 ユーリの四方から帯電した魔力弾と白い剣群が襲い掛かる。1つ1つは大した脅威にはならないのかもしれないが、雨のように降り注ぐ魔力弾に思わず足を止めてしまう。

 

「ボサッとしてんな!連携行くぞッ!!」

 

「ヴィータちゃん!…うんっ!」

 

 ヴィータはユーリに向けてシュワルベフリーゲンの大球を撃ち放ちながらなのはの前に躍り出て彼女に発破をかけた。

 

 ここにいるのはなのはだけではない。

 

 エース級の魔導師達も混迷の戦場へと参戦を果たしたのだ。

 

 

 

 

 ユーリはなのは以外にも自らの障害となりえそうな者達が現れた事を鬱陶しく思ったのかフェイトのファランクスの比ではないほどに膨大な数の魔力スフィアを出現させ、周囲の景色を埋め尽くさんばかりに連射する。

 

「なっ…ベルカ語!?」

 

 その際の詠唱がベルカ語であったことにはやてを始めとした一同が驚愕したのもつかの間、迫り来る大量の魔力弾〈炎の矢〉への対処を迫られることになった魔導師達の脚が止まる。

 

 エース級の魔導師らからすれば数が膨大で並の威力ではないとはいえ、所詮は牽制用の散弾であり十分に対処可能な範囲ではあるが、他の魔導師にとってはそうではないようだ。

 

 牽制で撃たれた炎の矢の一撃一撃が必殺となり、数発同時に迫ろうものならその時点で撃墜は必至…加えてこれまでの戦いからエルトリア側の戦闘員が非殺傷設定を使っていないのは明白であり、まともに一撃受けるだけでも死に至る可能性すらあるのだ。

 

 迫り来る炎の矢に対して身を固くし、魔力を絞り出して防衛行動に入ろうとした魔導師部隊の眼前には(おびただ)しい数の新緑と銀色の剣十字が出現する。

 

 補助に秀でたシャマル、防御に秀でたザフィーラが魔導師部隊を守るかのように大量の障壁を展開していたのだ。

 

 安心もつかの間、さらに第二射が迫るが今度は白の剣十字と金色の円環も防衛に加わり、無数の魔力弾を1つ残らず遮断している。

 

 その向こう側では煌めく桜色、轟く爆炎、破壊の鉄槌…そして、理不尽なまでの巨大な力が入り乱れるように夜天の空を翔けていた。

 

 

 

 

 多くの武装隊員は目の前で起きているその光景をどこか別の世界での出来事ではないかとさえ感じていた。目の前で空を舞う化け物達の戦闘を現実の出来事として受け入れることができないでいるためだ。

 

 自らの魔力を全て投げ売った攻撃でさえ、彼らの牽制攻撃の足元にも及ばないだろう。彼らが片手間で放った攻撃は避ける事はおろか、防ぐことすらできないであろう。

 

 自分達の戦いを拳銃の撃ち合いと称するならば、目の前の化け物(エース)達の戦いは弩級ミサイルの撃ち合いに等しい…援護はおろか、支援にすら回ることができない。ユーリの散弾にすら歯が立たず、守られているだけの自分達が一歩でも動けば、逆に彼らの足を引っ張ることになる。

 

 残酷なまでの実力差…魔導師部隊はシャマルたちの障壁越しに己の力不足すら感じ取る事の出来ないほどに、文字通り次元が違う者達の戦いを黙って見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 ユーリは飛来する鉄球を弾き飛ばし、狙いすましたかのようなタイミングで迫る桜色の砲撃を巨大な拳で殴り飛ばす様に防ぐが、想定以上の出力を持っていたなのはの攻撃に対して僅かであるが姿勢を崩す。

 

 火力、速力、防御力…どれをとっても理不尽と言わざるを得ないユーリの戦闘能力であるが、外付けのウイルスコードで強制的に戦闘を行っている弊害か、付け入る隙が無いわけではない。

 

「此処だッ!!轟・天・爆・砕ッッ!!!!」

 

 一瞬身体を硬直させたユーリにハンマーヘッドが巨大化したフルドライブ〈ギガントフォルム〉の〈グラーフアイゼン改〉が叩きつけられる。

 

