魔法少女リリカルなのは Preparedness of Sword   作:煌翼

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悪逆非道のマジックバトル

 封絶結界の中ではとうとう捕捉された元局員率いる犯罪者グループと6人の魔導師との魔法戦が繰り広げられていた。

 

「いっくよぉ!シュート!!」

 

 白い防護服(バリアジャケット)を纏った高町なのはが自身のデバイス“レイジングハート・エクセリオン”を“アクセルモード”で振り翳せば、桜色の魔力スフィアが縦横無尽に飛び出していく。

 

「“プラズマランサー”!発射(ファイア)!!」

 

 フェイトも黒を基調とした軍服のような防護服を纏って羽織った白いマントを翻しながら、黒の戦斧“バルディッシュ・アサルト”を振り切った。稲妻を纏って放電した金色の魔力弾が高速で射出される。

 

「行って!“ブラッディーダガー”!!」

 

 黄金の装飾が施された黒い騎士甲冑を纏うはやても剣十字の杖“シュベルトクロイツ”を掲げれば、血塗られたような真紅の刃が大量に生成され打ち出されていく。

 

「ちょこまかとメンドクサイやつらだね!」

 

 女性らしい肢体を強調するような露出度の高い服装にホットパンツ姿の女性———アルフも豪快に拳を振るっている。

 

「ふっ!」

 

 青い毛色の狼であるザフィーラがその姿を狼から青い衣服の筋骨隆々な男性に変化させた。はやてに向かって飛んできた魔力スフィアを握り潰す。

 

「時空管理局本局所属クロノ・ハラオウン提督だ。次元法違反で拘束させてもらうぞ!」

 

 全身黒一色の防護服を着こんだクロノはデバイス“S2U”を片手に一味の首謀者とされている元局員を猛追している。

 

「ちぃぃ!!鬱陶しい奴らだ!」

 

 首謀者とされている元管理局員の男性魔導師――—イーサン・オルクレンがミッドチルダ式の魔法陣を発生させ山吹色の砲撃を放つが……

 

「この程度で!!“ブレイズカノン”!」

 

 クロノが放った砲撃によって相殺された。数では勝る一味であったが、個々の戦力差から少しずつ数が減らされていく。防戦に徹して持ちこたえてこそいるが、このままでは閉じ込められた結界内で一網打尽にされることだろう。

 

「そこ!貰ったよ!!」

 

 なおも追いすがるクロノに対して元局員であった女性魔導師―――ライラ・バステートが杖状のデバイスの先端から魔力刃を出現させ、薙刀の様になったそれを叩きつけた。

 

「っ!!?この!!」

 

 クロノはしっかりとライラに対して反応し、迫りくる魔力刃と自身の体の間に“S2U”を滑り込ませて受け止めたが、イーサンとの距離を大きく離されてしまった。逃がさないようにとライラを抜いて、イーサンにどう迫るかと行動を起こそうとしていたが、その前にイーサンに対して何者かが襲い掛かる。

 

「貴方が主犯だな!僕の手で直々に捕まえてやろう!!」

 

 襲撃者は煌びやかな黄金の騎士甲冑を身に纏った金髪の少年―――東堂煉。甲冑同様に金色の装飾がなされた大剣“プルトガング”をイーサンに叩きつけていく。

 

「次から次へとッ!?」

 

 迫り来る刀身から逃れるように身を捩じらせたイーサンであったが、煉の背後には 体の線を強調するような黒いバリアジャケットを着こんだ少女―――黒枝咲良が六角形の黒い板を突き出すように構えていた。

 

「行きなさい!」

 

 咲良の言葉と同時に板の先端部分が伸縮し、体全体を覆えるほど大きな盾へと形を変える。咲良のデバイス“アイギス”だ。

 

 更に盾の裏から2つの黒い板のような物体が飛び出して、イーサンに向かって藍色の魔力弾を吐き出しながら接近していく。“アイギス”に搭載されたビット兵装だろう。

 

「こんなもん!!……なっ!?」

 

 向かってくる魔力弾に対してシールドを展開するイーサンだが追いすがる煉が大剣を携え突っ込んできた。

 

 向かってくる煉に対して杖の先から魔力刃を展開してカウンター攻撃を仕掛けるが、イーサンの魔力刃は砲身を下に向けて腹を向けた咲良のビットによって受け止められ、思わぬ防御に不意を突かれ身体を硬直させてしまう。

