魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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Dual Magica

 地上本部所属の魔導師―――ミア・ローラシアは隣に立つ自分よりも一、二歳年下と思われる少年―――蒼月烈火を不安げな表情で見つめている。

 

 自分達と先輩局員、リンディとのやり取りに対して静観を貫いていた烈火が口を開いたことによって事態が大きく動き、改めて模擬戦という形で雌雄を決することとなった。

 

 彼が放った皮肉めいた正論を受けて思わず言いよどんでいた先輩局員達の反応に関していえば、胸がスッとする感情を抱かなかったわけではないが、結果としてヘイトを買ってしまった烈火がリンディの代わりにこのような場に立つ羽目となってしまったのだ。

 

 しかも、話を聞けば局員どころかデバイスも持っていない魔法を使えるだけの一般人だということでミアの不安は更に高まったのだが……

 

「こうなってしまった以上は貴方にも付き合って貰うわね。フェルゼンさんは前衛、私が中盤で援護、貴方は最後衛で支援をして……」

 

「……俺が最前衛に出ます。二人共下がって自衛に専念してください」

 

 出来る限り烈火に戦わせず何とかこの場を乗り切ろうとしたミアだったが、まさかの返答に驚きを露わにした。

 

「あ、貴方何を言ってるか分かってるの?彼らだって正規の武装隊員……それもベテラン揃いなのよ!しかも3人相手に!」

 

 烈火の発言が余りに分不相応で無謀すぎるものであったためだ。それもそのはずであり、目の前に立つ男性局員達は先ほどまでの態度とは裏腹に地上本部ではそれなりに名の通った武装隊員である。

 

 恐らくこの騒ぎを起こした要因は、新型デバイスのテスターを選出するべく行われた試験において、彼らを破って選ばれたミア達への腹いせという何とも子供染みたものであろうが、それを差し引いても決して弱くはない相手であることは間違いなく、アマチュアですらない少年が一人で相手取る事は考えるまでもなく不可能なのだ。

 

「……そんな身体で前に出られるくらいなら一人の方がマシです」

 

「ッ!?貴方!」

 

 烈火が自分達の状態を言い当てた事に対し、ミアの瞳が更に驚きで見開かれる。実際の所、ミアもライズも烈火の言う様に本調子には程遠い。

 

 原因はクラーク・ノーランと同様に“ヴァリアント・コア搭載型デバイス”の試験稼働の際のバックファイアにあった。

 

 テスターとなった六名の内、怪我の度合いの酷かった四名が入院、ミアとライズは重症ではあったものの治療を施され、戦闘行為は不可だが、デスクワーク等の業務と日常生活には大きな支障はないということで地上本部への帰還を命じられた。

 

 だが、その渦中にこのような事態となってしまった。手足が曲がったり、内臓への直接的ダメージこそなかった二人とはいえ、フォーミュラ稼働によるダメージを受け手足の骨は罅割れ、全身の関節が悲鳴を上げていた。治癒魔法でどうにか回復こそしたが、その反動は数時間経過した今も尚、心身を蝕んでおり、二人共戦闘行為を行える状態ではない。

 

「それでも、私達は譲るわけには!」

 

 だとしてもそんなことは関係ないのだ。市民の平和を守る管理局員として烈火の発言を許容することなどできるはずもない。

 

 しかし、断固反対だと上げようとした声が最後まで紡がれることはなかった。

 

「……大丈夫、すぐに終わらせます」

 

 氷のような双眸に射抜かれたミアはそれ以上声を上げることは出来なかったのだ。痺れを切らした先輩局員が怒号を上げるまで、ライズと共に横並びの状態で固まっており、二人から一歩先に出て、正規の武装隊員と戦うつもりの烈火へと視線を送っていた。

 

 

 

 

 リンディ・ハラオウンは観戦室の椅子へ腰かけ、複雑そうな表情を浮かべながら訓練スペースへと視線を落とす。

 

(きっと、私の事を庇ってくれたのね)

 

 そんなリンディの脳裏に地上本部の隊員と繰り広げていたやり取りが過る。

 

 

 武装隊員の悪足掻きに乗ってやろうと口を開こうとした際に烈火が自身の前に出てきたことに思わず驚いてしまった。

 

