魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
第?世界・??
この世界に晴天は無い。
常に空を覆い隠す灰色の雲が薄暗さを、降りしきる雨が不気味さを醸し出しており、人影一つ見当たらない酷く閑散とした光景が延々と広がっているだけである。
一見すれば文化に乏しい無人世界とも思われる様相を呈しているが、その裏側には近代的……むしろ最先端ともいえるレベルの意匠を受ける建造物が幾つも存在していた。
明るすぎず、暗すぎずない照明を炊き、高級そうな酒瓶とインテリアを備えた、落ち着いた雰囲気のバーもその一つだ。一流の趣を感じさせるバーだが、現在の時刻が昼前とあって店内にはバーテンダーを除けば、テーブル席のこれまた高級そうなソファーに腰かける女性以外に客の姿は見受けられない。
そんな店内に新たに一人の女性が姿を現し、ソファーに腰かけて電子モニターを眺めながら黄昏ている女性に対して親し気に口を開いた。
「はぁい、隣いい?」
「ん、マム?……って、まだ返事をしていないのに勝手に座らないでくれるかしら」
ソファーに腰かけていた赤いドレスを纏った女性―――イヴ・エクレウスは、我関せずといった態度で隣に座ってきた女性に対して、僅かに眉を顰めた。
「あら、いいじゃない。私達の仲なんだし」
「相変わらず自分勝手な女ね」
「ふふっ……貴女だけには言われたくないのだけれど」
「ふん、それにしたって
イヴの隣の腰かけて来たのは、砲爆女帝と呼ばれた女性―――ディオネ・アンドロメダ。藤色の長い髪に灰の瞳をしており、空色の露出の激しいドレスを纏っている。
「あらら、闇麗女帝さんは随分とご機嫌斜めねぇ。原因は……」
「ちょっと、離れなさいよ!」
ディオネは、あからさまに不機嫌になった様子のイヴになどお構いなしで、彼女の身体の左側に小さめのサイズで出力されている電子モニターを右隣に座った状態から覗き込むように身体を乗りだした。
両者のドレスは細部の違いは有れどほぼ同一のデザインであり、胸元も背中もぱっくりと開いている意匠が施されている。加えて、イヴだけでなくディオネに関しても組織どころか次元世界を探しても指折りの素晴らしいプロポーションを誇っている為、少しでも激しい動きをすれば中央や両サイドから、双丘が零れてしまいそうなほどである。
そんな格好の二人が身体を寄せて密着すれば、起きる現象は一つ。イヴの張りのある、ディオネの柔らかそうなソレが圧し潰し合うように重なってしまい、案の定ドレスから半分以上零れ落ちるような格好となってしまっていた。
当然ながらそんな状態に甘んじる事なく、イヴが圧し掛かってくるディオネを押し退けたのも束の間……
「んー?あら、可愛い!!」
その指先が先程までの密着中にイヴから奪い取ったであろう虚空に浮かぶ電子モニターを操作している。両者の中央まで持ってこられたモニターに映し出されているのは、白い
「これが例の地球に居るっていう現地戦力の一人ねぇ。それから、貴女のお気に入りといったところかしら?ふーん……ねぇ!」
「ダメよ」
「ん?」
「この子は私のモノなんだから、此処に連れてきてもマムには指一本触れさせない」
イヴは、表示された映像を前に目を輝かせているディオネを殺気交じりに睨み付けながら、電子モニターを毟り取る様に自分の正面へと移動させる。
「……へぇ、イヴがそこまでご執心だなんて益々興味が湧いてきちゃった。別に取ろうってわけじゃないのよ。偶に貸してくれるだけでいいのだけれど?」
「ダ・メ・よ!!」
「じゃあ、間を取ってボウヤを連れて来るのに協力してあげるから、三人でシましょうか?みんな気持ちよくなれてWIN—WIN—WINよね!」
「……っさいわよ!歳を考えてものを言いなさいよ、このババア!!」
「ぶー、イヴのいじわるぅぅ!!」
妖艶な表情でしなだれかかって来たかと思えば、ゆさゆさと大きな胸を揺らしながら駄々を捏ね始めた目の前の女性が自分の倍以上の年齢だと思うと、頭が痛くなる想いであった。
だがそれ以上に、イヴの機嫌を下降させる出来事が起きた。先ほどから視界の端にチラついていながらも意識の外も追いやっていた、もう一つの懸念事項が表層に浮かび上がって来たためだ。
「ンフフゥ……そうですよ。Ms.エクレウス。我らの組織の母であるMs.アンドロメダに対してその口の利き方は如何なものかと思いますね」
