魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
夏季休業の真っ只中に “時空管理局・地上本部” の主催で行われた“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の試験稼働が終了し、既に数時間が経過していた。
その試験稼働に出向いた、高町なのはらとは別口で地球から“時空管理局・本局”に赴いて来た者達も自らの用事を済ませ、帰路に着こうとしている様だ。
「お休みの最中に呼び出しちゃってゴメンなさいね。疲れちゃったかしら?」
「いえ……寧ろこんなに穏便に済んでしまって良かったんですか?」
蒼月烈火は怪訝そうな表情を浮かべながら隣を歩くリンディ・ハラオウンに問いかけた。
「そうねぇ……こういうことが初めてだったら、もうちょっと色々聞いたりしないといけなかったと思うけれど、今までの事もあって私達が貴方の事情を把握しているから問題ないでしょうということよ。それに今回は正当防衛ってことで済ませる方がお互いにとって都合がいいでしょう?」
「それはそうですし、此方としては願ったり叶ったりですけど……」
烈火が本局に赴いた理由は、先の事件での最終局面にて演じた大立ち回りついての対応に関する管理局側との最終確認の為……だったのだが……
リンディ同伴で通されたのは、かの“伝説の三提督”が集う会議室であり、そこで行われたのは、体良く言えば面談、悪く言えば世間話のような物であったのだ。無論、事件に関する話題が主であった事は言うまでもない。
会話を重ねる中で内容に
結果として、最終確認は多少の腹の探り合いがあったとはいえ、つつがなく終了したというわけだ。
「……あら?あの子達、こんな時間になってもまだ地球に戻っていないのね」
烈火はリンディが携帯端末を覗き込みながら発した呟きに対し、思考の海から意識を拾い上げられるように隣へと視線を移す。
「例の試験稼働はとっくに終わってるはずなのだけれど、まだみんな
端末に表示されていたのはフェイトからのメッセージであり、予定外の事態で帰宅が大分遅れるということと、本局を発つときにもう一度連絡を入れるという物であった。そして、二度目の連絡が来ていないということから、フェイトを始めとしていつもの面々はまだ本局に滞在しているということを指し示している。
「ええ、構いません」
ならば、トラブルが起きた風な皆の様子を見に行きがてら地球に戻っても構わないかという申し出であり、烈火としても異存はないようだ。
こうして行動指針が決まって歩き出した二人であったが、程なくして聞こえて来た耳障りと言って差し支えない複数人の怒号を受けて思わず足を止めた。
様々な式典や“戦技披露会”といったイベントに用いられるようなアリーナこそ数が限られるが、“時空管理局・本局”にはいくつもの訓練スペースが設営されており、その中の一つである小隊訓練用の小型スペースに繋がるロッカールームでは陸士制服を着た三名の男性が、ツインテールの少女と岩のように大柄な青年に対して、嘲笑うような表情を浮かべながらもこれでもかと言わんばかりの怒鳴り声を上げていた。
「揃いも揃って負けたばかりか、あの無様な戦いぶり……全く、お前達は地上本部の恥晒しだ!」
「地上本部の精鋭が聞いて呆れる。しかも、たった一度の模擬戦でお前たち以外の四人は入院中とは……」
「俺達が態々、機会を
三十代半ばと見受けられる三名の男性局員の口ぶりと身に纏う制服から、彼らが地上本部の所属であることは言うまでもなく、囲まれている二人は先ほどまで“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の試験運用テスターとなっていた者達であり、男性達と同じく地上本部所属の魔導師であった。
「…ッ…っ!」
藍色の長い髪をツインテールにしている少女―――ミア・ローラシアは、目線を下に落としながら男性達からの非難を甘んじて受け入れていた。
結果的にではあれど、彼らの言い分は決して間違っておらず、大勢の高官の前で醜態を晒して“地上本部”の名誉挽回の機会を棒に振ってしまった事自体は間違いないのだから……
ミアの隣で大きな体を震わせている青年―――ライズ・フェルゼンも同様に非難を受けており、二人からの反論がないのをいいことに三人の罵倒はさらにエスカレートしていく。