 ユーリは不意を突かれた強撃を回避不能と判断したのか、鎧装の4本腕を正面に向けたと思えば、あろうことかなのはの収束砲撃(ブレイカー)にも勝るとも劣らないほどの威力を誇るヴィータの最強の技〈ギガントシュラーク〉を受け止めた。

 

《Explosion!》

 

電磁カートリッジを炸裂させて強引に押し込もうとするヴィータであったが、ユーリの贅力もそれに比例する…いや、押し返さんばかりの勢いで高まっていく中、両者の中心で爆炎が煌めく。

 

 シグナムが紅蓮の炎を纏いて巨大な刀身を形作った〈レヴァンティン改〉を携えて迫っていた。

 

 ユーリは迫る危険対象に生気が抜け落ちたかのような瞳を向けたかと思えば、シグナムが突っ込んでくる方向に炎の矢を撃ち放ち、第ニ波として結晶樹を差し向けるが、女騎士は陽炎の如き残像を残し、空を舞い踊るかのように物量攻撃を潜り抜ける。

 

「…はぁっ!一閃ッ!!」

 

 夜天の空を爆炎が染める。

 

「なっ…」

 

 驚きを表すかのようにユーリの口が僅かに開く。

 

 シグナムがレヴァンティンの切っ先を鎧装の腕部と装甲部の間に存在する僅かな隙間の空間に突き入れて剣を振り抜き、大小からなる鎧装の4本の腕部を纏めて斬り落としたためだ。

 

 迅雷のような勢い高速機動の最中においても硬固な装甲部を避けつつ、比較的硬度が低いであろう腕の関節部を狙い撃ち、両断するという芸当をやってのけたシグナムは表情一つ変えることなく、斬り抜けるように離脱すると同時にレヴァンティンに魔力を流し込む。

 

「…っ…っ!?」

 

 シグナムに気を取られた僅かな瞬間、迫り来る脅威を前に自動展開された魔力障壁が軋む音を上げ、ユーリは海上を吹き飛ばされていた。

 

「ブチ抜けぇぇぇっっっ!!!!」

 

 鉄槌を押し留めていた鎧装が失われたため、唸りを上げて襲い掛かってきたギガントシュラークの直撃を受けたためだ。

 

 ユーリの身体は振り下ろされる鉄槌と共に小さな島へと叩きつけられる。

 

 しかし、ユーリは吹き飛ばされながらも即座に張った障壁に魔力を注ぎ込み、巨大化した鉄槌から成る強撃の威力の殆どを殺し、傷を負った様子もなく上体を起こした。先ほど破壊された鎧装を再構築をしながら、空域へ飛び上がろうとウイルスコードの計算式が浮かび上がっている瞳を空へ向けようとしたユーリであったが、上空から飛来した3つの爆炎槍によって動きを止める。

 

 シグナムが三射同時に放った〈シュツルムファルケン〉が再構築が完了した鎧装を貫通し、地面へと縫い付けるように突き刺さったためだ。

 

 着弾した轟炎の矢は何時ものように爆散することもなく、不死鳥の翼を翻すこともなくあくまで鎧装に喰らい付いたまま微動だにしない。

 

 大出力のギガントシュラーク、一射が通常の魔導師のフルドライブ状態を上回るシュツルムファルケンを立て続けに受けたにもかかわらず、何事もなかったかのようにユーリは壊れた鎧装を破棄し、上空のシグナムらに夥しい数の炎の矢を差し向けながら、再びの再構築を始めた。

 

発射(ファイヤー)!」

 

「行ってッ!!」

 

 しかし、後方に下がっていたはずのフェイトとはやてが前線へと赴いており、両者の魔力弾によって炎の矢はその殆どを叩き落される。

 

「鋼の軛ッ!!」

 

 今度は再生途中の鎧装に地面から出現した白い軛が突き立てられる。さらに援護するかのように赤い魔力を纏った鉄球が形を固定しきれていない鎧装を歪める。

 

 この戦いはユーリが望んだものではなく、目の前の者達と戦っているのはイリスが植え付けたウイルスコードの影響によるものだ。故に力を抑えており、全力を出し切ってはいないユーリであったが、エース級魔導師達による波状攻撃は彼女の予測を超えており、防衛本能からか思わず力を解放していくが、それを遮る様に彼女の両手足に橙色の鎖〈チェーンバインド〉が絡みついた。