 

「これで!!」

 

 煉は刀身から黄金の魔力を吹き出した大剣を振り下ろした。

 

「がぁっ!!??」

 

 どうにか障壁を展開したイーサンだったが障壁越しに煉の攻撃をモロに受けてしまい森の中に吹き飛ばされていく。

 

「このまま終わりっ!?」

 

 煉はイーサンの姿を見失う。ならばとデバイスからの魔力反応を元に追撃を仕掛けようとしたが……

 

「動くなっ!!」

 

 クロノの怒号によって身を縮こまらせる。次の瞬間、煉の斜め前を山吹色の魔力弾が3発通り過ぎた。あのまま勢いに乗って突っ込んでいれば被弾していたことであろう。

 

「何をしに来たんだ!?君たち2人は局員ではあるが今回の捜査には参加しないようにと念を押して伝えたはずだが」

 

 管理外世界の学生である煉と咲良が魔導師であったというだけではなく時空管理局の所属だという事実が発覚するが、援軍が来たにしてはクロノの態度はあまり芳しくない。

 

「ふん、指図される言われはないな」

 

 そして、両者の雰囲気もあまりよろしくないようだ。しかも、追い詰めたイーサンの姿も見失ってしまい、クロノが突破してきたライラも今は森林の中に身を潜めたのか姿を確認できない。とはいえ、防御に徹していた魔導師達はこうしている間にもなのは達の攻撃により1人、また1人と撃墜されていく。

 

 

 

 

「……ちぃ!どうする?」

 

 森林に身を潜めるイーサンは鬼気迫った表情を浮かべ、頭を掻きむしりながら対抗手段を練っていた。隣にはライラの姿もある。

 

 イーサン・オルクレンは24歳にして空戦AAランクを修める優秀な魔導師であり、所謂エリートといわれる人種であった。

 

 次元世界の中心となっている時空管理局により質量兵器が淘汰され、魔法が一般的なものとして浸透した今の世界は魔法を中心にして回っているといっても過言ではない。

 

 更に魔力というものは管理世界の人間においても誰もが発現できるものではない為、高い魔力を持った人間というのは特別扱いされ、出世も早く、他にも様々な面で優遇される傾向にある。実際、イーサンも士官学校時代から飛びぬけた成績を残し、管理局に所属してからも若くして部隊のエースとして活躍していた。

 

 しかし、1年前の教導隊との模擬戦で彼の中の何かが歪むこととなる。

 

 

 1年前……

 

 

「見ろよ!相手にガキが混じってるぜ」

 

 イーサンは同じ小隊のメンバーに声をかけられ視線を向けると、白いバリアジャケットを纏った栗色の髪の少女の姿が目に留まる。

 

 イーサンの小隊含め全体的に若いメンバーが多いが、それにしても栗色の髪の少女は飛びぬけて若い。どう見ても学生、それも初等部の高学年か中等部の入りたてにしか見えない風貌であった。

 

「俺たちも舐められたもんだな」

「全くだぜ」

 

 イーサンは無骨な訓練場とはあまりに不釣り合いな少女を鼻で笑いながらメンバーと言葉を交わしている。

 

 そうこうしているうちに模擬戦の開始時刻だ。

 

 ルールは5VS5の団体戦で1VS1の個人技を競うものであった。5試合行い最終的に勝率のいいチームの勝利となり、若きエース、イーサンは大将に抜擢される。

 

 4戦目まで終わり2勝2敗。なんと、イーサンの対戦相手は例の少女であった。どう見ても数合わせで入ったようにしか見えない少女に対してイーサンはこの試合の勝利を確信した。

 

 そして始まる大将戦……

 

 

 

 

「はぁはぁ!……くっ!?」

 

 数分後……イーサンからは試合前の余裕そうな表情は消え失せ、息絶え絶えになりながら迫り来る桜色の誘導弾から逃げ惑っていた。

 

 

 試合開始直後、驚かせてやろうと広範囲に魔力弾を放ったイーサンだが、目の前の少女は自身の倍近くの魔力弾を正確に操って見せた。

 

 自身の魔力弾は撃ち落され、少女のスフィアが襲い掛かってくる。どうにか反撃しようにも魔力弾は固い障壁に阻まれ、厚い弾幕によって近接格闘(クロスレンジ)にも持ち込めない。

 

