魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
あの長い夜が明けて既に一週間の時が流れ、一連の事後処理も落ち着きを見せ始めていた。
事件に関わった者達の処遇も概ね決まり……
まずは高町なのはだが、度重なる連戦と〈魔導〉と〈フォーミュラ〉の融合という無茶により全身に途方もない負荷がかかっていた為、入院生活を余儀なくされた。悲鳴を上げている肉体……筋組織もズタボロで地球の技術では年単位の治療を要する重症であったが、ミッドチルダ、ベルカの魔法技術とエルトリアの治療用ナノマシンの投与によって凄まじい速さで快復へ向かっている。
次にフェイト・T・ハラオウンだが、彼女は入院しているなのはに付きっ切りであった。今回の事件で無茶を続けた挙句、入院中も魔法やフォーミュラの考察を続けるなのはに対して、当初は膨れっ面であったが、次第に女神の様な微笑みを浮かべて詰め寄る様になっていったようだ。
多少は自重する意思を見せ始めたとはいえ、病室でのなのはの様子に笑顔でキレたフェイトは、林檎の皮向きから、着替え、入浴に至るまで彼女の生活を徹底的に管理したとか……
八神はやてだが、〈夜天の魔導書〉をイリスから返還され、奪われたものを取り戻すことが出来た。事件で悪用された夜天の書だが、使用方法をある程度把握しているイリスが運用した為、目立った機能不全もなく、はやて自身が今回の事件に関するエルトリア側の事情を既知しており、遺恨を残すことはなかったようだ。
シュテル、レヴィ、ディアーチェは、事件の中で人間としての躯体を維持できないほどの損傷を負ったものの、ユーリ、はやてを中心として躯体の再構築を行った結果、十五歳相当だった肉体は五、六歳ほどまでに縮んでしまったが、再び人間形態を取り戻すことに成功した。時間の経過と共に躯体の外見年齢も元に戻る様子だ。
事件内での自我を以ての破壊行為と、それに関する魔法行使が法規違反とみなされたが、管理局に協力し事態収束の為に戦ったことと、それぞれになのは、フェイト、はやてが対峙して彼女達に撃退された為か、目立った破壊活動を行えなかったことが功を奏してそれらに関しては不問となった。
ユーリ・エーベルヴァインだが、多数の局員に重傷を負わせたとはいえ、彼女に関しては行動の全てをイリスやマクスウェルに操られていたことが大きく減刑に繋がり不問。また、ディアーチェ達と同様に戦闘中はトップエース級が常に対峙しており、それ以上の被害を出さなかったことも影響しているのだろう。
イリスに関しては、流石に不問というわけにはいかず、多数の罪状が課されることになった。だが、イリス自身に更生と管理局へ協力する意志が見られることと、彼女の置かれていた状況や事件の原因を加味した結果、重罪を問われる事はないようだ。
とは言ったものの、どんな事情であれ、エルトリア来訪組が犯した法規違反、並びに破壊活動は目に余るものがある。だが、これほどの軽罪で済んだことの理由は二つ。
一つ目は事件の首謀者であり、一連の元凶を作り出したフィル・マクスウェルの存在、二つ目は〈エルトリア式フォーミュラ〉が魔法との親和性を少なからず持っていた事である。
逮捕されたマクスウェルは戦闘能力を完全に封印され、最低限に人の形を保つことが出来る状態まで回復された上で収監された。一週間経った今も事件に関して一切口を割ることがなく、証言を取ることが出来ないが、彼がこの事件の裏で暗躍していたことに関しての証拠自体は山ほどあり、言い逃れは不可能だろう。
結果として当初は主犯とみなされていたイリスや、実行犯となったキリエ、破壊活動を行おうとしたユーリとマテリアル達の罪のほぼ全てを背負うことになったのだ。
二つ目に関しては……
装飾華美な一室に並べられた机と、椅子に腰かける十名ほどの管理局員。そんな彼らは此度の事件で存在が明らかになった〈エルトリア式フォーミュラ〉について議論を交わしていた。
「魔法の解析と無効化……この力は余りに危険すぎる!直ぐに凍結し、技術自体を闇に葬るべきだと提案する!」
「そうだな。世界の均衡を崩してしまう可能性を秘めている」
「エルトリアという世界の存在は公表せず、渡航を禁ずるべきだろう」
レティ・ロウランは声を上げる高官達の応答に対して、静観の姿勢を見せている。
フォーミュラと魔法とを比較すると戦闘という面においては前者が圧倒的に有利と言えるだろうことは疑いようのない事実であり、一部のエース級魔導師以外はまともに対抗する事すらできず、戦闘中に何度も辛酸を舐めさせられたことからもそれは明らかだ。