「今から特別訓練だな」
「そりゃいいな!軟弱な後輩には指導が必要だろうし、な!!」
三人の内二人が威圧するような声音でミアたちに詰め寄っていく。そのうちの一人が指差す先には訓練スペースがあり、今から魔法戦を行おうとしているということは想像に難しくないが、ミアたちは首を縦に振ることなくどこか苦しげな表情を浮かべている。
「まさか……断ったりはしないよなぁ?選ばれたテスターさんたちは……なぁ?」
リーダー格の男性はニタニタと勝ち誇ったような表情を浮かべながら、デバイスの待機状態であろうカード状の板を掌で弄んでいるが……
「貴方達、何をしているの!?」
そんな時……翡翠の髪を束ねた美女―――リンディ・ハラオウンが解錠した扉からロッカールームへと入室して来た事によって、場の空気が一変する。
「なっ……!ハ、ハラオウン統括官!?」
普段の柔らかい笑みからは想像もできない能面の様な無表情を張り付け、感情を悟らせない冷たい目つきをしたリンディに対して三人の表情がこれでもかと言わんばかりに強張った。内二人は、誰が見ても分かる程に体を震わせてさえいるようだが……
「お見苦しい所を見せてしまいました。後輩への指導の一環ですのでお気になさらず……」
しかし、リーダー格の男性は一瞬の硬直の後には元の調子を取り戻しており、リンディに対しても飄々とした口ぶりで対応している。
「指導?年齢的に立場の低い相手を脅しているようにしか見えませんわよ」
「おっと、これは失礼致しました。本局と違って
「あら?そうでしたか。ですけどデバイスまで持ち出すのは少々やりすぎに思えますわ。それにロッカールームで魔法を行使されたりすると、少々困ってしまいますわね」
「我々とてそこまで無粋でありませんよ。ちゃんと訓練スペースで指導を行いますのでご安心して……」
「おかしいですわね?後ろの訓練スペースの使用予定は入っていないようですのにお使いになられるのかしら?」
三名の中では最年長に見受けられるリーダー格の男性とリンディの会話に対し、澄ました表情を浮かべている一名を除いて皆一様に肝を冷やしているようだが、訓練スペースの使用有無を境に会話の応酬が一方的なものとなっていくことに対して、それ以上にある種の恐怖を感じ始めたようだ。
「本局の訓練スペースを使うなとは言いませんけれど、しっかり許可を取ってからにしていただかなくては困ってしまいますわ」
明確に罵倒するわけでもなく、皮肉交じりに淡々と事実のみを発していくリンディの口ぶりに対して、リーダー格の男性の応答がどんどん鈍くなっていく。次第に感情的になっていく男性とはうって変わって、ポーカーフェイスと笑みを使い分けながら鋭利な言葉の刃で相手を論破していく様は戦場で舞うエースとはまた別種の凄みを感じさせるほどであったためだ。
経験豊富なベテランとはいえ、地上本部の武装隊員と本局の統括官では話術一つとっても隔絶しがたい技量の差があったのだが、こうなってしまえば後の祭りだ。しかし、このままおめおめと引き下がってしまえば、両脇の同僚や先ほどまで罵倒していた両名からどう思われるのか想像に難しくない。
両の拳を握りしめ、激しい歯軋りと共に苛立ちで全身を震わせる男性は自らの失策を悟りながらも、引くに引けないこの状況をどうにかしなければと退路を探していた。
そして、怒りと暗闇の中に一筋の光が差したと言わんばかりに口元を歪めながら呟いた。
「大変申し訳ございませんでした。此方の非を詫びさせて頂きます。そこで一つお願いなのですが、先ほど言われたこの訓練スペースの使用許可を統括官に取っていただきたいのです。我々では許可一つ承るのも一苦労でして、それにこうして顔を合わせたのも何かの縁……魔導師としてのかなりの腕前と聞いているハラオウン統括官のお手並みも見せていただきたいのですが……あぁ、申し訳ありません。やはり我らの様な一兵卒が統括官殿の御手を煩わせるわけにもいきませんね。では行くぞ、お前達!」
「は、はい!」
リーダー格の男性は先ほどまでの感情的な様子から一変して、恭しく頭を下げながら地上本部所属の者達に退室を促した。
「地上本部に戻ったらみっちりと訓練しないとな!!覚悟しとけよぉ!」
そのままリンディの隣を通り抜ける際にわざとらしく大声を上げながら扉へと歩いていく。