 

「これは…」

 

 魔導に精通しているユーリだけあって、アルフが出現させたバインドを一瞬で破壊した。しかし、後を追うようにユーノとシャマル、そして再びアルフのバインドが動きを止めようと身体に纏わりつく。

 

 しかし、それもほんの一瞬の出来事だ。

 

 サポートに特化した3人でも動きを長くは止めていられない。それはシャマルらも承知の上だ。

 

 だが、今のユーリは主兵装である鎧装が使用不可、発動させようとする誘導弾も砲撃も上空のエース達によって未然に対処され、攻撃オプションをすべて失った上で一瞬ではあるが動きを止めている。

 

 ようやくできた一瞬の隙…

 

 

 

 

 ここにいる誰もがこの時の為に力を注いできた。

 

 シグナムが鎧装にシュツルムファルケンを撃ち込み、身体ダメージではなく武装の破壊を優先したのは何故か…

 

 フェイト達がユーリ本人に攻撃するわけでもなく、発動する魔法の妨害に徹しているのは何故か…

 

 ユーリに対して手傷を負わせる機会ならこれまでの戦闘でも幾度かあった。しかし、中途半端な攻撃をいくら加えても決定打にならなければ意味はない。

 

 だからこそ……

 

 

 

 

 上空で光が煌めく。

 

 尋常ではない量の魔力が一点に収束され、巨大な光を放っているのだ。

 

 巨大な魔力とは裏腹を収束しているのは年場もいかぬ華奢な少女。しかし、その水晶の様な瞳はフォーミュラ特有の燐光を放ち、腰部の桜色の光翼は膨張するかのようにその大きさを増していく。

 

 

 

 

 今回が〈フォーミュラモード〉の初の実戦投入である。制約も多く、使い慣れていない未知の力であるが彼女なら問題なく使いこなすであろうとここにいる誰もが信じて疑わない。

 

 だからこそ、自分達はユーリを戦闘不能にできるだけの出力を持った一撃を確実に打ち込む隙を作る。

 

 最後の一撃は彼女に託すと決めたのだ……

 

 

 

 

 収束している魔力がさらに膨れ上がる。

 

 彼女の戦闘スタイルは魔力を収束して撃ち放つという物であり、常にエネルギーが流動しているエルトリア式フォーミュラとの相性は決していいとは言えない。

 

 加えて、魔導とフォーミュラという全く違う力の同時運用…

 

 はっきり言って発想の時点で常軌を逸脱していると言っていい。

 

 現にフォーミュラドライブの活動限界は最大でも180秒。さらに術者とデバイスへの負担は殆ど考慮されておらず、〈アクセラレイター〉に対抗しうる高出力を得るために次元を異にする力を半ば強引に掛け合わせたものだ。

 

 前例もなく、成功する保証もない。

 

 だが、そんなものなど眼中にはないのだろう。目の前の悲しい物語を悲しいままで終わらせないためには、無理でも無茶でもやり遂げてしまうのが高町なのはという少女なのだから…

 

 

 

 

 天高く突き上げられたフォーミュラカノンが振り下ろされる。

 

「エクシードッ!ブレイカーッッッ!!!!」

 

 なのはは引き金(トリガー)を引き、暴力的なまでの魔力を解き放った。放たれるのは魔力の奔流…渦巻く桜色の極光は一瞬にしてユーリを呑み込んだ。

 

 

 

 

「う、うぁっ!!?うううっっ!!!??ああっ、あっああああああああっっっ!!!!!??」

 

 ユーリは持てるだけの力を以て障壁に魔力を注ぎ込むが、エース級の魔導師達の攻撃をも耐えて来た壁は浸食されるかのようにいとも簡単に砕け散り、その身を桜色の光に焼かれる。

 

 星光(スターライト)を超え、加速(フォーミュラ)の力をも吸収した超越(エクシード)の一撃…元々、スターライトブレイカーが持っていた防御障壁を喰い破る性質はこの〈エクシードブレイカー〉にも受け継がれている。

 

 つまり、なのはの収束砲撃(ブレイカー)に対して、防御という手段を講じた瞬間に既に当たっている(・・・・・・)のだ。

 