だが、今回の事件によって魔法とフォーミュラの親和性に関しては、その融合を果たした高町なのはの存在もあって、完全に証明されたと言えるだろう。アミティエが齎した僅かな技術協力で魔導師達の戦闘能力が飛躍的に上昇したことから、〈エルトリア式フォーミュラ〉の技術をさらに利用すれば、魔法運用の発展が望める事は想像に難しくない。
しかし、管理局側としてはフォーミュラの技術を導入することに対して消極的な姿勢を示しているようだ。
その最たるものは、リンカーコアや魔法適性など先天性な要因で強さの上限が決定する魔法とは違い、フォーミュラに関しては、ナノマシンの注入という手段でその運用を行うことが出来るため、理論上では魔力を持たない人間でも行使することが可能と言えるためだ。
フォーミュラを取り入れる事で魔導師の戦力強化が狙える半面、次元犯罪者に技術が流出した場合は、危険な思想を持った人間が魔法の天敵といえるその力を行使できることになってしまう。
そうなれば、今以上に次元犯罪は加速するであろうし、この場にいる面々は直接言及していないが、時空管理局が法の守護者として君臨している最たる要因である
議会はフォーミュラ技術の凍結と隠蔽という方針で纏まりかけていたが、そのうちの一人が机を殴りつけた事によって全員の注意が其方に向いた。
「先程から聞いていれば、古い考えばかりで話になりませんな」
強面に髭を蓄えた中年男性が、議論に一石を投じる。
「無理やり乗り込んできて、随分な口ぶりですな。レジアス・ゲイズ中将?」
議論を交わしていた初老の男性が中年男性―――レジアス・ゲイズに対してあからさまな様子で溜息を吐いた。他の本局の高官たちもどこか冷めたような視線を送っており、その態度に対し、眉間に皺を寄せたレジアスは怒りを滲ませながら声を張る。
「そのフォーミュラという力、棄てるにはあまりに惜しいと思われるが?それほどの汎用性と有用性があれば、魔力を持たない一般局員達も戦う力を得ることが出来る。そうなれば戦力が増える事は間違いない。例え、次元犯罪に利用されたとしても、此方も増えた戦力で対抗できるのではないのか!?」
レジアスが実質的な責任者となっている〈時空管理局地上本部〉は、非常に険しい状態に追い込まれていると言っていい。
ミッドチルダの首都〈クラナガン〉を守ることを使命とする地上本部であるが、人員不足と増え続ける次元犯罪が相まって、それらに対応しきれずに、治安の悪化が懸念されている。〈クラナガン〉の住民は少なからず不安に駆られており、それが表面化してしまう事件が半年前に起きた事も後を引いているのだろう。
「君の言うことは皆承知している。だが、大きいメリットと引き換えに、デメリットもあるのだという議論をしている心算なのだが?」
「魔力資質を持たないがために前線に立つことを諦めた者は貴方方が思っているよりも遥かに多い!その力を集結すれば、そんなデメリットなど、どうとでもなりましょう!そもそも、魔導師頼りな今の体制では地上の平和の維持は不可能だと何度も申し上げている!!」
今年の春先にミッドチルダの臨海空港で大規模火災が発生した。空港が全焼しかけるほどの大火災に対して、人手不足から対応が遅れてしまった上に、そもそも地上本部の設備や人員では対処することが叶わず、結果として偶々、火災現場に居合わせた本局次元航空隊所属の高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての劇的な活躍によって、たった一人の死者も出すことなく解決されてしまう。
地上本部の大人達は成す術もなかったが、容姿端麗な少女達はたった三人で、上がる火の気や崩れる建造物をものともせずに鉄筋を斬り刻み、壁をぶち抜きながら鮮やかに人々を救助していき、大規模火災を建物ごと凍結して、人名、建造物への被害を最小限に留めて火災を鎮火してみせた。
このような様子を目の当たりにした住民たちの支持がどちらに集まるのかは言うまでもないだろう。
空港火災の一件に伴って、地上本部は存在意義すらも危ぶまれる程に信用を失ってしまっているのが現状……これらを解消するために必要なのはは、対処可能な人員と機能と言える。
その為、魔力資質に依存せず、魔導師と同等以上の戦闘力と汎用性を非魔導師に付与できると
纏まりかけていた議論はレジアスの発言と共に白熱の一途を辿っていく。
(言っていることは過激だけれど、一理なくはないわね。でも……管理外世界で起きた事件に対して地上本部の彼がどうして詳細な情報を持っているのかしらね?)