そんな男性を横目で見るリンディの胸の内には侮蔑の感情が湧き上がるが、これ以上の口撃を行うわけにはいかなかった。例えここで彼らを見逃したのだとしてもリンディ自身にとって不利益を被ることなど在り得ないが、それでも言い返すわけにはいかなかったのだ。
目の前の男性達など何の脅威にもなり得ないが、彼らに詰め寄られていた二人にとってみれば話は別だ。
先ほどの男性の発言を要約すれば、リンディ達が乱入するまでにやろうとしていたことを地上本部に戻ってから行うということを大々的に宣言しただけでなく、話術では敵わない為に魔法戦の申し込みを行ったといったところであろう。
つまりは、恐喝染みた行為を止めようとしたが為に守ろうとした対象への風当たりが強まってしまったかもしれない。それでは本末転倒であろうし、目覚めも悪い。
(はぁ……最近運動不足だったし、誘いに乗ってみるのも悪くないかしら)
言葉の応酬で負ける気はなく、ここから目の前の男性達の心を折る事も出来なくはないだろうが、将来のある若い魔導師達の前でそれを行うのも忍びない。自ら首を突っ込んだのだから、敢えて見え見えの誘いに乗ってみるのも悪くないかと、内心で溜息をついたリンディであったが、今まで維持されていた仮面のような表情を崩して、驚きと共に大きく目を見開いた。
地上本部の局員が一悶着を起こしている頃、同じ所属であり新機構の試験稼働で重傷を負ったクラーク・ノーランは意識を取り戻した。
霞む視界の焦点が徐々に合っていき、真っ先に広がったのは白い天井。麻酔でも効いているのか指一つ動かせない不快感に呻き声を漏らせば、白一色の景色に整った可愛らしい顔立ちと特徴的な栗色のサイドテールが映り込む。
「た、たか、高町教導官!?」
クラークは眼前に突如として出現した想い人に対して、これでもかと言わんばかりにテンパり始めた。
試験稼働はどうなったのか、自分がどういう状況に置かれているのかなどといった疑問が吹き飛んでしまう程に衝撃的な出来事が目の前で起きているということだ。
それと同時にクラークにとっては指一つ動かせないこの状況は幸いであった。そうでなければ驚愕の余り、横たわっているらしいベッドから転げ落ちる所だったことであろう。
とはいえ、呂律もまともに回らない状況となってしまっているが……
「……クラーク君は訓練の最中に怪我をして倒れたんだ」
「な、なん……ッッ……ぅ!!??」
試験稼働……怪我……倒れた……クラークの中で朧気だった記憶が脳裏にしっかりと再構築されていく。
地面に倒れ伏す自分、在り得ない方向に折れ曲がった四肢……
僅かに動く首を使って、自らの怪我の具合を確かめようと視線を向けるが被せられている白いシーツによってそれを阻まれる。
「後遺症なんかは無くてちゃんと直るみたいだけど、暫くは安静にしなきゃだよ」
なのはは察したように白いシーツを捲り上げ、クラークにとって最悪の事態は回避できているのだと怪我の度合いを実際に見せながら伝える。全身に包帯が巻かれており、各所をギプスで固められているような状態だが、意識を失う前に見た凄惨な状態からすれば雲泥の差と言えるだろう。
「それから、ちゃんとリハビリをこなして、速く現場に……」
自らの状態を聞いた後、天井を眺めたまま微動だにし無くなったクラークに対して、明るく励ましの言葉をかけようとしたなのはであったが……
「俺……折角貰ったチャンスに何もできませんでした。しかも、どうしてこんなことになってるのかすら自分でわからないなんて……」
声音を震わせるクラークに対して思わず口を噤んでしまった。今のクラークに必要なのは、ありきたりの励ましではない事を感じ取ったなのはは、教導官として彼の進む道を指し示そうと真剣な表情で言葉を紡ごうとするが、それが発されることはなかった。
「クラークッ!?」
クラークの幼馴染であるエメリー・ギャレットが息を荒げながら病室に飛び込んで来たためだ。
「もう!こんなになって!!バカバカバカ!!おじさんもおばさんもすっごい心配してるんだからね!」
青くなったり赤くなったり忙しい様子のエメリーを見て、思わずなのはの表情も綻ぶ。本当にクラークの身を案じていることがこれでもかという程に伝わって来たためだろう。声をかけられた本人も困ったような顔こそしているが、先ほどまでの沈んだ表情が吹き飛んでしまっている。非常にいい傾向と言え、今はそっとしておくべきとそんな二人の様子を見守っていると、病室の外で待機していた面々が入室してきた。
