魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword 作:煌翼
変容した街並みの中で白銀の光が空を裂く。
「なんなんや!一体ッ!?」
黒金の騎士甲冑を纏った少女―――八神はやては眼前の状況に歯噛みしながら、両手に備えた二艇の大型砲塔“ツインカノン”から大出力の砲撃を撃ち放った。
休日に出校した帰り道に突如として展開された封絶結界……外部との通信は不可能、ジャミングにより同結界内にいるフェイト達との連絡も取れぬまま謎の一団との戦闘に突入した。
「ああ!もうっ!これじゃあ、詠唱できんやないか!!」
襲撃者は六名。何れも目元以外を隠す黒装束に右袖から露出する剣先という出で立ちで統一されており、何とも不気味さを感じさせる。
何よりはやてを苦しめているのは、出で立ちと同様に統制の取れた波状攻撃にあり、六対一という数的不利に加えて、一団の戦闘手法は特に勘所が掴みにくいものとなっていた。
はやては“広域型”に区分される魔導師であり、“夜天の書”の魔導を使役して広範囲の相手を一気に殲滅することに特化している為、個としての戦闘能力は魔導師ランク程の強さとは言い難い。それを補うのが“融合騎”と“
つまり、“融合騎”と“
「ぐぅ!?こなくそ!!」
相手の動きに照準が合わせ切れていないままに放った砲撃は空を塗り潰すに留まり、その間を縫う様に接近してきた黒装束の剣を右の“ストライクカノン”で受け止めて砲身を振るいながら弾き返すが、それを皮切りに黒装束は次々と迫って来ている。
「でも……うちの子達の方が全然強い!こんなもんッ!」
二撃目は左の“ストライクカノン”で受け止めて、三、四撃目は“ブラッディダガー”で撃ち込まれる前に牽制射撃。五撃目への対処は、後退しながらフリーとなっている右のカノンでの砲撃。
「この前みたいな失態を何度もしてられへんッ!“クラウソラス”!!」
最後の六撃目は振り下ろされた剣を身を反らして回避し、すぐさま両方のカノンからショートレンジバスターを放出して距離を取ると同時に剣十字の魔法陣を乱回転させ、白銀の砲撃を放って六連撃を見事凌ぎ切ると共に一団に対して砲撃を着弾させた。
つい先日には襲撃者によって“夜天の書”を奪取され、数ヵ月前には防衛対象を目の前でみすみす殺されてしまった。これを受け、実戦的な個人訓練を少なからず行ってきたことが功を奏した結果と言えるだろう。
「はぁ……何とか切り抜けられた。早くフェイトちゃん達と合流せえへんと……って、な、なんやと!?」
最悪の状態での戦闘をどうにか乗り越えることが出来たと一息ついて、黒装束にバインドを施そうとしたはやてであったが、陽炎の様に揺らめきながら立ち上がった一団に対して驚きを隠しきれない様子だ。
非殺傷設定とはいえ、黒装束の魔力量で防ぎきることが不可能な出力で放った砲撃は間違いなく直撃した。普通であれは魔力ダメージでノックアウト、意識を失うか暫くは動けなくなるダメージを負うはずであるにもかかわらず、黒装束達は剣先を向けて一斉に襲い来る。
一瞬身を固くしたはやては、とにかく
「ッ!?これくらい!」
対するはやては苦い表情を浮かべ、“ツインカノン”を構えるが、そんな両者に割って入る様に理外の方向から砲撃が撃ち込まれた。
「な……何やっ!?」
警戒を強めるはやてを他所に黒装束の男は追撃の魔力弾を受けて地に落ちていく。新たな魔力反応にはやてが目を向ければ……
「や、八神はやてさんですよね!?わ、私は本局所属のキュリオ・グリフ准尉であります!本日付けで“東京支局”に出向となりました!」
自分と同年代と思われる少女が背筋をピンと張り、お手本のような敬礼姿で宙に浮いていた。
「出向?あ、えと、八神はやてで間違いはありませんけど……」
突如として現れた魔導師―――キュリオ・グリフに対して目をぱちくりさせているはやてであったが、管理局のIFFが積まれているデバイスを所持している所からとりあえず警戒レベルを引き下げても問題ないと判断したようだ。
(管理局員っちゅうのは本当みたいやし、ここの増援はありがたいけど……)
