魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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驚天動地のsummer impact
邂逅遭遇のdinnertime


 時空管理局に存在を認知されていながら、管理世界には属していない“特別管理外世界・ソールヴルム”から地球へとやってきた少年——蒼月烈火は、今現在……迫り来る剛剣に冷や汗を流していた。

 

「さあ、もっと打ち込んで来い!!」

 

「食前の運動にはちょっと激しすぎると思うん、だが!!」

 

 烈火と対峙しているのは、爛々と瞳を輝かせる美女——シグナムだ。私服姿の両者の手には、反りの無い片刃の木刀が握られており、烈火は二刀、シグナムは一刀を以て常人では軌跡を追うことすら困難な速度で振るわれている。

 

 

 現在の時刻は夕刻時、場所は八神家内の訓練スペース。

 

 

 なぜこのような状況になっているかというと……

 

 

 

 

 八神はやては溜息をつきながら活気横溢な駅前の町並みを歩いていると、喫茶店から出て来た蒼月烈火と出くわした。

 

「あ、っ……」

 

「ん?おう」

 

 両者はまさかの遭遇に僅かに驚きを見せたが、互いに知らぬ間柄ではない為、軽く挨拶を交わすと喫茶店の入り口を開けるように脇に反れるが……

 

 

「で……なんで自分はこんなとこにおるん?」

 

 休日の学生らしい会話が始まるかと思いきや、開幕からジト目のはやてが烈火の顔を覗き込む。宛ら容疑者に対する取り調べのようだ。

 

 それもそのはずで、彼らが所属する“私立聖祥大付属中等部3年1組”は本日、学園に集まり、夏季休業明けに行われる体育祭の練習を行っているはずにもかかわらず、私服姿の烈火が駅前をうろついている為であろう。

 

 しかも、ここからそう距離も離れていない“翠屋”でない店舗から出て来た辺りから、その理由について何となく察しはついているようだが……

 

「……そういう八神こそ、どうして此処にいるんだ?」

 

 烈火はジト目のはやてに悪びれる様子もなく澄まし顔で答えを返す。

 

「私はサボりの烈火君と違って仕事帰りや。予定より早く終わってもうて時間も中途半端で学校行ってもしゃーないから、ちょっと買い物に来たんやけど……」

 

 はやては練習へのサボタージュを否定しようともしない烈火に呆れるようなそぶりを見せながら、自らがこの場にいる理由の正当性を主張した。

 

 夏季休業に伴い仕事量を落としているとはいえ、来年から“ミッドチルダ”に活動拠点を移し、自身の夢の為に管理局員としての活動の幅を広げようとしているだけあって、学生と管理局員の二足の草鞋を履いている平常よりは幾分か時間に余裕があるものの、それなりに忙しい事には変わりない。

 

 今回は“聖王教会”へ赴いていたようだが、予定の案件の最中に会談相手が急用で席を外してしまい、会談に戻れないとのことで、本来の目的を果たすことが出来ずに解散となった。

 

 本日は、その会談が夕刻時までかかるであろうというタイムスケジュールを組んでいた為、予定が空いてしまったという事だ。午前中に自宅に戻って来れたのならば、クラスの練習に顔を出すなりできたのであろうが、地球に戻ってきた時点で既に昼食時であり、それから学園に顔を出したとしても参加時間などたがが知れている。

 

 自宅に戻ろうにも、本日仕事であるのは家族内ではやてのみであり、皆が家内にいる為に料理以外の家事はしっかりとこなされているであろう。

 

 せっかくの休業中にすることのない様子で家にいるのも忍びなく、何をするにも中途半端な時間であったため、久々に街に繰り出して、ウインドウショッピングにやって来たというわけだ。

 

 

「全く、フェイトちゃんがおらんとすぐサボるんやからなぁ」

 

「自由参加なんだから、問題ないだろう」

 

 

 はやては大義名分を明らかにし、自分はサボったわけではないと鼻を鳴らすと、更に目を細めながら、烈火の顔を覗き込む。

 

 体育祭と文化祭の準備や練習を夏季休業に行うということは、恐らくどの世代の誰にとってもお馴染みであり、聖祥付属であっても例外ではないが、どうやら他の学園とは若干、事情が違うようで……

 

この手の行事……体育祭はともかく、文化祭については、中、高等部に所属している者達の中で、受験を控えた三年生が中心となって学内で何かを企画するというケースはあまり多くないというのが一般的な動きであろう。