 だがユーリは痛みの中にありながら、この地球(ほし)の全てを殺し尽くす前に自分を止めてくれた魔導師達に対して胸の内で感謝を述べていた。そして、イリスが撃ち込んだウイルスコードがなのはの砲撃によって破壊されていくのを身をもって感じていた。

 

 ユーリは光の中で小さく微笑んだ。

 

 

 

 

「はぁはぁ…はぁ…何とか、撃ちきった…」

 

 なのはは荒い呼吸を繰り返しながら震える腕を庇うように通常形態へと戻ったストライクカノンの砲身を下げる。フォーミュラドライブの稼働時間は制限時間180秒を若干超えてしまったが、収束砲撃を着弾させることができた事に安堵している様子だ。

 

 しかし、その姿はなんとも痛ましいものであった。

 

 外的損傷はユーリと単独戦闘を行っていた際に強引な方向転換を行った為に負った右足の負傷のみであるが、全身を包んでいる純白だった防護服(バリアジャケット)の殆どはまるで腐敗しきったかのように色を変え、一部は崩れてしまっているためだ。

 

 

 

 

「…っぁ、ぁぁっ!?」

 

 余りに強力な収束砲撃を目の当たりにした管理局員達は思わず言葉を失っていた。自分よりも若く、明るい笑顔が特徴的な少女が放った砲撃は周囲を焦土へと変貌させ、文字通り地形すら変えて見せたのだ。

 

 驚愕冷めぬ局員達の前には夜天の書の紙片に包まれるように守られている満身創痍のユーリの姿が浮上してきた。

 

 そして、その瞳が見開かれる……

 

 

 

 

 八神はやては目の前のディアーチェと茶を酌み交わしながら、先ほどまでの出来事を思い返していた。

 

 

 はやてはザフィーラを伴って意識を取り戻したユーリに真っ先に接近した。事件の関係者という事は勿論だが、彼女がベルカ語を話した事、夜天の書に関して何らかの関係があることが窺い知れたために気が気でなかったのだろう。

 

 同じく接近してきた怪訝そうな表情を浮かべているディアーチェ達3人と共に呼びかけたはやてであったが、呼びかけに答えるように夜天の書の紙片を片手に何かを伝えようとしている様子であったユーリが言葉を紡ぐことはなかった。

 

 戦域を離脱してアミティエとキリエが追っていたはずのイリスが再び姿を現し、背後からの攻撃で味方であるはずのユーリに攻撃を加え、その口を塞いだ為だ。

 

 

 

 

―――便利よねぇ。夜天の書(コレ)…精々、壊れるまで使い潰させてもらうわ

 

 

 

 

 ユーリを始め周囲の面々が驚愕に呑まれる中、イリスは手に取った夜天の書に対して吐き捨てるかのように言い放ち、その力を以て今度こそ戦域から離脱してしまい、彼女らの逃走を許してしまった。

 

 

 そして、イリスらの反応消失に伴い、休息と情報整理、今回の実践データを踏まえて更なるデバイスの強化改修のために臨時本部へと帰還し、一息ついているといったところだ。

 

 現状としては、ユーリ戦で負傷したなのはと無断出撃に加え同じく負傷したアミティエ、事件の重要参考人であるキリエとそれらの付き添いとして執務官のフェイトが本局へと向かった為、地球から離れている。

 

 先の戦いでは容疑者を追跡していたクロノであったが結晶樹により負傷…こちらは見た目ほどの重症ではなかったようで調整と改修を間もなく終えるであろう彼のデバイス〈デュランダル〉を伴って次の出撃までに復帰可能とのことであり、怪我の具合に関しては東堂煉も同様であった。

 

(私らに残された事件の手掛かりはユーリが渡そうとしてきた夜天の書の紙片…)

 

 はやては青色の棒付キャンディーを舐めながら、手元を凝視して唸り声を上げるレヴィを一瞥する。ユーリははやてが今代の夜天の魔導書の主であることが分かると、イリスの救済を懇願してきた。事情は不明だが、その際にはやてに渡そうとしてきたのが今レヴィの手の中にある一枚の紙片…

 

 最も、イリスによってユーリが刺され、その紙片は殆どが燃え尽きてしまったのだが、事件の関係者として管理局で身柄を預かったディアーチェ達の身体データから彼女らが夜天の書の中から出現したこと、ユーリ・エーベルヴァインという少女と何らかのかかわりを持っていたであろうことが窺い知れる節があった。