 その後は、丁寧な言葉使いで皮肉交じりに彼らを罵り、リンディへ向かうヘイトを自らが買い、自身がこの戦いに参加することになるように仕向けたのだろう。まるでリンディへかかる火の粉を振り払うかのようだ。

 

 だが、烈火に庇い盾されずともリンディがあの程度の魔導師に対してどうにかされる事はないだろう。

 

 確かに前線で戦うタイプではなく補助型であるリンディだが、かつては“時の庭園”で発生した次元震を一人で抑え込むだけの魔法運用と出力を見せ、扱いの難しいデバイスである“デュランダル”問題なく運用できる技量を兼ね備えており、地上本部で多少名が知られているだけの魔導師に負ける道理などないのだから。

 

 ベテラン局員に追い詰められていた二人がリンディと彼らのやり取りを聞いてどう思ったのかは定かではないが、高速機動型の万能魔導師であるフェイトと同様に多方面に高い適性を持っていると思われる烈火が自分達の力関係を見抜けないはずはない。

 

 それでも、前に出て来たということは……

 

(やっぱり、根は素直な良い子なのね。余り表には出さないけれど……)

 

 局員として、本来ならば無理やりにでも止めるべきなのだろう。だが、同じく局員としての観点から見て、偶発的な事態ではあるが烈火の戦闘データを取ることが出来るまたとない好機でもある。

 

 とはいえ、烈火がこの場で戦う際の懸念事項に関しては、本人から()()()と共にある申し出があったため、管理局が求める結果にはならないと断言できる。

 

 寧ろ、この戦いのデータを有効利用できれば“ソールヴルム式”の秘匿が容易になる可能性も十二分にあるのだ。

 

 彼の為になる可能性が高いとはいえ、リンディは打算塗れの自分に対して自嘲するような表情と共に烈火の横顔に視線を向けた。

 

 そんな時……

 

 

「母さんッ!?これは一体どういう事?」

 

 突如として開かれた扉から一人の少女が絹の様な黄金を揺らしながら駆けこんで来た。

 

「フェイト……それにみんなも……」

 

 リンディの瞳が小さく見開かれる。眼前に愛する娘と、遅れながらやって来た見慣れた面々が姿を見せたためだ。どうして彼女がたちが此処へ辿り着いたのか、皆より遅れて最後尾から姿を現した白衣の女性が何者なのかとリンディが疑問の声を上げるよりも早く、眼下の訓練スペースから中年男性達の野太い怒号が響き渡った。

 

 それを受けて、全員の視線が訓練スペースに集まる。

 

「え?……アレって、何で?」

 

 そんな中、なのは達は思わず驚きで固まってしまっており、事情を知っているリンディ、烈火の事情を知らないエクセンを除いた全員の視線が一点に集中した。

 

 始めて目にする漆黒の戦闘装束を纏っている烈火は、足元に蒼い()()()の魔法陣を出現させ、身の丈ほどの大きな杖を翳しながら一基のシューターを撃ち放ったのだ。

 

 

 

 

「くそッ!ビュンビュン鬱陶しいな!おいッ!?」

 

 三人の意志を代表するかのようにリーダー格の男性が声を荒げる。半ば一対三のような状況でありながら、目の前の少年との距離が詰められないからだ。

 

 リーダー格の男性が長剣、後の二人は長槍と徒手であり、三人共がガチガチの近代ベルカ式の使い手である。故に誘導弾と射撃魔法で戦う典型的な()()()()()()式の使い手であろう少年に対しては接近しなければ有効打を与える事が難しい。

 

 フォーメーションを取ろうにも最悪のタイミングで飛来する魔力弾に統制を乱され、自身らが使用できる数少ない中距離攻撃を放っても、軽やかな身のこなしで障壁に頼ることなく回避されてしまう為に足を止められない。

 

 近接向けの戦闘スタイルと術者の魔力量の関係で飛び道具を連発するスタミナもなく、カートリッジを使用しての攻撃を仕掛けるのも現状ではリスクが高すぎる。だが、それは相手にとっても同じことだ。

 

 正確な射撃と素早い身のこなしには、どこか非凡さを感じざるを得ないが、逆に言えばそれだけだ。使用してくる魔法も誘導弾と射撃系のみであり、管理局員ならば誰もが使える程度の基本的なものばかり、攻撃の威力も一般的な地上本部の局員と()()()()()()()、このまま撃たせ続ければ何れあちらがガス欠になる事は明白……

