魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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暴虐の嵐

 3人の少女が主人を取り戻そうと奮闘している頃。

 

都市部の地下に走る線路脇では茶髪をセンターで分けた大人の女性―――固有型イリスの苦悶の声が響いていた。

 

「…ぉぇ…ぐぎっ!?…がぁ!」

 

 固有型は地に這い蹲って起き上がることもできずに、驚愕に目を見開いていた。視線の先には女騎士―――シグナムが佇んでいる。

 

 肉体生成時にイリスからフィードバックされた魔導師達のデータから参照するに、目の前のシグナムに勝つことはできないまでも足止め程度なら十二分に可能という検証結果が出ていたはずであるし、できる事ならば排除するつもりで戦闘に臨んだ。

 

 しかし、結果は―――初撃の振り下ろしを躱されたばかりか、シグナムの騎士甲冑から剥き出しになっている太腿が鞭のように(しな)り、白い軌跡を描いて撃ち放たれた強烈なハイキックによって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて動けなくなっているという物であった。主兵装の〈ヴァリアントウエポン〉は落下の衝撃で既に手元から弾かれてしまっている。

 

 エルトリア人は故郷の劣悪な環境に適応した為に、身体スペック、強度は地球、ミッド人とは比較にならないほど高水準である。同郷のテラフォーミングユニットが生み出した彼女ら〈イリス群体〉に関してもエルトリア人と同等…耐久性に関してはそれ以上を誇っているにもかかわらず、たった一撃で立てなくなるまでのダメージを受けているこの状況は完全に想定外と言える。

 

「ふ、ふざけるな…」

 

 固有型は身体を震わせながら、無理矢理立ち上がりシグナムを睨み付ける。母体の命令を果たす―――それ以上に、この状況を寛容したくないという衝動に駆られての事だろう。

 

 相手は女性型で背格好も似ている剣士であるにもかかわらず得物を抜かせることもできずに地面に這い蹲る自分……

 

「ッ!…はあああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 固有型は踏み出した勢いで地表を蹴り壊しながら、シグナムへと飛び掛かる。その手に剣は無く―――身一つで我武者羅なまでに…

 

 オリジナルからの指令を遂行する為だけに産み出され、それ以外には何の価値も抱かないはずである〈群体〉の一員の自分が何故、目の前の女との戦いにこれほどまでに意志を揺さぶられるのかは分からない。

 

 結界破壊も敵の足止めも最早、彼女の頭の中には存在しない。ただ―――シグナムに勝利したい…その為だけに拳を振り(かざ)す。

 

 その瞳にはシグナムも…自身の拳を握り、迎え撃とうとしている光景が映りこむ。正面からの力比べ……固有型は自らの口元が緩んでいることに気づかぬままに気流を纏った拳を振り抜いた。

 

 

 交差する両者の拳…

 

 

「―――ッ!」

 

 片方の女は頬に赤紫を纏った拳を撃ち込まれた衝撃で地下を転がり、もう片方の女はその光景を静かに見下ろしている。

 

 シグナムの拳は相手の頬に突き刺さり、逆に固有型の拳は相手の横髪を揺らすに留まり空を切った。クロスカウンターのような形で拳を交えた女の戦いはシグナムに軍配が上がったのだ。

 

 大の字になって横たわる固有型は呻き声すら上げられずに意識を手放していた。

 

 ちょうど戦闘が終了したタイミングで、列車に打ち込まれた〈シュツルムファルケン〉の魔力反応を感知してか、シグナムと同様に地下に派遣された魔導師部隊が姿を見せる。

 

 噴煙を巻き上げて横たわる列車、顔を腫らして倒れている女性と薙ぎ払われた量産型……

 

「―――誰か彼女の拘束を頼む。私はその系統には疎くてな」

 

 魔導師部隊は地面に突き刺した〈レヴァンティン改〉を鞘に納めているシグナムに声をかけられ、弾かれたかのようにイリス群体達の捕縛に取り掛かる。

 