何より、目をキラキラさせながら全身がガチガチに硬直するほどに萎縮しているというある意味で器用な状態を見て、背後から襲われることはないと当たりを付けた。
「……って、後ろ危ないですよ!」
「え?きゃ!?ちょっとッ!?」
初対面の増援に意識を持ってかれていたはやては、そのキュリオの真後ろを指差し、大声を上げながら援護に回ろうとしている。当のキュリオがポカンとした様子で背後を振り向くと既に黒装束の一人が剣先を向けて襲い掛かって来ており、悲鳴じみた驚愕の声を漏らしたが……
「え……ッ!?」
「あ、はは……お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」
魔力弾を連続射出して黒装束を叩き落したキュリオの姿を目の当たりにして、はやては驚愕といった風に声を漏らす。先ほどまでの落ち着きのない様子から一転して、正確な射撃と魔力運用に思わず面食らったようだ。
「何はともあれ、乗り切らないとですね。キュリオ・グリフ准尉、戦線に加わります。指示を願いますッ!」
「……分かりました。詳しい指示は戦闘中に念話で行います。どうやら敵さんもフォーメーションを組む暇を与えてはくれへんようですし」
はやては増援の頼もしさに顔がほころぶが、すぐさま厳しい表情で黒装束達を睨み付ける。
その視線の先には、機械じみた動きで右腕の剣を突き出しながら向かって来る
蒼光の軌跡を残して振り抜かれた魔力剣によって吹き飛ばされた黒装束は砲弾のような勢いで地面に叩きつけられた。
「どういう事だ。こいつら……それに、この魔力の質は……」
右腕の剣を支えに上体を起こした黒装束に対して、制服姿の少年―――蒼月烈火は前髪から覗く瞳を僅かに細め、訝しげな表情を浮かべて呟く。
(見極める必要がある、か……)
どうやら襲撃者の挙動や在り方にどこか思い当たる節がある様子だ。
「……」
そんな烈火の眼前では、吹き飛ばされた黒装束がまるで痛みを覚えていないかのように立ち上がり、地を蹴って一気に駆けだした。更にその背後からは、発動された転移魔法と思われる術式によって現れた十四人が一人目に続くように迫り来る。
それに伴ってか、烈火の出で立ちが学生服からロングコートを思わせる戦闘装束に変化し、右手には白亜の剣が収まった。同時に刀身へ蒼穹の魔力を纏わせ、術式の発動と魔力収束を瞬時に完了させている。襲撃者達への迎撃準備は万端のようだ。
「……ッ!」
非魔力保持者でありながら結界に囚われたアリサ・バニングスは、烈火らが剣を向け合う姿に対して、周囲を覆う蒼い魔力壁越しに不安げな視線を送っている。
移ろう日常の中に突如として出現し、明確な殺意を以て迫り来る謎の襲撃者―――黒装束を射抜く烈火の双眸は蒼が漆黒に染まり、中心に真紅の四芒星を思わせる紋様が浮かび上がっていた。
管理局執務官―――フェイト・T・ハラオウンは、愕然とした表情で空中に立つ奇術師風の男性を見上げている。
「ンフフゥ!!お嬢さん、どうかされたのですか?」
奇術師風の男性――—シェイド・レイターは、自身に対して驚きを隠しきれないフェイトの様子に気を良くしたのか、愉快そうに口角を吊り上げた。
シェイドの風貌は戦闘装束に見えないデザインの
魔法を発動させる上で主流となっている術式は大きく分けると二種類。各術式ごとに“ミッドチルダ式”なら円環、“ベルカ式”なら剣十字を思わせる魔法陣が出現するはずだが、シェイドのそれはどちらにも当てはまらない。
シェイドの描く魔法陣は鋭角な四芒星。普通の管理局員であれば見覚えのない形状を受けて
「あれは……“ソールヴルム式”?烈火と同じ……」
眼前でゆっくりと回転する四芒星の魔法陣は魔力光の差異を除けば、蒼月烈火が使役する“ソールヴルム式”に酷似しているのだ。これまでも度々話題となった管理局では使い手のいない稀有な術式と思われるものを目の前の襲撃者がいきなり行使したのだからフェイトの驚愕も無理はないだろう。
「おやおや、そういえばお嬢さんは
シェイドは他人にイニチアシブを取っている現状に更に気を良くし、雄弁な様子で杖先で魔法陣を小突いた。すると周囲に黒灰色の魔法陣、加えて烈火やはやてらの前で起動したものと同種と思われる転移魔法の術式が幾重にも出現した。