 

《一ヶ所に集まれ!あのガキが疲れ始めるまで耐えるんだ!!攻め時を間違えるなよッ!》

 

 リーダー格の男性の指示を受けて、他の二人が烈火に悟られぬようにジリジリと集まり始める。消耗を最小限に抑えて、烈火の攻めが鈍ると同時にカートリッジを炸裂させる高出力攻撃で一気にけりを付けるつもりのようだ。

 

(ふん、統括官が連れていたからエリートの卵かと思ったが、態度がデカいだけでうちの若い奴らと大して変わりねぇな!!ボコボコにしてエリート統括官殿の前に突き出してやる!)

 

 多少なりとも会話をしたミアらと違い男性達にとってみれば、リンディが連れて歩いていた烈火は本局所属のキャリア組か、将来が有望視されている人材と思ってしまうのも無理はないだろう。

 

 この年代の地上本部の局員からすれば、本局所属……しかもキャリア組への印象は良いものではないだろう。リンディ本人に鬱憤をぶつけることは叶わなかったが、この烈火を痛めつければ彼女の鼻も明かせるだろうと目論んでいるのだ。

 

 だが、そんな思惑とは裏腹に、烈火の足元で蒼い()()()が煌めくと杖の先端部が起き上がり、魔力光と共に刃を形成していく。

 

 在り得ない光景に言葉を失う男性達を置き去りにするように時計の針は進み始める。

 

 

 

 

「……烈火があそこで戦うことになった理由は分かったけど、あのデバイスは何?それにどうしてミッド式とベルカ式を使ってるの!?」

 

 リンディから事の次第を聞いた一同はとりあえず納得するものの、訓練スペースで行われている光景について疑問が尽きる事はない。

 

 その最たるものはフェイトが述べたとおりである。

 

「彼からの要望で局のデバイスを一機貸し出したのよ。それに魔法適性があるんだから魔法が使えて当然でしょう?」

 

 リンディはフェイト達の疑問に対して、エクセンやマリエルの目があるからか敢えて暈すような言い様で答える。

 

 烈火が模擬戦に参加するということで真っ先に問題となるのが使用デバイスだろう。幼馴染たちにすら詳細スペックを語ることを拒否した“ウラノス”を管理局の訓練スペースというデータの記録と解析をしてくれと言わんばかりの場所で使うわけにはいかない為だ。

 

 これに関しては、自らの専用デバイスを持っていない局員が公務や訓練に使用する申請させすれば貸出可能なデバイス群から使用するという形でクリアされた。

 

 もう一つの問題である“ソールヴルム式”であるが、此方に関しての回答は烈火が目の前で立ち回っている通り、使用することで注目を集めてしまうのなら使わなければいいという至極単純なものであった。

 

 管理世界の人々が認知している“魔法”における発動プロセスは一部の“古代(エンシェント)ベルカ”や“稀少技能(レアスキル)”を除けば、“ミッドチルダ式”、“近代ベルカ式”を問わず大きな差異はないといっていい。

 

 二つの術式を区別する差異となっているのは、術者の魔力を組み上げて発動させる術式の方なのだ。

 

 魔導師は基本的に自分にとって適性の高い術式を選択して使用していくことになるわけだが、戦闘スタイルを見直して術式ごと転換(コンバート)するといったケースも存在する。

 

 これらの事実から、他の魔導師と同じく“リンカーコア”を持ち、魔法を行使している烈火が“ミッドチルダ式”や“近代ベルカ式”を使用すること自体は適性があれば決して不可能ではないのだ。

 

(……とは言ったけれど。まさか戦闘中に二つの術式を使い分けるなんてね。それにあのデバイスは本当に貸し出し用なのかしら?)