 こうなったらとイーサンは自身用にチューンされた杖状のデバイスの中でカートリッジを炸裂させ、膨れ上がった魔力で砲撃を撃ち出した。しかし、山吹色の砲撃を飲み込むように桜色の砲撃が迫ってくる。

 

「う、うおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 もう回避は間に合わないと障壁を展開して砲撃を受け止める。さらにカートリッジをロードし、今にも破れそうな障壁に魔力を注ぎ込んだ。桜色の奔流が止むとそこにはジャケットを焦がしたイーサン。

 

 しかし、少女によって桜色の魔力スフィアが新たに生成され、押し寄せてくる。

 

「お、俺がこんな子供なんかに負けるかよ。はぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!」

 

 イーサンは残ったカートリッジをフルロードして魔力刃を出現させ、最大速度で少女に向けて突貫していく。

 

 そんな彼に対して、天から桜色の光が降り注いだ。

 

 砲撃の中で少しでも先へと手を伸ばすイーサンだったが、無情にも光の中に飲み込まれ、握りしめていたデバイスが吹き飛ばされる。その瞬間、イーサンの意識は闇に落ちた。

 

 イーサン・オルクレンは目の前の年場もいかぬ少女に掠り傷1つ負わせることができず、無様に敗北したのだ。

 

 

 その後、医務室で意識を取り戻したイーサンは屈辱と己の不甲斐なさを痛感しており、同僚からの励ましすら酷く耳障りに聞こえていた。

 

「いやぁ、相手があの子じゃしょうがないって。あんまり気を落とすなよ!だってあの子ってさ……」

 

 あの少女は管理外世界の出身で数年前までは魔法の存在すら知らなかった。その世界で起きた2度のロストロギア事件を解決に導いた立役者。

 

 しかも1つは次元世界に恐怖と災厄を齎してきた“闇の書”関連だった。その後、任務で大怪我をしたらしいが現場に復帰してきたことなど……

 

「あの子、将来絶対美人になりそうだし、今のうちにお近づきになっておいたほうがいかなぁ?しかも、次のエースオブエースなんて呼ばれてるみたいだしすげぇよな」

 

 俯いたままだったイーサンが体を震わせた。エースオブエース、それは管理局全体を見渡しても少数であろうエース級の魔導師の中でもさらに優秀な者が時々、呼ばれる呼び名だ。一騎当千、戦術の切り札、トップエースの称号といってもいいだろう。

 

「……悪い、ちょっと体調が悪いんだ。今日は帰ってくれないか?」

「ん?調子が良くないなら先生を呼んでく……」

「出て行ってくれ!!!」

 

 イーサンは同僚を医務室から追い出した。

 

 空戦AAランクのエース級の魔導師、それが自分であり誇りでもあった。

 

 もともと魔法に対しては他共に認めるほどには才能があったし、それを伸ばす努力も惜しまなかった。年齢も20を超え、ここから大きく魔力量が増加することはない。後は練度を高めるだけ、そう思っていた矢先に自身より一回り近く年下の少女に自慢の魔法が通じずに敗北してしまった。

 

 〈部隊のエース〉という誇りを持っていた自身の称号は、まるで物語の主人公のような軌跡を描いて来た少女と比べるとあまりに小さなものに思えてしまったのだ。

 

 今まで直向きに魔法に打ち込んできた時間、仲間たちと切磋琢磨してきた時間、エースと呼ばれるようになり、少なからず選ばれた人間だと思っていた自分の魔導師としての長い年月は年場もいかぬ少女の数年間に劣っていたのだと認識してしまった。

 

 その日からイーサンの中で何かの歯車が噛み合わなくなった。任務では1人で突出するあまり、部隊との連携が上手く取れなくなった。自由時間も睡眠時間も削り、訓練にあてているはずなのに任務では結果が出ない。そうしているうちにミスが重なり、周囲と衝突し、イーサンは徐々に周囲からの信頼を失っていった。

 

 エース級の魔導師として名を馳せていたイーサンは気が付けば、任務では役に立たない上に問題ばかり起こす局員というレッテルを張られるようになっていた。

 

 どんなに努力しても結果が出ないどころか悪化の一歩をたどる自身の状況。あらゆることに無気力になり、酒と女に溺れる怠惰な日々を過ごすようになったイーサンにある出会いが訪れる。

 

 ミッドチルダの外れにある酒屋で浴びるように酒を飲んでいたイーサンの隣に座ったサングラスの男が突然声をかけてきたのだ。

 