 

 その為、紙片について事情を聞いたところ、その物自体に関しては知っていることはないが、恐らくは修復が可能であるということでレヴィがその役を担っている。

 

 

「…できたッ!!うーん、なんかの映像データみたいだけど…」

 

 レヴィの一言に周囲の面々が一様に視線を向けた。ヴォルケンリッターは、はやての指示によって映像の読み込み準備と本局への通信回線を開く。

 

 

 

 

「じゃあ、再生するよ」

 

 一同はレヴィの言葉に表情を引き締める。臨時本部では八神家、マテリアル、アルフ、別モニターではクロノとエイミィ、レティ。本局からはなのは、ユーノ、フェイト、リンディ、アミティエ…そして、キリエが固唾を飲んでその映像記録を見守った。

 

 紙片に残された映像記録は想像を絶するものであった。

 

 

 

 

 時系列にして約40年前の出来事…

 

 〈死蝕〉という病に侵されて死に行くエルトリアを救おうとしていた〈惑星再生委員会〉と呼ばれる組織。今回の事件の首謀者とされているイリスは彼らが作成した惑星一つを作り変えてしまう程の力を持つ〈生体テラフォーミングユニット〉であったこと。

 

 ユーリ・エーベルヴァインと呼ばれていた少女が当時〈闇の書〉と呼ばれていた夜天の書を安全に管理、運用するために、古代ベルカで開発された古代遺物保守管理システムの生体端末であった事や、主不在の空白の期間に彼女が夜天の書と共にエルトリアに来訪しており、イリスに発見される形で暫くの間、惑星再生委員会と共に過ごしていたことが明らかになった。

 

 だが、ユーリの存在は守護騎士達も知りえぬことであったため、ヴィータが怪訝そうな表情を浮かべている。

 

「我らは主が覚醒し、夜天の書が起動するまで表に出てくることはない。だからこそ、あの少女の存在を知りえなかったのだろう。アインスはこのことを知っていたのだろうか?」

 

 ザフィーラが小さく呟いた。

 

 アインス…かつての事件で氷空へと還っていた夜天の魔導書の管制人格であった〈祝福の風〉―――リインフォースの事であり、現在はその名を受け継ぐ2代目が稼働している為、呼び分けの為にリインフォース・アインスと呼ばれているようだ。

 

「ある意味では彼女自身が夜天の書と言っていい存在だ。恐らくは知っていたのだろう」

 

 シグナムは当然とばかりに言葉を零す。

 

 今回の事件に夜天の書が関わっているとあって、ヴォルケンリッター達にとっても思うところがあるのだろう。

 

 

 

 

 ユーリは持っている〈生命操作〉能力と天文学レベルのエネルギーを秘めている夜天の魔導書は朽ち果てていくばかりであったエルトリアにとっては希望の光と言えるものであった。

 

 イリスと絆を深めたユーリは彼らの友人として、〈惑星救済〉プロジェクトの中核として正式に協力を仰がれ、夜天の書が次の主を見つける間という条件付きで彼らに賛同し、惑星再生という目標に向けて尽力するようになっていた。

 

 ユーリは破壊と憎しみを生み出し、人々に恐れられるようになってしまった夜天の魔導が命を救うために役立っていること、イリスや惑星再生委員会の局長、所属研究員たちとも心を通わせた事に喜びを感じており、惑星救済プロジェクトも軌道に乗って来た…そんな最中、悲劇が起きる。

 

 

 

 

 イリスはアミティエ、キリエの両親である当時子供であったグランツ、エレノアと共に出かけていた。その帰り道、自らの携帯端末に入って来たメッセージに思わず言葉を失ってしまう。

 

 

―――ユーリが暴走した!委員会はお終いだ!!