 主兵装の剣を使うまでもなく決着した余りに一方的な戦闘。決して固有型の戦闘能力が低水準というわけではない。一般的な魔導師であれば単体で打倒することは難しいほどの力を有していたと言える。

 

 しかし、剣水晶の竜皇(クリスタルドラゴニア)や魔導獣との戦闘、特A級次元犯罪者イヴ・エクレウスとの死闘―――天穹の翼を抱きし少年の存在…この数ヵ月の間に起きた幾つもの戦いは八神はやて達と過ごす穏やかな日々の中で失いかけていた、シグナムの戦士としての本能を呼び醒ます結果となっていたのだ。

 

 仮にこれらの出来事が起きず、この事件がもっと前に起きていたとしても戦闘の結果は変わらなかったであろう。だが、これほどまでに一方的な戦闘となったのは、死線の中を潜り抜ける中で研ぎ澄まされた騎士としての本能…暖かな主と過ごす中で得た優しさという強さ…どちらも内包した今のシグナムだからこそと言えるだろう。

 

 

 シグナムは倒れた敵に視線を向けることなく線路内を駆けていく。

 

 

 

 

 最初に固有型を討ち取ったシグナムに続くかのように各所の戦闘も集結へと向かっている。

 

 大通りではヴィータが〈グラーフアイゼン改〉で吹き飛ばした固有型を深紅のバインドで縛り上げている。

 

 

 オールストーン・シー園内には、なのはとはやての砲撃で胸元に大穴を開け、各所を損傷している機動外殻が転がっており、その近くには翡翠のバインドで拘束されている固有型の姿。これでイリス群体の肉体生成の為の素材採掘の供給を大幅に制限することができる事であろう。

 

 

 結界維持の要所の一角とされていたドームでも鉄槌を柄から圧し折られて気を失っている固有型をアルフが拘束している。

 

 

 

 

 都心部への侵攻を仕掛けた固有型を捕らえ、機動外殻部隊をを退けたシャマルはシグナムへと通信を繋いでいた。

 

「―――シグナム、そっちはどう?』

 

『線路内の量産型は殲滅した。そちらはどうだ?』

 

「こっちも全員拘束完了よ」

 

 シャマルは離せと喚きながら拘束を外そうと足搔いている固有型を流し見ながら、シグナムからの良い報告に僅かに目尻を下げた。

 

『ならば良いが、本体と他の戦況はどうなっている?』

 

「そっちは大丈夫、リンディさんと本部が本体を探してくれてるから」

 

 現在はリンディを始めとした部隊がイリス本体の行方を捜索中だ。先ほどクロノが僅かとはいえ本体との通信を繋げることができた為、そちらでも反応を追っている。本体の反応を補足できるのも時間の問題と言える。

 

「群体イリスの退治も各地で頑張ってるわ。このまま行けば結界から逃がす心配はなさそうよ」

 

『そうか…早く本体が見つかるといいのだが……』

 

 シグナムは各所の仲間たちの奮闘の報告に胸を撫で下ろすが、未だに残る懸念事項が脳裏を過ってか僅かに表情を曇らせる。

 

「後はユーリちゃんと戦っている王様達…」

 

『……そうだな』

 

 浅からぬ因縁を抱えている4人の少女…

 

 彼女らの結末が悲しいものとならぬようにと祈るシャマルの思いとは裏腹に―――

 

 飛び込んで来たのは救援申請……

 

 終幕へと向かっていたはずの一連の事件は新たな歯車を加え…狂ったように変質していく……

 

 

 

 

 長きに渡る因縁に決着を付け、ユーリとの再会を果たしたディアーチェ達―――

 

 突如として飛来し、彼女らに迫る1発の銃弾はシュテルの〈ブラストクロウ〉を掠め、その衝撃でダメージを与えた。

 

「…シュテルッ!この…ッ!」

 

 新たな脅威を感じ取りすぐさま反撃の魔力弾を放つディアーチェだが、魔力の枯渇により弾速も威力も普段とは比較にならないほど弱々しい物であった。

 