 

 しかし、聖祥大付属は初等部から大学までエスカレーター式の一貫教育を行っており、世間一般で言われる受験戦争には一部を除いて縁がない。進級試験をパスさえできれば自動的に上の学部に進学できるのだから、他の面々が行っているような受験勉強をする必要性は薄いということだ。

 

 つまりは、この手のイベントごとにおいて最上級生であっても主体となって参加できるということを意味している。

 

 だからこそ、休業中でありながらクラス単位で学園に集まる機会が多々あるのだ。

 

 例に漏れず、はやて達のクラスでも様々な準備のために組まれたスケジュールが休業前に配布されているが、参加自体は強制ではなく、あくまで自由参加となっている。

 

 とはいえ、中等部最後の年とだけあって優勝、入賞へと気合を入れている者も少なくなく、管理局員としての側面を持つはやてらですらも可能な限り出席するようにしているにもかかわらず、明らかに欠席するほどの予定がなさそうな烈火の様子を見て、怪訝そうな表情を浮かべるのも無理はないだろう。

 

 最も、どこか別のニュアンスが含まれている気がしないでもないが……

 

 

「つまり、奥さんのお迎えがないと出てきぃへんちゅうこっちゃな」

 

「何だよ、それは……大体アイツが毎回、玄関前に立ってるんだから仕方ないだろう?」

 

 

 烈火は自由参加と聞いてもれなく最初の一回に参加せず、二度目にも出席する心算はなかったが、その際には体操着姿のフェイトが玄関前で待っており……

 

 

「おはよう。あれ……烈火、着替えてないの?」

 

 共に学園に向かおうと烈火を誘いに来ているようであったのだ。どうやらフェイトは初回の際、先の事件で怪我を負ったなのはに付き添っていた為、今回が初参加かつ、烈火が前回出席しなかった事を知らなかったようであり、出かける様子の無い彼に対して小首を傾げている。

 

 結果、予定もないのに参加しないことに対して可愛らしい、めっ!を頂き、その後は練習のたびにフェイトが迎えに来るようになったようだ。

 

 

「ふぅん。仕方なく?その割には随分、仲良さそうやけど?」

 

「なんだか、今日はやけに突っかかるな」

 

「別に……」

 

 

 それから、烈火とフェイトは練習の度に普段通り二人で登校するようになった。それだけならばいつもの事であろうが、夏季休業中は普段の始業の時ほど時間に厳しくない為、遅刻してくるものも疎らにいたり、クラスごとに練習時間も違う。

 

 加えて、生徒会、部活動もあり、各々が普段の学校生活よりも学内を自由に動き回っている。そんな人目の多い中で、ただでさえ人目を引く二人が並んで歩いていればどうなるかは想像に難しくない。

 

 そんなフェイトであったが、今日は管理局関係でミッドに飛んでおり、練習には参加していない。そして、目の前の烈火も……

 

 はやてはそんな様子に自分でも気が付かないうちに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

 

「まあいい。俺は適当にその辺を見て帰る。じゃあな」

 

「……って!ちょい待ち!?」

 

「ん、なんだ?」

 

 

 烈火は話題に一区切りがついたと判断して歩き出すが、彼をはやてが引き留める。

 

「まだ、話は終わってへんし、私かてその辺を見て帰るつもりやから一緒に行く」

 

「お、おい!?」

 

「それに……」

 

 

 結局、烈火とはやてはそのまま駅前周辺を数時間見て回り、現在の時刻は午後17時前……二人はある場所を目指して肩を並べて歩いている。

 

 

 

 

「でも、いいのか?急に押し掛けたりして」

 

「全然ええよ。うちは家族が多いから今更一人や二人増えたって大した手間にならんし、前のお礼も結局できてなかったしなぁ」

 

 二人の目的地は、はやての自宅である八神家であった。

 

 先ほどはやてが烈火に付いていくと言い出した際に、彼女の方からある提案がなされていたのだ。それは、もしよければ夕食を振舞うので自宅に来ないか、というものである。

 

 当初は断ろうとした烈火であったが、“魔導獣事件”の折にはやてとした約束を思い出してか、ご同伴にあずかっている様だ。

 