レティは会議冒頭で無理やり入室してきたレジアスに対して怪訝そうな表情を浮かべていた。
リンディ・ハラオウンは応接室で特製のお茶を啜りながら、レティから聞かされた数日前の会議内容を思い返していた。
(キリエさんとイリスの減刑の最大の要因はフォーミュラの技術協力ってところかしらね)
会議は荒れに荒れたが、結果として、フォーミュラに関しては試験的な導入が検討されている。その為、管理局はフォーミュラの詳細な情報をさらに欲する事となったのだ。エルトリア側の技術の全面開示をイリスに要求し、承諾した……というよりは、相手の立場を利用して承諾させたために、まずは第一段階完了といったところであろう。
無論、強引に承諾させたわけではない。首謀者がマクスウェルであったとはいえ、イリスの罪は十分に重く、少なからず罪状が課されるところであったが、この技術協力でそれらを実質的に無罪にまで減刑するという条件付きではあった。
キリエに関しても、事件中のアミティエの技術協力と、彼女自身が事態収束の為の協力したことにより罪状は不問となっている。
これらの判決により、イリス以外は直ぐにでもエルトリアに戻れることが決定し、それらをエルトリアからの来訪者達に伝えたのがちょうど会議の翌日……
そして、この応接室では、つい先ほど前まで、事件に関わったフローリアン姉妹と蒼月烈火に対して今後の身の振り方の再確認が行われていた。
内容自体は、本日をもってエルトリアに戻るフローリアン姉妹の今後と、公の場で魔法行使をした烈火への対応がメインとなったようだ。
フローリアン姉妹に伝えられたのは、アミティエらと後発のイリスの帰還時は例外として、エルトリアへの渡航禁止令が正式に決定したことであった。これに関しては、表向きは死蝕の影響を受けて劣悪な環境であるエルトリアに無闇に立ち入らない事という意味合いが大きい。
蒼月烈火に伝えられたのは、事の次第を把握した三提督が直々に動いた結果、マクスウェルとの戦闘映像が既に凍結されており、閲覧することは一部の高官を除けば不可能だということであった。
加えて、戦闘していた両者ともに高機動型ということもあり、繰り広げられた超高速戦闘は、リアルタイムで見ていた者達でも、映像越しであろうが、肉眼であろうが、まともに視認することは困難であったことだろう。
魔法陣がミッド、ベルカと異なるソールヴルム式とはいえ、魔法は魔法、たった一度の戦闘で術式を見分けるだけの力を持っている面々は既に烈火の事を知っている者達であるため、
さらには、詳細データまで開示された未知の技術であるフォーミュラの存在も大きい。烈火の行使する力は結局のところ魔法の範疇である為、仮に戦闘映像だけ閲覧したところで大きな技術発展は見込めないであろうことは明らかだ。
〈イアリス搭載型デバイス〉と〈ソールヴルム式〉はセットで解析しなければ意味を成さない。それらを手に入れるために手間を掛けるよりも、目の前のフォーミュラを解析して、運用可能にする方が建設的であるし、技術者達も其方に興味を持つことだろう。
「このまま穏やかに時間が過ぎてくれるといいのだけれど……」
大きな戦いを乗り切り、得たものは確かに大きい。
だが、戦闘の最中に下された不可解な命令や新技術の導入……リンディは急激に変わりゆく現状に一抹の不安を抱えながら言葉を紡いだ。
東京支局を後にした烈火とフローリアン姉妹は、白の少女と黒の少女がかつて友情を紡ぎ、再会した海浜公園へと赴いた。彼らを除いた少女達は既に集っており、楽し気に言葉を交わしている。
「これでお別れ、だね」
「ええ、貴女との再戦が叶わなかったことが心残りですが」
所々に白い包帯を覗かせるなのははすっかり小さくなってしまったシュテルと握手を交わした。