毛先が編まれた長い金髪と紺色のシルクハットにステッキが特徴的な男性が二人の美女に対して声をかけて来たのだが、イヴの表情は先ほどまでのディオネに対しての対応時とは比較にならないほどに歪んでいた。
「別にマムが年増なのは本当の事だし、私達がどう付き合おうがアンタには関係ないわ」
「ンフフゥ……我々がこの組織の幹部に名を連ねているのは事実ですが、Ms.アンドロメダはその上に立たれるお方。その使い分けもできないようでは、闇麗女帝の名が廃ってしまいますよ」
肩を竦める奇術師風の男性―――シェイド・レイターに対して、イヴは心底不快そうな表情を浮かべており、それを隠す気も更々ないようであった。
「幹部と言っても末席のアンタには、周りから異名で呼ばれることが羨ましいのかもしれないけれど、私にとってはどうでもいいの。それより用が無いなら、さっさとどっかいけば?」
「……これは手厳しい。ですが、今回は重要な報告事項が御座います故……Ms.アンドロメダ、お邪魔しても?」
「残念だけど、ここは二人用なの。座りたかったらあの辺が空いてるわよ」
嫌味ったらしいシェイドの様子に不機嫌そうなイヴは彼がディオネと共に腰かけているソファーに同席を預かろうと言い出した瞬間に、条件反射で別の座席を指差した。どう見ても後二人は座れそうなスペースが残っているにもかからわらず、店内の一番端の席に誘導した辺り、相当嫌なのだろう事が伺える。
「Ms.アンドロメダ……」
シェイドは雑すぎる扱いに対してあくまで冷静に振舞いながらも、同席の許可を得るべくディオネを流し見るが……
「ごめんなさいね。うちの長女がこうだから、そのまま報告して貰えるかしら?」
返ってきた答えは、NOであった。
「え……ええッ!?ンフフゥ……まずは先日、Ms.エクレウス達が作戦行動を行った際に揃ってデバイスを損傷させられた“第97管理外世界・惑星〈地球〉”にて、ある事件が起こったそうです。その中で遠い次元世界から齎された新技術を魔法に用いることによって、戦闘能力の爆発的な向上が期待できるいうことが証明され、管理局内で大きな話題となっています」
あくまで表情には出さぬように杖の持ち手を力いっぱい握り締めているシェイドであったが、魔法と相互互換とまで言えるほどの戦闘能力が得られる可能性の新発見とだけあり、流石に興味を惹かれる内容であったのか、二人の美女は報告に耳を傾け始めた。その様子を受け、先ほどまでのアウェイから一転して、意気揚々とフォーミュラについて得た情報を開示していく。
「ふーん……体内に取り込んだナノマシンと武器に搭載するヴァリアントコアで稼働する、エルトリア式フォーミュラ……って、ちょっと何やってるのマム!?」
「ん?」
イヴは神妙な顔つきで新たな技術に対しての考察を巡らせていると隣に座っているディオネがやたら静かなことに違和感を覚え、視線を向ければいつの間にやら電子モニターを身体の前に持ってきており、先ほどから出力されっぱなしであった少年の画像を次々と切り変えて一人で堪能していた。
「全く、油断も隙も無いんだから!」
「あら、取られちゃった」
眉を吊り上げたイヴは我慢できないとモニターを再び毟り取って、今度は電源を落としてしまう。
そんなディオネの様子を受けて、シェイドはシルクハットを深く被って目線を隠す。その表情は、姦しく言い合っている二人の美女からは窺い知ることが出来ない……というか、そもそも眼中にすらないようだが、冷静さの欠片もない血走った視線は、イヴと先ほどまでモニターに映し出されていた白い少年へと向いていた。
未知の世界“惑星エルトリア”からの来訪者が去って既に一週間以上の時が経過している。
夏季休業の真っ只中であるが、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、ヴィータの四名は“時空管理局本局”へと赴いていた。
理由は現在進行形で管理局の技術部と武装隊員の間で噂となっている新技術“エルトリア式フォーミュラ”の導入を兼ねた試験稼働が本日行われる事となっており、その見学にあるようだ。
管理局の訓練スペースでは“フォーミュラシステム”を搭載したデバイスの試験稼働のテスターに選ばれた数名の武装隊員がアップを行っており、技術者や高官、なのは達を始めとした一部の武装隊員は観覧席に腰かけている。