 とはいえ、予定外の来訪となったからか、烈火は改めてはやての様子を窺うが、先ほどまでの膨れっ面からは想像もつかないほど上機嫌であったので詮索を止めた。そうこうしているうちに八神家に到着し、以前も通されたリビングへと案内されれば、お昼寝中のリインフォース・ツヴァイ以外の面々に迎え入れられる。

 

「じゃあ、出来たら呼ぶから、それまではみんなと一緒に楽にしててな」

 

「ああ、分かった」

 

 烈火とエプロンを纏ったはやてはキッチン前で会話をしており、リビングではそんな二人の会話に二つの人影が聞き耳を立てていた。早々に切り上げられた会話に対して、シャマル面白くなさそうな表情を浮かべ、ヴィータは安心した様子であったが……

 

 

「……意外と様になってるな」

 

「ん、何がや?」

 

「エプロン姿……」

 

「な、なっ!?」

 

 烈火は振り向き様にはやてを流し見て小さく呟いたかと思えばリビングへ向けて歩いていく。

 

 そして、僅かに頬を染め、固まっていたはやてが動き出したのはそれから暫く経っての事であったようだ。

 

 

 

 

 キッチンから戻って来た烈火を迎えたのは目をキラキラと輝かせているシャマルと思いっきり睨み付けてくるヴィータからの視線の槍……そして、斬り合い(デート)のお誘いであった。

 

「ふふっ、ほら速く歩け。訓練スペースは上の階だぞ!」

 

「ち、ちょっと待ってくれ!?これは色々とマズい!」

 

 シグナムは上機嫌にポニーテールを揺らしながら、烈火の肩を掴み、背を押して階段へと向かっているが、押されている側は相当に狼狽している。

 

 その原因が、今にもスキップしそうなシグナムの動きに合わせて大きく弾み、烈火の背に押し付けられて、強烈な存在感を放ちながら自己主張する母性の塊にある事は言うまでもない。

 

 

 

 

 はやてには待っていろと言われた烈火であったが、他人の家である八神家でやることなどあるはずもなく、とりあえずは点灯中のテレビでも見ながら、周囲の面々に話しかけられた時には対応すればいいだろうと思っていたが、状況は一瞬で変化した。

 

 何か言いたげなシャマルとヴィータが口を開くよりも早く、眼前にシグナムが顔を覗かせて、模擬戦の誘いをかけてきたのだ。

 

 いつものように断ろうとした烈火であったが、魔法無しの食前の運動程度だと力説するシグナムの勢いに圧される様に思わず頷いてしまった。その条件ならば、シャマルとヴィータに絡まれるよりは楽だという側面もあったようだが、結果的に、予想の斜め上から“ディバインバスター”を撃ち込まれたかのような衝撃を受けてしまうこととなっているようだ。

 

 訓練スペースで木刀を手渡してくるシグナムは、先ほどまでの自分達の密着具合など眼中になかったようで、烈火も互いの名誉のために口を噤んだ。

 

 

 

 

 そして、現在……

 

 

 

 訓練スペースでは、依然として激しい剣戟の応酬が繰り広げられている。峻烈にして豪快、そして、流麗な剣の舞は最早芸術の域に達している。

 

 しかし、この場にそれを賛美する者はいない。ただ、二人による剣閃が目まぐるしく飛び交うのみであった。

 

 

 

 

 横薙ぎに振るわれたシグナムの剛剣が大気を引き裂いて空を切る。

 

(改めてだが、本当に呆れた反応速度だな。だが……)

 

 シグナムは背後に飛びながら自分の剣から逃れた烈火に対して、内心で驚嘆を覚えながらも、緩む口元を抑えることが出来なかった。

 

 烈火はシグナムが剣を振るう際の体重移動や腕のモーションから攻撃の方向を予測、時折織り交ぜられるフェイントにも対応し、その斬撃の殆どを回避している。避けきれないものは二刀を使って受け流し、回避ばかりではなく俊敏な動きに合わせて流麗な剣閃を奔らせる。

 

 この戦闘における烈火の動きはシグナムの御眼鏡に適っているということだろう。

 

(だが、動きに無駄がある)

 

 しかし、その立ち回りは剣術の達人であるシグナムから見て、まだ未熟……というよりは鍛錬を積んだ剣士のものには感じられず、高い身体能力に超反応と空間認識、そこに後付けのような形で僅かな剣術の基礎が上乗せされているような動きであると言えた。

 