「レヴィも元気でね」
「フェイトもな~」
フェイトは膝を折って屈みながら、妹をあやす様にレヴィの頭を撫でている。
「もう王様とお別れなんて寂しいなぁ~」
「ふん!世話になったな」
名残惜しそうなはやてに対して、ディアーチェは鬱陶しそうに手を組んで鼻を鳴らすが本意ではないのが誰にでも分かる程に透けて見えており、何処かのバーニングと遜色ないツンデレっぷりであった。
別れを惜しむかのような面々に烈火達が合流したと思えば、そんな彼らに私服姿のイリスが申し訳なさそうな表情をして近づいてくる。
今後の自分の処遇と、彼らに対する懺悔と、伝えなければならない事は幾つもあるのだろう。
キリエとユーリがイリスに駆け寄っていき、他の面々もそのやり取りを見守っている。
そんな、なのは達を尻目にアミティエは烈火と共に一団から距離を取った。
「どうした?改まって話なんて」
「えっとですね……この度はご迷惑をかけてしまい、すみませんでした。そして、ありがとうございました」
「……それを言うのなら、俺に対してじゃなくて管理局の連中だと思うんだが?」
烈火は突然のアミティエからの謝罪に僅かに困惑気味な様子だ。
「そんなことはありません!烈火さんにお世話になったことは事実です。本当ならば直ぐに声をかけるつもりだったのですが、機会に恵まれず烈火さんにはお礼が言えていなかったものですから……それと、他の皆さんには、もうお伝えしてあります。」
身体的外傷で言えば、前線メンバーの中でも群を抜いて重症であったアミティエは戦闘終了後に即座に集中治療に入った。
そこからは、取り調べに事情聴取、自分達の今後を考える事と迷惑をかけた人々への謝罪と、慌ただしい日々を送っていた事に加えて、局の施設から出ることが出来なかったため、戦闘が終了して翌日の夕刻には自宅に戻っていた烈火とはこれまでに話す機会がなかったのだろう。
「元はと言えば、妹の暴走が原因ですし、あれだけの啖呵を切っておきながら、なのはさん達の手を借りっぱなしで、特殊な事情を抱えてらっしゃると聞いた烈火さんの手も煩わせる結果となってしまいました……」
アミティエは申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
エルトリア側の事情が発端で起こってしまった今回の事件……管理局、ましてや地球側に関しては巻き込まれただけで非は一切ない事は明らかだ。
さらに万が一とのことだったが、リンディから烈火の戦闘に関しては、本局での取り調べなどでも極力言及しないようにと念を押された為、彼が魔法を使うことに何らかの事情があることは想像に難しくなく、そんな彼を戦わせてしまった。
加えて、以前の烈火との語らいの中で宣言したことについてだが、確かにキリエに正気を取り戻させることには成功し、連れて帰って来る事こそできたが……
戦闘自体は魔導師達が主軸となっていた為、戦果という意味合いでは芳しくなかった。最終決戦もなのはに任せてしまい、最後の最後では烈火というイレギュラーによって事なきを得たのだから、その際に力になれなかったこと事を改めて悔いているのだ。
やれるだけの事は全力でやり通した。
ただ、思う所はやはりあるのだろう。
「礼はいらない。お前は成すべきことを果たした。俺は俺の意志で戦った。だから、気に病むことは何もない」
烈火は、まるで礼を言われる筋合いなどないというようにそっけない対応と共にアミティエに頭を上げさせた。
「それに……本当に大変なのはお前達の方だろう?」
そして、目をぱちくりさせているアミティエに対して言葉を紡ぐ。それが何を示しているのかは、アミティエも直ぐに理解した様子であった。