実際に地球で戦闘を行った魔導師以外の面々にとっては、魔法や完全な質量兵器ではない力ということもあって、かなりの関心を集めているようであり、試験稼働を今か今かと待ちわびているようだ。
そして、訓練スペース内で、白衣姿の男達が自身に満ち溢れた表情でゴーサインを出したことによって試験稼働の開始が宣言された。
「あ、いよいよ始まるね!」
「そうだな……しかし、テスターの連中は地上本部ではそこそこ名の知れた奴らばっかだけど、
「えっと……どうだろ?テスターに選ばれたから、凄く頑張ってたってのは聞いてるけど……」
それを見たなのはも声を漏らし、ヴィータもはやてとの会話を止めて訓練スペースに視線を戻すが、“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の試験型である“マギカアームズtype-BF”、“マギカアームズtype-MF”と呼称された2種類のデバイスの内、術式が適している方を手にしているテスターの顔ぶれを一瞥した二人は心配そうな表情を浮かべながら顔を見合わせている。
「あ……始まるよ!」
フェイトは動きを見せた訓練スペースを注視しながら、皆の視線を眼下に戻させた。
その視線の先では、若い武装隊員が“マギカアームズtype-BF”を起動し、出現した数基の“ガジェットドローン”に対して迫る様に地を駆けていく。
今回の試験稼働は、一対多数の状況を想定した数基のガジェットとの戦闘に加え、ある魔導師との模擬戦形式となっている。
戦闘は市街地戦を想定しており、戦闘用シュミレーターのプロトタイプによって、訓練スペースにはクラナガンの街並みが再現されている。それに加えて、現れたガジェット達もAMF発生機構以外は現物と遜色ないほどに再現されており、局の技術部が訓練用に手を加えた発展型も数基見受けられる。
地上本部の若い武装隊員———ライネル・マグナスは、歓喜に打ち震えていた。
ライネルの魔導師ランクは“陸戦A”とあって、地上本部であれば重宝される優秀さであるが、魔導師全体としてみれば、決してエリートというわけでもない。だが、19歳という年齢を考えれば、これからの努力次第ではエースやストライカーといった上に昇りつめられる可能性もありえることは自他ともに認める所だ。
しかし、剣と体術を合わせた戦闘スタイルで“近代ベルカ式”を使う平均的な騎士でしかない、ライネルが先ほどまでから見せている動きはこれまでとは別次元……間違いなく“陸戦A”で為せるものではない事がこの短時間でも実感できたからであろう。
(す、すげぇ!この速さ!)
新機構である“フォーミュラドライブ”を発現させた状態で地面を蹴って前進すれば、高速機動型の魔導師に匹敵……或いは、それ以上の速度での移動が可能となっており、濁ったような深紅の燐光を撒き散らしながら、ガジェットの砲身が自身に向けられるより早く戦場を駆け抜けることが出来る。
(そして、このパワーッ!!)
平均的な大きさの長剣としたアームズを振るえば、ガジェットを熱した鉄でバターを引き裂くが如く一刀両断して撃破出来てしまう。
“AMF”の有無は有れど、普段は何度か攻撃を加えて、中心核部を破壊しなければ撃破出来ない鋼鉄のボディを持つガジェットを次々と蹴散らしていく様は正に一騎当千といえる事であろう。
体中を押さえつけられるような感覚など何のそので、自分の力に酔いしれるように剣を振るっている。
指示を終えて観覧席に腰かけた白衣の男性は、周囲からの称賛の声を受けて緩みそうになる口元を必死に抑え込んでいた。
「ほう……これが噂のフォーミュラと魔法の掛け合わせか」
「凄まじいものを感じるな。これが局員に普及すれば、魔導師の生存率、ひいては新規育成のコストも大幅に削減される」
「よくやったものだ。エルトリア式フォーミュラの正規採用の際には君を主任技術士官にすべきかもしれんな」
地上本部の幹部クラスだけに在らず、本局の高官たちも驚愕と好意的な評価を示していた為、無理もないだろう。次々とガジェットを蹴散らしていくライネルを見た彼らの反応は想像通りかつ、最高のものといえた。
そして、八基のガジェットを順調に撃破したライネルの前には最終関門として一人の騎士が立ちはだかる。
長い桃色の髪を一つに束ね、サファイアの瞳をした美女―――シグナムである。
局内でも知らぬ者の居ない“
