魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
星光の少女は自らの護りたいものを護るために戦った。
欲望の探求者は狂気ともいえる理想を体現せんと他者の犠牲を厭わなかった。
ならば、天穹の翼を抱きし少年は……
此度の戦いは各々の思惑が複雑に絡み合いながら、混迷の一途を辿っていた。そんな中、時空管理局の魔導師達とそれに味方した〈惑星エルトリア〉の者達の奮戦により、戦闘が終結したかに思われたが、この事態の元凶であるフィル・マクスウェルが発動させた
だが、狂気的ともいうべき目的への執着を見せるマクスウェルの前に何れの勢力にも属していない一人の少年が立ち塞がった。
「……アクセラレイター・オルタ」
突然の乱入者に虚を突かれたマクスウェルであったが、すぐさま
「ちぃ!……なっ!?」
射線軸上に割り込んで来た白剣によって軌道を止められてしまった。ならばと勢いをそのままに突破を試みるが、乱入者の背にある実体翼から蒼白い光が漏れだしたかと思えばそのまま押し留められ、マクスウェルの〈ヴァリアントウエポン〉と烈火の〈エクリプスエッジ〉が鍔是り合う。
程なくして、両者は弾かれる様に距離を取るものの、マクスウェルの表情は芳しいとは言えない。既に烈火の背後にある大穴には翠の障壁が張られており、その眼前に立ち塞がる様に、金色の死神と紅蓮の戦女神が構えているためだ。
(こんな所で……まあ、いいだろう)
フェイトとシグナムが転移魔法で現れた管理局の増援であることは想像に難しくなく、状況はやはり芳しくない。だが、この状況下だとしてもまだ焦る段階ではない。
乱入者の少年に関しての情報を持ち得ておらず、〈Unknown〉として識別してこそいるが……逆に言えは、烈火は事前にイリスに調べさせた地球を拠点としている高町なのはを始めとした突危戦力に含まれないという事を示している。最悪の場合は目の前の少年を生け捕りにしても取引材料となり得るのだ。そもそも単騎の魔導師など恐れるに足らないのだから……
とはいえ、
そして、二つの光が夜明け前の空で激突する。
シャマルの治療を受けている者達は電子モニターに表示されている映像に食い入るように目を向けている。驚愕に染まる面々の中で不思議そうな顔をしたイリスが口を開いた。
「あの子、誰?」
イリスは地球に来訪するに際して、キリエの戦闘を優位に進めるべく現地の魔導師への対策のために、この星で起きた大きな事件で活躍した者達を突危戦力としていたし、戦闘中においても群体に危険な魔導師についての情報を収集させていたが、蒼月烈火についてはその一切を持ち得ていない為だろう。
「よく分かんない、けど……」
問いかけられたキリエも首を傾げながら、以前モニター越しに彼と会話していた自身の姉へと視線を送る。
「わ、私も詳しい身の上話はちょっと……」
アミティエも出逢って数刻、それこそ会話をした時間など数十分の相手に対しての情報を持っているわけもなく困った表情でシャマルへと視線をパスした。
「えっと、管理局じゃないけれど、味方の魔導師って言っておけばいいのかしらね?」
皆の視線を一様に受けたシャマルは苦笑いを浮かべながら問いに答える。そんな中で響いた大きな金属音に誘われるように面々は再び電子モニターへ目線を戻した。
「それにしても……烈火さん。凄いですね」
現在、戦闘映像を見ている者の気持ちを代弁するかのようにアミティエから感嘆の声が漏れる。高速で飛び回る両者の戦闘に映像が追い付いていないとはいえ、断片的に入ってくる情報だけを受け取ってもかなり高度な高速戦闘が繰り広げられている為だろう。
マクスウェルが激しく攻め立てる剣戟を繰り出せば、それを回避した烈火も相手を斬りつける。
〈アクセラレイター・オルタ〉の急加速を生かしたマクスウェルがすぐさま烈火の背後へと回り込んで〈ヴァリアントウエポン〉を斜めに振り下ろせば、烈火はフル展開している
蒼い魔力を纏った刀身から逃れるように距離を取るマクスウェルに対して、烈火は即座に右手の剣を銃形態である〈ステュクスゲヴェーア〉に換装して魔力弾を撃ち放った。