「あ、フェイトちゃん、みんな!」
ヴィータとシャマルはクラークの、フェイト、はやて、シグナムはなのはの元へと集まる格好となっていた。
「クラークは大丈夫なの?」
「うん。怪我は重たいけど、ちゃんと良くなるみたいだよ」
対戦相手を務めたフェイトは心配げな表情を浮かべながら、なのはにクラークの状態を問いかけ、その返答にとりあえず胸を撫で下ろした。
今回のクラークの怪我の仕方は明らかに普通ではない。加えて、地上本部製の“ヴァリアントコア搭載型デバイス”の試験稼働を行った他のテスター達も身体の異常を訴えているとあって、試験運用の場は騒然となった。
その為、クラークが意識を失っていた数時間の間に技術士官がテスター達のメディカルチェックを行った。その検査結果と新型デバイスを使用に当たってどのような異常を引き起こしてしまったのかということの説明を症状の軽い順に行っていくということになったのだ。
「詳しい症状と今回どうしてこんなことになっちゃったのかを説明してくれる人も、もうすぐに来る……はず……」
最も重症であったクラークの下にも間もなく誰かしらが現れるだろうと、なのはが病室の扉に視線を向けた瞬間……扉が開き二人の女性が姿を現した。
一人はなのは達にとっても馴染み深いマリエル・アテンザ。もう一人の白衣を纏った長身の女性は始めて目にする人物であった。
「やっ、はろはろ!」
癖のない長い銀髪と青い双眸、前が空いている白衣からは大きく突き出た双丘とそれを強調するかのような胸元が大きく空いた桃色のインナー、黒いタイトミニが覗いており、グラビアモデルも涙目のスタイルを誇る女性は、一同の視線を受けても何のそのといった様子で、なのは達へにこやかに手を振っている。
「えっとぉ……今回の一件について皆さんに色々教えてくれるのは、“時空管理局・特別技術開発局”の局長である」
「私、エクセン・アヴラムだ。シグナム嬢以外とは初対面かな?宜しく頼む」
突き刺さる視線の嵐に居心地の悪そうなマリエルからの紹介を受けて名乗った女性―――エクセン・アヴラムは、人懐っこそうな笑みを浮かべている。
そして、エクセンの言い様に引っかかる箇所の合った一同が一歩後ろに立っていたシグナムへ視線を向けると同時に銀色の風が駆け抜けた。
「ふぎゅっ!!??」
何事かと思えば、全力ダッシュから両腕を広げてダイブした格好となっているエクセンの頭部がシグナムの右手に収まっている。
一同はマリエルを含めて状況の変化に追いつけずに呆然としているが、程なくして耳にしたことのない技術部とはいえ、局長相手にアイアンクローを咬ましている家族に対して珍しくテンパっているはやての制止を受けてエクセンの頭部は解放された。
「う、うぅぅ……酷いじゃないか。あんなに激しく肌を重ねた仲なのに、私からの愛の籠ったハグを受け取ってくれないなんてぇ……」
地べたに座り込んだエクセンの衝撃発言に一同は目を向きながら、シグナムを凝視した。
「訓練終わりで汗を流していた時に彼女が個人用シャワールームの鍵をハックして、無理やり入って来ただけだ!」
羞恥からか僅かに頬を染めながら憤慨した様子のシグナムだったが……
「でも、肌を重ねたのは事実だろう?」
「なッ!?」
ニヤニヤとおちょくるようなエクセンと青筋を浮かべるシグナム。
「まあ……実際は、噂の“おっぱい魔神”に興味があったからシャワールームに忍び込んで乳相撲を挑んだは良いものの、中々その気になってくれないから色々煽ってたらガチギレされて、その爆乳で胸を押し潰されながら落とされたって間柄なんだだけどね!」
更なる衝撃発言に凍り付く一同。
「あっという間にシャワールームの壁に追い込まれて、返り討ちにされてしまったよ。たはは……しかし、私は諦めない!更なる修練を積んでリベンジマッチを……」
「……局長殿、皆が説明を求めています。私語は程々にしていただけると助かるのですが」
皆を置き去りにしていたエクセンのマシンガントークであったが、渦中のシグナムの一言によって強制的に止められる事となった。
シグナムの表情は普段の彼女を知る者からすれば、まず目にすることのない程の満面の笑みに染まっており、微笑みとは対照的に全身から獄炎を思わせるオーラが発せられているからだろう。