 この模擬戦は地上での白兵戦、それも近接武装のみという様相を呈している為、烈火の本来の戦闘スタイルである、近~中距離での超高速空中戦闘を行うことが出来ない。加えて正確無比な射撃に遠距離での砲撃戦にも秀でている烈火は、ベルカの騎士の様に近接一辺倒に技術を磨く必要がなかったのだろう。

 

(だからこそ……惜しい。魔導師としてだけではなく、騎士としても大成できるだけの才能を秘めているというのに……鍛えればまだまだ強くなる)

 

 蒼月烈火の魔導師としての戦闘能力は既に“時空管理局”のトップエースと遜色ない。これまでの戦いでも6つのジュエルシード暴走体となった魔導師、剣水晶の竜皇(クリスタル・ドラゴニア)、フィル・マクスウェルという強敵を打倒してきたということがそれを指し示している。

 

 加えて、烈火はまだ若い。なのは達と同様に魔導師としての伸びしろも十二分に感じさせる。それに加え、騎士としての才気を伸ばしていけば、烈火の力は今以上のものになる事であろう。

 

(しかし、それは……)

 

 シグナムは強敵との剣戟による高揚感と、烈火がこれほどまでの力を得てしまった過去の一端を知っているが故の悲しみとの板挟みに合い、複雑そうな表情で目を細めながらも薙ぎ払った剣を引き戻して上段から振り下ろすが、烈火は更にそれを回避する。しかし、そのままの勢いを以て、踏み込みながら剣で斬り上げた。

 

 回避不可能と判断したのか、烈火は左の剣で受け止めようとするが、シグナムの剛剣に圧されて、その手から木刀が零れて宙に舞う。

 

 更に畳みかけようとしたシグナムであったが、眼前に一筋の閃光が迫って来る。

 

「……ッ!?」

 

 だが、シグナムは臆することなく前進しながら、烈火がバックステップを取りながら投擲した右の刀を打ち払う。得物を放るという大胆な攻撃で不意を突いたが、前進しながら対処されたために、シグナムの足は止まることなく、既に次の攻撃モーションに移行していた。

 

(ここまで、か……)

 

 シグナムは得物を失って無防備な烈火へ剣の切っ先を向けて突きの姿勢に入っていた。

 

 決着……その言葉がこれ以上ないくらいに相応しい状況であったが……

 

 

 

 

 その瞬間、全てを見透かすような蒼い瞳と視線が交わったシグナムは背筋が凍り付くような感覚と共に、これ以上ない程の昂りに襲われた。

 

 上に掲げた烈火の左手の中に回転しながら飛来した剣が収まり、その切っ先が自らに向けられたのだ。

 

(先ほど弾いた……若しくは()()()()()()片割れの落下地点を予測していたのか。この立ち合いの中でそこまで……)

 

 烈火は上空に弾かれた片方の剣の落下地点と速度を計算に入れながら、シグナムとの剣戟を繰り広げていたということになる。これだけでも超人的であるが、先ほどの木刀を投擲しての迎撃方法も一歩間違えば、全ての武器を失うという大きなリスクを背負っていたであろうに、何の躊躇いもなくそれを実行した。

 

 仮にあの場で片方の剣で戦う手段を取ったとしても、回避から攻撃に移る烈火と既に攻撃可能であったシグナムとでは、どちらが先手を取ることが出来るかは言うまでもない。

 

 だからこそ、継続して戦うのではなく何らかの形で戦況を変える必要があったのだろう。戦いの中で得物を失ったと思わせることで相手は確実に勝負を決めに来る。そうして行動を抑制して誘い込んだ相手に対し、意表を突く投擲後の武装補充によって自身の体勢を整えながら、それを成したということだ。

 

(全く、お前はいつも私の予想を超えていく)

 

 それを認識したシグナムの闘気が爆発するように膨れ上がる。かつての“ルーフィス”で見せた“黒炎”と、先の事件で見せた“フルドライブ”を超えた姿……誰もが予想だにしない方法で危急の場を脱してきた烈火が見せた更なる底知れ無さに対して改めて感嘆を抱く。

 

(だが、こうして初めて剣を交えた事で垣間見えた。このままでは、何れ……)

 

 善意、悪意、怒り、慟哭、迷い……剣には、振るう者の深層が宿る。

 

 そして、力のある者同士が刃を交えれば、剣を通して否が応にでも相手に深層が伝わってしまうのだ。例え、表面上はどれほど上手く覆い隠そうとも……

 