 

 

 委員会へと駆け込んだイリスの前に広がっていたのは地獄絵図…

 

 見知った顔の仲間達が血の海に沈んでいる。

 

 顔面を撃ち抜かれ絶命した者、内臓を吹き飛ばされた者…仲間だと、年の離れた兄姉だと慕っていた者達が一様に血の花を咲かせていたのだ。

 

 震える脚で向かった局長室ではユーリの結晶樹に串刺しにされた自らの父ともいうべき局長の変わり果てた姿…

 

 その傍で血に汚れているユーリに問いかけた。

 

 

―――私が殺しました

 

 

 親友の返答は余りに残酷なものであった。

 

 他にも何か言いかけていたようだが、その瞬間、イリスは脳が沸騰せんばかりの怒りと共にユーリを殴り飛ばし、最大出力でアクセラレイターを発動させ、彼女を斬り裂かんばかりに襲い掛かる。

 

 

 

 

 結果はイリスの敗北。

 

 十字架に磔にされたイリスは力の大半を失い、件の遺跡版に封印されることとなる。

 

 しかし、ユーリもまた、心身共に決して軽くはない傷を負っており、絶望の中で夜天の書に自らを蒐集させ、エルトリアを去った。

 

 この後も何人かの主の下を渡り、クライド・ハラオウンが殉職した先の事件や、八神はやての元へ転生してきた夜天の書を巡る記憶にも新しい〈闇の書事件〉を経て、ユーリも地球にやって来たということが推測される。

 

「前に闇の書の闇を切り離した時にユーリちゃんのデータも一緒に分離した」

 

「そいつが海ん中に沈んでてオールストーン・シーを造る時に発見されたってことか」

 

 永遠結晶と呼ばれていた物質は闇の書の自動防衛プログラム〈ナハトヴァ―ル〉と管理局、ヴォルケンリッターの共同戦線の最中で密かに切り離され、東京湾に沈んでいた闇の書の紙片の一部であったのではないかとシャマルとヴィータが呟いた。

 

 

 そして、この一件により惑星再生員会は壊滅。エルトリアを救おうとする者は、後のフローリアン夫妻を除いて誰もいなくなり、今に至る。

 

 

 映像内であれほど仲が良かったイリスとユーリの殺し合いになのは達の表情もやるせなさや悲しみといった表情が色濃く出ていた。

 

 しかし、だからこそ、この事件を悲しい結末のままで終わらせたくはない。イリスと、ユーリとちゃんと話をしたいという決意を再確認することとなった。

 

 

(ユーリ…なぜその名を聞くとこれほどまでに心がざわつくのだ)

 

 ディアーチェは霞かかった記憶に苛立ちながら内心で毒づいた。シュテルとレヴィもどこか落ち着かない表情を浮かべている。

 

 

 

 

 一同が思い思いの考えを巡らせている中、何かに気が付いたようにはやてがモニター越しの女性に対して声をかけた。

 

「アミタさん?どないしたんです?」

 

「あ!?い、いえ、何でもありません!いらっしゃらないならいいんです」

 

「何でもないようには見えませんよ。で、誰がいないんですか?」

 

 はやては画面越しではあるがこちらを見渡すように視線を動かしているアミティエの余りに分かりやすいその様子に対して苦笑いを浮かべながら質問を投げかけている。

 

「え、っと、では…蒼月烈火さんをお願いします!」

 

 アミティエが口にした名前に対して首を傾げるマテリアル達を除いた面々が僅かに硬直し、同時に栗色のサイドポニーと金色のストレートロング、桃色のポニーテールが僅かに揺れた。

 

 

 

 

《アミティエか、何の用だ?》

 

 エイミィが繋いだ回線を通じてモニターが黒髪の少年の姿を映し出す。キリエは自らの姉に対してファーストネームを呼び捨てにしたばかりか、不遜な態度を全開にしている烈火に引き攣ったような表情を浮かべている。

 

「アミ、ティエ…」

 

 烈火とアミティエの通信中に茶髪のショートカットの少女が眉間に皺を寄せ、どこか面白くなさそうな顔をしていたことに気づいたものは誰もいなかったようだ。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

そして、お久しぶりでございます。

リアルの方に余裕がなさ過ぎて中々ここまでこぎつける事が出来ませんでした。
多少落ち着いては来ましたので、以前ほどまでとはいかないまでも、ペースを戻していければなと思っています。

そして、今回はこれまでとは打って変わってかなり話が進んだかなと思います。

皆様の感想等が私の原動力となっておりますので頂けるとモチベが非常に高まります。
ではまた次回お会いいたしましょう。

ドライブ・イグニッション!
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