 

 二つの術式に互換性があり、“ソールヴルム式”にも少なからずその事象が適応されること自体については予想の範疇であったが、烈火の戦いについてはリンディ自身も驚きを隠せない。

 

 これでもかと言わんばかりに典型的な“ミッドチルダ式”の使い手であるリンディだが、“ベルカ式”の魔法も多少なりとも使用できる。逆もまた然りだ。

 

 だが、八神はやての様な例外を除いて“ミッドチルダ式”と“ベルカ式”を使い分けて戦うなど、聞いたことがない。

 

 加えて、烈火のデバイスも一般局員への支給デバイスにしてはオーバースペックであるように見受けられ、“夜天の魔導書”の様なレアケースを除けば不可能であろう単機運用下での両術式発動を可能としているのだから驚きを覚えるのも無理はないだろう。

 

「ふむ、やはりあれは私が開発を依頼されているミッド、ベルカ複合型デバイスの試作二号機に間違いないようだね……うちの部下がドジっ娘を発揮して無くしてしまっていた物だが、このような形で発見されるとは、私も驚きだ」

 

 そんな疑問は肩を竦めるようにして言い放ったエクセンによって解消されることとなった。

 

 この模擬戦の映像をクラークの病室で出力する前の彼女とマリエルとのやり取りを思い返してか、なのは達は此方に関してはあまり大きな驚きを抱かなかったものの、新しい疑問が浮かび上がる。

 

「あの……ミッド、ベルカ複合型デバイスって……?」

 

 おずおずと手を上げたなのははエクセンへと疑問を呈する。普段は武装隊員に教鞭を振るう立場である為か、皆以上に興味を示している様だ。

 

「言葉の通りさ。一機のデバイスでミッド、ベルカの魔法をフル出力で運用可能をコンセプトとした新型デバイスだよ。最も、オーダーメイドで依頼されているから一般配備されることはないだろうね。生産コスト的にも、術者の適正的にも、ね」

 

 何ともざっくりとした回答だが、先ほどのフォーミュラの解説に比べれば理解は容易だろう。

 

 そもそも、根本的に術式を使い分けることのメリットはこの領域まで至る為の修練期間に対して釣り合っていない。

 

 汎用性が売りの“ミッドチルダ式”といえどフェイトの様に並の騎士以上に近接戦闘をこなす者もいれば、単体戦闘能力が売りの“ベルカ式”にも補助を専門とするシャマルのような者もいる。

 

 つまり、“ミッドチルダ式”にも近接戦闘(クロスレンジ)用の魔法は存在し、“ベルカ式”にも遠距離戦闘(ロングレンジ)用の魔法が存在している。術式ごとの得意分野ではなくとも適正さえあれば、それらの魔法を身に付ける事が可能なわけだ。

 

 ならば、技ごとに術式を変えるよりも一つの術式を極める方が強くなるためには何倍も効率的ということだ。

 

 加えて、局の生産ラインも両術式の切り替えを実戦レベルで利かせることが出来るほどのハイスペックデバイスを量産できるまでには至っておらず、従来通り各術式ごとにデバイスを生産する方がコスト的な面でもお得なのだ。

 

(しかし、このデバイスを初見でここまで扱いこなすとは……いやはや、()()というべきかな)

 

 生産コスト面においても量産向けの性能をしていない“ProtoType02”だが、何より両術式を実戦レベルで扱えるだけ魔法適性と戦況に応じて瞬時に最適な魔法を繰り出せる判断能力を兼ね備えた魔導師でなければフルスペックを発揮することは叶わない。

 

 これらの資質を持つ魔導師は稀有であり、ましてやリンディからの説明を受けたところから目の前の少年はこの特異なデバイスを扱う為の訓練をしたわけでもなく、事前知識も持っていないと推測される。

 

 初見で彼と同じことが出来る魔導師が管理局の中に何人いる事か……という衝撃的な光景を前に、エクセンの口元は愉快そうに吊り上がっていた。

 

 

 

 

 訓練スペースでの戦いも佳境を迎えつつあった。

 

「はぁ、はぁ……はぁ」

 

「クソがっ!」

 

「なんだ……どうなってんだよ!?」

 

 騎士甲冑を土煙で汚した三人の局員が眼前に立つ少年を驚愕交じりの血走った瞳で睨み付けている。

 

 烈火の手に握られているのは身の丈ほどの長柄に三日月の様に弧を描く巨大な魔力刃を備えた武装……かつての“バルディッシュ・アサルト”を大鎌と称するのであれば、これは処刑鎌といったところか……

 

 戦闘中に二つの術式を使い分ける魔導師などお目にかかった事のない三人が困惑するのも無理はない。

 

 加えて、距離が離れれば“ミッド式”、距離を詰められて奇襲の様に迫って来る“ベルカ式”……はたまた、近距離での“ミッド式”、遠距離での“ベルカ式”魔法と変幻自在な戦闘スタイルに苦戦を強いられていることも相まって、相当に焦っている様だ。

 

「これで……終わりだ」

 

「ちくしょう!……フォーメーションΔ(デルタ)だ!!」

 

 処刑鎌が振り上げられようとした瞬間、フォーメーションを取りながらカートリッジを炸裂させた三人が烈火へ向けて飛び掛かる。長年の感か、やけっぱちかは定かでないが反応できたのは奇跡に近く、この場を切り抜ける可能性のある唯一の方法ではあったが……

 

(俺達の十八番を受け取りやが、れぇぇ!!!!)