「あー、コホン!では、ちゃんとお仕事をしようかな!」
これ以上、突き回すと三枚に下ろされると本能が悟ったのか、ダラダラと冷汗を流しているエクセンはわざとらしい咳払いと共に主題を切り出した。
はやてらからしても根掘り葉掘り聞きたい内容であろうが、エクセンと同様に命の危険を察してか、この場ではシャワールームの一件に関して追及することはなかったようだ。
「えー、ではまず……えっと、ノーラン陸士?君に起きた現象について説明していこうか。これに関しては他の“ヴァリアントコア搭載型”を使用した面々に起きた事の結論としても言える事なのだが、現象としては単純明快、“魔導”と“フォーミュラ”の併用に際して発生した過負荷に肉体が耐え切れなかったということだね。……ん、以上だ。では、私としては次の話題が本題なのだが……」
「アヴラム局長!話を端折りすぎです!みんなついて来れてませんよ!!」
「むぅ……早く次の話題に行きたいのだがなぁ。分からないことがあったら好きに聞いてくれ、手短にな」
なのは達は過程をすっ飛ばして結論だけを述べた技術屋二人の様子に呆気に取られっぱなしではあったが、マリエルの制止を受けたエクセンの申し出に対して疑問をぶつけていく。真っ先に声を発したのは、なのはであった。
「クラーク君やテスターの方々はなんで身体が耐え切れなかったんですか?私もフォーミュラを使ったことは有りますけど、こんな風な怪我はしませんでした」
なのはの疑問は最もだろう。“魔導”と“フォーミュラ”の融合という現象に関しての先駆者は、何を隠そう高町なのはなのだ。
エルトリアからの来訪者との戦闘で未完成ながらも“フォーミュラドライブ”を使用したが、通常稼働よりも心身、デバイスにかかる負荷は比べ物にならなかったとはいえ、自傷での負傷はここまで酷いものではなかった。
そうであるにもかかわらず、自分以外のフォーミュラ使用者が次々と倒れた事が解せないのだ。
「単純な事さ。言っただろう?過負荷に耐え切れなかったとね」
エクセンの説明に対して、大多数の者達は合点がいってないという表情を浮かべている。
「ふむ。では、例えを挙げようか。海の底に潜ろうとしたとしよう。なのは嬢ならどうするかな?」
「えっと……潜水服みたいな深く潜っても大丈夫な装備を用意します」
「そう、普通ならその通りなのだが、今回は違った」
肩を竦めたエクセンは溜息交じりに答える。
「厳密には違うプロセスではあるのだが、ここでは分かりやすく海に潜るダイバーを魔導師、耐圧装備を魔法、水圧をフォーミュラと例えよう。フォーミュラの出力を上げれば上げるほど、水圧が大きくなっていくようなイメージだ。それを中和していくのが魔法というわけだね。当然ながら水圧が大きくなれば魔導師にかかる負荷も大きくなる。中和するにはよりスペックの高い耐圧装備が必要になって来る」
一同はエクセンの語りに黙って耳を傾けている。
「先ほども言った通り、耐圧装備は魔法……身体強化や
吐き捨てるように言い放つエクセンの表情は先ほどまでの飄々としたものではなく、嫌悪を超えて見ている側がゾッとしてしまう程に無機質なものであった。
「あの馬鹿者共は新型デバイスの設計に際して、なのは嬢の先の事件でのデータを基盤としたのだろう。稼働効率百%越えの理想的なデータを参考にすること自体は当然だが、奴らはやり方を間違えた。出力上昇値も魔力エネルギーの収束率もそっくりそのまま落とし込んだのだろうね。大した解析を行うわけでもなく、内部データの調整を行ったわけでもない。単純に既に稼働に成功しているという事実だけを元にコピーしたデータを従来のデバイスに組み込んで新型の完成としたということだ」
エクセンはなのはへと視線を向ける。
「それの何が悪い?といった風な様子だが、はっきり言ってしまえばなのは嬢、君は広義的に見れば魔導師だが、決して
「そ、そんな事……」
「事前訓練も無しにフォーミュラの力を使い、“夜天の守護天使”と正面切って戦えたこと、稼働が想定されていない状態で“アクセラレイター”と呼称される最大稼働を御しきったこと……君の規格外を挙げればキリがないがこれだけを取っても驚異的だ。故に君は他の魔導師とは一線を駕しているという事、つまりなのは嬢は無事で他の面々が倒れた原因は魔導師としての隔絶しがたいスペック差にあるわけだ」