 そんな彼女達を嘲笑うかのように柱の支柱を足場にしていた存在が姿を現すように接近して来る。

 

 まさに異様―――その一言に尽きる。

 

 身に着けている〈フォーミュラスーツ〉からイリス群体の1人であることは確定的だが、それにしては他の個体は一線を駕していた。

 

「―――中々、思い通りにはいかないものだね」

 

 がっしりとした無骨な体躯に、低く響く声―――

 

 姿を現したのはこれまで確認されていない男性型の個体……

 

 技術的な観点から見て、群体個体を男性型で生み出すこと自体は可能ではあろうが、これまでのイリス群体は量産型から固有型に至るまで、皆等しく女性型であった。

 

 関東全域を攻め落とす勢いで大量戦力を投入しなければならないイリスが、わざわざこの個体だけ手間をかけて男性型にする必要がどこにあるのだろうか……

 

 しかも、この局面まで来て一機だけを戦線投入して来る意味は限りなく薄いはずであるにもかかわらず―――

 

 

 

 

 男性を包んでいた紫の光が身体を縁取る発光線へと変わり、近づく距離と共にその姿が露になる。

 

「ま、さか―――ッ!?」

 

 ユーリはその姿を瞳に捕らえ、酷く動揺した。

 

 だが、襲撃者は構う事なく言葉を紡いでいく。この状況を…この戦闘を…全ての事柄を楽しむかのような夢見心地な表情を浮かべてさえいる。

 

「ユーリと猫と魔女達―――全部をイリス(・・・)が相手にするんじゃ、流石に手に余るらしい。可愛い娘の為だ、ここは一肌脱ぐとしよう」

 

 襲撃者はあろうことが母体であるイリスに対して、その名を直接口にして見せた。

 

 そして…母ではなく娘という呼称―――

 

 全ての線が一つに繋がっていく―――

 

「そんな…貴方は…ッ!?」

 

 ユーリが()の名を口にしようとした瞬間……

 まだ全てを明かすには早すぎるとユーリの言葉を遮る様に機構発動の解号を紡ぐ。

 

 

「―――アクセラレイター・オルタ」

 

 その舜刻―――

 

 暴虐の嵐と化した()の剣が振り下ろされた。

 

「な―――にッ!?」

 

 油断などしていない…油断できるような状況ではない…ただ、理外を超える疾さを以て振り下ろされた剣に反応すらできなかったのだ。

 

 シュテルは力の奔流を受けて、前のめりに倒れようとしている。痛みと衝撃を感じる間もなく、自らの眼前で宙を舞うブラストクロウの存在を垣間見てようやく攻撃を受けたのだと認識できたほどだ。

 

 そして、彼女が水面に倒れた頃には、レヴィが、ユーリが吹き飛ばされていた。レヴィは反応速度の差から、ユーリには手加減をしていたのか素手で殴り飛ばしただけであったためか、シュテルと違い失った物は無いようであった。

 

―――勝てない…

 

 目の前の存在は、例え魔力が十全にあって3人で挑んだとしても勝てる見込みのない相手……シュテルの中にある戦術の切り札(エースオブエース)の少女の魔導師としての勘がそう訴えかけて来た。

 

―――それでも…ッ!

 

 傷付いた身体に鞭を撃ってディアーチェの前に躍り出れば、腹部の焼けつくような痛みと口に広がる鉄の味…

 

 せめて自らの王だけは守りたい。最後の意地を貫いたシュテルは迫る刃からディアーチェを庇ったのだ。

 

 

「―――むっ…」

 

 その光景を尻目に、襲撃者はシュテル達とは見当違いの方向に視線を向けて、僅かに眉を顰めた。このまま3人を仕留める事は容易いが、これ以上の長丁場を嫌ってか、急所を斬り裂くことはなく剣先を引き抜き、峰でディアーチェを殴り飛ばして、ユーリの下へと歩を進めていく。

 

「じゃあ、この娘は連れて行くよ。また()達に邪魔されるのは想定外だったかな。ここまでもトラブル続きではあったけれど、それも一興か。とはいえ念には念を(・・・・・)入れておくべきか―――なぁに……最後に笑えばいいのさ」

 

 ようやく取り戻した主人(ユーリ)を目の前で奪われ、手に入れた(魔法)は捻じ伏せられた。

 

(く―――そっ!)