アミティエらが故郷に戻って再開しようとしているエルトリアの再生という目的は、多くの人々が匙を投げ、両親が病に倒れた為に、一度は自分達も諦めてしまった途方もなく困難な事なのだ。特にグランツが倒れてからは自宅周辺に残った僅かな原生生物を守る事しかできず、この事件が起きる前にはエルトリアを棄てる事すらも決まっていた。
「ええ……両親の病気を治す事が最優先です。そして、少しずつ水と緑を取り戻して、まずは自給自足の生活ができるように……それと並行してコロニーや新しい移住先に行った人たちにコンタクトを取って協力を仰がなければなりません」
だが、今のアミティエの絶望した様子など微塵も感じられない。
自分達がすべきことを客観的に……そして、明確に見据えているのだ。
加えて、ユーリの持つ生命操作能力は〈死蝕〉の影響を受けるエルトリアに対しても有効であることは過去のデータから明らかだ。更には両親を蝕んでいる病に対しても何らかの手が打てる可能性があるという。
ディアーチェ達に関しても、回復さえすれば暴走した生物との戦闘に関しては問題ないどころか余りある戦闘能力を誇っている。自分とキリエしか戦闘員がいない状況をようやく脱することが出来るし、単純に人手も増える。
裁判を終えて何れ帰還するイリスに対しても全く遺恨がないというわけではないだろうが、時間が解決する事だろう。それに彼女が持つテラ・フォーミングユニットとしての能力は理論上では惑星一つを造りかえることも出来るため、惑星再生の大きな力となる。
「委員会から私達の両親へ……両親から私達へ受け継がれたエルトリアの再生を途絶えさせるわけにはいきません!そして、私達の代で完遂させ、再び人と緑に溢れる星にすることが目標です!」
だが、死ぬ寸前の惑星を再生させることは、数年でどうにかなる事ではないのだろう。
しかし、嘗ての惑星再生委員会は、イリスとユーリの能力を駆使して緑を広げていた。恐らくはその頃が最も惑星再生が進んでいたと言える。活動資金の工面がなく活動を続けていれば、〈死蝕〉の浸食具合は今とは違う物となっていたはずだ。
当時の委員会ですらそこまでのことが出来たのだ。四十年の時の中でグランツ達が研鑚してきた惑星再生の技術と再び手を取り合ったイリスとユーリの能力を結集すれば、アミティエ達の目標達成の可能性も決してゼロではない。
「そして、エルトリアに来てくれた人達、移住を考えてくれようとしている人達に言うんです。私達の星は綺麗でいい星ですから……って」
「……それが、お前達の戦い……か」
烈火は以前よりも確固たる決意を秘めたアミティエから視線を逸らした。自分とは違う眩しいものを見るかのように……
「で、ですから……その時は烈火さんもエルトリアに来てくれますか!?」
アミティエは頬を薄く染めながら、上目遣いで烈火を見つめる。
「……考えておこう」
「……はいッ!早く来ていただけるように頑張りますね!」
視線を戻した先のアミティエの様子にキョトンとしていた烈火は小さく笑みを浮かべた。対するアミティエも烈火の答えを受けて満面の笑みを浮かべる。
潮風に髪を靡かせる両者を穏やかな雰囲気が包み込んでいた。
そして、別れの時……
エルトリアに帰る者達と、現地の魔導師達にイリスを加えた面々に分かれて、対するように並び合う。
アミティエは沢山の人々に迷惑をかけ、家族と和解し、新たな絆を紡ぎ、自分のすべき事への覚悟を確かにすることとなった、この一週間あまりの出来事を胸に刻み込むように見送りに来てくれた一人一人へと視線を向ける。
(正直に言ってしまえば、名残惜しいのでしょうね)
ここで別れてしまえば、次に彼らと会えるのは何時になるか分からない。だが、故郷で待つ両親と自らの使命を遂げる事が協力してくれた彼らへの報いであろうし、地球で自分達がすることはもう何もない。