「……フォーミュラ運用のイニチアシブと地上本部の威信も掛かっている。とはいえ、件の解析技術以外は、新機構発動中のエース・オブ・エースの小娘を一回り小さくしたスペックとのことだ。まあ、相手がSランクでも問題なかろう?」
地上本部の責任者であるレジアス・ゲイズも別室で試験運用を観覧しているようであり、髭を蓄えた口元を歪めながらその光景に目を向ける。
「ええ、提出された出力値を見る限りは、7割から8割の確率で勝利できるでしょうね」
背後に控えている女性―――オーリス・ゲイズは、実父であるレジアスに答えるように試験運用中のデバイスと魔導師のデータから弾き出した勝率を冷静な声音で読み上げた。
「元犯罪者に慈悲などいらん。思い切り叩きのめしてしまえ」
当初計画されていた試験運用では、“ヴァリアントコア搭載型デバイス”を使用した魔導師とガジェットとの戦闘によるデモンストレーションのみが予定されていたが、この模擬戦形式に変更したのは、レジアスの意向によるものであった。
理由は多くあるが、主となるものは二つ。
一つ目は、地上本部の技術部を“エルトリア式フォーミュラ”と“魔法”を合わせて運用するデバイス開発の主軸とするために、新技術の完成を本局よりも先に示す必要があったためだ。
ただでさえ魔導師の質で遥かに劣っている上に、支給されるデバイスも最新鋭の機種は本局の魔導師に回されてしまい地上本部に回ってくるのは、型落ち品や量産機体ばかりであり、加えて魔法技術のノウハウと技術士官の質、資産面でも劣っている為、この差は歴然としたものとなっている。
今更、魔法面で張り合っても勝ち目はないが、フォーミュラにおいてはスタートラインはほぼ同じであり、そちらに全勢力を裂いて開発して本局の完成発表よりも早く正式運用に漕ぎ着ければ、この差は大幅に狭まる事であろう。
二つ目は、地上本部の信用回復とフォーミュラの有用性を分かりやすく示す事だ。一流の魔導の使い手を叩きのめすことでフォーミュラが魔導師にも劣らない……それ以上であることを視覚的に指し示すための予定変更であった。トップエース級の空戦魔導師を打倒せる力を示威できれば、周囲からの地上本部への見られ方も大きく変わり信用回復にもってこいという側面も秘めている。
「全ては我らの正義を成すためだ。そうだろう……ゼスト……」
そして、レジアスの眼前で騎士甲冑の各部から燐光を撒き散らしている一陣の風がシグナムへと迫りゆく……
「な……ッ!!?」
次の瞬間には周囲の面々の表情が驚愕に染まる。
何故なら……
「がぁ!?……ぁぁぁ……」
ライネル・マグナスは暴風に吹き飛ばされたかのように、ビルの壁面へとその身を叩きつけられていたのだ。
胸のアーマープレートは罅割れ、背にしている壁にめり込んだままピクリとも動かない。新装備の“マギカアームズtype-BF”はその手を離れて無残に地を転がっており、素人が見ても勝敗は明らかであった。
「……ッ!?ど、どうやら、テスターの方が経験不足でスペックを引き出しきれなかったようですね。では、次のテスターをお願いします」
白衣の男性は周囲の視線が称賛から疑惑に変わりつつあることを肌で感じながら、焦ったように指示を出す。今回の試験運用テスターは6名おり、残るは5名。まだ立て直しは効くことであろう。
だが……
「「な、何だ……これは!!!?」」
それを受けた別室のレジアスと観覧席の白衣の男性の声は皮肉なことに一字一句違えることなく重なってしまっていた。
“フォーミュラドライブ”を発現させて力を示威するはずであった6人のうち、既に4人が医務室送りとなったためだ。
まず最初に対戦したライネルであるが、フォーミュラの加速を生かして初撃として繰り出した上段からの高速振り下ろしの際に、胸部に蹴りを入れられて吹き飛ばされ、ノックアウト。
二人目の青年も“近代ベルカ式”の使い手であり、ライネルとは違い徒手空拳を用いた。此方もガジェットを圧倒したものの、最終関門のシグナムに対して一気に懐に飛び込んでの一撃を浴びせようと大気を振るわせる勢いで右拳を討ち放つが、容易に躱されてしまい、アイアンクローの様に額と頭部を掴まれるとそのまま地面に叩きつけられて戦闘不能。
三人目の少女はこれまでのテスターと違い“ミッドチルダ式”の使い手であったため、“マギカアームズtype-MF”を拳銃形態で用いて試験運用に当たったが、ガジェットに対しての射撃命中率が