 

 ディアーチェは襲撃者にユーリを連れ去られる光景を目の当たりにし、無力感に打ちひしがれながら意識を闇へと落としていった。

 

 

 

 

 ディアーチェらが襲撃者と戦闘をしている頃、臨時本部の一角で談笑を続けていた咲良の下に通信が届く。

 

《―――黒枝…むっ!そこは指令室ではないのか?》

 

「は、はい。煉様…本部内を見回っていた最中でして…」

 

 咲良は煉からの通信に僅かにどもりながら対応していた。実質的な療養措置とはいえ、名目上は臨時本部の防衛を言い預かっており、見方によっては任務放棄とも取られかねない為であろう。

 

「…まあ、いいだろう。それよりも指令室でやってもらいたい事が―――何故、君風情がそこにいるんだ?」

 

 煉は咲良に指令室に行くように命じようとしたが、その表情が一瞬で強張り、まるで敵を睨み付けるかのように鋭い視線をモニターに向けている。

 

 咲良は出来る限り表情には出さぬよう心掛けながら、何の考えなしに通信端末に応答してしまった己の不用心さを呪うように顔を青ざめていく。

 

 普段の咲良であれば着信相手が煉と分かった段階で一旦、烈火から離れて応答したであろうし、彼の気分を損ねない為のやりようはいくらでもあっただろう。であるにもかかわらず、それをできなかったということは相当気を緩めていたという証拠であった。

 

《答えろ!蒼月烈火!!》

 

「答えろと言われてもな…文句があるならハラオウン兄に聞いてみたらどうだ?」

 

 煉は咲良の隣に居る烈火に対して怒鳴りつけるように声を荒げるが、対する本人は煩わしげな表情を浮かべ肩を竦めていた。そんな時、咲良と烈火が見つめるモニターの端で金色の影がふわりと舞う。

 

《あれ―――烈火?》

 

「ん?フェイトか…」

 

 金色の少女―――フェイト・T・ハラオウンは聴き慣れた名が煉の口から漏れた事に興味を惹かれたのか、飛行高度を上げて覗き込むように端末に視線を向ければ、モニター越しの珍しい組み合わせに大きな目をぱちくりとさせて驚きを表していた。

 

 蒼月烈火と黒枝咲良……東堂煉とフェイト・T・ハラオウン―――普段の彼らを知る者からすれば目を疑うような真逆の組み合わせは確かに珍しいものと言えるであろう。

 

「―――戦場のど真ん中でなんて表情(かお)をしてるんだよ。それより戦果はどうだ?」

 

《むぅ……今の所はみんな順調みたい。このままイリスさんやユーリの身柄を確保できれば、事件は終わりに一気に近づくって……》

 

 フェイトは無防備な顔を烈火に茶化されたのが恥ずかしかったのか、不貞腐れるように頬を膨らませていたが、気を取り直して、皆の奮戦により戦況が優勢に傾いていることを告げた。

 

「皆も奮戦しているか。フェイトも無事だな?」

 

《うん!ばっちりだよ!!》

 

 烈火もなのはらの戦いが良い方向に作用していることと、目の前のフェイトが大事無いことが確認できたためか、僅かであるが安堵したような表情を浮かべている。

 

《―――フェイトさん!別の回線で通信が来た!》

 

《あ…うん。烈火、また後でね》

 

 フェイトはいつの間にやら他人の端末で烈火と話し込んでしまっていたが、煉の言葉を受けて画面から消えて行った。

 