だからこそ、旅立たなければならないのだろう。
いつか再会した時に、彼らに負けていないくらい前に進み続けるために……
そんな、アミティエ達の身体を青い光が包み込んでいく。次元移動が始まったのだ。
視線の先のなのは達もどこか寂しそうな表情を浮かべてくれている傍らで、澄ました顔をしている少年が一人……
烈火の蒼い瞳とアミティエの翡翠の瞳が交差する。
―――いつか、また……
再会を誓ったアミティエは、小さく微笑みながら、光の一筋となって家族達と共に青空の彼方へと旅立っていった。
それから程なくして、六つの光は枯れたような空を切り裂いて農場の一角に集められた藁の中に飛び込んだ。
アミティエとキリエにとっては一週ぶりの、ディアーチェらにとっては初めての次元移動である。荒っぽい着地に文句を垂れる初見組であったが、まるで皆の帰りを待つかのように目の前に佇んでいる女性に視線が注がれる。
「みんな、おかえりなさい」
エレノア・フローリアンは落ち着いた微笑みを浮かべながら、皆の帰還を祝福した。
その言葉を受けて、弾かれるように飛び出したアミティエとキリエ……遅れてユーリやディアーチェらも駆け出していく。
過去の悲劇の連鎖を断ち切って、大願を成せるかもしれない希望の光と新しい家族と共に漸く故郷に戻って来た。
その半面で果たすべき使命、向き合わなければならない問題も数多く存在する。
だが、今だけはただ純粋に再会の喜びを享受することも許されるはずだ。
改めて自分達の口から語ろう。
この一週間で何があったのか、何を失って何を得たのか……
本当の強さを教えてくれた魔法使いの事を……
地球で出逢った素晴らしい人達の事を……
『ただいま!!』
満面の笑みを浮かべた少女達は、帰還の喜びを噛み締めるように母の胸に飛び込んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これにて最新作の劇場版篇は終わりとなります。
え?終わり?と思われる方も多いかもしれませんが、これでこの章は終わりです。
何度も申し上げていますが、劇場版という一つの話ではなく、この作品におけるお話の一つですので、今章で解決していないことなどは、また次回以降の話で……となります。
何と劇場版篇だけで20話を超え、執筆期間も半年を大幅に超えてしまいました。
まあ私自身も含めて言いたいことは多いかと思いますが、何といっても長すぎましたね。
本当はもっとテンポよく終わらせるつもりだったのですが、色んなキャラを活躍させたくてとんでもない長さになってしまいました。
原作キャラが活躍しなければ、リリカルなのはで小説を書く意味はないですし、オリジナルの要素も入れて、でも原作の話というかテーマは極力壊したくないということも話数が増えた原因でしたね。
ぶっちゃけ、マテリアルズにはそれぞれ元になったなのは達が、イリスにはキリエ、ユーリにはマテリアル、所長にアミタみたいに相対するキャラがきちんと割り振られており、下手に組み合わせを変える事はしませんでした。
なのはが自分と向き合うことは必要不可欠ですし、ユーリとディアーチェをぶつけなければ、彼女らが話に存在する理由もなくなってしまいます。
主人公がイリスと戦ってしまえば、キリエは成長できませんしね。
結果として、このような結末と相成りました。
そして、今回の話では気になるワードがちらほら出て来たかと思いますが、原作関係に関してはそういう事です……とだけ言っておきますね。
皆様のコメントが私のモチベーションとなっていますので頂けましたら嬉しいです。
では、次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!!