 

 それぞれの武器にブーストをかけた魔力を纏わせて別々の方向から向かって行く三人……

 

(フォーメーション……どれほどのものかと思えば……)

 

 烈火は迫り来る長剣を処刑鎌の長柄で受け止める。

 

「終わるのはそっちだ!!」

 

 

 無防備になっている烈火の背に仲間達が飛び掛かっていく光景を見て、リーダー格の男性がほくそ笑む。

 

 長剣のリーダー格が正面から迫り陽動をかけ、斜め後ろに回り込んだ二人が背後から攻撃を繰り出すというフォーメーション……これこそが彼らが長年の戦いの中でトライ&エラーを重ねた末に編み出したものである。

 

 三角形の頂点を模した三方向からの同時攻撃……それもカードリッジ付与魔法となれば、まともに当たればお陀仏だろう。

 

 ようやく終わり……そう思っていたのだが……

 

 右側から迫っていた長槍の男性は突如として出現した魔力弾を顔に受けて体勢を崩す。左側から迫っていた徒手空拳の男性は四肢にバインドが絡みついて動きを封じられる。

 

 正面を向いたままノーモーションで繰り出された攻撃によって奇襲に失敗し、その光景を目の当たりにして鍔迫り合いの状態で足を止めてしまったリーダー格の男性は、蹴りを入れられて弾かれた。

 

 こうして三方向からの同時攻撃はいとも簡単に跳ね除けられたのだ。

 

「ち、ちくしょうがぁぁぁっ!!!!」

 

 十八番のフォーメーションを顔色一つ変えずに崩された男性は逆上しながらも、怒りをパワーに変える様に上体を持ち直して迫るが、迎撃として烈火から繰り出された魔力刃を射出する斬撃魔法を斬り払うとそこに彼の姿はない。

 

 視線を巡らせれば、その先には同じく体勢を立て直した仲間が長槍による突きを放っていたが、身体を捻って回避され、下から掬うようにかち当てられた長柄によってその手から得物を吹き飛ばされている光景が飛びこんでくる。

 

 そのままの勢いで地を蹴って自身の天地を逆転させた烈火は処刑鎌を一閃。腰から肩口にかけて斜めに斬り上げられた男性は宙を舞う。

 

 もう一人の仲間も吹き飛んでいく同僚に目をやりながら、どうにか片腕のバインドを解除して、掌から砲撃魔法を撃ち放っていた。身体を一回転させて着地するであろう烈火に対して最良の攻撃と言えたが……

 

「な……に……っ!?」

 

 その場で着地するしかなかったはずの烈火が滞空したまま大きく横にスライドするように移動したのだ。気が付けば、砲撃を回避して着地と同時に魔力刃を再構成した烈火が、先ほどの非ではない速度で接近しバインドに縛られたままの男性を斬り捨てた。

 

 陸戦魔導師ではありえない浮遊移動でありながら、空戦魔導師の飛行魔法とも一線を駕す軌道にリーダー格の男性は、思わず立ち竦む。

 

 確かに試作二号機の処刑鎌(サイズ)形態の刃部分の反対には“グラーフアイゼン”を思わせるスラスターが搭載されている。最も、鉄槌と処刑鎌という武器の性質の違いと、“アームドデバイス”程の耐久性がない本機に搭載されているのは、あくまで一撃の威力と運用性を向上させる補助的なものであり、“グラーフアイゼン”よりも小型だ。とても人間一人をホバー移動させられるだけの推力は持っていない。

 

 しかし、烈火は形成されている魔力刃を分離(パージ)して爆破、そのタイミングで先端部を稼働させ、刃とスラスター面を入れ替えて推進剤を吹かせることによって足りない推進力を無理やり補ったがために、空中での攻撃回避と一時的な高速移動を可能にしたのだ。

 

 そして、恐ろしく速い速度で再構成された魔力刃に反応できなかった仲間の一人は打倒されたということだろう。

 

(あんな、ガキ一人に引き下がれるわけねぇ!!絶対倒す!)