《ふん!多少魔法が使えるようだが、君のような素人の出番はないよ!そこで僕達が犯人を捕らえるまで震えているといい!!…それから黒枝!お前への用は後回しだ!!》

 

 煉はフェイトが自身の端末で通信回線を開く為に距離を取ったところで画面の向こうの2人に向けて吐き捨てるよう通信を切る。そして、通信に出ようとしたフェイトを遮る様に彼女に声をかけた。

 

 

 

 

「前からずっと言おうと思っていたが…何故だ、フェイトさん。君の居るべき場所はあそこではないはずだ」

 

「えっと、何のお話かな?」

 

「決まっている――—あの男の事だ」

 

 フェイトは煉に訝し気な視線を向ける。両者の端末にクロノからの通信が来ていることは事実であり、それに出るべく先ほどのやり取りを終わらせたにもかかわらず、引き留められる理由(わけ)を理解できなかったからだろう。

 

「どうして僕ではなくあんな奴と親しくするんだ?何か弱みを握られているのか?それとも何か理由があるのかい?」

 

 煉は呆気に取られているフェイトに対して、捲し立てるように言葉を紡いでいく。

 

「だってそうだろう?僕も君も将来が約束されているといってもいい―――君の傍に居る八神はやて達だって選ばれた人間だ。それに関しては認めたくはないが純然たる事実であり、君と共に歩んでいく資格はあるだろう……だが、何故あんな奴なんだ!」

 

 東堂煉にしろフェイトにしろ、親が管理局の高官であり、管理世界で一種のステータスともいえる魔法資質も飛び抜けて高いといえる。若干15歳にして数々の任務をこなし、多数の資格を取得して着実にキャリアを積み重ねている両者は余程のことがなければ、このまま管理局で上まで昇り詰める事は約束されているだろう。

 

 そんなフェイトの周りにいる面々も夜天の主とヴォルケンリッター、若き提督に無限書庫の次期司長候補、戦術の切り札(エースオブエース)錚々(そうそう)たる顔ぶれであり、彼ら彼女らも優れた資質を持っていることは否定しようのない事実である。

 

 だが―――蒼月烈火は違う。

 

「局側からすれば、稀少な術式とデバイスを持っているという以外は特筆すべき所は何もない!特別管理外世界だか知らないが、所詮は管理局の思想を理解できない田舎世界だろう!?そんな田舎者が使う魔法など3流以下……デバイスだって大したことないに決まっている!!挙句、管理局への情報開示を断ったそうじゃないか!!」

 

 以前の事件で烈火が魔導師だと周囲に知られた際、管理局側からは現地協力者になってこれまで通り過ごすか、魔力リミッタ―をかけた上でデバイスを局員に預けて魔法関係の事柄に関わることを止めるべきだという提案がなされたが、その時に一悶着あった事はそれとなく煉の耳にも入っていた。

 

「管理局に明かせないような(やま)しい過去があるということかもしれない…いや、きっとそうに違いない!でなければ情報を隠す必要などないのだから!」

 

 元を辿ればその事件は管理局員が引き起こした物であり、管理外世界に滞在していて巻き込まれただけの烈火に個人情報と所有物の明け渡しを要求すること自体は個人の観点から見ればいい迷惑や理不尽と言えるが、法治組織としては必ずしも間違いとは言い切れない。

 

 世界の均衡を保つ法の守護者である自分達の管理を受けようとしなかった烈火を不審に思う気持ちも分からなくはないだろう。

 

 現に今も尚、烈火が地球に滞在しているのは、最初の事件の担当が穏健派のハラオウン派であったことと、高町なのはの幼馴染であるところが大きく、一般的な局員であったならばこうは行かなかった可能性が高い。万が一、過激派であったのなら一悶着では済まなかったであろうことも想像に難しくない。

 

「奴はきっとろくでなしだ!!奴は君には相応しくない。早く離れるべきなんだ!―――その為だったら僕は協力は惜しまない!!」

 