四人目の女性も“ミッドチルダ式”の使い手であったが、先ほどの少女と違い地上本部では稀有な砲撃型のようであり、新装備を杖形態で用いて稼働した。若干
そして、五人目……“近代ベルカ式”を操る岩の様に大柄な青年は、巨大な戦斧型のアームズを振り回して重みのある一撃でガジェットを粉砕してシグナムの眼前に躍り出たが、その瞬間……凍り付いたように動きを止めてしまう。
岩のような青年は刃を交わす前からガチガチと歯を震わせ、今にも膝を折りそうになってさえいたのだ。
眼前に立ちはだかる浮世離れした美貌を持つ女性は、地上本部が誇る猛者達を剣を抜くことすらなく、たったの一撃で粉砕してしまった。これが何を指し示しているのかは、赤子でも分かる。
自分達は目の前の女性にとっては剣を執るにすら値しない……フォーミュラだの魔法だのそういう次元の話ではないのだ。つまりは、勝てるか勝てないかではなく、そもそもが闘いとして成立していないということだ。
それを実感として感じ取ってしまい、完全に竦んでしまっているが……
次の瞬間、癖のない前髪から覗いた無機質な蒼い瞳に射抜かれた。
「う、うああああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」
恐怖を打ち払う様に大声を上げながら無我夢中で斧を振り下ろす。大きな得物と太い腕にフォーミュラの筋出力の上昇がブーストされた一撃“アースクエイク”は文字通り、訓練スペース全体を揺らし、大地を割りながら凄まじい威力を周囲に見せつけた。
「はぁ!はぁ!はぁ!!」
息を荒げる青年であったが、“フォーミュラドライブ”を用いた事による自身が誇る最大の一撃である魔法“アースクエイク”の威力の向上具合に対して内心で驚愕しており、これなら……と淡い期待を抱くが、砂煙が晴れると共に全身が硬直してしまう。
地面にめり込んでいる戦斧の上に悠然と立つ
次の瞬間……青年の意識は闇へと落ちた。
斧の上に乗った状態からのサマーソルトキックで五人目のテスターを撃破したシグナムの前に慌てた様子の研究者が幾人も飛び出して来る。そこで告げられたのは、本来であれば後半の最終関門として設定されていた、もう一人との交代であった。
当初の予定では、最初の三人をシグナムが、残りの三人をフェイトが受け持つ手筈となっていたが、予想外の展開に対して交代を告げる事すら忘れていたのだろう。
この期に及んでの交代に意味はないように思えるが、シグナムにとっても異存はない。観覧席から
シグナムは騎士甲冑と“レヴァンティン改”を格納した状態で観覧席へと続く通路を歩いている。
(……心底、無駄な時間だった)
その表情はあまり芳しくはない。
(誰も彼もが新しい力に浮かれるばかりで、まるで新たな玩具を得た子供の様だ。全く制御できていないどころか、逆に振り回されている)
先ほどまでの五連戦において、フォーミュラ運用の反省点を上げようとすれば星の数ほどあるが、戦った面々に関しては、それ以前の問題であったようだ。
(力を持ち、戦ったことによって苦しんでいる者もいるというのに……)
深い溜息と共に脳裏に過るのは……
儚さと鋭さを内包した蒼い瞳、流麗な純白の剣、悠然と空を切り裂く蒼い翼、全てを燃やし尽くす漆黒の炎……
次の瞬間……全身を突き抜けるような昂りを感じ、思わず自分の身体を両腕で抱き締める。腕によって張りのある豊満すぎる双丘が突き出されるように押され、固い制服を突き破らんばかりに飛び出しかけているが、そんなことは既に眼中にない。
共に危急の空を駆け抜けた事、刃を交えた事……
先程まで前に立っていた者達の邪剣など、比べるのも烏滸がましいほどの剣筋……舜刻でも気を抜けば、斬り刻まれるかのような剣戟の嵐……
長年の付き合いがあるシャマルやザフィーラが見れば腰を抜かす様な妖艶な表情を浮かべ、浮かび上がってきた昂りを抑えるように
その感情の昂りは騎士としてか……それとも……
そして、訓練スペースでは最後のテスターがスタート地点に立つ。
「相手はハラオウン執務官……だけど、全力でやるだけだ!」
地上本部の魔導師―——クラーク・ノーランは、“マギカアームズtype-BF”を手甲状にした状態で、開始の合図を待っていた。
他の五人とは違い、地上本部に限定しても魔法資質に優れていないクラークがテスターに選ばれた事には、とある理由があるが、それでも此処に立つことを許されたのは事実である。
(気持ちで負けるわけにはいかない。絶対勝つんだ!)