徐々に結論へ向けて話が移り変わって行く。
「勘違いしないでくれ、別に責めているわけではないよ。君の優秀さは称賛に値するし、誇るべきことだろう。だが、皆が君と同じよう……というわけにはいかないというのが現状だよ。先ほどの例えで言うのなら、耐圧装備も持っていない、海で泳いだこともない人間にウェットスーツとシュノーケルを着せて、なのは嬢クラスのトップエースでなければ活動不可能な深海へと無理やり沈めたような物さ。そんな状態であるから、水圧に耐え切れず全身が潰れたというわけだね」
要はエース仕様の新装備を一般局員に使わせた結果、バックファイアによる自傷で全身が破壊されてしまったということだと、エクセンの話には取り敢えず合点が言ったという様子だが、それに対して誰一人として言葉を発することはなかった。
「そして、ここからが私にとっての本題だ。今回の不祥事を受けて地上本部には任せておけないということで、私が管理局におけるフォーミュラ運用の責任者に選ばれた訳なのだが……高町なのは嬢、フェイト・T・ハラオウン嬢、八神はやて嬢、シグナム嬢、ヴィータ嬢に対して正式に“ヴァリアントコア搭載型デバイス”のテスターとなって欲しくて来たのさ。無論、今回の様な事は絶対に起こさないと約束しよう」
そして、エクセンからの提案は再びなのは達を固まらせるに足るものであった。だが、ある意味では好都合と言える。
ここから先の戦いを今のまま潜り抜けるのが容易ではないというのは、なのは達にとっても共通認識である為だ。より激しくなる次元犯罪に“ガジェット・ドローン”と“戦闘機人”……そして、“
これらに対抗する為には“魔導”と“フォーミュラ”の融合による爆発的な出力上昇を手に入れる事は急務と言える。自分達の愛機の調整を長年任せているマリエルが信用を置いている存在と合って、敢えて断る理由も見当たらない事も大きな要因だろう。
「こ、これって!?ちょっと、え、えぇぇぇっっ!!!!??」
そんな時、真剣な空気を打ち破るようにマリエルの大声が部屋中に響いた。
「ぷ、ProtoType02が稼働しています!!」
「ほう、君が今朝失くしたアレがかい?」
「はうっ!……そうですぅ!私が今日の朝に本局で落としてしまって、ずっと探し回ってるアレですよ!!」
なのは達はエクセンらへと視線を向ける。会話内容が気にならなくもないが、さっきの今で流石に二人のノリについて行けそうにない上に、フォーミュラ関係でもないようであるため、敢えて口を挟むことはしていない。
「メンテナンス終わりで主電源まで落としていたせいで、反応が追えなかったと思ってたら今度はなんで訓練スペースで起動してるの……ともかく回収して!?」
「ちょっと、その端末を貸してくれ。ほい、ほい、ほいっと」
不安そうな表情で外へと全力ダッシュしようとしていたマリエルから通信端末を奪い取ったエクセンは流れるような指捌きで、目的の場所の監視カメラの映像を外部に出力した。正規のルートではない方法で本局のカメラ映像を拝聴する事は規定に反するのだが、その場にいた誰一人としてその事に突っ込むことはなかった。
何故なら……
映し出されたのは、長方形の無機質な大部屋。なのは達、管理局武装隊員にとっては余りに見慣れた光景……一般的な訓練スペースだが、今回は少しばかり様子が違う。
鬼のような形相で横並びに立っている三人の男性局員、相対するは三人の若者。ツインテールの少女と岩のように大きな青年は先ほどアリーナで見かけた人物……そして、あまりに見覚えのありすぎる少年―――蒼月烈火が漆黒の戦闘装束に身を包み、鉛色の角ばった柄をした身の丈ほどもある杖を肩に担ぎながら、何食わぬ表情で佇んでいたからだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
お久しぶりです。
リアルが忙しすぎた事と、ポケモンマスターを目指して旅に出てたことが遅れた原因ですね。
目指せマスターボール級!ということで漸く厳選も終わり、今日からランクマッチにデビュー致しました。
キャラソン集でモチベが上がってどうにか此処まで書きあげられました。
一応、年内に後1,2話は更新したいなと思っています。
エタってはおりませんのでご安心を。
感想等頂けましたら嬉しいです。
ドライブ・イグニッション!