 煉は鬼気迫る様子でフェイトを捲し立てる。過去の経歴も分からなければ自分達の様に実績もない。正義を貫く法の守護者である自らが間違っているはずがないのだと、自信満々に、声高らかに―――

 

「だから僕にだけは話してくれ!一体アイツに何をされたんだ!?―――あんな奴と共に居たらフェイトさんが不幸になってしまう!!だから―――ッ!?…っ!?」

 

―――だから、君は僕と共に在るべきだ……

 

 言葉を紡ごうとした煉は頬に感じる熱さに目を白黒させ、眼前の少女に視線を向ける。そこにいたのは、この6年間で一度も見た事のない表情を覗かせるフェイト。煉でなくても彼女を良く知る者からすれば、驚愕を覚える光景であろう。

 

 魔法関係ではともかく、日常生活においては、温厚、お人好し、天然が服を着て歩いていると言われるフェイトが他人に手を上げるなどということは前代未聞の事態であった。

 

 

「―――フ、フェイトさん…?」

 

 煉はフェイトに頬を張られた事に理解が追い付いていないのか、間の抜けた表情で呆然とした様子だ。

 

「確かに烈火にもよくないところはあるよ。自分の事を話そうとしないし、独りでどっか行っちゃうし、みんなの和には入ってこないし、素直じゃないし、いじめっ子だし……でもね―――ホントはとっても強くて優しい人」

 

 フェイトは呆然としている煉に想いの丈をぶつける。

 

「私だって烈火が今までどうやって過ごしてきたのか気になってないわけじゃない。どうしてあんなに辛そうなのか、何を悩んでるのか知りたい……力になりたい―――そう思ってる」

 

 烈火の過ごして来た軌跡が気になったことがないと言えば嘘になるのだろう。時折見せる悲しそうで辛そうで、消えてしまいそうなほどに儚げな表情……きっと彼がそんな表情をする原因は過去にある。

 

 何故かは分からない。しかし、烈火のその表情を目の当たりにするたびに胸が締め付けられ、同時に彼にそんな顔をして欲しくないと思った。

 

「だって―――大事な友達だもん」

 

 脳裏に浮かぶのは、烈火と出逢い、過ごしたこの半年間……

 

 幾つもの事件に巻き込まれたこともあったし、自宅に招いたことも一泊させたこともあった。贈り物選びに付き合って貰った際には共に出かけたこともあった。

 

 親友の幼馴染でしかなかった烈火の隣にいる事がいつの間にか当たり前になっていたのだ。

 

「誰にだって反りが合わない人はいるよ。だから、東堂君(・・・)が烈火の事を嫌いならそれはしょうがない。でも私は烈火と一緒に居たいし、その事で不幸になるなんて思ってないよ。彼の事を良く知らないでそんなことを言う()に話す事なんてない」

 

 煉が烈火の事を何故ここまで忌み嫌うのかを理解できていないが、誰にも相容れない人物という物が存在することも確かであり、それに関しては当人以外にはどうしようもない事は分かっている。

 

 だが、フェイトからすれば蒼月烈火は、隣人であり、クラスメートであり、親友の命を救った恩人であり、大切な友人であるのだ。そんな彼に対しての頭ごなし―――それも烈火の過去や人格を否定するかのような発言は温厚なフェイトといえど寛容できる範囲を逸脱していたということなのだろう。

 

 

「今はこんなことをしてる場合じゃない。早くみんなの所に行かなくちゃ…」

 

 現在進行形で2つの惑星の行く末を決定づける決戦の最中であり、本来ならば一分、一秒が惜しい状況なのだ。端末は未だに着信を知らせているし、情勢は刻一刻と変化している事だろう。フェイトは踵を返し、戦域へと舵を取る。

 

だが、飛び立つ前に背後に視線を向けた。そこに在るのは茫然自失…信じられないという表情を浮かべ固まっている煉の姿……

 