正確無比な射撃に歯噛みするマクスウェルは自慢の加速と耐久性を活かし、被弾覚悟で烈火の懐に飛び込んで、その喉元へ剣先を向けるが、その行動を予測していたかの様に烈火の左腕に持っている剣が魔力の渦を巻いて振り上げられる。
マクスウェルは斬撃魔法〈エタニティゲイザー〉に呑み込まれながらも、紫の燐光を纏って射線軸から強引に脱出し、攻撃を放った直後の烈火に超高速で動き回りながら多角的に銃弾の雨を降らせていく。
しかし、再び可変翼を最大展開した烈火は上下左右から迫り来る弾丸を空を舞うかのように錐揉みしながら回避している。マクスウェルは着弾しないことに業を煮やしたのか、左腕の銃で弾幕を張りながら、右手の銃にエネルギーを装填し、
烈火は高出力射撃に対して、振り向きながら引き金を引いて魔力弾を撃ち込む。だが、威力はマクスウェルが上回っていたのか減速こそしたが、防ぎきるには至らなかったエネルギー弾が迫り来れば、これまで度重なる回転機動で自らの天地すら入れ替えながら攻撃を回避し続けて来た烈火も対処に迫られて足を止めてしまう。
それを見るや、加速の世界に身を置いたマクスウェルはここが好機とばかりに瞬時に烈火の左側に回り込み、剣形態に形を変えた〈ヴァリアントウエポン〉を差し向けるが、突如として飛来した
「……烈火君」
なのはは皆が乱入者の存在に困惑している中で、複雑な表情を浮かべてモニターを見つめている。自分達にとって初の対フォーミュラ戦であったキリエとの戦闘を考えれば、烈火の奮戦は素晴らしいものと言えるだろうが、それでも不安を拭いきれないでいるようだ。
実際に全力のマクスウェルと戦ったなのはだからこそ、今の彼が力を出し渋っていることに気づいてしまったのだ。恐らくは烈火を撃破した後の事を考慮して、余力を残していると言っていいだろう。
様子見を兼ねて負担の少ない安定可動域で〈アクセラレイター・オルタ〉を使用しているところに乱入者の思わぬ奮戦に困惑して流れを掴み損ねたようだが、全力とはいかないまでもマクスウェルが本気で仕留めに来たとしたら烈火は……
戦闘域のフェイトとシグナムは高速戦闘を繰り広げる烈火とマクスウェルを注視しながらも行動を起こせずにいた。
「本当に援護に行っちゃダメなんですか!?」
「ああ、どこから聞きつけたのかはわからんが、上からはそのような指令が下っているそうだ」
「そんな事って!」
「ロウラン本部長やハラオウン統括官も掛け合ってくれているようだが、戦いの終わりには間に合わん。そして、今のままでは烈火の勝機は薄いだろうな」
フェイトは転移前に本局から下されたという指令に対して納得がいかないといった表情を浮かべて興奮気味な所をシグナムに窘められていた。
―――ソールヴルム式魔導師ト、エルトリア式フォーミュラ使用者トノ戦闘ヘノ介入ヲ禁ズ
他にもいくつかあるが、指令の内容を大まかに纏めるとこのようになる。
(ロウラン本部長すら手の及ばない何者かがなぜこんな管理外世界の事件に介入してきたのだ?それも、それなりに情報が秘匿されていた筈の烈火を名指しして……)
思考に耽る前のシグナムの予測通りに、先ほどまで危なげなく立ち回っていた烈火の戦況が次第に悪い方向へと流れ始めていた。それを受けたフェイトは飛び出していこうとするがシグナムによって肩を掴まれて制止させられているようだ。
「離して下さい!このままじゃ烈火が!!」
「……抑えろと言っているッ!!」
「し、シグナム……」
フェイトは手を振り払って戦闘に割り込もうとしていたが、シグナムの一喝によって萎縮するように勢いを削がれる。自身を掴んでいた手が離れたところで、シグナムの方を振り向いたフェイトは思わず息を飲んだ。
「テスタロッサ……自分の立場を弁えろ。今の我らが動くわけにはいかんのだ」
鞘に収まっている剣の柄を血が滲むほど握り締め、自身以上に怒りに震えるシグナムの姿があったからだ。
今回の指令は戦闘員の自分達よりも階級が大幅に上であるレティやリンディですら手の及ばない領分からの物だということであり、これを無視するとなれば相応の処罰を受ける事になる。