「これは……一体何?」
「彼らも今回の脚本におけるキャストというわけですよ、お嬢さん。私の魔法と、我が組織が創り出した最高のね」
奇怪な光景に目を細めるフェイトの眼前で回転している魔法陣から、黒装束に剣を装備した襲撃者と中世の甲冑を思わせる出で立ちをした者が数十人という規模で姿を見せる。少女一人に対して、二十人を超える襲撃者とあって端から見ての戦力差は歴然だ。
「では、ガンルゥ。後は任せます。生け捕りが無理なら殺してしまって構いませんが、あのお嬢さんだと身元が判別できるように身体の損傷は控えめでお願いしますね」
「承知……」
シェイドは隣に転移してきたガンルゥと呼んだ黒装束の男に声をかけると黒いマントを揺らしながらゆっくりと後退していく。その光景を目の当たりにしたフェイトは、襲撃者の指揮官と思われるシェイドを射程距離から逃がさぬように持ち前の機動力を活かして奇襲攻撃を敢行しようと一気に飛び出した。
「なッ!?」
「いい反応だ。その歳で大したものだ」
閃光の刃と鈍く輝く鉛色の刃が火花を立てて鍔是り合う。
囲まれている状態からの脱出の意味も込めての高速機動であったが、ガンルゥが割り込んできたために強引に塞き止められてしまったのだ。
(この人、隙がない。強引に横を抜こうとしたら間違いなく斬られる)
フェイトは立ち塞がるガンルゥに歯噛みした。鍔是り合っている刃を強引に押し込もうにも力任せに無理くり突破したとして、シェイドに辿り着く刹那の間にガンルゥからの追撃で大きなダメージを負わされる可能性が高いと魔導師としての勘が囁いており、踏み込むことを躊躇せざるを得ない状況にある為だ。
「誘いに乗って来ないとは、流石は管理局のエースといったところか。確かに厄介な魔導師に違いない。だからこそ此処で消えてもらう……やれ!」
「くっ!?やるしか……ないッ!」
ガンルゥの右腕に備え付けられた剣により押し返されて後退したフェイトに対して、周囲の黒装束と甲冑がそれぞれの剣の切っ先を向けて迫り来る。一人一人ならともかく、これだけ人数差が開いている状態での波状攻撃には対応しきれない。ましてや先ほどの動きを見せたガンルゥもいるのだから尚更だ。初っ端から奥の手を切らざるを得ない状況に表情を歪めるが……
「行きなさいッ!“ゴルゴーン”!!」
虚空から迫り来る藍色の魔力弾がフェイトの周りに降り注ぐ。
「ッ!?……これならッ!はあああぁぁぁッ!!」
想定外の事態と見覚えのある現象に呆けた表情を浮かべたフェイトだったが、すぐさまバルディッシュを振り抜き斬撃を撃ち飛ばす。斬撃が正面の敵達に着弾することを確認せぬままに流れるような動作でもう二発の斬撃を放ったかと思えば、魔力スフィアをフルオートで乱射し、アクロバティックな機動を取りながら高度を引き上げて敵に囲まれている状態から脱することに成功した。それと同時に先ほどまでフェイトがいた地点で巻き上がる噴煙の中から二つの小さな影が飛び出し、所有者の下へと返って行く。
「どうして、ここに君が?」
それを受けたフェイトは、乱入してきた所有者へと疑問を呈する。
「煉様はご党首と大切なお話があるということで、私の方はお暇をいただいていたのですが……登校日の帰り道に、この結界に閉じ込められてしまいまして……」
先程、フェイトを援護したのは二基の黒いビット兵装であり、“ゴルゴーン”という名称を冠している。それを操るのは、黒曜石の様な髪色と瞳、身の丈ほどの大盾を携えた少女―――黒枝咲良であった。
「しかし、この物量差は少々厄介ですね」
「うん。それに奥の大きな剣を持った男の人と杖を持った人は特に注意した方がいい。かなりの手練れだと思うから」
フェイトは思わぬ援軍に表情を軟化させたが、周囲への警戒を怠らぬ様子で合流した。
「ンフフフゥ!!これは脚本にないキャストの御登場ですね。アドリブもまた一興……脚本の大筋を乱さない程度に楽しませてくださいねぇッ!」
突如現れた咲良の存在に対しても動じる様子を見せないシェイドがステッキの先を二人の少女へと向ければ、大乱戦開幕の号令といわんばかりに周囲の一団が津波の様に襲い掛かって来る。
「行くよッ!」
「はいッ!」