「さっきも言ったけど、どう思うかは自由だよ。でも、私だってそれは同じ……次に周りにいる人たちに対して同じようなことを聞いたら、多分―――貴方(・・)の事を許せないと思う」

 

 恐らく言われたのが自分の事ならば感情を心の内に留めておくことができたはずだ。しかし、周囲の者達が侮辱されることは我慢ならなかった。自分ではなく他人の事を想う…それがフェイト・T・ハラオウンという少女なのだろう。

 

 フェイトは煉を一瞥し、月光に煌めく金色の髪を夜風に靡かせ、再び戦場へと舞い戻って行った。

 

 

 

 

 煉は去ったフェイトを追うこともなくその場に佇んでいる。どこか虚ろな表情でブツブツと何かを呟いていた。

 

「…だ…何故だ」

 

 彼が命じられたのは結界各所を回りながら、圧されている拠点に加勢する遊撃任務であったが、そんなことはどうでもよくなってしまっていた。

 

 煉の活動拠点はあくまでミッドチルダであり、地球は別荘程度の価値しかないと言っていい。エルトリアなどそれこそどうなろうが知った事ではない。

 

 もっと優先すべき事象があるのだから……

 

「アイツの所為だ。アイツが来て彼女は僕以外の男に心を許してしまった」

 

 本来フェイトの隣に居るはずの自分が彼女に蔑ろにされるようになった原因の心当たりは1つしかない。

 

「覚えておけよ…貴様はいつか必ず……そして―――君を取り戻して見せる」

 

 顔を上げた煉は濁った瞳で彼女が去った方向へ愛し気な視線を向けた。

 

 

 

 

 此度の元凶であり、戦況の観測者―――イリスは困惑の表情を浮かべている。

 

「どういう事なの?これは…」

 

 その原因は群体からの通信にあった。

 

 

 

 

 少しずつ綻びを見せ始めた物語―――

 

 人の想いが絡み合う―――

 

 善意…悪意…理念…誇り…執念…

 

 明らかになる真実と共に混迷の戦場は最終楽章へと到達した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

真打登場とばかりに皆さん大好きなあの黒幕が出て参りましたね。

劇場版+オリジナルの人物達が共演しているだけあって登場人物がものすごい事になってますので、この章における主要人物の立ち位置というか軌跡を纏めてみます。


蒼月烈火
本作の主人公、これまでと違い戦線に加わることなく事態の成り行きを見守っている。

高町なのは
ご存知原作主人公
事件収束のために奮闘中。新型レイジングハートと新たにフォーミュラの力を得てチートに磨きがかかったようだ。

フェイト・T・ハラオウン
脱げば脱いだだけ強くなる少女
要所要所の描写が多く、出番の多さで言えばダントツ。
最近の悩みは下着のサイズがすぐに合わなくなることだとか…

八神はやて
TA☆NU☆KI
夜天の書を取り戻すべく奮闘中。
責めるのはいいが責められるとヘタレる事が最近発覚した。

シグナム
デカパイ騎士
イリス勢トップの巨乳を持つ推して参るさんを瞬殺。巨乳程度では爆乳には勝てんとばかりに格の違いを見せつけた。

シャマル
サポート役()
機動外殻相手に無双ゲーばりの活躍を見せ、鉄子ちゃんを半泣きさせた。

ヴィータ
エターナルロ(ry
着実に戦果を挙げている。小っちゃいのに…

ザッフィー
もふもふ
強い、固い、ムキムキ

クロノ・ハラオウン
リア充満喫中の実質主人公
前半は不遇だったが、後半はデュランダルと共に多数の区画を制圧し、トップクラスの戦果を挙げているMVP枠。

アミティエ・フローリアン
エルトリアサイドの主人公

キリエ・フローリアン
あれ…私の出番は…?
A.貴方は次回です

マテリアルズ
記憶と主人を取り戻したかに思えたが……

ユーリ・エーベルヴァイン
囚われのお姫様

こんな感じですかね。

では次回お会いいたしましょう。
感想等頂けましたら嬉しいです。

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