 

 たった一人残されたリーダー格の男性は長剣の柄を強く握りしめて、残存魔力の全てを刃に込めて烈火へと斬りかかる。

 

 長年現場を潜り抜けてきた自分が、地上本部では名の通った自分が、成り上がりの統括官のお気に入りというだけで、すかした態度を取る子供に負けることなどあってはならない……意地でも勝つという気迫が全身から滲み出ている様だ。

 

 だが……迫り来た四つの光矢は両腕、膝に着弾し、そんな男性の意志をいとも簡単に踏み壊していく。

 

 手から愛機が零れ落ち、全身から力が抜けて地に這いつくばるように手を付いてしまう。

 

 顔を上げれば、眼前には先端に蒼い魔力を滲ませた刃の無い長柄を振り上げている烈火の姿が……

 

 

≪Full Drive Ignition!≫

 

 

 そして、眩い光と共に先ほどまでよりも一回り大きな魔力刃が生成される。

 

 生きとし生ける者を狩り取らんばかりの巨大な処刑鎌を振り上げている様は正しく……

 

 

「し、死神……!?」

 

 

 真一文字に振るわれた処刑鎌によってリーダー格の男性は訓練スペースの壁に激突し、噴煙の中に消えて行った。

 

 

 

 

 結局、ミアとライズは烈火の戦闘に対して身動き一つとることが出来ないまま、決着の時を迎えてしまった。

 

 そんな二人を尻目にデバイスを待機状態であろうカード状に戻した烈火は、踵を返して出入り口へと向かって歩いていく。

 

「言ったでしょう。すぐに終わらせるって……じゃあ、お大事に……」

 

 戦いの前と何ら変わらぬ表情で呟いた烈火はミアたちの隣を通り抜けていった。彼の背を茫然と見送れば、出入り口から高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが姿を見せて烈火へと駆け寄って来る。

 

 “ヴァリアント・コア搭載型デバイス”にミッド、ベルカの術式を一機で発動させるデバイス、超エリートの統括官、管理局の若きトップエースに、正規武装隊員を圧倒する自称民間人と短期間に濃密すぎる情報を取り込んだ二人は完全に処理落ち(フリーズ)してしまっていたが、少なくとも死ぬまで今日の事を忘れられないだろうという確信と共に深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 烈火はなのはとフェイトに事情を説明され、先ほどまで戦闘していた訓練スペースの観戦室へと案内されていた。

 

「……そうでしたか、これはお返しします」

 

「いえ~元はといえば私が紛失したのが原因ですから、寧ろ見つけて頂いて感謝ですよ」

 

 待機状態の試作二号機を受け取ったマリエルは安堵の表情を浮かべている。

 

 

 フォーミュラの試験稼働を終え、烈火らの本来の用事も済ませ、ついでにいざこざを解決し、紛失していた最新鋭の試作デバイスも発見してこれにて一件落着といったところだろう。

 

「そうだな。私からも礼を言わせてくれ……そして、すまなかった」

 

 烈火へと声をかけようとしていたはやてらはエクセンの言いように思わず動きを止める。上司としてマリエルのミスを謝罪するといった風貌ではない為だ。

 

 

 

 

「……“ソールヴルム”そして、勃発した“ヴェラ・ケトウス戦役”」

 

 エクセンの呟きに烈火の瞳が大きく見開かれる。

 

「かの戦争に終止符を打った魔導師にこんな試作品を使わせてしまったことを謝罪しよう……心から、ね」

 

 そう言い放ったエクセンは小さく笑みを零した。

 




あけましておめでとうございます。

お久しぶりです。

年末と年始に1話ずつと思っていましたが、まさかここまでずれ込むとは……

何はともあれ、60数話やっててようやくなのは達が主人公の経歴を垣間見ることに……

因みにクラークとエメリーは病室に残ったままです。当然戦闘映像も端末が移動したので途切れています。まあ、動ける状態ではありませんし、事情を知らない彼らに映像を見せるメリットは何もありませんから仕方ない。

では次回お会いいたしましょう。

ドライブ・イグニッション!

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