対するフェイトと咲良は、弾かれる様に左右に分かれて応戦体勢に入った。
「……戦い慣れているな」
ガンルゥは物量差に対抗するべく二人で固まって行動するだろうと予測し、一気に取り囲んで仕留める指示を下したが、互いにつかず離れずの距離を取りつつ周囲を取り囲まれて各個撃破されないよう連携しながら応戦しているフェイト達に改めて感嘆の声を漏らした。
「だが、それもここまで……厄介な方から仕留めさせてもらうッ!」
黒いマスク越しに口元を歪めたガンルゥは漆黒の軌跡を残しながら一気に空を駆ける。
「ぐッ!?」
「やはり、良い動きをする!」
閃光の刃と鉛色の剣先が再び火花を散らす。
「これだけの強さを持っていて、どうして管理外世界での法規違反をッ!?」
「
「そんな理由で!」
「随分な言われようだが、我らにとっての君命は何よりも重要視すべきもの……他者はおろか、己の命より重い!!」
ガンルゥの標的となったのは、咲良よりも保有魔力が多く、先ほどから非凡な戦闘技能を垣間見せていたフェイトだ。
「命を賭して果たすべき使命を持つという崇高さは貴様には分からないだろうが、な!!」
「そんな独りよがりに他の人を巻き込むなんて間違ってます!……貴方をッ!貴方達を捕縛しますッ!!」
互いに相容れぬ思想を持つ者同士が高速で空を駆けながら何度も己の剣をぶつけ合う。
ガンルゥがフェイトに襲い掛かる中、咲良も多くの襲撃者による波状攻撃に晒されている。流れるように迫り来る黒装束の剣先を“アイギス改”で受け止め、鈍重な動きから繰り出される甲冑の重たい一撃は身を翻して回避し、射出した二基の“ゴルゴーン”で反撃を加えて二人、三人と撃破していくがその表情は芳しくない。
「この状態もそう長くはッ!ぐぅぅ!?持ちそうにありませんね!」
黒装束三人が同時に放った斬撃を藍色の魔力壁で受け止めながら、その衝撃に苦い表情を浮かべ背後に吹き飛ばされる。
「ジリ貧とはまさにこのことですかッ!」
そして、先の斬撃を打ち込んで来た三名は咲良が撃墜したはずの者達であった。個々の戦力相手であれば対応可能ではあるが、如何せん物量差が大きく、倒した襲撃者も復活するとあっては、何れ消耗してしまい各個撃破されるのは自明の理といえる。
しかし、これまでの統制の取れた戦闘パターンから黒装束はガンルゥの指示、甲冑はシェイドの術元にあると予測を立てるのは容易だ。だからこそ、尖兵に構っているよりも術者、指揮官の打倒を第一とすべきと頭では理解しているのだが、
どうにか唯一の味方であるフェイトと連携を取ろうとしても、あちらにはガンルゥが張り付いており、合流は容易ではない。
そんな時、黒装束三人を一太刀で斬り飛ばし、ガンルゥの剣を魔力障壁で受け止めたフェイトと視線が交錯した。
『突破口を開いて形勢を逆転する。協力して欲しい』
『ッ!?協力は惜しみません。ですが、この状況では!』
共に優秀な魔導師とあって戦闘時の考えは同じと念話で意志を共有した二人だが、咲良の表情は苦いままだ。
『形勢をひっくり返すには指揮官を倒すしかない!こっちの人は厳しくても……』
『余裕綽々と言った様子のあちらに奇襲を仕掛ければ……ということですか?』
敢えて名前を出すまでもなく、フェイトの意図していることを汲み取った咲良は小さくい頷いてみせた。
『うん。そうすれば、こっちの人にも隙が生まれる筈……勝負を決めるのはスピードと攻撃力……カウント3で私がこの人達を振り切って、そっちに行くから砲撃系の大技を撃つ用意を!』
『了解しました!』
なのはとの阿吽の呼吸ではないが、此方の意図を汲み取って行動に移している咲良を見て、気持ちを引き締めたフェイトは逆転へのカウントダウンを刻み始める。
『カウントッ!3……2!』
『ッ!』
『1ッ!!』
そして、鳴り響く雷鳴と共に逆転の一手が今打たれた。
「アイギス、フルドライブッ!!」
《Ignition!!》
咲良の全身からこれまでとは桁違いの出力で藍色の魔力光が放出され、身に纏う
そして、盾の裏から出現した持ち手を一気に引き抜くと、細身のレイピアが形成される。
「これがアイギスのフルドライブ……アクテリオンモードッ!」