 

 既に両者の剣の切っ先は相手に向けられている。この突きで決着が付くであろうことは誰が見ても明白であろう。

 

 爆轟するシグナムの、流麗な烈火の剣気が互いの切っ先に収束され、渾身の一突きが撃ち放たれようとした瞬間、突如として両者は静止し、その眼前を二つの深紅が過ぎ去っていく。

 

 

 

 

「……ったく、何時までやってんだ。オメーらが来ねえと飯が始まらねーんだよ」

 

 戦っていた両者が視線を向ければ、呆れたような表情を張り付けたヴィータが“グラーフアイゼン改”を肩に担いだ状態で佇んでいる。

 

「はやてが待ってる。さっさとしろよ」

 

 ヴィータは用件を伝えると二人を待つこともなく踵を返してさっさと食卓へ戻って行った。

 

 烈火は、そんなヴィータの様子を受けて、地面に転がっているもう一本を拾い上げながらシグナムへ視線を向けるが、当の彼女も肩を竦めるのみであった。

 

 

 

 

 そして、場所は八神家の食卓へと移る。

 

 お昼寝中であったリインフォース・ツヴァイも既に起床しており一家で囲う夕食は、先ほどまでの激しい斬り合いとは一転して穏やかな時間が流れている反面、烈火にとってはあまり居心地が良いとは言えないようであり、何時かのハラオウン家での一幕と同様であるようだ。

 

 一家団欒……そんな言葉が相応しい食卓に自分がいる事に対して違和感を覚えているのだろう。そんな心情とは裏腹に、時々相槌を打つ程度であった烈火も話題の渦へと巻き込まれていくこととなる。

 

「ねぇねぇ、烈火君!」

 

 烈火の眼前に瞳をキラキラとさせたシャマルの顔が広がる。中々の勢いに茶碗を片手に僅かに身を引くが、いつの間にか苗字呼びからファーストネームに変わっている事に関しては敢えて詮索することはしなかったようだ。

 

「この料理、はやてちゃんが一人で作ったんだけど、お口に合ったかしら?」

 

「ええ、とても美味しいと思います」

 

「そう、それはよかった()()

 

 シャマルは意味深な言い回しと共に視界の端ではやてが胸を撫で下ろす光景を見て小さく微笑んだかと思えば、まるで悪戯でも思いついたかのようにその表情が変わる。

 

「ちなみに烈火君はお料理ができる女の子ってどう思うかしら?」

 

「そうですね……出来ようが出来まいが、気にする方ではないですが、自分は料理はしませんし、中学生でこれだけのものが出せるのは凄いと思います」

 

「う~ん……じゃあ……」

 

 残念ながら烈火の回答はお気に召さなかったようであり、口元に人差し指を当てて小首を傾げるような動作をするシャマルは更に踏み込んで言葉をかける。

 

「このお料理を毎日、自分の為に作ってくれたら嬉しい?」

 

「……ええ、そうですね」

 

「げほっ……っくっ!?」

 

 烈火の回答に反応したのはシャマルではなく、思い切りむせているはやてであった。顔を真っ赤にして瞳を潤ませながら、かなりの勢いで咳き込んでいる。

 

(この反応……はやてちゃんの方は満更でもないようね。まあ、本人は自覚していなそうだけれど、家に招待して手料理を振舞いたいなんて余程の事だもの)

 

 シャマルは先ほどまでのはやての反応を思い返しながら、楽しそうに考察している。いつも以上に気合を入れて作ったであろう夕食の品々に、手に持った茶碗で目線を隠しながらも先ほどから烈火の様子を窺う様にチラチラと視線を送っていた。

 

 八神はやてという少女は“夜天の王”という特異な立場となり得てしまった為に様々なものを背負っている。シグナムやシャマルに対して母性を求めるように甘える事は多々あるが、それを差し引いても年齢不相応に大人びていると言っていいだろう。そんな彼女が家族や親友以外の前で年相応な反応をすること自体、稀な事なのだ。

 

 そんな、はやての反応を見て微笑ましく思ってしまうのも仕方のない事なのであろう。

 

(でも……烈火君の方は質問の意図を分かってないのかしら?)