相手は噂の“ガジェット・ドローン”と圧倒的に各上の魔導師……先ほどまでの先輩たちの醜態もまざまざと見せつけられた。しかし、“地球”で起きた事件では、戦闘訓練こそ受けていたものの、民間人である女性がフォーミュラを使用し、あの高町なのは達トップエースを圧倒したというデータもある。
魔法資質に影響されない上に、使いこなせばエース級の魔導師を上回りかねない力が“エルトリア式フォーミュラ”である
(ここで結果を残せば、本局に行ける可能性だってあるかもしれない。俺もエースになるんだ!!)
クラークが決意を新たにすると同時に開始の合図が成された。
「まずはガジェットッ!」
開始と同時に“フォーミュラドライブ”を起動して眼前を浮遊するガジェットに向けて飛び掛かる。
だが……クラークは奇妙な感覚に襲われることとなった。
最初の一歩を踏み出して以降、まるで全方位から押さえつけられるように全身が動かないのだ。
(あれ……ハラオウン執務官って、あんなに背が高かったか?)
そんな中で眼前に目を向ければ、自身より背の低いはずのフェイトを見上げる格好になっていた。
そして、驚愕の表情を張り付けているフェイトの姿が掻き消えたかと思えば、周囲に黄色の魔法陣が展開され、ガジェット達は突如として全機爆散した。全く状況についていけていないクラークの眼前に“バルディッシュ・ホーネット”を三角形のバッジ状にして格納したフェイトが駆け寄って来る。
「クラーク!?しっかりして!早く医療班を!!」
クラークは心配そうな表情を浮かべたフェイトや観客席から文字通り飛んで来た、なのは、ヴィータ、シャマルの存在と、その鬼気迫る表情に内心で首を傾げたくなる想いであった。
(まだ戦ってるはずなのに何で……それに医療班……?)
新緑色の剣十字に全身を包まれながら担架に乗せられる際に
(あれ?俺……なんで寝転がって……ッッッ!?)
全身には無数の擦り傷が付いており、殴りかかろうとした際に突き出した右腕と軸とした左足があらぬ方向に曲がっているではないか。右足の感覚も無く、唯一無事そうであった左腕も自分の意志では指一つ動かすことが出来ない。
「あ、ああぁぁ……ぁぁっ!?……ッッッ!!うああああっっ!!!!……ァァァ!!!!??」
そして、加速した世界に置き去りにした痛みの逆流にクラークの叫びが木霊した。
>この子は私のモノなんだから、此処に連れてきてもマムには指一本触れさせない
おっぱいの大きいお姉さんにロックオンされています……その1
>……へぇ、イヴがそこまでご執心だなんて益々興味が湧いてきちゃった
おっぱいの大きいお姉さんにロックオンされています……その2
>駄々を捏ね始めた目の前の女性が自分の倍以上の年齢だと思うと、頭が痛くなる
見た目は20代前半……実年齢は(返り血で塗り潰されている)
>マギカアームズtype-MF
後半は、ミッドチルダ・フォーミュラの略
>妖艶な表情を浮かべ、浮かび上がってきた昂りを抑えるように彼の名を呼んだ
おっぱいの大きいお姉さんにロックオンされています……その3
最後まで読んでいただきありがとうございます。
夏休みは日常話多めと言いましたが、後書きでふざけないといけない程度にはシリアスになっちまっていますね。HAHAHA!
水着回とかもございますので、そのうちカオスな話もそこそこ出て来るかと思います。
また、フォーミュラ関係に関しては、殆どオリジナルとなりますので、ご了承ください。
というか、劇場版篇が終わったので、話自体もほぼオリジナルなんですけどね。
現在、STS配信中ということもあり、ちょっと補足しておくと、本作の今の時間軸でも既にスバルとギンガはなのはとフェイトに会っていたりします。
本人たちは出ていませんが、一応本編中でも言及していたりもしていますよ。
感想等頂けましたらモチベが上がり、投稿速度も上がる?かもしれませんのでくださると嬉しいです。
では、次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!