加えて今回の事件において、違法渡航者によって撃退され、〈夜天の魔導書〉を奪取された挙句、事件に利用されるという失態を侵している上に命令無視をしたとなれば、管理局に所属する者として致命的なウィークポイントとなってしまう。
それでも、処罰を受けるのが自分だけならば飛び出していったことだろうが、責任を問われるのは指揮官であるレティやクロノは勿論の事、はやて達も含まれることだろう。自らの独断行動によって周囲の者達に火の粉が降りかかることは想像に難しくなく、下手に動くことが出来ないというわけだ。
ここ数年で急激に勢力を伸ばしたハラオウン派や〈闇の書事件〉の事で自分達を煙たがっている者達も多数存在する事もあってさらに拍車をかけている。先日のルーフィスでの事件を思えば尚更だろう。
(烈火……)
シグナムは大人しくなったフェイトの頭を一撫でして、空を翔ける蒼い光を祈るような表情で見つめている。
夜明け前の空を目まぐるしく駆ける二つの光だったが、先ほどの攻防で高出力弾と死角からの挟撃を烈火が防いで以降は、紫の燐光が蒼い光を追い立てるような展開へとシフトしている。
「それなりに驚かされはしたが……!」
マクスウェルは基礎出力を抑えていたとはいえ、勝負を決めに行ったはずの一撃を予想だにしない方法で防がれた事に対して若干の感嘆を覚えている様だ。
並の魔導師なら反応する事すら難しいであろうアクセラレイター発動状態の高出力弾に対して、烈火は銃身から放った魔力弾をぶつけ合わせるという方法を以て迎撃を行ったが、威力を殺しきるには至らずにその対処を迫られることとなっていた。
それに対してマクスウェルは射撃で倒せれば良し、何らかの防衛手段を講じるならば、烈火の理外から筋出力を高めた最速の一撃で仕留めるという計画であったのだが、そのマクスウェルを襲ったのは弾道が変化した自身の放ったエネルギー弾だった。
先ほどまでの攻防において、想定外の挙動を見せた烈火に翻弄されていたことは間違いないと言えるだろう。
迫り来る高出力弾を回避するのならばまだ分かる。迎撃して撃ち落とすのも、武器や障壁で防ごうとすることも理解の範囲内だ。
だが、烈火は高速戦闘の最中に飛来する銃弾に銃弾を撃ち当てるという離れ業に加え、自身の魔力弾で減速させたエネルギー弾を左の前腕を翳す様にして出現させた六角形を引き延ばしたかのような蒼い魔力盾を滑らせるようにして防ぎ、腕を横に振り切りながら、迎撃失敗と判断して意気揚々と決着を付けに来たマクスウェルに対して、軌道を変える事で着弾させるという予想外の方法で反撃を行った。
それを受けたマクスウェルは烈火を排除すべき対象と改めて認識したのか、〈アクセラレイター・オルタ〉の出力を引き上げる事によって暴力的なまでの戦闘力を以て押し切るつもりのようだ。
「……っ!?」
烈火は正面から迫るマクスウェルの〈ヴァリアントウエポン〉を背後に滑るかのように後退しながら回避するが、次の瞬間には蒼翼を展開してふわりと浮くように高度を上げた。先ほどまで烈火のいた位置に対して背後から紫弾が通り抜けたかと思えば、既に上空に回り込んでいたマクスウェルの上からの斬撃を二刀を重ね合わせるように防ぎきる。
「私には勝てないよ」
こうなってしまえば、最早戦闘技能云々の問題ではなくなってしまい、出力差によって烈火の防戦一方となっているのだ。
右の剣を交差している〈ウラノス〉に押し当てながら、マクスウェルは左の剣を銃に換装して、紫弾を雨の様に撃ち下ろす。
烈火は即座に鍔迫り合いから逃れ、バレルロールを繰り返しながら被弾する事なく躱している。そのまま一度、距離を取ろうとしている様だ。
「逃がさないよ!」
しかし、既に超加速を以て逆サイドに回り込んでいるマクスウェルの斬り上げが迫る。
「く、っ!?」
烈火は向かってくるマクスウェルの〈ヴァリアントウエポン〉の刃の前に自身の剣を滑り込ませることで外傷こそ負わなかったものの、勢いに圧されて空中へ大きく弾かれることとなった。体勢を崩すように身体を投げ出された烈火だが、追撃の為に突っ込んで来たマクスウェルに対して、銃身からでなく虚空に出現させた剣状の魔力スフィアを一発撃ち放つ。