「イーサン・オルクレン……エースと呼ばれていたお前がなんと無様なことだな」

「あぁん!?なんだお前は!!!?」

 

 もう酔っぱらっているのか顔を真っ赤にしたイーサンが大声を上げた。

 

「そう喚くな。私は勿体ないと思っているのだぞ。お前のような才能ある魔導師がこのような所で潰れていくのをな。時空管理局というのはよほど無能の集まりのようだ」

 

 芝居かかった動作で言葉を紡いでゆくサングラスの男。

 

「大体なぁ!!才能があったら真昼間からこんなとこにいねぇっつってんだよ!!!……っっっ!!!??」

 

 吐き捨てるように反論するイーサンだったが、サングラスから僅かに覗いた男の琥珀色の瞳に心を奪われた。そこにあったのは深淵を思わせるドス黒い闇、狂気と呼ぶに相応しい醜悪な負の感情を内包していた。

 

「私ならお前が鍛え上げてきたその魔法技術を活かすに相応しい舞台を用意できる。管理局の無能たちを見返すどころかかつて呼ばれていたエースなどというものが霞んで見えるような……英雄にだってなれるだろう。どうだ……私と共に来ないか?」

 

 普通に考えればエース級といえど管理局員であるイーサンの個人情報やその事情まで知っている口ぶりの目の前の男は明らかに異常だ。この誘いだって何かの罠である可能性が圧倒的に高い。しかしイーサンにとってはそんなことはどうでもよかった。

 

 英雄……なんと甘美な響きであろうか。

 

 かつての自分の称号どころか全てを奪い去ったエースオブエースすら霞んで見えるであろうその称号がたまらなく魅力に感じた。

 

 男の狂気に魅入られたイーサンは指定された時刻に指定された場所に向かう。そこにいたのは男から言われていた追加戦力である黒服の男達、そして自分と同じく管理局に不満を持っていた数名の局所属の魔導師であった。

 

 男の根回しもあってか指定されたロストロギアの奪取は驚くほど上手くいった。

 

 しかし管理局の反応が思った以上に早く、迫り来る追手達。逃亡生活の末どうにか逃げ込んだ魔法文化のないはずの管理外世界には何故か局のトップエースクラスの魔力反応が幾つもある。

 

 転移で他の世界に出るにも下手な行動を起こせば局員の追手が来ることは目に見えている。自身は英雄になれないのか……そう思った矢先に現地に滞在していた魔導師と交戦状態に入った。数を減らされていく味方戦力、次第に退路がふさがれてゆく。

 

 

 

 

「くそっ!!?」

 

 森林の中でイーサンとライラは飛び上がるようにその場から離れた。水色と黄金の砲撃が2人がいた位置を射抜く。

 

「ここまでだな」

 

 2人にデバイスを向けたクロノ、その背後には煉と咲良の姿がある。魔導師の質では完全に劣っており、今は勝っている数的優位も何れは奪われるであろう。完全に手詰まりであった。

 

 

 

 

「……来たわ!」

 

 絶望的な状況の中でライラの口元が三日月のように吊り上がった。濁った青色の光を放つ自動車が結界の一部を破壊して内部に侵入したからである。結界を破壊してきた高魔力反応を示す鉄の塊に一同の視線が集まった。なのはとフェイトにとっては因縁深い、青色の光、それはジュエルシードが放つ光であった。

 

「お前ら動くなよ!!!」

 

 先ほどまでの絶望に満ちた表情から一転、イーサンは勝ち誇ったように大声を上げた。黒服の男が車の後部座先から何かを引っ張り出して地面に転がす。

 

「えっ!?」

 

 なのは達が驚愕の表情を浮かべた。そこにいたのは……

 

「こいつらがどうなっても知らねぇからなぁ!!!」

 

 見覚えのある制服を着た少年少女。本来は魔法と関わりを持たないはずの自分たちがあまりによく知っている現地人―――アリサ・バニングス、月村すずか、蒼月烈火の3人であったからだ。

 




最後まで見てくださってありがとうございました。
今作初にして初めての戦闘描写でしたが中々難しいですね。
また、今までと違って情報量の多い回が続くと思いますがご了承ください。
徐々に感想やお気に入りを頂くようになって感謝感激でございます。
モチベが上がって執筆速度が上がっているのを自分でも感じています。

では感想等ありましたらお願いします。
次回も読んでくれると嬉しいです。

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