凛とした声音で腰を落として腕を引いていく。主兵装と同じく藍色のクリアパーツを増設されて一回り大きさを増した“ゴルゴーン”も射出され、レイピアの刀身と共に魔力が収束される。
それを受けて押し寄せる波のように攻撃を繰り出し続けていた周囲の襲撃者の動きが硬直した。何故なら咲良は、全くの無防備状態で明後日の方向へ剣先を向けている為だ。
セオリーにない咲良の行動に対して僅かに身を固くした襲撃者達であったが、隙が出来たと見るや相変わらずの機械染みた統制の取れた攻撃を仕掛けようと一様に右腕の剣を振りかぶり、接近して来る。
そんな状況にありながら、咲良は周囲の攻撃に対して対処する素振りすら見せないでいた。
「ど、どういうことだ。自棄にでもなったのか?」
安全圏に退避し空中で椅子にでも腰かけるような優雅な体勢で、二人の少女が
突如として膨れ上がった魔力と奇怪な行動を受けて思わず咲良を注視すれば、黒衣の暗殺者に囲まれている中で僅かな微笑みすら浮かべている様子を目の当たりにし、愕然とした表情で空中に立ちすくんでしまう。
茫然としているシェイドを尻目に咲良の背後に居る黒衣の襲撃者は雷光の渦へと呑み込まれていった。
「……“トライデントスマッシャー”!!」
フェイトが撃ち放った雷の砲撃は咲良を避けるように三方向へ分かれ、襲撃者を一掃した。しかし、円環の魔法陣が絡みついて帯電している左腕を突き出した砲撃姿勢で動きを止めたフェイトに対してもガンルゥを先頭にした襲撃者が迫っている。
味方の援護の為とはいえ、敵陣のど真ん中で砲撃を放つという行動が隙を生むことになるのは自明の理……だが、フェイトは周囲の襲撃者に対しての迎撃アクションを起こすこともなく、白いマントを靡かせて前進体勢に入っていた。
ガンルゥはまるで自分達の事など眼中にないと言わんばかりのフェイトの様子に訝し気に目を細めながらも好機を逃すまいと、首を刎ね飛ばして確実に仕留めるべく剣を振り翳す。
その瞬間……弾かれる様に障壁を展開したガンルゥを含めた襲撃者達は理外の方向から飛来した藍色の光の中へと消えて行った。
「な、何が起きているのです!?」
二ヶ所で発生した爆風で視界が塞がっているシェイドは瞬時に変化する戦況についていけていないのか、ヒステリックな声を上げて喚き散らす。
「こ、こんなものは私の脚本にはないッ!!」
黒灰色の魔力をステッキに集めて癇癪を起した子供の様に何度も振るえば、巻き起こった風圧で視界を塞いでいる爆風を払い除ける事に成功した。
「そ、そんな……ッ!」
状況の把握に努めようとしたシェイドの口から擦り切れたように枯れた悲鳴が漏れる。
爆風が晴れた先では、フェイトと咲良が既に砲撃発射体勢を完了させていたのだから……
「行くよ、咲良!!」
「ッ!?は、はいッ!!」
愛機を
「“ホーネットジャベリン”ッ!!」
「“アクテリオンバスター”ッ!!」
雷槍の砲撃と三方向からなる光が一つとなった藍色の砲撃が折り重なりながら、茫然と宙に立ち尽くしているシェイドへと迫っていく。
「ひ、ひいいいいいぃぃぃぃ!!??」
先ほどまで余裕そうな表情を浮かべていたシェイドは情けの無い声を上げながら身を固くし、迫り来る
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今章で散々フォーミュラ関係の話をやって来たとおり、本作では劇場版で追加された要素はそのまま引き継ぐ形で発展していくので、フェイトそんやはやての武装はRer&デトネ編のまま据え置きとなっています。
因みに新キャラのキュリオは前話で出てきた彼女です。
ようやく烈火以外に今作オリジナル魔法体系の使用者が出てきました。
まあ、今まで作中で言及した通り、稀少度で言えば古代ベルカの方が遥かに上なので、実はそんなに珍しくないという。
毎度の如く個人戦闘をさせられるはやてちゃん。はやてがこんなに戦う作品はそうない気がします。
その代わりと言ってはアレですが、劇場版終盤以降目立った活躍のないなのはちゃんにそろそろ消し炭にされそうだなとひやひやしていますが……
さらにさらに、何と次話も既に完成済みといっていい状態ですので明日にも投稿予定です。
では、次回お会いいたしましょう。
ドライブ・イグニッション!