姿勢を崩しながらも放たれた魔力剣は寸分の狂いもなく目標へと迫るが、対するマクスウェルは何の迷いもなく正面から突っ込んだ。すると迎撃に放った魔力剣は烈火の目の前で大気に溶け込むように四散してしまった。
「苦し紛れかい?しかし、私に魔法は効かないよ」
マクスウェルは無数の計算式を弾き出して、咲良の〈ブレイブテュキオス〉と同様に烈火の魔力剣を解析して無効化しながら、右腕を突き出して高出力弾を撃ち放った。
烈火は体勢を立て直した直後に間髪入れずに飛来した高出力弾を魔力盾で防ぎ切ったものの……
「私は時空管理局との大事な話の最中でね、君に構っている時間はないんだ。だからさっさと終わらせてしまおうか……」
「ぐ、ぐっ!」
さらに一瞬で眼前に現れたマクスウェルが両の銃を重ね合わせるようにして、ほぼ零距離で撃ち込んだ高出力弾も左腕だけでなく、右腕からも魔力盾を出現させて防いでこそ見せたが、至近距離からの一撃によって盾を吹き飛ばされるように消失しながら、空中に投げ出されてしまう。
姿勢制御を乱して空中へ吹き飛ばされた烈火を尻目にマクスウェルの口角が吊り上がる。
「さようなら、奇妙な乱入者君。
終焉を告げる紫の燐光が夜空に煌めいた。
なのはは疲れ切った肉体に鞭を打って起き上がろうとしているが、シャマルによって体を押さえつけられている。
「何をやってるの!?今のなのはちゃんは戦えるような状態じゃないわ!!」
「でも、このままじゃ烈火君が!!」
マクスウェルと戦闘中の烈火へ加勢に行こうとしているようだが、先ほどまでの軌道上での戦闘で愛機の〈レイジングハート〉が中破しており、
フォーミュラと魔法の無理な運用に連戦に次ぐ連戦で既に満身創痍であり、立ち上がる事すら困難といえるこの状況……なのは自身も頭では理解しているのであろうが、追い詰められていく幼馴染を見てジッとしていることなどできなかったのだ。ましてや、敵対勢力のフォーミュラ使いは魔導師の非殺傷設定の様なものを一切使用していないのだから尚更であろう。
奇しくも彼女の発した言葉はシグナムに窘められているフェイトと殆ど同じであった。
そんな二人であったが、突如として鳴り響いた轟音に反応して電子モニターに視線を戻せば、視覚範囲が焼けつくような爆炎で塞がれており、激しい攻撃を思わせるかのような凄惨な様子が映し出されている。
「烈火さん……ッ!?」
アミティエは全方位からなる無数の包囲式弾に呑み込まれた烈火を見て、瞳を揺らしながら息を飲む。
マクスウェルが繰り出したのは多方向からの攻撃で相手を釘付けにした上で〈アクセラレイター〉の加速を活かすことにより無数の砲弾で包囲して一斉射といった物であり、アミティエ自身の大技と酷似していた。加えて、災害救助用の〈アクセラレイター〉と戦闘用に調整された〈アクセラレイター・オルタ〉の出力差からか、包囲弾数はアミティエの五倍超であり、姿勢制御を乱された烈火に回避できる手段などあるはずもなかった。
戦闘映像に見入っていたシャマルは脱力して倒れかけたなのはの体を慌てて支える。先ほどまで無理にでも動こうとしていた様子から一転して茫然自失といった様子だ。
「……嘘、だよ。約束したもん」
どこか焦点の合わない瞳で電子モニターを見つめるなのはが呟いた言葉を聞き取れたのは近くにいるシャマルだけであったようだ。
マクスウェルは臨時本部へと意識を移した。彼の為すべきことは、フォーミュラと魔導の融合という自身の目的を果たすために必要不可欠なイリスとユーリの確保と戦域からの脱出。その為の交渉材料を手に入れる事に変わりはない。乱入者によって少々計算を狂わされたが、計画の修正は十分に可能であった。
「さて、次は君達かな」
烈火を撃破したものの、彼を人質とするとなると些か危険すぎるため、臨時本部の非戦闘員を確保すべく〈ヴァリアントウエポン〉を構える。それを守護するフェイト、シグナムとの戦闘は避けようがないだろうと内心で辟易している様だ。
それに対し、俯いたまま動かないフェイトだったが、マクスウェルの言葉が耳に入ってきた瞬間に様子が豹変した。
「……ぃ……さない……許さない!!貴方だけは!!」
足元で乱回転する金色の魔法陣。変換された魔力が全身から雷となって迸る。