 

 シャマルの視線の先には、むせたはやてと駆け寄るヴィータ、その様子を見ながらも味噌汁を啜っている烈火の姿がある。

 

 所謂“俺の為に毎日~”の様な意図で伝えたつもりであったのだろうが、思いっきり動揺しているはやてに対して我関せずの烈火……

 

(まさか鈍感(なのはちゃん)天然(フェイトちゃん)と同じタイプってことはないわよね?)

 

 烈火の様子を受けて、シャマルの脳裏には、六年来の親友に想いを寄せられながらも無意識中で歯牙にもかけない少女と、幼馴染五人組の中でも男子から告白率NO.1の撃墜王である金髪少女が過ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 白衣の男性が見据える硝子張りの部屋の中には、ベルカ式の騎士甲冑の上に青いアーマープレートを着込んだ青年が佇んでいる。彼に指示を出すために、その眼前の虚空に電子モニターを浮かび上がらせた。

 

「では、始めてくれ」

 

《了解、フォーミュラシステム起動》

 

 部屋の外から通信をしてきている白衣の男性に促された青年は、“マギカアームズtype-BF”と仮称された“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の最大の特徴であるシステムを起動した。程なくして、携える長剣と全身のアーマープレート、内部の騎士甲冑の至る所から濁ったような真紅の燐光が溢れ出す。

 

「デバイス稼働率40……47、48……55、57、59……60%を超えました」

 

「体内ナノマシン稼働良好、身体への悪影響も見られません!」

 

「さらに上昇、77、78……80%を超えて安定可動域へ突入!」

 

 白衣の男性は同様に白衣を着こんだ若い女性達のオペレートを耳に入れながら、極力表情に出さぬように内心でほくそ笑んだ。

 

「主任、これは完璧ですね!」

 

「まだまだだよ。この技術を実戦に投入した魔導師の稼働率100%越えには及ばないわけだしね」

 

「あれは若きエース殿が素体だったからで例外中の例外でしょう?それには及びませんが、こちらのテスターであるマグナス陸士の出力予測データはオーバーSランクの魔導師と遜色ない……状況次第では十二分に打倒できるほどに高まっています!!」

 

 白衣の男性は称賛の声を浴びるも、あくまで謙虚な姿勢を崩さないでいる。だが、内心では更に自分に酔いしれていた。

 

(海の連中が汎用的な方式に落とし込めていない新技術……これを自在に使いこなすことが出来れば、魔導師によって管理されて来た世界構造は大きく変わる)

 

 現在、テスターとしてフォーミュラの技術を搭載した試作型デバイスを起動している青年の魔導師ランクは“陸戦A”と人員不足の地上本部ではかなりの使い手と言える。

 

 それに上乗せする形で、件の“フォーミュラシステム”による恩恵を得た際の予想出力、特に筋出力と近接戦闘能力においては“魔導師ランクS”にも匹敵、凌駕しうるほどのものであった。これを量産化し、一般的な魔導師の力を底上げすることに成功したのだとすれば、それこそ魔導師の戦闘能力の平均値が現在のトップエース級にまで引き上げられることになるわけだ。

 

(その祖となることは、私が更に上に昇りつめるための足掛かりになるという事……私は地上本部(こんなところ)の一科学者で終わるつもりはない。いや、終わっていいわけがないのだから!!)

 

 白衣の男性は、極力平静を装いながら歓喜の表情を浮かべる部下たちに指示を飛ばし、“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の試験稼働の日取りを決めるべく、関係各者への連絡を仰ぐ。

 

 狂気に憑りつかれた男が嘗て夢見た“魔導”と“フォーミュラ”の融合……それはこのような形で実現しつつあった。

 




>めっ!
 KWAIIお仕置きwith体操着装備のフェイトそん

>母性の塊
 おっぱい魔神が誇るS.L.Bに匹敵する最強武装

>マギカアームズtype-BF
 後半の英語は“タイプ フォーミュラ:ベルカ”の略
 ブラックフェザーでもビーフォースでもない


最後まで読んでいただきありがとうございます。

そして、お久しぶりでございます。

リアルでいろいろ有りすぎて中々、更新できていませんが、少しずつ続きを上げていくつもりではいます。

そして、魔法少女リリカルなのは……15周年おめでとうございます!!
思い出を語ればキリがないのですが、偶々、深夜に起きてた時に偶然見たA'sの第一話とエタブレの衝撃は忘れようがありません。
其処から沼にハマり、気が付けば自分で作品を題材にしてこんなものを執筆するまでに至ってしまいました。

では、次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!!

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