烈火の命を奪って平然としているマクスウェルと、この事件と無関係だった彼を守れなかった自分自身への怒りからか、強く握りしめた〈バルディッシュ〉がそれを体現するかの震えている。
「おや、彼とは知り合いだったのかね?それは気の毒な事をしてしまったようだ。私の夢を阻もうとさえしなければ、何もするつもりはなかったのだがね。まあ、仕方のない事と割り切ってくれ」
人を殺しておきながら、表情の一つも変えていない……それどころか、さも当然であるかのような口ぶりに、何が悪いのかと言わんばかりに首を傾げてさえいるマクスウェルを許すことが出来そうにもなかった。
「君達も優れた魔導使いと聞く。できれば
もう沢山だと言葉を遮る様に斬りかかろうとしたフェイトだったが、真横から突き出された刃によって足を止めてしまう。
程なくして
「やはり、素人だな」
「どういう意味かね?」
「言葉のままだ。貴様は技術屋であって戦士ではないということだ」
シグナムは目的達成を目の前にして息巻いているマクスウェルを侮蔑と嘲笑を込めて流し見る。
「興味深い意見だが、私の戦闘能力は君達とは次元を……」
「確かに出力と機動力は大したものだが、所詮はそれだけだ。後で取って付けた強さなど、本当の強さではない」
「理解に苦しむね。力の強いものが勝つ、そこに本当も何もあるはずがないだろう?」
マクスウェルは当然とばかりに持論で返すが、シグナムの視線に憐愍が混じっただけであった。嫉妬でも憎しみでも称賛でもない、これまでの自分の軌跡の中で全てにおいて結果を残してきたマクスウェルは初めて向けられる憐れみの感情に僅かばかりの怒りを抱いているようだ。
「不愉快だよ。君はッ!」
紫の光を身に纏ったマクスウェルが新たな標的に斬りかかろうとした……
その瞬刻……眩い煌光が弾けた。
「何だね……これは!?」
周囲の面々すら呑み込みかねないほどの光の渦に対し、マクスウェルは顔を腕で覆い、その中心を目を細めながら注視している。
「ふっ、馬鹿者が……」
「これって……!」
巻き起こっていた噴煙を吹き飛ばす蒼い光にシグナムは口角を吊り上げ、フェイトは目を見開いて驚きを露わにした
≪Disaster drive Ignition!≫
光が掻き消えた先にいるのは装いを変化させた白い大天使。
「天穹より光焔纏いて顕現せよ……ウラノス・ストライクノヴァ・フリューゲル」
後ろ髪が跳ね上がり、身に纏う戦闘装束はさらに洗練されたモノへと変化し、携える剣の刀身に走っている蒼いラインも光を帯びている。放たれた〈G.O.D〉による負傷も一切見受けられない様子の蒼月烈火は双剣の右を換装し、静かにマクスウェルへと銃口を向けて
「防いだ……というのか?しかし!先ほどまでと大差ないようにしか見えないがね。それ以前に魔法は私に効かないのだから!!」
マクスウェルは余裕綽々と言った表情で迫る魔力弾を解析して無効化しようと試みるが、先ほどまでの〈フルドライブモード〉よりも
「な、何だこの出力は!?アクセラ!レイ……」
右斜め上から撃ち放たれた
「
(なっ!私の背後を!?)
マクスウェルは驚愕の表情を浮かべながら、超高速で背後に回り込んだ烈火に対して、筋出力を高めた剣戟を浴びせようとするが……
「……遅いッ!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
かなり間が空いてしまいましたが、続きでございます。
うちの主人公、現実時間で言えば半年ぶりの戦闘シーンとなりますね。
そして、58話目にしてようやく主人公の全力戦闘を描写するという前代未聞の事態に……
話数だけ見れば、普通のアニメで言うところの2年目途中ですね。
こういうのもこの手の小説でしか許されない事でしょうし、楽しんでいただけると幸いです。
シリアス&バトルパートはまだ続きます。
そろそろ、日常パートが恋しくなってきました。
皆様からの感想が私のモチベーションとなっていますので頂きましたら非常に喜びます。
では次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!